※この作品は作品集116にあります前作の別視点のお話となります。
前作を読まなくても特に問題はありませんが、前作を読んでいただけますと話の補完が出来るかと思います。
時計を見る。
約束の時刻は既に過ぎていた。
「急がないとっ…!」
人ごみを縫うように走り、目的地である喫茶店へ向かう。
何が悲しくて真夏の炎天下の中を走らねばならないのだろう。
今日は間に合うはずだったのに、あのヘンクツ教授があーだーこーだと説教を始めてなかなか帰してくれないのが原因だ。
あのクソ教授め、次会った時はぎゃふんと言わせてやる。
にしても暑い。
喫茶店に入ったら冷たいアイスと、きんきんに冷えたアイスティーを頼もう。うんそうしよう。
しかしきっとメリーはまた呆れてるだろうなあ。
愚痴は言われるけれど私の遅刻癖に寛容なのが救いだ。
そうこうしてる内に目的の喫茶店の近くまでやってきた。
額から垂れる汗を拭い、息を整えながら私は店の戸を押した。
その時既に、約束の時刻から10分以上の遅れとなっていた。
店に入ると冷たい空調が私の体温を下げていく。
火照った体にクーラーの風が心地よく体を優しく撫でる。
店を見渡すと奥の方に、セミロング気味の金髪に紫生地のワンピースを来た人影を見つけた。
私の相棒であり、待ち合わせをしていた秘封倶楽部のメンバー、マエリベリー・ハーンがそこにいた。
ここ日本において、その髪の色となんとも言い難い静かな雰囲気は嫌でも目立つ。
はっきり言えば綺麗だ。同じ女性として羨ましいぐらいに。
だからこそ余計に目立つと言うべきか。
彼女はこの暑い夏だと言うのに優雅に温かいミルクティーを飲んでる。しかもサンドイッチ付きだ。
夏なんだからアイスティーにすれば良いのに何故わざわざホットで頼むのだろう?私なら断然アイスで頼む。
さて、そんな事を言ってても仕方が無いので彼女へ声をかける。
「やあメリー、優雅にティータイムとは良いわねー。」
視線を上にあげてメリーが私を見る、もとい睨んだ。ジト目で。
その目には遅い、何してたの、また遅刻なのね、と様々な感情が読み取って見える。
ああ視線が痛い…。
「待たされてる身だもの、ゆっくりしていたいわ。そして15分の遅刻よ蓮子。」
「残念、正確には14分と50秒の遅刻よ。すみませーん、アイスティーとバニラアイス下さーい。」
時間に関してなら私の方が正確なのよメリー、えっへん。
遅刻して置いて偉そうには言え無いが。
でも今回に関してはちゃんと免罪符があるので許して欲しいものだ。
とりあえず私の喉と体の渇きを癒す為に近くを通りかかったウェイターへオーダーをする。
もちろん注文は私はここへ来る時に考えていたオーダーだ。
「ふぅー、暑い暑い。やっぱり文月の後半ともなると暑いわね。ここはクーラー効いてて涼しいわー。」
「まったく、時と場所を正確に見れるのに何故そんなにも遅刻癖があるのかしら。」
「生憎昼間は星が見えないものなのよ。月はたまに見れるけれどね。」
「にしても毎度の事とは言え、呼び出し置いて遅刻はやめて欲しいものだわ。」
はあとメリーが溜息をつきながら愚痴を吐く。
毎度の事ながら耳が痛い。
直そうとは思っているのだけれど、どうにも一度付いた癖と言う物はなかなか抜けないようだ。
そうしてる内に私がオーダーをしていた品が届いた。
待ってました!
反省も大事だけれども、まずは渇いたこの体に潤いと恵みを与えないとね。
運ばれてきたアイスティーを口にする。
心地よい茶の香りと冷たさが体に染み渡ってゆく。
こういうのは極楽と言うのねえ。
「はあぁ、冷たくて美味しいわー。」
「ちょっと聞いてるの蓮子?少しは反省と言うものをして頂きたいのだけれど。」
「ごめんごめん。今日なかなか教授が返してくれなくてさー。論文の纏めの手直しをお願いしていたのだけれど思いのほか直す部分が多くてねえ。」
「だったら遅れると一言連絡ぐらい欲しいものだわ。」
「メリーだったらきっと大丈夫だろうと思ってさ。有る意味信頼の証よ。」
まったく何を言っているのやらと、メリーがやや呆れ顔で言う。
こちらは割と本気で言ってるのに全然伝わって無いらしい。
ああ、なんと無常。以心伝心が出来たなら良いのにとたまに思う。
そうすればお互いもっと分かりあえるというのに。
メリーのばかあ。くやしいのバニラアイスを頬張ることにする。
「それで、今日はどういった内容なのかしら?また何か見つけたの?」
言っても無駄だと判断したのか、メリーは本日の本題を聞いてくる。
そう言えば今日はそっちがメインだものね。
「いいえ、そう言った内容では無いわ。呼び出したのは今夜星を見に行きましょうというお誘い。」
「…は?」
メリーが口を開いたまま呆けてる。
すごい。なんとも珍しい光景なのだろう。
今カメラが無い事が悔やまれる。
こんなメリー滅多に見られないのだから、是非ともカメラに収めてやりたい。
こちらの意図を掴みかねてるようなので話を進めることにする。
「は?じゃないわよ。星を見に行く、つまり天体観測しに行くのよ。」
二度目の答えにようやくメリーは内容を理解したようだ。
しかしやはり意図を掴みかねてるらしく、やや驚きと疑問が入り混じった顔をしている。
「天体観測をしに?一体どういう事なのか私にはさっぱりだわ蓮子。出来れば説明をお願いしたいわ。」
やっぱりそう言うわよね。
何せいきなり天体観測と言われたらそりゃ普通疑問に思うものだもの。
だけど今種を明かしたらつまらない。
これはもう少し先のお楽しみ。
そして何よりもうちょっとメリーのかわいいはてなマークだらけな顔を見ていたいし。
「良いから行くわよ。これは決定事項。今夜0時に集合ね。」
こうして本日の秘封倶楽部の活動内容は決定。
後は夜を待ってのお楽しみね。
「どうやらメリーよりも早く着いたみたいね。」
指定した待ち合わせ場所である公園の入り口にメリーの姿は無い。
これならメリーにお小言を言われないで済むってものね。
一日に二回も遅刻したら面目が立たないし。
それに夜ならば私にとって遅刻なんてものは皆無。
空を見上げると無数の星と、大きく月が輝いている。
時刻はまもなく午前0時。
正確には午後23時55分28秒。
月と星を見れば時刻と場所がわかる私には時計は必要ない。
全て空が教えてくれるのだから。
「早く来ないかなあ。」
今日の趣旨を聞いたらどんな顔をするんだろう。
喜んでくれるだろうか、それとも驚くだろうか。
どちらにしろ楽しみだ。
今日の事を考えるといまからわくわくしてくる。
持ち物も万全。
鞄には二人で寝転ぶ為のシートに虫除けスプレー。
流石に望遠鏡とラジオまでは持ってきてはいない。
待ち合わせは踏切じゃないしね。
やがて遠くから人の影が見え始める。
月の光に照らされて淡く輝く金色の髪。
メリーがやって来た。
「遅かったねメリー。」
意外だという顔をしたメリーが街灯の下へ姿をあらわす。
「あら、まだ午前0時を過ぎて無いはずだけど?」
「まあ正確には午前0時24秒前だけれどね。」
「しかし珍しいわね、蓮子が遅刻をしないなんて。やっぱり星が出ていると時間に正確になれるのかしら?」
「何言ってんの、私はいつも通りよ。」
「まったく、普段もこれくらいに来てくれると私としては嬉しいのだけれど。」
「まあまあそれは置いておいて。早速行きましょうか。」
こうして二人で公園の中へ進んで行く。
この公園はかなり広さを持っていて、数キロ四方にもわたる広さがある。
広いの良いのだが、いかんせん街灯の数が少なく、公園の道はほとんど真っ暗と行っても過言ではない。
私達が向かうのは奥の方にある広い運動場だ。
先にも述べた通りこの公園には街灯が少ない。
公園の中と言う事もあり、外の明かりが殆ど入らず真っ暗な為、星を見るには適しているのだ。
「そろそろ今日の目的を話してくれないかしら蓮子。良い加減理由が知りたいわ。」
「それもそうね。実は今日ある流星群が降るピークでもっとも観測しやすい日なのよ。天気も良いし折角だからメリーと一緒に見ようと思って誘ったの。」
そう、今日の目的は流星群の観察。
流れ星を見れる機会なんてのはなかなか訪れない。
夜空を横切る一筋の軌跡は言葉に出来ない美しさがある。
だからこそ、この天体ショーをメリーと一緒に見たくて誘ったのだ。
「へえ、なるほど良い提案ね。たまには蓮子も良い事を言うもんだわ。」
「なあに言ってんの、私はいつだって良い事を言うものよ。」
「どうだかねえ。」
相変わらずの皮肉が強いなあメリーは。
そこがまたメリーらしくて良いのだけど。
でもこうして夜中にひっそりと待ち合わせするなんてまるで逢瀬みたいよね。
…って何を考えてるんだ私は…そもそもメリーとはそんな関係じゃないし!
あー、変な事を考えてたら顔が熱い。
まったく何を馬鹿な事を考えてるのやら。
メリーと私は二人で一つのサークルメンバー。
そしてそれと同時にかげがえの無い親友。
でも本当は親友とは違う、それとはまた別の意味で私はメリーが好き。
なんと言うかこう、恋とも愛とも友とも違う決して劣情では無い好きだという感情。
ちょっと表現に困るけれど、ともかく好きだ。
きっかけは最初に大学で始めて見たとき。
とても目立つ異国の出で立ちなのに、とても静かに周りに溶け込むように佇んでいた。
すらりと伸びた身長に、柔らかく輝く金糸の髪。そして黄色の瞳。
すごく惹き込まれる、綺麗な子だなあと思った。
吸い込まれるようなその瞳の彼女をもっと知りたいと私は彼女の情報を集めて回った。
やがて色々話を聞いているとおかしな噂を聞いた。
曰く、彼女はおかしなモノが見えるらしい。
時々虚空を見つめては手を伸ばして何かをしてる姿が時々見られるだと言う。
何をしているのかと彼女に聞くと、決まって何でもないと返される。
そんな彼女の行動を気味悪がってあまり彼女に近づく者がいないとのこと。
おかしなモノが見える。
その言葉を聞いた時私は嬉しくなった。
自分と同じく他の人とは違うモノが見れる人がいるなんて!
私自身他の人とは違うモノが見える。
正確には“分かる”と言った方が良い。
星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かるのだ。
彼女とならきっと今まで誰にも明かさなかった私の目の事を理解して受け入れてくれるかもしれない。
そう感じた私は彼女を連れ出し、お互いの事を話し合い、互いの事を理解していった。
そして私は彼女が見える世界を知る事となった。
メリーは境界が見えるのだとという。
彼女曰く空間に浮かぶヒビや隙間みたいなものらしい。
なんて凄いもの見てるのだろうか!
彼女と一緒に過ごせたならきっと楽しいだろう。
最初はそんな軽い気持ちでメリーを引き込んで秘封倶楽部を立ちあげた。
やがて二人でサークル活動の一環で様々な場所へ出かけ、様々な物を見て回った。
メリーからサークル活動を誘ってくることは無かったので、必然的にサークル活動をする時は私からメリーを誘うという形になっている。
彼女と過ごすうちに、私はメリーにだんだんと惹かれていった。
最初は同じ人とは違うモノが見える者同士として、次に親友として。
でも今はちょっと違う。
自分でもよくは分からないけれど、ただ好きだという感情だけがある。
でもメリーは私の事をどんな風に思っているのだろう?
去年内緒でバイトをしてメリーにプレゼントを贈った時に、メリーは親友として大切に思ってると言ってくれた。
あの時は指輪交換みたいで凄く恥ずかしかった…。
その言ってくれたメリーの言葉が凄く嬉しかった。
もちろん私もメリーの事は大切に思ってる。
だけどメリーの気持ちと、私の気持ちの方向性は少しずれてる。
交差するようで交じらない。
でもこんな事メリー本人には言えないよね…。
何より恥ずかしいし、変な目で見られたくないもの。いろんな意味で。
色々と考え込んでるうちに目的の場所である運動場へと着いていた。
…まったく何を考えてるのやら。
こんな考え事をしていては折角のメリーとの天体観測も味気なくなっちゃうわ。
「着いたわねー。」
もう難しい事を考えるのはおしまい!
思考を切り替えて今この時間を楽しむとしましょう。
早速準備にとりかかるとしますか。
私は鞄からシートを取り出し地面へと引いていく。
「何をしてるの?」
「寝そべって星を見たほうが楽だと思って持ってきたの。良いアイディアでしょう?虫除けスプレーもあるからメリーにもかけるわね。」
「なるほど良いアイディアだわ。そういった所は抜かりが無いわね。」
「でしょう?もっとほめてくれても良いわよ。さすがにラジオとか望遠鏡は持ってきて無いけれどね。」
別に望遠鏡もラジオもいらないでしょう、とメリーが言う。
む、ちょいとしたネタ振りなのに気づかないとは。
結構有名なネタなのに残念。
やっぱり待ち合わせは踏み切りにしておけば良かったかしら。
シートを引き終わった後はお互いに虫避けスプレーをかける。
これで蚊に刺される心配は無いないわね。
準備が整ったあと二人してシートへ寝そべる。
空を見ると視界全てに星の海原が映る。
本当に綺麗な夜空だ。
天気が良くて本当に良かった。
流星群はいつ降ってくるか分からないので、流れ星が見えるまで二人で星座を見ながら待つ事になる。
「メリーは星座とかは詳しい?」
「どうだろう、人並みぐらいかしら。有名な物しかわからないわね。」
「例えば?」
「そうねえ、北斗七星やカシオペア、オリオンとかならわかるかしら。」
なんと本当に有名なものしかない。
せめて12星座ぐらいの星図ぐらいは分かってるものだと思った。
「なるほど。折角の機会だからこの蓮子さんが星座のレクチャーをしてあげるわ。」
「ええ、是非ともお願いするわ。素敵な解説をお願いね。」
「もちろん、星の事ならまかせなさいって。」
星の事ならお手のもの。
星が降ってくるまでの間メリーを退屈させない素敵なレクチャーをしてみせるわ。
まずはこの時期に有名な夏の大三角からいくとしましょう。
「あそこの明るい星、デネブを基点に十字になってるのが白鳥座。反対の右に行って同じく明るく光るアルタイルを基点に×のようになってるのがわし座。
そして白鳥座とわし座の間やや上にあるベガを頂点に小さい四角のこと座。これらの星を繋ぎ合わせたのが夏の大三角。」
「有名な七夕伝説の星達ね。」
「その通り。七夕の時期はいつも天気が悪くて七月七日にはなかなか見れないのが残念だけれどね。」
「あら、一年に一度の逢瀬ですもの人に見られずにゆっくり二人で過ごしたいじゃない。七夕は天気が悪いほうが織姫と彦星には丁度良いわ。」
「メリーったらロマンチックな事を言うものねえ。」
「一般論じゃないかしら。」
「普通はそうは考えないものよ。」
「しかし白鳥座のデネブとこと座のベガは見つけられたけれど、わし座のアルタイルが見つからないわね。これじゃ織姫が一人ぼっちになって三角形を築けないわね。」
「そう?二つを見つけられたらだいたいは見つかる筈なのだけれどねえ。私が指をさすからそれを追って見て。」
うーん、二つの星が見付けられたのならアルタイルも見つけられるはずなのだけれど。
言葉だと場所を教えるのは難しいから、直接私がアルタイルを指差して教えるとしますか。
メリーにも見やすいように体を近づけ、指先をメリーの視線へと合わせる。
密着したメリーからの体温が私へと伝わる。
それと同時にシャンプーの良い匂いが私の鼻腔をくすぐる。
なりゆきとは言えメリーとすごく近い位置にいる。
うわあ、なんか恥ずかしくなってきた。
自分でも心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。
さっきまで考え事をしてた分余計に意識していまう。
ええい、冷静に、COOLになるのよ蓮子!
メリーに悟られ無いよう、落ち着いたふりをして空を指差す。
「どう、分かる?あれがアルタイル。アルタイルさえわかれば夏の大三角は完成よ。」
メリーの視線に合わせてアルタイルを指差す。
そして周りの星を繋げてわし座を作り上げる。
「なるほどね、ようやく見つけられたわ。これで織姫も彦星も一人ぼっちじゃなくなったわ。」
「それは良かったわ。ところでメリーは星に関して何か物語とか知ってる?」
「そうねえ、七夕以外だと一つだけ知ってるわよ。」
「へぇ、どんな話?良かったら聞かせて。」
「昔プロキオンという子犬がいました。子犬のプロキオンは母親のシリウスと幸せに暮らして居ました。周りには獅子や白鳥や鷲、牛飼いや狩人や琴を弾く乙女などの様々な仲間がいました。
しかし時が経つに連れ一人、また一人と仲間が居なくなっていきました。そしてついには母親のシリウスもいなり、プロキオンは一人ぼっちになりました。
プロキオンは悲しみました。そしてみんなを探し出すために地を走り、空を翔け、海を渡りました。けれどもどこを探しても見つかりません。
探し疲れてふと夜空を見ると、そこには今まで探していた母親が、仲間のみんながいました。みんなは星になっていたのです。姿は見えずともプロキオンを見守っていたのです。
プロキオンは喜びました。やっと見つけられた、これで皆の所へ帰れると。そうしてプロキオンは空へ向かい走り出しました。みんなが待つ夜空へ。
こうしてプロキオンはみんなと同じく星になれました。今もプロキオンは星になった仲間と共に幸せに暮らしていますとさ。めでたしめでたし。」
初めて聞く物語だ。
こいぬ座やオリオン座や12星座の話だと思ったら全然違う。
またそれらの星座の話との接点も無い全然無いまったく新しい聞いた事も無い話だ。
この物語はどこが出所だろうか。
「…初めて聞く物語ね。そんな物語があるとは知らなかったわ。何というタイトル?」
「タイトルは『スタージェット』。作者はマエリベリー・ハーン。」
創作かよ!
私は心の中でつっこんでしまった。
通りで私が知らないはずだ。
創作じゃ知るはずも無い。
「なあんだメリーの創作だったのか。どうりで知らないわけだ。」
「あら、このお話はとある史実を元に作っているからあながち創作という訳ではないわよ。」
なんと、元となる史実があるんだ。
こりゃまた意外。完全な創作だと思ったわ。
でもそんな史実は聞いた事もない。
これは是非ともその史実が知りたい。
「でもそんな話聞いた事無いしなあ。良かったらその元となった史実を教えてよ。」
「簡単に教えたらつまらないでしょう?スタージェットという言葉を探して御覧なさい。そうすればきっと答えが見つかるわ。」
「なるほどねえ。なら今度探して見ますか。」
なんとも意地悪だ。
まあメリーらしいか。
よし、今度調べて見ますか。
その元となった史実が知りたいしね。
はてさてどんな史実なのやら。
流れ星はまた降ってこない。
星が流れるまで星のガイドをしたり星座観察等をして時間を過ごしていく。
隣に居るメリーは特に退屈してる様子も無く楽しそうに私の言葉に耳を傾けてくれる。
やっぱりメリーといると楽しいなあ。
なんと言うか心が落ち着くと言うか安らぐと言うか。
二人で過ごす時間がこのままずっと続けば良いと思う。
だってこんなにも楽しいのだから。
「―――それであれが…どうしたのメリー?ずっと私の顔を見て。」
星の説明をしていてふと横を見ると、メリーが私を見つめていた。
体を近づけているためメリーの顔がすぐ近くに映る。
そうやって見つめられるとなんとも恥ずかしい…。
「………。」
メリーは特に何も答えず、ただ私を見つめていた。
もしかして私の説明やガイドがつまらなかったのだろうか?
そんな不安が私を支配し始める。
「本当にどうしたの?星の話ばかりじゃやっぱりつまらなかった?」
メリーはゆっくりと首を横に振る。
どうやらつまらなかったと言う訳ではないらしい。
ならどうしたのだろう?具合でも悪くなったとか?
疑問は尽きないけれど、肝心のメリーは黙ったままだ。
けれどやがてメリーはゆっくりと口を開く。
「…ねえ、蓮子。」
そしてすぐ近づけていた体を更に近づけてきて、メリーの顔が私のすぐ近くまで迫る。
「う、うん。な、何?メリー。」
うわー、近い、近いってメリーさん!
そんな近づかれると恥ずかしいって!
否応無しに私の鼓動は早鐘を打ち出す。
何?これってもしかして愛の告白なの?そうなの!?
ちょいまって、そんな、心の準備出来て無いって!
「あなたは前に私の事を大切な親友だと…言ってくれたわよね。」
しかしメリーの口から紡がれた言葉は愛の告白ではなかった。
…なあんだ残念。あせったわー。
て、何残念に思ってるのよ私!
なんだか変な妄想をした自分に嫌悪したくなるわ…。
しかし何でまたそんな事を言い出してきたのだろうか?
「もちろんよ。メリーは私の大切な親友だもの。それがどうかしたの?」
私の答えは決まってる。
メリーは私にとって大切な親友。これに偽りは無い。
けれども私の想いは少しそれとは違うけど、今はそれは胸の中にしまっておこう。
「私も蓮子の事は大切な友人だと思っている…だけどね。」
「う、うん。」
いつも表情が見えないメリーの顔が神妙になる。
真剣な眼差しのメリーの姿を見て否応無しに私も少し緊張してくる。
「私は、それ以上に、あなたの事を―――」
メリーの言葉が紡がれようとしていた。
「あっ…。」
が、視線の端に急に光が横切るのが見える。
先ほどの緊張など忘れ、私の意識は空へ向かった。
「流れ星が落ちて来た!」
最初は気のせいかと思ったが、やがて一つまた一つ星が流れ行く。
光の筋は時に小さく、時に大きく、空へ流れていく。
「結構流れてるわね。メリーも見えた?」
「…ええ、見えるわ。とても綺麗だわ。」
本当に、なんて綺麗なんだろう。
一瞬の煌きを見せるその光は何にも変えられない輝きを持っている。
この輝きをメリーに見せたかったのだ。
きっとメリーも喜んでくれるに違いない。
「やっぱり流れ星の煌きは美しいものね。どうメリー?来て良かったでしょ。」
「本当、こんな素敵な物が見られるなら美容の天敵で有ってもずっと夜を過ごしていたいものだわ。」
どうやらメリーも喜んでくれたみたいだ。
「そう言ってもらえると誘った私としても嬉しいよ。それと折角の流れ星だもの、メリーはお願い事とかしないの?」
「そうねえ、なら世界平和と言ったところかしら。」
なんともつまらない答えなのだろうか。
もっと面白い答えを期待してたのに。
「なんともありきたりな答えね。」
「なら蓮子は何を願うのかしら?」
「私の願いは決まってるわよ。」
そう私の願いは決まっている。
「ならば是非とも聞かせて欲しいわ。」
「良いわよ。笑わないで聞いてね。私の願いはメリーとずっと居られる事。」
「え……?」
これは偽りも隠し事もない本当の願い。
ずっとメリーと居たい。
この想いは変わらない私の願い。
「私達はもう三年生。もうすぐすると離れ離れになってしまうかもしれない。でも、それでも、どんなに僅かでも良いから一緒に居たいと思う。
だって秘封倶楽部は二人で一つ。メリーは私の大事な親友ですもの。」
「……。」
私達が一緒に過ごせるのは学生生活の四年間だけ。
院に行けば更に伸びるかもしれないが、一緒に居られる時間は限られてしまうだろう。
就職してしまえばそれこそ離れ離れになる。
もしかしたら何年も会えなくなるかもしれない。
だとしてもどんなに僅かでも良い、少しでも長くメリーと過ごす時間が欲しい。
私は星に願いを託す。
この願いよどうか空に届いて欲しい。
「ちょっと、くさかったかな…。」
照れ笑いで私は言う。
自分で言っておいてアレだが、ちょっとくさかったかもしれない。
やや恥ずかしくて私は頬を指で掻く。
でも偽り無い気持ちをメリーに聞いて欲しかった。
「ううん、そんなこと無い。むしろそんな風に願ってくれて私も光栄だわ。」
メリーは私の想いを受け止めてくれた。
一年前のあのキャッチボールの様に。
そして光栄だと言ってくれた。
嬉しいなあ。そう言ってもらえるだけで私は満足だよ。
「そう言ってもらえると私も嬉しいよ。所でさっき何か言いかけていたけれど、何て言おうとしてたの?」
「それは…。」
先ほどと同じくやや神妙な顔つきにメリーが戻った気がした。
が、そんな気配はまったくせずいつものメリーの表情が見える。
すぐに優しい笑顔を見せて私を見つめる。
「あなた事を大切に思ってる、大事なパートナーとしてね、と言おうとしたの。あなたと同じよ蓮子。私達は二人で一つで秘封倶楽部ですもの。」
「そ、そうなんだ。う、うんありがとう。メリーもそう言ってくれるなんてなんか照れるなあ。」
ああ、何て嬉しい言葉だろうか。
自分でも顔がくしゃくしゃににやけているのが分かる。
嬉しくて嬉しくてたまらない。
その言葉だけで私は生きていける。
そうして私達は再び空を見上げて、流れ星へと互いに想いを馳せる。
先程と同じ様に夜空には星が流れる。
メリーは私に優しい笑顔を見せる。
私はずっとこの笑顔を大切にしていきたい。
今はまだ正直な自分の気持ちを伝える事は出来ないけど、いつかきっと伝えたい。
その時はどうかメリーが受け止めてくれると信じて。
私は星に願う。
いつまでも二人が一緒に居られますようにと。
例えこの先どんな事があろうとも、私はメリーと共に過ごして生きたい。
どうかこの願い、星に届け。
なんだか蓮メリでPVができてしまいそうです。私には作れませんが
ただ、個人的に最後が少し弱かったのではないかと思います。
これからもがんばってください!
ちょっとしたネタ仕込みで入れて見ました>天体観測
PV見たいなものは作りたいと自分も思っていますが、そんな技術はありません…。
なのでせめれSSで表現していきたいと思います。
>2
読んで頂いてありがとうございます。
最後は確かに少し弱かったかもしれません…。
これからも精進してまいります。
>6
蓮メリは良い物です。
いちゃいちゃしてるのでもなく、かといって悲恋でもなく。
くっつきすぎず、離れすぎず。
そんな蓮メリが理想です。
>8
ありがとうございます。
そのお言葉だけで次回もまた頑張っていこうと気力がわいてきます。
って感じの蓮子だったな
悪気はないし脈もないわけじゃないから頑張れメリーさん!
二人にはパートナーと言う言葉が良く似合うね恋人でも親友でもなく
どちらのサイドも面白かった