それはある梅雨の晴れ間のできごとでした。
リグル・ナイトバグは湿気の多い毎日にうんざりしながらもすごしていました。
チルノはただ元気でした。
霊夢は早くも夏バテ予備軍でした。
そんなある日のことです。
四季のフラワーマスターである幽香はつばのある帽子をかぶって、いつものように花たちの手入れをしていました。
「そろそろ日差しがきついわね、梅雨も終わりごろかしら。今のうちにもっと雨が降ってくれれば助かるんだけれど」
そうで呟いたところでまた幽香は一人作業に没する。
いつものことでした。
ただ、普通に作業していただけの幽香には罪が無い日でした。
妖怪に罪があるとかないとか言ってはいけません。
ここ最近、地下の妖怪が交流をはじめたり、封印されていた妖怪が復活したりとばたばたしてきたものの、おさまりはじめた時期でした。
普通の、つまらない幻想郷のはずでした。
「ゆうか!ゆうか、暑い?あたいが冷やしてあげよっか!」
それは多分、チルノの何気ない一言からはじまったのでしょう。
チルノに悪意があるわけではありませんでした。
「あら、何かと思ったら氷精さん。暑いわね、少しだけ近くにいていてもかまわないわよ」
幽香はそういうと、また作業に没しました。
チルノは近くで飛んでいるだけで、何もいいません。
ひんやりとした空気が、幽香の作業を手際よくし、そしてその作業中のかすかな笑顔が好きなチルノでした。
「…今日は静かなのね、氷精さん。いつものお友達はどうしたのかしら」
「大ちゃんとかはね、今日は館に用があるとかなんとかで来ないって!」
「…リグルは?」
その単語を聞くと、チルノはにーっと不敵に笑いました。
「リグルはねー…ひみつ!ゆうかががんばって作業してたらいつの間にかくるかもね!」
そういうとチルノはくるっと幽香のまわりをまわって花たちを揺らしながら上にあがりました。
ふわっと冷たい空気が流れて、チルノはまた幽香の周りに戻りました。
「…そう、まぁ良いわ。氷精さん、あまり花たちをいじめたら追い返すわよ」
「りょーかい!…あれ、あれって霊夢?」
チルノが花畑の先を見て、呟きました。
つられるように幽香も一瞬霊夢の姿を見て、また作業に戻りました。
「れーいーむー!どうしたの、あたいが必要なの?」
「そうね、そうかもしれないわ。…久しぶりに幽香の花が見たくてね」
そう霊夢が言うと、きょとんとした顔を幽香は見せました。
そしてすぐに元の表情に戻り、霊夢を疑わしげに見ました。
「珍しいじゃない。霊夢からそんな言葉初めて聞いたわ」
「そうよ、滅多に私は言わないわ」
ふふん、と擬音が聞こえてきそうな霊夢の表情に少しうんざりした幽香は、また作業へと戻りました。
霊夢はチルノの横に並び、幽香の作業を見ていました。
「花を見るんじゃないの、霊夢?あたいはずっとここにいるよ!ゆうかの冷房係だからね!」
「ふーん、そう。私はちゃんと花見てるわよチルノ」
「そう…ならいいけどさ!ゆうかのしゅーちゅーりょくを邪魔しちゃいけないよ!」
日本語になってないわよ、そう幽香が呟こうとして二人の方を振り返りました。
なんか見たことのない妖怪が立ってました。
「あなたが四季のフラワーマスターさん?」
「ええ、そうよ。二人はどこへ行ったのかしら」
「後ろにいるよ、ゆうか!」
黒い帽子をかぶって胸には青い物体があります。
記憶にない妖怪を見て幽香は臨戦体制へ入ろうと思いましたが、本来その役目であるはずの霊夢がぼーっとしているので体制を解きました。
「あなた、誰?」
「私、古明地こいし。地霊殿の主の妹!よろしくね、四季の…」
「風見、幽香。幽香でいいわよ」
「幽香さん!いい名前なのね!そこの巫女よりもとってもいい名前!」
地霊殿というと、幽香にも聞き覚えがありました。
覚妖怪の古明地さとりが、主をしていると。
「ちょっとこいし、私よりいい名前って何よ」
その霊夢の言葉もスルーされ、こいしはただ幽香の目の前に立っていました。
「何がしたいの、あなた」
帽子を取り、じっとこいしをみやりましたが、相変わらずこいしは微笑んでいるだけでした。
「私も、チルノちゃんみたいに幽香さんの作業風景が見たかったの!だめかしら?」
「見るだけよ、さあ後ろにいなさい。立っているのは気が散るから飛んでるかもっと後ろにいてくださる?」
そういうと、こいしは素直にチルノの隣について、涼しいと呟きました。
幽香は考えました。
なぜ今日はこんなに人が来るのか。
おかしいわ、だっていつもの日常を送っていたはずだもの。
一人で作業して、たまにチルノやリグルがくるから相手して。
すぐに彼女らは帰ってしまうからまた一人で作業して夜になる。
そんな日のはずだったのに。
「…ふぅ、休憩にしようかしら」
「おつかれさまっ!ゆうか、冷たい水飲む?作るよ!」
「お願いできるかしら。一旦家まで戻ってお昼を食べたいのだけれど、氷精さんも来るかしら?」
「じゃ、私は帰るわ~。作業見学させてもらってありがとね。今度神社来れば粗茶ぐらい出すわよ」
ぱたぱたと手を振りながら霊夢は飛び上がってさっさと帰ってしまいました。
その後姿を見送って、幽香はため息をつきました。
「行ったら行ったで、賽銭していけという癖に」
「さいせんってなに?」
「氷精さんは知らなくてもいいわよ…そういえば地霊殿の主の妹は?」
「さっき話してる途中でどっか行っちゃった!」
「そう、まあ家へ行こうかしら。日が傾いちゃったわね、ずいぶん遅いお昼だわ」
そういいながら、二人は並んで帰っていきました。
チルノはやたらうれしそうに微笑み、幽香の隣を歩いています。
時刻にしてみたら、森に住んでいる人形遣いがティータイムといそしむ頃でしょう。
「…くしゅん…誰か噂でもしているのかしらね、上海」
二人が家の前につくと、人影がありました。
「あっ、二人とも!花畑の方にいなかったから探しちゃったよ!」
「リグル!あたいちゃんとゆうかと一緒に行動してたよっ!」
リグルでした。
リグルは、すごく素敵な笑顔で幽香を見ていました。
「幽香さん、おかえりなさい!」
「たっ…ただいま…」
幽香は、照れたように返事しました。
リグル・ナイトバグは湿気の多い毎日にうんざりしながらもすごしていました。
チルノはただ元気でした。
霊夢は早くも夏バテ予備軍でした。
そんなある日のことです。
四季のフラワーマスターである幽香はつばのある帽子をかぶって、いつものように花たちの手入れをしていました。
「そろそろ日差しがきついわね、梅雨も終わりごろかしら。今のうちにもっと雨が降ってくれれば助かるんだけれど」
そうで呟いたところでまた幽香は一人作業に没する。
いつものことでした。
ただ、普通に作業していただけの幽香には罪が無い日でした。
妖怪に罪があるとかないとか言ってはいけません。
ここ最近、地下の妖怪が交流をはじめたり、封印されていた妖怪が復活したりとばたばたしてきたものの、おさまりはじめた時期でした。
普通の、つまらない幻想郷のはずでした。
「ゆうか!ゆうか、暑い?あたいが冷やしてあげよっか!」
それは多分、チルノの何気ない一言からはじまったのでしょう。
チルノに悪意があるわけではありませんでした。
「あら、何かと思ったら氷精さん。暑いわね、少しだけ近くにいていてもかまわないわよ」
幽香はそういうと、また作業に没しました。
チルノは近くで飛んでいるだけで、何もいいません。
ひんやりとした空気が、幽香の作業を手際よくし、そしてその作業中のかすかな笑顔が好きなチルノでした。
「…今日は静かなのね、氷精さん。いつものお友達はどうしたのかしら」
「大ちゃんとかはね、今日は館に用があるとかなんとかで来ないって!」
「…リグルは?」
その単語を聞くと、チルノはにーっと不敵に笑いました。
「リグルはねー…ひみつ!ゆうかががんばって作業してたらいつの間にかくるかもね!」
そういうとチルノはくるっと幽香のまわりをまわって花たちを揺らしながら上にあがりました。
ふわっと冷たい空気が流れて、チルノはまた幽香の周りに戻りました。
「…そう、まぁ良いわ。氷精さん、あまり花たちをいじめたら追い返すわよ」
「りょーかい!…あれ、あれって霊夢?」
チルノが花畑の先を見て、呟きました。
つられるように幽香も一瞬霊夢の姿を見て、また作業に戻りました。
「れーいーむー!どうしたの、あたいが必要なの?」
「そうね、そうかもしれないわ。…久しぶりに幽香の花が見たくてね」
そう霊夢が言うと、きょとんとした顔を幽香は見せました。
そしてすぐに元の表情に戻り、霊夢を疑わしげに見ました。
「珍しいじゃない。霊夢からそんな言葉初めて聞いたわ」
「そうよ、滅多に私は言わないわ」
ふふん、と擬音が聞こえてきそうな霊夢の表情に少しうんざりした幽香は、また作業へと戻りました。
霊夢はチルノの横に並び、幽香の作業を見ていました。
「花を見るんじゃないの、霊夢?あたいはずっとここにいるよ!ゆうかの冷房係だからね!」
「ふーん、そう。私はちゃんと花見てるわよチルノ」
「そう…ならいいけどさ!ゆうかのしゅーちゅーりょくを邪魔しちゃいけないよ!」
日本語になってないわよ、そう幽香が呟こうとして二人の方を振り返りました。
なんか見たことのない妖怪が立ってました。
「あなたが四季のフラワーマスターさん?」
「ええ、そうよ。二人はどこへ行ったのかしら」
「後ろにいるよ、ゆうか!」
黒い帽子をかぶって胸には青い物体があります。
記憶にない妖怪を見て幽香は臨戦体制へ入ろうと思いましたが、本来その役目であるはずの霊夢がぼーっとしているので体制を解きました。
「あなた、誰?」
「私、古明地こいし。地霊殿の主の妹!よろしくね、四季の…」
「風見、幽香。幽香でいいわよ」
「幽香さん!いい名前なのね!そこの巫女よりもとってもいい名前!」
地霊殿というと、幽香にも聞き覚えがありました。
覚妖怪の古明地さとりが、主をしていると。
「ちょっとこいし、私よりいい名前って何よ」
その霊夢の言葉もスルーされ、こいしはただ幽香の目の前に立っていました。
「何がしたいの、あなた」
帽子を取り、じっとこいしをみやりましたが、相変わらずこいしは微笑んでいるだけでした。
「私も、チルノちゃんみたいに幽香さんの作業風景が見たかったの!だめかしら?」
「見るだけよ、さあ後ろにいなさい。立っているのは気が散るから飛んでるかもっと後ろにいてくださる?」
そういうと、こいしは素直にチルノの隣について、涼しいと呟きました。
幽香は考えました。
なぜ今日はこんなに人が来るのか。
おかしいわ、だっていつもの日常を送っていたはずだもの。
一人で作業して、たまにチルノやリグルがくるから相手して。
すぐに彼女らは帰ってしまうからまた一人で作業して夜になる。
そんな日のはずだったのに。
「…ふぅ、休憩にしようかしら」
「おつかれさまっ!ゆうか、冷たい水飲む?作るよ!」
「お願いできるかしら。一旦家まで戻ってお昼を食べたいのだけれど、氷精さんも来るかしら?」
「じゃ、私は帰るわ~。作業見学させてもらってありがとね。今度神社来れば粗茶ぐらい出すわよ」
ぱたぱたと手を振りながら霊夢は飛び上がってさっさと帰ってしまいました。
その後姿を見送って、幽香はため息をつきました。
「行ったら行ったで、賽銭していけという癖に」
「さいせんってなに?」
「氷精さんは知らなくてもいいわよ…そういえば地霊殿の主の妹は?」
「さっき話してる途中でどっか行っちゃった!」
「そう、まあ家へ行こうかしら。日が傾いちゃったわね、ずいぶん遅いお昼だわ」
そういいながら、二人は並んで帰っていきました。
チルノはやたらうれしそうに微笑み、幽香の隣を歩いています。
時刻にしてみたら、森に住んでいる人形遣いがティータイムといそしむ頃でしょう。
「…くしゅん…誰か噂でもしているのかしらね、上海」
二人が家の前につくと、人影がありました。
「あっ、二人とも!花畑の方にいなかったから探しちゃったよ!」
「リグル!あたいちゃんとゆうかと一緒に行動してたよっ!」
リグルでした。
リグルは、すごく素敵な笑顔で幽香を見ていました。
「幽香さん、おかえりなさい!」
「たっ…ただいま…」
幽香は、照れたように返事しました。
来訪者が多かったのやら締めのリグルやらはどういうことだってばよ……?