咲夜「…パーティですか、お嬢様」
レミリア「えぇ。そろそろパチェが(バキューン!)歳だろう?
そのお祝いパーティーを盛大に壮大に執り行うんだ!」
途中で謎の効果音が流れた事に関してはお詫びしたい。
それにしてもこのお嬢様はパーティーが好きだ。
どこぞの鬼は三日に一回宴会開くらしいが、吸血鬼もやはり鬼と同じように大騒ぎが好きなのだろうか。
咲夜「食事はどうにかなりますが、お酒の方は…」
レミリア「そこは大丈夫。この前スキマ妖怪と弾幕ごっこで勝った時に
大量の酒がいる時は言えと言われたからな。
何でもウォッカやアブサンといったアルコール度数の高い物を用意してくれるらしい」
アルコール度数が高いのはよく燃えるらしい。お嬢様燃やされるんじゃないだろうか。
…それにあの八雲紫の事だ、もしかしたら毒でも入っているかもしれない。
一応念のため確認を取る事にする。
咲夜「八雲紫ですか。毒でも入れられるんじゃないんでしょうか」
レミリア「この私を倒す毒などあるものか。
それに、当日は博麗神社でも使われてる対紫専用のスキマ塞ぎを使う。
何かやったら逃がさずその場でとっちめてやる」
進行の遅い毒を使われたらどうするんだろう。
そう思いはしたが、口には出さず「畏まりました」と一言置き
日程や出す量について決める事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
魔理沙「アリスーこっちのも旨いぜ」アリス「明らかに見た目ヤバイけど!?」
霊夢「…これもうアルコールの味しかしないじゃない」
サニーミルク「ははは、またルナチャ転んでるよー」
空「あ、さとりさまーこのワインまだマシですよ!」
早苗「」諏訪子「早苗ェ…」
ヤマメ「地底からの使者、スパイダーm リグル「ちょ、こんなに飲めないって!」
チルノ「萃香、どれだけ飲めるか勝負よ!」萃香「望むところさ!」
パーティー当日、酒の亡者と言っても過言ではない
幻想郷の住人達は予想通りよく集まった。
ざっと見ていつもの妖怪の山の連中、紅白の巫女、山の上の神社の巫女と神、
白黒魔女と人形使い、鬼と氷精に珍しい三人組の妖精や
地底から間欠泉と一緒に湧き出たかのような旧都や地霊殿の妖怪もいた。
八雲の面子もいたのだが、橙とか言う式が早々に倒れてしまい帰ってしまった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
丑三つ時頃。
レミリア「咲夜…そろそろ私は休ませてもらうよ」
咲夜「だっこして運びましょうか」
レミリア「…いや、流石にここでそれをやるのは不味いだろう」
咲夜「ならば普通にお供しますわ」
そう言いつつ若干ふらふらしているお嬢様についていく。
危うく寝室すら素通りしそうだった。付き添いして正解である。
恐らく流石の吸血鬼でもあの濃度にはキツい物があったのだろう。
一方、人間でありメイドの私は無理したくないのでカクテルにしたりして薄めてたのだが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
パーティーというかもうただの宴会かドンちゃん騒ぎは始めたのが遅かったためか
朝が近いという事で渋々帰る妖怪の山や旧都の連中を見送った後も規模は小さくなれど続いた。
日が登って暫くした後。
霊夢「そういえば咲夜、レミリアは?」
咲夜「お嬢様は現在お休みになっております」
霊夢「一つ聞きたい事があるから連れてきてくれないかしら」
咲夜「聞きたいこととは?」
霊夢「残ってる物持って帰って良いのかしら…」
咲夜「………」
ここで突っ込んだらいけない気がする。
最近は神社や寺が一気に二つも増えて博麗神社も大変なんだろう。
前からそうだった気がしないでもないがどうでも良い。
今にも皿に残っている料理と共に飛んで帰りそうな巫女を尻目に
私はお嬢様の寝室へ向かうのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
咲夜「…ん、何かしらこの臭いは」
何か焦げ臭い。
それはお嬢様の部屋に近づけば近づくほど強くなった。
部屋で何か焼いているのだろうか…
そして部屋が見えた辺りで
レミリア「あ゙、あ゙あ゙…く、ぁ゙…」
突然、お嬢様の掠れた悲鳴が聞こえた。
瞬時に時間を止め、部屋に入る。
そこには誰もおらず、開いた窓とベッドから転げ落ちもがき苦しむお嬢様。
それに空の酒瓶が数本。
先ずお嬢様を置き書きと共にパーティー会場の隅で座っていた
パチュリー様の近くにそっと寝かせる。
私ではここまで酷い状態のお嬢様を回復させる事はできない。
次に、屋敷の隅から隅まで見回り今誰がいるかを確認する。
この屋敷にいるのは会場にいる面子とメイド妖精だけのようだ。
そして最後に門前でよく分からない体操をしていたらしい美鈴の元まで行き、
時間を動かす。
美鈴「ジャオオ…!
…あ、咲夜さんどうしたんですか?」
咲夜「美鈴、日の出後に誰か屋敷から出入した?
門からじゃなくお嬢様の部屋や屋敷のどこかの窓からも」
美鈴「えっと、ついさっきまで屋敷の方見ながら朝食を頂いてましたが
日の出前の妖怪の山と旧都の皆様の集団帰り以降ここから出た、又は入った者はいません」
咲夜「そう…」
美鈴「…もしかして、いや、もしかしなくても中で何かあったみたいですね。
念のため妖精にも誰かが外に出てないか聞いてみます」
咲夜「有難う、助かるわ」
もし他の紅魔館の外にいた妖精も誰も出ていないと証言したのなら
…犯人は、まだ中にいる。
パチュリー様に手当されているお嬢様はかなり悲惨な状態だった。
大きな炎で炙られたかのように右半分から頭部に掛けて焦げ付き
無事な部分はなく、上半身全体と右足に至っては原型すら失いかけていた。
吸血鬼は非常に優れた再生を持つ。
しかし、それでも傷が奥に行けば行くほど、大きければ大きい程再生も遅くなる。
そして同時に苦手…弱点のような物も数多く存在する。
例えば炎や太陽、流水に銀製の刃物。
それらは容易く皮膚の奥の骨や臓器まで達し、再生を阻害しつつ躯を蝕む。
今のお嬢様の状態は、まさにそれだった。
咲夜「…お嬢様は、大丈夫でしょうか」
パチュリー「レミィを嘗めない事ね。これくらいならすぐ治るわ…
もっとも、もしもっと進行してた状態だったら危なかったかもしれないけど」
一先ず安心する。
そして私は、会場の隅に集められた残った面子を見る。
残っていたのは
常連の霧雨魔理沙、博麗霊夢、アリス、チルノ、伊吹萃香。
山の上の神社の八坂神奈子、洩矢諏訪子、それと唸りながら倒れてる東風谷早苗。
地霊殿の古明地さとり、霊烏路空。
暫くしてメイド妖精からお嬢様が部屋に入った時刻…
つまり日の出後には誰も紅魔館から出ていないと伝えられた。
やはり、この中に犯人がいるようだ。
…大体目星はついているのだが。
霊夢「パチュリー、ここ一帯に治癒促進の結界張り終わったわよ」
諏訪子「驚威の神様補整つきだよ!」
パチュリー「そう、これでもう火炎瓶投げつけられても大丈夫ね」
神奈子「早苗の奇跡があれば一瞬なのだが…」早苗「…ふがい、ない…」
アリス「言われた通り図書館から吸血鬼の本持ってきたわよ」
魔理沙「血が必要になったら言うんだぜ。直は勘弁だが」
チルノ「動きに無駄があまりにも多いから…」
萃香「だからあれ程格好つけ過ぎるなと…」
咲夜「とりあえずそれはあまり関係ないと思いますわ」
なんだかんだ良いながらも皆お嬢様を心配してくれている。
それを見た後、私が疑う犯人の方を向く。
咲夜「…私の読みでは、霊烏路空、あなたが犯人なのですが」
空「え、…えぇっ!?」
演技なのか素なのか心底驚くような素振りを見せる。
こちらが間違っていたという考えが脳裏をよぎる程。
空「わ、私じゃないよ! 絶対違う!」
咲夜「…さとりさん、この会場の中に犯人はいます。
あなたなら分かるのではないですか?」
さとり「…確かに、私ならば分かるでしょう。
少し、時間を下さい」
そう言うと第三の眼…どこかのゲームのラスボスか妖怪のドンにいそうな
その眼が大きく見開かれ、右へ左へゆっくりと動く。
数分経った後、さとりの顔に次第に焦ると困惑の色が見え始めた。
さとり「………、なんで…………そんなハズは……」
さとり「……咲夜さん、本当にこの中にこの屋敷の主…
レミリア・スカーレットをあんな状態にした犯人はいるのですよね?」
咲夜「ええ、間違いありません」
さとり「………」
この状態は空が本当に犯人だったのか、
それとも犯人が分からないのかのどちらかだろう。
咲夜「そういえばさとりさん、あなたの能力では完全に忘れた事は視れますか?」
さとり「いえ…。心に残っていることしか視れません…けど、そんな……」
恐らく私の言わんとする事が分かったようだ。
霊烏路空は非常に忘れっぽい。曰く、ついさっきまで弾幕ごっこをしていた事を忘れる程らしい。
ならば、お嬢様を焼いた後忘れてしまえばさとりの第三の眼には映らない。
チルノ「横槍入れるけどさ、あたいだって少し物忘れ激しいわよ。
それに、忘却できる術や符もあるんじゃない?」
少し驚いたが、たしかにこの氷精の言う通りだ。私も分かっている。
更に、氷精は続ける。
チルノ「途中で帰った八雲紫。アイツならレミリアの部屋に忍び込んですき放題できるハズよ」
咲夜「八雲紫については博麗神社と同じスキマ封じなる物を張っていますので
恐らく普通に入る事は不可能でしょう」
咲夜「…それに、忘れやすいという事だけで霊烏路空を疑っている訳ではありません。
その理由は、お嬢様の今の状態にあります」
ぐ、ぅぁ…とまだ悲痛な呻き声が聞こえる。
お嬢様…頑張って下さい。
咲夜「吸血鬼の弱点…その中に炎と太陽光があります。
今から行っても分かると思いますが、お嬢様のいた部屋は非常に焦げ臭い」
空「だ、だからって私が犯人なの!
ここには強いお酒もいっぱいあるから誰でも火は使えるじゃない!」
これも言う通りだ。しかし、私は続ける。
咲夜「次に、こちらも確認できますがお嬢様の部屋は酒瓶が置いてはいますが
部屋自体は全く焦げていません」
咲夜「同時に、吸血鬼にとっては炎よりも太陽光の方が害があり
暫く当たっているだけであっさりと皮膚を焦がし骨を溶かす。
勿論、窓は直射日光が入らない方向にあります」
咲夜「当然、酒や術で燃やしたとしても
それは火ないし炎で、決して太陽の光にはなれません。そして…」
空を指差す。ビクッと震え、怯えた目は私を見ている。
咲夜「あなたの能力ならば、限りなく本物に近い太陽を作る事ができる。
大きさも手のひらから上半身程あれば十分光でお嬢様を焼ける。
…霊烏路空、あなたがやったと見て間違いないと思うのですが」
全員、お嬢様に魔法で治療を施しているパチュリー様も空を見ている。
怯え戸惑っている表情でなおもお空は言った。
空「それでも…私はやってない!」
さとりの方を見るが「ごめんなさい…」と謝罪だけが返ってきた。
それを受け空は力なく膝を付き「違う…私じゃない…」と小さく否認だけを続けていた。
彼女が犯人だ、間違いないと思いながらも
どこか、しこりのような物を感じていた。