こころはどこにあるの?
あなたは言う。
思い出はどこにいくの?
――――決まってるわ。
私は答える。
ここにあるよ。
▲――七夕はぁと(二人分)――▼
部屋の隅っこで気だるげな妖怪が一人。
「――――あ」
ねっとりとした熱気があたりを包む、地底の夏。
太陽がない分、直接的な暑さは緩和されるが、ここは湿気の多い地底。太陽がないかわりに蒸し暑い。普段はしゃんとしている古明地さとりもこの季節ばかりはだらけてしまっていた。
洋風の部屋にまったく似合わない、水を張ったタライの中に両足を突っ込んで、うちわで顔を扇いでいる。おまけに服の前をはだけ、ぱたぱたと服の中に風を送り込んでいた。そうしたって暑い空気をかき混ぜるているような気分になってしまう。
どうあっても暑いのだ。
ぐだー、と椅子からずり落ちながら、まくったスカートが水に濡れないよう引っ張りあげる。もう太ももまでが見えている。だけどそんなことは気にしない。なぜなら暑いから。
よっと気合を入れて元の位置に体勢を戻した。
「暑い――」
さとりはこの季節があまり得意ではない。家からあまり出たがらない半引きこもりだからだ。さらに細い手足に細い身体。明らかに暑さに耐え切れる様子ではない。
だくだくと垂れる汗が半そでのブラウスを濡らし、また透かしていく。肌に張り付くブラウスのすそを持ってぱたぱたと扇いでみる。へそのあたりからいい感じに風が入ってくる。そのまましばらく扇いでいたが、途中で止めた。
なんだか腹痛を起こしそうだ、と思ったからだ。
仕方なくすそをおろし、熱のこもった息を吐く。
なんかないかな、とぐるり、と部屋を見回すと、暑さを緩和してくれそうなものは見事なまでになにもなかった。もう一回息を吐く。探してみようか、とも思ったが、タライから足を引き抜くのが億劫だった。それにきっと探したところで、うちわ以上のものが見つかるはずがないのだ。
扇風機があればなぁ……
「せんぷうき……」
あったらいいのになぁ。扇風機。今度買ってこようかなぁ? お金ないけど。とかなんとか考えていた。
そんなときにふと壁にカレンダーが目に入った。
日めくり式のカレンダーだ。
「あ――あ?」
指し示す日にちは七月七日。それの意味するところは。
「――ああ、そういえば今日は七夕ですか」
一年に一回会うんでしょうに、だったらそのろまんちっくぱわーで涼しくしてくれー。だのわけの分からないことが頭に浮かんだ。ま、そんな願い、する意味もないけど。
もう一度、暑い息を吐いた。
お昼前でこの暑さ。
ならばこのあとを思えば気も重くなるのも道理。だらけにだらけた空気がこの一室を支配していた。
実際はこの部屋から出て、外の風を浴びれば、少しは涼しくなるのだが、さとりにはそんな考えは浮かばなかった。
タライが気持ちいいのだから。あとは飲み物でもあればいいなぁ、とかなんとか思ってた。けどタライから出たくない。たとえ水が温くなっていても、だ。ああ、でも飲み物欲しい。
そんなお昼前の暑さに若干やられている、古明地さとりだった。
「お、姉ちゃん?」
がたん、と唐突に現れる古明地こいし。実際には扉を開けて入ってきたのだが、気づかれることはなかった。無意識の力だ。無意識すげぇ、とさとりは思った。
こいしは開けた瞬間、部屋から流れてきた空気に驚いた。むわ、としたそれは、まるでサウナのようだったからだ。部屋の隅っこでタライに足をつける姉を見た瞬間に、こいしは駆け出していた。
「ちょ、なにやってんのお姉ちゃん!」
さとりはふわふわぼんやりしたままで答える。
「あー、こいし? おかえりなさい」
「ただいま、じゃなくて! お姉ちゃんなにしてんの?」
「涼んでいるんですよ。ほら、このタライが見えないんですか?」
「いや、見えてるけど……。そのタライの中の水、すっごい温いよ?」
こいしは手をタライの中に突っ込んで言う。しかしさとりはそれを笑い、
「なにを言っているんですか? こんなに涼しいのに」
「なに言ってるのか分からないのはお姉ちゃんだよ! ほらぁ、さっさと足を抜く!」
「や、やめなさい、こいし! 私のゆーとぴあを奪う気ですか!?」
「ばかいってんじゃないの! お姉ちゃんの頭茹ってんじゃんかよ! 外のほうが絶対涼しいよ」
「あ、ぁ、やめなぁさい」
ずぼ、とタライから足を抜いてさとりの手を引くこいし。ゆーとぴあがぁ、と半泣きのさとりを引きずって、こいしは台所に向かった。とりあえず水分を取らせなきゃやべぇ、と思ったからだ。
そして実際にさとりはやばかった。
◆
ごくごく、と音のする台所。現在絶賛水分不足であるさとりのたてる音だ。
両手で大き目のコップを持って、一気に飲んでいる。中身は夏の定番、麦茶。こいしは冷蔵庫の前で、麦茶を淹れた容器の蓋を閉めていた。
「ぷはぁ!」
と、飲み干したコップをテーブルに叩きつけるように置いて、ぜぇはぁと息を荒げた。顎を伝う汗を手で拭いながら、さとりは心底恐怖した。水分不足とは恐ろしい。まことに恐ろしい。きっと彼らは気づかないうちに我々の身体を攻撃していたのだ。
「た、助かりましたこいしまるで生き返ったような気がします」
「うん、感謝はいいけど、息もつかないような速度で言わないで」
落ち着け、落ち着け、とこいしは姉に座るように促しながら、冷蔵庫の中に容器をしまった。そのままさとりの対面に腰を下ろした。
「んで」
「ん?」
「なにしてたの? 結構水分とかやばかったよ?」
「ああ、それはですね」
「うん」
「言ったら怒りますよね?」
「うん、大丈夫怒んないよ。全然怒んないから」
にっこり笑顔のこいし。
「あのね」
「うん」
「暑かったのよ。暑くって暑くって仕方がなかったの。だから動きたくなかったの」
「あほう!」
テーブルの下で、こいしはむき出しのさとりの足を蹴った。弁慶の泣き所。妖怪でもなんだろうと痛いもんは痛い。膝を抱えて震える姉を見ながらこいしは人差し指をピンとたてて、ぐぐ、と身を乗り出した。
「お姉ちゃん身体弱いんだから、あんまし無茶しちゃだめだよ?」
くい、と首を傾げて。しかし、眉間にしわもできていて明らかに怒っていた。さとりは、しゅん、として謝る。
「うぅ……すみません。今度から飲み物とか置くようにします」
「うむ、よろしい」
こいしが胸を張って元の位置に戻る。
さとりは顔をあげた。
いつもいつも無意識にどこかへ行ったりして、帰ってきてもなんにも言わない妹だけれども、こんなときぐらいは心配してくれるんだなぁ、と思った。もうちょっと帰って来いよ、とは言えない。きっと今言っても聞き入れて貰えないだろうから。
だからまぁ、とりあえず、
「あのですね、こいし」
「ふぃ?」
いつの間にか自分の分の麦茶を用意して飲んでいたこいしはコップに口をつけたまま返事をした。さとりは自分の両手の人差し指をつき合わせながら言った。
「今日は、七夕ですね」
「むーっ?」
こいしが記憶を探るように頭の上でコップを持っていないほうの手をぐるぐると回す。目をつぶってしばらく考えていたあと、唐突にぱちり、と目を開いた。もういっぱい、と冷蔵庫から取り出した麦茶を注いでいたさとりはびくっと身体を震わせた。ついでに麦茶がちょっとテーブルに零れた。
ふきん、ふきん、と流し台に走っていくさとり。
こいしはぱちん、と手を叩いて、
「ああ! で、それがどうかしたの?」
「ええ」
ふきんでテーブルを拭きながら、
「やりませんか?」
こいしは天井を指差して、くるくると回しながら、
「星空も見えないのに?」
「星空も見えないのに、よ」
「ふぅん」
「やりますか? 七夕」
「やるのは構わないけど……」
「構わないけど?」
「笹は?」
「笹は――――あ」
くふふ、と含み笑いのこいし。
「わたしが取ってくるよ」
「え、いや、でも」
「いいっていいって、お姉ちゃんからなにかしようなんて言われるの久しぶりだもん」
「うぅ、だけど」
「いいってば、お姉ちゃんどうせ地上に行ったら倒れちゃうじゃない」
「ぐぬぅ」
「だから行ってくるよ。お姉ちゃんはペットに短冊でも書かせてて」
「……じゃあ、早く帰ってきなさいよ?」
「うん。了解です」
と、言ってこいしは駆け出した。その背中を見送るようにして、さとりは両手を輪にして即席のメガホンを作ると、大きな声で言う。
「扇風機とか落ちてたらお願いね!」
落ちてるわけないじゃーん、と大きな声が返ってきた。ふぅ、と一息吐いて、さて、と気合を入れなおす。そうでもしないと暑さにやられてしまいそうだからだ。そうして、本当に帰ってきてくれるものか。そこが不安だ。不安で仕方がない。
けれど、まぁ。とりあえずは約束を果たそうかな?
折り紙とか足りるかしら?
考えながら、さとりはもういっぱい麦茶を飲んでいた。
――――ペットに短冊なんて、どう書かせるんだよ。
思ったときには遅かった。まぁなんとかなるだろう、と麦茶を飲み込んだ。
▼
こいしは手を後ろで組んで、鼻歌混じりに地上を歩いていた。
竹林の中を掻き分けるように歩く。身体を左右に揺らしながら。ゆったりくるくる急ぎながら。それだけ見れば非常に可愛らしいが、しかし、組んだ手に持った鋸がそれらを全てぶち壊しにしていたがそんなことは気にとめない。
竹の林を潜り抜けながら、こいしは考える。
いつの頃だろうか? まだ地上にいたときのことだろう。あの頃には星が見えた。確か、曇りの日以外には毎日のように見えた。
地底の暮らしも悪くはない。けれど、星が見えないのはちょっと寂しい。
手を額にかざして空を見ると、かんかんと輝く太陽が照っていた。
眩しい。
地底にはない眩しさ。
暑さ。
こういうのも捨てがたいけれど、やっぱり夏は地底のほうがいい。涼しいし。なによりも日光が届かない。つまり焼けるような暑さはまずないということ。
まぁ、さっきのお姉ちゃんはどうかしていたね、とこいしは道を行く。目指す笹はそれなりに細くてそれなりに葉っぱのついているやつでなければいけないだろう。
そうして楽しくなってきた。
地底で、星も、月も、天の川さえないのに、七夕とはいったいどうしたことか?
くすり、とこいしは小さく笑った。
そう言えば、姉と一緒になにかをするなどいつ以来だろうか。思えば長らくなにもしてなかったような気がする。
汗ばむ額を拭って、こいしは歩く。
地上で星を見た。
姉と一緒に見た。
七夕の天の川を。
ずっとずっと昔のことだ。あのころはどうしてたっけ、と己の記憶力のなさにちょっと自己嫌悪。けれどただ覚えてる。姉はあのとき、七夕をしよう、と言った。人間の真似事をしてみよう、と言った。
笹を取ってきて、飾りをつけて、願い事を書いて。
わたしはなんと願ったのだろうか。
もう忘れてしまっている。
だけど、姉と星空を見たことは覚えている。
溢れんばかりの天の川を、寝転がって見たことを覚えている。
草っ原に姉と並んで寝転がって。
落ちてきそうな星の下で、わたしはなんと言ったのだろうか?
そうだ、こう言った。
『願い事、叶うといいね』
そう言って、こいしははにかんだのだ。しかし姉はどう答えたのだろうか。
もう覚えていない。
なんだかすごく否定的な言葉を投げつけられた気がする。
なんだかすごく肯定的な言葉を投げつけられた気がする。
けれどそれは思い出せなくて。それがすごくもやもやしていた。思い出そうとするたびにもやもやが積み重なっていく。
ぶんぶん、と首を左右に振る。
「――――あたっ!」
ごいん、と笹に頭をぶつけた。
しばらく頭を押さえてうずくまっていたが、痛みが引くとすぐに立ち上がって、笹を見やった。
それなりに細くて、それなりに葉っぱがついていて、それなりにしなやかな笹だった。ちょうどいいや、とこいしは鋸を走らせた。鋸を引きながら、お姉ちゃんは今頃どうしているんだろうか、と思った。
ちゃんとしていたら褒めてあげて抱きついてあげよう。
もしもペットと水風呂にでも入っていたら……どうしてくれようか。
口の端に笑みを浮かべ、こいしは笹を切り取った。
▼
「お姉ちゃん?」
「ひゃう!」
こいしが後ろから声をかけるとさとりは飛び上がるようにして驚いた。大慌てで机の上に広げられた、折り紙で作った短冊を裏返す。紫色の面が表になった。そしてそれを身体全体で覆いかぶさって隠す。そのとき危うく机の隅に置かれたコップを中身ごとひっくり返すところだった。
そして冷静を装って返す。
「あ、こいしですか。帰ってきたなら一言言いなさいな」
「ん、ただいま」
「おかえりなさい。笹は取れましたか?」
「うん。表にいたお燐たちに渡してきたよ。なんかすっごい盛り上がってた。七夕ってそんなイベントだったっけ? いや手に手に輪っか持ってたのは分かるけど」
「え? ああ、たぶんついでになんかやるんじゃないのでしょうか? いろいろと持ち出してましたし」
「ふぅん。ところでお姉ちゃん」
「なんでしょうか?」
「ほい」
手招き手招き。右手をくいくいと動かす。ああ、とさとりは納得して黄緑色の短冊を渡した。ピッとさとりは人差し指をたてる。
「それは、最後の一枚だから、よく考えてね」
「え、どして?」
「いや、ペットの数が多すぎて」
「ああ」
ふぅん、と背を向けるこいし。ふぅ、と息を吐きながら、さとりは続きを書こう、と短冊を裏返しかけて「そういえばさ、お姉ちゃん」という声に遮られた。またもや情けない声をあげて短冊を裏返した。
「な、なんでしょうか?」
「いやぁ、なに書いたのかな、って気になって」
「見せませんよ見せませんよ!」
「そんなムキにならなくても、ねぇ」
「だ、だって恥ずかしいですし……」
「へぇ、じゃあわたしも見せる。書いたら見せる。だから見せて」
とは言ったものの、こいしの考えはもう決まっている。今さらなにを言うまでもない。ごくごく単純に。明快に。それは心の中にあるのだ。いつだってそうだったのだから。ここに来てからも、いつだってそうだった。いつだってお姉ちゃんがいて、家族がいて。帰ったらおかえりっていってくれる人がいる。
だからこそ、こいしの願いは決まっていた。
「あ、ぇあ? 分かりました。見せますから。でも――」
そう言って、さとりは頬を赤らめた。
「笑わないでくださいね」
こいしは笑顔を浮かべて言った。
「もちろん! お姉ちゃんこそ笑わないでね?」
▲
「書けたー?」
「はい、書きましたよ」
背中合わせで話しながら答える。
さとりは机に突っ伏すように。
こいしは床に座り込んで、小さなテーブルに向かっていた。手には色鉛筆。さとりが黒いよりはいいでしょう? と渡したのだ。それにしたって黄緑色の色鉛筆だ。白い色に黄緑色とは、嫌がらせに見えないこともないが、こいしはそれでよかった。黄緑の色が好きだったからだ。若草の色が好きだった。それは着ている服にも現れている。
「んじゃあ、せーので見せようよ」
「んー、少し恥ずかしいんですが」
「まだそんなこと言ってるの?」
「仕方がないじゃないですか」
「仕方がないなんてことはないよ。せーの!」
「いきなりですか!」
さとりは思いっきり振り向いた。もうどうなってもいいや、見たいな気持ちだった。
対してこいしも振り返った。
二人ともの手には短冊。
書いてある言葉は―――
「お」
「あ?」
それはどちらも同じもので。
いつか見たような感じで。
懐かしくって。
けれど、ずっと前に同じことをした記憶がある。
ああ、そうだ、これは――
こいしは思った。
それは懐かしくって。いつか見たものそのもののようだったからだ。ただ二人とも同じ変更点が加えられている。
『お姉ちゃんと皆とずっと一緒に暮らせますように』
『こいしと皆とずっと一緒に生きていけますように』
二人とも、皆、という単語が加わっていて、そうしてしばらく、二人はお腹を抱えて笑いあった。
◆
「そういえばさ」
廊下を歩きながら、こいしは切り出した。外からは、どうしてか美味しそうな匂いがする。気温はずいぶんと下がっている。地上はもう夕暮れだろうか。
「なんでしょうか?」
「どうして地下で七夕をやろうとか言ったの?」
「うん?」
「ほら、地下だとお星様に願いが届かないんじゃないの?」
「ああ、それですか」
「うん、それそれ」
さとりは立ち止まって少し上を見た。こいしも釣られるようにして立ち止まった。
「ほら、七夕って、織姫と彦星が出会うだけじゃないですか。だったらどこで祝おうと一緒ですよ」
「うわ、ロマンがない」
「失礼な。これはこれでロマンチックだとは思います。しかし、ほら、なんと言いますか」
言いづらそうに、自分の考えを口にする。
「願いごとって、最終的に自分で叶えるものでしょう」
「まぁ、そうだねぇ」
「七夕は誓いみたいな感じでいいんですよ」
「そういうもんかな」
「そうです。それに」
とん、と自分の胸を軽く叩き、こいしの胸を軽く叩いた。
「星空ならここにありますから」
「ふぇ?」
「生きているのなら、無数の記憶がここにあります。だったら自分に誓えばいいのです」
「そうかな?」
「そうですよ」
ふふ、と笑いながら、こいしの手を引く。わ、と思わずこいしは帽子を押さえる。
「ほら、早く行きましょう。お燐やお空が待っていますよ。ほら、この匂い。なにかしているのは明白です」
その笑顔が、こいしの中の、いつかの記憶と繋がった気がした。本当に、いつか見た日の忘れかけた虫食いの記憶だけども、この笑顔はいつだって近くにあった。
「待ってよお姉ちゃん!」
よろけながら走るこいし。
外からはどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。ああ、ペットたちはなにをやっているのだろうか。楽しみだ。きっと、とこいしは考える。わたしはいつの日にかこの日の記憶忘れてしまうかもしれない。
そうなっても、別にいいだろう。構わない。忘れてしまったら、また思い出せばいい。記憶はどこにも行かないのだ。
ずっとここにあるのだから。
こいしは胸元をぎゅっと押さえた。
手を引かれながら、こいしは小さく笑みを浮かべた。
少しだけ、ほんの少しだけ、三つ目の目が緩んだ気がした。
気がしただけだったのかもしれない。
片手に持った短冊が、ちょっぴり暖かかった。
[了]
あなたは言う。
思い出はどこにいくの?
――――決まってるわ。
私は答える。
ここにあるよ。
▲――七夕はぁと(二人分)――▼
部屋の隅っこで気だるげな妖怪が一人。
「――――あ」
ねっとりとした熱気があたりを包む、地底の夏。
太陽がない分、直接的な暑さは緩和されるが、ここは湿気の多い地底。太陽がないかわりに蒸し暑い。普段はしゃんとしている古明地さとりもこの季節ばかりはだらけてしまっていた。
洋風の部屋にまったく似合わない、水を張ったタライの中に両足を突っ込んで、うちわで顔を扇いでいる。おまけに服の前をはだけ、ぱたぱたと服の中に風を送り込んでいた。そうしたって暑い空気をかき混ぜるているような気分になってしまう。
どうあっても暑いのだ。
ぐだー、と椅子からずり落ちながら、まくったスカートが水に濡れないよう引っ張りあげる。もう太ももまでが見えている。だけどそんなことは気にしない。なぜなら暑いから。
よっと気合を入れて元の位置に体勢を戻した。
「暑い――」
さとりはこの季節があまり得意ではない。家からあまり出たがらない半引きこもりだからだ。さらに細い手足に細い身体。明らかに暑さに耐え切れる様子ではない。
だくだくと垂れる汗が半そでのブラウスを濡らし、また透かしていく。肌に張り付くブラウスのすそを持ってぱたぱたと扇いでみる。へそのあたりからいい感じに風が入ってくる。そのまましばらく扇いでいたが、途中で止めた。
なんだか腹痛を起こしそうだ、と思ったからだ。
仕方なくすそをおろし、熱のこもった息を吐く。
なんかないかな、とぐるり、と部屋を見回すと、暑さを緩和してくれそうなものは見事なまでになにもなかった。もう一回息を吐く。探してみようか、とも思ったが、タライから足を引き抜くのが億劫だった。それにきっと探したところで、うちわ以上のものが見つかるはずがないのだ。
扇風機があればなぁ……
「せんぷうき……」
あったらいいのになぁ。扇風機。今度買ってこようかなぁ? お金ないけど。とかなんとか考えていた。
そんなときにふと壁にカレンダーが目に入った。
日めくり式のカレンダーだ。
「あ――あ?」
指し示す日にちは七月七日。それの意味するところは。
「――ああ、そういえば今日は七夕ですか」
一年に一回会うんでしょうに、だったらそのろまんちっくぱわーで涼しくしてくれー。だのわけの分からないことが頭に浮かんだ。ま、そんな願い、する意味もないけど。
もう一度、暑い息を吐いた。
お昼前でこの暑さ。
ならばこのあとを思えば気も重くなるのも道理。だらけにだらけた空気がこの一室を支配していた。
実際はこの部屋から出て、外の風を浴びれば、少しは涼しくなるのだが、さとりにはそんな考えは浮かばなかった。
タライが気持ちいいのだから。あとは飲み物でもあればいいなぁ、とかなんとか思ってた。けどタライから出たくない。たとえ水が温くなっていても、だ。ああ、でも飲み物欲しい。
そんなお昼前の暑さに若干やられている、古明地さとりだった。
「お、姉ちゃん?」
がたん、と唐突に現れる古明地こいし。実際には扉を開けて入ってきたのだが、気づかれることはなかった。無意識の力だ。無意識すげぇ、とさとりは思った。
こいしは開けた瞬間、部屋から流れてきた空気に驚いた。むわ、としたそれは、まるでサウナのようだったからだ。部屋の隅っこでタライに足をつける姉を見た瞬間に、こいしは駆け出していた。
「ちょ、なにやってんのお姉ちゃん!」
さとりはふわふわぼんやりしたままで答える。
「あー、こいし? おかえりなさい」
「ただいま、じゃなくて! お姉ちゃんなにしてんの?」
「涼んでいるんですよ。ほら、このタライが見えないんですか?」
「いや、見えてるけど……。そのタライの中の水、すっごい温いよ?」
こいしは手をタライの中に突っ込んで言う。しかしさとりはそれを笑い、
「なにを言っているんですか? こんなに涼しいのに」
「なに言ってるのか分からないのはお姉ちゃんだよ! ほらぁ、さっさと足を抜く!」
「や、やめなさい、こいし! 私のゆーとぴあを奪う気ですか!?」
「ばかいってんじゃないの! お姉ちゃんの頭茹ってんじゃんかよ! 外のほうが絶対涼しいよ」
「あ、ぁ、やめなぁさい」
ずぼ、とタライから足を抜いてさとりの手を引くこいし。ゆーとぴあがぁ、と半泣きのさとりを引きずって、こいしは台所に向かった。とりあえず水分を取らせなきゃやべぇ、と思ったからだ。
そして実際にさとりはやばかった。
◆
ごくごく、と音のする台所。現在絶賛水分不足であるさとりのたてる音だ。
両手で大き目のコップを持って、一気に飲んでいる。中身は夏の定番、麦茶。こいしは冷蔵庫の前で、麦茶を淹れた容器の蓋を閉めていた。
「ぷはぁ!」
と、飲み干したコップをテーブルに叩きつけるように置いて、ぜぇはぁと息を荒げた。顎を伝う汗を手で拭いながら、さとりは心底恐怖した。水分不足とは恐ろしい。まことに恐ろしい。きっと彼らは気づかないうちに我々の身体を攻撃していたのだ。
「た、助かりましたこいしまるで生き返ったような気がします」
「うん、感謝はいいけど、息もつかないような速度で言わないで」
落ち着け、落ち着け、とこいしは姉に座るように促しながら、冷蔵庫の中に容器をしまった。そのままさとりの対面に腰を下ろした。
「んで」
「ん?」
「なにしてたの? 結構水分とかやばかったよ?」
「ああ、それはですね」
「うん」
「言ったら怒りますよね?」
「うん、大丈夫怒んないよ。全然怒んないから」
にっこり笑顔のこいし。
「あのね」
「うん」
「暑かったのよ。暑くって暑くって仕方がなかったの。だから動きたくなかったの」
「あほう!」
テーブルの下で、こいしはむき出しのさとりの足を蹴った。弁慶の泣き所。妖怪でもなんだろうと痛いもんは痛い。膝を抱えて震える姉を見ながらこいしは人差し指をピンとたてて、ぐぐ、と身を乗り出した。
「お姉ちゃん身体弱いんだから、あんまし無茶しちゃだめだよ?」
くい、と首を傾げて。しかし、眉間にしわもできていて明らかに怒っていた。さとりは、しゅん、として謝る。
「うぅ……すみません。今度から飲み物とか置くようにします」
「うむ、よろしい」
こいしが胸を張って元の位置に戻る。
さとりは顔をあげた。
いつもいつも無意識にどこかへ行ったりして、帰ってきてもなんにも言わない妹だけれども、こんなときぐらいは心配してくれるんだなぁ、と思った。もうちょっと帰って来いよ、とは言えない。きっと今言っても聞き入れて貰えないだろうから。
だからまぁ、とりあえず、
「あのですね、こいし」
「ふぃ?」
いつの間にか自分の分の麦茶を用意して飲んでいたこいしはコップに口をつけたまま返事をした。さとりは自分の両手の人差し指をつき合わせながら言った。
「今日は、七夕ですね」
「むーっ?」
こいしが記憶を探るように頭の上でコップを持っていないほうの手をぐるぐると回す。目をつぶってしばらく考えていたあと、唐突にぱちり、と目を開いた。もういっぱい、と冷蔵庫から取り出した麦茶を注いでいたさとりはびくっと身体を震わせた。ついでに麦茶がちょっとテーブルに零れた。
ふきん、ふきん、と流し台に走っていくさとり。
こいしはぱちん、と手を叩いて、
「ああ! で、それがどうかしたの?」
「ええ」
ふきんでテーブルを拭きながら、
「やりませんか?」
こいしは天井を指差して、くるくると回しながら、
「星空も見えないのに?」
「星空も見えないのに、よ」
「ふぅん」
「やりますか? 七夕」
「やるのは構わないけど……」
「構わないけど?」
「笹は?」
「笹は――――あ」
くふふ、と含み笑いのこいし。
「わたしが取ってくるよ」
「え、いや、でも」
「いいっていいって、お姉ちゃんからなにかしようなんて言われるの久しぶりだもん」
「うぅ、だけど」
「いいってば、お姉ちゃんどうせ地上に行ったら倒れちゃうじゃない」
「ぐぬぅ」
「だから行ってくるよ。お姉ちゃんはペットに短冊でも書かせてて」
「……じゃあ、早く帰ってきなさいよ?」
「うん。了解です」
と、言ってこいしは駆け出した。その背中を見送るようにして、さとりは両手を輪にして即席のメガホンを作ると、大きな声で言う。
「扇風機とか落ちてたらお願いね!」
落ちてるわけないじゃーん、と大きな声が返ってきた。ふぅ、と一息吐いて、さて、と気合を入れなおす。そうでもしないと暑さにやられてしまいそうだからだ。そうして、本当に帰ってきてくれるものか。そこが不安だ。不安で仕方がない。
けれど、まぁ。とりあえずは約束を果たそうかな?
折り紙とか足りるかしら?
考えながら、さとりはもういっぱい麦茶を飲んでいた。
――――ペットに短冊なんて、どう書かせるんだよ。
思ったときには遅かった。まぁなんとかなるだろう、と麦茶を飲み込んだ。
▼
こいしは手を後ろで組んで、鼻歌混じりに地上を歩いていた。
竹林の中を掻き分けるように歩く。身体を左右に揺らしながら。ゆったりくるくる急ぎながら。それだけ見れば非常に可愛らしいが、しかし、組んだ手に持った鋸がそれらを全てぶち壊しにしていたがそんなことは気にとめない。
竹の林を潜り抜けながら、こいしは考える。
いつの頃だろうか? まだ地上にいたときのことだろう。あの頃には星が見えた。確か、曇りの日以外には毎日のように見えた。
地底の暮らしも悪くはない。けれど、星が見えないのはちょっと寂しい。
手を額にかざして空を見ると、かんかんと輝く太陽が照っていた。
眩しい。
地底にはない眩しさ。
暑さ。
こういうのも捨てがたいけれど、やっぱり夏は地底のほうがいい。涼しいし。なによりも日光が届かない。つまり焼けるような暑さはまずないということ。
まぁ、さっきのお姉ちゃんはどうかしていたね、とこいしは道を行く。目指す笹はそれなりに細くてそれなりに葉っぱのついているやつでなければいけないだろう。
そうして楽しくなってきた。
地底で、星も、月も、天の川さえないのに、七夕とはいったいどうしたことか?
くすり、とこいしは小さく笑った。
そう言えば、姉と一緒になにかをするなどいつ以来だろうか。思えば長らくなにもしてなかったような気がする。
汗ばむ額を拭って、こいしは歩く。
地上で星を見た。
姉と一緒に見た。
七夕の天の川を。
ずっとずっと昔のことだ。あのころはどうしてたっけ、と己の記憶力のなさにちょっと自己嫌悪。けれどただ覚えてる。姉はあのとき、七夕をしよう、と言った。人間の真似事をしてみよう、と言った。
笹を取ってきて、飾りをつけて、願い事を書いて。
わたしはなんと願ったのだろうか。
もう忘れてしまっている。
だけど、姉と星空を見たことは覚えている。
溢れんばかりの天の川を、寝転がって見たことを覚えている。
草っ原に姉と並んで寝転がって。
落ちてきそうな星の下で、わたしはなんと言ったのだろうか?
そうだ、こう言った。
『願い事、叶うといいね』
そう言って、こいしははにかんだのだ。しかし姉はどう答えたのだろうか。
もう覚えていない。
なんだかすごく否定的な言葉を投げつけられた気がする。
なんだかすごく肯定的な言葉を投げつけられた気がする。
けれどそれは思い出せなくて。それがすごくもやもやしていた。思い出そうとするたびにもやもやが積み重なっていく。
ぶんぶん、と首を左右に振る。
「――――あたっ!」
ごいん、と笹に頭をぶつけた。
しばらく頭を押さえてうずくまっていたが、痛みが引くとすぐに立ち上がって、笹を見やった。
それなりに細くて、それなりに葉っぱがついていて、それなりにしなやかな笹だった。ちょうどいいや、とこいしは鋸を走らせた。鋸を引きながら、お姉ちゃんは今頃どうしているんだろうか、と思った。
ちゃんとしていたら褒めてあげて抱きついてあげよう。
もしもペットと水風呂にでも入っていたら……どうしてくれようか。
口の端に笑みを浮かべ、こいしは笹を切り取った。
▼
「お姉ちゃん?」
「ひゃう!」
こいしが後ろから声をかけるとさとりは飛び上がるようにして驚いた。大慌てで机の上に広げられた、折り紙で作った短冊を裏返す。紫色の面が表になった。そしてそれを身体全体で覆いかぶさって隠す。そのとき危うく机の隅に置かれたコップを中身ごとひっくり返すところだった。
そして冷静を装って返す。
「あ、こいしですか。帰ってきたなら一言言いなさいな」
「ん、ただいま」
「おかえりなさい。笹は取れましたか?」
「うん。表にいたお燐たちに渡してきたよ。なんかすっごい盛り上がってた。七夕ってそんなイベントだったっけ? いや手に手に輪っか持ってたのは分かるけど」
「え? ああ、たぶんついでになんかやるんじゃないのでしょうか? いろいろと持ち出してましたし」
「ふぅん。ところでお姉ちゃん」
「なんでしょうか?」
「ほい」
手招き手招き。右手をくいくいと動かす。ああ、とさとりは納得して黄緑色の短冊を渡した。ピッとさとりは人差し指をたてる。
「それは、最後の一枚だから、よく考えてね」
「え、どして?」
「いや、ペットの数が多すぎて」
「ああ」
ふぅん、と背を向けるこいし。ふぅ、と息を吐きながら、さとりは続きを書こう、と短冊を裏返しかけて「そういえばさ、お姉ちゃん」という声に遮られた。またもや情けない声をあげて短冊を裏返した。
「な、なんでしょうか?」
「いやぁ、なに書いたのかな、って気になって」
「見せませんよ見せませんよ!」
「そんなムキにならなくても、ねぇ」
「だ、だって恥ずかしいですし……」
「へぇ、じゃあわたしも見せる。書いたら見せる。だから見せて」
とは言ったものの、こいしの考えはもう決まっている。今さらなにを言うまでもない。ごくごく単純に。明快に。それは心の中にあるのだ。いつだってそうだったのだから。ここに来てからも、いつだってそうだった。いつだってお姉ちゃんがいて、家族がいて。帰ったらおかえりっていってくれる人がいる。
だからこそ、こいしの願いは決まっていた。
「あ、ぇあ? 分かりました。見せますから。でも――」
そう言って、さとりは頬を赤らめた。
「笑わないでくださいね」
こいしは笑顔を浮かべて言った。
「もちろん! お姉ちゃんこそ笑わないでね?」
▲
「書けたー?」
「はい、書きましたよ」
背中合わせで話しながら答える。
さとりは机に突っ伏すように。
こいしは床に座り込んで、小さなテーブルに向かっていた。手には色鉛筆。さとりが黒いよりはいいでしょう? と渡したのだ。それにしたって黄緑色の色鉛筆だ。白い色に黄緑色とは、嫌がらせに見えないこともないが、こいしはそれでよかった。黄緑の色が好きだったからだ。若草の色が好きだった。それは着ている服にも現れている。
「んじゃあ、せーので見せようよ」
「んー、少し恥ずかしいんですが」
「まだそんなこと言ってるの?」
「仕方がないじゃないですか」
「仕方がないなんてことはないよ。せーの!」
「いきなりですか!」
さとりは思いっきり振り向いた。もうどうなってもいいや、見たいな気持ちだった。
対してこいしも振り返った。
二人ともの手には短冊。
書いてある言葉は―――
「お」
「あ?」
それはどちらも同じもので。
いつか見たような感じで。
懐かしくって。
けれど、ずっと前に同じことをした記憶がある。
ああ、そうだ、これは――
こいしは思った。
それは懐かしくって。いつか見たものそのもののようだったからだ。ただ二人とも同じ変更点が加えられている。
『お姉ちゃんと皆とずっと一緒に暮らせますように』
『こいしと皆とずっと一緒に生きていけますように』
二人とも、皆、という単語が加わっていて、そうしてしばらく、二人はお腹を抱えて笑いあった。
◆
「そういえばさ」
廊下を歩きながら、こいしは切り出した。外からは、どうしてか美味しそうな匂いがする。気温はずいぶんと下がっている。地上はもう夕暮れだろうか。
「なんでしょうか?」
「どうして地下で七夕をやろうとか言ったの?」
「うん?」
「ほら、地下だとお星様に願いが届かないんじゃないの?」
「ああ、それですか」
「うん、それそれ」
さとりは立ち止まって少し上を見た。こいしも釣られるようにして立ち止まった。
「ほら、七夕って、織姫と彦星が出会うだけじゃないですか。だったらどこで祝おうと一緒ですよ」
「うわ、ロマンがない」
「失礼な。これはこれでロマンチックだとは思います。しかし、ほら、なんと言いますか」
言いづらそうに、自分の考えを口にする。
「願いごとって、最終的に自分で叶えるものでしょう」
「まぁ、そうだねぇ」
「七夕は誓いみたいな感じでいいんですよ」
「そういうもんかな」
「そうです。それに」
とん、と自分の胸を軽く叩き、こいしの胸を軽く叩いた。
「星空ならここにありますから」
「ふぇ?」
「生きているのなら、無数の記憶がここにあります。だったら自分に誓えばいいのです」
「そうかな?」
「そうですよ」
ふふ、と笑いながら、こいしの手を引く。わ、と思わずこいしは帽子を押さえる。
「ほら、早く行きましょう。お燐やお空が待っていますよ。ほら、この匂い。なにかしているのは明白です」
その笑顔が、こいしの中の、いつかの記憶と繋がった気がした。本当に、いつか見た日の忘れかけた虫食いの記憶だけども、この笑顔はいつだって近くにあった。
「待ってよお姉ちゃん!」
よろけながら走るこいし。
外からはどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。ああ、ペットたちはなにをやっているのだろうか。楽しみだ。きっと、とこいしは考える。わたしはいつの日にかこの日の記憶忘れてしまうかもしれない。
そうなっても、別にいいだろう。構わない。忘れてしまったら、また思い出せばいい。記憶はどこにも行かないのだ。
ずっとここにあるのだから。
こいしは胸元をぎゅっと押さえた。
手を引かれながら、こいしは小さく笑みを浮かべた。
少しだけ、ほんの少しだけ、三つ目の目が緩んだ気がした。
気がしただけだったのかもしれない。
片手に持った短冊が、ちょっぴり暖かかった。
[了]
二人の願い事が叶いますように。
それにしてもさとり様だらけすぎ
確かに、二人の願いは誰かに叶えてもらう様な類のものではないですね。
二人で努力して、一緒に歩んで叶えるべきものですね。
二人の未来に幸多からんことを。
ちょっと天然で幼い感じの描写がなんとも愛らしい。
しっかり者の妹、みたいなこいしちゃんも勿論良いですよ。
素敵な姉妹の物語、結構なお手前でした。
あと足だけでなく全身すっぽりタライの中におさめるといいと思いますさとり様!