Coolier - 新生・東方創想話

八雲の契り

2005/03/17 11:13:06
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※一部オリジナル設定などが含まれておりますので、そういうのに敏感な方はご注意下さい



























ここ幻想郷のマヨイガに屋敷を立てて住む八雲家
一応当主でもある紫は今では知る人ぞ知る、あらゆる境界を操る程度の能力を持つスキマ妖怪である
その暮らし振りは随分前から遣えている式にほとんどの雑務を任せ本人は寝ている時間の方が長いというぐうたらっぷり
しかしその実態を知る者は未だこの幻想郷には少なく、かの歴史と知識の半獣でもある慧音でさえも読み取れないらしい

「紫様、そろそろ夕食の時間になりますよ。起きて下さいよ」

いつものようにその式である妖狐の藍が紫を呼ぶ
式の身でありながら「八雲」という姓を名乗っているのは長年の付き合いからであろうか
最近では藍自身も式を持つようになり、楽になるかと思えば「橙」と名付けられたその猫又の世話と紫の世話の二つに追われる事になったりしていた
それは紫とは違い、その自分の力の足りなさの所為なのか自らも式である為なのか、紫から見る藍・・・いわゆる身の回りの事などを任せられるようなしっかりとした式ではなく、どこか幼い子供っぽい部分の残る式しか遣う事が出来なかった為である
最初はその自分の未熟っぷりを嘆いていたのだが、今では元々持っていたと思われる面倒見の良さからか橙をとても溺愛しているようにも見える

「ほら、橙!顔にご飯粒が付いてるわ」

そう言って取ってあげる藍。橙も藍の事が大好きなようだ
勿論紫も橙の事を可愛がっていて、またあの頃と同じように「八雲」という姓を橙に授けて下さる未来もそう遠くはないのだろうか
そう思うと内心嬉しさでいっぱいになる藍
それはやはり橙がきちんとした家族として受け入れられたという意味を持つ事になるからだろう
紫様も橙もかけがえの無い存在だ

「紫様!ご飯食べながら寝ないで下さい。どうやったらそんな器用な真似が・・・」

このマヨイガで暮らし始めて随分経つ
正確な期間を覚えているわけではないが、随分経つ事くらいは判る
それは紫様と初めて出会った頃からもう随分経つという事でもある

















「藍、貴方は今日から私の式よ。私の式として相応しい力と知識を兼ね備えた存在、立派な妖狐になるように頑張るのよ」

そうだった。初めて出会ったあの日、あの頃見た紫様はとても優しくそれ以上に気品と威厳を兼ね備えた絶対的な存在だった
紫様に出会うまで私はすこ~しだけ他より長生きしている単なる狐だった
いや、単なる狐ですら無かったのかもしれない。だって私には他のどんな狐にも居るような家族が居なかった
いつも一人だった。自分がどこから来たのかも判らない。見た目には特に違いもないはずなのに
そして自分を自分と自覚する以前の想い出が無かった

「あら、迷い込んで来たのかしら?」

私が初めて聞いた紫様の言葉。他愛もない言葉だが、今でも覚えている
どこを進んで来たのかも判らない。何でこんな所に居たのかも判らない
ただあの場所・・・あの狐の集落が自分の居場所では無かったという事に気づいてしまったあの日からあそこに居る事が出来なくなってしまった
とりあえずあの場所以外ならどこでも良かった
それからは何処かを目指すわけでもなく、ただ道無き道をひたすら進んで来たような気がする

「ここに迷い込むという事は単なる狐とは違うようね」

やはりそうだったんだ。認めたくなかった。自分が普通の狐ではない事を
怖かった。自分が居なくなるような気がして
でも事実だよね、それだと色々感じていた違和感もあの場所に馴染めなかった事も説明が付く
いや本当は最初から判っていたのかもしれない

「随分衰弱しているようね。えーっと・・・」

この人は何をしているのだ?何者なのだ?
見た目には何度も見かけた事のある人間達と何ら変わりないのだが、その雰囲気は全く異質の存在のように感じられた

「う・・・、お・・・」
「ん?私は八雲 紫。このマヨイガに住む・・・簡単に言えば妖怪ね」



何を言っているんだ?良く聞き取れない
・・・何か体が急に重い・・・何だろう、眠い・・・眠い・・・ねむ・・・・・・
















目を開くと見慣れない場所に居る自分に気が付いた

「ここは・・・どこだろう・・・」
「私の住んでいる場所よ。家ね」
「家?あぁ・・・巣という事か?・・・あれ、この人は心を読めるのか?」
「何を言ってるの。自分で話しているじゃない」

話している?私が?狐の私が?人間のように?
何を言っているんだ?

「話している?」
「そうよ。普通ではないと思ったけど、まさか話せるなんて思わなかったわ」

ちょっと待ってくれ・・・色々な事が有り過ぎて頭が混乱しているのかもしれない
そうだ、私は里を出てひたすら進んでいたらある広い場所に出て・・・誰かに話し掛けられて・・・意識を失って・・・
目が覚めたらここに居て・・・話してる?

「話している・・・話しているのか・・・やはり私は狐ではなかったんだ・・・話せる狐なんてあそこには居なかった」
「そうね。まぁ私の言葉、つまり自分とは異なる種族の言葉が聞ける時点で普通の狐じゃないわ」
「じゃあ狐じゃない私は一体何なんだ!」
「う~ん、ちょっと違うけど根本的には狐よ。似て非なる存在・・・ものすごく近い存在だけど決して同じではない存在」

つまり限りなく狐だけど狐そのものではないと、そういう事か
でもそれだと答えになってない気がする。私は何なのだろう?

「一般的には妖狐と言われるものね。私とも似ているわ」

姿形は全然似ていない気がする。どの辺りが似ているのだろう?
この人も人間達の中で一人ぼっちだったのだろうか?

「私は元々ここに住んでいるわ。貴方とは妖の部分で似ていると言ったのよ」
「私は・・・妖狐・・・?」
「そうね、普通は生まれた時から自覚しているはずなんだけど例外も居るみたいね。貴方のような」

自分の正体どころかいつどのように生まれたのかも知らない

「それにね、貴方・・・つまり妖狐は本来とても大きな力を持っているのよ」
「力・・・?」
「そう、力。使い方によっては光にも闇にもなる大いなる力。何者にも束縛されない程の大いなる力」
「私が・・・?」

そんな力があるなんて片鱗すら感じた事もない

「そうね。それは貴方が今まで自分を普通の狐だと想い込んでいた。だから力に気づくはずもないわ。想いの力っていうのはね、予想以上に大きな力なのよ」

つまり私は自らの想いで自らの力を封じていたというのか

「そういう事。それにその想いの力が強すぎて容易に引き出したりする事が出来ないようになってしまっているわね」
「私は・・・どうすれば?」
「教えてあげたじゃない。妖狐と自覚して生きればいいのよ」
「妖狐として・・・」
「そう、それが貴方。今までの偽りの貴方では無く本当の貴方」

何だろう・・・この妙な安らぎ感は。初めて自分以外に自分の存在を認められたような気がする
何だ、私は自分で思っていた程「狐」という事に拘ってなかったのか?
ただ誰かに、誰かに自分を認めて欲しかった。私の存在を、誰かに判って欲しかった
私が居るという事を・・・私が何者かという事を・・・

「そう・・・だったんだ・・・」
「頭良さそうに見えるけど、ちょっと堅物のようね。ようやく判ったかしら?」
「有難う・・・」
「あら、お礼を言われるような事したかしら」

ずーっとこんな調子なのだろう。この人には暇つぶしのような事だったのだろう
だけど私には・・・深い深い底からようやく救われたような、そんな気持ちが溢れていた
その気持ちに呼応するように自然と涙が溢れていた

「あら、随分人間っぽい妖狐なのね。その分じゃ妖狐の中でもけっこう強い力を持っているんじゃないかしら。きちんと化けられる妖狐ほど力を持つって言うし」
「私は、今まで狐として生きてきた。でも狐とは違う事に気づいた。これからは貴方のいうように妖狐として生きていきたい」
「そうね、それが一番良い事だわ」
「だけど、私は自分の力も妖狐としての生き方も、これからどこに行けばいいのかも・・・判らない」
「相変わらず頭堅いわねぇ。そんなの気にしないでぱーっと生きちゃえばいいのに」

それが出来れば最初からあの狐の里を出る事は無かったのではないだろうか

「まぁ・・・そこまで悩んでいるなら、私がこの先色々教えてあげない事もないわよ?」
「本当か?本当なのか?」
「ええ、ただ何事もギブアンドテイクって言うでしょ。貴方には私の式になって貰うわ」
「式?式とは何だ?」
「簡単に言えばお手伝いさんみたいなものかしら。ただある特殊な契りを交わす事になるから、まぁこれからはいつも一緒に居る事になるわね。あとまぁその他色々あるけど細かい事は気にしないで♪」

何だろう、この笑顔は・・・何かとても怪しい雰囲気を感じるが、この人は私の恩人だ
それに今まで私が他人の為に出来る事など何一つ無かった。それだけでも嬉しい事だ

「うん、判った・・・貴方の式になる」
「ふふ・・・嬉しいわ。まずは貴方の言葉使いからかしら。慣れていないのかぎこちない部分があるから。まぁこれからでいいけど」
「むぅ、言葉使い・・・色々難しいな」
「そんなに気を張らないで、自然体で居ればいいわ。それと貴方の力はね、尻尾の数に比例して解放されていくの」
「尻尾?」
「そうよ、今は1つ。1つと言うのは普通の狐と同じ。それが2つになれば普通の狐より少し強い力を持つようになる、3つになれば・・・というようにね」
「え・・・最終的に尻尾が100本とかになったりしないか!?」

私変な事言ったかな?何かすごく笑われている

「それも面白いわね。でも残念、どんなに強い力を持つ妖狐でも9本までしか尾を持たないものなの」
「良かった・・・9本でも在ったとしたら多い気がするけど」

それよりこれからこの人の事を何て呼べばいいのだろう
一部の生物には固有名称、俗に言う「名前」を持つものがいると聞くが、この人にもあるのだろうか

「紫・・・紫でいいわ」
「紫か・・・それが名前というやつなのか」
「八雲 紫。八雲というのが姓。まぁ家族とかで共有している名前のようなものね。っていっても私一人なんだけど。で紫が私自身の名前」
「八雲 紫。うん判った。紫、紫」
「そうねぇ、じゃあ貴方は藍。藍よ。私が好きな色」
「藍?私?それは・・・名前?私の名前?」
「そう。私が付けた貴方の名前。これからは八雲 藍と名乗るのよ」

嬉しかった。ただ嬉しかった
八雲 藍という名前によってより具体的に自分の存在がはっきりしたような気がした
その嬉しさのあまり無意識に尻尾をぶんぶん振っていた

「そんなに喜ぶ事ないのに。ふふ」
「八雲・・・藍。八雲・・・・・・・・藍。八雲 藍!」

初めて聞いた自分の名前を噛み締めるかのように何度も口にする
嬉しい、本当に嬉しい
私はこの人、あ・・・紫が・・・人間的な表現をすると大好きになってしまったようだ
それは今まで感じた事のなかった気持ちだった。少なくとも今まで親も友達も居なかった自分にとっては
私も紫の為に何か出来るだろうか









「藍、貴方は今日から私の式よ。私の式として相応しい力と知識を兼ね備えた存在、立派な妖狐になるように頑張るのよ」

それが紫の為になるのなら・・・頑張ろう。自分の為にも紫の為にも
いつの日か私にとっての紫のように、紫にとっての私がそういう存在になれるように

「頑張る」
「ええ、そうね。藍」

こうして私は紫の式としての契約を交わした





















「紫様、ほら、起きて下さい。今日も良い天気ですよ」
「うう~ん・・・あと5分~」
「ふぅ・・・紫様は本当に寝るのが好きだなぁ」

いつからだろう。こんなに紫様が寝るようになったのは

「昔は・・・もっときりっとしててしっかりしてたのになぁ」
「うう~ん。藍~、お茶~お茶~喉渇いたよぉ」
「はいはい、紫様。今用意してきますから」

今では家の雑務はほとんど私がこなしているなぁ

「藍様~、今日は良い天気ですねっ!」
「あぁ、そうだな橙」
「こんな日は散歩に限ります!」
「ふふ、行って来なさい。暗くなる前に戻るんだぞ」
「は~い!お手伝いしなくてごめんなさいっ!」


橙も幼くて困ったものだ。まぁ可愛いから許す

「私も最初はそんなだったのかなぁ・・・紫様」

思い出す。長い間狐としての姿だった為か変化が上手くいかなくて悔しかった事を

「あの頃の私と比べれば橙は飲み込み早いなぁ。紫様苦労したかなぁ?」

思い出す。なかなか力を解放し操る事が出来なくて、無理して何度も力が暴走しかけた事を

「あの時は紫様が抑えてくれたっけ。お蔭で今は自分で式を遣うくらいにまでなる事が出来たんだよね。結局尻尾は9本生えちゃったな」

思い出す。私が何かを怖がったり、悲しみを抱いたり、孤独を恐れたりして泣く度に抱きしめて頭を撫でてくれた事を

「なつかしいわ・・・今の紫様からは想像出来ないけど。ふふ」

そう思うと自分も成長したのか、今は自然と笑いが込み上げてくる
紫様には本当に感謝している。それこそ尊敬もしている
そういえば・・・そんな紫様が良く寝るようになったのはいつからだったっけ

「あの頃は自分にこんな力があるなんて思わなかったなぁ。そういえば、あの時紫様は妖狐の本来の力は何者にも束縛されない程大きな力とか言ってたっけ」

ふと何かが頭を過ぎる

「何者にも・・・束縛されない。本来の力。尻尾が9本」

まさか?



「紫様!」
「ん~、なぁに?藍。慌ててどうしたのよ・・・ふぁぁ~」
「紫様、私の力は誰にも束縛されないと以前仰っていましたよね」
「ん~、そうだっけ?」
「でも私は紫様の式です」
「そうねぇ」
「紫様・・・もしかして紫様は・・・」

そう紫に事の核心を話そうとすると

「大丈夫よぉ、藍。心配しないで。貴方はいつまでも私の家族よ」








私にとって主と式というのはその辺に溢れている主と式との関係とは違う
紫様にとってはどうか判らないが少なくとも私にとっては違う
あの日私にとって初めて他人に属したという事、名前を貰い家族になったという事
誰かとの繋がりがあるという事、誰かの為に何かが出来るという事

私が紫様の式であるというのは・・・私にとって紫様の家族であるという事
それは今ではあれも形式上の関係になりつつあり、紫様は口には出さないがあの関係が無くなろうとも「家族よ」と言ってくれる事だろう
私も例え今この瞬間あの契約が無くなったとしても、私の紫様へ対する気持ちが変わる事はない
しかし、もしあの契約の繋がりが消えてしまったら・・・きっと私はどこか不安になる
弱いな・・・私は
結局未だに私は紫様に依存しているのかもしれない

そんな気持ちを汲み取って、紫様は頭が良いから・・・そして優しいから・・・
私を未だに式としてくれているのではないだろうか、それこそ何か無理をして
それはそう、紫様自身にも影響を及ぼしている事かもしれない
その所為で・・・?


聞きたくない。本当は聞きたくない。でも聞かなければならない気がした
でも紫様は

「大丈夫よ、心配しないで」






ふふ、敵わない
あの頃とは変わったように見えるけど紫様はやっぱりあの頃の紫様から何ら変わってない


「そうですか。あ、そういえばお茶持ってくるの忘れてました」

何事も無かったかのように私は台所へ戻る



「そうね、私はずっとここに居てもいいんだよね」

窓から見える天気の良い空を眺める

「そうね、何も心配要らないよね」










「そうよ?藍は私にとってとても大切な人だから」

後ろを振り向く
紫様の声が聞こえたような気がしたからだ






「紫様、お茶持ってきました」
「助かるわ、藍。ん~身体に染み渡るこの味っ!」
「紫、、、様・・・ちょっと失礼します」
「え?何、ちょっ藍どうしたのよ」


そう言うと久しぶりに紫に抱きついた
柔らかい、良い匂い・・・そして確かにそこに存在する紫の体温を感じる

「ふふ、どうしたの?急に。何か不安な事でもあったの?もう、怖がらなくてもいいのよ」








そう言うと昔のように頭を撫でてくれた
何十年ぶりだろう。紫様をこう呼んだのは














「紫・・・私はいつまでも紫の傍に居てもいいんだよね・・・・」





初めましてShalと申します

一応藍の支援的なSSになっています
私的にはその実力は式も遣っているし紫に並んでしまうんじゃないか?というくらいなのに献身的に紫に尽くしている藍。
その背景にある藍と紫の出会いを、そして紫がぐうたらな理由もオリジナル設定を交えて妄想して書いてみたものです


ちょっとこじ付けのような点もあるかとは思いますが、こういう出会いだったのかもしれない・・・という事で。。
Shal
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コメント



0.2660簡易評価
6.60名無し毛玉削除
ちまたでは胡散臭いと言われる紫、でもきっとこの作中の素直さもある…といいなぁ。
読ませてもらってそう思いました。
22.70おやつ削除
オリジナル設定に違和感も無く、こういう解釈もありだなぁと素直に感心しました。
藍様が紫様並に強くて献身的というのは、私も蝶同意です。
いい藍様分を補給させていただきました。GJっす。
43.70毛玉削除
  .。  。
 .ノ ヽ_ハ,
./~~~ヽ  ユカリィィィィィィ
i ラノノ)))ン` 
ハi.リ ゚ ∀゚ノリ
61.100なはさ削除
GJ