お姉ちゃん?
べべべん。
なんでしょうか?
べべべべん。べべん。
どうしてべべべんとか言ってるの?
私は三味線で世界を取るのですよ。
エアー三味線で!? 錯乱しないでお姉ちゃん!
大丈夫。美味しいものを食べさせてあげますよ。
お姉ちゃーん…………
▲――地霊殿が倒壊した――▼
「どうして……」
古明地さとりは倒壊した地霊殿の前で、膝を抱えて呟いた。目の前には瓦礫の山。ついさっきまで暮らしていた家だ。それが、今や残骸と化している。
隣に立つこいしが、ぽん、とさとりの肩を叩いた。
それでもさとりは立ち上がれない。
ペットたちの目線が痛かった。
後ろから見てくる、燐や空のいたたまれない視線が痛かった。
本当に、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「どう、して……」
――――回想開始
「――ッ!」
足の小指に鋭い痛みが走った。
さとりは、思わず足を押さえてうずくまった。痛い。痛くって涙が溢れそうになる。唇を噛んで我慢する。そのまま声もあげることもできずにうめいていた。
本当はごろごろ転がってしまいたい。そんな痛みだ。でも転がることはできない。何故ならさとりは昔同じようなことをやって、頭をぶつけて余計な痛みを負ってしまったのだ。
あのときは酷かった、と足を押さえながら思い返す。頭をぶつけて、足も痛くて、もうどこを押さえていいのやら、だったのだから。
しばらく押さえて、十分くらいうずくまって、ようやく痛みが和らいできたので、顔をあげる。その目からは明らかに涙が零れていたが気にしない。
そうして目の前にある大きな木の棒を見る。確か工事現場の人たちの心を読んだ限りでは、大黒柱だっただろうか。それにしても、
「どうしてこれは、こんなところにあるのですか……」
ここはさとりの部屋だ。そのど真ん中をぶち抜くようにして大黒柱が立っている。明らかに設計ミスではないか、と思ったが言わなかった。おかげでよく足の小指をぶつけるけども。
さとりは涙目のままで、歯を食いしばりながら、その大黒柱に蹴りを入れた。痛かった。なんの意味もなかった。
――いや。
その瞬間、地霊殿を振動が駆け抜けた。ペットたちが逃げ出した。さとりは慌てた。自分の所為? と誰も見ていないのにおろおろと狼狽した。頭を振って、結局柱にぶつけて、もう一度痛い思いをした。
そのときだ。
さとりは見た。大黒柱がずれていたのだ。あ、やっぱり私の所為だ。自己嫌悪に陥った。ぐるぐる、というか上下に揺れる視界。
「お姉ちゃん!」
こいしの声。何事か、とベッドの方を見る。するとさとりのベッドの中からこいしが飛び出した。こいしは頭を抱えてうずくまる姉の姿を見つけると急いでそばに寄った。さとりは自己嫌悪に沈んでいた。
「早く逃げないと。これは地震じゃないんだから」
「いいんですよこいし。こんなしょうもないことで家を壊してしまう姉など放っておいてくださいな。」
「うん、確かにしょうもなかったね」
ずーん、とさらに沈むさとり。こいしは動かそうと頑張ったけれど、無意味だった。しょうがないから、さらに助けを呼ぶ。
「おりーん、おくーう、かもーん」
壁掛け時計の裏から現れた燐とベッドの下から這い出た空と共に、なんとかさとりを外に連れ出すことに成功したのであった。
――――回想終了
「元気だしなよ」
こいしが肩を叩いた。燐や空も声をかけてくれる。けれどもさとりは動かない。動けない。自己嫌悪で動けない。
そしてなによりも倒壊の理由が恥ずかしすぎて動けない。ペットたち(犬、猫、鳥、何でも様々)の視線が痛い。なによりその心の中まで見えてしまって、さらにダメージを負う。
心配してくれる声。何があったんだろう、と囁きあう声。元気出して、とつぶらな瞳。頬っぺたを舐めてくれる犬もいた(その内面はちょっと邪な気持ちに溢れていたが)。その場にいる全員がさとりの身を心配していた。
その結果、さとりは動けなかった。
自業自得で壊してしまったのだ。地霊殿を。どう責任をとればいいのだろうか。いいや、そんなことよりも、さとりにとって重要なことがある。
「――――る」
「へ? なんか言った?」
こいしが小首を傾げると、今度は聞こえるように大きな声で言った。
「し、四季様に怒られる」
ああ、とこいしは納得した。
そもそもこの地霊殿自体、四季映姫から貰ったものだ。それを壊してしまったのだから。
「ああもうどうしたらいいんですか。どうしようもないじゃないですか。怒られるのですか? いやですよ、もう……」
ぶつぶつぶつぶつ。
頭を抱えて愚痴愚痴愚痴愚痴。
「あのさ、四季様って、そんなに怖いの?」
「怖いなんてもんじゃないですよぅ」
「ふぅん、優しそうに見えたんだけどなぁ」
「違います。違うんですよ。あれは表の顔です。こいしは裏の顔を知らないからそんなことが言えるんです」
「なにか、あったの」
「優しい人が怒ると、本当に怖いのですよ」
「教えてくんないの?」
「世の中には知らない方がマシ、という言葉があります」
そうしてさとりはがくがく震えだすと、一言。
「逃げましょう」
と言った。
「ちょ、待て」
「大丈夫」
さとりは自分の前で腕を上下に細かく動かした。
「私はエアー三味線が得意です」
「それで?」
「お金の心配はありません」
「ばか?」
「失礼な。見ますか? 私の超絶テクニック」
そう言って、いっそう手の動きを素早くする。こいしには気持ちの悪い動きにしか見えなかった。しかし本人は心底気持ち良さそうだ。そのまま元に戻ってくれればいいのに。はぁ、とため息。
しばらく放っておこう、と思い、こいしはくるり、と後ろを振り返った。
燐が慌てて近寄ってきた。
「あの、さとり様大丈夫なんですか?」
「ううん。全然全くこれっぽっちも大丈夫じゃない。なんかエアー三味線とか始めた」
「エアー、しゃみせん?」
「うん、ほら」
と本人曰くの超絶テクニックを見せ付けるさとりを指差す。
ああ、と頷く燐。
「それにしても」
「ええ」
「どうしたもんかなぁ」
ため息を吐きながら元地麗殿を見据える。瓦礫の山となった地霊殿を。
そして、ヤケになってハイになっているさとりを。
もう一度、ため息。
後ろの方で、空がペットたちにエサをあげていた。
「あ」
と空が言った。燐が何事か、と見ると、そこには件の四季映姫がいた。
ゆっくりと近づいてくる。さとりは気がつかない。空は、燐は、こいしはなにも言わない。ただ、ゆっくり近づいてくる閻魔様を見ているだけだ。さとりはエアー三味線に夢中だ。
映姫が、さとりの後ろに立ち、その肩を叩いた。
「さとり」
振り向いて、じーっと目を凝らして、そうしてからようやく飛び上がった。本当に飛び上がって驚いた。
「し、四季様?」
「ええ」
映姫は遠い目をして地霊殿を見つめている。
「あの、その、これは違うんですよ!」
「ああ、大丈夫ですよ。実は非常に言いづらいのですが――」
言いづらそうに言葉を区切り、さとりの目を見た。さとりは内心気が気でなかった。何故なら閻魔様がこんなところに用もなく来るはずがないのだ。
きっと自分を怒りに来たんだ。これで快適な地底生活もお終いなのか……。
「手抜き工事だったそうです」
「はい?」
「言いかえれば違法建築ですね」
「で、では!」
「ええ、あなたに罪はありませんよ」
にっこりと微笑む四季映姫。さとりは思わず飛び跳ねた。やっほい、とくるりと回ってばんざいした。
そうした様子を見ていて、映姫は小さく漏らした。
「私も、あなたと同じことをしたことがありましたから」
[お・し・ま・い]
べべべん。
なんでしょうか?
べべべべん。べべん。
どうしてべべべんとか言ってるの?
私は三味線で世界を取るのですよ。
エアー三味線で!? 錯乱しないでお姉ちゃん!
大丈夫。美味しいものを食べさせてあげますよ。
お姉ちゃーん…………
▲――地霊殿が倒壊した――▼
「どうして……」
古明地さとりは倒壊した地霊殿の前で、膝を抱えて呟いた。目の前には瓦礫の山。ついさっきまで暮らしていた家だ。それが、今や残骸と化している。
隣に立つこいしが、ぽん、とさとりの肩を叩いた。
それでもさとりは立ち上がれない。
ペットたちの目線が痛かった。
後ろから見てくる、燐や空のいたたまれない視線が痛かった。
本当に、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「どう、して……」
――――回想開始
「――ッ!」
足の小指に鋭い痛みが走った。
さとりは、思わず足を押さえてうずくまった。痛い。痛くって涙が溢れそうになる。唇を噛んで我慢する。そのまま声もあげることもできずにうめいていた。
本当はごろごろ転がってしまいたい。そんな痛みだ。でも転がることはできない。何故ならさとりは昔同じようなことをやって、頭をぶつけて余計な痛みを負ってしまったのだ。
あのときは酷かった、と足を押さえながら思い返す。頭をぶつけて、足も痛くて、もうどこを押さえていいのやら、だったのだから。
しばらく押さえて、十分くらいうずくまって、ようやく痛みが和らいできたので、顔をあげる。その目からは明らかに涙が零れていたが気にしない。
そうして目の前にある大きな木の棒を見る。確か工事現場の人たちの心を読んだ限りでは、大黒柱だっただろうか。それにしても、
「どうしてこれは、こんなところにあるのですか……」
ここはさとりの部屋だ。そのど真ん中をぶち抜くようにして大黒柱が立っている。明らかに設計ミスではないか、と思ったが言わなかった。おかげでよく足の小指をぶつけるけども。
さとりは涙目のままで、歯を食いしばりながら、その大黒柱に蹴りを入れた。痛かった。なんの意味もなかった。
――いや。
その瞬間、地霊殿を振動が駆け抜けた。ペットたちが逃げ出した。さとりは慌てた。自分の所為? と誰も見ていないのにおろおろと狼狽した。頭を振って、結局柱にぶつけて、もう一度痛い思いをした。
そのときだ。
さとりは見た。大黒柱がずれていたのだ。あ、やっぱり私の所為だ。自己嫌悪に陥った。ぐるぐる、というか上下に揺れる視界。
「お姉ちゃん!」
こいしの声。何事か、とベッドの方を見る。するとさとりのベッドの中からこいしが飛び出した。こいしは頭を抱えてうずくまる姉の姿を見つけると急いでそばに寄った。さとりは自己嫌悪に沈んでいた。
「早く逃げないと。これは地震じゃないんだから」
「いいんですよこいし。こんなしょうもないことで家を壊してしまう姉など放っておいてくださいな。」
「うん、確かにしょうもなかったね」
ずーん、とさらに沈むさとり。こいしは動かそうと頑張ったけれど、無意味だった。しょうがないから、さらに助けを呼ぶ。
「おりーん、おくーう、かもーん」
壁掛け時計の裏から現れた燐とベッドの下から這い出た空と共に、なんとかさとりを外に連れ出すことに成功したのであった。
――――回想終了
「元気だしなよ」
こいしが肩を叩いた。燐や空も声をかけてくれる。けれどもさとりは動かない。動けない。自己嫌悪で動けない。
そしてなによりも倒壊の理由が恥ずかしすぎて動けない。ペットたち(犬、猫、鳥、何でも様々)の視線が痛い。なによりその心の中まで見えてしまって、さらにダメージを負う。
心配してくれる声。何があったんだろう、と囁きあう声。元気出して、とつぶらな瞳。頬っぺたを舐めてくれる犬もいた(その内面はちょっと邪な気持ちに溢れていたが)。その場にいる全員がさとりの身を心配していた。
その結果、さとりは動けなかった。
自業自得で壊してしまったのだ。地霊殿を。どう責任をとればいいのだろうか。いいや、そんなことよりも、さとりにとって重要なことがある。
「――――る」
「へ? なんか言った?」
こいしが小首を傾げると、今度は聞こえるように大きな声で言った。
「し、四季様に怒られる」
ああ、とこいしは納得した。
そもそもこの地霊殿自体、四季映姫から貰ったものだ。それを壊してしまったのだから。
「ああもうどうしたらいいんですか。どうしようもないじゃないですか。怒られるのですか? いやですよ、もう……」
ぶつぶつぶつぶつ。
頭を抱えて愚痴愚痴愚痴愚痴。
「あのさ、四季様って、そんなに怖いの?」
「怖いなんてもんじゃないですよぅ」
「ふぅん、優しそうに見えたんだけどなぁ」
「違います。違うんですよ。あれは表の顔です。こいしは裏の顔を知らないからそんなことが言えるんです」
「なにか、あったの」
「優しい人が怒ると、本当に怖いのですよ」
「教えてくんないの?」
「世の中には知らない方がマシ、という言葉があります」
そうしてさとりはがくがく震えだすと、一言。
「逃げましょう」
と言った。
「ちょ、待て」
「大丈夫」
さとりは自分の前で腕を上下に細かく動かした。
「私はエアー三味線が得意です」
「それで?」
「お金の心配はありません」
「ばか?」
「失礼な。見ますか? 私の超絶テクニック」
そう言って、いっそう手の動きを素早くする。こいしには気持ちの悪い動きにしか見えなかった。しかし本人は心底気持ち良さそうだ。そのまま元に戻ってくれればいいのに。はぁ、とため息。
しばらく放っておこう、と思い、こいしはくるり、と後ろを振り返った。
燐が慌てて近寄ってきた。
「あの、さとり様大丈夫なんですか?」
「ううん。全然全くこれっぽっちも大丈夫じゃない。なんかエアー三味線とか始めた」
「エアー、しゃみせん?」
「うん、ほら」
と本人曰くの超絶テクニックを見せ付けるさとりを指差す。
ああ、と頷く燐。
「それにしても」
「ええ」
「どうしたもんかなぁ」
ため息を吐きながら元地麗殿を見据える。瓦礫の山となった地霊殿を。
そして、ヤケになってハイになっているさとりを。
もう一度、ため息。
後ろの方で、空がペットたちにエサをあげていた。
「あ」
と空が言った。燐が何事か、と見ると、そこには件の四季映姫がいた。
ゆっくりと近づいてくる。さとりは気がつかない。空は、燐は、こいしはなにも言わない。ただ、ゆっくり近づいてくる閻魔様を見ているだけだ。さとりはエアー三味線に夢中だ。
映姫が、さとりの後ろに立ち、その肩を叩いた。
「さとり」
振り向いて、じーっと目を凝らして、そうしてからようやく飛び上がった。本当に飛び上がって驚いた。
「し、四季様?」
「ええ」
映姫は遠い目をして地霊殿を見つめている。
「あの、その、これは違うんですよ!」
「ああ、大丈夫ですよ。実は非常に言いづらいのですが――」
言いづらそうに言葉を区切り、さとりの目を見た。さとりは内心気が気でなかった。何故なら閻魔様がこんなところに用もなく来るはずがないのだ。
きっと自分を怒りに来たんだ。これで快適な地底生活もお終いなのか……。
「手抜き工事だったそうです」
「はい?」
「言いかえれば違法建築ですね」
「で、では!」
「ええ、あなたに罪はありませんよ」
にっこりと微笑む四季映姫。さとりは思わず飛び跳ねた。やっほい、とくるりと回ってばんざいした。
そうした様子を見ていて、映姫は小さく漏らした。
「私も、あなたと同じことをしたことがありましたから」
[お・し・ま・い]
倒壊してるのは地霊殿だけじゃない気がする
さとり様がアホの娘すぎるよっ。
でも可愛いんだよっ。
なにより映姫様とのツインエア三味線が凄く見たいんだよっ!
なぜかここで一番笑ってしまったw さとりかわいいよさとり
この散れ遺伝にはつっこみが足りない
裁判長の席には古明地さとり・ヤマザナドゥ様が座ってそうな気がする。
なんでと聞かれても困るがそんな気がするwww