青く澄み切った空に、大きな雲が少しずつ形を変えて流れていく。
梅雨を迎えたらしい幻想郷だが、雨が降る事が少ない。
本当に入梅なのかと疑いたくなる天気である。
晴れているときは、とにかく暑く、雨が降っているときは蒸し暑い。
結局、夏は暑いのだ。
そんな暑い幻想郷の一角、命蓮寺。
障子も全て開け放たれ、夏の僅かな風が通るようにしてある。
暑いために、僅かな風でもとても涼しく感じるものだ。
そしてまた、風が流れていく。
涼しい風が流れる中で、一人熱い視線を送り続ける人物がいた。
寅丸星、毘沙門天の弟子だった。
「あぁ、聖……」
長く美しい髪が、僅かな風にふわりと揺れる。
その優しい笑みは、全てを包み込む母のようだ。
性格も皆に平等で、すごく優しい。
そして、母性を感じる大きな胸、あぁ、飛びこみたい。
それに、何もつけてないのに良い香りがする。
なんというか、憧れを通り越して特別な関係になりたい。
「ご主人、ちょっといいかい?」
「はぁ……」
ぬえと村紗とが、聖と一緒に話をして笑っている。
あの笑みは平等であり、一人だけのものではないのだ。
「お~い、ごしゅじ~ん」
「どうしてあんなに……はぁ、もう……」
ブツブツブツブツ呟いている星に嫌気が差したナズーリンは、外へ飛び出した。
その間も星はずっと呟いており、聖から目を離さない。
そして、ナズーリンが帰ってくる。
手の辺りからジジジジッっと騒がしい音が聞こえる。
それでも気づかない星の背中、ナズーリンは手を突っ込み、ぱっと手を離した。
ジジジジジジジッ。
「え、え!? ちょ、ナズーリン、取って、取ってよぉ!!」
「何度呼びかけても気づかないご主人が悪い」
星の中で出口を求めて荒れ狂うあぶらぜみ。
それを必死に出そうとする星に、聖達の視線も集まる。
くすっと聖が笑ったのが見えた星は、思わずにっこり、されどあぶらぜみは暴れすぎてぐったり。
仕方なくナズーリンがあぶらぜみを取ってやると、もといた場所に戻してやった。
やがて、ナズーリンは話があるからと言って、自室に星を呼んだ。
その部屋へ向かうまでの通路で、星は問いかけた。
「なんであんな事するんですか」
「だから、何度名前を呼んでも反応しなかったからって言ってるだろう?」
「え? そ、それはすみません。で、何の用でしょう」
「それは部屋に入ってから話すさ」
はぁ、と星は情けなく返すと、ナズーリンに招かれるがまま、部屋の中へと入っていった。
「……で、用件は?」
座布団に正座している星に対し、ナズーリンは胡座をかいている。
少しばかり、表情が硬いというか、複雑な顔だった。
「単刀直入に言わせてもらうよ。ご主人、聖の事好きでしょう」
「な、ななな何言ってるんですか、ナズーリン! そんな、女性と女性とが恋に落ちるなんてそれはあってはならないというか、それは世間が許してくれないといいますか、とりあえず駄目ですよね!」
「一体何を言ってるんだ、落ち着いたらどうだい」
冷静になれと星は自分に言い聞かせる。
なんで私が聖の事を好きなのがばれたのか、冷静に考えてみる。
だって、ずっと心の中で聖の事を思っていたわけだし、口にしたことなんてない。
それに、ただ視線を送っていただけで、そんな普通ばれないはず。
なのにナズーリンはそれに気づいている。
なんで?どうして?Why?
もしかして、覚りみたいに心の中を読む能力でも得たのだろうか。
ナズーリン……恐ろしい子……。
「なぁにさっきからブツブツ呟いてるんだい」
「ハッ!? 呟いてました?」
「うん、ばっちり」
「ってことは、今まで私が聖について思っていた事も?」
「あぁ、さっきもずっと呟いていたさ」
「なんてことでしょう……」
自分が呟いていた事に気づかなかった星は、相当ショックだったのだろう、頭を抱えて喚いている。
気づいていなかったのかと、ナズーリンはある意味で星の事を改めて尊敬した。
「どうしましょう、私嫌われてしまったかもしれません……」
「それくらいで聖が嫌いになると思うかい?」
「で、でもですよ、そんな聖自身の事をブツブツ呟いていて、しかもじっと見ているんですよ?もし私がナズーリンに対してそうしていたらどうします?」
「いや、引くね」
「でしょう!! あぁ、私はここにいるべき者じゃありませんね、さようならです、ナズーリン」
すっと立ち上がると、部屋から出ていこうとする。
流石にナズーリンもそれには驚き、飛びこむようにして足を押さえる。
「は、離して下さい! 私にはもう、もう!」
「落ち着けご主人! まだ慌てるような時間じゃない!」
すると足の動きが止まった。
ほっとしたナズーリンが上を見上げると、星は泣いているではないか。
ぽたり、ぽたりと落ちる雫が、ナズーリンに降りかかる。
どうやら、ここの天気は雨のようだ。
「うぅ、じゃあどうすればいいんですがぁ~!!」
「ご主人、とりあえず座ろう、ね?」
「うぅ……」
あぁ、この暑さの中で溶けてしまいたい。
ナズーリンは思った。
一方、聖。
ぬえは、暇だからどっか行ってくると言って消えていった。
なので、今は村紗と二人きりで喋っていた。
「ところで村紗」
「なんでしょう、聖」
「最近、星が私の事ばかり見ているような気がするのですが」
「あー、そうですねぇ。この前もご飯食べてるときに、箸くわえながらじーっと見てましたし」
「もしかして、私の事が好きなんでしょうか?」
「へ?」
思わず間の抜けた声をあげる村紗に対し、聖の表情はどことなく真剣だった。
あぁ、こりゃめんどうなことになるかもしれないと、村紗は腹をくくった。
「でも、女性に恋するなんて星も変わってるわね」
「いや、まだ恋したなんて決まったませんけどね」
「まったくもう、昔から私のことをじっと見ていたけど、最近は時々呟いてるの聞こえるのよね」
「あ~、あれはなんというか、もう重度の病気ですよ」
星の呟きは、少なからず聖の耳には届いていたようだ。
もちろん、村紗もそれを知っている。
聖が視界に映ると呟くんだから、たまったものじゃない。
「やっぱり星は私の事が好きなのよ。困ったわねぇ、女性同士なのに、こんなのいけないわ」
「いや、だからまだ決まってませんけどね」
「全く、ここに来た頃から変わらないわ。なんっていうか可愛らしくて、放って置けない子なのよね、星って」
「あの~、聖?」
「まさか恋心を抱いていたなんて、ほんと女の子っぽいわねぇ」
聖ワールド展開。
これは止めなければならないと思った村紗は、思った事を率直に言ってみた。
「聖、もしかして貴女は星の事が好きなんじゃないですか?」
「え、いやぁねぇ、村紗ったら、何言ってるのよ」
「でも、顔真っ赤ですよ?」
そう指摘した瞬間、光の早さで手で頬を隠した。
恥ずかしそうにしている時点で、ばればれだった。
聖も女の子だなぁ~と、村紗は痛感する。
「どうしましょう……。皆平等でいたいのに、星にだけ特別扱いするなんて、言ってる事とやってる事が矛盾してしまいます。あぁ、どうしたものでしょう……」
「落ち着きましょう、聖。女性が誰かを好きになる事は当たり前ですし、そこは仕方がないことですよ」
「そうでしょうか? でも、星が私を好きでなかったら、私はもうここにいることができないというか、なんというか……」
あぁ、これほど海に帰りたいと思った事はない。
もう、蒸発して気体になってしまいたいと、村紗は思った。
そんな中、
「ご飯できたわよ~」
今日のご飯担当である一輪が、昼食ができたことを告げた。
「とりあえず昼食を取りましょう。別に急がなくてもいいことですし、ね?」
「そ、そうですね。ありがとうございます、村紗」
「いえいえ」
内心やっと終わったと安心し、昼食の場へと向かう。
そこには既にぬえとナズーリン、星がいた。
どこか、星の眼の辺りが腫れているが、村紗は何も言わなかった。
皆が揃ったところで、聖が手を合わせる。
それにあわせるように、一同が手を合わせた。
「それでは、いただきます」
それに続けていただきます、と各々が言うと、箸を進め始めた。
カチャカチャという音だけが響き渡り、妙に静かだった。
「なんで今日はこんなに静かに食べてるのさ?」
「さぁ、なんででしょう」
ぬえの疑問に、一輪も疑問を重ねた。
いつもなら笑顔で会話しながら楽しい食事なのに、そんな面影もないほど静かだった。
ぬえがちらっと星の方を見る。
星は、ちらちらと聖を見ては、焦るようにご飯を食べている。
また、聖のほうを見れば、聖も同じような様子だった。
ぬえはにやりと笑った。
「ねぇ、星と聖ってできてるの?」
その瞬間だった。
星と聖の両者の方がぴくりと揺れ、そしてぬえの両肩を手が掴む。
片手は村紗、もう片方はナズーリンだった。
ぬえは両者の顔を順番に見る。
どうみても、怒っている表情だった。
「ちょっとぬえ」
「表に出るんだ」
「え、あ、ちょっと! 私まだご飯のとちゅ……」
ずりずりと畳の上を引っ張られ、そして外へと出ていった。
残されたのは、星と聖、そして一輪。
ぽかーんとしていた一輪は、そっと口を開いた。
「二人とも、お互いの事好き……だったりする?」
ちらりと上目遣いで、二人の様子を確認する。
すると、両者とも恥ずかしそうに、小さくこくんと頷いた。
(な、なんでこんな女の子みたいな反応するのよ……!!)
一輪の頭の中で、なにかが弾けた。
こんな甘い空間にいたら、きっととろけてしまうと思ったからである。
「あ~、今日は暑いわねぇ!! 村紗、ナズーリン、私もちょっと混ぜてよ!!」
一輪は逃げるようにして、その場から去っていった。
そして、沈黙。
長く、長く続く沈黙は、とても辛かった。
星は、そんな沈黙が絶えきれず、口を開いた。
「あ、あの、聖? よく聖の事を呟いたり、じっと見てたりしますけど、私の事、嫌いじゃないですか?」
「き、嫌いなはずないわ! 星の事、好きよ?」
「ほんとですか!?」
星の顔がぱっと明るくなる。
そんな星の表情を見て、聖も笑った。
「えぇ、本当よ」
「あ、あの~……もしよかったら、こ、今度、二人っきりでおかいものに行きませんか?」
「あら、デート? 嬉しいわね」
「デ、デート!? い、いやその……あのぉ……」
「ふふ、可愛いわね。いいわ、今度一緒に行きましょうね」
「はい! 楽しみにしてますね!」
暑い季節に、熱い二人。
不意に、少し強めの風が吹いた。
それはとても涼しくて、心地よかった。
しかしその風は、暑さを冷ませても、熱さを冷ます事はできなかった。
まったくひどいタイトル詐欺だぜwww
いや本当にどうしてこうなった。
タイトルからしてナズ星の星ちゃんが聖に浮気して家庭崩壊する展開かと思ったじゃないか。
乙女星ちゃんも乙女ひじりんも可愛過ぎですがね。
ああ熱い熱い熱くてたまらんね。熱ちゅっ星には気をつけよう。
あまくてとってもおいしかったです。
恐ろしい子たち!
だからこの点で。
評価ありがとうございます。
シリアスっぽいのでもいいかなぁとか思いましたが、私には書けませんでした。
>11 様
評価ありがとうございます。
何事もストレートでいきたいものです。
>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
家庭崩壊……。その手もありましたね。
だれうまww
>18 様
評価ありがとうございます。
女の子は可愛くなくっちゃ!
>20 様
評価ありがとうございます。
ナズ星ではなかったですね、タグの通り。
聖はお姉さんっぽいと思っていたので……。
>リーオ 様
評価ありがとうございます。
真夏の暑さ、いいじゃないですか!
>山の賢者 様
評価ありがとうございます。
過去の私のナズ星の作品をですね(ry