スキマの窓からこんにちは~!
レポーターのゆかりんです。
今日はここ、博麗神社からお送りしていま~す。
相変わらず殺風景なところですね~
人っ子一人いる気配すらもしません。
んっ?
クンクン……って、アラ、いい匂い。
一体、何の匂いでしょうか?
調べてみたいと思いま~す。
それ、突撃~
場所を変えて博麗神社の中からお送りしています。
さて、このいい匂いの正体とは一体何なのでしょうか?
今、私は真実に迫ろうとしています。
……
……
…おぉ!!発見しました!!
このいい匂いの正体は揚げたてホヤホヤのコロッケでした!
キツネ色の綺麗なフォルムに、食欲を誘う濃厚な揚げ物の香り…
これは、ぜひレポーター自らの舌で味わってみたいと思います。
それでは、早速、いただき…
パカン!
「ちょっとさっきから何やってんのよ!?」
「あいたたたたた…」
ジンジンと痛む頭を押さえながら、後ろを振り向くと…そこにいたのは霊夢。
「痛い~霊夢」
「『痛い』、じゃないわよ、あんた。
人の家に勝手にあがりこんだと思ったら、昼ご飯にまで手をつけて…」
「んむんむ…美味美味」
「って、食うな!」
パカン、ともう一度頭を叩かれる。
「もぉ~あんまりポコポコ叩かないでよ。
阿呆になったらどうしてくれるの~?」
「馬鹿と阿呆の境界にいるあんたなら大丈夫よ。
境界をいじくればどっちにだってなれるわ」
「あん、意地悪~」
「あぁ、気色悪い!!くっ付くな!!」
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「それで今日は何をしにきたのよ」
あれから10分後、私は霊夢に茶を振舞ってもらっていた。
この娘のいいところは、どんなに悪態をついていても、こうしてちゃんともてなしてくれるところだ。
だから私みたいに、妖怪やら人間やらがひっきりなしに訪れるんだろう。
「今日は、デートの お さ そ い」
「…んっ、出口あっちだから、それ飲んだらすぐ出て行って」
「あん、いけず~」
「だ~か~ら~、くっ付くなっていってるでしょうが!」
またまた頭をパカンと叩かれる。
「もぉ~あんまりポコポコ叩かないでよ。
馬鹿になったらどうしてくれるの~?」
「馬鹿と阿呆の境界にいるあんたなら大丈夫よ。
…って、あぁ、もう。会話がループしてるじゃない!」
霊夢が頭をバリバリ掻いて、体全体でイライラを表している。
うふふ、おもしろ~い。
これだからこの娘をからかうのはやめられないわ。
「で?デートって一体何の話よ?」
「いやん、デートって、こんな時間だと逢引になっちゃうじゃない」
「あんた、話を進める気あるの?
それに、こんな時間って、今真昼間じゃない」
「違うわ、真夜中よ。ホラ」
チョイっと昼と夜の境界をいじる。
途端に世界が白から黒に変わる。
「あぁ!!あんた何てことすんのよ!?」
「うふふ、怒らない怒らない。
今からの逢引はこっちの方が都合いいんだから」
「どういう意味よ?」
「いいからいいから。
ホラホラ、早くこのスキマの中に入って」
「まったく…変なところ連れていったら承知しないからね」
「は~い、一名様ご案内~」
霊夢がスキマの中に入ったのを確認すると、私もスキマに入り、中から入り口を閉じた。
目指すは…あの場所。
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スキマの窓からこんにちは~!
レポーターのゆかりんです。
今日はここ、幻想郷の端の端、通称「紫岬」からお送りしていま~す。
相変わらず殺風景なところですね~
人っ子一人いる気配すらもしません。
な~んて、そりゃそうですね、私以外知りませんし、アハハ…
パカン!
「『アハハ』じゃないわよ!!
こんな辺鄙な場所に連れてきて一体何のつもりよ!」
「あいたたたたた…『辺鄙』って、あなたに言われたくないわよ」
ジンジンと痛む頭を押さえながら、後ろを振り向くと…そこにいたのは霊夢。
って、そりゃそうだ、私が連れてきたんだからいなきゃおかしい。
「それで、一体ここはどこなのよ?」
「紫岬」
「それはさっき聞いた!
っていうか、あんたが付けたでしょう、その名前」
「まぁまぁ、落ち着いて霊夢。
紫岬の起源を遡ると、それは100年以上前の…」
「い い か ら!!
ここは、幻想郷のどこら辺なのか説明してよ」
「言ったじゃない、端の端って」
「具体的に聞いてるの!
下手したら帰れなくなるじゃないの」
「それは大丈夫よ。
蛸壺の逆で、行きは難しいけど、帰りはラクチンなんだから」
「…本当でしょうね?」
「あら、私が嘘を言ったことがあるかしら?」
「ふん、存在自体が胡散臭いくせに…」
「……え…?」
「何よ?十分胡散臭いじゃない、あんた」
「うん、確かにそうよね…」
「??何よ、突然シュンとしちゃって…柄にも無い」
「あら、心配してくれるのかしら?」
「んなわけ無いでしょう。
あんたのことを心配し始めたら、胃がいくつあってももたないわ」
「あらあら、私ったらそんなに想われてるわけ?」
「トラブルメーカーって意味よ」
「あら、がっくし…」
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「う~、寒い!!
あんた一体いつまで私を付き合わせるつもりよ?」
霊夢が両手で体を抱きかかえ寒そうに震えている。
季節はともかく場所が場所だ。
この岬では風を遮るものなど一つも無い。
故に容赦なく彼女に襲いかかれるというわけだ。
「私、思っちゃったんだけど、その巫女装束に問題あるんじゃない?」
暑かろうが寒かろうが霊夢の服はいつも一緒。
腋の部分が大きく空いた改造巫女装束。
そんな服を着ていれば寒いのは当然だろうに。
「いいの!
私のこだわりだからほっといて!」
「あなたも私みたいにお洒落すればいいのに。同じ女の子なんだから」
「…あんた女の子って歳なわけ?」
「がーん。
霊夢、それ酷い~
今までで一番傷ついた~」
少なくとも心は乙女なのに…クスン。
「ところで、霊夢、今何時ぐらいかしら?」
「へっ?今?
寅の四つ(午前四時半)ぐらいじゃない?」
「そう…
それじゃあ、そろそろね…」
「何よそろそろって?
また、変なことを企んでるんじゃ…」
「霊夢」
「えっ?と、突然何よ。深刻そうな声出して…」
「これはね。私から最初で…最後の贈り物」
「最後って、どういう…」
私は岬の縁に立つと、霊夢の方に向き直り、両手をバッと開いた。
「さぁ、八雲 紫の一世一代のイリュージョン…とくとご覧あれ」
そう言って時間の境界をほんの少し、本当にほんの少しだけいじくった。
その瞬間、夜が…白み始める。
「あっ…」
眼前に広がる光景に霊夢は心を奪われているようだった。
当然だ。
何故なら、幻想郷の中でも、私ぐらいしか知らないとっておきの絶景を見せているんだから。
「嘘みたい…すごく…綺麗…」
水平線から頭を出した朝日は、ゆっくりゆっくりと昇りながら世界を白に包んでいく。
まるでこの世の始まりのように。
「…どうかしら、霊夢?」
「すごい…本当にすごい。
正直、あんたがこんなものを見せてくれるなんて意外だったわ」
「良かったわ。霊夢に喜んで貰えて」
「…ねぇ、紫。あんたさっき『最後』っていったよね?あれはどういう意味なの」
「…」
「ねぇ、答えて、紫」
「…スキマ妖怪はね」
「えっ?何の話よ?」
「大丈夫よ、話をはぐらかすつもりはないから、そのまま聞いていて」
「う、うん」
霊夢が頷くのを見て私は話を続けた。
「スキマ妖怪はね…どこにでもいるの」
「スキマ妖怪…って、あんたのことよね?
そりゃあ、あんたはどこにだって出てくるわよ。
いて欲しいときにはいなくて、いなくてもいいときにはいたりするけど」
「…霊夢、よく考えてみて」
「…何をよ」
「どこにでもいるってことは、どこかにはいないってことなの」
「…あんた、何を言って…」
「ねぇ、霊夢。あなたには私が見える?」
「そんなこと…当然じゃない」
「それは…本当の私かしら?」
「何よ…『本当の私』って…」
「本当に『ここにいる』私なのかしら?」
「だから、さっきから何を…って紫!?」
霊夢が私の体を見て驚く。
そうか…時間切れ…か…
「紫、あんた体が透けて……」
「答えて霊夢。
『ここ』にいるのは本当の私なのかしら?」
「そんなの、そんなの当然じゃない!
あんたは『ここ』にしか、私の目の前にしかいないんだから!!」
…うん。この娘ならそういってくれると思った。
「…ありがとう、霊夢。
でも、それは外れ…」
「ねぇ…どういうことよ、紫?どういうことよ、ねぇ!?」
「あのね、霊夢。
私達スキマ妖怪には…実体は無いの」
「実体が無いって…」
「スキマ妖怪の本体はスキマそのもので…
『ここ』にいる私は単なるスキマの偶像にすぎないの」
「そんなの…」
「私達は人の想いによって具現化する…
誰かの想いが私達を作り出し、その想いが私達を育んでいく」
「紫…」
「だから、当然…人の想いが途切れれば…」
「!!紫、体が!!」
私の足がだんだんと薄くなっていき、そして…消えた。
「…こうなってしまうわけね」
私は薄くなった指先で足が「あった」空間を指差した。
「何で、何でよ!?何で、あんたが消えるわけ!?
誰もあんたのこと忘れたりしてないじゃない!!」
「そうじゃないのよ、霊夢」
「何でよ!?わからない、わからないよ、紫!!」
「想いは…時間とともに途切れていくものなの。
どんなに深い想いでも、時間とともに風化していって、最後には…消えるの」
「そんなのって…」
「…ねぇ、霊夢。
何でスキマ妖怪が他人にちょっかいを出しているかわかる?」
霊夢は静かに首を横に振った。
「それはね、そうやって他人と関わることで、自分への『想い』を喚起させるためなの。
他人が自分を想えば想うほど、その想いが自らの命を延ばすことになるからね」
「…だったら、だったら、あんたもそうすればいいじゃない!
いつもみたいに、誰彼構わずちょっかい出して…」
「…さっきも言ったとおり、想いってのは風化していくものなの。
今さら私が誰かと関わったとしても…私の存在を維持するに足るほどの想いは…手に入らない」
「そんな…そんなことって……!」
「だから、人間風に言うのならこれが私達の『寿命』。
誰も抗えないし、逆らえない。
出来ることはただ一つ、受け入れることだけ…」
「嫌だ!」
悲鳴と大差ないような叫びを霊夢は発した。
「霊夢…」
「嫌だ、嫌だよ…紫…」
そして、霊夢はボロボロと涙を流し始めた。
そういえば、彼女が泣く姿を見るのはこれが初めてだったかな。
…うふふ、最後の最後にいい冥土の土産が出来ちゃった。
私はフッと笑うと、子をあやすようにそっと霊夢を抱きしめた。
「…あなた達みたいに、賑やかな人妖に会えて嬉しかったよ。
本当にありがとう…霊夢」
「紫、紫…!
ごめんね、ごめんね!私さっき酷いことを…」
酷いこと?…あぁ、さっきの『存在自体が胡散臭いくせに』ってやつか。
確かにあれはグサッときたけど、この娘に悪気は無かったんだから別に気にしてない。
…そう。
この娘はいつだって、まっすぐでまっすぐで、眩しいぐらいにまっすぐで、
嘘と欺瞞だらけの「胡散臭い」私とは、まさに光と影の関係だったはず。
それでも…
「大好きだよ、霊夢。
スキマに還ってもあなたのことは忘れない、絶対に」
「私も…私も忘れるもんか。
何年、何十年、何百年たっても…
あんたみたいに『胡散臭い』妖怪がいたってこと…忘れてやるもんか!」
あぁ、この娘は本当に…
「…もし、もしね。
それでも、『胡散臭い』スキマ妖怪のことを忘れそうになったら、この…紫岬に来てみて」
「ここ…に?」
私は小さく頷いた。
「…そして、わずかでもいいから思い出して。
この岬と同じ名前の妖怪と一緒に、朝日を見たな…って」
霊夢は黙って私の話を聞いていたが、突然…微笑んだ。
「悪いけど…お断りよ」
「…えっ?」
「さっきも言ったでしょう?
私はあんたのことを忘れない。
だからこんな辺鄙なところに来る必要なんてない。
それでも、ここに来てみろっていうなら…」
霊夢は私を抱く力を少し強めた。
「そのときは、あんたと一緒に来るわ、紫」
「…あっ」
その言葉は…私にとって、不意打ちだった。
「…うん、そうだね、そうだね…霊夢…」
ツーと頬を何かが濡らす感覚。
えっ…あれ…?
…いつのまにか私も泣いていた。
長い、長い年月の間忘れていた涙…
その涙は、暖かくて、ちょっぴり胸に沁みた。
「また、会おうね…霊夢」
「あたり前よ。
スキマの中だろうがどこだろうが、見つけたらすぐに飛んでってやるんだから」
「…だったら、『さよなら』はいらないよね」
「それもあたり前よ。
また会うんだから、笑って『またね』よ」
そう言って霊夢は泣き顔のまま、精一杯の笑顔を浮かべた。
私もそれに倣う。
そして…涙で滲む視界に彼女をおさめた。
忘れない…忘れないよ…霊夢。
「それじゃあ、霊夢」
「えぇ、紫」
「「またね」」
・
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・
朝日が幻想郷を包みこむ中、博麗 霊夢は一人紫岬で佇んでいた。
手にはあのスキマ妖怪が残した帽子。
霊夢はそれをギュッと握り締めた。
紫はもういない。
あの再開の約束を残して紫は消え去ってしまった。
「…くっ」
流しきったはずの涙が再び霊夢の頬を濡らす。
「何で、何でよ…紫…!」
何であの妖怪は最後の最後にしか大事なことを言わないのだろうか。
もう少し前から知っていれば、私にだって何か…!
…いや、よそう。
これは、紫が望んだことなのだ。
誰にだって文句を言う権利なんて無い。
霊夢はゴシゴシと袖で涙を拭いた。
「決めたわ、紫。
私、ここ以外で泣いたりしない」
そう言って霊夢は空に浮かび上がった。
「だから…次にここに来るときは…」
霊夢は博麗神社の方に向き直った。
もう、後ろは向いていない。
「あんたとの再会の嬉し泣きよ」
そして、紫岬に再び静寂が戻った。
引いては返す波の音に、吹きすさぶ風の音。
紫岬は主の帰りを待っている。
いつまでも、いつまでも主の帰りを待っている。
いつまでも、いつまでも。
end
やっぱりこうゆう話に弱いです。。
泣かされたよ、あんたには……
存在自体が胡散臭いって、実は人間にも言えることなんですよね・・
人間と関わらないといけなかった紫と一番関わっていた霊夢のふれあいが・・
境界によって成立する幻想郷
境界無しに存在し得ない
そう遠くない日
境界の住人は
また
境界の世界へ
戻ってくる
記憶は・・・・・・
前世の現世の境界を弄ってでも
取り戻すだろう
涙を流した親友を
彼女の涙で
濡らしてやる為に
「霊夢~~!!」
ゴツッ!!!
「あ痛!半年ぶりだってのに~~」
「戻るなら三ヶ月が限度よっ!!!(泣(笑」
紫様…。
素直に泣けました。