Coolier - 新生・東方創想話

冬来たりなば~もうひとつの妖々夢~

2005/03/05 11:27:29
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 今日も今日とて雪は降り積もる。私はため息をついた。まだ春はやってこない。どうも、冬が終わらない原因を突き止めに咲夜さんが向かっているらしいのだけれど、もう少し時間がかかるようだ。暖房用の燃料が果たして保つのか。…いやいや、咲夜さんならきっとすぐだ。私は、ただ信じて待てばいいんだ。






かじかむ手に息を吹きかけながら、私は小屋の扉を開けた。暖かな空気が流れ出し、にぎやかな鳴き声が私を包む。「おはよう、みんな。」ここにいるのはたくさんのうずら達。お嬢様と咲夜さんのお許しを頂いて、私がここで育てている。小屋の内側は、通気孔を除いて現在は毛布で覆ってある。これで、少しは熱を捕まえておける。そして、この間暖房装置も作った。増築した隣の部屋から壁越しに暖めるようにして、できるだけ小屋の中の空気が汚れないようにしてある。我ながら、素人の日曜大工にしてはいい出来だと思っている。






そして、私は隣の部屋へ入り、そろそろ消えかけていた火ばちに豆炭を注ぎ足した。また私の部屋の分の炭は残らないけれど、仕方ない。妖怪の私は、少々寒いくらいでは死なない。我慢だ我慢。もちろん、炭を多めにくれなどとは言えない。どこも燃料は不足しているのだし、何よりもこのうずら達は私の一存で、私の責任において飼育しているのだ。自分で何とかやりくりするのがけじめと言うものだ。いつもの冬の長さなら、配給ももっと多いから、自分の部屋を暖めるぶんも残るのだけれど…。






うずら達のところへ戻ると、みんなして足元にまとわりついて来る。本当、なぜだか判らないけれど私はうずらによく懐かれるのだ。ああ、やっぱり可愛い。私はかがみ込んで、たくさんのうずら達に埋もれながら彼らと話をし、遊んであげる。…ああ…とても暖かいわ。
「大丈夫よ、きっともうすぐ春は来る。今、すごい人が春を呼びに出かけているんだから。」
長すぎる冬に不安そうなコをそっと撫でてやりながら、私はそう言ってやる。そう、すぐに春は戻って来る。私は確信していた。だって咲夜さんだから。あの人が完璧じゃなかったことなんて一度もないんだから。






残念ながら、うずらの世話ばかりしてはいられない。しばらくうずら達と話してから、私はうずら小屋のすぐ向かいの門番小屋に入った。暖かな小屋から出てしまうと、よけいに寒さが身を切るように感じられる。でも、こんな雪の日でも門番は休めない。いつどんなお客が来るか判らないのだし、お客が来た時に門番が取り次がないのでは紅魔館の沽券に関わる。何より、よからぬ侵入者が館内の動きの鈍るこの時を狙って進入しないとも限らないのだ。そういえばこの間、長い冬にちょっとはり切り過ぎたのか、氷精の子が吹雪を連れて入り込もうとしたことがあった。追い返したけれど、あれは怪しい侵入者に区分するにはちょっと微笑ましい子だったなあ。すぐいっぱいいっぱいになって、とても可愛らしかった。追い返した時は涙目でうーっとしてたから、嫌われちゃったかな。ちょっと残念。






門番小屋の中はとても寒かった。とりあえず、部下たちが来る前に火くらいはおこしておこう。門番小屋用の豆炭を取り出して、私は火ばちを相手に格闘した。しばらくしてようやく火が点き、本当に少しづつだけれど部屋が暖まり始めた。でも、やっぱり寒いのでとりあえず備え付けの毛布に包まっておく。…ああ、窓がガタガタ言い始めた。本格的に吹雪になってきたわね…皆、無事にここまで来られるかしら。お茶くらいは飲めるようにしておいたほうがいいわね。火鉢の上にかけようとしていた薬缶に、私は私物入れから絹の小袋を取り出して放り込んだ。身体を暖める秘伝の漢方薬の配合だ。これこそ中国四千年の…いや、やめよう。どうも、この言葉を口にすると眉間に皺が寄ってしまうのは何故だろう?






それからしばらくして、雪まみれになってやって来た部下たちと皆して毛布だるまになりながらお茶を啜っていて、ふと何かに呼ばれたような気がして私は顔を上げた。小屋の外からかすかな音がしていた。部下達と話し込むのに夢中で気づいていなかったが、風はいよいよ強くなっていて、門番小屋が時折きしむほどだ…そこまで思考し終わった瞬間、私は小屋を飛び出した。
「ちょっと後お願いね!」







案の定、うずら小屋がひどく軋んでいた。これだけ強い風だと、あの小さな建物では…!目も開けられないほどの邪魔な吹雪を振り払いながら、私は小屋の裏手の材木置き場へ走った。板と釘と金槌…!身体のまわりをせめて気の障壁で覆いながら、私は必死に小屋の補強を始める。うずら達がこの吹雪の中に放り出されたら大変なことになる…そんなこと、絶対にさせない!手袋越しでも皮膚を凍らせそうな釘を板に打ち込んでいると、ふと吹き付ける雪の勢いが弱まった。
「…?」
顔を上げると、そこには板を持って風よけになってくれている部下達がいた。
「隊長、ほんとに大工うまくなりましたよねー。私達じゃ、釘打つどころか板砕いちゃいますよ。」
「あ、心配しないで下さい?ちゃんと見張り台にも人残してありますからね。」
「私達にも手伝わせてくださいよ。あのうずらちゃん達、可愛くってもー。」
…寒くて身体震えてるのに、この子達ったら…雪で顔の筋肉までこわばっているのは幸いなことだった。部下の前でみっともない表情はしたくない。私は何とか顔を動かして笑いの表情をつくる。
「ありがとう…みんな。」







小屋の中から聞こえて来るうずら達の鳴き声に、壁越しに声をかけてやりながら、目に時折飛び込む雪を振り払って私は仕事を続けた。吹雪なんかに負けるものか。私達を舐めるな。私達は守りのプロなんだ。うずら達を冬なんかにくれてやりはしない。部下達の笑い顔を泣き顔に変えさせたりも絶対にしてやるものか。





咲夜さん、信じてます…きっと、あなたは春を連れて来てくれる。残った私達は、完全に後を守っておきます。そう…このうずら達のように、紅魔館の何一つとして欠けさせずに守っておきます。ですから、早く、春を連れて、桜の風に乗って、その飛びっ切りの笑顔をまた見せてください。お嬢様達も、春の午後のうららかなティータイムを楽しみに待っておられますよ。

最萌に投下した品ですが、せっかくですのでこちらにも投下してみます。急ぎ作りで出来の荒い作品ですが、どうか笑って読み飛ばして頂ければ幸いです。

うずら中国の絵を見て、「よく面倒見てそうだな」などと考えていたら、何となく出来上がってしまいました。
どこかで見る程度の能力
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コメント



0.1020簡易評価
3.40シゲル削除
心が温まりますねぇ。。。
こうゆう話結構好きですね♪
21.80名前を隠す程度の能力削除
いいなぁ、こういうの
心温まるですよ