Coolier - 新生・東方創想話

Illusion

2005/03/31 22:17:57
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※前回同様に一部独自設定があるので敏感な方はお気をつけ下さい







































「あれ?あそこに立っているのは誰だろう・・・」

騒霊三姉妹の長女であるルナサ・プリズムリバーは珍しく早起きをしたので一人ヴァイオリンを弾いていた
ふと窓の外に目をやると屋敷の前に立っている人影が目に入る
遠目だがその風貌は決して若くは見えない。が身形はそれなりにきちんとしていて単なる浮浪者には見えなかった
しかし屋敷の前に立っているだけで、呼出すわけでもなく目的が分からない
尋ねてきたのであれば外にある呼鈴を鳴らせば良いのに

「う~ん、誰かの知り合いかな?何時から居るんだろう」

見つけてしまったからには無視している訳にもいかず、とりあえずメルランとリリカに聞いてみようと彼女達の部屋へ向かう
廊下を早歩きしながらも眺めていたが一向にその人影が動こうとする気配はない
少し怪しい気もしたが、考えてみれば此処幻想郷には怪しい者ばかりなので気にするだけ無駄かなと思い直した

「メルラン、リリカ起きてる?」

返事が返って来ない
自分でさえ珍しい程の早起き・・・と言っても日は当然出ているわけだが、メルランやリリカが起きている可能性は五分にも満たない事は分かっていた
何か無理して起こすのもアレだな~と思いつつもう一度だけ控えめに呼びかけてみる
この辺りが生真面目なルナサの性格を表している
これがもしメルランの場合ならルナサやリリカは叩き起こされる事だろう
リリカの場合は・・・あまり考えたくないので控えておこう
そして当然返事が返って来ないので仕方なくあの人影に直接尋ねてみるしかないか、と部屋の前から離れようとする

「ん~?なぁに姉さん。こんな朝早くに」
「いるよ。どうかしたの?姉さん」

ほぼ同時に二人の返事が返ってくる
そしてまた同時に部屋の扉が開く

「あら、起きていたのね」
「何か珍しく今日は早く目が覚めたのよ・・・でも、ぼーっとしてたけど。それにルナ姉さんのヴァイオリンも聞こえたし。朝から真面目ねぇ」
「私も・・・ふあ。何か早く目が覚めたんだよね~。な~んか変な気分だよ」
「私も変な気分。だけどまさか姉さん達もだったなんて思わなかったわよ」
「私も今日は珍しく早起き・・・あ、そうそう。今うちの前に見た事ない人が立っているんだけど、あなた達の知り合いかしら?」
「ルナ姉さんはいつも早いじゃないの。で、こんな朝早くに?誰だろう」

三人とも窓の外に目を向ける

「ん~、見た事ないなぁ」
「私も見た事ないよ」
「そう・・・困ったわねぇ」

どうやら二人共知らないようだった
この辺境にある屋敷に人が尋ねてくるなんて珍しい
呼び出されて出向く事はあっても、出迎える事は今まで記憶に無い程だった

「浮浪者?にはあんまり見えないなぁ」
「そう、見えないのよね」
「じゃあ何か用があって尋ねてきたんじゃないの?」
「そう思うんだけど、あそこに立ったまま動かないのよ」
「ん~、怪しい」

しかし、とりあえずこのまま放置しておく訳にも行かないので三人で玄関の方へ向かう事にする
三人で住んでいる割には無駄に屋敷が広く、一階の部屋を使えば良いのになぜか三人揃って二階にある四つの部屋をそれぞれ分けて使っている
勿論三人しか居ないので一つは空き部屋になっているのだが


『たたったたたん たたったたたん』


屋敷の中からリズミカルに階段を駆け下りる音が聞こえる
騒霊(ポルターガイスト)と称する彼女達は生活の端々に意識せずとも音ないしリズムを奏でる事が多い
この階段を駆け下りる時に聞こえる単なる音も端から聞けば意図した音の集まりに聞こえたりする
だが言ってしまえば彼女達は宙に浮ける為、歩いたり走ったりする必要は全くない
しかし何故か分からないが、大抵地に足を着いて生活している
一見無意味に思える事だが、何か理由はあるのかもしれない

『ガチャ』

そこには中年・・・老人にも見えなくはなくはない男が立っていた
しかし帽子を深く被っていて顔全体をはっきり見る事は出来ない
それでもこのような風貌の知り合いは居ないし、尋ねてきた心当たりもない

「あの~・・・どなたでしょうか?」
「・・・・・・・」
(う・・・無反応・・・)
「あの~、どなたですかぁ~?」
「・・・・・・・」
(何で何も反応がないの~)
「何か用があって来たんじゃないですか?」
「・・・・・・・」
(う~ん・・・困った・・・)

何度尋ねても返事はともかく反応すら無い
置物かと思ってしまうくらいだ

「あの・・・どうして此処に居るのでしょう・・・?」
「・・・・・・・」

三人は一旦その正体不明の老人であろう人から距離を置きヒソヒソ話し始める

「ちょっと姉さん、何なのよあれ」
「私にも判らないわよ」
「何か置物みたいね。人形じゃないの?またあの引篭もり人形遣いが等身大男気人形とか意味不明な物作って送ってきたとかさ」
「人形にしても悪趣味だわ」
「そうねぇ、犯人があの魔法使いだとしたら安心出来ないし、ずっと此処に置いとくわけにもいかないわ」
「どっかにお土産って事で送りつければ?ほら、あの古びた神社にさ、『これ神社のマスコットとして使って下さい♪』なんて送れば喜ばれるんじゃないの?」
「・・・・・・」
「冗談、冗談です姉さん!」
「とりあえずもう一回チャレンジよ」

何も解決しないまま、再度男の元へ行く

「もしも~し、入ってますか?」

そう言ってコツコツ男の頭部を叩き始めるメルラン

「ちょっ、メルラン何してるのよ」
「これで反応無かったら置物って事で神社行き」
「じゃあ私は宅配便の手続きして来るわ」
「二人共もう少し真面目に!」
「「はぁ~い」」

と段々とエスカレートしてきたメルランはその男の体を掴みゆっさゆっさと激しく揺さぶり始めた

「・・・・・・・だ?」
「え?」

三人は驚いた
すっかり置物だと思っていた男が、聞き取れはしなかったが何か言葉を発したのだ
そして一番パニックに陥っているのは揺さぶっていたメルランでは無く、二人を注意していたルナサだった

「す、すみません!メルランも謝って!」
「ごめんね~」
「もっとちゃんと!」
「ごめんなさい~」

慌てて謝る二人だったが男はまた反応がなくなったいた
さっき何か言葉を発したのは気のせいだったのかと思える程に静寂に包まれていた

「何か変な人ね」
「・・・・・・・・だ?」
「あ、何か言った?」
「此処は・・・・・・だ?」
「ん~、良く聞き取れないな」
「此処は・・・・・・何処だ?」

どうやらこの人は私達の事はおろか、此処が何処かさえも知らないらしい
やはり単なる浮浪者だったのだろうか
しかしよりによってこんな所に辿り着くとは
運が良いのか悪いのか。少なくともあの紅い悪魔の住む屋敷に辿り着くよりはラッキーと言えるか

「君たちは・・・・」
「私達は・・・ここに住むプリズムリバーという者です」
「プリズムリバー・・・」
「ええ」
「ううむ・・・」

とりあえず言葉が通じる事だけは分かった
しかしこれからどうすれば良いのかは検討が付かない

「どこから来たの?」
「判らない・・・何も」
「名前も?」
「ああ・・・」
「困ったわねぇ」
「とりあえずうちに案内したら?」
「それも・・・そうね」

この何者かも判らないこの男の人をとりあえず屋敷の中に招き入れる事にした
普通ならこんな怪しい人を招き入れる事自体おかしいのだが、何故か赤の他人とは想えないような不思議な感覚を受けていた三人はあっさりと招き入れる事にした
中には空き部屋の方が多いくらいだし別に問題ないだろう
盗まれるような物もないし、いざとなれば弾幕を形成して追い払えば良い
私達だってやろうと思えばそこそこ出来るわけで、戦闘専門の紅白巫女とか黒白魔法使いには及ばないかもしれないけど、その辺の雑霊とかには負けない自信がある




















屋敷自体は立派なのだが手入れが行き届いていない為か中は少し荒れている
それでもそこらの神社や魔女の家よりは綺麗なのだが

「ねぇ、私あの人何か見た事ある気がするんだよね。何か変な気分。懐かしいような」
「え、メルランもなの?何だか私もそんな気がしてたのよ」
「リリカは?」
「そう言われるとそんな気がしないでもないわ。でも近づいてみて分かったけど、あの人は人間じゃないわ」
「妖怪?」
「う~ん、妖怪・・・でもない気がするなぁ。どちらかと言うと私達に近い存在な気がする。霊とか」
「曖昧ねぇ」
「気がするだけだから。それに姉さん達も『見た事ある気がする』って」
「何だか不思議な感じの人って事だけは確かね」

一方その男の人は玄関を入ってすぐの広いロビーに立ちすくんだまま何か難しい顔をしている
時折腕を組んだり手を顎に当てたりその姿からは何か考え事をしているのだろうと手に取るように判る
それを見ているルナサ達も何だか不思議な感覚に捕らわれ難しい顔をしていた

「これから、どうする?」
「とりあえず私はあの人が何者なのか分かる範囲で調べてみる」
「そんな事できるの?」
「この前冥界のお屋敷に招かれたときそこの主人にある物を頂いたのよ」
「あ~、あの厚い本みたいな?」
「そうそう、何か冥界関連について色々書いてあるらしいけどもしかしたら・・・って」
「そうね。誰かは判らなくても何者かくらいは分かるかもしれないし」
「じゃ、部屋に戻るわ」

そう言うとリリカは調べ物をするべく自室の方へ行った
その足取りは軽やかで、心の内で『後は任せた』と理由を付けて前線から一歩身を引いていた事にルナサ達は気づいていなかった
さすがリリカ・プリズムリバーと言える

「とりあえずリリカを待つとして・・・私達はどうしたらいいのかな」
「う~ん、これと言って何かする事はないわねぇ」

一向に解決へと進まない
今はリリカを待つ事しかルナサとメルランに出来る事はなかった
それにしてもずっと無言で居るのも何か気まずい

「すまんな・・・君達」

突然の事に一瞬驚く二人であったが、すぐ冷静になる
と言ってもさっきまで置物のように無言だったから驚くのも無理はない

「何か分かりました?」
「いや・・・分からない。唯、此処に来る前私は暗い闇の中に居た気がする」
「井戸とか?」
「どれくらい居ただろう、居ると自覚した時にある音が聞こえた」
「音?」
「そうだ。微かにしか聞こえなかったが美しい音色だった。それでいて悲しいような懐かしいような・・・」
「はぁ・・・」
「その微かに聞こえる音を辿っていった。ずっとずっと。そして気が付いたら此処に居たのだ」
「ふ~ん。それって姉さんのヴァイオリンの音じゃないの?」
「まさか~」
「でもあの時間に弾いてたの姉さんだけだし、そうだと辻褄が合うじゃない?」
「う~ん・・・」

確かに辻褄が合う
この人の言う『暗闇』というのが何処かまでは判らないが、ルナサのヴァイオリンの音に惹かれて来たというのが一番有力だ
しかしそれが判ったところで現時点で何か出来る事があるかと言えばそうでもなかった
ルナサはといえば単なる肩慣らし程度で弾いていたに過ぎず、何か特別な力のある音楽を弾いていたわけでもないのだ

「そうか・・・あれは君だったのか」
「え、ええ。恐らく・・・ですが」
「君はヴァイオリンをやっているのかね」
「私だけに限らずメルランもリリカもそれぞれ楽器を」
「ほう、若く見えるがそれは・・・」
「一応演奏隊って事で色々回ったり」
「そうか。それで、あれは何ていう曲だったんだい?」
「まだ名前はないんです。一応私達のオリジナルなので」
「そうなのか・・・どこか聞いた事があるような気がしたのは気の所為だったのかもしれんな」
「似たような物が前にもあったのかもしれないですし、一概にそうとも言えないですよ」
「まぁ、そうだが・・・」

ようやくまともに話をしてくれるようになった
そう思うとようやく一息付けたような気がする

「君たちは三人だけで此処に住んでいるのかい?」
「ええ、三人だけです。慣れてしまえばなんて事ないですね」
「そうか」






「姉さ~ん!ちょっとこっち来て」
「ん、今行くわ。ちょっと失礼しますね」

そう言ってリリカが呼ぶ方へ

「何か分かったの?」
「何者かまでは分からないけど、やっぱりあの人は『霊』の一種だと思う」
「霊?」
「うん。ほら、本当によ~っく見ないと気が付かないけどうっすらしてるじゃない?淡く見えるっていうか」
「そう?う~ん・・・見えない・・・」
「な、なんとなく・・・見えるような見えないような・・・」
「と言っても判ったのはこれくらい。あとはもうお手上げだわ」
「あの人ルナ姉さんのヴァイオリンの音に惹かれて此処に来たみたい」
「そうなんだ。朝弾いてたアレかな?」
「何か聞いた事あるような気がするとか言ってたけど」
「う~ん・・・どうにもならないわ。霊の事なら冥界のあの人に聞けば一発っぽいけど」
「ちょっと行って来る・・・って距離じゃないものね」

三人で頭を抱えて悩んでいるその姿は普段の騒がしさからは想像出来ないものだった
しかし突然正体不明の男の人が尋ねてきたとあってはそれも仕方のない事だろう
と男が話しかけてくる

「君たち、ここにはどれくらい居るんだい?」
「う~ん。詳しい年月はもう忘れたかな。でも随分長い間ですね」







恐らく何百年単位であろう
意外と彼女達も長く幻想郷に居るのだ
演奏隊として活動し始めたのはその歴史から言えば極最近に当たるのだが
それゆえにそっち方面では色々と付き合いがある
冥界の西行寺家が筆頭で、大抵はそこでどんちゃん騒ぎがある度に呼ばれていた
最近ではあの古ぼけた神社などにも遠征する事があり、仕事も増えてきたかなという感じである
とは言ってもお金とかには興味が全くないのでほとんどが無償である










「なぁ君たち。突然で悪いんだが、もし良かったら私に君たちの演奏を聞かせて貰えないかね?軽くで良いんだ」

急に言われたので若干戸惑ったが、別に断る理由もないしこれが何かしら解決に繋がるかもしれないと三人は頷く
それにきっかけになったのも自分達の音楽らしいし
そしてそれぞれ自室の方へ向かうと楽器を手に持ってきた

「じゃあアレね」
「分かったわ」
「りょ~かい」

タイミングを計ると三人は演奏をし始めた
普段とは違い、きちんと手に持って弾いている
彼女達には肩慣らしのような演奏だが、充分でもあった
男の人も始めは難しい顔をしながら聞いていたようだが、次第に演奏に引き込まれたのか三人を目で追っている
三人の演奏は好き勝手弾いているように聞こえてその実見事なまでに楽器同士が調和していた
それはまるで元気に走り回る幼い女の子達の姿を連想させるような演奏であった

















「素晴らしい・・・」

ポツンとその一言を発した男の人の目から微かに零れ落ちる何かを見た
涙だ
と同時に三人のその瞳からも同じように自然と涙が零れ落ちていた
なぜだろう、理由は分からない

「あの人泣いてる?」
「みたいだけど・・・姉さんも」
「そういうリリカだって・・・」
「何だろう、何か自然に出てきた」
「悲しくなんてないのにね?」
「ふふ・・・そうね」

三人はぽろぽろと涙を零しながらも、その自分に驚いたようなそれでいて何かすごく気分が晴れているような
理由が分からず戸惑いのほうがあきらかに大きいのだが、涙が似合わない程の笑顔であった







「思い出した・・・思い出したよ・・・」

突然そう言うとその老人は話しだした

「その曲は、私の娘達が聞かせてくれた物に似ている・・・とは言っても人様に聞かせるような物でもなかったがの」

聞くとその男には四人の娘が居たらしい
そしてルナサ達が今しがた演奏した曲はその娘達が自分にと言って聞かせてくれた物に似ていたらしい
とは言ってもそれはルナサ達のとは完成度は天と地の差らしく、何処が似ているかと聞くと『なんとなく』としか答えられなかった
そして自分がどうして此処にいるのか、いつこうなったのかという記憶も無いという
肝心の娘達の事もどうなったのかまでは思い出せないようだった
むしろ記憶自体が曖昧な物ばかりで分かる事はあまり無かった

「今の話から想像するに、生前印象に強かった曲に似ていものに惹かれて此処に辿り着いたって事かしら?」
「その線が濃いかも」
「曲は思い出したけど、それ以外の事はあんまり覚えていないみたい」
「幽霊になって忘れてるだけじゃないの?」
「そういうものなのかな~」

とりあえず想像の域ではあるがその男の人がどんな人か理解出来た
そして目的がそれなら近い内に一般的に言う『成仏』だとかするかもしれない

「今の曲を聞いたら少しすっきりしたよ」
「それは良かった。光栄です」
「いやいや、お礼を言うのはこちらの方だ。有難う、君たち。いきなり尋ねてきてすまなかったなぁ」
「これからどうなさるのですか?」
「分からない・・・が分かる気がする。はは、自分でも何を言っているのか分からないな」



ともかくもう迷ったりする事はないだろう
君たちの御蔭だ有難う




「それで、最後のお願いなんだが。写真というものを知っているかい?」
「写真・・・ですか?」
「あぁ、そうだ」
「あれなら確か、メルランの部屋に撮るやつが無かったっけ?」
「ん?あ~、あのあれかぁ。ちょっと待ってて、探してくる」
「あぁ、すまん。それで使えるようなら一緒に写真を撮って欲しいんだが」
「全然構わないですよ」

しばらくして『あった!』とメルランが駆けて来る
珍しい物を収集しては部屋に詰め込んでおく性格を持つメルランで、いつもは探し物が見つからなくて騒いでいるのに珍しく見つかったみたい
カメラ・・・古い品なのだろうか、出てくる写真は白黒で本体の色も褪せている
以前に一度だけ使った経験があるので使い方は分かる
それに手足を使わなくても楽器を演奏する力を使えば、手足を使わなくても写真を撮るくらいは朝飯前だ

「じゃ、行きますよ~」

目一杯の笑顔でポーズを取る三人と一人


ハイチーズ










カメラから発射されるそのフラッシュを確認した後、男の姿はどこにも無かった
唯一その姿が確認出来るとすれば最後に撮った、このカメラから出てきた写真だけである
この写真が無くなれば、本当に居たのかという事さえ疑いたくなるよう程キレイに居なくなっていた

「あの人・・・消えちゃったね・・・」
「そうね。何か不思議な人だった。何かよくわからないけど、暖かい感じがした」
「最初から何か変な感じはしてたねぇ・・・」
「何だろうね、この気持ち」





















・・・・・・最初で最後のプレゼントだ・・・書斎があるだろう?書斎にある大きな机の引き出しを開けてみてくれ・・・・・・




















ルナサには先ほどの男の声が聞こえたような気がした
そして辺りをきょろきょろと見回してみる
二人も同じような動作をしている事に気づき、自分の空耳では無かった事に気づいた

「書斎・・・行ってみる?」
「ええ。行ってみましょう」

三人は随分と使われておらず、また自分達も何故か入った事のない書斎の前に立っていた

「そういえばこんな部屋あったんだね」
「今まで住んでいたのに入った事が無いって、ちょっと不思議な感じがする」
「そうだね

。なんでだろうねぇ」
「ま、とりあえず入ってみましょ」

扉を開ける
年季の入った扉はギイギイと音を立てて開いた
中はやはり埃が塗れていて、随分と長い間誰も入っていないだろう事が手に取るように分かる
その書斎の真中に大きな、そしてやはり埃を被った机がポツンと置いてあった
誰が使っていたのだろう、三人には分からなかった
少なくとも自分達が此処に住み始めた頃には使っている人は居なかったと思う

「引き出しだっけ。此処かな?」
「じゃ、開けてみましょうか」
「それー」

引き出しを開けると大きな引き出しの中にポツンと小奇麗に包装された長方形の箱が置いてあった
やはり随分と時間が経っているようで、見た目には包装が色褪せていた
そしてもう一つ、引き出しの中には何やら書かれている紙切れも入っていた
もう古ぼけてほとんど読めないが数字らしき物がいくつか並んでいる
見た感じ何か日付のように見える

「何て書いてあるか読めないね」
「数字っぽいけど、日付?う~ん駄目。分からない」
「それよりこれ、何だろう?」
「何か年季の入った宝物だったりして!私達お金持ち!?」
「別にお金持ちになったって・・・あんまり意味ない気が」
「気分だけよ気分だけ」

とりあえず箱を開けてみる事にした三人
慎重に包装を剥がし、中から出てきたこれまた精巧にデザインされたであろう宝石箱のような物が現れた
そして蓋を開けた























そこに入っていたのは一枚の少し大きなメダル・・・に思えたが、四枚の欠片で構成されている円形の金属であった
そしてその四つそれぞれに違った色の小さな石がはめ込まれていて、四つとも全て首からぶら下げる為だろうか?長めのチェーンが付いていた

「何これ?ペンダント?」
「四つで一つになるアクセサリーみたいね」
「何か高価そう!」

珍しい物には目がないメルランは真っ先にその一つを手に取る

「あれ?何かこれ名前みたいの書いてあるよ?」
「ほんと?どれどれ・・・」
「何で読むんだろう、難しい。る・・・る・・・る~~~~・・・るな・・・る・なさ・・・ぷり・・・」
「る・なさ・・・ぷり?メル姉。それもしかしてルナ姉さんの名前じゃないの?」
「え?るな・・・るなさ・・・ぷりざむ・・・り・・・」
「ぷりざむじゃなくてプリズム」
「あ、ほんとだ。これ姉さんの名前だよ!」
「ねえ、こっちはリリカの名前が書いてあるけど」
「あ、こっちはメル姉の名前」
「あと一枚は?」
「れ・・・れ・・・いら?」





























「あれは何だったのかしら。何で私達の名前が?」
「誰かのプレゼントって事は分かるけど、誰からだろう。相当古いし」
「しかも何であのおじさんが知っていたんだろう」
「それにレイラって・・・」
「うん・・・あの子だよね・・・」
「ね~、私に良い考えがあるんだけど」
「何?リリカ」
「この写真持ってさ、ちょっと冥界行こうよ」
「何をする気なの?」
「例のお嬢様に聞けばさ、何か分かるかもよ?このままじゃ何かすっきりしないじゃない」
「それもそうね。ちょっと出掛けようか」
「賛成~」













ここは白玉楼
かの亡霊少女の幽々子が住まう屋敷

「突然尋ねて申し訳ないです。ちょっと聞きたい事が」
「あなた方はお得意様ですから。こちらへどうぞ」
「すみません、失礼します」

プリズムリバーの屋敷に負けじと広いこの屋敷
いくつもの部屋を通り過ぎて障子を開けるとそこには幽々子が居た

「こんにちわ、幽々子様」
「あら~いらっしゃい。今日はどうしたの?」
「ちょっと、この写真の男の人を見て貰えますか?」
「あら、また珍しい物が写ってるわね」
「珍しいもの??」
「これはアレよ。ん~、なんだっけ」
「幽霊かと思っていたのですが」
「ちょっと違うのよねぇ。アレよ」
「アレ?」
「そうそう。本当に珍しい事なんだけど。ある一定の条件を満たした時に現れる、人の想い霊みたいな」
「ふむふむ」
「実在した人物だけど、その人本人ではなくて、想いが具現化した存在って言うのが分かり易いかな」
「ふむふむ・・・」
「まぁ区別的には幽霊なんだけど、自身の最後とか未来がどうなったとかは覚えてないし、その他色々記憶自体曖昧なのが特徴ね」
「ううむ・・・」
「大抵はそこに長く住んでた人とかのがたま~にこういった霊みたいな存在として現れるんだけど」
「暗闇に居たって言ってたんですけど」
「暗闇・・・後悔とかそんな感じの念かしらねぇ」
「後悔・・・」
「ま、幻想よ。何かを思う強い想いが生み出した幻想」
「幻想・・・」


大まかに特徴を言うと
区別的には幽霊ではあるが、本人そのものの幽霊ではない
幽霊より曖昧な存在なので記憶自体がはっきりしていない。例外もある
何か強い想い、ある一定の条件、または何かが引き金となって現れる事があるあり、目的はそれぞれであるが満たされると幻のように消える。存在自体が

という事であるらしい
そしてあの男の人もまさしくこれ(幻想)だったと幽々子は言う
そういえば思い当たる節は多々ある
でもそれが何故アレを知っていたのかまでは分からなかった
あれは誰だったのですか?と聞いても

『私には分からないわ~~~~~』

と言って何も教えてくれなかった
まぁ本当に知らない可能性のほうが高いのだが
















「結局よく分からなかったねぇ」
「う~ん・・・」
「な~んかすっきりしないなぁ」
「そうそう、変な感じ。何か引っかかる」
「でもあの人は悪い人じゃなかったよね」
「うん、優しそうな人だった。誰だかは分からないけどまた会えるかな~なんて」
「そうだね~。案外私達にお父さんが居たとしたらあんな人だったかもね」
「決めた。あの曲のタイトルは『family of illusion』にしない?」
「へぇ~、意外と姉さんもそういう所あるのね。良いんじゃない?」
「な、何よその言い方は。シンプルイズベストってよく言うでしょ」
「全然シンプルじゃない気が」
「はいはい、何だかんだ言ってリリカも気に入ってるみたいだし良いんじゃない?それ」
「う・・・何か恥ずかしくなってきたわ」
「姉さん普段アレだからほら・・・勢いでそういう事するといつも最後はこうなるのよね」
「いいじゃん、いいじゃん。それが姉さんの持ち味でもあるし」
「何か嫌な持ち味ねそれ・・・」
「ううん、良い持ち味よ!」






「さ~って。帰ろうか」
「そうだね、暗くなってきたし」
「よーし!一番遅かった人が今日の夕飯の用意ね!」

と言うと真っ先に走り出すメルラン

「ちょっとずるい!」
「待て~!!」
「いや~~~~~」
「ってちょっとメルランそっち方向ちが・・・」
「ルナ姉、放って置けばいいって!そしたら夕飯メル姉が」
「でもあの子料理下手だから食べられるか分からないわよ?」
「あ、そうだった・・・」






こうして三人は帰路に着く
その首にはそれぞれの名前が彫られているであろうペンダントがぶら下っていた
残りの一つは・・・・







二階の使われていない・・・そして今後も使われる事のないたった一つの空き部屋
その部屋に綺麗に飾られていた









































あの日彼女達があの男の人に聞かせた曲は、彼女達の生みの親である『レイラ・プリズムリバー』が生前よく弾いていただろう音をベースとしてに彼女達が独自に作り上げた物である
そしてその曲とは今は亡き四人の姉妹がまだ幸せに暮らしていた頃・・・貴族の嗜みとしてそれぞれ習っていた楽器を持ち合い父の誕生日に向けて四人で作曲していた物であった
それは音楽と呼べるのかも分からないような楽器の音の集合体であり、結局間に合わず未完成だったのだ。しかし四人にとっては堅く結ばれた絆としてずっと忘れないように・・・いつか再会して完成させようという意志を持って別れたという
四人には分かっていた。それがどんなに難しい事か、困難な事か。恐らく無理だろう事も
末っ子であったが四人の中では一番家族思いであり、最後まで我侭を言い泣き、お姉ちゃん子であったレイラはその生涯を終えるまで弾きつづけ自身の完成に至った。自分の姉達もそうだったろうと信じて
まだ幻覚、幻聴程度に過ぎなかった騒霊三姉妹はその個々としては完成されているが、作品としては未完成なままのレイラの音を深く心に刻み込み生まれた
そして彼女達はまた長い年月をかけ、曲を完成させたのである





そして偶然なのか必然なのか彼女達の完成させた曲の各パートは聞いた事もない三姉妹オリジナルと根本的な部分が酷似していたという事実がある
またそれは誰も知り得る事のない事実でもあった

























溢れる幻想・・・そう、彼女達もまたレイラの生み出した幻想そのものなのかもしれない



二回目の投稿です。Shalです

今回のはちょっと何か自己満足的な物になってしまい、正直投稿しようか迷ったのですが三姉妹ベースのSSがあまり見られないので出してみました
恐縮です

一応捕捉設定として三人は自分のオリジナル(元になった三姉妹)の事やその家族(レイラを除く)の事は知らないという事が前提です
もう少しレイラの事を書いた方が良い気もしたのですが、本当に触りくらいが丁度良いのかもしれないという事でほとんど書いていません
最後の終わり方もどうしようか迷ったあげくこうなりました
まぁ何かコメントで色々書いちゃうとご自身の想像の妨げになってしまうような気もするのでこのくらいで
こんな物でも良ければ是非!と思います

Shal
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