――バタン
「アリス!」
「あら、魔理沙」
あなたはいつもそうやって突然やってくる。
そんなに激しくドアを開けると壊れちゃう。窓を破って入って来られないだけましだけど、もうちょっと女の子らしくしてほしいものだわ。
「来たぜ!」
「きゃっ」
強引に抱き寄せないで。あなたの温もりは好きだけど、痛いのは嫌いなの。
「なんなのよ、いきなり」
「あったかいぜ」
「もう」
人肌が恋しいのね。
「また無理したのね。帽子がボロボロじゃない。縫ってあげるからとりあえず離れなさい」
◆
「マリサー、オチャー」
「さんきゅ」
こうやってあなたの帽子を縫ってあげるのも何度目かしら。
飽きっぽいはずのあなたなのに、私が縫い終わるまでずっと椅子に座って私を眺める。
「……よく飽きないわね」
「忍耐力を付ける特訓をしてるんだ」
なんでそんなにあなたはうれしそうな顔をしているの?
見つめられるのは慣れてないの。冷静なように見えているのかもしれないけれど、本当は平静を装うだけで精一杯なのよ。
「はい、終わり」
「さんきゅ!」
帽子を手渡すときに手と手が触れ合って、私の心臓が鼓動する。
あなたの細い手が硬く張っているのが触れて分かるたびに、うれしい反面心配な気持ちになるの。
無理はしてほしくないから。
「んー」
あなたはわざとらしく大股に窓に寄って、空を眺める。
そしていつものようにこう言うの。
「あー、空が赤いぜ。せっかくだから夕飯をいただいていくとするか」
「図々しいわね」
◆
「とーろろ、とーろろ、たーっぷり、とーろろー」
「黙って食べなさい」
肉じゃが、天ぷら、お寿司に冷奴。
あなたがしきりに食べたがるものだから、和食のレパートリーも相当増えたわ。
ねえ、知ってる? 和食って、あなたが来たときだけなのよ。あなた専用なのよ。
「うまい! この刺身を作ったのはだれだぁっ!」
「黙って食べなさい」
お米粒がついてるわ。指でとってあげるのが私の密かな楽しみなの。
「ところで魚だけど、幻想郷には海が――」
「黙って食べなさい!!」
◆
「月が出てるぜ」
「そうね」
あなたと夜の散歩に出かけたのも、こんな満月の夜だったわね。
少々騒がしかったけど、刺激的でとっても楽しかったわ。
あのときに渡したグリモワールの呪文をあなたが使っているのを見るたびに、私はむずがゆい気持ちになるのよ。
「アリス」
月を背にしたあなたの目は金色に輝いていて。
「泊まってくぜ」
言葉は澄んでまっすぐで。
「……好きになさい」
だから、私はいつも断れない。
◆
「ふぁあ」
「眠いのね」
「眠くない。ちょっとあくびしただけだ」
「お子様は早く寝たらどうかしら?」
「お子様じゃないぜ」
急に手をつかまないで。鋭い目付きで見つめないで。押し倒さないで。
「――証明してやろうか」
強引なのは嫌いなの。嫌いなはずなの。あなたなら構わないかな、と思い始めてる流されやすい私が嫌いなの。
「魔理――」
とん。
「?」
「......」
「……魔理沙?」
「......ZZz」
「ねてる……。もう!」
勝手なんだから。
◆
「んー……」
あなたはよく、昔のことでうなされる。
「やだ……私は……」
「どうして……みんなは……」
「わかって……わかってよう」
最後に出てくる言葉は、決まっていつもひとつ。
「お母さん……」
そう言ってあなたは手探りで何かを探す。
私が近づくと、あなたは私の胸に手を当てて、もぞもぞと顔を胸にうずめてくる。
「お母さんはここよ……」
ウェーブがかかったあなたの髪をなでるたびに、昔の自分を思い出すの。
「お母さん……」
あなたは背中に両手をまわし、私をぎゅっと抱きしめる。
恋しかったのね。
いいのよ。
私があなたのお母さんになってあげる。
だって、あなたを愛してるもの。
◆
「ん……」
なにか、もぞもぞする……?
「アリス……」
「魔理沙? 起きてるの……?」
まだ辺りは暗いのに、あなたは何をしているの?
どうして私の上着がはだけてるの?
「アリス」
「魔理沙」
どうしてあなたは私の上に乗って、息を荒らげているの……?
「どうしてなの、魔理沙……?」
「アリス」
やめて。駄目よ。
澄んだ瞳で私を見つめないで。切ない声で私を求めないで。温かい手で私に触れないで――
「欲しい」
「やめて! 魔理沙……いや……!」
私はあなたのお母さんでよかったのに。
ああ。身体が熱い。
抱きしめないで――
◆
「――行くの?」
「ああ。宝探しにな。お前も来るか?」
私、知ってるの。あなたは本当に望んでいることを主張するときは、わざと素っ気なく言う。
「遠慮しておくわ」
――だから、いじわるしてやるの。
「そっか」
「わかったら、早く野良に帰りなさい」
「んー」
あなたは私になぜか寄ってきて――
「魔理沙……?」
「ん」
私の腰に手をまわしてきゅっと抱きついた。
「ちょっと、魔理沙!」
「悪い。もうちょっとだけ」
やめて。
昨日の夜を想い出して、胸が熱くなるの。
「こうしてると落ち着くんだ」
「……」
「アリス……変な頼みだけど、いいか」
「なに?」
「……あたま、なでてほしい」
どうしてなの、魔理沙?
私はあなたの恋人になったのではなかったの?
恋人だからこそ、私を求めたのではなかったの?
「ありがとう、アリス。行ってくるよ」
「早くしなさい。最近は紅白だけじゃなくて、緑のもしゃしゃりでてるんでしょう」
「ああ!」
飛んでいくあなたの背中をみながら、私は終わった後のことを考える。
あなたは異変がすんだら、いつものように私のもとに帰ってくる。
そのときに私はあなたを誰として迎えればいいの?
母親? 恋人? どちらなの?
母親でもいい。恋人でもいいの。でも、二つ一緒には無理よ。
「魔理沙……」
私が問いただしたらあなたはきっと、寂しそうな目で私を見つめるわ。
そうなると私はそれ以上聞くことができなくなる。
「……ばか」
愛してるわ、魔理沙。
「アリス!」
「あら、魔理沙」
あなたはいつもそうやって突然やってくる。
そんなに激しくドアを開けると壊れちゃう。窓を破って入って来られないだけましだけど、もうちょっと女の子らしくしてほしいものだわ。
「来たぜ!」
「きゃっ」
強引に抱き寄せないで。あなたの温もりは好きだけど、痛いのは嫌いなの。
「なんなのよ、いきなり」
「あったかいぜ」
「もう」
人肌が恋しいのね。
「また無理したのね。帽子がボロボロじゃない。縫ってあげるからとりあえず離れなさい」
◆
「マリサー、オチャー」
「さんきゅ」
こうやってあなたの帽子を縫ってあげるのも何度目かしら。
飽きっぽいはずのあなたなのに、私が縫い終わるまでずっと椅子に座って私を眺める。
「……よく飽きないわね」
「忍耐力を付ける特訓をしてるんだ」
なんでそんなにあなたはうれしそうな顔をしているの?
見つめられるのは慣れてないの。冷静なように見えているのかもしれないけれど、本当は平静を装うだけで精一杯なのよ。
「はい、終わり」
「さんきゅ!」
帽子を手渡すときに手と手が触れ合って、私の心臓が鼓動する。
あなたの細い手が硬く張っているのが触れて分かるたびに、うれしい反面心配な気持ちになるの。
無理はしてほしくないから。
「んー」
あなたはわざとらしく大股に窓に寄って、空を眺める。
そしていつものようにこう言うの。
「あー、空が赤いぜ。せっかくだから夕飯をいただいていくとするか」
「図々しいわね」
◆
「とーろろ、とーろろ、たーっぷり、とーろろー」
「黙って食べなさい」
肉じゃが、天ぷら、お寿司に冷奴。
あなたがしきりに食べたがるものだから、和食のレパートリーも相当増えたわ。
ねえ、知ってる? 和食って、あなたが来たときだけなのよ。あなた専用なのよ。
「うまい! この刺身を作ったのはだれだぁっ!」
「黙って食べなさい」
お米粒がついてるわ。指でとってあげるのが私の密かな楽しみなの。
「ところで魚だけど、幻想郷には海が――」
「黙って食べなさい!!」
◆
「月が出てるぜ」
「そうね」
あなたと夜の散歩に出かけたのも、こんな満月の夜だったわね。
少々騒がしかったけど、刺激的でとっても楽しかったわ。
あのときに渡したグリモワールの呪文をあなたが使っているのを見るたびに、私はむずがゆい気持ちになるのよ。
「アリス」
月を背にしたあなたの目は金色に輝いていて。
「泊まってくぜ」
言葉は澄んでまっすぐで。
「……好きになさい」
だから、私はいつも断れない。
◆
「ふぁあ」
「眠いのね」
「眠くない。ちょっとあくびしただけだ」
「お子様は早く寝たらどうかしら?」
「お子様じゃないぜ」
急に手をつかまないで。鋭い目付きで見つめないで。押し倒さないで。
「――証明してやろうか」
強引なのは嫌いなの。嫌いなはずなの。あなたなら構わないかな、と思い始めてる流されやすい私が嫌いなの。
「魔理――」
とん。
「?」
「......」
「……魔理沙?」
「......ZZz」
「ねてる……。もう!」
勝手なんだから。
◆
「んー……」
あなたはよく、昔のことでうなされる。
「やだ……私は……」
「どうして……みんなは……」
「わかって……わかってよう」
最後に出てくる言葉は、決まっていつもひとつ。
「お母さん……」
そう言ってあなたは手探りで何かを探す。
私が近づくと、あなたは私の胸に手を当てて、もぞもぞと顔を胸にうずめてくる。
「お母さんはここよ……」
ウェーブがかかったあなたの髪をなでるたびに、昔の自分を思い出すの。
「お母さん……」
あなたは背中に両手をまわし、私をぎゅっと抱きしめる。
恋しかったのね。
いいのよ。
私があなたのお母さんになってあげる。
だって、あなたを愛してるもの。
◆
「ん……」
なにか、もぞもぞする……?
「アリス……」
「魔理沙? 起きてるの……?」
まだ辺りは暗いのに、あなたは何をしているの?
どうして私の上着がはだけてるの?
「アリス」
「魔理沙」
どうしてあなたは私の上に乗って、息を荒らげているの……?
「どうしてなの、魔理沙……?」
「アリス」
やめて。駄目よ。
澄んだ瞳で私を見つめないで。切ない声で私を求めないで。温かい手で私に触れないで――
「欲しい」
「やめて! 魔理沙……いや……!」
私はあなたのお母さんでよかったのに。
ああ。身体が熱い。
抱きしめないで――
◆
「――行くの?」
「ああ。宝探しにな。お前も来るか?」
私、知ってるの。あなたは本当に望んでいることを主張するときは、わざと素っ気なく言う。
「遠慮しておくわ」
――だから、いじわるしてやるの。
「そっか」
「わかったら、早く野良に帰りなさい」
「んー」
あなたは私になぜか寄ってきて――
「魔理沙……?」
「ん」
私の腰に手をまわしてきゅっと抱きついた。
「ちょっと、魔理沙!」
「悪い。もうちょっとだけ」
やめて。
昨日の夜を想い出して、胸が熱くなるの。
「こうしてると落ち着くんだ」
「……」
「アリス……変な頼みだけど、いいか」
「なに?」
「……あたま、なでてほしい」
どうしてなの、魔理沙?
私はあなたの恋人になったのではなかったの?
恋人だからこそ、私を求めたのではなかったの?
「ありがとう、アリス。行ってくるよ」
「早くしなさい。最近は紅白だけじゃなくて、緑のもしゃしゃりでてるんでしょう」
「ああ!」
飛んでいくあなたの背中をみながら、私は終わった後のことを考える。
あなたは異変がすんだら、いつものように私のもとに帰ってくる。
そのときに私はあなたを誰として迎えればいいの?
母親? 恋人? どちらなの?
母親でもいい。恋人でもいいの。でも、二つ一緒には無理よ。
「魔理沙……」
私が問いただしたらあなたはきっと、寂しそうな目で私を見つめるわ。
そうなると私はそれ以上聞くことができなくなる。
「……ばか」
愛してるわ、魔理沙。
個人的には好きな話だったんで、100点でもいいかなって思ったけど、荒削り感があったので。
この話はもう少し磨けば輝きそうです。だから簡易評価の最高点数で。これからも頑張って下さい。
恋人と母親、両立してるアリスはよく見るけど、考えてみればしんどいよなぁ…。