Coolier - 新生・東方創想話

守るモノ 2nd

2010/06/30 21:54:25
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 この作品は作品集117「守るモノ 1st」の続きとなっております。より今作品を楽しんでいただくために、まだの方はそちらを先に読まれることをお勧めいたします。
 また、この作品は原作について完璧な知識を持っていない者が書いた駄文です。勝手な設定や、口調が違うといった部分が見受けられます。それでもかまわないという方のみ読み進めてください。


 私は悪夢で目覚めた。辺りはまだ暗く、夜中であるらしい。夢の内容は、酷く嫌な思い出だった。地底にいた覚妖怪のスペルカードを彷彿とさせてくれやがる。だが、陰鬱な気分もすぐに晴れた。目の前にある背中。よほど寝苦しかったのか布団を蹴飛ばし、上裸になっている。その背中を斜めに走る一条の傷跡。これが私に罪の意識と安心感を同時に運んでくれる。「魔法」と言う最強の矛を失い、丸腰の私には魔法の森は恐怖の塊でしかなかった。そんな私を守ってくれる「楯」。私はその背中に縋り付く様にして再び瞼を閉じた。
 悪夢に犯されることなく次に起きた時にはもう寝床に香霖の姿は無かった。寝ぼけ眼を擦りながら彼を探す。
「こーりん?こぉーりーん」
すると彼は今の向こう側、縁側を降りて何やら棒を振っていた。キレはないし、格好もよくはない。ただ、動きは剣術だった。上着をはだけさせ、腰で止めている。また、あの傷跡が目に映る。
「おや、もう起きたのかい?もしかして起こしてしまったかな?」
「そんな事ないぜ。おかげさまでよく眠れたぜ」
そうやって、額の汗を拭う香霖。すぐにある事が浮かんだ。
「香霖、そのままちょっと待ってろ」
洗面台へ走り手ぬぐいを一掴み、そのまま今度は庭先の井戸へ。桶で井戸水を汲んで、手ぬぐいにかける。相変わらずひんやり気持ちいい。それを固く絞って、再び香霖のもとへ。香霖は棒っきれを立てかけて、縁側に座っていた。
「魔理沙、それは?」
「朝から汗かくようなことしやがって、拭いてやるぜ。ほら背中向けろ」
香霖は一瞬困った様な顔をしたが、大人しく背中を向けてくれた。大きくたくましい、無駄な脂肪がないしまった背中に手ぬぐいを宛がう。
「こいつは、気持ちいいな」
「へっ、当たり前だぜ。感謝しな」
「あぁ、全くだ。ありがとう」
そう香霖に言われると、顔が自然と緩んじまう。畜生、ずるいぜ香霖は。気付くと勝手に手が傷跡をなぞっていた。
「まだ、消えないんだな」
「あぁ…」
 暫し沈黙が漂う。これは私のせいなんだ。幼い頃に、妖怪による人さらいに遇い、妖怪の山の洞窟に監禁された。半日もなかったが、恐ろしい妖怪と二人っきりの時間は当時の私には永遠にも感じられた。泣けど叫べど助けは来ない。日が暮れて満月が浮かんだ。もう殺される事しか考えられなかった時、目の前にいた妖怪が一瞬で消えた。正確には真横へ吹き飛んでいただけだったが、代わりに二つの影が私を包んだ。
「大丈夫か、魔理沙!」
「霧雨、怪我はないか!?」
それは当時から実家へ修業に来ていた半妖の青年と、寺子屋の教師の半獣だった。妖怪はまさしく「やっつけられた」が、一瞬の隙をついて私に一本の鎌の様に大きな爪を振るった。目をつぶるより速く、黒い物が私の視界を奪った。そしてすぐに青年は絶叫した。
 そんな懐古をしていたらチリリンと鈴の音が聞こえた。
「おっと、米が炊けた様だ。済まないが魔理沙、見てきてもらえるかい?」
「仕方ないな、んじゃ香霖はさっさと服を着直して座ってろ」
手ぬぐいを香霖に預けて、台所へ。砂時計と鈴を合わせたタイマーを止めて、釜を開ける。申し分ない炊け具合だ。香霖は質素で素朴な朝ごはんが好きなので、ささっと味噌汁を作り、ぬか床から適当に引っつかんで切る。これで用意はおしまい。簡単で健康的だと思う。味噌汁の具が茸なのは私テイストだ。お茶も添えて居間へ運ぶ。
「おまちどおさまだぜ」
「ん、ありがとう」
そういって香霖は文々。新聞をちゃぶ台の端に置いた。
「なんか面白い事は書いてあったか?」
「いや、得に。どうやら君の事も知られてはいないらしい」
確かに見出しには結構どうでもいい事しか書いていない。ネタ切れなんだろうな。朝から必死になって飛び回ってる文の姿が目に浮かぶ。
「さぁ、せっかく魔理沙が作ってくれた朝ごはんだ。冷めないうちに食べてしまおう」
 朝食の話題は今日一日の予定だった。話では月から来た兎がやって来るとか。
「あぁ、鈴仙君は午前中に来る。その間に僕は君の家から必要な物を取って来ようと思っているんだが」
「待てよ。じゃあ何か?私は一人になるのか?」
「いや、そうじゃない。一応鈴仙君が来てから帰るまでの間に全てを終わらせるつもりなんだが…」
「って言うかお前は本人不在の乙女の家に一人で入っていくつもりなのか?」
香霖はそこで動きを止めた。自分に都合の悪い指摘を受けて言い返そうと思案している時の癖だ。そしてたいていはは…
「魔理沙の言う通りだ。それは些かまずい」
こうやって折れる。久しぶりだな、香霖を言い負かしたのは。いつもは霊夢や咲夜なんかの役所だが、こいつは面白いぜ。
「じゃあこうしよう。鈴仙君が帰ったらすぐにお昼にして、一緒に魔理沙の家に荷物を取りに行こう。その後は里に買い出しに行きたいんだが、魔理沙はどうする?」
大まかな流れには同意するが、最後がなぁ…。里に一緒に下りれば実家の連中と顔を合わせる可能性がある。かと言って、ここに一人きりは心細い。
「店はいいのか?」
「悲しいかな、開けていてもいなくても似たようなものだからね」
「わかった、じゃあ一緒に行くぜ」
香霖は何も言わず、笑顔で頷いてくれた。急に気恥ずかしくなる。くそっ、やっぱり香霖はずるいぜ。
「そういえば魔理沙。今日の服はどうするつもりだい?」
「香霖アレ、捨ててないよな?」
「あれ?」
 久しぶりだな、特別な日でもないのにいつもの服以外を着るのは。もう何年もコレは着てないから忘れてるかと思ったが、案外覚えてるものだな。それに、香霖もしっかり準備してくれてたから変な物で代用しなくて済んだぜ。後は髪を結うだけだけど、これは香霖にしてもらおう。
「香霖、ちょっと入って来てくれ」
そう言うと、香霖はゆっくりと襖を開けた。
「ほぅ、これはこれは」
香霖がまじまじと見てくる。スゲー恥ずかしい。久しぶりに和装をしたからってそこまで見なくてもいいじゃないか…。
「去年仕立てたものだが、きちんと着れているな。とても似合っているよ。ただ、惜しむらくは」
ちょっと失礼、と言って香霖が私の胸元に手を伸ばしてきた。ここここ、香霖!私にも心の準備ってもんが
「これでよし。髪も結ってあげようか」
「あ、はい。お願いします」
…馬鹿か私は。あの香霖が、朴念仁でにぶちんな香霖が下心丸出しの行動なんかするか。ただ襟を直しただけだぜ。あー、変な事考えちまったから返事まで変になっちまったぜ。あぁー、恥ずかしい。顔が暑いぜ。香霖に見られない様に俯くしかないな。
「すみませーん。八意製薬でーす」
「おや、もうきた様だ。ちょっと待ってなさい」
兎の声を聞いて、香霖が店の方へ歩いて行く。一瞬見えた横顔が赤かったのは気のせいだろうか?目の前の鏡を見れば綺麗に結い上がっていた。そして、星をあしらった簪も。これは私の物ではない。
「へへへっ」
たまには和装も悪くないな。そんな事を思って鏡を見ていると、部屋に鈴仙が入って来た。私を見るなり一瞬間をおいて「魔理沙さん、ですよね?」と聞いてきやがった。失礼な兎め、もとに戻ったらマスタースパークの刑だぜ。
 鈴仙君を魔理沙の所へ案内し終わると、番頭台に見慣れた紫の衣装が鎮座していた。
「開店にはまだ早いし、商品の納入を頼んだ記憶はないんだが?」
かなり投げやりな口調で対応する。何せ彼女がいていい思いをした試しがない。
「酷い接客ね、これじゃ縁起に『商売をする気があるかわからない』って書かれるわね」
幻想郷の重鎮、八雲紫は相変わらずの妖艶な笑みの下半分を扇子で隠してこちらを向いた。
「こっちはそれなりに忙しいんだがね」
「そうね、可愛い妹分が緊急事態じゃ仕方ないわね」
おかしい。何故、彼女がそれを知っている?冗談でこんな事をしたとすれば許される物ではない。
「まさかとは思うが」
「私の仕業じゃないわよ。ちょっと兎との会話を小耳に挟ませて貰っただけ」
相変わらず趣味が悪い。そして、掴み所もない。僕が彼女を好きになれない最大の理由だ。あくまでビジネスパートナーであると割り切っての付き合いしか出来ない。そうでもなければ、全力で避けるタイプの性格だ。
「彼女の気持ち、分かってるんでしょう?何故そんなに気付かないふりをしているの?」
僕は紫に背を向けた。声をコントロールするのには慣れている。だが、表情には自信が無かった。
「彼女にはもっと幸せになって欲しい。僕なんかと一緒になるよりか、もっと幸せがあるからね」
紫は何も喋らない。ただ、扇子を開閉する音だけが店に響く。
「彼女は、人間なんだ。僕は人間じゃない、妖怪でもない、半端者さ。彼女を幸せにするには長く生き過ぎている。だからといって、彼女が本物の魔法使いになれば僕は先に逝ってしまう。どちらも彼女には苦痛しか与えないんだ」
そこで大きく息を吸った。落ち着く為、冷静になる為、何よりも感情を押し殺す為。
「僕に、魔理沙を幸せにすることなんて、出来ない。出来やしないんだ…」
「そう…」
紫はほとんど何も言わなかった。サクリとスキマが開かれる特有の音がする。
「でもね、店主さん。それは貴方の考えでしかないの。あの娘の事を考えていないとは言わない。だからね、貴方も幸せになりなさい」
振り返ると紫の姿は無かった。僕は立ち尽くした。
「魔理沙の幸せが、僕の幸せさ」
誰にと言う訳でもなく呟いた言葉は虚空に消えた。
「お邪魔するわよ、霖之助さん」
 急に霊夢が入って来てギョッとしてしまった。さっきの言葉を聞かれてはいなかっただろうか?
「どうしたの、目が赤いみたいだけど?」
「え?あぁ。欠伸をね」
「そう…、魔理沙来てない?昨日神社に来る予定だったのに来なくて、家にもいないからここじゃないかと思って」「あぁ、来ているよ。ただ、少々厄介でね」
「?」
 うまく話を反らせた。それに魔理沙の事は霊夢に言っておいた方がいいだろう。何かの異変の予兆かもしれない。霊夢に訳を話しているうちに、鈴仙君と魔理沙が店の方へやって来た。僕を見るなり魔理沙は肩を竦めて首を横に振った。
「すみません、私では力不足の様で…」
鈴仙君はそう言って謝ってくれたが、そもそも畑違いな可能性の方が大きいのだ。後で美味しいお茶を出すとしよう。
「…ちょっと魔理沙。何でそんな恰好してるのよ?」
「何でって、今の私が魔法使いじゃないからだぜ」
「はぁ?」
「まぁまぁ、霊夢は今来た所で何もわからないんだ。鈴仙君の診断を聞くついでに、霊夢にもちゃんと説明してあげよう」
 鈴仙君によると体にこれと言った異常はないらしい。霊夢も呪い等の様子はないとその場で判断した。茸の毒と言うと話でもないらしい。最後には「普段の行いが悪いから罰が当たったのよ」と霊夢に切って捨てられた。一通り話が済んだので、鈴仙君はまだまだ仕事があるのでと言って出て行こうとしたので、お土産に甘いものを渡しておいた。当然、霊夢には無し。贔屓だ何だと宣わっていたが「ツケ」の単語が出ると渋々帰って行った。
 皆帰ってまた二人っきりになった。少し早いお昼も食べた。水筒をだけ入れた大きめの鞄を背負って店を閉める準備をする。魔理沙は土間で慣れない鞋に苦戦している様だった。仕方がないので結んでやるか。屈んだ拍子に腰の天叢雲剣がカチリと鳴る。
「香霖。それ、私から買った剣じゃないか?どうした、そんな物騒なもん持ってどうするつもりだ?」
「僕一人ならまだしも、君がいるからね。持っておいて損はないだろう。ほら結べたよ」
「ん、ありがとな」
鞋の感触を確かめる様に何歩か歩く。
「さぁ行こうか」
「おぅ」
まるで、晴着を着た子供の様に嬉しそうに玄関まで駆け寄って来る。
「香霖、手」
魔理沙が急に手を伸ばして来た。言われるがまま、僕も手を伸ばす。魔理沙と僕の手が繋がる。
「それじゃ私の家に向かって出発進行!」
 あぁ、そうだった。昔もこんな風に送り迎えしていたんだったな。あの頃よりはずっと大人になったが、笑顔は変わらないな。そう思いながら、薄暗い森を歩き始めた。
投稿2本目になります、jazzです。

前作でコメントをしていただいた方、ありがとうございました。つたない文章ですが、続きが出来ました。

本当は2ndの時点でもう少し先まで書くつもりだったのですが、筆がのってボリュームを出しすぎました。
前回は霖之助視点(のつもり)でしたが、今回は魔理沙視点(のつもり)で前半を書いてみました。
この調子で行けば4thで完結できるかと。

誤字・脱字等ありましたら、コメントにてお知らせくださいますようお願いいたします。

※7/2 誤字修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

ここまで読んでいただいた貴方へ最大級の感謝を。
jazz
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コメント



0.530簡易評価
7.80名前が無い程度の能力削除
誤字報告です
後は紙を→後は髪を
次回も楽しみにしていますよ