「平沢進が幻想入り」
1、ナーシサス次元から来た男
男が目を覚ます。
夜。
森の中だろうか、辺りは暗い、さざめく木々の隙間から青白い月が僅かに覗いてる。
男が身を起こす。
静寂。
慌てた様子もなく、見も知らぬ景色を観察している。
わずかに木々の葉が擦れる音がするがその男は只静かだった。
「あなたは食べても良い人類?」
その静寂を破る問いかけが男の背後から発せられた。
男は僅かの動揺を見せ、その方を見た。
「ねぇ・・あなたは食べても良い人類?」
同じ問いかけが再び男に投げかけられる
それは少女だった。
木々の奥にある暗がりに紛れるようなまっ黒な服を着た少女だった。
男は後ろ手を組み少女と正対する。
そして静かに言葉を発する。
「残念だが私は食べても旨くはない」
「あら?あなたとってもおいしそう」
「そんな訳があるか、こんな時間に何をフラフラしている。キミは家に帰りなさい」
「えー」
「えー、じゃない。さぁ、回れ右!」
少女はクスクスと笑う。
「なぜ笑うのだ、ご両親が心配してるだろう、さぁ帰りなさい」
「あなた変な人間ね」
「変な人間?」
「そう、変」
男が僅かに眉をひそめる
「変人と言うがキミこそ変わりものだろう」
「あら、わたしは妖怪よ。妖怪は皆こんなものなのよ」
「妖怪?(ことぶきや秋山のことか・・・?)」
「そう妖怪。妖怪は闇に潜み人を襲って喰らう・・そういうものなのよ?
そうあなたのような”ニンゲン”を・・・ね?」
男は表情を変えず、ただ少女の顔を見据えていた。
「では、私を食べるのか?」
「ええ」
「そうか、ではそうしなさい、但し痛くしないように」
「え?」
予想外の答えに少女は驚きの声を上げた。
「まだ今晩の生姜紅茶と高品位粗食を摂取していないし、用務員作業も完了していないが、それが私の運命なのだろう」
男は未だ表情を変えずただ淡々と話す。
「ウフフッ・・アハハハハ!」
大きな声で少女が笑う。
物静かな森の中にその高い声がコンコンと反響する。
「なぜ笑うのだ」
男が少々面白くなさそうに表情を歪める。
「あなた・・・本当に面白いわ!」
「・・・」
「ねぇ、もうちょっとお話しましょ?」
しばし男が黙る。
少女と男の間に再び静寂が訪れ・・・なかった。
「アンコールはやんないとゆっただろう!?」
「ふぇっ!?」
「帰れー!」
「私は怖い人なんですから!」
「え、ちょ?」
・・・!
・・・・!!
・・・・・・・・!!?
表情をまったく変えずひたすら男が捲し立てる。
傍から見れば何とも珍妙な光景であり表現することすら難しいがそこは脳内で補完するように。えー、じゃない。
「さて・・・」
一通り捲し立てた後何事もなかったかのように男は切りだした。
「ふぇっ!?」
先程まであれほどの威厳を醸し出していた自称妖怪の少女は
今では見る影もなく怯えきった表情で男の顔を見た。その顔は今にも泣きだしそうである。
「キミに聞きたいことがあるのだが、いいかな?」
「ここはどこだ?」
2、夢みる機械
先程のイザコザもあり完全にペースを男に奪われた少女はだとだとしい様子で説明をはじめた。
「幻想郷・・・?」
「そう、ここは幻想郷。外の世界で忘れられたものが最期に流れ着くところよ」
「私は・・・忘れられたのか・・・?」
今まで全くの真顔だった男は初めて表情を曇らせた。
「とは言っても、他にも色んな訳があって偶然辿りつくこともあるからそういう訳でもないらしいけど・・・」
萎縮したというか、顔を伏せ何ともしおらしい上目づかいで少女は男を見上げる。
如何にも少女と、と言った仕草でありこれだけを見れば何とも可愛らしい事か。
「貴方は多分神隠しに遭った類だと思うわ、もしくは自力で辿りついたか・・・」
「自力でと言うが私は好きで来た訳ではないのだが・・・」
「貴方、変な人間だもの。ここにはそんなのばっかしだし」
「・・・(そう何度も、変、変と連呼されるのは良い気がしないのだが)」
「では、私は早々につくば山頂に帰るとする、近くにバスの駅か何かはないかね?」
「貴方・・・あんまり人の話を聞かない人間なの?」
やや持ち直した風な少女は少々呆れた様子で問いかけた
「そういう訳ではないが・・」
男はややバツが悪そうに答えた。その顔は全くの真顔であるが・・・
「ここは幻想郷。忘れられたものが最後に流れ着く所、そして貴方が居た外の世界とは隔てられた世界なのよ」
「今、私は大変混乱している」
「把握は出来たが理解はしかねている」
「つまり・・・どういうことかな?」
「貴方はここから出ることが出来ないということよ」
少女は完全に呆れているようだ。やれやれと首振る仕草が何とも可愛らしい、うん可愛い。
「何と・・・」
ああ・・・窮地の少年よ、私を救いたまえ・・・。
3、SIREN
「あーあ、何だか今日はニンゲンを食べる気がなくなっちゃったわ」
少女が呟く。
「それは大変結構!」
「私も頭をかじられるのは好ましくないからね!」
「別に怖かったとかそんなんじゃないから!」
「そんなこと誰も言ってないじゃない・・・」
少しは落ち着けよと言った風に少女が男を諌める
「それで・・貴方はこれからどうしたいの?」
「どうしたい・・とは?」
意外な、といった表情をわずかに見せ男が聞き返す。
「このままここに居ても私じゃない別の妖怪に食べられるだけよ?」
「それは大変困るな」
「良かったら近くの安全な場所に連れてってあげるわ」
「なぜ?キミは私をとって喰うつもりだったのだろう?」
己をとって喰おうとした相手の意外な提案に思わず、再び聞き返す。
その顔は僅かに眉をひそめている。
「だって、貴方・・・変だもの」
「その気持ちは嬉しいが、そう何度も変と言われるといい気はしないからね」
「フフ・・・こっちよ、ついて来て」
少女が身を翻す、それに合わせて男も歩を進めようとするが・・・
フワッ
少女の身が空へと舞い上がった。
「なんと・・・」
いきなりの光景に男は呆気にとられる。
その間にも少女はグングン上昇し、さざめく木々の上に消えようとしていた。
「ま、待ちなさい!」
少女を見失いかけそうになった男は、少女を呼びとめる。
「えー」
「えー、じゃない!回れ右!」
・・・・・
森の中、男が少女に付き従いながら歩を進める。
少女が両手を広げ男の前をフワフワと漂っている。
「そーいえば外のニンゲンって空を飛べないのね、忘れてたわ」
ケラケラと笑いながら少女は言う。
「当然だ、そもそも羽もスツーカもない人間が飛べるわけがないからね」
「貴方なら飛べそうだと思ったのだけど?」
「キミは私を何だと思っている、私はマイナーなただの人間だからね」
呆れた風に男は言う、真顔で。
「えっと・・・妖怪とかそんなの?」
「ことぶきとか秋山と一緒にしないで貰いたいが・・・」
「え、誰?」
少女が振り返る。キョトンとした顔をしている。可愛い。
「いや、何でもない」
それからはしばしの間無言のまま歩を進めていった。
先程までは広葉樹の生い茂る雑木林のようだったが、徐々に竹が増えてきたようだ竹林だろうか・・・。
「そういえば・・」
少女が呟く。
「どうかしたのかな?」
男が聞き返す。
「貴方なんていうの、名前」
「む・・・まだ名乗ってなかったかな」
「うん」
「人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だからね」
「そーなのかー?」
少女は首を傾げる。
「そうなの!」
むー・・・と若干腑に落ちない様子を見せた少女であるが、一応は納得したようである。
「わたしはルーミアっていうの、宵闇の妖怪とか、最近の外来人にはなぜか”るーみゃ”とか呼ばれてるわ」
「そうか」
「この前なんてね、食べてやろうとした眼鏡かけたふとっちょが”るーみゃ!可愛いよぉぉ!るーみゃうわあああん!!!!”とか叫びながら逆に追いかけてきたの」
「怖かった」
「ひくわー」
「それで貴方はなんていうの?」
「私は平沢進と言う。音楽を生業としているがなぜか馬の骨どもには師匠などと呼ばれている、なぜか」
「ししょー?馬の骨?」
なんか最初の頃の威厳など全くない感じのあどけない表情で首を傾げている。
「キミの言う眼鏡のふとっちょと同じようなものだ」
「そーなのかー」
「貴方・・もしかして有名なニンゲンなの?」
「私はマイナーだからね、間違えないように」
「そーなのかー」
再び少女がカラカラと笑う。
「む・・何やら嫌な匂いが・・・」
ふとすると、辺りにいやーな匂いが漂ってきた、ちょうどタレを肉に塗りたくって炭火で焼いたようないやーな匂いである。
そして、今まで風の音しか聞こえなかった音の中に何やら歌のようなものが微かに紛れこんでいた。
男と少女もといルーミアはその香ばしい匂いと歌声のする方へと歩を進めて行った。
だんだんと、匂いと歌声が大きくなってくる。嗅覚を犯す異臭はさておき、歌の方はかなりの美声の持ち主のようだ。
「あ、もうすぐ着くわよ」
確かに真っ暗であった竹林の奥にボウっと紅い光が漏れているのが見えてきた。
匂いと明りの察するところ、屋台か何かなのだろう。
「おーい、みすちー!」
案の定屋台だった目的地が間近になったところでルーミアは大きな声で呼びかけた。
「あら、ルーミアいらっしゃ・・・あら?」
どうやらみすちーと呼ばれていた相手も気付いたらしくこちらへと声を返す。
「そちらの方は・・・?」
屋台で店を仕切っていたのはむさ苦しいおっさんでも気前の良さそうなおばちゃんでもなく割烹着を着た少女の姿だった。あの美声の主と考えると大体予想は付いていたが・・・。
もっともこの少女にもふわふわとした毛羽の耳と背中の翼がありその事から人で在らざるモノであることが覗えた。
どうやら男の存在にも気付いたらしく串を回していた手を止め、不思議そうにこちらを見つめている。
「えっとね、すすむおじさんっていうの」
「おじさんはよしなさい、おじさんは・・・」
少し呆れた表情を男が浮かべた。
「ヒラサワと申します」
改めて自己紹介をし、男が頭を下げる。
「あらあら、いらっしゃい。ルーミアが誰かを連れてくるなんて珍しいんですよ、いつも一人でフラフラとやって来るのが大半で・・・」
「それで・・・もしかして妖怪の方でしょうか?」
訝しげに店主の少女が尋ねる。
「ほ」
「残念ながらこのヒラサワ、生まれてこの方人間として生きております」
「まぁ!?」
女将がやけに驚いた声をあげた。
「この子が人間を連れてくるなんて・・・明日は雨かしら・・・」
何やらブツブツと言っている、そんなに珍しい事なのだろうか・・・。
「みすちー!」
そこに完全に輪の外にいたルーミアが声を張り上げた。可愛い。
「お腹すいたー!何か食べさせてー」
「ハイハイ、今日は活きの良いヤツメとヤマメがあるから食べて行きなさい」
どうやら男はルーミアの夕飯のついでにここまで連れてこられたようだ。
「えっと、そちらのヒラサワさんは?」
「む、私は肉は好まない。気持ちが悪くなる」
「あ、そうですか、じゃあ人里の方から頂いた里いもがありますのでそちらを出せて頂きますね」
既にルーミアがちょこんと席に陣取っていた。
男も渋々暖簾をくぐり、一つ離れた席に腰を掛けた。久々に出歩いたせいで足腰が痛い。
それからしばらく男は女将が手慣れた仕草で串を回す様を眺めていた。
ルーミアは女将の目の前で魚だのが焼けて行く様子をじっと見つめている。あ、よだれよだれ。
「そういえば・・・さっき歌が聴こえていたが、あれはキミの歌かな?」
ふと思い出したように男が女将に疑問を投げかけた。
「え?あぁ・・もしかして聴こえてましたか?恥ずかしいです」
女将が頬を紅潮させながら恥ずかしそうに答えた。
「何を恥じることがある、私の好みとは違うがキミは良いモノを持っている」
一言余計な気がするが気にしてはいけない。
「あ・・ありがとうございます」
女将が一層顔を紅くした。
「と、ところで!」
「・・・?」
女将が流れを断ち切るように声をあげた。
「ヒラサワさんは外来人のようですが、どうしてここへ!?」
「それが分かれば私も苦労はしない」
「あー・・・そうですね、では!ご職業は!?」
「一応音楽を生業としているが?」
「そ、それなら歌もお上手いでしょうね?」
よっぽど恥ずかしかったのか、声が上ずっているように感じる。
「私を支持する有象無象どもは私の声を褒め讃えるが、それはあくまで他人の評価でしかないので」
「も、もし良かったら!一つ聴かせていただけないでしょうか?」
女将が男に注文を付けてきた。
料理屋が客に注文を付けるところには碌なところがないと相場が決まっているが、
女将が動揺して串を焦がしているのに気付かず、それを恨めしそうに睨みつけているルーミアに若干の寒気を感じていたので注文を受けることにした。
「む・・・では少し練習をさせて貰おう」
あーごほんと男が声を整える。
そして息を吸い、声をあげた。
「ヘーイャイィーーーー!!」(出典:庭師KING)
「きゃ!?」
「ふえ!?」
ガシャーン!!
突然放たれる裏声。
それはとても初老の男から出るものとは到底感じられず、女将は驚きのあまり小さな悲鳴を上げ、完全に不意打ちだったルーミアに至っては椅子から転げ落ちてしまった。
この男、医者に裏声を出して下さいと言われ、医者を驚かせたほどである。
1、ナーシサス次元から来た男
男が目を覚ます。
夜。
森の中だろうか、辺りは暗い、さざめく木々の隙間から青白い月が僅かに覗いてる。
男が身を起こす。
静寂。
慌てた様子もなく、見も知らぬ景色を観察している。
わずかに木々の葉が擦れる音がするがその男は只静かだった。
「あなたは食べても良い人類?」
その静寂を破る問いかけが男の背後から発せられた。
男は僅かの動揺を見せ、その方を見た。
「ねぇ・・あなたは食べても良い人類?」
同じ問いかけが再び男に投げかけられる
それは少女だった。
木々の奥にある暗がりに紛れるようなまっ黒な服を着た少女だった。
男は後ろ手を組み少女と正対する。
そして静かに言葉を発する。
「残念だが私は食べても旨くはない」
「あら?あなたとってもおいしそう」
「そんな訳があるか、こんな時間に何をフラフラしている。キミは家に帰りなさい」
「えー」
「えー、じゃない。さぁ、回れ右!」
少女はクスクスと笑う。
「なぜ笑うのだ、ご両親が心配してるだろう、さぁ帰りなさい」
「あなた変な人間ね」
「変な人間?」
「そう、変」
男が僅かに眉をひそめる
「変人と言うがキミこそ変わりものだろう」
「あら、わたしは妖怪よ。妖怪は皆こんなものなのよ」
「妖怪?(ことぶきや秋山のことか・・・?)」
「そう妖怪。妖怪は闇に潜み人を襲って喰らう・・そういうものなのよ?
そうあなたのような”ニンゲン”を・・・ね?」
男は表情を変えず、ただ少女の顔を見据えていた。
「では、私を食べるのか?」
「ええ」
「そうか、ではそうしなさい、但し痛くしないように」
「え?」
予想外の答えに少女は驚きの声を上げた。
「まだ今晩の生姜紅茶と高品位粗食を摂取していないし、用務員作業も完了していないが、それが私の運命なのだろう」
男は未だ表情を変えずただ淡々と話す。
「ウフフッ・・アハハハハ!」
大きな声で少女が笑う。
物静かな森の中にその高い声がコンコンと反響する。
「なぜ笑うのだ」
男が少々面白くなさそうに表情を歪める。
「あなた・・・本当に面白いわ!」
「・・・」
「ねぇ、もうちょっとお話しましょ?」
しばし男が黙る。
少女と男の間に再び静寂が訪れ・・・なかった。
「アンコールはやんないとゆっただろう!?」
「ふぇっ!?」
「帰れー!」
「私は怖い人なんですから!」
「え、ちょ?」
・・・!
・・・・!!
・・・・・・・・!!?
表情をまったく変えずひたすら男が捲し立てる。
傍から見れば何とも珍妙な光景であり表現することすら難しいがそこは脳内で補完するように。えー、じゃない。
「さて・・・」
一通り捲し立てた後何事もなかったかのように男は切りだした。
「ふぇっ!?」
先程まであれほどの威厳を醸し出していた自称妖怪の少女は
今では見る影もなく怯えきった表情で男の顔を見た。その顔は今にも泣きだしそうである。
「キミに聞きたいことがあるのだが、いいかな?」
「ここはどこだ?」
2、夢みる機械
先程のイザコザもあり完全にペースを男に奪われた少女はだとだとしい様子で説明をはじめた。
「幻想郷・・・?」
「そう、ここは幻想郷。外の世界で忘れられたものが最期に流れ着くところよ」
「私は・・・忘れられたのか・・・?」
今まで全くの真顔だった男は初めて表情を曇らせた。
「とは言っても、他にも色んな訳があって偶然辿りつくこともあるからそういう訳でもないらしいけど・・・」
萎縮したというか、顔を伏せ何ともしおらしい上目づかいで少女は男を見上げる。
如何にも少女と、と言った仕草でありこれだけを見れば何とも可愛らしい事か。
「貴方は多分神隠しに遭った類だと思うわ、もしくは自力で辿りついたか・・・」
「自力でと言うが私は好きで来た訳ではないのだが・・・」
「貴方、変な人間だもの。ここにはそんなのばっかしだし」
「・・・(そう何度も、変、変と連呼されるのは良い気がしないのだが)」
「では、私は早々につくば山頂に帰るとする、近くにバスの駅か何かはないかね?」
「貴方・・・あんまり人の話を聞かない人間なの?」
やや持ち直した風な少女は少々呆れた様子で問いかけた
「そういう訳ではないが・・」
男はややバツが悪そうに答えた。その顔は全くの真顔であるが・・・
「ここは幻想郷。忘れられたものが最後に流れ着く所、そして貴方が居た外の世界とは隔てられた世界なのよ」
「今、私は大変混乱している」
「把握は出来たが理解はしかねている」
「つまり・・・どういうことかな?」
「貴方はここから出ることが出来ないということよ」
少女は完全に呆れているようだ。やれやれと首振る仕草が何とも可愛らしい、うん可愛い。
「何と・・・」
ああ・・・窮地の少年よ、私を救いたまえ・・・。
3、SIREN
「あーあ、何だか今日はニンゲンを食べる気がなくなっちゃったわ」
少女が呟く。
「それは大変結構!」
「私も頭をかじられるのは好ましくないからね!」
「別に怖かったとかそんなんじゃないから!」
「そんなこと誰も言ってないじゃない・・・」
少しは落ち着けよと言った風に少女が男を諌める
「それで・・貴方はこれからどうしたいの?」
「どうしたい・・とは?」
意外な、といった表情をわずかに見せ男が聞き返す。
「このままここに居ても私じゃない別の妖怪に食べられるだけよ?」
「それは大変困るな」
「良かったら近くの安全な場所に連れてってあげるわ」
「なぜ?キミは私をとって喰うつもりだったのだろう?」
己をとって喰おうとした相手の意外な提案に思わず、再び聞き返す。
その顔は僅かに眉をひそめている。
「だって、貴方・・・変だもの」
「その気持ちは嬉しいが、そう何度も変と言われるといい気はしないからね」
「フフ・・・こっちよ、ついて来て」
少女が身を翻す、それに合わせて男も歩を進めようとするが・・・
フワッ
少女の身が空へと舞い上がった。
「なんと・・・」
いきなりの光景に男は呆気にとられる。
その間にも少女はグングン上昇し、さざめく木々の上に消えようとしていた。
「ま、待ちなさい!」
少女を見失いかけそうになった男は、少女を呼びとめる。
「えー」
「えー、じゃない!回れ右!」
・・・・・
森の中、男が少女に付き従いながら歩を進める。
少女が両手を広げ男の前をフワフワと漂っている。
「そーいえば外のニンゲンって空を飛べないのね、忘れてたわ」
ケラケラと笑いながら少女は言う。
「当然だ、そもそも羽もスツーカもない人間が飛べるわけがないからね」
「貴方なら飛べそうだと思ったのだけど?」
「キミは私を何だと思っている、私はマイナーなただの人間だからね」
呆れた風に男は言う、真顔で。
「えっと・・・妖怪とかそんなの?」
「ことぶきとか秋山と一緒にしないで貰いたいが・・・」
「え、誰?」
少女が振り返る。キョトンとした顔をしている。可愛い。
「いや、何でもない」
それからはしばしの間無言のまま歩を進めていった。
先程までは広葉樹の生い茂る雑木林のようだったが、徐々に竹が増えてきたようだ竹林だろうか・・・。
「そういえば・・」
少女が呟く。
「どうかしたのかな?」
男が聞き返す。
「貴方なんていうの、名前」
「む・・・まだ名乗ってなかったかな」
「うん」
「人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だからね」
「そーなのかー?」
少女は首を傾げる。
「そうなの!」
むー・・・と若干腑に落ちない様子を見せた少女であるが、一応は納得したようである。
「わたしはルーミアっていうの、宵闇の妖怪とか、最近の外来人にはなぜか”るーみゃ”とか呼ばれてるわ」
「そうか」
「この前なんてね、食べてやろうとした眼鏡かけたふとっちょが”るーみゃ!可愛いよぉぉ!るーみゃうわあああん!!!!”とか叫びながら逆に追いかけてきたの」
「怖かった」
「ひくわー」
「それで貴方はなんていうの?」
「私は平沢進と言う。音楽を生業としているがなぜか馬の骨どもには師匠などと呼ばれている、なぜか」
「ししょー?馬の骨?」
なんか最初の頃の威厳など全くない感じのあどけない表情で首を傾げている。
「キミの言う眼鏡のふとっちょと同じようなものだ」
「そーなのかー」
「貴方・・もしかして有名なニンゲンなの?」
「私はマイナーだからね、間違えないように」
「そーなのかー」
再び少女がカラカラと笑う。
「む・・何やら嫌な匂いが・・・」
ふとすると、辺りにいやーな匂いが漂ってきた、ちょうどタレを肉に塗りたくって炭火で焼いたようないやーな匂いである。
そして、今まで風の音しか聞こえなかった音の中に何やら歌のようなものが微かに紛れこんでいた。
男と少女もといルーミアはその香ばしい匂いと歌声のする方へと歩を進めて行った。
だんだんと、匂いと歌声が大きくなってくる。嗅覚を犯す異臭はさておき、歌の方はかなりの美声の持ち主のようだ。
「あ、もうすぐ着くわよ」
確かに真っ暗であった竹林の奥にボウっと紅い光が漏れているのが見えてきた。
匂いと明りの察するところ、屋台か何かなのだろう。
「おーい、みすちー!」
案の定屋台だった目的地が間近になったところでルーミアは大きな声で呼びかけた。
「あら、ルーミアいらっしゃ・・・あら?」
どうやらみすちーと呼ばれていた相手も気付いたらしくこちらへと声を返す。
「そちらの方は・・・?」
屋台で店を仕切っていたのはむさ苦しいおっさんでも気前の良さそうなおばちゃんでもなく割烹着を着た少女の姿だった。あの美声の主と考えると大体予想は付いていたが・・・。
もっともこの少女にもふわふわとした毛羽の耳と背中の翼がありその事から人で在らざるモノであることが覗えた。
どうやら男の存在にも気付いたらしく串を回していた手を止め、不思議そうにこちらを見つめている。
「えっとね、すすむおじさんっていうの」
「おじさんはよしなさい、おじさんは・・・」
少し呆れた表情を男が浮かべた。
「ヒラサワと申します」
改めて自己紹介をし、男が頭を下げる。
「あらあら、いらっしゃい。ルーミアが誰かを連れてくるなんて珍しいんですよ、いつも一人でフラフラとやって来るのが大半で・・・」
「それで・・・もしかして妖怪の方でしょうか?」
訝しげに店主の少女が尋ねる。
「ほ」
「残念ながらこのヒラサワ、生まれてこの方人間として生きております」
「まぁ!?」
女将がやけに驚いた声をあげた。
「この子が人間を連れてくるなんて・・・明日は雨かしら・・・」
何やらブツブツと言っている、そんなに珍しい事なのだろうか・・・。
「みすちー!」
そこに完全に輪の外にいたルーミアが声を張り上げた。可愛い。
「お腹すいたー!何か食べさせてー」
「ハイハイ、今日は活きの良いヤツメとヤマメがあるから食べて行きなさい」
どうやら男はルーミアの夕飯のついでにここまで連れてこられたようだ。
「えっと、そちらのヒラサワさんは?」
「む、私は肉は好まない。気持ちが悪くなる」
「あ、そうですか、じゃあ人里の方から頂いた里いもがありますのでそちらを出せて頂きますね」
既にルーミアがちょこんと席に陣取っていた。
男も渋々暖簾をくぐり、一つ離れた席に腰を掛けた。久々に出歩いたせいで足腰が痛い。
それからしばらく男は女将が手慣れた仕草で串を回す様を眺めていた。
ルーミアは女将の目の前で魚だのが焼けて行く様子をじっと見つめている。あ、よだれよだれ。
「そういえば・・・さっき歌が聴こえていたが、あれはキミの歌かな?」
ふと思い出したように男が女将に疑問を投げかけた。
「え?あぁ・・もしかして聴こえてましたか?恥ずかしいです」
女将が頬を紅潮させながら恥ずかしそうに答えた。
「何を恥じることがある、私の好みとは違うがキミは良いモノを持っている」
一言余計な気がするが気にしてはいけない。
「あ・・ありがとうございます」
女将が一層顔を紅くした。
「と、ところで!」
「・・・?」
女将が流れを断ち切るように声をあげた。
「ヒラサワさんは外来人のようですが、どうしてここへ!?」
「それが分かれば私も苦労はしない」
「あー・・・そうですね、では!ご職業は!?」
「一応音楽を生業としているが?」
「そ、それなら歌もお上手いでしょうね?」
よっぽど恥ずかしかったのか、声が上ずっているように感じる。
「私を支持する有象無象どもは私の声を褒め讃えるが、それはあくまで他人の評価でしかないので」
「も、もし良かったら!一つ聴かせていただけないでしょうか?」
女将が男に注文を付けてきた。
料理屋が客に注文を付けるところには碌なところがないと相場が決まっているが、
女将が動揺して串を焦がしているのに気付かず、それを恨めしそうに睨みつけているルーミアに若干の寒気を感じていたので注文を受けることにした。
「む・・・では少し練習をさせて貰おう」
あーごほんと男が声を整える。
そして息を吸い、声をあげた。
「ヘーイャイィーーーー!!」(出典:庭師KING)
「きゃ!?」
「ふえ!?」
ガシャーン!!
突然放たれる裏声。
それはとても初老の男から出るものとは到底感じられず、女将は驚きのあまり小さな悲鳴を上げ、完全に不意打ちだったルーミアに至っては椅子から転げ落ちてしまった。
この男、医者に裏声を出して下さいと言われ、医者を驚かせたほどである。
師匠のキャラが単純に面白かった
幻想入りものでルーミアと最初に出会うっていうパターンは、使い古されてるにもほどがあるんだけど、
師匠VSルーミアの掛け合いに何故か新鮮さがあったのが、すごく印象的
次の作品にも期待してます
みつを
あれほど某動画サイトで人気なのに、どうして東方との関わりが少ないんだろうと思っていました。
文章の技術は、どこがというより全般的に未熟なので、
まずはあなた自身が楽しんで書かれることが第一かと思います。
続けていればそのうちうまくなりますよ。
!?の後は一文字開けるとかの、国語の基本は適度に押さえておいた方がいいかも。
でも、こういうのが書きたい! と言うのは伝わってきたので、書き続ければ化けるかと。
全体的な印象は、平沢進というよりは、平沢進BOTが呟いているような印象でした。
Twitterではかなりぶっきらぼうに呟いてますが、当たり前ですけど、インタビューでは普通に話してますし、五十も半ばの人間が、初対面の相手にこう話すか? は個人的には疑問です。
まあ、キャラ立てと言う点ではそれも間違ってないのかもしれません、ただ、実在の人物となると、それにしてもキャラを理解させるために言葉を尽くして欲しいとは思いました。
その流れで付け加えると、正直、平沢進を知らない人には、これは恐らくは意味がわからないSSではないかとも思いました。
平沢進の知名度に関しては何とも言えませんが、あくまでここは「東方」創想話なので、クロスにしても読者に東方以外の知識を求めてはいけないと私は思います。
例えば
>「一応音楽を生業としているが?」
>「私を支持する有象無象どもは私の声を褒め讃えるが、それはあくまで他人の評価でしかないので」
この下りから考えると、平沢進を知らない人がこれを読んだなら、恐らくはボーカリストと思うのではないでしょうか?
私は勿論、平沢進が「ギタリストと呼ばれたくない」ギタリストで有ることを知ってますし、それに留まらないマルチミュージシャンであることを知ってます。ですが、このSSだけでそれを理解できるとは思えません。
現状では、平沢進を知らない人には意味のわからない、知っている人には不満の残るという不幸なSSになってしまっている、と言う印象も持ちました。
後は、プロローグで終わらせるのではなく、一つで完結させるか、あるいはしっかり後の構想まで練った上で書いて、投稿した方がよいと思います。これだけでは煮え切らない感は否めませんし、しっかり落ちのついていないSSは読者としてはやはり楽しめませんので。
文章に関しては、人に言えるほどのものはないのですが、改行の仕方から箇条書きのような印象を持ちましたし、セリフも含めて全体的に説明的すぎて、堅い印象を持ちました。ただ、そこは好みですのでなんとも。
ただ、既に既出の!や?の後は一文字開ける、に加えて、「・・・」は「……」と使うのが文章の作法ですので、少なくともそこだけは修正した方がいいでしょう。
やはり最初に注意書きなり説明なりを書かないと、初めての人には不親切かと。
「ニコニコ動画」やウィキなどの参照を最初に勧めておいたほうがよいかと思われます。
文章の書き方に関しては、他の人も色々と書いているのでどうしても気になった所を。
会話部分は強調したいセリフがある場合などはともかくとして、一行空けにはしないほうが読みやすいです。
それから句読点も入れないと読みにくく感じる場合があります。
たとえば
>先程までは広葉樹の生い茂る雑木林のようだったが、徐々に竹が増えてきたようだ竹林だろうか・・・。
ここでは「ようだ」と「竹林」の間に、句点なり読点なりを入れたほうが良いかと思います。
後はセリフの繋がりが「あれ?」と思うような所が度々ありました。
一つのセリフにまとめたり、地の文や他のキャラのセリフを入れるなどしてみては?
例として
>「この前なんてね、食べてやろうとした眼鏡かけたふとっちょが”るーみゃ!可愛いよぉぉ!るーみゃうわあああん!!!!”とか叫びながら逆に追いかけてきたの」
>「怖かった」
ここは一つのセリフにしてしまうか、何か地の文を入れたほうが良いように思いますし、
>「あらあら、いらっしゃい。ルーミアが誰かを連れてくるなんて珍しいんですよ、いつも一人でフラフラとやって来るのが大半で・・・」
>「それで・・・もしかして妖怪の方でしょうか?」
>訝しげに店主の少女が尋ねる。
ここは最初のセリフを「いらっしゃい」と「ルーミアが~」に分けて平沢かルーミアのセリフを入れ、次のセリフと地の文の順序を入れ換えるか、またどちらかのセリフを入れたほうが良いかと思いました。
誰の発言かも分かりにくい所がありましたね。これです。
>「ほ」
前後の内容からして恐らくルーミアの発言でしょうが、やはり前後に地の文があった方が分かりやすいでしょう。
重箱の隅をッほじくるような細々とした指摘をしましたが、師匠と他の東方キャラとの絡みも見てみたく、このSSには期待しています。
御祝儀と次回の期待で、この点数です。
セリフをぶつ切りにしないでまとめたほうが読みやすくなると思います。
まず不完全な形で作品を上げたことをお詫びいたします。お目汚し失礼しました。
見直してみると誤字こそないものの(多分)、身悶える内容だったと反省しています。
皆々さまの貴重なご意見を参考に勉強して出直してきたいと思います。どうもありがとうございました。
ルーミアは俺の嫁ぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁ
とうじょう人物がみんなかわいくて素敵でした