そして翌日のお昼頃、私と聖は歩いて人里へと向かった。
聖は良く「親交を深めるため」と言って人里に行くことがあるが、私は余り行く機会がないので、少し緊張
しながら、歩みを進めていた。
そう言えば、その人里の代表者とはどんな人なのだろうか、人里に頻繁に訪れている聖なら知っている
だろうと思い、私は聖に訪ねる。
「それがね、私も話だけは聞いたことがあるし、前から会ってみたいとは思っていたんだけど、実際にあ
ったことはないのよねぇ、だから私もちょっと緊張するわ。」
どうやら私が緊張していたのに気付かれていたようだ。恥ずかしくなって俯いた私の頭上からもう一度、
聖の声が聞こえて来た。
「あぁ、でもお名前と職業知っているわ。上白沢慧音、寺子屋の先生をしているんだって。」
そしてしばらく歩いた後、人里の入り口と、其処に立つ一人の女性が目に入った。
それは、前髪だけが青み掛った銀の長髪を持った長伸の女性だ。
その女性が、こちらに気付いたようで手を振っている。
聖が手を振り返した後、足早になったため、私も速度を上げてそれに付いて行く。
「やぁ、あなたが聖白蓮か、私が上白沢慧音だ、色々と噂はきかせてもらっているよ」
そう友好的に彼女が自己紹介をし、聖もそれに返すように自己紹介をする。
「えぇ、こちらは付き添いの村紗水蜜です、以後お見知りおきを。」
聖が丁寧にお辞儀したのに倣い、私もお辞儀をする。そして、顔を上げた後慧音さんが、
「立ち話もなんだから、とりあえず移動しよう」
と言うので、私達は彼女の後について行くことにした。
そして私達は、少し歩いた所にある、大きめの建物に案内される。門の看板を見たところ、どうやらここが寺子屋だったようだ。
「応接室」と案内板が下がった部屋に通されると、其処にあった長い机に、対面になる形で、私達は座っ
た。
そして、慧音さんから、
「で、用件はなんだっただろうか?」
「実は私達の船を遊覧船として使って見ようかと思いまして。人里の代表である貴女に許可を取りにきた
次第ですわ。」
「ふむ…確かにそれは面白い試みかも知れないが2、3質問しても良いだろうか。」
聖が首肯をして、慧音さんが質問を始める。
慧音さんが質問したのはほぼ一昨日の夜に私達がした質問や、飛んでいる間の妖怪への対処の事や、
そもそも船はどうやって飛んでいるかなど多岐に及んだ。
それらの質問に、聖が、そして船に関する事に対しては私が、丁寧に答えて行く。
そして質問が少し途切れた後、不意にこんな質問が投げかけられた。
「しかし、船を飛ばすとして貴女たちに益はあるのか?」
その質問に聖はにっこりと笑いながら答える。
「えぇ、人々の笑顔が見られますわ。」
すると慧音さんが突然、
「・・・・・・。クッ、ハハッ、ハハハハハッ!!!では貴女方は何を目指すのだ?貴方達も妖怪だろう?」
その問いに、聖は臆面もなく、
「人間と妖怪が平等で居られる世界、ですわ。」そう、答えた。
「ハハハハハッ!私は人間を守る立場なのだがな。だがしかし人間と妖怪が平等な世界とはっ!そんな世界
がもしあったとしたらそれは良いかもしれんな。」
慧音さんはそこで一息つき、落ち付いた顔で言う。
「いいだろう。いや、その計画私も是非参加させていただけないだろうか。」
そう言って、慧音さんは深くお辞儀をする。
そして、聖は後光が射しているかのような笑顔で肯いた。
その後、慧音さんと聖は当日の打ち合わせをした。
大まかに決まった事は次の事だ。
・当日船に乗ってもらうのは件の『空から幻想郷を見てみたいと』言った人間とその護衛として慧音さん
も同行すること
・ルートは候補の中からその人間が選ぶこと
・当日は慧音さんがその人間を連れて命蓮寺まで来ること
・ルートに関係なく、日が落ちる頃には人間の里に帰ること
これらが決まった後、私達は人間の里を後にして、帰路についた。丁度日が落ちかけようとしている頃で
、夕焼けがとてもきれいだった。
しかし、そんな考えを打ち消すかの様な声が、頭上から私達に投げかけられた。
「また面白そうな事企んでるみたいじゃない?聖」
その声に私達は、足を止めて頭上を仰ぎ見る。そこにいたのは短い黒髪と蛇のような翼をもつ少女、封
獣ぬえだ。
私は知っている。例えどんな事だろうと彼女が絡むとロクなことになった試しがない事を。そして悟る。今
回の計画も、彼女が邪魔しようとしている事を。
しかし聖はそんな彼女にも笑顔を向け、「あなたも一緒にどうです?」と尋ねる。
ぬえはその言葉に吃驚したように数回瞬きをした後、ケタケタと笑いながら言った。
「い~や、私は人間の笑顔なんて見る気ないからね。遠慮させてもらうよ。」
「そうですか、それは残念ですが、もし気が変わったら何時でも言ってください。」
その言葉にも相変わらずぬえは口を歪ませて笑っていた。そしてしばらくしてから小さく「じゃあね」と呟
いて忽然と姿を消した。
まったく、ぬえははなんのつもりなのだろうか。だがしかし一つわかった事がある、
恐らく、今回の計画で最も警戒しなくてはいけないのは、彼女だということが・・・
一週間後、空は雲一つもない快晴で、空の青が眩しい日に、私達は船を飛ばすことにした。
すでに船の修繕やルートの選定も終わり、あとは客人と慧音さんが来るのを心待ちにするだけだ。
そして昼前、道の向こうから慧音さんと客人がやってきたのだが、客人の姿に聖以外の面々は驚きを隠
しきれなかった。その客人は慧音さんの寺子屋で勉学に励む、年端もいかない少女だったのだ。
最初は驚きこそすれ、よくよく考えてみれば『空から幻想郷を見たい』とは実に子供らしい発想だという
事に気付いた私達は少女と慧音さんを船に乗せて、空に上がることにした。
そして少女が数あるルートの中から竹林へ向かうルートを選ぶと、私は舵をとり、船を上空へと飛ばした
。
今回少女が選んだ竹林ルートは数あるルートの中で最も短いもので、人里の近くにある竹林を通り、永
遠亭を迂回、竹林を戻って人里上空を旋回して戻る、というものだ。
そして永遠亭の上空を迂回して、再び竹林にさしかかるころ、それは起こった。
迂回ポイントを通った後は、しばらく竹林上空をまっすぐ飛ぶだけなので、私は船を自動操縦にし、デッキ
から甲板に出ることにした。
甲板の上ではこの飛行が始まった時から聖と少女が舳先で談笑を続けていて、慧音さんと星はそれを
少し離れた所から見守っている。
甲板に出た私が、初夏の生温かい風を身体に受けていると、今最も聞きたくない声がデッキの屋根の上
から聞こえた。
「聖はずいぶん楽しそうだね、ムラサ?」
その声は一週間前に私と聖の前に現れた少女、封獣ぬえのものだ。一体今更何をしに来たのだろうか
、まぁ彼女が素直に私達の計画に素直に参加するとは到底思えないので、妨害するためであろうことは
間違いないのだが。
「そうですね、それで、そんな聖を見て、貴方も参加する気になりましたか?まぁもう航路も半分ほど過ぎてしまいましたが。」
私が努めて不機嫌にそう言うと、彼女は一週間前と同じようにケタケタ笑いながら言う。
「はっ、半分過ぎとは私も丁度いいタイミングで来たもんだねぇ。」
「いいタイミング?一体なんの事です?」
「いやさ、物語ってのは『起承転結』っていうのでなるもんでしょ?半分過ぎたってことはさ」
少しの溜めを置き、実に愉快な声で彼女はこう告げた
「ハプニングが起きるには、もってこいだよねぇ?」
GO TO FINAL STAGE→
聖は良く「親交を深めるため」と言って人里に行くことがあるが、私は余り行く機会がないので、少し緊張
しながら、歩みを進めていた。
そう言えば、その人里の代表者とはどんな人なのだろうか、人里に頻繁に訪れている聖なら知っている
だろうと思い、私は聖に訪ねる。
「それがね、私も話だけは聞いたことがあるし、前から会ってみたいとは思っていたんだけど、実際にあ
ったことはないのよねぇ、だから私もちょっと緊張するわ。」
どうやら私が緊張していたのに気付かれていたようだ。恥ずかしくなって俯いた私の頭上からもう一度、
聖の声が聞こえて来た。
「あぁ、でもお名前と職業知っているわ。上白沢慧音、寺子屋の先生をしているんだって。」
そしてしばらく歩いた後、人里の入り口と、其処に立つ一人の女性が目に入った。
それは、前髪だけが青み掛った銀の長髪を持った長伸の女性だ。
その女性が、こちらに気付いたようで手を振っている。
聖が手を振り返した後、足早になったため、私も速度を上げてそれに付いて行く。
「やぁ、あなたが聖白蓮か、私が上白沢慧音だ、色々と噂はきかせてもらっているよ」
そう友好的に彼女が自己紹介をし、聖もそれに返すように自己紹介をする。
「えぇ、こちらは付き添いの村紗水蜜です、以後お見知りおきを。」
聖が丁寧にお辞儀したのに倣い、私もお辞儀をする。そして、顔を上げた後慧音さんが、
「立ち話もなんだから、とりあえず移動しよう」
と言うので、私達は彼女の後について行くことにした。
そして私達は、少し歩いた所にある、大きめの建物に案内される。門の看板を見たところ、どうやらここが寺子屋だったようだ。
「応接室」と案内板が下がった部屋に通されると、其処にあった長い机に、対面になる形で、私達は座っ
た。
そして、慧音さんから、
「で、用件はなんだっただろうか?」
「実は私達の船を遊覧船として使って見ようかと思いまして。人里の代表である貴女に許可を取りにきた
次第ですわ。」
「ふむ…確かにそれは面白い試みかも知れないが2、3質問しても良いだろうか。」
聖が首肯をして、慧音さんが質問を始める。
慧音さんが質問したのはほぼ一昨日の夜に私達がした質問や、飛んでいる間の妖怪への対処の事や、
そもそも船はどうやって飛んでいるかなど多岐に及んだ。
それらの質問に、聖が、そして船に関する事に対しては私が、丁寧に答えて行く。
そして質問が少し途切れた後、不意にこんな質問が投げかけられた。
「しかし、船を飛ばすとして貴女たちに益はあるのか?」
その質問に聖はにっこりと笑いながら答える。
「えぇ、人々の笑顔が見られますわ。」
すると慧音さんが突然、
「・・・・・・。クッ、ハハッ、ハハハハハッ!!!では貴女方は何を目指すのだ?貴方達も妖怪だろう?」
その問いに、聖は臆面もなく、
「人間と妖怪が平等で居られる世界、ですわ。」そう、答えた。
「ハハハハハッ!私は人間を守る立場なのだがな。だがしかし人間と妖怪が平等な世界とはっ!そんな世界
がもしあったとしたらそれは良いかもしれんな。」
慧音さんはそこで一息つき、落ち付いた顔で言う。
「いいだろう。いや、その計画私も是非参加させていただけないだろうか。」
そう言って、慧音さんは深くお辞儀をする。
そして、聖は後光が射しているかのような笑顔で肯いた。
その後、慧音さんと聖は当日の打ち合わせをした。
大まかに決まった事は次の事だ。
・当日船に乗ってもらうのは件の『空から幻想郷を見てみたいと』言った人間とその護衛として慧音さん
も同行すること
・ルートは候補の中からその人間が選ぶこと
・当日は慧音さんがその人間を連れて命蓮寺まで来ること
・ルートに関係なく、日が落ちる頃には人間の里に帰ること
これらが決まった後、私達は人間の里を後にして、帰路についた。丁度日が落ちかけようとしている頃で
、夕焼けがとてもきれいだった。
しかし、そんな考えを打ち消すかの様な声が、頭上から私達に投げかけられた。
「また面白そうな事企んでるみたいじゃない?聖」
その声に私達は、足を止めて頭上を仰ぎ見る。そこにいたのは短い黒髪と蛇のような翼をもつ少女、封
獣ぬえだ。
私は知っている。例えどんな事だろうと彼女が絡むとロクなことになった試しがない事を。そして悟る。今
回の計画も、彼女が邪魔しようとしている事を。
しかし聖はそんな彼女にも笑顔を向け、「あなたも一緒にどうです?」と尋ねる。
ぬえはその言葉に吃驚したように数回瞬きをした後、ケタケタと笑いながら言った。
「い~や、私は人間の笑顔なんて見る気ないからね。遠慮させてもらうよ。」
「そうですか、それは残念ですが、もし気が変わったら何時でも言ってください。」
その言葉にも相変わらずぬえは口を歪ませて笑っていた。そしてしばらくしてから小さく「じゃあね」と呟
いて忽然と姿を消した。
まったく、ぬえははなんのつもりなのだろうか。だがしかし一つわかった事がある、
恐らく、今回の計画で最も警戒しなくてはいけないのは、彼女だということが・・・
一週間後、空は雲一つもない快晴で、空の青が眩しい日に、私達は船を飛ばすことにした。
すでに船の修繕やルートの選定も終わり、あとは客人と慧音さんが来るのを心待ちにするだけだ。
そして昼前、道の向こうから慧音さんと客人がやってきたのだが、客人の姿に聖以外の面々は驚きを隠
しきれなかった。その客人は慧音さんの寺子屋で勉学に励む、年端もいかない少女だったのだ。
最初は驚きこそすれ、よくよく考えてみれば『空から幻想郷を見たい』とは実に子供らしい発想だという
事に気付いた私達は少女と慧音さんを船に乗せて、空に上がることにした。
そして少女が数あるルートの中から竹林へ向かうルートを選ぶと、私は舵をとり、船を上空へと飛ばした
。
今回少女が選んだ竹林ルートは数あるルートの中で最も短いもので、人里の近くにある竹林を通り、永
遠亭を迂回、竹林を戻って人里上空を旋回して戻る、というものだ。
そして永遠亭の上空を迂回して、再び竹林にさしかかるころ、それは起こった。
迂回ポイントを通った後は、しばらく竹林上空をまっすぐ飛ぶだけなので、私は船を自動操縦にし、デッキ
から甲板に出ることにした。
甲板の上ではこの飛行が始まった時から聖と少女が舳先で談笑を続けていて、慧音さんと星はそれを
少し離れた所から見守っている。
甲板に出た私が、初夏の生温かい風を身体に受けていると、今最も聞きたくない声がデッキの屋根の上
から聞こえた。
「聖はずいぶん楽しそうだね、ムラサ?」
その声は一週間前に私と聖の前に現れた少女、封獣ぬえのものだ。一体今更何をしに来たのだろうか
、まぁ彼女が素直に私達の計画に素直に参加するとは到底思えないので、妨害するためであろうことは
間違いないのだが。
「そうですね、それで、そんな聖を見て、貴方も参加する気になりましたか?まぁもう航路も半分ほど過ぎてしまいましたが。」
私が努めて不機嫌にそう言うと、彼女は一週間前と同じようにケタケタ笑いながら言う。
「はっ、半分過ぎとは私も丁度いいタイミングで来たもんだねぇ。」
「いいタイミング?一体なんの事です?」
「いやさ、物語ってのは『起承転結』っていうのでなるもんでしょ?半分過ぎたってことはさ」
少しの溜めを置き、実に愉快な声で彼女はこう告げた
「ハプニングが起きるには、もってこいだよねぇ?」
GO TO FINAL STAGE→