幻想郷に冬が訪れた。
冬は大好き。寒いし、雪だって積もるし、レティにも会えるから。
でも、ちょっと悲しいことだってある。
レティが「生まれる」場所は毎年違っていて、どこにいるのかは分からない。
大抵は生まれた場所でぼうっと空を見上げていて、私が声をかけるんだ。
レティの方から私に会いにくるなんてことは無いから、私は秋の終わりごろから彼女の姿を探して飛び回る。
去年は魔法の森の奥深くだったから探すのに手間取った。
レティを見つけたら、次にどう挨拶しようか考える。
後ろから思いっきり抱き付いて驚かせちゃおうか。
それともニコって笑って「こんにちわ」の方がいいかなぁ。
ホラ、だいいちいんしょーって大事みたいだし。
本当は「久しぶりね」って言ってあげたいけど、それは・・・できないから。
一生懸命考えるけど、私は不器用だから答えは見つからなくて、結局いつものパターンで。
「ちょっとそこのあなた、この森の冬は私が管理してるの。誰の許可を得てそこにいるの?」
まったくの嘘。
幻想郷の冬を司るのはレティだし、私が幅をきかせられるのはせいぜいあの湖くらい。
「あら、そうなの?ごめんなさいね。私、まだ生まれたばかりだからよく分からなくって」
久しぶりに話したレティはいつも通りだった。私のココロがちくりと痛む。
「ふぅん、あなた新米なのね。私はチルノ。見ての通り、氷の妖精よ。
幻想郷の冬のことなら何でも聞いて」
「はじめまして、私はレティ。レティ・ホワイトロックよ。よろしくね、チルノさん」
そう言ってニッコリ笑った彼女は、やっぱり何にも覚えていない。
私のことも、幻想郷のことも。
「さん、なんて付けなくていいよ、レティ。同じ妖精同士なんだし、呼び捨てで構わないわ。
そうだ、こうやって会えたのも何かの縁だし、私が幻想郷を案内してあげる!」
レティとは毎年こんな感じで知り合いになる。
会えたことは嬉しいけれど、ちょっぴり悲しいし、悔しくもある。
冬の間はずっとレティと一緒。毎日いろんなところを飛び回って遊ぶんだ。
雪だるまを作ったり、冬眠中のケモノをからかったり。
この前、紅白や白黒の人間にちょっかいを出したら返り討ちにあった。
レティも頑張ったけれど結局負けちゃって、二人でふくしゅーを誓った。
冬も終わりに近づくと、私は毎日レティに尋ねる。
「ねぇ、レティ。私のこと、ずっと覚えててくれる?
春が来て、レティが幻想郷からいなくなっても、次の冬まで私を覚えててくれる?」
「もちろんよ。チルノは大切なお友達だもの。忘れるはずがないわ」
「絶対だからね、約束だからね!」
「ふふ、チルノは心配性ね。大丈夫、ちゃんと覚えてるわ。
次の冬に私が生まれたら、まっさきにチルノに会いにいくから」
それは、叶わない約束。そんなことは分かってる。
分かってるけど、約束せずにはいられなかった。
レティと別れる時に、私達はもう一つの約束をした。
「レティ、これは何?」
「これはね、溶けない氷のペンダント。私のチカラをありったけ込めて作ったの」
それは手のひらに収まるほどの小さな氷塊で、青白い光を放っていた。
「心配性のチルノに、私からの贈り物。小さいけれど、絶対に溶けないわ。
どんなに暑くても、たとえ炎の中に入れてもね」
「これを私にくれるの?」
「そう。チルノと仲良くなって、いっぱい遊んだっていう証。
私が確かに幻想郷にいたっていう何よりの証拠。
次に会うときまでに無くさずにもっていたら、来年の冬をちょっとだけのばしてあげる」
「ホント!?もっとレティと遊べるの?」
「ええ、だから大事にしてね」
「絶対だからね!嘘だったらレティのこと嫌いになっちゃうからね!」
「じゃあ、私からも約束。無くしたらチルノにはお仕置きね」
次の日、レティはどこにもいなかった。私はいっぱいいっぱい泣いた。
それでもお互いにさよならは言わない。だってまた会えるから。また遊べるから。
残されたのは、小さな氷とたくさんの嘘。
レティは何も知らないから、来年もまたいっぱい遊びましょうねって言って笑顔で消えていけるんだ。
何も知らないから、私のこと覚えてるなんて勝手なことが言えるんだ。
何も知らないから、こんな氷のペンダントまで・・・ひどいよ、レティ。
幻想郷に再び冬がめぐってきた。
秋の終わりごろから私はそわそわと落ち着かず、やっぱりレティを探してしまう。
今年のレティは雪山のふもとにいた。
「この山の冬はね、ぜーんぶ私のモノなのよ」
「それは悪いことをしたわ。私、まだ生まれたばかりで右も左も分からなくって・・・」
「じゃあ、先輩の私が色々教えてあげるね!」
私達はまた友達になって、いっぱいお話して、いっぱい遊んだ。
「ねぇ、レティ。これが何だか分かる?」
「えっと・・・氷のペンダント、かな。とっても綺麗ね。チルノが作ったの?」
「・・・・・・ううん。大切な人からもらった、私の宝物」
冬は大好き。寒いし、雪だって積もるし、レティにも会えるから。
でも、ちょっと悲しいことだってある。
レティが「生まれる」場所は毎年違っていて、どこにいるのかは分からない。
大抵は生まれた場所でぼうっと空を見上げていて、私が声をかけるんだ。
レティの方から私に会いにくるなんてことは無いから、私は秋の終わりごろから彼女の姿を探して飛び回る。
去年は魔法の森の奥深くだったから探すのに手間取った。
レティを見つけたら、次にどう挨拶しようか考える。
後ろから思いっきり抱き付いて驚かせちゃおうか。
それともニコって笑って「こんにちわ」の方がいいかなぁ。
ホラ、だいいちいんしょーって大事みたいだし。
本当は「久しぶりね」って言ってあげたいけど、それは・・・できないから。
一生懸命考えるけど、私は不器用だから答えは見つからなくて、結局いつものパターンで。
「ちょっとそこのあなた、この森の冬は私が管理してるの。誰の許可を得てそこにいるの?」
まったくの嘘。
幻想郷の冬を司るのはレティだし、私が幅をきかせられるのはせいぜいあの湖くらい。
「あら、そうなの?ごめんなさいね。私、まだ生まれたばかりだからよく分からなくって」
久しぶりに話したレティはいつも通りだった。私のココロがちくりと痛む。
「ふぅん、あなた新米なのね。私はチルノ。見ての通り、氷の妖精よ。
幻想郷の冬のことなら何でも聞いて」
「はじめまして、私はレティ。レティ・ホワイトロックよ。よろしくね、チルノさん」
そう言ってニッコリ笑った彼女は、やっぱり何にも覚えていない。
私のことも、幻想郷のことも。
「さん、なんて付けなくていいよ、レティ。同じ妖精同士なんだし、呼び捨てで構わないわ。
そうだ、こうやって会えたのも何かの縁だし、私が幻想郷を案内してあげる!」
レティとは毎年こんな感じで知り合いになる。
会えたことは嬉しいけれど、ちょっぴり悲しいし、悔しくもある。
冬の間はずっとレティと一緒。毎日いろんなところを飛び回って遊ぶんだ。
雪だるまを作ったり、冬眠中のケモノをからかったり。
この前、紅白や白黒の人間にちょっかいを出したら返り討ちにあった。
レティも頑張ったけれど結局負けちゃって、二人でふくしゅーを誓った。
冬も終わりに近づくと、私は毎日レティに尋ねる。
「ねぇ、レティ。私のこと、ずっと覚えててくれる?
春が来て、レティが幻想郷からいなくなっても、次の冬まで私を覚えててくれる?」
「もちろんよ。チルノは大切なお友達だもの。忘れるはずがないわ」
「絶対だからね、約束だからね!」
「ふふ、チルノは心配性ね。大丈夫、ちゃんと覚えてるわ。
次の冬に私が生まれたら、まっさきにチルノに会いにいくから」
それは、叶わない約束。そんなことは分かってる。
分かってるけど、約束せずにはいられなかった。
レティと別れる時に、私達はもう一つの約束をした。
「レティ、これは何?」
「これはね、溶けない氷のペンダント。私のチカラをありったけ込めて作ったの」
それは手のひらに収まるほどの小さな氷塊で、青白い光を放っていた。
「心配性のチルノに、私からの贈り物。小さいけれど、絶対に溶けないわ。
どんなに暑くても、たとえ炎の中に入れてもね」
「これを私にくれるの?」
「そう。チルノと仲良くなって、いっぱい遊んだっていう証。
私が確かに幻想郷にいたっていう何よりの証拠。
次に会うときまでに無くさずにもっていたら、来年の冬をちょっとだけのばしてあげる」
「ホント!?もっとレティと遊べるの?」
「ええ、だから大事にしてね」
「絶対だからね!嘘だったらレティのこと嫌いになっちゃうからね!」
「じゃあ、私からも約束。無くしたらチルノにはお仕置きね」
次の日、レティはどこにもいなかった。私はいっぱいいっぱい泣いた。
それでもお互いにさよならは言わない。だってまた会えるから。また遊べるから。
残されたのは、小さな氷とたくさんの嘘。
レティは何も知らないから、来年もまたいっぱい遊びましょうねって言って笑顔で消えていけるんだ。
何も知らないから、私のこと覚えてるなんて勝手なことが言えるんだ。
何も知らないから、こんな氷のペンダントまで・・・ひどいよ、レティ。
幻想郷に再び冬がめぐってきた。
秋の終わりごろから私はそわそわと落ち着かず、やっぱりレティを探してしまう。
今年のレティは雪山のふもとにいた。
「この山の冬はね、ぜーんぶ私のモノなのよ」
「それは悪いことをしたわ。私、まだ生まれたばかりで右も左も分からなくって・・・」
「じゃあ、先輩の私が色々教えてあげるね!」
私達はまた友達になって、いっぱいお話して、いっぱい遊んだ。
「ねぇ、レティ。これが何だか分かる?」
「えっと・・・氷のペンダント、かな。とっても綺麗ね。チルノが作ったの?」
「・・・・・・ううん。大切な人からもらった、私の宝物」
レティが毎年初期化されてしまうとなると、チルノにとってはこうなってしまう可能性があるわけですよね。
こういった何かを感じられる作品はとても大切だと思います。
もうアレだチルノ、幻想郷の最北端にレティと二人で移住するんだ。
一緒の時間を少しでも伸ばすために!
文章の一字一句から恋娘の健気な一途さが滲み出ていて
作品読了後、この子に対する印象が少し変わったかもしれない……
俺にとってのチルノは、こんなに漢字を使って喋れないおバカさんだったんだが、
出会いと別れは、氷の妖精も成長させるもなのですね。