百万回しんで、百万回生きたもこたんがいました。
もこたんはきぞくのむすめでしたが、お母さんのみぶんがいやしかったのでひっそりとそだてられました。
もこたんは小さいころいちどだけお父さんと会って、それからあとはお母さんとわずかのめしつかいだけでくらしていました。
「きょうようをみにつければお父さんはもどってきてくれる」とお母さんになんども教えられたもこたんは、いっしょうけんめい歌やがっきを学びました。
それにもかかわらず、お父さんはさいごまでもこたんとお母さんの元にもどってくることはありませんでした。
お母さんは「あの月のひめがうらめしい」となんどもくりかえしつぶやきながらしんでいきました。
もこたんはお父さんをうばい、お母さんをくるしめた月のひめがゆるせなくなり、なんとしてでもしかえししようと考えるようになりました。
もこたんは家をとびだし、月のひめをさがして歩きまわりました。
それはにわより外へ出たことがなかったもこたんにはつらい道のりでした。
おなかが空いて、のどがかわいて、からだじゅうがしびれといたみでいっぱいになりました。
もこたんはくじけそうになるたびに、やつれきったお母さんのすがたと、いちどだけ見たお父さんのやさしい顔を心に思い出してがんばりました。
あるとき、もこたんは大きな山にのぼっていました。
月のひめがとても高いところに行ったということをうわさで聞いたからです。
もこたんはそこで月のひめのおくりもののくすりをうばいとりました。
もこたんはおなかがへっていたので、そのくすりを自分でのんでしまいました。
たちまちのうちにもこたんのからだにあったすりきずや切りきずがきえてしまい、ふしぶしのいたみやしびれもどこかへとんでいってしまいました。
もこたんはこれさいわいとさらにがんばって月のひめをさがすようになりました。
しかし、ひめはいっこうに見つかりませんでした。
そのうち、月のひめは月に帰ってしまったということがわかりました。
お父さんとお母さんのしかえしをしようと思っていたもこたんには、しょげているひまはありません。
すぐにどうすれば月に行けるかを考えることにしました。
何百年後、おにとだいようかいが手を組んで月にせめこもうとしているという話をもこたんは知りました。
もこたんはいっしょに月につれていってもらうため、ようかいとたたかって力をつけることにしました。
もこたんはしにました。あるときはおなかをつらぬかれ、あるときは頭からのみこまれ、あるときはふみつぶされ、あるときはおぼれさせられ、あるときは首を切られました。たくさん、たくさんしにました。
もこたんのからだはしぬたびにもえ上がってやきつくされ、ちりぢりになったあとからあたらしいからだに生まれかわります。
そのうちほのおの力が生きているときにもつかえるようになったので、これを用いてようかいとたたかうようになりました。
何百年も、それをつづけました。
ある日もこたんは、おにとだいようかいが月のへいたいにまけてしまったという話を聞きました。
もこたんはそれが本当であると知ると、なにもかもがいやになってしまい、一日中ねころがってなにひとつやらなくなってしまいました。
ごはんもろくに食べなかったし、おそわれてもなにもしなかったので、なんどもなんどもしんでしまいます。
もこたんはそのたびに生きかえる自分のからだを、しねないうんめいを心のそこからのろいました。
そんな日々がまた何百年かつづきました。
またある日もこたんは、めずらしくうごく気になったので竹林をさんぽしていました。
そんなときにたまたま、さがしていた月のひめに出くわしました。
月のひめは帰ったのではなく、帰ったふりをして竹林にかくれていたのです。
さっそくもこたんは月のひめをいっしゅんでやきころしました。
もこたんは大きなことをやりとげたきもちになりました。
しかし、月のひめももこたんと同じしなないからだだったのです。
もこたんは今度はどうやったら月のひめをころせるかを考えることにしました。
二人はなんどもころしあい、また何百年かがすぎていきました。
もこたんはつかれていました。
もこたんがそうであるように、月のひめもころすことはできないということがわかってきたからです。
お父さんとお母さんの顔もすでにほとんど思い出すことができなくなってしまっていました。
月のひめと会うたびに、にせもののいかりをふるってころしあいにあけくれる毎日をおくっていました。
あるまんげつの夜、もこたんはひとりの女の子と出会いました。
女の子の頭からはみどりいろの二本の角がはえていて、おしりにはふかふかのしっぽがついていました。
女の子はけーねという名前でした。
けーねはもこたんのふくがぼろぼろなのを見て、もこたんのことをたいへんに心配しました。
もこたんは「わたしは百万回もしんだのよ」と言って、けーねをよせつけまいとしました。
けーねは「そうか。しかしお前は人間だろう? わたしには人間をたすけるぎむがある」と言い、もこたんを強引に家までつれていきました。
もこたんは少しはらをたてました。
なにしろ自分が人間だとはもはや思ってなかったからです。
「わたしは頭をばらばらにくだかれたことがあるわ」「自分の肉を食べたことがあるのよ」「村を一つほろぼしもしたわね」ともこたんはなんどもけーねに自分のやってきたことを言いました。
しかし、そのたびにけーねは「それでもお前は人間だ」と言って聞き入れませんでした。
「わたしは……」もこたんはある日そう言いかけて、
「そばにいてもいいかい」
とけーねにいいました。
けーねは「かまわない」と言いました。
もこたんとけーねは、小さい家でいっしょにくらすようになりました。
もこたんはけーねにいままでのいろんなことを話しました。
お母さんのこと、お父さんのこと、月のひめのこと、しなないくすりのこと、ようかいのこと、いろんなことを話しました。
けーねは「そうか」としか言いませんでした。
もこたんはつぎからつぎへと、百万回話をしました。
けーねはまんげつの夜が来るたびにつのとしっぽがはえました。
もこたんはそのたびに「もこもこしていいかい」とけーねに聞きました。
けーねは「ああ」と答えたので、もこたんはまんげつのたびにたくさんもこもこしました。
もこもこするたびに、もこたんはお父さんにやさしく頭をなでてもらったことを思い出しました。
けーねの家には子どもがたくさんやってきました。
もこたんは子どもに「わたしは百万回も……」と言うことはありませんでした。
もこたんは子どもたちがけーねのつぎにすきなくらいでした。
やがて子どもたちは大きくなり、それぞれどこかに行きました。
「あいつらも大きくなったわね」ともこたんは言いました。
けーねは「ええ」と言って、しっぽをもこもこさせました。
けーねはすこしおばあさんになっていました。
もこたんはしっぽに顔をうずめてもこもこしました。
もこたんはけーねとずっと生きていたいと思うようになりました。
ある日けーねはもこたんのとなりでうごかなくなっていました。
もこたんは千年ぶりになきました。
もこたんはお母さんがしんだときからずっとないていませんでした。
夜になって朝になってまた夜になって朝になってもこたんは百万回もなきました。
そのうちもこたんはけーねのしっぽにつつまれてうごかなくなりました。
もこたんは、もう、けっして――
「あら、こんなところにいたのね、妹紅。……ふうん、このハクタクもついにくたばったってわけね。なに狸寝入りしてるのかしら? 殺してあげるからかかってきなさいよ。それともハクタクごと消し炭にしてあげようかしら?」
「……慧音に……手を出すな……!」
「ははっ、その意気よ! そうじゃなければ、つまらない!」
妹紅は、決して、死ぬことはありませんでした。
もこたんはきぞくのむすめでしたが、お母さんのみぶんがいやしかったのでひっそりとそだてられました。
もこたんは小さいころいちどだけお父さんと会って、それからあとはお母さんとわずかのめしつかいだけでくらしていました。
「きょうようをみにつければお父さんはもどってきてくれる」とお母さんになんども教えられたもこたんは、いっしょうけんめい歌やがっきを学びました。
それにもかかわらず、お父さんはさいごまでもこたんとお母さんの元にもどってくることはありませんでした。
お母さんは「あの月のひめがうらめしい」となんどもくりかえしつぶやきながらしんでいきました。
もこたんはお父さんをうばい、お母さんをくるしめた月のひめがゆるせなくなり、なんとしてでもしかえししようと考えるようになりました。
もこたんは家をとびだし、月のひめをさがして歩きまわりました。
それはにわより外へ出たことがなかったもこたんにはつらい道のりでした。
おなかが空いて、のどがかわいて、からだじゅうがしびれといたみでいっぱいになりました。
もこたんはくじけそうになるたびに、やつれきったお母さんのすがたと、いちどだけ見たお父さんのやさしい顔を心に思い出してがんばりました。
あるとき、もこたんは大きな山にのぼっていました。
月のひめがとても高いところに行ったということをうわさで聞いたからです。
もこたんはそこで月のひめのおくりもののくすりをうばいとりました。
もこたんはおなかがへっていたので、そのくすりを自分でのんでしまいました。
たちまちのうちにもこたんのからだにあったすりきずや切りきずがきえてしまい、ふしぶしのいたみやしびれもどこかへとんでいってしまいました。
もこたんはこれさいわいとさらにがんばって月のひめをさがすようになりました。
しかし、ひめはいっこうに見つかりませんでした。
そのうち、月のひめは月に帰ってしまったということがわかりました。
お父さんとお母さんのしかえしをしようと思っていたもこたんには、しょげているひまはありません。
すぐにどうすれば月に行けるかを考えることにしました。
何百年後、おにとだいようかいが手を組んで月にせめこもうとしているという話をもこたんは知りました。
もこたんはいっしょに月につれていってもらうため、ようかいとたたかって力をつけることにしました。
もこたんはしにました。あるときはおなかをつらぬかれ、あるときは頭からのみこまれ、あるときはふみつぶされ、あるときはおぼれさせられ、あるときは首を切られました。たくさん、たくさんしにました。
もこたんのからだはしぬたびにもえ上がってやきつくされ、ちりぢりになったあとからあたらしいからだに生まれかわります。
そのうちほのおの力が生きているときにもつかえるようになったので、これを用いてようかいとたたかうようになりました。
何百年も、それをつづけました。
ある日もこたんは、おにとだいようかいが月のへいたいにまけてしまったという話を聞きました。
もこたんはそれが本当であると知ると、なにもかもがいやになってしまい、一日中ねころがってなにひとつやらなくなってしまいました。
ごはんもろくに食べなかったし、おそわれてもなにもしなかったので、なんどもなんどもしんでしまいます。
もこたんはそのたびに生きかえる自分のからだを、しねないうんめいを心のそこからのろいました。
そんな日々がまた何百年かつづきました。
またある日もこたんは、めずらしくうごく気になったので竹林をさんぽしていました。
そんなときにたまたま、さがしていた月のひめに出くわしました。
月のひめは帰ったのではなく、帰ったふりをして竹林にかくれていたのです。
さっそくもこたんは月のひめをいっしゅんでやきころしました。
もこたんは大きなことをやりとげたきもちになりました。
しかし、月のひめももこたんと同じしなないからだだったのです。
もこたんは今度はどうやったら月のひめをころせるかを考えることにしました。
二人はなんどもころしあい、また何百年かがすぎていきました。
もこたんはつかれていました。
もこたんがそうであるように、月のひめもころすことはできないということがわかってきたからです。
お父さんとお母さんの顔もすでにほとんど思い出すことができなくなってしまっていました。
月のひめと会うたびに、にせもののいかりをふるってころしあいにあけくれる毎日をおくっていました。
あるまんげつの夜、もこたんはひとりの女の子と出会いました。
女の子の頭からはみどりいろの二本の角がはえていて、おしりにはふかふかのしっぽがついていました。
女の子はけーねという名前でした。
けーねはもこたんのふくがぼろぼろなのを見て、もこたんのことをたいへんに心配しました。
もこたんは「わたしは百万回もしんだのよ」と言って、けーねをよせつけまいとしました。
けーねは「そうか。しかしお前は人間だろう? わたしには人間をたすけるぎむがある」と言い、もこたんを強引に家までつれていきました。
もこたんは少しはらをたてました。
なにしろ自分が人間だとはもはや思ってなかったからです。
「わたしは頭をばらばらにくだかれたことがあるわ」「自分の肉を食べたことがあるのよ」「村を一つほろぼしもしたわね」ともこたんはなんどもけーねに自分のやってきたことを言いました。
しかし、そのたびにけーねは「それでもお前は人間だ」と言って聞き入れませんでした。
「わたしは……」もこたんはある日そう言いかけて、
「そばにいてもいいかい」
とけーねにいいました。
けーねは「かまわない」と言いました。
もこたんとけーねは、小さい家でいっしょにくらすようになりました。
もこたんはけーねにいままでのいろんなことを話しました。
お母さんのこと、お父さんのこと、月のひめのこと、しなないくすりのこと、ようかいのこと、いろんなことを話しました。
けーねは「そうか」としか言いませんでした。
もこたんはつぎからつぎへと、百万回話をしました。
けーねはまんげつの夜が来るたびにつのとしっぽがはえました。
もこたんはそのたびに「もこもこしていいかい」とけーねに聞きました。
けーねは「ああ」と答えたので、もこたんはまんげつのたびにたくさんもこもこしました。
もこもこするたびに、もこたんはお父さんにやさしく頭をなでてもらったことを思い出しました。
けーねの家には子どもがたくさんやってきました。
もこたんは子どもに「わたしは百万回も……」と言うことはありませんでした。
もこたんは子どもたちがけーねのつぎにすきなくらいでした。
やがて子どもたちは大きくなり、それぞれどこかに行きました。
「あいつらも大きくなったわね」ともこたんは言いました。
けーねは「ええ」と言って、しっぽをもこもこさせました。
けーねはすこしおばあさんになっていました。
もこたんはしっぽに顔をうずめてもこもこしました。
もこたんはけーねとずっと生きていたいと思うようになりました。
ある日けーねはもこたんのとなりでうごかなくなっていました。
もこたんは千年ぶりになきました。
もこたんはお母さんがしんだときからずっとないていませんでした。
夜になって朝になってまた夜になって朝になってもこたんは百万回もなきました。
そのうちもこたんはけーねのしっぽにつつまれてうごかなくなりました。
もこたんは、もう、けっして――
「あら、こんなところにいたのね、妹紅。……ふうん、このハクタクもついにくたばったってわけね。なに狸寝入りしてるのかしら? 殺してあげるからかかってきなさいよ。それともハクタクごと消し炭にしてあげようかしら?」
「……慧音に……手を出すな……!」
「ははっ、その意気よ! そうじゃなければ、つまらない!」
妹紅は、決して、死ぬことはありませんでした。
このフレーズ思い出した。たとえ作者さんが妹紅をかわいそうだと思っても、
私は最後の一行に無理やり希望を見出してみる。
漢字を使わないのも作風として受け止められると思いますし……。
頑張って読んだ結果、短編として楽しめたのですが……
どうせ読みづらい事覚悟の表現でしたら徹底してひらがなにした方が良かったかもしれませんね。
もしくは普通に童話風の言葉遣いで書くだけでも演出効果は得られたのかも、と思いました。
とてもいい話でした。ありがとうございます。
間違えて匿名評価のほうを使ってしまったので50点ですが、心の中では100点です。
すごくよかったです。読めてよかった。
最期まで読ませるものもありました
コメント8氏に同意、もこたんに希望を
やっぱり区切りのつかない彼女の命に涙