「さとり様! お願いですから地霊殿に帰ってきてください――!!」
地霊殿に帰るなり、空は大きくため息をついた。
また駄目だった。
「お帰りおくう。どうだった?」
「無理だった。何であんなに頑固なんだろ……」
空の返事を聞き、燐も明らかに落胆していた。
無理もない。さとりが地霊殿を出てから既に三週間だ。心配にならざるを得ないのだろう。それは空も同じことだった。
「さとり様、何で修行なんてするのかね……」
燐のつぶやきに、空も頷く。
言い方は悪いが、さとりはモヤシだ。修行などと到底無理なように思える。妖怪の強さは外見に比例しないもので、つまりさとりも多少の無茶は利くのだが、とはいえ身を案じずにはいられなかった。
「なんだっけ、自分より物凄く強い奴? っていうのが現れたって言ってたけど」
「とは言ってもねぇ……さとり様が勝てないだろう相手なんて今までにもいたし」
鬼がウジャウジャ居る地底を単純な力で纏められるほど、さとりは肉体面で優れていなかった。
だから彼女は、地底を支配するにあたって、腕力よりも外交力を重視した。
自分の力を積極的に利用して、「心が読めるなど気味が悪い、覚などを敵に回したくない」と相手に思わせたわけだが、要はハッタリである。
だから、自分より強い相手が現れたといって修行をするのは、今までの方針にそぐわないのだ。
「あ、おくうにお燐。お姉ちゃん知らない? 居ないんだけど」
ふらりと現れたのはこいしだった。文字通りふらりと現れるのだが、いつものことだ。
お姉ちゃん知らない? という言葉を空は怪訝に思ったが、考えてみれば、こいしが地霊殿に戻ってくるのは一ヶ月ぶりだった。さとりの修行について知らないのも無理はない。
「いや、それが……」
燐が事情を説明する。こいしは聞いているのか聞いていないのかいまいち分からないふうだったが、いつもそうであるので気にかけない。
「修行ねー……あ、もしかしてアレかな」
「知ってるんですか?」
「いや……なんでも、覚がもう一人居たとか」
これには空も燐も仰天した。
覚といえば古明地姉妹なのである。それで長いこと常識として通っていたのだが、それがガラガラと崩れたのだ。驚かざるを得なかった。
口にしたこいし本人はまるで気にしていないようだったが。
「それって……大事なんじゃ?」
「そう? まあビックリではあるけどねー……」
まるで驚いていないように、癖毛を指でいじりながらこいしは言った。
「でも、その人は普通の覚じゃないんだってさ」
「?」
「なんでも私たちとは比べ物にならないくらい強いんだとか」
「それだ……!」
空は思わず叫んでいた。
さとりの修行の目的は、間違いなくその新たな覚だった。
なるほど、相手が同じ種族となれば、意識せざるを得ない。ましてプライドの高いさとりとなれば尚更だろう。
「そ、それで、その覚はどこに居るんですか?」
燐が慌てて問うが、こいしは首を振った。
「いや、そこまでは聞いてないけど。興味もないし……お姉ちゃんだったら知ってるんじゃない?」
「分かりました。……おくう」
「うん」
燐の言葉に、空も頷いた。
さとりの所へ行かなくてはならない。
「そう、聞いたの」
さとりは汗だくだった。髪が額に張り付いている。
何も言わずとも、全てを了解してみせた。
それが彼女の能力だ。二人も慣れたものだ。
「その人はどこに居るのですか?」
「会うつもりなの? せめて何のために会うのか考えてから行動に移しなさい。……いや、私もその人の住処は知らないのだけどね。というか会ったことがないし……」
「へ?」
さとりの返事に、空は気の抜けた返事をする。
無理もない。さとりが件の覚に会っているとばかり思っていたからだ。
「最近地上と交流ができたでしょう? あの巫女が地上のものを色々持ってきたのよ。その中に、その覚にまつわる道具がね」
「地上に?」
なるほどと、二人は納得した。
地上ならば覚がもう一人居たとしても、地底にその噂が伝わってくることは無いわけだ。
もっとも、忌み嫌われた妖怪である覚が地上に居るというのは、それはそれで不思議なのだが。
「……その人について? そうね、覚としては私やこいしより数千万倍優れてるわ。そこまでいくと別種族と言ったほうがいいのかもしれないわね……」
「数千万ッ……!?」
あまりの驚きに、燐は思わず小さく叫んだ。空も自分の耳を疑った。
数千万倍の力量差だなど、規格外もいいところだ。どんな妖怪をも超えるような実力なのではないか?
「その人の肖像画、見てみる? 中々のナイスミドルよ」
「あ、ハイ是非」
さとりは懐から小さな紙切れを取り出して見せた。
「外の世界の写真だそうよ」
「外の世界? その覚は外の世界に居るのですか?」
「ええ。よくそれでやっていけるなと思うのだけど……」
ふむ、と、二人はその写真に写る男をまじまじと見つめた。
強大な妖怪にはとても見えないのだが、しかし、確かにナイスミドルであった。
何より、その写真に書かれた文字が、なるほど彼がさとりより遥かに優れた覚であると物語っていた。
二億四千万の瞳。
そうきたか
どっからそんな発想が出てくるんだよ羨ましい!!
俺も郷さん大好きだけど!!
汗だくのさとり様プリティ(汗だくのさとり様ぺろぺろ)
これはない
でもなんかやられた感がイマイチ
分からないww
8倍くらいの力を持つ覚りの妖怪がいたとか
もってけ百点wwww