Coolier - 新生・東方創想話

失うことと、得ることと。

2005/03/11 08:11:20
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その日は、激しい雨が降っていた。
地下にある、私の部屋にまで聞こえるソレは、まるで洪水を思わせる。

ここのところ、外に出ることが少なくなっていた。
理由はわからない。
お姉様が、たった一言「もうしばらく、出ないでいなさい」と言ったからだ。
退屈。魔理沙や霊夢や……知り合った皆と遊べないのは、本当に退屈だった。
けれど、ほんの45年ほどなら、大した時間でもなかった。
495年、館から出なかったあの年月を思えば、それは一瞬きの時間に過ぎない。
そういえば、15年ほど前に、咲夜が来なくなった。
それまでは、いつだって食事とお茶とおやつの時間に部屋に来たのに。
どうしたんだろう。

「フラン」

お姉様が来た。
咲夜が来なくなってから、お姉様も来る頻度が少なくなっていったから、嬉しい。
わくわくする。今日はどういう話を聞かせてもらえるのだろう。
外に出ない代わりに、お姉様に色々とお話を聞かせてもらっていたんだ。
魔理沙や、霊夢たちに会ってから、お姉様に外のお話を聞かせてもらえるようになった。
あの時から、外に出たいという欲求が抑えられなくなって、色々あった。
魔理沙に帽子を被らせてもらって、昼の空を一緒に走った。
霊夢に出してもらったリョクチャは、何だか苦かったけど、心が落ち着いて。
月に住むウサギとか、そこのお姫様と遊んだり。
幽霊が住むお屋敷に行ったり、吸血鬼とは違う、鬼にも会ったりして。
そういう体験が出来たあの時のような、わくわくとドキドキ。
今日も教えてくれるのかな。

「今日は……大事なお話があるわ」
「大事な、話?」
「そう。大事な、大事な、話」

そう言う、お姉様の目は怖かった。
真剣で、鋭くて、冷たい。
でも、どことなく揺れる瞳は、悲しい気持ちで溢れそうだった。
その目を、大昔に見た。ずっとずっと昔に。
それは、私が、この部屋に来る前に。
そうだ。地下室にずっといて、屋敷から出ることは許さないと言った、あの目だ。
……何? お姉様、どんな悲しいことを、私に伝えようとしてるの?

「魔理沙と……霊夢を、覚えている?」
「もちろんだよ! え? もしかして、あの二人のことなの?」
「ええ……」

どういうことだろう?
もしかして、私に会いに来てくれたのかな!?
でも、人間の感覚じゃぁ45年は長いから、私が忘れていないか不安だったのかな!?
大丈夫だよ、私はずっとずっと覚えているもの!!
だから、だから早く――。

「フラン。落ち着いて聞きなさい。あの二人は――」
「どこ? どこにいるの、魔理沙!? 霊夢!?」







「――――――死んだわ」







「…………ぇ…………?」

死んだ? 何が? 魔理沙? 霊夢? 死ぬ? 死ぬって? いなくなるってこと? どこ?
どこに?ここから?何が?死んだ?魔理沙が霊夢が死んだ?いなくなる?ここから幻想郷から
いなくなる?何で何で何でなんでなんでなんで?だってだって私はいるお姉様もいる時間だって
あるどうしていなくなるの死んでしまうのそれは無くなるのと同じ?そういえば咲夜だってい
ないそれは咲夜もいない??死ぬ?咲夜も魔理沙も霊夢も?死?何で何で死ぬのわたしわたし
わたしの傍からいなくなるお姉様はいるけれどさくやもまりさもれいむもいなくなってしんで
しんでしんでしんできえてきえてきえてあえないもうあえないうそなんでどうしてわるいこと
してないよただあそびたいだけだったのにしんであえないそれはばつなのかつみなのかおねえ
さまはいるきっとぱちぇもいるだけどまりさもさくやもれいむもいないなんでどうしてしんで
だめだめだめだめしんじゃいやきえないであいにきてあえないなんていやいやいやいやいやい
やいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやい
やいやァァああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!

「フランッ!! 落ち着きなさい!!」
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「クッ! 何て…熱!? 燃えて……いる!?」

ごうごうごうごう、もえるもえる。
ふくも、しのばせているかーども。
もえてもえてもえてもえて、かーどのはへんははねにあつまっていく。
あつい。あついあついあつい。せなか、はねが、あつい。ちから?からだにあつまる?しらない。
そうだよしらない。しらない。しらない。
しぬ、しぬ、いなくなる。そんなことばしらないの。
だから、そんなことわからない。わからないのはないのとおなじ。
まりさだって、れいむだって、さくやだって、まだいる。
いるからだいじょうぶ。もえるからだいじょうぶ。またあそぶんだ。
まってて。むかえにいくよ。おねえさまにはじめてさからっていくよ。
こわしていくよ。ちかしつもろうかもてんじょうもまどもどあももんもぜんぶぜんぶ。

「……フ……の力は知っ……たつ…りだ………ど……こ……でだ…んて」

おねえさま。なにいっているのきこえない。
きこえない。きこえないってことはいないんだ。
そうだよ。おねえさまがあんなことをいうはずないもん。
だっておねえさまもれいむやさくやがすきだったんだから。
そうだそうだ。このおねえさまはにせもの。にせもの。
わたしをだますんだ。だましてだましてとじこめて。
うそつきのにせもの。こわさなきゃ。
まりさがれいむがさくやがしんだなんてうそついてゆるされるはずないの。
こわさなきゃ、こわさなきゃこわさなきゃ!!

「フランッ!?」

こわさなきゃっ!!

こ わ さ な き ゃ ―――――――――――――!!!!




















……ふと、我に返ってみると、体中が濡れていた。
よくわからない。水と、紅い、血のようなものでべったり。
来ていたお洋服もいつの間にか無くなっていた。アレ、お気に入りだったのになぁ。
周りを見渡す。
そうか。濡れるはずだ。
いつのまにか天井にぽっかりと穴が開いているんだ。
私の部屋だった地下室はボロボロ。
上を向いて、廊下があった部分を眺めても、廃墟みたいだ。
お姉様の好きな、紅い綺麗な広い館じゃなかった。
そうだ。お姉様は?
こんなことになっているのに、お姉様はどうしたのだろう?
誰かがこんなことをしたんだ。お姉様を傷つけるなんて――。
わたしが いれば こんな ことには 。
あれ からだが うまく うごかない 。
そうか わた し みず かぶっ ちゃ い けな かっ た んだっけ 。
あ あ あ あ 。

 た す け て お ね ぇさ ま …… 。
















――酷い目に遭ったわ……あら、どうしたのレミィ。え? いま喋れない?
  そうか雨に遭ったのね。どうして天井に穴が開いているの? 新手の前衛芸術かしら?
  え? フラン? ふーん、妹様がねぇ。あのことを伝えたの? そりゃそうなるわよ。
  隠していればよかったのに。 ……どうする? このまま眠らせることも出来るわよ? 今弱っているみたいだし。
  けほ。ああまた調子が。早く決めて、私が喋れるうちに。
  ……そう。判ったわ。適当に決めて、適当に目が覚めるようにする。あと記憶改ざんね。
  ちょっとそこの小悪魔! この二人を雨の当たらない場所に動かして!




















………………………………

………………

………

…重い重いまぶたが、ゆっくりと開いていく。その様子が、まるで人事のように感じられた。


あれ? ここ、どこ?
辺りを見渡しても、薄暗い地下室の風景しか見えなかった。
私、どうして? 寝てた?
いつも寝ているベッドで、いつの間にか、寝た覚えも無いのに。
どれくらい寝てたの?
それが一桁の年単位ではないということは、身体が教えてくれた。
うう、思い出せない。私は、何で寝てしまったの?
何を忘れてしまったの? 忘れてしまったことだけしか覚えていない。


……、何か、聞こえる。
物音? 違う、そんなものじゃない。
耳を澄ましてみた。




――おいおい、いきなり物騒だな。私は怪しいヤツじゃぁないぜ?

――それは怪しいヤツの常套句じゃないかしら。

――お前が突っ込むなよ。仲間だろ?

――お茶してたところを無理やり拉致連行してきた巫女を仲間というなら仲間ね。

――はっはっは。そりゃ仲間決定だ。

――……貴方たち。侵入しておいて侵入先で漫才しないで頂戴。 ……けほ。



響く、声。
声が聞こえる。遥か上空、つまりは地上から。
誰の声?
お姉様じゃない。
パチェの声も聞こえるけど、違う声も聞こえる。
違う声?
誰? 誰なの?


会った事ないはず、聞いたことの無いはずの声。
でも。でもでもでも!!
気になる、気になる!! 気になってしょうがない!!
ここは、地下室。地上に上がるためには、面倒くさい順路を辿らなきゃいけない。
でも。そんなこと、出来ない。心が騒いで、仕方が無いんだ。
天井を見る。厚い、石で出来たソレを。
でもそんなことは小さいことだ。
幻想郷の物質で私に壊せないものなんてないのだ!
だから、一気に突き破って声の正体を探ってやる!!

「やーーーーっ!!」

まるで紙のようにひしゃげる天井を突き破って、一直線に声の在り処に。
その場所では、パチェと、なんだか黒いのと紅白のがいた。

不適に笑う黒いのと、めんどくさそうに漂う紅白。
その姿を見て。


……何故か、涙が出た。


でも恥ずかしいから、それを隠して言う。
何で恥ずかしいのか、それすらもよくわからなかったけど。

「で、あんた達、誰?」



「私は霧雨―――。普通の魔法使いだぜ」
「私は博麗――。巫女やってるわ」



「それにしても不躾だな。人に名を聞くときは自分から名乗るものだぜ?」
「あんたが不躾とか言うな」
「失礼な。私が礼儀知らずみたいじゃないか」
「そのものでしょうが、全く。 ……で、貴女は?」

紅白が名前を聞いてくる。
その光景が、まるでいつかの焼き直しみたい。
いつの? 知らない判らない。
けれど私の胸は喜びで一杯で、そんなことどうでもよかった。

「私はフランドールよ。 ……お二人さん」
「ほう。何か聞き覚えあるよーな」
「私もそんな気がするわ。どうでもいいけど」

どうしてそうなるのか。
どうしてこんなに心がうきうきするのか。
どうしてこんなに身体が震えるのか。
わからなかった。けど。

「ねえ、お願いがあるの」
「何だ? 聞いてやらないこともないぜ」
「そーね。子供のお願いだしね」

「私と、遊ぼう――!!」

嬉しくて嬉しくて、そんなことどうだってよかった。
叫びながら、服の中にあったカードを取り出す。
二人は笑いながら、おなじくカードを出していた。
つまりそれは、遊んでくれる意思表示。

「あーあ、結局こうなるのか。面倒くさいわね……」
「いいじゃないか、面白そうだぜ」

きっとこれから、また楽しい日々がやってくる。
それを思うだけで、笑顔になってしまう。
例えば忘れてしまったあの日から、また私はわくわくの時間が得られるのだ。
なんて、なんて幸せなんだろう――。



視界の端にいたパチェが、口元を吊り上げている気がした。

















―――<ep>

その部屋には、館の殆どを見渡せる窓がある。
その窓を見ながら、幼い容姿でありながら永い月日を生きた吸血鬼は笑っていた。
そこに、扉をノックする音が響いた。

「お嬢様、よろしいでしょうか」
「いいわ、入りなさい」
「はい。失礼いたします」

扉を開けて、一人のメイドが入ってくる。
涼しい顔をしていながら、身に纏った空気は焦燥している者のソレだ。

「ご報告いたします。本日の夕方、二人ほどの侵入者を許してしまいました」
「まあ、ここから見れば判るけどね。 ……失態ね、全く」
「申し訳ありません」
「いいわ、別に。怠慢ではないのでしょうから」
「……有難うございます。 ……それと、もう一つご報告が」
「ええ。何かしら? 大体判るけど」
「妹様が……目覚めました。そしてその侵入者と……その……」
「そうね。見ていたわ」

報告。少なくとも館に関することは、しなくても彼女には筒抜けだ。
窓を見れば判るのだから。
しかし、彼女の従者であるメイドは、職務と称してその無駄な行為をやめない。
……全く。それを見せられるたびに、笑いが込み上げてしょうがない。
いつかの誰かを、想起させられてしまうではないか。

「いかがいたしましょう?」
「ほおっておいていいわ。最悪の事態になる前に止める、というのが条件だけど」
「判りましたわ。それでは、待機いたします」
「ええ」
「では、失礼いたします、お嬢様」
「くれぐれも無様なところを晒さないようにね」

彼女が言うと、メイドはにっこり、と笑って。
最大級の敬意を込めて、言った。



「はい。お嬢様に頂いた、十六夜の名において」



そして一礼すると、部屋から出て行った。
ぱたん、と扉が閉まって、メイドが去っていく気配。
また、吸血鬼――レミリア・スカーレットは、窓に視線を戻した。
そこでは、彼女の妹が笑顔で炎の剣を振るい、侵入者二人が、悪態と不適な笑みを振りまきながら避けている風景が見えた。
それを見ながら、レミリアは微笑む。
聞こえないと知りながら、それでも自分の妹に向けて言葉をつむぐ。

「フラン。私たちは悠久の刻を生きる種族。私には――まだ、貴女のこの永い生の中での悲しみを、癒す術はないけれど。
 でも、喜びを与えてあげることは出来るわ。……今度は、悲しみに潰されないように、私がきっと護ってみせるから。
 だから、享受なさい。喜びを。失うつらさは、貴女がもっと強くなるそのときまで、知らなくていいから――」

失う辛さ。それを教えるには、まだ彼女は幼すぎたのだ。
レミリアは、それでも、また教えなければいけない。
得たあとには、失うことがあるのだと。
しかし。

「やっぱり貴女には、笑顔が似合うわね――フラン」

失ったあとには、必ずその分だけ得るものがあるのだと。
レミリアは――笑って、妹のはしゃぎようを眺めていた。



                                                <end-ep> 
こんにちは。
また再掲もので申し訳ありません。

しかし今回は思いつきで書いたものであった
(妹様の試合の中、思いついたネタをそのまま書きなぐり、推敲もろくにせずに投下)
ので、稚拙な後半部を大幅加筆修正しました。epも追加。
博麗さんちや霧雨さんちだけではなく、十六夜さんも書きました。満足。

あと一つ補足。
私はスペルカードは二種類あると思っていて、
一つが
「魔力や霊力を閉じ込めることができる物質に力を込めている」
もので、もう一つが
「力そのものをカードのカタチに加工している」
もの。
前者が人間(霊夢や魔理沙ですね)の使用しているもので、
後者が妖怪や悪魔が使用しているものと解釈しています。

つまり、妹様のカードは自分の力そのものを加工したものであり、力の制御の練習みたいなもの。
ソレを教えたのはレミリア様。
で、本編にある燃えたカードが羽根に集まるというのは、妹様の力の根源は羽根だという私の解釈です。
カードのカタチをとっていた力が元に戻っていく、という表現にしたかったのですが、私の力不足ゆえ
こんなところで書いてます。…もっと精進ですね。

では。
次回は再掲ものではないようにしたいと思います。


それにしても。
霊夢さんも魔理沙さんも誰と子供作ったのやら。
まさか、こーりんかっ!?
ち、ちくしょ羨ま<夢想マスタースパーク封印
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