魔理沙を追って私が飛び回ってからしばらく。
「二人とも、どこに向かったのかしら……」
魔理沙が妹様を連れて出かけてから、三十分くらいはもう経っている。別に目的地を決めないでぶらぶらする、って魔理沙は言ってたけれど。
勘だけで場所が分かるどこぞの紅白みたいな力があれば便利だとは思った。けれど、今の私は魔力を出し惜しみする必要も無ければ体力を気にする必要も無い。
魔理沙の魔力波長は良く分かっているので、箒の残留魔力を辿って魔理沙を追いかけると、割とあっさり行き先は分かった。
「って……なんだ、魔法の森の側じゃない」
そして私が着いたのは花畑だった。
へぇ、こんな所があったのね……。そんな事を思ってる時だった。
「わぁ~! すごいすごい魔理沙ー!」
「言ったろフラン、花ってのは最初から観る為に切れてるんじゃないんだぜ」
いた!
「まり……」
私が声をかけようとした時。
「こらこら、あっちこっち動きまわるなフラン。迷子になるぞ」
「じゃあ私がどっか行かないように手つないでてよ魔理沙ー」
え? 妹様……一体何を……。
「仕方が無い奴だなあ。ほれ」
魔理沙は凄いあっさり妹様に手をさしだした。ちょっと……魔理沙、妹様は子供のように見えるけど私の3倍は年上なのよー!
「わ~い。えへへへ~♪」
妹様は魔理沙の手を握って……握って……肩をぴったりくっつけた。
な、なな……ななななな……なーっ!!
体内に留めていた魔力の堰が、目の前の光景に吹き飛んだ。強烈な突風で周囲の花が根こそぎ噴き上げられていく様も、まるで他人事のように見える。
「うぉ! なんだどこから沸いて出た、この強力な魔力……げ」
「ん? あれ、パチュリーじゃん。来たのー?」
二人を眺めながら、私はゆっくりと近寄っていく。
「ええ体調も持ち直しましたし、妹様のお世話を魔理沙一人では大変かと思ったのですよ」
「ふーん……え、こらちょっと。わ!」
それだけ言って妹様を魔理沙からひき剥がす。
こんな事をしたらどうなるか、分からない私じゃないけれど……とても見ていられない。大丈夫、今なら相手が妹様でも負ける気はしない!
「こらぁ何のつもりよー!!」
「別に……あまりくっつかれているのも魔理沙の迷惑になると思ったもので」
ちらっと魔理沙の方を眺めると、魔理沙は私の方を見ていた。困ってるというより驚いてるような感じで。当然かもね、私が『魔理沙の迷惑』なんていうのは相当珍しい……というか初めてだもの。
妹様は魔理沙と対照的に、私の方を楽しそうに眺めていた。
「へー、ずいぶん面白いこと言うんだねーパチュリー。……邪魔だなー」
妹様の澄んだ赤い瞳が私を見据える。そしてその手には紅い紅い熱の刀。最初から本気らしい。
「今日の私は妹様と戦っても勝つと思いますわよ、おやめになった方がいいかと」
「言うじゃんパチュリー、とことん壊してあげるから覚悟しなさいよー!!」
そして、私と妹様が今まさに対峙しようとした時。
「私を無視して勝手に盛り上がるんじゃないぜー!」
思いもかけずいきなり魔理沙にゴインと頭を叩かれて、妹様と私は地面に突っ伏した。
「ほれ、握手しろ握手」
「ちぇーっ、はい」
「……いえ……失礼しました、妹様」
魔理沙に言われて手を差し出す私。
半分以上覚えてないけど……ちょっと……いや、かなり我を忘れていた気がするわ。
「にしても、だ。パチェ随分鬼気迫ってたぞ。しかも私よりも遥かに魔力あったしな。放出魔力だけでビビったくらいだぜ。にしても一体なんでまた」
「え? ……え、その。ううん、ちょっと……ね」
魔理沙の問いかけに髪の先をつい無意識にグルグルと弄ってしまう。魔理沙と妹様が仲良く手を繋いでいて嫉妬したなんて……言えるわけ無いもの。
「まあでも大分良くなったみたいで良かったぜ。どうする? 花畑はまあ色々すごい事になっちまったがこれから三人でどっか行くか?」
私の頭を魔理沙がポンポンと叩いた。それは私が見たかった魔理沙の笑顔そのままだった。
「え……あ。そ、そうね。まあ折角ここまで来たんだし……」
髪の先はもうグルグルと回しっ放し。きっと凄い事になってるんだろう。顔が赤くなっていくのが分かる。
って……え? あれ……何だか目の前もグルグルと回っている気が……。
『……ぃ、……した……パチェ……』
『倒……う……たい……けど?』
そうだ。あの符の欠点、忘れて……はぅ……。
次に私が目を覚ました時は、いつものベッドの上だった。
「パチュリー様、あの複合符は作った時に体力の前借りみたいな物だって、ご自分でおっしゃっていたじゃないですか……もうやめて下さい、下手をすると永遠に意識が戻ってこなくなりますよ」
「ゲホゴホガホゴホ……わかって……ゴホゴホ……るわよ……」
待ってたのは息をするのも苦しい喘息の地獄。それこそ身動きさえ出来ない。
……どう考えても無茶のし過ぎだと思う。余程の事が無い限り、あの符は封印しておこう……。
「では、後でまたご様子を見に参りますので」
そう言って小悪魔は一礼をして引っ込んだ。
とりあえず……寝よう。少し頭を冷やした方がいいみたい。
そう思った矢先に、小悪魔が戻ってきた。
「あ、あの……パチュリー様」
「? どうしたのよ……ゲホゲホゲホ……小悪魔」
「ええと……魔理沙さんがお見舞いに来られたんですがどうしましょうか。流石に今日は帰って貰った方が良いと思いますけれど……」
え? 魔理沙が……来た?
「ゴホゴホゴホゴホ!! 追い返すのも何だし……入れてあげなさい」
気の無いフリをしつつ、小悪魔に伝える。
「はぁ……分かりました」
やっぱり、とでも言いたげな表情で肩をすくめて小悪魔は戻った。
…………こんな日も、たまにはいいのかもしれない。
【24時間弾幕りあえますか?】 完~
うー☆ぱちゅりー