封獣ぬえはとても憂鬱であった。
一つ目の理由は、外に出てから初めての七夕だというのに、雨で星が見えなかったこと。
命蓮寺の大広間でなんとか行事は出来ているけど、村の一般人も大勢居たので暑苦しかった。
夏のじめっとした湿気で服も身体にまとわりつき、気分は最悪である。
二つ目は部屋の中央に置かれてる、沢山の短冊が飾り付けられた大きな竹。
彼女の気分が優れなかった大きな原因がこれである。
ぬえは自分の手に持ってる短冊と、その竹に吊るされている二つの短冊を見比べて、溜息を吐いた。
『弾幕がパワーアップしますように (さらに何か書いてあったようだが、消されてあって読み取れなかった) フランドール・スカーレット』
『能力がもーっと強くなりますように♪ (同じく、何か書いてあったようだが、消し跡のみが残ってる)古明地 こいし』
「ちぇ、こんなときくらい、弾幕バカにならなくたっていいのに」
ぬえの短冊には『いつまでも、みんなで一緒に居られますように』と書いてあった。
柄にも無い事を願ったなあ、とぬえも自覚はしていた。
別に彼女達の願いが悪い事わけではない、それはぬえもわかっている。
けれど、きっとみんなも、自分と同じ気持ちなんだと心躍らせてた分、ショックは大きかった。
自分だけなんだか舞い上がっちゃったなと、乾いた笑いが出てきた。
「あはは。書き直そうかな」
そうぬえが呟いて、短冊を握りつぶそうとした瞬間、後ろから「おーい」という呼び声が聞こえてきた。
振り向いてみると、そこには彼女の友達であるムラサが手を振っていた。
「ぬえはもう短冊を書いたの?」
彼女の問いに、ぬえは咄嗟に短冊を後ろに隠した。
恥ずかしい事を書いたわけじゃないのに、という自己嫌悪がさらにぬえを襲う。
「まだ書いてないよ、ムラサは書いたの?」
「もちろん、『命蓮寺が未来永劫安泰でありますように』ってね」
聖想いの彼女らしいなあと、ぬえは笑った。
広間の端で村人に芸を見せてる一輪も、説法を説いてる聖も、きっと同じ願いなんだろうな。
それ思うと、ぬえの気持ちはさらに沈んでいった。
「そういえば、フラン達はどうしたの? どこにも姿が見えないけど」
「あの子達なら、新参の私達に良い物を披露してくれるそうよ。一番に見てもらいたいのはぬえのようだけどね」
と言って、またムラサはどこかへ消えてしまった。
悪いものならもう見せて貰ったよ、そう悪態を付こうとした口をぬえは塞いだ。
「さぁ、雨でゾンビのような顔をした皆さん」
そのとき、フランの声が聞こえた。
しかし辺りを見渡しても、同じようにフランを探してキョロキョロしてる村人の姿しか見えなかった。
「この私が、とっておきのショーを見せてあげるわよ!」
フランの大声が大広間に木霊した。
ふと上を見上げてみると、そこに飛んでいる彼女の姿があった。
隣には、にこやかな表情をしたこいしが飛んでいる。
二人とも、ぬえを見つめているように感じた。
いったいあいつらは何をしているんだろう?
そうぬえが首を傾げたら、次にこいしが何やら叫びだした。
「急に暗くなるけど、みんな焦らないでくださいねー!」
その瞬間、ぬえは目の前が真っ暗になった。
周りは疎か、自分の手のひらすら見ることが出来ない。
まっくらやみの中。
さてはこいしの能力だな、そうぬえは確信した。
村人のざわつきが聞いたぬえは、この現象が自分だけでは無いと知った。
一体あいつらは何を考えているんだ、そう思ったら、
「あ……」
ぬえの頭上に、満天の星空が広がった。
それは不完全な形であったが、天の川を表現しているようであった。
実際の天の川にはほど遠い密度の弾幕で創った星空、フランのスペルであろうスターボウブレイク。
ぬえはその偽者の夜空を見て、感激で声が出せなかった。
村人達のざわめきも、すでに消えていた。
「みなさんどうでしたか? 私とこいしちゃんによる、天の川ショーでした!」
フランが叫ぶと同時に天の川は消え、また辺りに明るさが戻っていた。
そして雪崩のように拍手が鳴り響く。
「弾幕ってやっぱり凄いね」「とっても綺麗だったよ」「暗くなったときは心臓が止まるかと思ったけど、良い物を見せてもらったね」「フランちゃんこいしちゃんウフフ」そんな村人の声が、ぬえの耳に入ってきた。
「どうだったかしらぬえ?」
「綺麗だったでしょー♪」
ぬえの前に、フランとこいしが降りてきた。
緊張によるものか、二人の額には汗が溜まっていた。
「外に出てから最初の七夕が雨じゃ、ぬえもやってられないものね。でも大変だったわよ。私だけの弾幕じゃ栄えないから、こいしちゃんにも演出を手伝ってもらったのよね」
「上手くいったようで良かったよー。失敗するかもと思って緊張しちゃったもん」
二人の笑顔を見て、ぬえはすぐにでもお礼を言いたかった。
それなのに、先ほどの短冊がどうしても脳裏から離れない。
だからちょっと意地悪をしてしまった。
「どうせだったら、魔理沙に頼んだほうが良かったんじゃないのか」
自分でも馬鹿な事を言ってるとぬえはわかっていた。
せっかく自分のためにやってくれたのにと、すぐにぬえは後悔した。
だけど、その言葉にフラン達は不快感を表さず、
「せっかくだから、私たちであなたに星空を見せたかったのよ。ね、こいしちゃん」
「うん♪」
と照れくさそうに言った。
それを聞いて、ぬえの心はズキズキと痛み出す。
さっきまで悩んでいた自分が、なんだか小さく感じた。
「ねぇ二人とも」
ぬえは、緊張しながら話し出す。
確かめたいことが、一つだけあった。
「もしさ、私たちが織姫や彦星のように会えなくなったらさ、どうするかな」
それはぬえにとっては、とても重要な事だった。
また封印されたら一生みんなには会えない。
そんな悩みが彼女の胸に潜んでいた。
しかし、フランとこいしは少しきょとんとした後、それが些細な問題ではないと言いたげに、くすくすと笑った。
それを見てぬえはむっとしたが、すぐにフランがその答えをだした。
「安心しなさいぬえ。私たちが離れるなんてありえないわ。それはこの世に空気が無くなるよりありえないこと。だけどもしそんな事があるなら」そう言ってフランが一呼吸置いた後、「私がそんなもの破壊してあげるよっ!」とこいしがガッツポーズで決めた。
「もー私のセリフ取らないでよね」ってフランが文句を言い、こいしは「ごめんねー♪」とじゃれ合っている。
その間ぬえは、ぐちゃぐちゃであろう自分の顔を見られたくなくて、ずっと俯いていた。
ああ、やっぱり私達は馬鹿だなぁって小さく、小さく呟いた。
―――
その後、結局ぬえは短冊の内容を変える事にした。
『いつまでも、みんなで一緒に居られますように』って書いてある短冊はそのまま破かずにしまい、新しい短冊にこう書いた。
『私の能力がもっと最恐になりますように! 封獣ぬえ』
さらに『大切なものを失わないように』と書いてあったけど、恥ずかしくなってこれは消してしまったようだ。
まさかのぬえたん。ぬえたんの短冊があるってことは一緒に来てるのか?
あと部下のは願い事じゃねえww
ぬえかわいいよ!
ナズーリンの短冊願い事じゃねえw
あったかい気持ちになりました。
あとがきのナズと星も素晴らしいw
ちなみに今年の願い事は「三人娘もっと流行れ」でした
>ぺ・四潤さん
さっかくなので出してみました。
いちおう、続き物なので一緒に来てることになってます。
ナズのは、欲求不満が(ry
>Admiralさん
ぬえちゃん本当に可愛いです
>4さん
ぬえたんは、ぬえの可愛い所を違う感じで抽出したキャラなので
そういってもらえると嬉しいです。
>9さん
ナズのは、心に秘めたお願い事です!
>10さん
みんな喧嘩しても、やっぱり仲のいい感じが理想です
>15さん
ナズーリンもいい子ですよ!
>18さん
ありがとうございます。
そう言って貰えると嬉しいです。
>20さん
ほんとうにこの三人は癒されます
>21さん
大切な物って意外と気が付かないものです。
自分の話であたたかい気持ちになってもらえてなによりです。
>26さん
ぬえちゃんの分身はやっぱり可愛いです
>29さん
三人娘の作品も、最近増えてきて嬉しいです