Coolier - 新生・東方創想話

友好度 最悪

2010/07/05 17:06:37
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 実は、私、風見幽香には秘密の趣味がある。
 それは何かといえば。

「ん~、甘い♪」

 菓子作りである。
 花が好きな私は蜂蜜も好きだ。
 蜂蜜が好きならば、甘いもの全般も好きだし、それが退屈な日々と合わさり、結果このような趣味に発展していた。
 で、私は今、特製ハチミツケーキを作っているのだ。
 甘い生クリームにハチミツ。
 最初は甘すぎるのもどうかと思って避けていたが、いざやってみればどうだろうか。
 生クリームのまろやかさ、ハチミツの香りが合わさり、なんと絶妙なハァモニィを奏でることか。
 因みにハチミツはリグルから仕入れている。安心のリグルブランドである。

 綺麗に焼けた二層のスポンジにハチミツクリームを塗る。

(ああ、楽しい……。)

 クリームでケーキ全体を華やかに飾り付け、チョコチップを振り撒く。
 最後に苺(自家製)を乗せれば出来上がり。

 さて、今日はこれをある場所へ持っていかなければならない。




















「人気投票七位とかとったしね、そろそろ幻想郷縁起の私の欄を書き換えてくれてもいいと思うのよ。」
「ケーキうめぇ。」
「聞けよ。」

 目の前で私の出したケーキをむしゃむしゃと食べているのはご存知稗田阿求である。
 我ながら土産を持ってきてまでいつまでも頼み込んだりする自分が情けない。
 が、納得もいかない。

「んーれもえふえ?」
「口に入れたまま喋るな。」

 と言うと阿求はケーキを飲み込み。

「でもですね?幻想郷縁起は一代一冊といつも言っているのですよ。」
「そんな保守的でどうするの。これからは革命よ。」
「それを言うなら革新です。第一、人気投票なんて外の人達があくまで何らかのフィルターをかけられた上で見た評価によって決められたもの。幻想郷縁起は関係ありません。」

 阿求はケーキの苺をほうばった。

「ところでケーキの苺を最後に食べるのは、好きなものを最後まで置いておくタイプと言いますが、甘いクリームの口直し、もといアクセントのために酸味の利いたものがあると考えれば、最後に食べるのはむしろ普通と言えますよね。」
「知るか。」

 私は本棚に手を伸ばして幻想郷縁起を手にとった。

「酸味ならレモンでもいい気はしますけどね。」
「アクセントと異物は違うわ。」

 パラパラとめくった。相変わらず自分のページには熟語が二つ並んでいた。
 最悪。激高。
 ああ、ちょっと入れ替えたら最高になるのに。
 と思ったらもう片方は激悪じゃねーかどうしてくれんだチクショー。

「なるほど、さすが本場の職人は違いますね。では、なぜ苺なんでしょうか?」
「砂糖に近い甘味を持っているからよ。最も砂糖に近い果物は柿と言われてるけど、あっちは酸味がないわね。さっき言ったレモンだと酸味がありすぎて甘味を殺してしまう。だから酸味を増す場合はキウイやみかんを使うこともあるわね。甘味や酸味じゃなくて、甘酸っぱいのがポイントよ。」
「へぇ、たかが妖怪の気紛れな趣味かと思ってましたが、随分と詳しいですね。」
「小さな事にこだわれるようにならないと長生きなんてやってられないわ。人間の何十倍も長生きするなら、一つのことで人間の何十倍も楽しめないとね。」
「ふふ、いい話を聞かせていただきました。では今日はこの辺で。」
「そうね…………って帰るか!!」

 危ない危ない、以前これで本当に帰ってしまった事がある。
 恐るべし、稗田阿求。

「あはは、この前は本当に帰っちゃいましたからびっくりしちゃいましたよ。」
「…………。」

 阿礼の子は短命と言うが、長生きしている妖怪からしてみれば(一部とはいえ)記憶を一々引き継いでいる分余程長生きしているように思える。
 故に、口が巧い。
 色々なことを知っている。無論、色々な妖怪の事もだ。
 こいつと言葉でタメをはれるのは八雲紫くらいだろう。
 だからどんな妖怪を前にしてもこんな風に余裕のある態度がとれる。八雲紫のように。
 しかし、阿求には八雲紫のような強力な力はない。妖怪も、皆が皆理性的な訳でもない。いざ言葉の通じない相手があらわれたりしたらどうするのだろうか。

「心配してくれているんですか?」
「いや、別にそんな…………ってなんで人の心読んでんの!?」
「人の心を読むなんて大層な。長年で培った観察眼で推理したまでです。」
「この幻想郷ではそっちのほうがすごい気がするわ……。」
「いやー幽香さんに心配してもらえるなんて、嬉しいです。」
「別に心配なんて。」
「べ、別にあんたの事を心配してる訳じゃないんだからね!(裏声)」
「変な声真似すんな!さっき言ってたもしもの事態作るわよ!?」

 と、阿求の顔面に傘を突き付けてみるが、

「きゃ、怖い怖い。」

 っと、笑っていた。
 さすがの私も肩を落として。

「私……威厳無い?舐められてる?」
「いえいえ、私は幽香さんがそんな浅はかなことをする妖怪じゃないって信頼していますから。」

 阿求はパチンッとウインクして見せた。

「…………。」

 信頼……ねぇ。

「あ、照れました?やだぁもうゆうかりんったら可愛いですねぇ♪」
「………………。」

 私は軽く、傘で阿求の頭を叩いた。
 叩いた一瞬だけ目をつぶった辺り、鋼の心を持っているわけではなさそうだ。

「貴女、いつか本当に痛い目見るわよ?」
「やっぱり心配してくれるんですか?」
「……正直誰だって心配するわよ。使用人に迷惑かけちゃだめよ?」
「はっ!?もしやこれは後で聞き分けのない妖怪に私が襲われて幽香さんが助けにくるフラグ!?」
「やめんか!」
「きゃー助けてー!
 へへへ、さっきまでの威勢はどうしたんだい嬢ちゃん?(阿求妖怪声)
 そこまでよ(阿求幽香声)
 な、なんだてめぇは!?(阿求妖怪声)
 幽香さん!
 ふん、だから言ったでしょ、調子に乗るなって(阿求幽香声)
 た、助けてくれ!(阿求妖怪声)
 無理。だって私は、友好度最悪で危険度激高な妖怪なんだもの(阿求幽香声)
 う、うわらば!(阿求ア〇バ声)

 ……いける!」

 なにがだ。
 最後の奴誰だ。

「これはベストセラー間違い無しです!全幻想郷が泣きますよ!」
「泣くか!そんな事より幻想郷縁起の私の欄を書きなおせって言うのよ!」
「やだぁ~めんどくさいぃ~。」

 抗議するかのようにその場に寝転んではごろごろと体を転がした。着物に埃がつくぞ。

「人のケーキを毎回たかっておいていい度胸ねぇ!?」
「かわいい幽香さんは私だけのものですからぁ、里の方々には怖いイメージを持ってもらっておかないといけませんですぅ。」
「独占禁止法を知らないのかしら。」
「分かりました。私の主観で書かせていただきましょう!ゆうかりんかわいいよゆうかりん、以上。」

 スパンッ!!

「ごめんなさい、調子に乗りました。」
「分かればいい。」

 こほん、と幽香は一つ咳払いをし。

「別に可愛いとかはいらないわよ、うん。ただ危険度それなりとか、友好度普通とかにして欲しいのよ。」
「あーすいません、数百年前から続いて来た稗田の信用をそんなくだらない事で貶めたくはありませんので。」
「てんめぇもっぺんいってみろコラ!?」

 くだらない事!
 くだらない事と申したか!?
 ふざけるな!!

「あんたに何が分かるのよ!道行く人が道をあけ!店に入れば主人が逃げ出し!子供がぶつかれば親は悲鳴を上げて空気は凍り!里で長時間うろついているだけで巫女を呼ばれて!なんなの私!?害虫か!?全身から毒ガス噴き出しまくってるメディスンのほうがマシに扱われてるってどういうことだコラァ!!」
「うわぁ……。」

 流石の阿求も同情した。
 あまり外出をしないのだが、まさかそれ程とは。

「もう嫌だ……耐えられない……私が何をしたのよ……。」
「またまたぁ、人殺しとかしたことあるんでしょう?」
「……花を粗末にする人間はぁ……死ねっ!!」
「ちょっと極端すぎやしませんかそれ。」
「犬猫を殺したら即切腹だった徳川綱吉の生類憐みの令と何が違うってのよ!」
「あれは悪評の高い令だったでしょう。」
「そんな世論を聞く耳はもたん!安心しなさい綱吉、私は貴方の味方よ。力を持つ人間は力を持たない動植物を守るべきなのよ。」

 じゃああんたらは人間守れよ。
 と、喉まで出かかった。

「まぁ、はい。分かります。幽香さんの言いたいことは分かります。確かに花は綺麗です。平気な顔して花を踏んで粗末にして、というのは私も感心できませんね。でも即死刑もどうかと思うのですよ。」
「笑って許してたらつけあがるわ。」

 いや、風見幽香の恐ろしさを知っていたらそれはない。
 まぁ、逆に怪しまれる可能性も高くはあるか。
 まったく、と阿求は思う。
 風見幽香はここまでかわいいのに、里の人間にはまるでそれが伝わらない。
 なぜ幽香がこんなにかわいいかと言えば……。

「……ギャップ萌えですね。」
「は?」
「そう、幽香さんにはギャップ萌えという素晴らしい武器があります。」
「ギャップ萌え?」

 幽香は首を傾げた。初めて聞く単語だった。

「考えてみれば簡単な話でした。あのアルティメットサディスティッククリーチャー風見幽香の趣味がケーキ作り!これに萌えない人はいません。」
「とりあえずアルティメットサディスティッククリーチャーはやめなさい。それで、どうしろって?」
「ケーキ屋でもやればいいのでは?」
「それで客が来ればいいのだけれどねぇ?」
「ああ、確かに無理っぽいですね。」
「…………宣伝、私も手伝いますよーとか無いの?」
「ですから数百年前から続いて来た稗田の信頼を以下略と。」

 本当にもっぺん言いやがった。
 幽香は苛立たし気に机を叩く。

「さっきから私にラブコールしてる割りには随分非協力的ね。」
「嫌ですねぇ、親しき仲にも無礼くらいありますって。」
「叩き割っていい?あんたの頭蓋骨叩き割っていい?」
「背骨まで折れかねないですよ。」
「おまけよ。」
「残念。何だかんだで次の転生までまだまだやりたいことがある身、まだまだ死ねません」

 確かに死んでも百余年で転生するんだが。

「あ、ゆうかりんのたわわな果実に包まれながらアームロックで絞め殺されるならむしろ本望ですが。」
「死ね。苦しみながら死ね。」

 本当に口数の減らない馬鹿だ。
 先代からずっとこうだったのだろうか。
 人格者妖怪率が異常な幻想郷だからこそ阿求はこうして生きているが、まだまだ物騒だった二代目三代目は大丈夫だったのか。
 と、不意に誰かが戸を叩いた。

「稗田ーいるかー?」

 上白沢慧音だった。

「いますよー。」

 阿求は縁側から玄関へ声を投げた。
 それに反応して、慧音が庭へ歩いてきた。

「稗田、今度里でやるお祭りなんだが……珍しい客だな。」
「いいえ?よく来ますよ。」

 二人揃って私を見た。愉快な気分ではない。

「私の幻想郷縁起にケチをつけに来るんです。」

 阿求がそう言うと慧音はもの悲しいような目で私を見た。
 うん。不愉快極まりない。潰すぞその目。

「風見幽香……まぁお前が里の人間にどんな目で見られているかは知っている。おまえにとってそれが不本意なものだと言うならかわいそうだと思う。」
「だったら――――――」
「しかし、そのイメージを植え付けたのは他ならぬお前だろう?なら、幻想郷縁起を書き替えることに意味はないのではないか?」
「………………。」

 流石。正論を語らせたら右に出るのは閻魔くらいか。
 阿求が言った。

「うはぁ、友好度最悪危険度激高の妖怪によくそこまで言えますね。」
「私は先生だ。迷っている、また知らない、分からないという誰かに何かを教えるとき、例外なく"誰か"は生徒であり、私は先生なのだ!」
「それは少しばかり傲慢では……。」

 幽香もそう思った。
 まぁ幽香は口のきき方に云々言うタチではなかったが。

「まぁそこでだ。今言った祭なんかどうだ」
「なんか出せって?」
「ああ。稗田は何かしたいことがあるか、と聞きに来たんだが、どうだ?これも何かの縁、この際一緒に出店してみるのは?」

 阿求は顎に手を当てて考えた。

「なるほど。確かに私は幽香さんと仲が良いです。二人は愛し合っていますから。」
「…………そうなのか?」

 すぱぁん!!

 一際高い音を阿求の頭頂部と幽香の傘が奏でた。
 同時、阿求の額がちゃぶ台に落ちた。
 それを見た慧音は口元を引きつらせる。

「風見幽香、ツッコむ所なのは分かるが、ツッコミにも加減はあるだろう?」
「いいのよ信頼しあってるから。ね?」

 ちゃぶ台にキスをしている頭にそう問うと、それは呻くように言った。

「い……いえーすゆあはいねす……。」
「主従関係だったのか。」
「違うわよ。」
「……まぁいい。それで、やるか、やらないかだが。」
「やるにしたってどんな屋台にすればいいのよ。私は焼そばなんか作れないわよ?」
「何かないのか?得意な事。舞台の出し物でもいいが。」

 と、阿求がちゃぶ台から顔を上げた。

「ケーキ作れるじゃないですか。」
「祭りなんだから食べ歩きくらいできないと駄目じゃない。」
「ほぅ、ケーキ作れるのか。他に作れる菓子は?」
「んー、飴なら作ったことがあるわ。」

 その一瞬、慧音の目が光ったように見えた

「飴細工をやらないか!?丁度里の飴職人が腕を怪我して祭りに出れないんだ!」

 やたら嬉しそうだった。

「……飴職人の代わりに出ろって?言っとくけどたいしたものは出来ないわよ?」
「いやいや、飴細工ができる奴自体なかなかいない。頼む、風見幽香。」
「………………。」

 幽香はしばらく考えて阿求を見た。
 すると阿求はにこっと笑い。

「注文とったりお金の管理したりくらいはしてあげますよ。」

 と言った。
 そこまで言うなら……まぁ、やってみようか。

「分かった。ちょっとやってみるわ。期待しないでよ?」
「ありがとう。屋台は私が用意しよう」
「そうしてくれると助かるわ。」















 祭りの日。

「………………。」

 阿求は唖然とした。
 その視線の先には幽香の作った飴がある。

「そんなに変かしら。」
「……これはひどい。何が酷いって、この才能を今まで持ち腐れていたことが。」

 幽香が作ったのはやたら大きな向日葵だった。外側の舌状花も内側の筒状花も見事な再現度だ。人間業ではない。人間でもないが。

「飴職人顔負けですねぇ。いや、流石です。」
「誉めてもなにも出ないわよ。」
「出たぁ――――!!ゆうかりんの照れ顔だ――――!!やっべちょープリティ――――!!」

 すぱぁん!

「最近よく叩かれる気がします。」
「最近よく叩かれるような事するものね。そろそろ客が来る頃よ。」

 見ると、気の早い客が二人か三人程をうろついているのが確認できた。



 阿求は椅子に座って店番を、幽香は後ろで飴を作っている。
 と、早速一人、こちらへ向かってきた。
 阿求と同じくらいの歳の女の子だ。

「稗田さん、お店やってらしたんですか。」
「はい。どうですか、一本?」

 ……幽香と目が合う。

「あの、私、友達待たせてるんで。」

 と言って小走りに駆けて行ってしまった。

「…………。」
「…………まぁ、皆が皆ああでもありませんて。」
「…………。」






 で、既に6人に逃げられたわけだが。

「…………後ろに隠れときます?」
「いやそこは慰めてよ!?ってかここ私の店だから!」
「物はいいと思うんですけどねぇ。」
「人間がだいっきらいな妖怪が祭りで店よ?疑わないほうがおかしいわ。」

 ああまったく、健気に飴を形作っていた自分が馬鹿らしい。

 当たり前。
 そう、当たり前なのだ。

「おお、珍しい組み合わせだね。」

 陽気な声が聞こえた。
 少しずつ増えてきた人ごみの隙間から一人、小鬼が駆けて来る。

「あら、鬼さん。天界にいたと聞いていましたが。」
「祭や宴会があると聞いちゃあ地球の裏側からだって飛んできてやるさ。」
「鬼は嘘言っちゃいけないんじゃないんですか。」
「冗談は別だよ。それに、本当に耳に入れば地球の裏側からだって行くよ私は。」

 さっそく親しげに話している相手は伊吹萃香である。

「それで、なんか面白そうなもの置いてるじゃないか。一本おくれよ。」

 と、お金を差し出した。 阿求は萃香から見えないようにガッツポーズ。

「どれにします?」
「んーチューリップでいいや、食べやすそうだし。」

 と、萃香はチューリップをとった
 たしかに、再現度を気にするあまり、複雑な形になった他の花よりも丸まったチューリップの方が食べるにはいいかもしれない

「けど、こりゃもう工芸品だねぇ。どこから食べればいいか分からないとはこれの事だよ。本当に風見幽香が作ったのかい?」
「ええ。味は保証するわよ。」

 ここは流石に自分で答えておいた。

「味なんてもう関係ないね。この完成度と風見幽香が作ったってだけで話題性は抜群だよ。」

 そう言って萃香はまた人ごみにとけていった。
 人ごみはより一層増えていた。

「やりました!ついに一本売れましたよ!」
「売れたわね。」

 落ち着いた声で返すが、なるほど、確かにうれしい。
 買ったのは人間ではないが。

「10分で一本ですか……よし、ノルマは三十本です。」
「低いノルマねぇ。まぁ果たせると決まった訳ではないのだけれど。」

 阿求は一から三十までの数字を紙に書き、一を赤いペンで丸く囲った。

「……なんか、珍しいもの使ってるわね。」
「ボールペンって言うらしいですよ。なにがボールなのか分かりませんが。」






「おお、やってるやってる。」

 二人目の客は慧音だった。

「これは……すごいな。」

 慧音は飴を見て言った。

「ふふ、我が嫁ながら誇らしい。」
「誰が嫁だ。誰が。」

 精密作業中なので過剰なツッコミはしない。

「まるで本物に飴コーティングしたみたいだな。」
「花を化石にするような真似私がするわけないでしょう。」
「ははは、そりゃあそうだろうな。さて、お一つ貰っておこうかな。」

 慧音はお金を出し、少し迷って菊を手にとった。








「おや、これは珍しい。風見幽香が人間と店を出しているなんて。」

 いつぞやの死神だった。

「ふうん、飴職人も顔負けの出来だね。」

 来たものは皆そう言ってくれる。
 が、買ってくれるのはこういった顔見知りや人外か……。

「またサボりですか?」
「いやいや、休憩がてら晩飯でも買いに来ただけさ。おや彼岸花。よし、これを貰おう。」
「職業的にですか?」
「いや、単にこれが一番綺麗だったからさ。」








「お?見ろよ、風見幽香が店出してるぜ。」
「本当。綺麗な飴細工ね。」

 次にあらわれたのは魔理沙とアリスである。デートか。
 アリスは普段の服だが、魔理沙は華やかな浴衣を着ていた。

「浴衣ですか。あまりそういうタチには思えなかったのですが。」
「失礼な、私だって祭があれば浴衣くらい着る。こういうのは形から入ってこそ真に楽しめるんだぜ。」
「……満喫してますねえ。」

 いい歳して両手には金魚にりんご飴。頭にはお面である。
 こうしてまた霧雨邸にゴミが増えるのである。

「ふぅん。これ、幽香が作ったの?」
「ええ。」

 私はアリスの問いに頷いた。

「面白そうね。私もやってみようかしら、飴細工。」
「そうか。じゃ、私はアリスのを食べるぜ。」
「ちょ、誰も本当に作るなんて。」
「お、射的!」
「あ、ちょ、魔理沙ぁっ!?」

 魔理沙はアリスの腕をひっぱってどこかへ行った。

「……何しに来たんでしょうか。」
「まさに冷やかしね。バカップルめ。」
「幽香さんが望むなら……私、もっと積極的になってもいいんですよ……?(色っぽい声)」
「黙れ馬鹿死ね。」








「ありがとうございます。」

 阿求は客を見送ったあと、ノルマシートの15に丸をうった。

「ようやく半分ですか……。」
「祭は半分過ぎちゃったわ。」

 あと1、20分かしたら花火があがるだろう。

「二十本が限界かしらね。」
「ま、まぁ、初めてですからね。次回も出しましょうよ。」
「……そうね。」

 と、

 腹の音が聞こえた。

「何か食べてくれば?」
「あー、ばれました?ですが……。」
「店番は私がやるわ。」
「えーそれじゃ客が。」
「いいのよ。折角のお祭りだし、楽しんできたら?」

 祭りなんて、楽しむのが第一だろう。

「ではお言葉に甘えて。って、幽香さんはいいんですか?せっかくのお祭りですよ。」
「いい歳して祭りなんてねぇ。」
「じゃ、なんか買ってきます。何がいいですか?」
「……………………わたあめ。」

 風見幽香は甘党である。

「わたあめですかぁ。いい歳こいてわたあめですかぁ。」
「ニヤニヤしてないでさっさと行きなさい!10分で戻ってきなさいよ!?」
「短っ!?」









 阿求は祭が好きである。というか、何か事情でも無いかぎり心底祭が嫌いな奴なんていまい。

「いやーやっぱいいですねー祭は。」

 いか焼きを齧りながらそんな事を呟いた。
 それにしても人が多い。それほど広くない幻想郷から、一体どれだけの人妖その他が集まっているのだろう。
 人と妖怪が親しくなった証だ。そういう光景は見ていて楽しくなる。だから、幽香を見ているのは少し淋しい。
 別に私が側に居る事で彼女がより人間に親しみやすい存在になってくれれば……なんて理由で側に居るわけでは断じてない。
 天秤にかけてみるといい。風見幽香の危険さと上記の理由を。
 どう考えても割りに合わないだろう?
 私は決してお人好しではないし、幽香に脅されているわけでもない。

 ならなぜ幽香と親交が深いか。

 簡単。私は風見幽香が好きだからである。

 何故好きかって?ははは。愚問。愚問だよそれは。まったくもって愚問。愚問史記。

 ゆうかりんかわいいよゆうかりん。

 全てはこの一言に収束されるのだ。






 なんて、恋する阿礼乙女(?)のように言ってみたが、実際はそれほど会えていない。私、インドアだし。
 わざわざ太陽の畑まで赴くことはまずないし、周りも許さないだろう。
 が、幽香は私を訪ねて来てくれる。幻想郷縁起のおかげである。。
 何だかんだ言いつつ私が幽香のページを改訂しないのはその繋がりを失いたくないからにある。
 もっとも、幽香がいつか諦める可能性はおおいにあるが。

 私の命が尽きるまで後十数年。
 長い時を生きてきた風見幽香からしてみれば、たいした時間でもないだろう。
 ならばせめて、残りの十数年の間、私は彼女と共に居たい。
 幻想郷縁起は一代一冊というのも、その為に私が勝手に決めたことなのだ。



 ……おお。これは凄い。
 これでは私がまるで全幻想郷が泣く壮大なラブストーリーの主人公だ。

 そう、最終回は──────





 ついに諦めた風見幽香。
 愛しき人が側から居なくなった稗田阿求。
 喪失感に襲われながら毎日過ごす阿求は、ある日一つの話を聞いた。

「最近幽香の元気が無いんだ。退屈だっつってさ。なんでも、今までやっていた日課の無駄さに気付いたとか。(cv魔理沙)」

 それを聞いた阿求は慌てて筆をとり一つの書物を書き出した。
 寝る間も惜しんで書き上げた時、阿求はすでに限界だった。しかし、休んでいる暇はない。
 これを、ある人物に一刻も早く届けなければならないのだ。

 様々な障害を乗り越えた阿求は精神的にも肉体的にも限界を迎えていた。
 走り、走り、走り、そしてそびえる向日葵を見上げ阿求は幽かな声で呟いた。

「……着い…………た…………。」

 それと同時に脚は崩れ、膝をつく。上体も跡を追うように…………
 ……倒れこもうとする阿求を、一人の妖怪が抱き留めた。
 妖怪が言った。

「本当に馬鹿ね……貴方。」

 阿求の手にした本には、友好度最高の妖怪が一人載っていた。





 全阿礼乙女が泣いた。
 ま、どうがんばっても幽香が最高は無いけどね!
 そんなことより海が無いはずの幻想郷にどうしていか焼きがあるのだろう。
 いや、まぁ十中八九スキマの仕業……もといおかげなんだろうけど。
 なんでもいいや。いか焼きうめぇ。
 さてそろそろわたがし買って戻ろうか。
 もうじき10分だろう。

「おっと。」
「あ、すいません。」

 誰かと肩をぶつけ、その拍子に財布を落とした。
 ああ、どなたか私の服にポケットでも付けてくれませんかねぇ……和服なんですが。
 なんて考えながら財布を拾った、瞬間だった。

 手が伸びて

「へ……?」

 呆けている間に、阿求は力任せに暗闇にひきずりこまれた。










「20分経過……。」

 幽香が店番につくと、余計に客が寄り付かなくなった。当たり前である。
 そんなことより阿求はまだか。まったく、人混みに揉まれて身動きがとれないのか、単に迷子か。どっちだ。
 もしかしたら制限時間なんて無視してる可能性があるが、どちらにしろ私が暇である。客も来ない。
 こうなったら探しに出て強制送還だ。私は気が短い方なのである。
 その為には代わりが必要なのだが……。
 なんて考えていると、なんともちょうどいい所に通りかかるものである。

「ちょっと、霊夢。」
「あれ、幽香?何してんのよ。」
「いや、ちょっとね。そんな事より店番頼まれて欲しいのだけど。」
「はぁ?意味分かんないわ。何で私がそんな事。」
「報酬、弾むわよ。」
「頼まれちゃ仕方ないわね。」

 現金な巫女である。

「ありがと。さて、10分くらいで帰ってくるから。」
「いってらっしゃーい。」

 ニコニコと手を振った。
 いい嫁になるよ。金次第で。





















「悪いな、稗田のお嬢さん。あんたに恨みはないんだが。」
「………………では私もそのテンプレートに倣って、これは何のつもりですか。」

 いきなり手をひっぱられたかと思ったら、手錠をかけられて、人気のないところに男二人と一緒。
 これをテンプレートと言わずしてなんと言おうか。

「ああ、もしかして祭りの舞台か何かですか?いやぁすいません演技力には自身が無いもので。」

 ぺこっ、と願い下げするように頭を下げると、長髪の男が呆れたような声で言った。

「そんな訳無いだろう。さてお嬢さん、貴方は風見幽香と仲が良い。共に店まで出す仲だ。」
「……それが?」
「風見幽香とはどういう要因でつながっている?風見幽香がおまえを利用か何かしているのか?逆か?」
「さぁて何のことやら……私と幽香さんは親友以上結婚未達という関係なのですが」
「籍入れてんのかよ!?」

 長身の逆毛の男がいい声で突っ込んだ。ツッコミ向けだ。こういう人が使用人に欲しい。
 ところで、幽香が助けにくるのにはまだ早いだろうか。
 ……ふむ、阿求センサー(頭の花飾り)に反応無し。まぁこういうのはタイミングが大事なのである。しばらく彼らと会話でも楽しもう。

「で、貴方達の目的はなんですか?」
「分からないか?」
「分かりました当ててさしあげましょう。」

 さぁ推理開始である。とりあえず前提として私に恨みはないらしい。当然だ。私は人に恨みを作る人間ではない。なんたって九代目阿礼乙女様である。敬われるべき存在だ。まったく、礼儀を知らない人間が居たものだ。
 そんな訳だから彼らの狙いは幽香だ。幽香をどうとかすることに違いない。そして、私を通じて幽香に何かをせんと言うわけだ。
 それは何か?
 ふ、こういう時は自分が相手の気持ちになって考えると良い。
 ………………そうだ、これしかない。



「ズバリあなた方の目的は!風見幽香さんそのものですね!?分かります、分かりますよ!あの可憐な容姿!出るところは出ているにも関わらず華奢な体つき!眩しい笑顔!花を操る能力!凄く可愛いですよね!その気持ちは分かります、が!!残念幽香さんはあと十年ちょいくらい私のものです!愛し合っていますから!私達!」



「…………。」
「…………。」

 冷たい目をされた。
 だよねー、違うよねー。相手の気持ちになる作戦って正直そんなに使えないよねー。
 長髪が逆毛に言った。

「タカ、このお嬢さんはいきなり誘拐されたからパニくってるらしい。なんか気の落ち着くもん買ってきてやれ。」
「はぁ!?」

 逆毛が露骨に混乱したように声を上げた。

「あ、でしたらかき氷がいいです。宇治金時で。」
「かき氷がいいらしい。宇治金時の練乳入りだ。」
「練乳なんて言ってなかっただろ!しかもなんで律儀に聞いてんだよ!?」
「いいから買いに行け。この御方を誰と心得る。」
「誘拐された少女だよ今は!」
「そうだ。買いに行け。」
「だああああ!もう買ってくりゃいいんだろ買って手くりゃ!」

 タカは買いにいった。
 ああ、いいコンビだ。こういう二人をずっと眺めていたいものだ。
 外の世界で流行っている、いわゆる"びーえる"という奴だ。いいなぁ。

「いやぁ悪いですね、練乳までつけてもらっちゃって。」
「人として当然だ。」
「ついでに手錠外してくれませんかね。」
「無理。誘拐犯として当然だ。」
「……それで結局目的はなんですか。トシさん。」
「違う。……で、目的の事なんだがな。俺たちの目的はあんたらの目的だ。」
「はいぃ?」
「最初に言ったろう。あんたらこそ何を企んでいる?あの友好度最悪の風見幽香と仲が良いというのはそれだけで異様だ。怪しいんだよ。」
「別に何も企んではいませんが、話はそれだけですか?」
「話はそれだけだが、ないんですかそうですかすいません、で終わったらわざわざこんなことをした意味が無いわな。」
「そうですね。それで、私にどうしてほしいのでしょう。」
「まぁまずはあんたと風見幽香のつながりについて詳しく話してもらいたい。」
「仕方ないですね……そう、あれはまだ暑さも明けない初秋のこと、ゆかりんは言いました。今年の秋アニメはつまらん。」
「知らねーよ。」

 会話に飽きました。ゆうかりんマダー?

「買ってきたぞ、おい。」

 タカが帰ってきた。本当にご苦労様である。

「ありがとうございますトシさん。」
「タカだ。」
「欧米かっ!」
「何が!?」

 いいね、このリアクション。
 うちの使用人はこういう時基本冷たい。












「あ、いたいた。こんなところで油を売っていたのね。」











 やっと来てくれたようだ。
 その声と同時、男たちの顔が凍り付いた。

「げぇっ風見幽香!?タカ!つけられたな!?」
「うるせぇよ!かき氷買いに行く状況の方がおかしいと思え!」

 幽香は溜め息を一つついた。

「こいつら……何?芸人かしら?」
「紹介します。タカさんとトシさんです。」
「「違う!!」」

 息ピッタリである。萌え。

「く……だがしかし!俺たちだって無策で来た訳じゃない!」
「そうだ!今こそあの御方を呼ぶんだ!」

 あの御方って、これまたテンプレートな黒幕だな。

「「早苗さーん!!」」











「覚悟はよいか!」








 男たちの声に答えるように、高い地声を無理に低くしたような声が響いた。
 縁日に聞こえたのではないだろうか。



「愚か者め!!」



 その声が響いた瞬間、幽香は人の一人分ほど横にステップした。

 轟音と共に、幽香が居た場所に大きく砂煙がたった。
 煙の仲から、青い巫女があらわれる。

「ふ、流石は噂に名高い風見幽香。私のフルゲージ超必殺技"モーゼの奇跡"をあっさりかわしますか。」

 いまのはむしろ禊では……。

「誰かと思えば山の新入り巫女じゃないの。はじめまして、私が風見幽香よ。」
「あ、はいこちらこそ。」

 律儀に頭を下げる二人。

「じゃなくて!この美少女巫女戦士ミラクル早苗が来たからには貴方達の悪業もこれまでです!さあ白状しなさい!」

 ビシィッ、と指を指したが、幽香は首を傾けるだけである。

「何を白状しろと?」
「とぼけても無駄です。貴方達は一体何を企んでいるのですか!」

 幽香は少し考えて私に目を移した。

「……何の話をしているのかしら?」
「私が知りませんよそんな事。」

 一方早苗は声を荒げた

「往生際が悪いですよ!いい加減観念しなさい!!」

「って言ってるわよ。早く観念したらどうなの。」
「なんで私に言うんですか!」

 ああ、もう面倒だ。
 こうなったら適当言ってこの場を誤魔化そう。

「ふふふふふ…………よくぞここまでたどり着きました……今こそ明かしましょう!私の、真の目的を!」

「何ですって!?阿求さんが黒幕だったんですか!?」

「そう……私は風見幽香さんに近づいてある事を企んでいました!!それは――――





 ――――けっこn」

 ゴッ

 鈍い音。幽香が膝のスナップを効かせて飛ばした靴が阿求の額に刺さった音である。

 バサッ

 乾いた音。阿求がノックアウトした音である







「よ、よくも阿求さんをぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「さっきまで疑ってた癖に!?」

 いきなり逆上した早苗はスペルカードを取り出した。

「妖力スポイラー!」

 その宣言と同時、幽香に脱力感が襲い掛かる。

「……っと、」

 幽香は地に膝をついた。
 それを見た早苗は不敵な笑みを浮かべる。

「ふ、これが対妖怪究極奥義"妖力スポイラー"!妖力を吸い取って妖怪を無力化しつつ自身を強化するのです!!」



「やっほおおおおい!さっすが早苗さんだぜええええ!!」
「いいぞー!やっちまえー!」

「「さーなーえ!さーなーえ!さーなーえ!さーなーえ!」」



 早苗は後ろの二人の男に応えるように笑顔で手を振った。
 というか、まだ居たのか。

「私を応援してくれる人の為に、負ける訳にはいかないのです!」

 二人じゃねーか。
 それにしても……。

「足があがらないわねぇ……。」
「ええそうでしょうそうでしょう!さぁ貴方を霊夢さんのところまで連れていかせていただきます!」

 霊夢はウチの店で店番してるんだが……。
 早苗がこちらへ向かってきた。
 仕方ないから立つ。

「……まだやりますか?」

 立つだけの力が残っていたのに驚いたような声だ。まったくいくらなんでも私を舐めすぎだ。
 だからそこにつけこむ。
 足をおもいっきり振り上げた。ハイキックコースだ。

 「ひっ」と声を上げた早苗は目をつむりこめかみを守った。
 幽香の足は腰の高さで止まった。それ以上は上がらない。
 だからすぐに振り下ろした。某ムエタイチャンピオン(逆毛ってレベルじゃない髪のほう)も裸足で逃げ出す史上最強のローキックは完全無防備な足に炸裂した。















「はっ!?幽香さんの水着の紐が緩く!?」
「一体何を見てたの。」

 数分で阿求は目を覚ました。意外に早い。
 叩かれ慣れているからだろうか。

「……気絶しても夢って見るんですね。」
「みたいね。」

 起きたようだからおぶっていた阿求を背中から下ろした。

「そ、そんな殺生な!?」
「何が!?」

 阿求がもう一度背中に乗ろうとしてきたが叩き落とした。
 元気なもんだ。

「アホな事やってないで店に戻るわよ。霊夢が待ってるわ。」
「…………。」

 そう言った時、阿求は少し迷った顔をした。
 また何か考えているのかと思ったが。

「少しだけ……少しだけでいいですから、縁日楽しみません?」
「……馬鹿言わないの。もう少し遊びたいって言うのなら1人で……。」
「まさかさっき誘拐にあった人間をひとりでうろつかせるつもりですか?」

 また上手く言う……。

「私がいると変な目で見られるわよ。」
「そんな事を気にしているから本当に変な目で見られるんです。人並みに祭りを楽しんでいるところ、見せましょうよ。」

 阿求は笑った。
 ……まったく。
 幽香は溜め息をついた。

「そうね……わたあめ買いに行くだけよ。」













「おっっっっそいっ!!」

 帰ってくるなり霊夢に怒鳴られた。

「30分!30分も経過したわ!だから報酬三倍ね!?分かった!?」
「ああもう分かったわよ。売り上げは三等分ね。」

 そういって霊夢の言葉を流しながら飴細工の作業に戻る、と

 ストックが無くなってた。残りの十五本が、全部。

「……あれ?」
「あれ?じゃないわよ。なんでそんだけしか作ってないのよ。あっという間に売り切れたわ」

 ……ああそうかい。
 こちとら二時間以上かけて売った十五本を、30分足らずで売ったってか。

「どちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 幽香の叫びは霊夢の「うるさい」と言う声で放たれた鉄拳と阿求のかわいそうなものを見る目を生むだけだった。


























 さて、風見幽香は今日もケーキを作っていた。
 今回は果物だけではなく飴細工も乗っけてみる。うん華やかで可愛い。

 ケーキの上には8つの飴の花が咲いていた。それは阿求の髪飾りを模したツバキだ。

「ま、この前のお礼も兼ねてるものね。」

 いつもの土産に少しの飴を付け足しただけだが、なんとなくこうすれば阿求は喜ぶ気がした。
 さて、と、ケーキを箱に入れると、外で何かが戸を叩いた。
 何かと思い出てみれば、新聞が落ちていて、西の空に天狗の後ろ姿が見えた。

「新聞、とってないんだけど……」

 そういいながらも新聞を開いてみると────




『風見幽香、祭りの夜にて ~最強最悪妖怪に(コッソリ☆)密着ドキュメンタリー~』



 全部書いてあった。






















「はっはっは、いやぁ天狗も想像以上にいい記事を書いてくれたなぁ。」
「……つまり何?あんたが仕組んだって?」
「ケーキうめぇ。」
「黙ってろ。」

 阿求はひたすらケーキを食っていた。太るぞ。
 阿求邸に行ってみれば、阿求と慧音が既にいた。
 なんとこのハクタク、昨日の祭りの誘拐犯は自分が用意したものだという。

「実は私も陰から見てたんだ。なんか昔っから悪ふざけの多い奴だったからな、全然打ち合わせ通りに動かなくてどうなるかと思ったが……ああ、長髪の奴の事だ。それにしても流石天狗、ユニークな記事を書くなぁ。こんな書き方されたら凶悪妖怪の名前も丸つぶれだ。良かったな!はっはっはっはっはっ!」
「はっはっはぁじゃない!これはこれで嫌な視線貰うのよ!つかなんで「こいつ阿求といい雰囲気じゃねーか」みたいな記事になってんのよ!」
「いいじゃないかいいじゃないか。なぁ、稗田?」
「結構な話じゃないですか、幽香さん?」
「うっさい!もういいわ。しばらく人里には来ない。」
「え」

 阿求がフォークを落とした。

「…………本当に……ですか……?」
「え、ちょ、何?何よ?」
「そう肩をおとすな稗田……所詮は幻想郷縁起での繋がり、いつ切れるか分からないって自分でも言ってたじゃないか……。」

 慧音が阿求の肩を抱いた。

「そう……ですね…………その、人里の人たちのイメージが重なったら幻想郷縁起、書きなおしますんで……それまで……ううっ」
「稗田…………。」





「ああああああああああああああ!!もう分かったわよ嘘よ嘘でいいんでしょ!来るわよ来てやるわよ畜生おおおおおおおおお!!」




 そう言いながら幽香は走り去った。

「今日は帰るんですね。」
「まぁ流石に機嫌はよくなさげだからなぁ。」

 慧音はケーキにフォークを指して口に運んだ。

「うむ、美味い。」
「……慧音さん。」
「どうした?」
「もし、今の私の体が朽ちるとき、傍にいてほしいって言ったら幽香さんはどう答えるでしょうか。」
「……さあな。妖怪は、自分勝手なもんだからな。」

 阿求はツバキの飴をつまみ、口に入れた。
 そういえばあの時飴の試食はしなかった。
 蜂蜜が入った飴なのかほのかに花の香りがした。

「……妖怪は……自分勝手だからさ、さっき自分の言葉を否定したのも珍しいっちゃあ珍しいんだ。幽香が珍しい妖怪な訳じゃない。花を粗末にすれば即死刑にするようなエゴの塊だ。博麗の巫女がいるから今はそれほどの事もないが。」
「…………。」
「その幽香がああいう態度をとる。私の憶測だが、幽香にとってお前は大多数の人間の一人なんかじゃないんだろう。そう、友人だ。なんたって最近では、一番多く言葉を交わした人間だろう?」
「そうですね。」

 ツバキの飴をかみ砕いた。
 蜂蜜の甘さが口いっぱいに広がった。
 ああ、幸せだなぁ。阿礼乙女の代でも一番幸せな代じゃないだろうか。

「いやぁ本当、幽香さんは可愛い人ですね。」
「…………そういえば、結局幻想郷縁起は書きかえるのか?」
「そうですね……。」
 


「これから先の幽香さんを見ながら考えましょうか。」
 あーゆうかりんマジかわいい。
 幽あきゅ流行れ。

 地味に初オリキャラです。
 謝罪ですが、この話は"幻想紅白歌合戦 番外編 ~風見幽香のアイドルデビュー編~"がしばらく手つかずになっていたのをまったく別のものに書き換えたものです。
 原型はほぼ無いのですが、代わりとして受け取って頂ければ幸い。どっちにしろ番外編書く予定が出来るかどうかすら今のところ未定なんで。
 終始ギャグで書こうと思ったらちょっと中途半端になったかなぁと思う。いままでのどの話よりも起承転結が出来ている自信があったりしますが。

 それにしたって幽あきゅって少ないなぁ。
 まぁ自分も八重結界氏の『反りが合わない』見て好きになったんですが。
 それで出来たのがこれかよ(笑)とか言わないでくださいお願いします。

 指摘ありがとうございます。修正しました。
 あと一部台詞を書き換えました。
過剰睡眠摂取症候群
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コメント



0.3760簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
受け幽香の可愛らしさは異常。
5.100名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんかわいいよゆうかりん
8.100名前が無い程度の能力削除
かわいいよゆかりんはかわいいよ
9.100名前が無い程度の能力削除
いじられゆうかりんは和む。

>阿求センサー
え? ケロちゃん帽子と同じでアレが本体でしょ?
14.100夢中飛行士削除
かわいいよゆうかりんかわいいよ。
阿求の黒さがベストマッチ。
16.100名前が無い程度の能力削除
テンポ良くて笑えましたww
あきゅん可愛いよゆうかりんかわいいよ
19.100名前が無い程度の能力削除
それで出来たのがこれかよ(笑)
20.100名前が無い程度の能力削除
幽あきゅが俺の正義
28.100名前が無い程度の能力削除
幽あきゅうめぇ
37.100名前が無い程度の能力削除
これはいい幽あきゅ。
オリキャラもいい味だしてました。
40.100名前が無い程度の能力削除
幽あきゅ萌え
41.100名前が無い程度の能力削除
彼岸花の飴細工・・・!SUGEEEEEEEEEEEEEEE!!
それにしてもアグレッシブな阿求だな困ったゆうかりんは最高だな
47.無評価名前が無い程度の能力削除
> 確かに死んでも数十年で転生するんだが。
死んでから転生するまでは、100年余り閻魔様の下で
働いていますね。公式では。
49.100ケチャ削除
ありがてえありがてえ
幽香って親しい相手にだけはすごくやさしいと思うんだ
53.100名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんかわいいよゆうかりんかわいいよゆうかり(ry

メインのキャラはもちろん、オリキャラもいい味出してました。
さながらカップヌードルシーフードの貝柱のように。
54.90名前が無い程度の能力削除
この掛け合いのノリは好きかも
全阿礼乙女が泣いた壮大なラブストーリーは果たして阿求の本心なのかどうか
まあどっちでもいいや、あーゆうかりんマジかわいい
57.100ぺ・四潤削除
ゆうかりんマジ可愛い。
俺が人里に住んでたら毎日通って花に水あげてゆうかりんと仲良くなるのに……
そしてゆうかりんがどれほど可愛いかを大声で叫び回るのに!!
65.90名前が無い程度の能力削除
あっきゅんw
こういうのもいいねw
67.100名前が無い程度の能力削除
あ~ゆうかりん可愛い
そして早苗さんどうなったww
72.100名前が無い程度の能力削除
現人神は犠牲になったのだ……早苗ェ
まあそんなことより幽あきゅいいね!
77.100名前が無い程度の能力削除
幽あきゅいいなあ
81.100名前が無い程度の能力削除
ゆうかりんかわいいよゆうかりん
黒い阿求と可愛一面のある幽香がベストマッチです。
86.100とーなす削除
笑ったww
もう、シリアスっぽいところぐらい、だれかきちんと締めてくれよwwタカトシ不意打ちだよもうww
あっきゅん可愛い。
88.100名前が無い程度の能力削除
それで出来たのがこれかよ……素晴らしいじゃないか!
ゆうかりんかわいいよゆうかりん 。
91.100名前が無い程度の能力削除
これは良い幽あきゅ。
幽あきゅもっと流行れ
98.100名前が無い程度の能力削除
ローキックは(アカン)