Coolier - 新生・東方創想話

ルナティック・ドール

2005/03/23 05:47:09
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そーなのかー、そーなのかー。

――夜。

そーなのかーそーなのかー。

昼なお暗き魔法の森の夜。

そーなのかそー・・・

一人の少女が、歓喜の声を、あげた。

これは、そんな少女のある一日を取り上げた、そんな物語である・・・。






そーなのかー。







「ふっふっふっふっふ……」

ここはとある人形屋敷の主人の部屋。

どこか含みのある笑いを放つ少女は、この部屋の主たるアリス・マーガトロイドだった。

「ついに…ついに完成したわ……!」

ついさっき完成したばかりの新しい人形。

それを見て、頬がだらしなく弛みそうになるのをぐっと我慢する。

最後に一通り人形を点検して、おかしなところがないかを確認する。

よし、大丈夫。どこから見ても可愛らしい。

――今まで作った人形の中でも、おそらくこれが最高傑作だと胸を張って言える代物になった。

負担は人形に優劣はないと人形を比べることを善しとしないアリスをしてそう言わしめるほど、その人形は可愛らしかった。

そんな人形の前では、我慢という言葉が馬鹿らしく思えてしまう。

そんな人形だからこそ、アリスは誘惑に負け、ぎゅっと人形を抱きしめた。

そーなのかー。

途端人形から漏れる可愛らしい声。

「――っ!」

そのあまりの可愛らしさに、声すら失い、ただただ力いっぱい抱きしめつづける。

あぁぁぁあぁぁ、まさかここまで可愛くて、まさかここまで愛くるしい人形になるなんて…一体誰が想像できただろうか。

いな、誰にも創造で気なかったに違いない。

なにせ創造主であるアリスの予想すらも遥かに越えた出来栄えなのだから。

これはひょっとしてひょっとすると、霊夢人形よりも威力が高いかもしれない。

いや、あれもあれで可愛いくて大好きなのだが、この人形の可愛さとはまた少し違うというか…。

愛くるしい。

愛、くるしい。

愛、苦しい。

誰がこんなうまい言葉を考えたのだろうか。

これはきっと、この人形――ルーミア人形のために作られた言葉に違いない。

「…そういえば」

ふとアリスが我に返る。

抱きしめていたルーミア人形の両手をやさしく握り、ルーミア人形で遊びながら思い出す。

「そういえば、霊夢の案外可愛いものが好きだったりするのよね…」

少し前、戯れで作ったアリス人形をプレゼントしたときの霊夢の表情を思い浮かべて、微笑む。

そうだ。明日、霊夢のこの人形を見せに行こう。

これはあげることはできないけど、一緒に遊ぶことはできるから。

ルーミア人形を胸でやさしく抱き、ベッドへと向かう。

――夢には、寝る直前に思い浮かべた強いイメージが入り込みやすいという。

だからアリスは、目を閉じて、強く強く思い浮かべる。

縁側でお茶を飲む霊夢の姿と、その隣にいる自分の姿を。

――そして、今日はこのルーミア人形のことも。



「おやすみなさい、霊夢。

今日もいい夢が見れますように。

そして明日も一日、素晴らしい一日でありますように――」



そうして今日も、一日の終わりに夢の果てへと深く沈んでいく…。











ぽこ。ぽこ。そーなのかー。そーなのかー。

ルーミア人形をやさしく叩くたびに、そんな声が流れ、そのたびにアリスの頬が弛む。

あぁ…と、深くため息をつく。

昨日は完成した昂奮もあってあんな風に暴走してしまったけれど、あらためて落ち着いて見直してみても、やっぱり可愛らしい。

でも今は博麗神社に向かっている最中。昨日とは状況が違うため、抱きしめるのはぐっと我慢する。

そんなところを、たとえば黒くてすばやくてかさかさしたのに見られでもしたら…そう考えるだけで、本能は自然と理性に従ってくれた。ビバ感情。感情って、なんて素晴らしいんだろう。

ねぇ、あなたもそう思うわよね?

人形にそう問い掛けて、ぽんと頭をかるく叩こうとして…

「そーなのかー」

「――っ!?」

突然、そんな声が聞こえてきた。

馬鹿な。まだ叩いてないのに、聞こえるはずがない。

まさかまさかまさか。私があまりにも強く想いすぎちゃったから人形を意思を持ち始めた?そんな、いくらなんでも早すぎる。そもそも、これは使い魔用に創ったわけじゃないから動くはずはない。

内心動揺しながら、それでも冷静になろうとあたりを見回すと、その問いの解はあっさりと見つかった。

周囲が、もう既に日が出ているというのに薄暗くなっていたからだ。

そう、それはたとえるならば宵闇――。

「人類は十進法を採用しました。けれど、魔法使いは十七進法を採用しましたとさ」

「そ、そーなのかー!」

そう言って、闇の中からひょっこりと現れたのは、赤いリボンが特徴的な少女だった。

それは、この人形のモデルとなった少女ーー宵闇の妖怪、ルーミアだった。

「久しぶりね、ルーミア。元気だった?」

「うん、げんきだったよ~」

手を小さく振ってにっこりと挨拶をすると、ルーミアはにぱっと笑って応える。

そして最後に少しだけ首を傾げると、でも…と続けた。

「十七進法って、どうやって表現すればいいのかな?」

「片手を、時計の針が七を指す位置に持ってくればいいんじゃない?」

「こ、こう?……って、これじゃ何かの変身ポーズみたいだよ!しかも変身途中だよっ!」

ふとそのことに気がつき、慌ててばっと両手を十進法の位置に戻してしまう。

う~む。最近はどこからか(おそらく出元はパチュリーとリグルだと思われる)変な知識を取り入れているらしく、反応が前と少し違う。

今も昔も可愛らしい反応なのでこちらとしてはまったく問題はないけれど。

「ところで、何を持ってるの?」

アリスが手に何かを持っていることにようやく気が付いたらしく、ルーミアが訊ねる。

「あぁ、これ?これはね…ほら」

アリスが自慢気にルーミア人形を見せる。

その瞳は、遊びに夢中になった子供のそれだ。

無邪気で、無垢で、そして何より真っ直ぐな瞳。

「これはあなたをモデルに創らせてもらったル――」

「わはー。おいしそう~」

「え゛っ?」

嫌な、予感がする。

先ほどまでの表情はどこへやら、アリスは冷や汗をかいて数歩後退する。(実際飛んでいるわけだから、それはたいした効果を持たないのだが、気分の問題である。)

「ねぇ、アリス?」

アリスとは反対に、今度はルーミアの瞳が輝いて見える。

そう、それはまるで――

「これは、食べてもいいもの?」

獲物を見つけた、飢えた肉食動物の、それ――。

「――っ!」

ばっ!

人形の危機を感じて、ありすは全速力でルーミアと距離を取る。

「あっ!?アリスの卑怯者~!今日は弾幕ごっこで勝負をつけるんじゃないのか~!?」

そしてそのまま、博麗神社に向かって一直線に飛んでいく。

今日は片手に持っているルーミア人形を汚したくはなかったし、なによりもそのモデルとなったルーミアを傷つけたくはなかった。

たとえそれが、「ごっこ」だとしても――。

「あ、そうかっ。今日は鬼ごっこだねっ!」

きゃははと楽しそうに笑いながら、ルーミアが追いかけてくる。

「ふっ、甘いわねルーミア!あなたは忘れてるだろうけど、私は仮にも魔法使いなのよ?あいつのスピードには負けるけど…それでも、あいつに限りなく近づくことくらいできるわっ!」

そう言って、アリスは魔法陣を描き始めた。

普段はあまり使わない、本気ではないが自身が持つ最高速度を出すための魔方陣。

ルーミアには判別不能な文字で描かれたそれは、自らの意志で操れる風を生み出す術式だった。

描き終るのと同時に、アリスは風の出力を最大にして、後方に向かって解き放つ。

そこに巨大な壁があるものだと幻想しろ。そこに強く強く風を叩きつけろ。強き反動を望め。ここは幻想郷。望んで叶わぬ夢は存在しない!ついでにルーミアを吹き飛ばせ。

ちょっとそれはどうよと思う間もなく、あれよあれよという間にルーミアとの差が開いていく。

そしてルーミアの姿はどんどんどんどんと小さくなり…やがて、突然訪れた夜も終わりを告げた。

だけど油断は禁物。そう自分を戒めて、博麗神社に着くまで速度を落とさず突っ切る。

やがて見えてきた博麗神社。境内に場所を定めて、降り立つ。

久しぶりに無謀な降り方をしたせいか、普段よりも音を立て、普段よりも埃やら葉が舞う。

これでは本当に黒いものと同じじゃないか。

苦笑しながら辺りを見回す。

うん、大丈夫。どうやら霊夢はいないみたいだ。

もっとも、こんな乱暴な降り方をしたのだ。霊夢がやってくるのも時間の問題だろう。

と、いうわけでここから少しの間は時間との戦いだ。霊夢がやってくるまでに、風で乱れた髪を直さなければ。

「うぅ…せっかく今日はいつも以上に上手に出来たのになぁ」

そんなことを愚痴っても仕方がない。幻想郷は全てを受け入れるのだ。だったら自分も、そんなことを悔やまず今は手櫛で直せるところまで直すだけだ。

あくせくと作業に勤しむアリス。

だから、アリスは気がつかない。いつの間にか背後にやってきた人影が地面に映っていることに。

「……何やってるの、アリス?」

「見ればわかるでしょ、髪を整えてるのよ」

「私は逃げないんだし、髪が乱れるほど慌ててやってこなくてもいいのに」

「…………あれ?」

はたと。

あまりにも自然に会話している自分に気がつく。

「ん、どうしたの?」

ぎちぎちと、ぎこちなく。アリスは自分ではない声のするほうへと、首を回す。

まさか、この声は。

いや、だってそんなあまりにも早すぎる。自分の予測とは10分以上も違うなんて、まさかそんな……

「れ、霊夢…?な、なんでこっちにいるの?」

「しかしそんなアリスの願いも虚しく、振り向いた先にあったのは、紛うことなき霊夢の姿だった。

「なんでって…こっち側の掃き掃除してただけだけど、何よそのアリエナイ、みたいな口振りと表情は」

「わっわっわっ!霊夢、ちょっと後ろ向いててっ!いいっ?私がいいって言うまで絶対こっち向いちゃ駄目だからねっ!?」

何かを言いかける霊夢を無理矢理反転させ、急いで髪を整えていく。

「別に、髪が乱れていようとアリスはアリスなんだし、どうでもいい気がするんだけど…」

「うるさい。これは私のプライドなのよ。たとえ霊夢が気にしなくても、好きな人の前でくらい可愛くいたいじゃない」

「…うぁ。相変わらず、恥ずかしいことをさらりと…」

「ふふ。嬉しいでしょ?」

「まぁ、嬉しいけどさ」

そんな会話をしているうちに、髪を整え終わったアリス。

こっちを向いてもいいわよ、とようやく許可を降ろす。

「…で、そんなに慌ててやって来てどうしたのよ?」

「あ、そうそう。実はね…」

霊夢に聞かれ、ようやく今の状況を思い出したアリスは、とりあえず少しでもルーミアに見つかりにくい場所へ、よ縁側へと向かいながら霊夢に事情を話す。

新しい人形が完成したこと。それを霊夢に見せに行こうとしたこと。途中でルーミアに会ったこと。ルーミアに人形をおいしそうなものと勘違いされたこと。何故か鬼ごっこが始まってしまい逃げてきたこと。

「それでね、霊夢のところでかくまってもらえないかなぁって。ほら、霊夢が結界を張ればルーミアもきっと私がここにいるなんて気づかないだろうし…」

大体のことを話した後、そうアリスが言った。

「ルーミアは鬼ごっこといったんでしょ?かくれんぼうにしたら可哀想じゃない」

うっ、と言葉に詰まるアリス。

どうやら本人にも多少の罪悪感はあるらしい。

「うぅ…せっかく今日は霊夢と一緒にこの人形で遊ぼうと思ったのに…」

「まぁまぁ、わたしはここから逃げないんだし、今日はルーミアと遊んであげれば?ところで新しい人形ってどんななの?」

「あ、それはね…」

ふふふと笑い、我が子を始めて紹介する母親のようなそれに、霊夢は苦笑する。

いつものことながら、この瞬間のアリスは輝いて見える。

「じゃじゃーんっ!ルーミア人形の登場!!」

そーなのかー。

「うぉっ!?喋ったっ!?」

「へへ、自信作なの。これは霊夢人形と一・二を争う出来栄えよ」

もしかして霊夢人形を越えるかも…。

ぽつりと漏らしたアリスの言葉に、ぴくりと霊夢が反応する。

「あ、あれ?反応が微妙に悪い…かな?」

ごごごごご……と不穏な空気を纏う霊夢に、後退り。アリスは自分の背中に冷や汗が流れるのを自覚した。

「ほ、ほらっ!これにはまだ隠れオプションがあって…ほら、こうやって両手を広げてみせると…」

人類は十進法を採用しまし…た?

「疑問系っ!?」

「あ、首が少しだけ傾げてる。こう、と…」

人類は十進法を採用しマスタっ!

「無意味に多機能で高性能ね」

「そーなのかー」

「はいはい。ルーミアの決め台詞パクらない」

「うぅ…今日の霊夢、なんでだかわかんないけど機嫌が悪いよー」

うわーんと泣きながらルーミア人形に抱きつくアリス。

アリスは気付かない。

その行為こそが、霊夢の機嫌を悪くさせていることに。

「霊夢は嫉妬深いってわかってるのに…アリスってば鈍いよねー」

「あ、ルーミア。やほー」

「やほー、霊夢」

何故かハイタッチで挨拶を交わす霊夢とルーミア。

意外と仲が良さげだ。

「…って、そうじゃなくてっ!ルーミア、何でここがわかったのっ!?」

そんな呑気なことを考えていたアリスが、はっと我に返る。

「だってアリスが新しい人形もって出かけるところなんて、ここしかないもん」

ルーミアにその言葉がぐさりと、アリスの心に刺さる。

うぅ…どうせ私は友達少ないですよぅ……。

「んで、あんたの周囲は常に夜なんじゃないの?なんか、普通に明るいんだけど…」

「あぁ、それは私の半径一ミリ以内に夜を収束させてるから」

「…んなことできるんなら、いつもそうしてなさい」

「やだよー。そんなことしたら、宵闇の妖怪じゃなくなっちゃうよー」

「それもそうか」

そうあっさりと納得するあたりが霊夢の霊夢たる所以か。

そんな妙なところに妙な感心をしてしまう。

「と、いうわけで今から霊夢vsありすのにらめっこ対決を始めます!」

突然声高らかに宣言するルーミア。

そのあまりにも突拍子もない宣言に、霊夢もアリスもついていけない。

「にらめっこしましょ、笑えば勝ちよ、あっぷっ――」

「ちょっと待て」

「ぷぅ?」

先に硬直から復活した霊夢が、ルーミアに待ったをかける。

まぁ、それも当然だろう。いきなりにらめっこ。しかも微妙にルールが違っているし。

しかし、そんな霊夢と対峙するルーミアは、何故待ったをかけられたか理解できていない様子だった。

――子供は、自分が思ったことがそのまま周囲のものと同じ見解だと勘違いする節があるという。

アリスは以前どこかで読んだ本にそんなことが書いてあったのを思い出した。

ならば今のルーミアが、まさにその状況なのだろう。だとすれば、まずその誤解を解いてやらねばならない。

ルーミアの前まで歩いていき、腰を落として視線を合わせる。

「ねぇ、ルーミア?何で突然私と霊夢ににらめっこをさせようと思ったの?」

にっこりと笑って、そう訊ねる。

するとルーミアもにっこりと笑い、アリスと霊夢を交互に見つめる。

「にらめっこはね、ちょっと特殊なんだよっ!」

特殊…。

それはやはり、笑えば勝ちという変わったルールにあるのだろうか。

「特殊?」

アリスがそう聞きかえす。

「うんっ!にらめっこはね、仲良しの証だよ。だって嫌いな人なら、そうやって顔を見続けるなんて出来ないもん」

それは、確かに正論な気がする。

「だから、ケンカしたときはにらめっこをするの。相手のことをもう一度良く見直して、今までよりももっとずっと好きになるためにっ!」

確信に満ちた、ルーミアの瞳。

「そうやってにらめっこをするとね、だんだんと楽しかった思い出や嬉しかった出来事を思い出してきて、自然と笑顔になるんだよっ!」

その方法で何人も仲直りさせてきたんだよ。

ルーミアの笑顔が、そう物語っていた。

そんなルーミアの言葉に一瞬惚けてしまったアリスだったが、数秒後にやっと理解する。

――あぁ、そうか。なんでだかは知らないけれど、今は霊夢が拗ねている最中なんだっけ。

ルーミアの突然の登場にうやむやのなりかけていた事実をようやく思い出す。

危ない危ない。このまま明日まで引き摺っていたらもっと霊夢の機嫌が悪くなるところだった。

しゃがんだまま霊夢のほうへと振り向き、じっと見つめてみる。

「…………」

ぷぃっとそっぽを向かれてしまう。

どうやらルーミアの登場で多少は和らいでいるものの、完全には機嫌が直ってはいないみたいだ。

仕方ないかな、と苦笑しながら、アリスはルーミアの言葉に頷いてみせる。

「それじゃあ、ルーミアは審判役をお願いね?」

「なっ、アリス?ちょっと本気なの?」

アリスの言葉に、霊夢が非難じみた声をあげる。

「えぇ、本気ではないけど真剣ではあるわよ」

それとも霊夢は、私に負けるのが怖いのかしら?

挑発的なアリスの瞳に、霊夢はほんの一瞬だけ、非常に不覚ながら、魅入ってしまう。

「…あ。でもこの条件だと初めから私のほうが有利なのかな?霊夢は拗ねているけど、私はいたって普通の状態なわけだし…ねぇ、ルーミア?こういう場合はどうすればいいの?」

「あはは、そんなの簡単だよ。だって霊夢は――」

ルーミアはさらに言葉を続けようとして――霊夢がきっと睨んできていることに気がついた。

それ以上逝ったらただじゃ済まないぞ。そんな雰囲気が漂っている。

ルーミアはその有無を言わさない雰囲気に、どうしようかな、とほんの少しだけ考えて、すぐに結論を出した。

「だって霊夢は、拗ねたフリをしてるだけだもん」

すなわち、笑って気がつかなかったフリをする。

「ル~~ミアぁ~~?」

瞬間、霊夢がいると思われる方角から、地獄を彷彿とさせる声が聞こえてくる。

これを無視するのは、いくらなんでも無茶かなぁ…。

ルーミアがそんなことを呑気に考えているうちに、霊夢はどんどんとルーミアに近づいてくる。

はっと我に返ったルーミアは霊夢から逃れようとするが、時既に遅し。あっという間に捕らわれてしまう。

「そんな変なことを言う口はこの口か~!!」

「うにゃ~!?霊夢、痛い痛い!地味に激しく際どいまでに痛いっ!」

妖怪口裂け女ならぬ口裂け幼女でも作ろうとしているかのような形相と勢いに、さすがのルーミアも根を上げる。

「霊夢、ひどいよ!人がせっかく仲直りの口実を作ってあげようと頑張ってるのにっ!」

「だからそういうのは言葉にして出しちゃ意味がないでしょ!…て私まで何言ってるんだ!?うが~っ!」

そう言って自爆した霊夢は、狂ったように暴れ始める。もちろん対象はルーミア。

ルーミアはアリスに助けを求めようと視線を向けるが――

アリスはにっこりと笑うだけで何も答えない。

「あ、アリスの裏切り者~!」

ルーミアのそんな叫び声を耳にしながら、アリスはそっと目を閉じる。

これから繰り広げられるだろう惨劇に、少しだけ同情しながら。

何かのぶつかる音。ルーミアの悲鳴。何かの折れる音。ルーミアの悲鳴。人体から発するとは思えない音。ルーミアの絶叫。そして耳が痛くなるほどの沈黙が訪れる。

惨劇が終わったことを悟ったアリスは、ぱちりと目を開く。

それからなるべくルーミアのような物体を見ないようにしながら、霊夢の方を向く。

「それじゃあ、霊夢。にらめっこを始めましょうか」

そして何事もなかったかのように、先ほどの話に戻る。

「えっ?本当にやるの?ルーミアもあんな状態だし、なんか今更って感じもするんだけど…」

霊夢がそれらしき物体を指差すが、それを爽やかに無視しつつアリスが答える。

「いいからいいから。魔法使いとして、ルーミアの「ますます好きになる」って言葉に、どれだけの信憑性があるか、試してみたくなってね。これはもう、ぜひ試してみなくっちゃ」

魔法使いとして――。

そんな大義名分を掲げてしまう自分に、アリスはかすかに苦笑する。

本当はただ、恋する少女として、純粋に気になっただけだというのに。

まぁ、いい。

だってそれこそが――

アリス・マーガトロイドがアリス・マーガトロイドたる矜持なのだから。

――霊夢が好きになってくれた、私自身なんだから。

「……はぁ」

霊夢が、ため息をつく。

半分以上呆れの入ったため息の中に、かすかに混じる楽しげな声色。

「アリスと付き合い始めて結構経つけど…アリスってば、一度こうだと決めると案外譲らないってのが最近わかってきたしね…。いいわよ。仕方ないから、付き合ってあげるわ」

「ふふ。それでこぞれ医務。それじゃあ――」

少し離れすぎてしまっていた距離を縮め、にらめっこに相応しい距離にもっていく。

霊夢としっかり対峙するように向き合い、そして一言。

「いくわよ」

その一言で、勝負が始まる。

――にらめっこしましょ

二人同時に紡ぐ一つの歌声。

――笑うと勝ちよ

まるで風がそよぐかのような、自然と調和した、

――あっぷっぷ!

そんな歌声で、勝負は始まった。

「「……………………」」

互いに、沈黙が続く。

沈黙して、睨み合って、本当ならそれは重苦しくて、とてもとても嫌な空気のはずなのに。

なのに、なんなのだろう。

――この、こそばゆい感覚は。

くすぐったい空気に、今にも笑い出してしまいそうになるのをぐっとこらえる。

見れば霊夢も見たような表情をしている。

…二人とも、根が負けず嫌いなのだ。たとえルールであろうと、すぐに笑ってしまえば、なんだが負けた気になる気がして、なかなか笑い出せないのだ。

互いに距離を保ったまま牽制しあいながら…アリスは思う。

常に本気を出さないのが、自分のスタイルであるけども――

今だけは、本気で霊夢と腹の読み合いをするのも、いいかもしれない。

「……ふっ」

そう思った矢先。

先に笑ったのは、どっちだろうか。

「…ふふ」

「あはは…」

気がつけば、どちらともなしに、二人は笑い始めていた。

笑い声は始めは静かに。そしてだんだんと大きくなり、やがて博麗神社に響き渡るまでに大きくなる。

この状況。魔理沙あたりが見ればなんと言うだろうか。

レミリアの場合、全て予定調和の内よと嘯くかもしれない。

ルーミアなら――

「そーなのかー」

そう言って、全てを受け入れるだろう。

「ってルーミアっ!?いつの間に復活したのよっ!?」

「いやぁ、危なかった~。痕もう少しで原型に戻るところだったよ」

「霊夢、爽やかに無視されてるわよ。ていうかあれはもう十分原型に戻っていた気が…」

「それじゃ、アリスと霊夢が仲直りしたところで…三人で鬼ごっこだぁ!」

「アリスも、普通にスルーね」

「まぁ、それはそれ。そんな瑣末なことはどうでもいいとして…って、鬼ごっこ!?」

だらりと、嫌な予感がする。

だって自分は、鬼ごっこでルーミアから逃げてきたのであって、そこから察するにこれからの展開は……

アリスがルーミアの方をちらりと見ると、ルーミアはにこりと笑った。

にっこりと笑いはしたが…目が、笑っていない。

やはり、先ほど助けなかったことを根に持っているのだろうか。

そろり、そろりと霊夢に気付かれないように逃げ出す準備を始める。

「ルールは簡単。たとえ霊夢やアリスでも、すぐにわかるよっ!」

「そこはかとなく馬鹿にされてるように感じるのは、気のせいかしら」

「ずばり、あの人形を持ったアリスを捕まえろ!」

「捕まえたら、その後は?」

「人形を私に渡してくれさえすれば、あとは自由にしていいよー」

「…何をしても?」

「ナニをしても」

「よし、乗った!」

かみ合っているような、かみ合っていないような会話を終わらせ、二人はがしりと手を握る。

今のアリス的に、史上最悪のコンビの結成だ。

「ちょっ、ちょっと!?霊夢、落ち着いて?今、ルーミアの発音あきらかにおかしくなかったから!」

じりじりと後退しながら、なんとか説得を試みようとする。

だがそんなもの、血走った目をした霊夢には、もはや無意味で…

「問答無用ー!」

迫りくる霊夢。

「いーやぁ!霊夢が、霊夢が壊れたぁ!?」

逃げるアリス。

「そーなのかー!」

今がチャンスとばかりに周囲を真っ暗闇にするルーミア。

突然の暗闇に、いくら幻視力が高いアリスといえど、体勢を崩し倒れてしまう。

そして、そこへ狙いをすましたように霊夢がやってきて――

「きゃっ!?ちょっ、霊夢!?どこ触ってるのよ!?」

「さぁねぇ。私は妖怪とは違って鳥目だからよくわからないわ」

「嘘だっ!あきらかに嘘だっ!なんでこんなに正確に…て、ちょっと、本当洒落になってないわよ!?」

「というか霊夢ー。人形はー?」

「ん~。人形はどこにあるのかなー?」

「うわぁ~ん!霊夢の…霊夢のいじめっこ~!」

博麗神社だけを覆う暗闇の中。

アリスの悲鳴だけが、幻想郷に木霊する。

後に、人里の巡回のために博麗神社の側を通っていたワーハクタクは、苦笑しながらこう語った。

――あの時の博麗神社も、やっぱり博麗神社らしかったよ。

そう笑って許されるあたり、今日も幻想郷は平和だということか。

……そーなのかー。











ルナティック・ドール   狂喜と狂喜を呼ぶ少女
                 ~  そーなのかー。

副題…というか、このSSの正式名称。けっこうまんまなので、そこはかとなく気にしています。誰か、ネーミングセンスを私にください…。

ルナティック・ドール=狂気人形。
何故か名前の雰囲気的に咲夜さんを連想します。そして咲夜さんを連想した人ごめんなさい。今回はアリスです。(ぉ
元は最萌でアリス・ルーミアのカード時に出そうと思ってたSS。でも書き終わらなかったのでのんびりと書いてたら…いつのまにか、あれから約一ヶ月。
時が経つのって、早いです……。orz
不調ってわけでもなかったんだけどなぁ…。

私の少し前の作品以降、アリスと霊夢がペアでそれとなく出てくるのは、仕様です。えぇ、それはもう、力いっぱい。
つかさはアリス×霊夢を命尽きるまで応援しますっ!(何
どっちが攻めで、どっちが受けか。まぁ、この二人の場合、ケースバイケースかと。そのあたり、うまく表現できてるといいなぁ。

さて、徒然なるままに書き綴ったら、意外と長くなってしまったので、最後に一言だけ言って終わりにしたいと思います。


人類が採用したのは、十七進法じゃなくて十六進法だよー。  (そーなのかー    (ぇぇ


つかさ
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コメント



0.2210簡易評価
4.70シゲル削除
見てて面白かったです、心が和やかになりますねぇ。
ちなみに僕もアリス×霊夢のペアが好きですね。(レミリア×アリス×霊夢の取り合い?も好きですが。苦笑
これからも頑張ってください♪
9.70名前が無い程度の能力削除
人類が採用したのは、二進法だよー。 (そーなのかー

いやー、なごやか万歳!特に最後あたりとか(ぉ
32.80俺変態でもかまわない削除
そーなのかー?
ガッツリ楽しんだ。その愛に笑いが止まらない(褒めてる)
35.80自転車で流鏑馬削除
ヤバイ、つかさ様のアリスは俺の中の何かを揺さぶりまくる。
52.100名前が無い程度の能力削除
グッド