「お腹痛い」
「なにやってんですか」
「カレーほど腹八分という言葉を忘れさせる食べ物はないわよね」
「それはよくわかります」
幽香はカレーの食いすぎで腹を壊していた。
「ちなみに鍋を暖め始めてから食べ終わるまで10分しか経ってないわ」
「食うの速すぎですよ」
「カレーは飲み物よね」
「それも大変よくわかります」
リグルは大変よくわかった。
普通の米はよく噛むが、カレーライスは米がカレーまみれである。これはつまり唾液まみれの米を食うのと同義。既に唾液まみれなのに噛む意味があるか。
「カレーライスが唾液まみれのライス。それは大変興味深い見解ね」
「ありがとうございます」
「数学で解決しましょう。カレーライス=唾液まみれのライス。両辺をライスで割って、カレー=唾液」
「今日の幽香さんは天才ですね」
「カレーは唾液ということになったわ」
「これはもう絶対に真理です」
カレーは唾液ということになった。これはもう絶対に真理である。
「これはえらいことに気づいてしまったわ。私たちは二度とカレー屋に行く必要がない」
「確かに。考えの足りない人たちは高い金払ってライスにカレーを注ぎますが、カレーと唾液が等価交換の関係にあると気づいてしまった我々は二度とカレー屋に騙される心配が皆無です」
幽香はあまりにカレーカレー言うからカレーが食いたくなってきた。
「あまりにカレーカレー言うからカレーが食いたくなってきたわ」
「それは良い機会です。白米ならばここにあります。唾液をかけて食いましょう」
「これはまさしくカレーに対する挑戦ね」
幽香はご飯を皿に盛り付けた。
「さあ、いざ」
「ぺっ、ぺっ、ぺっ」
「私も一緒に、ぺっ、ぺっ、ぺっ」
ご飯は大変悲惨なことになってしまった。
「汚いなぁ」
「それは錯覚です。カレー=唾液でありますし、そもそも何を食うにも飲み込む時点で食事は唾液まみれです」
「あんたって奴は心底天才ね」
幽香はもぐもぐと唾液ライスを食べた。
「マズいなぁ」
「おかしいですねえ。何か間違っていたのでしょうか」
幽香とリグルは考えた。いったい何が間違っていたのだろうか。
聡明なる読者諸君は既に気づいているだろう。
「あ」
「『手を打つ』という動作を現実でやる妖怪を僕は初めて見ました」
「つまり、カレーライスはマズいってことじゃない?」
「幽香さんは天才だなぁ」
幽香は天才だったことまでも判明した。今日はすばらしい日だと二人は思った。
長生きした妖怪とは得てして人間からは理解され難い思考回路をしているという話。
めちゃくちゃ笑いました。
な、なんだってー
あらゆる知識の先にある錬金術の真理をかいまみたぜ。