梅雨が明け、夏の日差しが強くなっていく頃、都市の中心部から離れた郊外のにある荒れ地で、一人の花の妖精に出会いました。
ある所属サークルの野外活動の下見に出かけていた時のことでした。
一人で花を摘んで遊んでいたその妖精は、こちらを見かけると警戒感も無く近づいてきて、私に貴方はどこから来たのとか、名前は何て言うのとか、どうして私が見えるのなどの質問を浴びせるのです。
私はできる範囲で答え、それからその妖精と親しくなりました。
花の名前を教えてあげたり、妖精が作った花冠を頭に乗せてもらったり、論文に明け暮れる中、子供時代に戻ったような楽しいひと時を過ごしました。
この辺をサークル活動の舞台に決めかけていましたが、そっとしてやりたいのと、もし友人には妖精の姿が見えなかった場合、今まで以上に変な子扱いされるのは確実視されたため(もっとも、友人も十分変なのですが)、『ここら辺には目ぼしいスポットは無いわ』と言う事にしておきました。
論文がようやくまとまりかけた日に、気晴らしでその場所に出かけ、その光景を見て驚きました。
その野原が一面の家庭菜園に変えられていたのです。
数種類の野菜や果物が栽培されていました。
そこでは化学肥料も使われており、自然の権化である妖精には辛い環境だろうと思いました。残念でしたが、もともと誰かの私有地だったので仕方がないとも思いました。
しかし妖精はその場に居続けていました。
なんとその環境に適応していたのです。
彼女は野菜や果物の妖精として、ある時は作物の成長を助けたり、ある時は注意深くない人間の育てた作物をしおれさせたり、またある時はまいた種をほじくり出し、畑の別の場所に埋め直したり、人間に味方するわけでも敵対するわけでもなく、マイペースで暮らしていました。
多少服の色や雰囲気が変わったものの、妖精は妖精のままでした。
それからも、私と妖精は良い関係を保ったのです。
大学を卒業し、ある研究機関で働くようになってから1年後の事です。
今度はその菜園の合ったところがアスファルトで埋められ、駐車場になっていました。
私はこの小さな自然破壊に少し胸が痛くなりました。おそらく土地の持ち主が変わったのでしょう。
さすがにあの妖精も消滅するか、新天地を目指したと思ったのですが、私は彼女の図太さを過小評価していたようです。
あの子はアスファルトの灰色の服を身につけ、駐車場の妖精となっていました。
車の配列を入れ替えたり、カードに打刻した駐車時間を不思議な力で改ざんし、料金を増減させたりするのは彼女の悪戯です。
皆さんも、有料駐車場に車を預けようとした時、入れにくい場所にしか空きが無かったり、あるいは用事を済ませて車を出そうと思ったら、別の車が妙な所に置いてあって出しにくかったり。あるいは料金加算まで時間があると思っていたらその時刻を過ぎていたり、なんていう事があれば、きっとその妖精の仕業にちがいありません。
さらに数年が経ち、私はそれなりに研究所の重要なポジションにつかせてもらい、別の場所で働いていた友人もそれなりに頑張っています。
その駐車場は今や大きいなビルが立ち、駐車場の妖精はビルの妖精となっていました。
私は考えます、人間もまた自然の一部。とすると、人間が自然の鉱物資源やエネルギーを用いて作った建物や道具なども、広い意味で自然の一部なのかもしれません。
この子は相変わらず、ちょっとした悪戯をしては楽しんでいるようです。
いつも蛍光灯が一本だけチカチカしているのは、もちろん彼女の悪戯です。
どこからともなく湧いてきたPCやボイラーの妖精と一緒に、通気口の中に入ってダイ○ードごっこをした時は、人間たちの間で怪談話になったそうです。また、電気を操って、各部屋の照明でテ○リスをやった時はちょっとした騒ぎになりました。
妖精たちは、人間の尺度での環境破壊にとらわれず、今後も変化しながら生き延びていくのでしょう。
ただ妖精たちはこうも言っていました。自分たちは順応性が強い妖精だから、多少の環境変化にもついて行けるけれど、デリケートな妖精はそうもいかない、だから、あまりこういう開発を進めすぎるのも良くないと思うと。そして、そういったデリケートな妖精たちは、『幻想郷』と言う場所へ避難しているのだそうです。
私は科学万能の時代をたくましく生きる妖精たちにエールを送りたくなると同時に、環境変化で幻想郷入りせざるを得なくなった存在を惜しいと思うのでした。
It was, is, will be a wonder question. I appreciate for your activities and this astonishing chance. See you again.