Coolier - 新生・東方創想話

リグルの狂気 蓬莱人と彷徨う魂

2005/03/13 17:03:11
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この話は「リグルの狂気 魔砲使いと蟲使い」の続きです。駄文ですがそちらの方を先に読んだほうが
わかりやすいかと。それでは彷徨える魂と竹林での応酬、どうぞご堪能あれ。

蓬莱人と彷徨う魂編

ふと、レミリアは目を開ける。しかし、目の前に広がるのは深遠の闇だけだ。目をこする。…それでも
目の前に広がるのは、代わり映えしない黒一色の世界。―大きなため息を一つし、足を踏み出す。なん
だか闇が体に絡み付いてきているようだった。なぜ、こんなことになったのか。記憶からその答えを探
し出す。―たしか、私は…

だれかに、ぶつかった。

「うわ!?」
「きゃっ!?」

かなりびびった。飛び退り、ぶつかった相手を探そうとする。所詮、無駄な努力だった。なんというか、
普通の闇とは違う。闇というよりは、霧に近いかもしれない。恐ろしく濃い霧だ。しかし、レミリアに
は、その声に聞き覚えがあった。
「……美…鈴?」
相手の声も、それに呼応するように問うた。
「…お嬢……様?」
深遠の霧の中、魂だけの二人は、再会した。


「国符[三種の神器~剣~]!」
「具蟲[剣]!」
朝日輝く竹林に、声が響く。片方はリグル、片方は知識と歴史の半獣こと、上白沢慧音だ。火花が散る。
「くそっ、今日はこれから妹紅と待ち合わせがあるというのに…!」
ぼやくようにいう。リグルの怒声が聞こえてきた。
「うるさいわね、私だって好きであんたと戦ってるわけじゃないのよ!」
「じゃあ来るなよ~!」
「そういう訳にもいかないのよ!…ああもう、腹立つなあ!」
それならばわざわざ襲いに来るな、と思うかもしれない。しかし、リグルにはどうしても早いうちに慧
音を倒しておきたい理由があった。


ことの始まりは、美鈴に化けて紅魔館に潜伏している、形態模写からの連絡だった。
―主、大変です!
―ん?何が?
―霊夢たちが主が強く…って言っちゃ変ですけど、その理由を探そうとしています!
―…別にいいじゃない。あの本は私の家の、私しか知らない所にしまってあるから。
―たしかに、そこまでなら特に問題はないんです。問題は、それを、あの上白沢慧音に聞こう、という
 ことになったことです!

なるほど。たしかに慧音に聞けば、すべてがわかるかもしれない。幻想郷の歴史すべてを把握している、
彼女なら。しかしリグルは、きわめて冷静に指示を下す。

―形態模写、慧音がどこにいるかわかる?
―え?あ、はい、こっちでは竹林にいるだろう、という話になってます。
―…それで、そこから竹林までおおよそ何分?
―多分…見積もっても20分…くらいだと思います。
―うん、それじゃああなたはどんな理由でもいいからそれよりも早く竹林に来ること。絶対よ?
―…はい、わかりました。けど、主は何を…?
―大丈夫よ、貴方が来るころにはけりを着けとくわ。

通信を切る。ため息をつきながら立ち上がった。数時間前の魔理沙との戦闘によって、体力はかなり磨り
減っていた。それでも戦闘直後よりは多少回復したほうだ。おそらく、発動できるスペルは秋雨程度まで
だろう。四天王は、使用できそうにない。それでもリグルは札を取り出し、スペル発動。
「蟲符[異次元断層]」
リグルの姿が、掻き消えた。


「それにしても、あなたまで魂抜かれてるとはね。」
「…不甲斐ないです……。」
深遠の霧の中を、レミリアと美鈴は連れ立って歩く。といっても、互いの姿を確認できないため声を頼り
にするしかない。
「でも、なんでリグルはあんなに…なんて言うのかな、ええと…狡猾…になったんでしょうか?」
美鈴が、静けさを嫌うように声を発する。
「頭の問題だけじゃないわ。基本性能からスペルの威力まで、前とは比べ物にならないくらいだったわね。」
「そうだったんですか?」
「…え?あなたもそれのせいで倒されたんじゃないの?」
「え?あっ、はい!そうでした。とても強かったです。」
危ない、危ない。ここでもしもだまされて魂抜かれました、なんていったら、こってりとしぼられるに違
いない。それきり、特にしゃべることがなくなる。

再び、だれかにぶつかった。

「ぐえっ!?」
「ひゃっ!?」

片方は、美鈴だろう。しかし、もう片方はレミリアではない。じゃあ、いったいだれが?声が聞こえる。
「痛た…ったく、ちゃんと前見て歩けだぜ…」
どこかで聞いたことのある口調に、レミリアはこの声の主が魔理沙であることを確信した。


スペルを無駄遣いできない。リグルの考えと相対するように、慧音はこれでもか、とスペルを連発してくる。
そろそろよけ続けるのも限界だ。
「くらえっ!野符[GHQクライシス]!!」
前のスペルをよけたときの反動を吸収するため、地面に手を突いた瞬間を狙われた。…背に腹は抱えられな
い。スペル発動。
「砲蟲[甲殻砲]!」
弾幕を一気に吹き飛ばす。ここで気を抜いたのがいけなかった。目の前の硝煙を切り裂き、剣を構えたまま突
っ込んできた慧音が眼に入った。反射的に自分の剣を前に突き出した。…無駄だった。肩から、おおよそ下腹
部にかけて引き裂かれる。血煙があがる。周囲の世界が、回っている気がした。そのままリグルは地面に突っ
伏し…気絶した。

「…やっと…倒したか。」
呟くように言う。何だかいつものリグルとは違う気がした。その所為でかなり体力を消耗した。ったく、……
そういえば、妹紅はどうしてるだろう…そう思いながらリグルを見やった瞬間だった。突発的に、リグルが起
き上がる。実に機械的に。その手には秋雨が握られている。ぬかった。自分の剣は、倒したと思い込み解除し
てしまっていた。飛び退り、時間を稼ごうとする。が、行動はリグルのほうが早かった。
「……………」
無言かつ無表情のまま飛び掛ってくる。先ほどと同じ、機械的…いや、むしろ蟲のような…本能にのみ従い、
自分の敵とみなしたものには絶望的なまでに力の差があっても、恐れることなく襲い掛かる…そんな動きだっ
た。そして慧音は見てしまった。リグルの瞳を。まるで生気を感じられなく、白く濁っていた。その瞳に臆し
たのか、慧音の動きが一瞬止まった。その隙を見逃すほど、リグルは甘くない。

ドスッ!…

かろうじて、致命傷は避けた。しかし、それはかろうじて、の話である。わき腹の辺りを、剣が貫通している。
細い剣なのが幸いした。リグルは、その体に慧音の返り血を浴びながら、それでもなお、無表情のままだった。
だんだん、体が痺れてくる。どうやら、痺れ薬がぬってあったようだ。…脳まで麻痺してきた。その薄れ行く
意識の中で、確かに慧音は確認した。こちらを向き、驚愕の表情を浮かべる蓬莱人…藤原妹紅を。―逃げろ!―
叫ぼうとした。だが、それすらもままならない。脳が麻痺している上、舌まで感覚がない。意識が埋没する寸前、
妹紅がリグルに向かって飛び掛った。
―貴様、慧音に何をした!―


慧音が、いつまでたっても待ち合わせ場所にやってこなかった。…いつもならその場で来るまで待った。慧音
は約束を訳なしに破る奴ではない。…ほんの気まぐれだったのだ。ほんの気まぐれで、慧音を探しに竹林へと
歩を進ませる。幸か不幸か、現場に行き当たってしまった。しかし、妹紅にとっては幸、不幸など、どうでも
良かった。そこにあったのは、一つの真実。慧音が、窮地の状態にある…だから妹紅は、声を張り上げ、慧音
をその状態に陥れた張本人に、飛び掛った。
「貴様、慧音に何をした!」
当然のことながら、答えは返ってこない。服が裂け、血が染みている辺りを見ると、慧音も奮戦したようだ。
しかし、そんなものを気にする素振りをまったく見せず、リグルは距離をとる。そして、手に張り付いている
秋雨を掲げると…この状態になって初めて、声を発した。
「……具蟲[剣~梅雨~]」
剣が、形態を変えていく。リグルは、形態の変化の完了を待たずして、妹紅に襲い掛かる。それを反射的によけ、
それでもその物凄いスピードにわずかに反応が鈍ったのか、頬の辺りを浅く切られた。しかし、そんなものが致
命傷になるはずがない。身を翻らせ、スペル発動。
「不死[徐副時空]!」
幾重もの弾幕が、リグルを捕捉した。案外あっけなかったな。そう思いながら、体の力を抜く。
…激痛が、駆け巡った。どこを、ではない。体中、隅々まで、余すとこなく、だ。
「!!?!?…ぐ…が…っ……かふっ!……」
口から、何かを吐き出した。血と、そして、なにか。その何かを示す言葉を、妹紅は一つしか知らなかった。…
腸。はらわた。の、破片。通常そんなものを吐き出せば、人間はほとんどの場合、死に至る。しかし、妹紅は人
間ではあるが、正しくは蓬莱人、不死の人だ。そのおかげで死ぬことはないが、そのかわり、常識をはるかに超
える痛みに襲われることになる。
「…ああ……あぁあ……ぁあ…ああ……あ!!」
途切れ途切れに悲鳴を上げ、痛みに耐えながらもなお、妹紅はリグルの姿を確認しようとする。さっきの弾幕は、
確実に奴を捕らえていたはず…その予想は、外れていなかった。ちょうど妹紅がリグルの姿を視認したとき、リ
グルは妹紅の弾幕を、避ける気すらなかったかのように、全身で受けていた。絶句する。はじめから捨て身の覚
悟で私を倒すつもりだったのか…
「…ごふッ!!」
ひときわ大きな声と、はらわたの破片、大量の血をぶちまけながら、妹紅は気を失った。
「…蟲符[損傷修復]」
その声とともに、仁王のように立ち尽くしていたリグルも、前に倒れた。

「そう…貴方まであのリグルにやられたの…」
「ああ、そうだぜ。ったく、アレをあそこでああしてりゃ…」
「…た、大変でしたね~。」
暗い深遠の中で、三人は談笑をしていた。なんと場違いな、と思うかもしれない。しかし、それ以外に気を紛ら
わす方法はないし、そうしていなければ、また逸れてしまうだろう。
「それにしてもあたしの体、大丈夫かな?背中が裂けてたと思ったけど。」
まるで他人事である。
「あ~わたしなんて足の骨が…」
ため息をつく。そんな二人の会話を聞きながら、美鈴は思う。ひょっとして、自分は、運がかなり良かったので
はないか、と。

不思議な、感覚だった。意識が薄れていき、そして、完全になくなった。かに見えた。まるで誰かがリグルを引
きずり出すように、気絶から覚醒させた。それが誰だか知る由もない。わかるのは、覚醒したあと、体の主導権
をその誰かにとられ、そして…
目の前に、誰かの足が映った。その誰かは足をつくと、リグルを担ぎ上げ、歩き出す。リグルはその誰かの背中
で、再び気を失った。

再び目を開けたとき、目の前に美鈴…形態模写の顔が目に入ってきた。心配そうにリグルのことを見つめていた
が、リグルが起きたことを悟ると、ほっと安堵のため息を漏らす。
「ああ…よかった…大丈夫ですか?」
頭の中のいろいろな情報をまとめる。はじめにお礼を言おうとしたが、その言葉は別の疑問にかき消された。
「…ここは…ドコ?」
「ああ、永遠亭です。私が駆けつけたとき、主は損傷修復によって怪我は完治してました。でも、肝心の体力が…
 なので近くで倒れていた慧音と妹紅を引き渡す、という交換条件でここに隠れさせてもらってるしだいです。」
「……そう…ありがとう、形態模写。」
「いえいえ、それが従者である私のつとめですから。」
言葉を切る。と、大切なことを忘れていたと気づく。
「…そういえば、霊夢たちは…」
それにも簡潔に答える。
「…ああ、それなら私が慧音をコピーして簡単にあしらっておきました。」
流石、としか言いようがなかった。
「…形態模写、もう私は大丈夫だから、早く潜伏を再開して。」
命令を下す。不服そうに形態模写は呟く。
「しかし、主は…」
「あと数時間眠れば、完全に体力も回復するわ。そしたら、冥界にむかう。」
「…わかりました。」
リグルは頷くと…不意に、眠たくなった。そして瞼を閉じ…再び、眠りについた。

霊夢とパチェリーは、多少の不安を残しながらも、夕暮れ時の竹林を目的の人物めがけて突き進む。上白沢慧音。
彼女なら、リグルがああなった理由も知っているだろう。幻想郷の歴史を、彼女は知り尽くしている。
「でも、美鈴はどこへ行ったのかしら?」
霊夢が問う。美鈴は数刻前、用がある、といって紅魔館を出て行ってしまった。そういえば、魔理沙とフランドール
も出て行ったっきり、帰ってこない。日は昇って、もう落ちそうだというのに。でも、あえて二人のことは言わなか
った。
「…さあ。でも、あたしたちには関係ないと思う。あらかた咲夜の傷に塗る薬草でも採りに言ったんじゃないの?」
パチェリーが気のない返事をする。そう。今の私たちには、余り関係のないことだ。
「…ほう。これはずいぶん、珍しいお客様だな。」
突然聞こえたその声に、パチェリーはぎくり、と身を強張らせる。いっぽう、霊夢は軽く頭を掻き
「…慧音。」
目の前に、いつの間にか一人の少女が立っていた。上白沢慧音。知識と歴史の半獣。慧音は問う。
「で、紅魔館の魔女と神社の巫女がこの私に何のようだ?」
霊夢は気がなげに答える。
「わかってるんでしょう?…リグルの狂気の理由。」
しばしの沈黙。そして、慧音が口を開いた。
「…悪いが、その質問には答えられない。」
「…なぜ?」
「答えられない…ではおかしい。正しくは答えようがない…だ。その部分の歴史がこう…何かに食われたように欠落
 している。この私にも、読み取ることは不可能だ。レミリアと、魔理沙に申し訳ないが。」
その言葉に、今まで沈黙を守っていたパチェリーが、口を開いた。その顔には、驚愕と、同時に不信の色が見て取れた。
「…レミリアと、[魔理沙]に?」
その言葉が、頭の中でエコーする。
「魔理沙が…どうしたの?」
自分でも、答えはわかっていた。しかし、慧音はきわめて簡潔に、
「魂を…抜かれた。」
答えてくれないほうが、よかった。パチェリーはその場でたたらを踏み、そして、気を失った。
慧音はその状況を脳内で吟味しながら、こちらも脳内で、にやりと笑う。



目の前に、魔理沙が映った。いつもと変わらぬ、明るい笑顔。その笑顔に私、パチェリー・ノーレッジはどれほど救わ
れたか。ふと、魔理沙の顔に影が差す。その影は、次第に濃くなっていき、同時に広がっていった。そして、魔理沙は
見えなくなった。パチェリーの脳裏にまばゆい笑顔を焼き付けて。



「魔理沙っ!」
目がさめた。空には満天の星空が広がっている。
「あら、パチェリー、おはよう。」
霊夢が目の前にいた。パチェリーは目をこすり、
「うん、おはよう。」
再び目をこする。と、ここで霊夢がいやににやついていることに気づく。
「…なによ、気味悪いわね。」
霊夢が笑いを押し殺し、いう。
「いや、でもまさかあそこまで魔理沙のことを想ってたなんて…ねぇ?魘されながら言ってたわよ、あなた。嫌だ、魔
 理沙!いかないで~~!…ってね。」
赤面する。自分は、そんなことを言っていたのか。口を開き、何か言おうとするが、焦り過ぎ舌がもつれ、意味不明な
言葉を発する。そんなパチェリーを見ている霊夢の目は、こう語っていた。
―はは~ん、図星なんだ。―

ぼこっ!

突発的に、近くの地面が持ち上がる。それまでの空気がうそのように冷たく凍てついていくのを、パチェリーは感じ取
った。霊夢は札を取り出し、臨戦態勢をとる。数秒の感覚、その地面から、誰かの手が突き出した。霊夢は札を発動さ
せようとする。が。
「ちょっと~!だれか、助けて~~~!」
フランドールの声だった。


永遠亭。ここに潜んでいる、リグルは考えをはせていた。なぜ…いや、だれが、この私を突き動かしていたのか。まる
で、この私を死なせまいとするように。わたしを、守ってくれる存在など、いないはずだ。…もしかしたら、私に死な
れると困る輩が存在するのだろうか。自分でも、何を考えているかわからなくなった。

破壊シロ……

突然、脳内をそんな思考が駆け巡る。強迫観念のように。リグルは抵抗何がなんだかわからぬまま、抵抗した。

―私をかくまってくれている人たちを、襲うわけにはいかない。道理に反している。

それでもその思考はやまなかった。

何ヲ言ウ?ココノ薬剤師ハオ前ヲ奴ラニ引キ渡ソウトシテルゾ。

必死になる。

―証拠は?証拠がない!

思考が、答える。

証拠?ソンナモノ、周リヲ見レバ、スグワカルダロ。コンナ薄暗イ部屋ニ押シ込メテ、一度モココニコナイジャナイカ。

確かに。

―でも…でも…っ!

思考に中断される。

オ前ニハ、力ガアル。思ウ存分、暴レヨウジャナイカ。
―…………
サア、力ヲ開放シロ!

リグルの目に、狂気が舞い戻った。

永遠亭の兎達のまとめ役である、月の兎、鈴仙・U・イナバと地上の兎、因幡てゐは、暗い廊下を歩いていた。
「ねえ、ウドンゲ。貴方はあの蛍をどう思う?」
てゐが口を開く。確かに。奇妙な服を着た、紅美鈴と名乗る女性に交換条件とともに託されたのがその蛍だった。そこ
までだったら、なんら問題はない。問題は、その交換条件が、永遠亭の敵、上白沢慧音と藤原妹紅を引き渡す、煮るな
り焼くなり好きにするといい、というものだった。
「…確かに。あの蛍達にあの二人を倒す力があるとは思えないし…師匠の言ったとおり、霊夢たちに引き渡すのが一番
 かもね。」
月は、人を狂わせる。リグルも、人ではないがその毒気に当たってしまったのだろうか?そんな考えをはじめた瞬間だ
った。

どごおおおぉぉぉぉん………

どこか近くで、そんな音が響いた。二人は顔を見合わせる。
「…てゐ」
「…鈴仙」
「「今の音、きこえた?!」」
見事にかぶった。それと同時に二人は走り出し、地下室へと向かう。もしこの屋敷で何かあるとしたら、十中八九リグ
ルの仕業だ。それ以外にこの館内で轟音が響くはずがない。妹紅がこちらの手に落ちていなければ…だが。

地下室への階段からは、もうもうと土煙が上がっていた。こんな状態で、その中で蠢くものを見つけるのは不可能に近
い。実際、二人はその中で蠢いた何かに、まったく気づけなかった。
「具蟲[盾]」
その声が聞こえたとき、二人はやっと自分たちの後ろにリグルがいることを理解した。横っ飛びでその場を離れる。数
秒後、その場所に数本の蟲の脚が叩きつけられた。
「殺そうとするな!そいつらは大切な人質だ!」
リグルの声がする。まだ捕まってもいないのに、人質ときたか。鈴仙は苦笑する。こちらの戦力は、兎たちを抜いても
3人。兎達を入れれば、それは途方もない数に膨れ上がる。どう転んでもリグルに勝ち目はない。
「[幻朧月睨]!」
「[エンシェント・デューパー]!」
スペル発動。二人の最大スペルを発動させたのだ。これをよけるのはほとんど不可能に近…
「砲蟲[甲殻砲]!」
5匹の砲蟲を召喚。その5匹は数秒、焦点を合わすために時間をとると…
「発射!」
不可避の弾幕が、すべてかき消された。弾幕は弾除け、と頭から決め込んでいたのかもしれない。別に弾幕をかき消し
てはいけない、というルールはない。しまった、と舌打ちをしたとき、目の前の硝煙の中からリグルが飛び出してきた。
てゐと鈴仙を見やること数瞬、鈴仙を無視し、てゐに襲い掛かる。
「………っ!」
半ばやけくそ気味に横へ飛ぶ。成功した。リグルの手をかすめ、廊下に降り立つ。しかし、リグルがはじめに召喚した
2匹の「盾」の動きまでは、頭に入っていなかった。その2匹は、てゐの後ろにいつの間にかまわっていた。6本の脚を
のばし、てゐを捕縛。
「くそっ!はなせッ!」
そんな言葉ではなしてくれるほど甘くはない。その蟲は器用にてゐを自分の背中にまわし、そして…自分の体に、[組み
込んだ]。その表現は正しくないかもしれない。しかし、少なくとも鈴仙にはそう見えた。悪態をつき、スペル発動。
「くそっ!懶惰[生神停…」
そのスペルを、最後まで唱えることは出来なかった。てゐを組み込んだ盾のような蟲が、リグルの前に立ちはだかる。
「何してるのッ!ウドンゲッ!早くそれを唱えなさい!」
しかし、鈴仙の精神は、見方を犠牲にしてまで勝ちをもぎ取ることに罪悪感を感じないほど、強く出来てはいなかった。
「くっ!」
一瞬のためらいが、勝敗を分けた。後ろから近づいていた盾のような蟲に気づいたときはもう、捕縛されたあとだった。
―ああ。
リグルは思う。自分は、やはりこれを望んでいたのか、と。
―ああ。楽しかった。


月の姫、蓬莱山輝夜は、とある一室に向かっていた。その手に握られているのは、似つかわしくない…斧。ふすまを開
ける。暗闇の中に、人影が二つ。…上白沢慧音と、藤原妹紅だ。輝夜が入ってくると、二人は抗おうとする。

がちゃり。

鎖の鈍い音がした。数時間も前からこの状態になっていたのに、すっかり忘れていた。無言で輝夜は妹紅に近寄り、斧
を振り上げる。慧音は、思わず目をつぶった。

ぎいいぃぃいん・・・

鉄が、砕ける音が聞こえた。
「…え?」
終始無言だった輝夜が、ようやく口を開く。
「妹紅、私はね、地には堕ちたけど、心まで堕ちたつもりはないわ。」
「…は?」
「こんな方法で貴方を弄れるとしても、それは本望じゃない。私は私の力で、あなたを殺してみせる。だから、今回は見
 逃してあげる。…早くここを出なさい。」
そういいながら、斧を妹紅の前におく。
「じゃあね。…また殺しにきなさいよ。」
言い放ち、そして、輝夜は部屋を出て行った。後には呆然とする妹紅と慧音が残る。

「待てッ!撃つなっ!てゐ様と鈴仙様に当たるぞッ!!」
「じゃあ一体どうしろっつうんだよッ!!」
「「知るか~~~~!」」
声が轟く。リグルが駆ける。永遠亭の兎達がリグルを撃てないのには、訳がある。何がどうなったか、てゐと鈴仙はリグ
ルに盾にされていた。二人とも、気絶しているようだ。駆け抜けざまに、何匹かの兎に攻撃をいれる。案外もろいものだ。
一匹の腹に掌が命中したとき、確かに何かが破裂する感触がした。目の前に人影を視認。今までどうり、掌を叩き込もう
とする。
「神宝[サラマンダーシールド]」
その言葉に危険を直感したのか、後ろに飛びのく。直後、リグルが掌を叩き込もうとしていた人物の周りに、紅蓮の炎が
発生した。
「…チッ、輝夜…か。」
その通り。視界が晴れたその場所にいたのは、他でもない蓬莱山輝夜だった。
「ちょっと、わたしの兎達を虐めないでくれる?」
輝夜が落ち着いた物腰で語りかける。呼応した。
「いいじゃない、別に。」
輝夜はムッとしたようだ。 
「よくないわよ。」
リグルは手を広げ、宙を見やる。
「まあ、そんな前置きはいいわ。私の目的は、単純。真面目に蓬莱人と戦いたかったのよ。千年以上生き延びた輩の弾幕。
 ああ、楽しみだなあ。」
なんだ、コイツ?その疑問は一切口にせず、別の言葉を発する。
「その前に、てゐと鈴仙を放しなさい。弾幕るのはその後よ。」
「だめ。」
前の言葉を言ったときとなんら変わらぬ体勢で、リグルは答えた。続ける。
「そんなことしたら、あなたと弾幕ってるときに邪魔が入りかねないじゃない。…盾!」
最後の怒鳴り声とともに、今までそこで浮遊して動かなかった盾蟲が廊下をふさぐように立ちふさがる。盾蟲が廊下を遮
断する直前に、リグルと輝夜はスペル発動。
「具蟲[剣~梅雨~]!」
「難題[蓬莱の弾の枝~虹色の弾幕~]!」
弾幕が発生する。この弾幕、ようは横から来る弾幕の発生源である使い魔を倒せばいいのだ。
「闘蟲[戦闘特化]!」
ただの弾幕を発生させる程度の使い魔が、戦闘に特化された闘蟲にかなうという道理はどこにもない。案の定、使い魔た
ちは数瞬で切り刻まれた。こうなってしまえばもう安定だ。迫る弾幕をものともせず、リグルは輝夜にむかって剣を振り
下ろす。…が。剣が当たる数秒前から、輝夜は回避運動をしていた。ピーン、とくる。この動き…
「あなた、この梅雨を避けてるでしょう?」
リグルが問う。輝夜も呼応する。
「…気づくの早いわね…そうよ。妹紅の様子を見て思ったんだけど…まさか本当だったとは。」
梅雨は、秋雨と相対するように、切りつければその切り口に猛毒が付着するように出来ている。その毒は、恐らく死在り
し存在のほとんどの人間、妖怪を死に至らせられる。死なないのは蓬莱人くらいだ。
「う~ん、私も早く冥界行きたいからコレで決着付けたかったんだけど…」
「?なに、死にたいの?」
「…そういう意味じゃない…」
時間がない。なぜだかそう思った。早くコイツと決着を付けて、冥界に行って、そして…何というか、暴れまわりたかっ
た。相手は誰でもいい。報復対象ならば。
「解除」
同時に梅雨と盾蟲は札に戻る。輝夜は、不信気にリグルの事を見ながら、言葉を発する。
「…いいの?それ、解除しちゃって。」
「いいのよ。だって貴方、梅雨の効力知ってるんでしょ?知らないんだったらすぐに倒せるけど、知ってると警戒してき
 て長期戦になる。だから嫌なのよ。それに、人質ももう要らない。さあ、けりを着けましょう。」
スペル発動。
「四天王[邪蜂~瞬斬~]!」
リグルがようやく乗れるほどの、一匹の蜂が出てくる。リグルはその上に飛び乗ると、
「場所を移しましょ?ここは狭くて仕方がない。」
と言い、
「砲蟲[甲殻砲]!」
真上に向かって撃った。

どごおおおおぉおおおおおおん!

物凄い轟音とともに、天井が砕け散る。その天井にあいた穴から、リグルは瞬斬とともに出て行った。輝夜もそれを追う。
後には気絶した2匹の兎と、呆然とする何十匹もの兎が取り残された。

竹林上空。そこでリグルと輝夜は睨み合っていた。
「何でこんなとこに場所移したか知らないけど、むしろ貴方に不利よ?もしかしたら、霊夢達に見つかるかもしれない。」
「別にいいのよ。見つかっても。むしろ見つけてほしい。この狂気が、満たされるなら…!」
「…戦いを、求める、か。そんなんでいいの?貴方には守るべき存在はいないの?」
「いるはずない。私のことを、気にかけてくれる奴なんて!」
少々焦点のずれた言葉の応酬はそれっきり聞こえなくなる。かわりに、一つの声がこだました。
「[蓬莱の樹海]!」
使い魔から放たれる虹色の弾幕が、リグルと瞬斬をとらえ、そして…

ザシュッ…!

人体が切り裂かれる音。切り裂かれたのは、輝夜の方だった。何がなんだかわからぬ、と言う表情で、腰を真っ二つにされ
た自分の体を呆然と見つめている。リグルが誰ともなしに語りかける。
「瞬斬…瞬時に斬り裂く、か。」
なんだか、体が熱い。しかし、体はまだ熱を欲している…
「瞬斬、このまま冥界へ向かって頂戴。」
―ピギイィイ!
一陣の風が吹く。このとき、自分の異常に気づいておくべきだった。四天王を使用すると、使用者はかなりの体力を消耗す
る。しかしこのときのリグルは、朝目覚めたときとなんら変わらぬ状態だった。それに、いつもならもう二度と自分にキバ
をむかぬよう、キバならぬ魂を抜いてしまうのに、なんだかそれができない気がしたのだ。もしかしたら魂を喰える量が3体
で限界なのかもしれない。もしかしたら、ただ面倒なだけだったかもしれない。
「かふっ!」
輝夜は血反吐を吐き出し、地に落ちた。


「っぷは~~!やっと出れた~~!」
何だよ、こっちの苦労も知らないで。霊夢とパチェリーは心の中でぼやく。そんな二人を尻目に、フランドールは柔軟体操を
始めた。が、ふと何かに気づいたのか、霊夢たちが掘った穴に手を突っ込み、何かを引きずり出した。見覚えがない、と言っ
たらうそになる。黒い帽子、エプロンのような普段着、金髪を一結いおさげにしている…それは紛れもない、魔理沙だった。
その目は虚ろ。焦点があっていない。レミリアと、同じだった。
「…霊夢、パチェリー、魔理沙をお願い。」
先ほどと打って変わって真面目な声だった。
「…あなたは、どうするの?」
霊夢が聞き返す。パチェリーはといえば、顔を手で覆って泣いていた。嗚咽が聞こえる。
「リグルを、探して…それから先は、決めてない。」
嘘だ、と思った。十中八九フランドールは魔理沙とレミリアの敵討ちにいく気だ。パチェリーはそっとしておき、霊夢は問い
かける。
「目星はついてるの?」
フランドールは頷く。
「勘って大事なのよ。」
それは目星じゃない、と言おうとしたが、黙っていた。変わりに、こういった。
「…怒りに囚われないこと。そうなってしまうと、冷静に判断ができなくなるわ。」
「…うん。じゃあ、また。」
フランドールは飛び立った。憎き敵を撃つために。

竹林に、一陣の風が吹いた。                      蓬莱人と彷徨う魂 ―了
え~結構間隔があきました、雪羅奈界です。自分でも何がなんだかわからなくなってきましたよ、
このシリーズ。永遠亭の皆様なんて、すごいぞんざいな扱いうけちゃってます。徹夜は苦手(ぉ
そろそろヒロイン登場させようかな~とか悩んじゃってます。勉強に身が入らない。
(他に書くこともないんで)
こんな駄文を読んでくださってありがとうございます。
それでは次回作にて。
雪羅奈界
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コメント



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2.無評価ナイトメア削除
むぅ~~~~。
3人の魂は無事なのでしょうか?
それにリグルは何を代償にしたのでしょうか(最終回で判るといっていましたが)?
それだけが気になります。

雪羅奈界さん、返信プリーズ!!
4.無評価雪羅奈界削除
>ナイトメア様
無事です。もし消化されてたら自我は存在しない、つまりあのような会話をするのは(あの世でない限り)不可能です。よしんばあの世が白玉楼(でしたっけ?)であっても、あんな深遠ではありません。だから、3人は何らかの形で保存されているんです。どこかに。
代償…これは今回の作品を読んで、察しのいい人なら気づくかもしれません。少々お茶を濁す返答ですが。
気になる質問にまともに答えられなくてすみません。m(__)m