妖怪の賢者八雲紫。彼女が騒霊姉妹の屋敷に何枚もの小さなレコード盤のようなものをおいていった。
それはCDだった。再生機を谷の河童に作らせたとそれも置いていった
取扱説明書とにらめっこをしながら準備をしたルナサは後ろから作業の様子を見て時折アドヴァイスをくれたメルランに感謝し、準備が遅いと文句をたれるリリカに垂直落下式DDTを見舞った。
再生を始めてホーンから聞こえてきた音は、ルナサやメルランよりリリカの好む音だった。
そしてリリカは言った。
「ライブをしよう」と。
~ 虹川三姉妹が替え歌を作る話 創 ~
「…意味が分からないんだけど」
そう言いながら肩口の高さにカットされた金髪を左右に揺らすのは長女のルナサ。
「リリカ~…わたしも分からないわ」
同じくふわりとした銀髪を傾けて答える次女のメルラン。
「そんなバナナ!」
亜麻色の髪をショートカットしている三女リリカはそういって飛び上がった。
一世代古いボケをかましたリリカと呼ばれた少女はものすごい勢いでうな垂れた。
その勢いで床に頭をぶつける。人間なら中々できないむしろしたくない自傷行為も幽霊ならば可能である。幽霊なら怪我をしないかもしれないが。
ぶつけた頭をさすりながら少女は姉達に己の考えを伝える。
「いやこのしーでぃーってのが聴けるのは今のところ私たちだけなんでしょ?」
「一台とは聞いてないけど」
「訊かなかったものね」
「なら私たちだけかもしれないじゃん」
まぁ一理あるねと頷くルナサ。
どうなのかしらと反対側に首をかしげるメルラン。
絶対にそうだと譲らないリリカ。
姉妹の終わらない討論はおよそ三辰刻ほど続いた。
※辰刻が判らない場合は辞書を引くことをオススメします知って損はしません、得するかは知りません。
-およそ三辰刻後-
「リリカが言いたい事はなんとなくわかったよ。要するにライブがしたいんだね」
「そうならそうと言ってちょうだい、お姉ちゃん達も手伝うから~」
「さ、さいそからそういってんだおー…ゲホッ」
一人白熱し、己の思いを語っていたリリカの喉はかなり限界に近い。一方軽くあしらいながら何か作業をしていた姉達は普段どおりの声でリリカの意見に同意した。
「き…きまりならばさっそくじゅんびを…ハァ」
「メルラン、文々。新聞にのせる広告は?」
「こんな感じかなー?姉さん読んでみてー」
「………ん、こんなものでしょ。あと演奏曲をどうするかよね」
「パフォーマンスの練習もしなきゃだしね~」
「とりあえずもう一度曲を聴いて選別しようか、メルラン任せていい?」
「姉さんは選ばないの~?」
「これあたしの選曲リスト、二つ三つあればあたし好みのはいいでしょ。見つかんないと思うけど紫さん探してみる」
「わかった~、確認よろしくー」
「ハイハイ、行ってくる」
いってらっしゃーいと元気よく手を振るメルランの背中と、窓から出て行くルナサの背中をリリカは傍観するしかなかった。
(え、何ノリ気だったの?いつから?てゆうかなんでルナ姉あんなに元気良いの?血色の良い肌してんだけどあれいつもくらい顔してる私の姉であってますか?)
ガクリと崩れ落ちたリリカの口からそんな思いのこもったため息が溢れ出す。
そんなリリカを察してかメルランがポツリポツリと喋りだす。
「リリカがやりたいっていうのはいつものことだけど、リリカに任せるといつも行き当たりばったりになるじゃない?」
メルランは先程まで書き物をしていた机から立ち、CDケースの山に向かって歩く。
「ルナサ姉さんはそんなんじゃいけない、宴会でしか演奏できないようじゃせっかくの楽器がかわいそうだって言ってるのよ」
一枚のCDがケースから離され再生機にセットされる。青い表面が高速回転し、記録された一曲目が再生される。
「…いつも、ね」
やわらかなトランペットの音が部屋に響き渡る。続いて鳴りだすバイオリンとピアノのメロディー。
「そっか…」
心に染み入るその音は、存在を理解したばかりの頃に三人で奏でていた音楽に似ている…リリカはそう感じていた。
「一曲だけ変えてみない?」
ルナサが帰り、メルランとリリカが曲を選び終えた時、リリカが呟いた。
「変えるって…、アレンジするってこと?」
「それはアドリブでじゃないかしら~、譜面を用意するわけではないしー」
「そうじゃなくて、歌を…さ。替え歌にして歌ってみない?」
ふむ、と考え込むルナサ。二人の顔を交互に見るメルラン。姉達の答えを待つリリカ。
紫が持ってきたCDの曲は歌物がほとんどだった。中には音だけを奏でた曲もあったが
それはほんの一握りであった。
ルナサの考えでは歌をなしに曲だけを奏でるつもりだった。だが…。
「ねぇリリカ。なぜ歌おうと思ったのか、訊いていい?」
「ん…それは、えと」
言葉を選ぶように指を揺らしながら宙を見るリリカ。
「この曲ってさ、歌も合わせて一つの曲になるように作られたと思うんだ。だからバラバラにするのは寂しいんじゃないかなって…そう思ったの」
「そうね、確かにそうかもしれない。でも変えるのはなぜ?そのまま歌ってあげたほうがいいんじゃない?」
一寸の間リリカが言葉に詰まる。その瞬間にメルランが会話に入る。
「でも、そのまんまじゃそれだけじゃない。外の音楽を演奏するだけなんて楽しくないわ」
「そ、そうそう!だから私たちでさ、替え歌にして歌うの!この曲はもうアレンジされてるみたいだし丁度いいんじゃないかな?」
リリカが突き出してきたケースの裏、その一曲にはルナサも見覚えがあった。いつだったか紫が現れた際にスキマの中から聞こえた歌。たしかにこの曲の山にその歌はなかった。
外の世界の音楽の傾向から見るにこのタイトルがアレンジ版だろうと推測できた。
「いいわ、そうしましょ」
ただしと付け加え、リリカの手をどけてその顔を正面から見つめる。
「替え歌は三人で作る、途中で投げ出さない、この二つは守るように」
いいわね、とウインクする。リリカは満面の笑みでうんうんと何度も深く頷いた。二人を横で眺め、ニコニコと楽しそうにメルランが笑っている。そんな暖かい光景とともに屋敷の夜は更けていった。
翌日、屋敷から出た三人は別々の方向に飛んでいった。
歌詞作りのためである。とはいえなにも考えずに飛び出したため三人ともどこへ行くか決めあぐねていたが長女は風に流されるまま、次女は気の向くままに、三女はほとんどがむしゃらに飛んでいった。
それはCDだった。再生機を谷の河童に作らせたとそれも置いていった
取扱説明書とにらめっこをしながら準備をしたルナサは後ろから作業の様子を見て時折アドヴァイスをくれたメルランに感謝し、準備が遅いと文句をたれるリリカに垂直落下式DDTを見舞った。
再生を始めてホーンから聞こえてきた音は、ルナサやメルランよりリリカの好む音だった。
そしてリリカは言った。
「ライブをしよう」と。
~ 虹川三姉妹が替え歌を作る話 創 ~
「…意味が分からないんだけど」
そう言いながら肩口の高さにカットされた金髪を左右に揺らすのは長女のルナサ。
「リリカ~…わたしも分からないわ」
同じくふわりとした銀髪を傾けて答える次女のメルラン。
「そんなバナナ!」
亜麻色の髪をショートカットしている三女リリカはそういって飛び上がった。
一世代古いボケをかましたリリカと呼ばれた少女はものすごい勢いでうな垂れた。
その勢いで床に頭をぶつける。人間なら中々できないむしろしたくない自傷行為も幽霊ならば可能である。幽霊なら怪我をしないかもしれないが。
ぶつけた頭をさすりながら少女は姉達に己の考えを伝える。
「いやこのしーでぃーってのが聴けるのは今のところ私たちだけなんでしょ?」
「一台とは聞いてないけど」
「訊かなかったものね」
「なら私たちだけかもしれないじゃん」
まぁ一理あるねと頷くルナサ。
どうなのかしらと反対側に首をかしげるメルラン。
絶対にそうだと譲らないリリカ。
姉妹の終わらない討論はおよそ三辰刻ほど続いた。
※辰刻が判らない場合は辞書を引くことをオススメします知って損はしません、得するかは知りません。
-およそ三辰刻後-
「リリカが言いたい事はなんとなくわかったよ。要するにライブがしたいんだね」
「そうならそうと言ってちょうだい、お姉ちゃん達も手伝うから~」
「さ、さいそからそういってんだおー…ゲホッ」
一人白熱し、己の思いを語っていたリリカの喉はかなり限界に近い。一方軽くあしらいながら何か作業をしていた姉達は普段どおりの声でリリカの意見に同意した。
「き…きまりならばさっそくじゅんびを…ハァ」
「メルラン、文々。新聞にのせる広告は?」
「こんな感じかなー?姉さん読んでみてー」
「………ん、こんなものでしょ。あと演奏曲をどうするかよね」
「パフォーマンスの練習もしなきゃだしね~」
「とりあえずもう一度曲を聴いて選別しようか、メルラン任せていい?」
「姉さんは選ばないの~?」
「これあたしの選曲リスト、二つ三つあればあたし好みのはいいでしょ。見つかんないと思うけど紫さん探してみる」
「わかった~、確認よろしくー」
「ハイハイ、行ってくる」
いってらっしゃーいと元気よく手を振るメルランの背中と、窓から出て行くルナサの背中をリリカは傍観するしかなかった。
(え、何ノリ気だったの?いつから?てゆうかなんでルナ姉あんなに元気良いの?血色の良い肌してんだけどあれいつもくらい顔してる私の姉であってますか?)
ガクリと崩れ落ちたリリカの口からそんな思いのこもったため息が溢れ出す。
そんなリリカを察してかメルランがポツリポツリと喋りだす。
「リリカがやりたいっていうのはいつものことだけど、リリカに任せるといつも行き当たりばったりになるじゃない?」
メルランは先程まで書き物をしていた机から立ち、CDケースの山に向かって歩く。
「ルナサ姉さんはそんなんじゃいけない、宴会でしか演奏できないようじゃせっかくの楽器がかわいそうだって言ってるのよ」
一枚のCDがケースから離され再生機にセットされる。青い表面が高速回転し、記録された一曲目が再生される。
「…いつも、ね」
やわらかなトランペットの音が部屋に響き渡る。続いて鳴りだすバイオリンとピアノのメロディー。
「そっか…」
心に染み入るその音は、存在を理解したばかりの頃に三人で奏でていた音楽に似ている…リリカはそう感じていた。
「一曲だけ変えてみない?」
ルナサが帰り、メルランとリリカが曲を選び終えた時、リリカが呟いた。
「変えるって…、アレンジするってこと?」
「それはアドリブでじゃないかしら~、譜面を用意するわけではないしー」
「そうじゃなくて、歌を…さ。替え歌にして歌ってみない?」
ふむ、と考え込むルナサ。二人の顔を交互に見るメルラン。姉達の答えを待つリリカ。
紫が持ってきたCDの曲は歌物がほとんどだった。中には音だけを奏でた曲もあったが
それはほんの一握りであった。
ルナサの考えでは歌をなしに曲だけを奏でるつもりだった。だが…。
「ねぇリリカ。なぜ歌おうと思ったのか、訊いていい?」
「ん…それは、えと」
言葉を選ぶように指を揺らしながら宙を見るリリカ。
「この曲ってさ、歌も合わせて一つの曲になるように作られたと思うんだ。だからバラバラにするのは寂しいんじゃないかなって…そう思ったの」
「そうね、確かにそうかもしれない。でも変えるのはなぜ?そのまま歌ってあげたほうがいいんじゃない?」
一寸の間リリカが言葉に詰まる。その瞬間にメルランが会話に入る。
「でも、そのまんまじゃそれだけじゃない。外の音楽を演奏するだけなんて楽しくないわ」
「そ、そうそう!だから私たちでさ、替え歌にして歌うの!この曲はもうアレンジされてるみたいだし丁度いいんじゃないかな?」
リリカが突き出してきたケースの裏、その一曲にはルナサも見覚えがあった。いつだったか紫が現れた際にスキマの中から聞こえた歌。たしかにこの曲の山にその歌はなかった。
外の世界の音楽の傾向から見るにこのタイトルがアレンジ版だろうと推測できた。
「いいわ、そうしましょ」
ただしと付け加え、リリカの手をどけてその顔を正面から見つめる。
「替え歌は三人で作る、途中で投げ出さない、この二つは守るように」
いいわね、とウインクする。リリカは満面の笑みでうんうんと何度も深く頷いた。二人を横で眺め、ニコニコと楽しそうにメルランが笑っている。そんな暖かい光景とともに屋敷の夜は更けていった。
翌日、屋敷から出た三人は別々の方向に飛んでいった。
歌詞作りのためである。とはいえなにも考えずに飛び出したため三人ともどこへ行くか決めあぐねていたが長女は風に流されるまま、次女は気の向くままに、三女はほとんどがむしゃらに飛んでいった。