キャラが暴力をしたりするので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
私のご主人様は非常におろかな人だ。
もちろん、心を読める『覚り』であるさとり様の目の前でそのようなことは考えないけれど、間違いなく、さとりさまを知ったほとんどの人がさとり様のことを愚か者というだろう。
さとり様は私の思考を読んで、困ったように微笑んだ後いう。
「そうね、私は愚か者だわ」
愚か者だとわかっているならば、やめればいいのにと考えると
「それでも、私は……
愚か者の道を歩み続けるのよ。
燐、こんな主人はいやかしら?」
わかっている。
さとり様は、私が思考しなくても、その先の答えを知っているくせに、そんな聞き方をする。
「えぇ、そうですね」
さとり様は、膝にのっかかっている私を撫でる。
「だけどね、燐。
私が死んだら、遠慮なく灼熱地獄に放って」
さとり様の膝から降りて、私は人型になり
「そんなもったいないことしませんよ。
死んだら、地霊殿のエントランスに飾ります」
決してさとり様が生きていたことをなくさない。
「あらあら、それは楽しみだわ」
ずるい、私の本心を知っているくせにこうやってさとり様は笑うんだ。
「おっねえちゃ~ん!」
「こいし、おかえりなさい」
「えへへ、ただいま。
ねえ、ねえ聞いて!」
私と話していたのに、さとり様の視線は無意識から急に現れて、地霊殿に帰ってきたこいし様のものになる。
私はいたたまれなくなって、逃げ出す。
微笑ましい姉妹の関係の中に、私が邪魔だと部屋から出ていたときはどれだけ楽だっただろうか?
事実を知ったとき、自分がどれほそおろかだったかを知った。
異変が解決されて、こいし様に少しずつ本当の笑顔が見え始めていたときだった。
さとり様は、こいし様が帰ってくるとこいし様のことばかり構われるので、私たちペットは少し寂しい思いをする。
特に、私はさとり様の膝の上を自分の特等席にしているから、さとり様の傍にいられないことはとてもいやだった。
だから、そんなもやっとした気持ちを抱えていたから、お部屋で話しているだろう二人を驚かせようと私は許可なく部屋のドアを開けた。
そこには信じられない光景があった。
「ん、ぅく」
ベッドに押し倒されて、自分の声を押し殺すために両手で口を押さえているさとり様。
「どうすればいいの?
わたしは、わたしは、なんなの」
ベッドの上でさとり様の上に馬乗りになり、ぶつぶつと言葉にならない言葉をつなげたりしながら、華奢なさとり様の身体にひたすら自分の細い腕で殴り続けるこいし様。
何がなんだか意味が分からなかった。
さとり様とこいし様の姉妹関係がいいのか悪いのか聞かれたら、悪くはないけれどよくもない状況だと私は考えている。
それなのに、『ドスドス』と日ごろの恨み全てを叩き込むかのような音。
少なくとも、ここまで酷い状況だとは思っていなかった。
固まってしまっている私に、全てを見通す紫の瞳が向けられた。
そして、パクパクと口を動かしている。
『でていきなさい』
そのように動いた唇を見て、ドアを開けっ放しにしたまま、私は逃げ出した。
「じゃあ、いってきま~すっ!」
「こいし様!」
次の日、満面の笑顔で出かけようとしたこいし様を引き止める。
今まで引き止められたことなどなかったからだろうか、ちょこんと可愛らしく首をかしげながら
「お燐、どうしたの?」
「さとり……様は、どうなさって」
まさか、殺されてしまった?
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
「お姉ちゃんなら、昨日お話して疲れちゃったんだって」
「そうですか」
いつもと変わらぬ笑顔。
「あははっ、じゃあいってくるね」
ブンブンと大きく手を振ったかと思ったら、こいし様は無意識の中に入ってしまったのか見えなくなってしまう。
私は急いで、さとり様の部屋へと向かう。
「心配しなくても、死んでませんよ」
ベッドの上から、今にも死んでしまいそうな声が聞こえた。
「たく、失礼ですね」
いつもよりも小さい声に、肩で息ををしている様子を見て、誰が大丈夫なんて思うだろうか?
とりあえず、あれだけ殴られていたのだから、手当てをしないといけない。
「しなくて、結構です。
一応、妖怪ですからこれくらいの傷は何日か寝れば治ります。
仕事はできそうにないですけど」
どうして?
治療したほうが早く治るはずなのに……
軽い怪我のはずないのに。
「これは、贖罪なんですよ」
「なんの罪が」
「こいしが苦しんでいるときに何も出来なかった罰をこうやって神様は贖罪させてくれているんです。
無意識の中のこいしはそんなこと知らないでしょうけど、そう思えばあのころの罪が軽くなったように感じるんです」
それって、逃避じゃないか。
無意識でやっているって、こいし様が知ったら傷つくに決まってる。
「そうだったらいいですね。
でも、これ以外のやり方といわれても、私はわかりませんから……」
「こいし様は、さとり様のことどう思ってるんですか?」
その後も何回も繰り返されるこいし様の行為。
さとり様にはこいし様がやっていることをいうなといわれているため、遠まわしに聞いてみる。
「お姉ちゃんだよ」
こいし様は自身のくるっとしている髪をいじったり、帽子をいじったりしながら答える。
「そうじゃなくて、どういう存在なんですか?」
こいし様はしばらく唇を尖らせて悩んでから
「なんか、こうね……
無意識の奥底にもやっとした感覚があって、一人だと壊れてしまいそうになるの。
だけどね、地霊殿に戻ってきて、お姉ちゃんと話したらそれが消えていくの。
それは、きっとお姉ちゃんが私のそういう思いを聞いて共有してくれたからだと思うんだ」
照れくさそうに微笑むこいし様。
これがきっと、本心なのだろう。
「大切な存在。
お姉ちゃんを傷つけるものは、どんなものであろうとゆるしたりしないよ」
まっすぐとした瞳でいうこいし様。
「そう……ですか」
無意識で傷つけてしまっている場合はどうなるんだろうかと思いながら、頷く。
部屋から出て行っても、聞き耳を立てると聞こえてくる音。
意味のない罰を喜んでうけるもの
無意識に罪を作り続けるもの
どちらがおろかなんだろう?
「一番の愚か者は私だけど」
全てを知って止めることも何もできずに見ている私がきっと……
私のご主人様は非常におろかな人だ。
もちろん、心を読める『覚り』であるさとり様の目の前でそのようなことは考えないけれど、間違いなく、さとりさまを知ったほとんどの人がさとり様のことを愚か者というだろう。
さとり様は私の思考を読んで、困ったように微笑んだ後いう。
「そうね、私は愚か者だわ」
愚か者だとわかっているならば、やめればいいのにと考えると
「それでも、私は……
愚か者の道を歩み続けるのよ。
燐、こんな主人はいやかしら?」
わかっている。
さとり様は、私が思考しなくても、その先の答えを知っているくせに、そんな聞き方をする。
「えぇ、そうですね」
さとり様は、膝にのっかかっている私を撫でる。
「だけどね、燐。
私が死んだら、遠慮なく灼熱地獄に放って」
さとり様の膝から降りて、私は人型になり
「そんなもったいないことしませんよ。
死んだら、地霊殿のエントランスに飾ります」
決してさとり様が生きていたことをなくさない。
「あらあら、それは楽しみだわ」
ずるい、私の本心を知っているくせにこうやってさとり様は笑うんだ。
「おっねえちゃ~ん!」
「こいし、おかえりなさい」
「えへへ、ただいま。
ねえ、ねえ聞いて!」
私と話していたのに、さとり様の視線は無意識から急に現れて、地霊殿に帰ってきたこいし様のものになる。
私はいたたまれなくなって、逃げ出す。
微笑ましい姉妹の関係の中に、私が邪魔だと部屋から出ていたときはどれだけ楽だっただろうか?
事実を知ったとき、自分がどれほそおろかだったかを知った。
異変が解決されて、こいし様に少しずつ本当の笑顔が見え始めていたときだった。
さとり様は、こいし様が帰ってくるとこいし様のことばかり構われるので、私たちペットは少し寂しい思いをする。
特に、私はさとり様の膝の上を自分の特等席にしているから、さとり様の傍にいられないことはとてもいやだった。
だから、そんなもやっとした気持ちを抱えていたから、お部屋で話しているだろう二人を驚かせようと私は許可なく部屋のドアを開けた。
そこには信じられない光景があった。
「ん、ぅく」
ベッドに押し倒されて、自分の声を押し殺すために両手で口を押さえているさとり様。
「どうすればいいの?
わたしは、わたしは、なんなの」
ベッドの上でさとり様の上に馬乗りになり、ぶつぶつと言葉にならない言葉をつなげたりしながら、華奢なさとり様の身体にひたすら自分の細い腕で殴り続けるこいし様。
何がなんだか意味が分からなかった。
さとり様とこいし様の姉妹関係がいいのか悪いのか聞かれたら、悪くはないけれどよくもない状況だと私は考えている。
それなのに、『ドスドス』と日ごろの恨み全てを叩き込むかのような音。
少なくとも、ここまで酷い状況だとは思っていなかった。
固まってしまっている私に、全てを見通す紫の瞳が向けられた。
そして、パクパクと口を動かしている。
『でていきなさい』
そのように動いた唇を見て、ドアを開けっ放しにしたまま、私は逃げ出した。
「じゃあ、いってきま~すっ!」
「こいし様!」
次の日、満面の笑顔で出かけようとしたこいし様を引き止める。
今まで引き止められたことなどなかったからだろうか、ちょこんと可愛らしく首をかしげながら
「お燐、どうしたの?」
「さとり……様は、どうなさって」
まさか、殺されてしまった?
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
「お姉ちゃんなら、昨日お話して疲れちゃったんだって」
「そうですか」
いつもと変わらぬ笑顔。
「あははっ、じゃあいってくるね」
ブンブンと大きく手を振ったかと思ったら、こいし様は無意識の中に入ってしまったのか見えなくなってしまう。
私は急いで、さとり様の部屋へと向かう。
「心配しなくても、死んでませんよ」
ベッドの上から、今にも死んでしまいそうな声が聞こえた。
「たく、失礼ですね」
いつもよりも小さい声に、肩で息ををしている様子を見て、誰が大丈夫なんて思うだろうか?
とりあえず、あれだけ殴られていたのだから、手当てをしないといけない。
「しなくて、結構です。
一応、妖怪ですからこれくらいの傷は何日か寝れば治ります。
仕事はできそうにないですけど」
どうして?
治療したほうが早く治るはずなのに……
軽い怪我のはずないのに。
「これは、贖罪なんですよ」
「なんの罪が」
「こいしが苦しんでいるときに何も出来なかった罰をこうやって神様は贖罪させてくれているんです。
無意識の中のこいしはそんなこと知らないでしょうけど、そう思えばあのころの罪が軽くなったように感じるんです」
それって、逃避じゃないか。
無意識でやっているって、こいし様が知ったら傷つくに決まってる。
「そうだったらいいですね。
でも、これ以外のやり方といわれても、私はわかりませんから……」
「こいし様は、さとり様のことどう思ってるんですか?」
その後も何回も繰り返されるこいし様の行為。
さとり様にはこいし様がやっていることをいうなといわれているため、遠まわしに聞いてみる。
「お姉ちゃんだよ」
こいし様は自身のくるっとしている髪をいじったり、帽子をいじったりしながら答える。
「そうじゃなくて、どういう存在なんですか?」
こいし様はしばらく唇を尖らせて悩んでから
「なんか、こうね……
無意識の奥底にもやっとした感覚があって、一人だと壊れてしまいそうになるの。
だけどね、地霊殿に戻ってきて、お姉ちゃんと話したらそれが消えていくの。
それは、きっとお姉ちゃんが私のそういう思いを聞いて共有してくれたからだと思うんだ」
照れくさそうに微笑むこいし様。
これがきっと、本心なのだろう。
「大切な存在。
お姉ちゃんを傷つけるものは、どんなものであろうとゆるしたりしないよ」
まっすぐとした瞳でいうこいし様。
「そう……ですか」
無意識で傷つけてしまっている場合はどうなるんだろうかと思いながら、頷く。
部屋から出て行っても、聞き耳を立てると聞こえてくる音。
意味のない罰を喜んでうけるもの
無意識に罪を作り続けるもの
どちらがおろかなんだろう?
「一番の愚か者は私だけど」
全てを知って止めることも何もできずに見ている私がきっと……
オチが付いてなくて投げ出されてしまった印象を受けました。