Coolier - 新生・東方創想話

MY SWEET HOME

2010/07/09 01:16:05
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  レミリア・スカーレット

「あの子は……今日も一人で遊んでるのかしら?」

 私は側にいた咲夜に問いかける。
 誰が、を言わなくても咲夜はわかってくれたようで、すぐに答えてくれた。

「えぇ、お嬢様。妹様は、今日も地下で一人、お人形で遊んでいらっしゃいますわ」
「そう……」

 残り少なくなった紅茶を、私は飲み干してしまう。

「……気になるのなら、様子を見に行かれてはいかがでしょうか」

 そんなことを言いながら、気の効く咲夜は、やっぱり言わなくてもおかわりの紅茶を私のカップに注いでくれる。
 その様子をぼんやりと眺め、私はため息を零す。
 様子を見に行ったところで、彼女はきっと喜ばない。あんな地下へ、妹を一人で押し込むような姉に、フランが会いたいと思うはずがないから。それが例えフランのためだったとしても。それくらい誰にだって想像はつくでしょう? きっと彼女は私を恨み、憎んでいる。
 だから私がどれだけフランを大切に想おうと、彼女に伝わることはない。たった一人の私の家族なのに。それが……少し寂しい。

「やめておくわ……フランも私に会いたくないでしょうし」

 あの子にはっきりと言われたくない。聞きたくない。あの子から、「嫌い」という言葉を。
 咲夜は少し間を置き、何かを言おうとしていたが、思いとどまったようで「そうですか」とだけ言って黙り込んでしまった。
 どうせなら、言おうとしたことを聞かせてもらいたかった。
 もしかしたら少しは気が楽になったかもしれない。少しは会いに行こうかと思えたかもしれない。
 ……情けないわね。紅魔館の主たるものが、こんなんじゃ。
 私は自分がバカらしくなって、なんだか笑えてきた。
 あの子に会いたい。けれど、会いたくない。
 思い知らされたくなんかないんだ。もう分かっているから。フランが私を嫌っている
ということを。
 私は注いでくれた紅茶から立つ湯気をただただ見つめる。
 あの子のことを想いながら……



  十六夜 咲夜

「という訳なのです」

 パチュリー様に紅茶のポットを届けに来た私は、さっきのお嬢様の様子を伝えた。
 私の間違いじゃなければ、きっとお嬢様の考えていることは大きく的を外している。

「そうね……どう考えてもレミィの加害妄想だわ」
「そうですよね……」
「それで、あなたはどうしたいの?」
「できることなら、お嬢様に妹様のもとへ行って頂きたいです。お嬢様のあんな顔、見ていたくありませんから……」

 お嬢様の誤解を解いてあげたい。そして、みんなで笑えるようになれば、きっとここはもっと幸せな場所になると思う。

「それならはっきりと教えてあげるといいわ。それは勘違いだ、って」
「私は……お嬢様の従者ですから、あまり差し出がましい真似は」

 きっとお嬢様のことだから、私が何かを言ったとしても、怒ったりはしない。素直に聞いてくれるかどうかは別として。
 それでも私の口から直接伝えるのは、私自身の身上によってはばかられた。
 私の言いたいことを正確に察してくれたパチュリー様は、軽く微笑んでくれる。

「そう……大変ね、従者は」
「いえ、そんなことありませんわ」

 本当に大変だ、なんて思ったことはない。従者である私を家族同然に大切にしてくださるのだから。だから私も精いっぱいお仕えするだけ。それを大変だと思うはずがない。

「……いいわ。わたしが伝えてきて上げる。そのつもりであなたも私に話したのでしょうしね」
「お見通しですのね」
「誰にでも分かることよ」

 そう言うと、パチュリー様はすぐに席を立ち、図書館を後にする。
 ついて行こうかとも思ったけれど、やめた。
 戻ってきた時のために、紅茶を温めなおしておこう。



  パチュリー・ノーレッジ

 どこにいるのか咲夜に聞いてから、図書館をでるべきだったわね。
 おかげで余計なところを二か所も回ってしまったわ。

「……レミィ」

 バルコニーの日傘がついたテーブルに座り、どんよりと曇った空を眺めているレミィに声をかける。
 そうして彼女は、私に気付く。

「あら、パチェじゃない。珍しいわね、図書館から出てくるなんて」
「えぇ、そうね。正直あまり気乗りはしてないわ」
「ふふ、それじゃあなんで出てきたのよ」

 物憂げな表情で空を見ていたとは思えない、いたずらっぽい笑顔で、レミィは笑った。
 正直、私自身よくわかってないわ。そう言えば、なんで素直に咲夜の願いを聞いてあげたのかしら?

「ここ、座らせてもらうわね」

 レミィの反対側のイスに私は腰を下ろす。いい加減立ってるのも疲れてきた。

「レミィも珍しいわね、バルコニーにいるなんて」
「こんないい天気なんだもの。普段見れない分、見ておこうと思っただけよ」
「そうね、たしかにいい天気だわ、あなたが空を見上げるには」
「でしょう?」

 またレミィは空を見上げ、寂しそうな、触れば崩れてしまいそうな頬笑みを浮かべる。
 ――レミィが今何を考えているのか。手に取るようにわかるわ。もう長い付き合いになるものね。
 私のいるこの席に座って欲しいのは私ではないのね。

「……たぶん、レミィは勘違いをしているわ」
「あら? 突然ね」
「最初から気付いていたくせに」
「ふふ、なんのことかしら?」
「まぁいいわ。妹様はレミィのこと嫌ってなんかいないわよ」

 レミィの反応を待ってみるけれど、彼女はただただ顔色を変えることなく空を見上げている。だから私は、そのまま言葉を繋げた。

「妹様に嫌いだとでも言われたわけではないでしょう? なのに自分の中で先に答えを出してしまうのは早計すぎると思うわ」

 なぜだろう。
 言ってて私は不思議になった。
 私は咲夜に頼まれたから、咲夜の思っていたことを伝えればよかったはず。「あなたの考えていることは勘違いだ」とだけ。
 なのになぜか私まで、レミィの勘違いを正そうとしている。
 なぜかしら? わからないのに、私は言葉を紡いでいく。

「まずは会ってみたらどう? きっと妹様は喜ぶと思う」

 これは伝言じゃないわ。説得ね。
 そうか、私もレミィのこんな顔を見たくないのか。
 なんだかんだで、やはりこの古い友人は私にとって、とても大切な存在らしい。当然よね、でなければ一つ屋根の下で暮らしたりはしないわ。

「咲夜も気にしてたわ。あなたが元気ないものだから」
「ふふ、ホントよく気がつく人間ね。私の従者だからかしら?」

 やっとレミィが反応を返してくれた。

「……たぶん違うと思うわ」

 咲夜がよく気がつくのは従者だからなんて理由だけではないと思う。たぶん咲夜も、私と同じような気持ちを抱いている。

「ふふ、わざわざありがとう、パチェ。でも、ごめんなさい。やっぱり私は会いに行けない」
「……なぜ?」
「たぶん……怖いのよ。あの子に拒絶されるのが」

 そう言ったレミィは悲しそうな顔をして、また黙って空を見上げてしまった。
 仕方なく私は席を立つ。
 きっと、彼女は今自分がどんな表情をしているか、わかっていないのでしょうね。



  紅 美鈴

「はぁ……なんとなく事情はわかりました」

 咲夜さんとパチュリーさまを前に、私は縮こまって席についている。
 てっきりまた白黒鼠が図書館に忍び込んだから、「門番は何してたんだ」、と怒られるものだと思っていた。でも違ったみたい。よかったぁ。

「そこで、あなたに聞いておきたいの。妹様はお嬢様のことを嫌ってなんかいないわよね?」

 あぁ、割とよく妹様の相手をする私にそれを聞きたくて、お二人は私を図書館へ呼んだのか。
 咲夜さんの言い方は、なんだか念を押すような言い方だし、たぶん気付いているんだろうなぁ。

「はい、別に妹様はお嬢様のこと嫌ってなんかいませんよ? むしろ……」

 ふと私は妹様のことを思い出した。
 お嬢様に言いつけられているからと、妹様は進んで地下を出ることはない。当然、その結果、妹様はお嬢様に会えない。

「……むしろ、何?」

 パチュリー様が私に続きを促す。

「妹様は、会いたがっているように見えました」

 この前お絵かきをしている時、まっさきに妹様が書いたのはお嬢様だった。
 お昼寝の時だってそうだ。何度か寝付くまで側にいたことがある。
 寝顔がかわいくてついつい寝た後もその様子を眺めていたりするのだけれど、その時たまに妹様は寝言を零す。
 お嬢様の名を呼び、涙を流すんだ。
 このことを、出しゃばった真似だとは思ったけど、お嬢様に伝えようとしたこともある。けど、聞いてもらえず、「フランの遊び相手をよろしく」とだけ言われて、去って行ってしまった。

「私は、お嬢様にも妹様にもいつも笑っていてほしいです。それが夢の中でも」
「そうね、それは私も、咲夜も同じ気持ちね」
「えぇ、当然ですわ」

 やっぱり同じ気持ちなんだ。
 そうだよね、じゃなかったらみんなこんなに心配したりしない。
 やっぱりみんな笑顔がいい。そのために、今私ができること……

「いっそ妹様を地下から出して、直接お嬢様に引き合わせたらどうでしょう?」

 そして、妹様に直接気持ちを伝えてもらう。
 そうしたら、妹様はお嬢様に会えるし、お嬢様の誤解も解ける!

「……確かにそれが一番いいかもしれないわね」
「では、私はお嬢様の様子を見に行きます。妹様の方はよろしくね、美鈴」
「かしこまりました。すぐエントランスにでもお連れします」
「えぇ、そうしてちょうだい。私もお嬢様をそこへ連れて行くから」
「……私は念には念を入れておこうかしら」

 そんなことをパチュリー様が呟いたのを聞いてから、私は咲夜さんと一緒に図書館を出た。


  紅・美鈴

「妹様、機嫌がいいといいなぁ」
「どちらにせよ、頑張ってちょうだいね」
「えぇ、お二人、ひいては私たちのためでもありますし」
「そうね、えぇ、そうだわ。これは私たちのためでもあるのよ」
「では、私はこのまま下に向かいます」
「よろしくね」
「かしこまりました」

 咲夜さんは消えるようにして――実際消えたんだけど――行ってしまった。
 私は地下への扉を開く。
 中は薄暗く、壁際にある手すりに捕まりながら、私は階段を降りて行く。
 少し降りるとまた扉。
 この向こうが妹様の部屋になっている。
 いつも通り、ノックをしてから扉を開く。妹様は基本的に返事をしてくれないから。

「妹様ー、いらっしゃいますかー?」

 階段と変わらず薄暗い妹様の部屋へ足を踏み入れる。
 天蓋付きの綺麗なベッドに、クレヨンとスケッチブックが散らかったままのアンティークな机。床の上には、たくさん散らばったぬいぐるみや人形。中にはバラバラに壊れたモノも転がっている。
 私は転がったモノを踏まないように気をつけながら、ベッドに近づいて行く。

「妹様、寝ちゃってますか?」
「めいっりーん!」
「わわわっ!」

 不意に、布団をかぶって隠れていた妹様が飛び出してくる。驚いた私は妹様を受け止めながら、必死に倒れないように踏ん張った。

「どうしたの? 遊びに来てくれたの? あそぼ、あそぼ♪」

 よかった。どうやら機嫌いいみたい。
 妹様は、私の腰に抱きついて、遊びの催促をしてくる。できれば遊んであげたいけど、今日はちょっと我慢。

「今日はちょっと違うんですよ」
「……違うの? 遊んでくれないの?」

 あ、マズイ。
 目にいっぱいに涙を溜めた妹様は指を加えて、寂しそうな顔で私を見上げる。
 この顔は、反則技だと、思うんだ。By 門番。
 一緒に遊びたい願望を抑えて、私はすぐに本題を切りだす。

「妹様は、お嬢様のこと好きですか?」

 答えは聞くまでもないんだけど、一応聞いておく。

「お姉さま? お姉さまのことは大好きよ!」

 さっきまでの表情から一転して、満開の笑みを浮かべる。やっぱり妹様には笑っていてほしい。本気でそう思う。

「じゃあ、お嬢様に会って、好きだって伝えにいきませんか?」

 妹様は、突然きょとんとする。

「会いに行くの? でもわたしここから出ていいの? 会いに行っていいの?」
「姉妹が会ってはいけないはずないじゃないですか」

 妹様の目線に合うように、屈んでから私はその綺麗な金色の髪を優しく撫でる。

「お姉さまに会える?」
「えぇ、会えますよ。そうだ、この前描いたお嬢様の絵をプレゼントしたらどうですか?」

 少しの間、たぶん会えるということをしっかり理解するだけの時間だと思う、妹様は黙って私を見つめていた。
 けれど、それもホントに少しだけの時間で、すぐに今まで見たことないくらいの笑顔を浮かべてくれた。

「うん! 持ってく! お姉さまにプレゼントする!」

 そう言って、妹様は机の上に置きっぱなしになったスケッチブックを開き、プレゼントする絵を綺麗に破り取る。
 あとは妹様を連れて、エントランスに向かえばいいのか。
 きっと、咲夜さんはもうお嬢様を連れてきているだろう。

「それじゃあ妹様、行きましょう」
「うん!」

 私は妹様の手を握り、一緒にこの薄暗い部屋を後にする。



  レミリア・スカーレット

「まったく。どういうつもりかしらね」

 咲夜がエントランスにいてくれと、しつこく頼むから来てみたものの。
 なにもないじゃない。もうそろそろ戻ろうかしら。あぁ、どうせなら、このまま神社に行ってみるのも悪くないわね。せっかく外は曇っているんだし。
 外に出ようと、私は扉に手をかけて初めて気付いた。

「……いつの間にか振りだしたのね」

 ゴロゴロ言ってるわ。雷まで落ちてるの? さっきの内に空を眺めておいてよかったわ。

「お姉さま!」

 え?
 突然背後から、懐かしい声を聞く。懐かしいと思うくらい、私はあの子に会っていなかったのか。

「……フラン?」
「お姉さま! 久しぶり!」
「……っ!」

 咲夜め、こういうことだったのね。なんで? なんでこんなことするのよ、バカ咲夜! フランに頼まれて、私をここへ呼びだしたの? あの子の要件なんてわかってるじゃない!
 反射的に私は逃げ出していた。

「あ、あれ? お姉さま?」



  フランドール・スカーレット

「それでは、お嬢様はエントランスにいますので」
「美鈴は一緒じゃないの?」
「あ、えっと……私はちょっと用事があるので」
「えぇー! まだ美鈴と遊んでないよ!」
「あ、じゃあ、お嬢様にその絵をプレゼントしてから遊びましょう」
「……お姉さまも一緒でいい?」
「えぇ、みんなで遊びましょう」
「うん! じゃあお姉さまのところ行ってくる! 約束よ! 破ったらキュッとしてドカーンてしちゃうんだから!」
「あはは大丈夫です、絶対破ったりしませんから」
「それじゃあ行ってくるね!」

 早くお姉さまにプレゼントして、お姉さまと美鈴と遊びたい!
 お姉さま喜んでくれるかな?
 あ! お姉さまだ!

「お姉さま!」

 わー、久しぶりだ! 何を話そう! なんて言おう! キャーッ!

「……フラン?」
「お姉さま! 久しぶり!」

 きっとこのあとお姉さまはわたしを抱きしめてくれる。だって本当に久しぶりなんだもん!

「……っ!」
「あ、あれ? お姉さま?」

 あれれ? なんで後ろを向いちゃうの? どこに行くの? お姉さま。
 お姉さまは飛びあがってしまう。このままじゃ、どっかに行かれちゃう! 追いかけなきゃ!

「お姉さま! 待って! お姉さ、あっ!」

 突然のことで、なんだかよくわからなくなって、わたしは思いっきり転んじゃう。
 なんでお姉さまは逃げちゃうの?
 どこに行くの? お姉さま。
 行っちゃヤダ……行っちゃヤダ……行っちゃヤダ!
 あっ……

「お姉さまに渡す絵……」

 コケた時に握りつぶしちゃったんだ。

「うぅ……」

 なんだかすごく悲しくなって、涙が零れちゃう。せっかくお姉さまに会えたのに、なのにお姉さまに嫌われた……
 わたしはこんなにお姉さまのこと好きなのに……

「うわぁああああん!」

 両手で拭っても拭っても、涙は止まってくれない。どうやったら止まるの? なんで止まらないの? お姉さま……お姉さま!



 レミリア・スカーレット

「まったく、あなたは相変わらずなのね」

 あのまま走り去ってもよかった。けど、やっぱり私にはそんなことできなかった。

「ひっく……お姉さま?」
「こんなに泣くこともないでしょう?」
「だって……だってぇ! プレゼントしようと思った絵もぐちゃぐちゃにしちゃったし、お姉さまはどっか行っちゃうし! わぁああん!」

 私は、フランが握っていた紙を取ると、それを広げる。
 中には手を繋いで楽しそうに笑う、私とフランの姿があった。

「たしかに紙はぐちゃぐちゃだけど……上手な絵ね、こっちが私でこっちがあなたね? 本当によく描けてるわ」
「……わかるの?」
「当たり前よ。この絵でわからないなんてヤツは、たぶん目が銀紙かなにかね」

 じーっとフランの絵を見てから、私はクルクルと丁寧にその絵を丸める。

「これ、私へのプレゼントなのよね? ありがたく受け取っておくわ。咲夜にでも頼んで自室に飾っておくことにしようかしら」
「……でもぐちゃぐちゃだよ?」
「ぐちゃぐちゃでもいい絵に変わりはないわ」
「うぅ……お姉さまぁ!」
「ほら、もう泣かないのよ」

 久しぶりに抱きついてきたフランは相変わらずだった。悲しいことがあればすぐに泣きだす。変わらないのね。
 この子が冷静さを取り戻したら、すぐに地下へ戻るように言おう。
 きっとその時言われるでしょうね。お姉さま嫌いって。

「わぁああん! お姉さまありがとう! 大好きだよ、お姉さまぁ!」

 え? なぜ?
 わんわん泣きわめくフランに私は聞き返す。

「……ホント?」
「ホントだもん! お姉さまのこと好きだもん! 大好きだもん!」
「だって、私はあなたを地下に閉じ込めていたのよ?」
「でも、それはわたしのためだって美鈴も咲夜も言ってたもん!」

 咲夜と、美鈴が?

「だから、わたしお姉さまのこと好きだもん!」

 この子は、昔から喜怒哀楽が激しくて、なおかつモノの扱い方を知らない。
 人間や他の生き物を簡単に壊してしまうのだ。そして破壊すること自体を楽しむことがある。
 それは当然他に好まれることではなく、そのことを知った他の連中は無責任にもフランに暴言を吐き続け、近寄ろうとしない。
 そして、そのたびに幼い妹は傷つく。
 私はそれが嫌だった。
 だから、フランを地下室へ閉じ込めた。
 結果、彼女が幸せだとは思わない。けど、これ以上傷ついてほしくなかった。負った傷は時を経れば、きっと癒えると思った。
 それが、私がフランを地下へ追いやった理由。
 賢いやり方ではないけれど、私にはそれしか思いつかなかった。
 だから、嫌われるのだって覚悟していた。
 なのに……

「お姉さまがわたしの嫌がることするはずないもん!」
「フラン……」

 あぁ、そうか。
 私がフランを大事に思うように、フランもまた私を大切に思ってくれていたんだ。
 私はたった一人の妹を。
 フランはたった一人の姉を。
 なんで私はあんなに怖がっていたんだろう? なんでもっとはやくフランの元へいかなかったのだろう? なんでこんなにかわいい妹を放っておいたのだろう?

「……ごめんね、フラン」

 泣きやまないフランにつられて――本当につられてよ――私も一粒、二粒と涙を零す。それがポタポタとフランの髪に落ちて行く。

「弱いお姉ちゃんで、ごめんね……」

 私たちは抱き合って、わんわんわんわん泣いた。
 威厳とか、そんなのどうでもよくなって、ただただ大事な姉妹を腕の中に閉じ込めて、泣き続けるだけだった。



  レミリア・スカーレット

「らんらーらんらーらんらららーらー♪」

 なんだか上機嫌なフランが床に寝そべって、スケッチブックに落書きをしている。
 フランに誘われて、遊ぶことになったから地下の部屋に来ている。
 お茶を用意してもらうために咲夜も呼んで、約束してたからと美鈴も呼ぶ。そして、パチェにも会いたいと言うのでパチェまでも地下室に集まっていた。
 美鈴は、フランの側であの子を褒めながら絵を描くのを眺めている。
 私とパチェは机の上を咲夜に片づけてもらい、今日何度目かのお茶に興じている。

「まったく、あなたもそういうことならちゃんと言いなさいよね」

 私は傍らで控えている咲夜に小言を零す。
 結局、私は勘違いでフランに寂しい思いをさせただけじゃない。てっきり嫌いだと言われると思ったわ。
 っていうか、すごく卑屈な考え方をしていたのね、私。いまさらだけど、なんだか恥ずかしいわ。

「申し訳ありません、お嬢様」

 と、謝っているのになんだか楽しそうなのが釈然としないわ。私が泣いてたの見てたんじゃないわよね。

「……レミィを思ってしたことよ、あまり叱ってあげないことね」
「ふん、だ」

 それくらい分かってる。よく考えなくても、咲夜が私の嫌がることをするわけがないんだ。もしあったとしたら、それこそ私のためを思ってのこと。
 そうよ、私がフランを地下に追いやったのと同じ事じゃない。

「だいたいパチェもパチェよ。雨を降らせたのはあなたでしょう?」
「えぇ、そうね。もともと曇っていたし、容易かったわ」
「おかげで外に出られなかったわ」

 そのおかげで、こうやってまた私たちは姉妹に戻れたのだけど。

「ふふっ、ちょうどいいタイミングだったでしょう?」

 いたずらっぽい笑顔を浮かべるパチュリーなんて初めて見た。
 まったく、この館にはこんなにお節介がいたなんて知らなかったわ。

「まったく。でも、ありがとう、みんな……」

 こんな気持ちになったのはいつ以来だろう? はじめてかもしれない。でも、すごく心地いい。
 いつの間にこんな館になったのかしら? 紅魔館は。
 なんだか愉快ね。
 思わず笑みが零れるわ。

「出来たー!」

 不意に、フランが勢いよく立ちあがる。その傍らで、いつも通りノー天気な笑顔で美鈴が拍手をしている。

「あら、どんな絵ができたのかしら?」
「こんな絵! わたしの家族!」

 楽しそうに、ぴょんぴょん跳ねながら近づいてきたフランは机の上に絵を広げる。
「まぁ」と咲夜が思わず呟いたのを、聞いた。
 パチェはパチェで、柔らかい頬笑みを浮かべて絵を見入っている。
 その絵には、ここにいるみんなの絵が描かれていた。
 みんな笑って、みんな幸せで、みんなが手を繋いでいる。そんな絵。
 すごく温かい絵だわ。
 フランは、これを家族だと言った。
 そうね。ホント、その通りだと思うわ。

「どう? お姉さま!」
「いい絵だわ、すごく、すごくね」

 この先、何年何百年生きるでしょうけど、ずっとこの家族と生きていこう。
 フランの絵を見ながら、密かに誓う。
 変わらず、誰も欠けずに。
 変わらない紅魔館のままで。
 ずっと、ずっと……
あい、お久です。柊です。一か月に一本というローペースです。
なんとなく書き始めて、とくに山なし落ちなし投げっぱなしジャーマンスープレックス的な話しになってしまいました。
紅魔館はいいところだなぁ、と思って頂けたら満足です。
でわでわ。最後まで読んでいただきありがとうございました。

P,S 小悪魔へ ごめんね、出番……作れなかったよ……
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コメント



0.540簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
おぉ、純真無垢な妹様が実に可愛らしい~!
11.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
12.80名前が無い程度の能力削除
紅魔館いいとこ一度はおいで
15.100名前が無い程度の能力削除
とても素晴らしい作品です。
ファンが楽しむことに重きを置いているところが素晴らしい。


ただタイトルが分かり辛く、内容が想像しにくい点
そしてタグの付け方が大雑把で登場キャラやジャンルがはっきりしない点
以上の2点であなたは本来得られるはずだった評価を失っていると思います。