東方X戦記
第12話「そして私は・・・震える天人(後篇)」
北方勇者帝国の本部の奥深くにある広い部屋。誰も入る事はないそこに彼女がいた。
『・・・・・・』
彼女の名は“紅”かつてZが作り出した絶対神と言われる存在だが、彼女は勇者帝国を納める地位ではない。
現在はこの部屋で半ば監禁される様にここにいるのだ。その理由を知る者は総帥であるキリュウしかいないだろう。
そんな彼女は眼を閉じ、何かを探しているような様子だった。
『・・・・・・やっぱり、狙っている・・・私の魂を狙っている者・・・けど、何だろう・・・知らないのに懐かしい様な感じ・・・。』
恐るべき能力を備えた彼女は分かっていた。知らないのに懐かしい感じのする者が自分の魂を奪おうとする事を。
それもこの世界でも幻想郷でもなく、“全く別の世界”から・・・・・・
だけど、紅はキリュウ達に相談しようとはこれっぽっちも思っていなかった。今は皆が忙しい状況だから。
『私は生きなければならない・・・あの人の為に・・・あの人の夢の為に・・・。』
今は亡きあの人、Zの夢の為にも自分は生きなければならない。そして彼女はある事を思いつく。
自分の能力を使えば、ある程度は時間稼ぎになる事を・・・・・・。
『私の魂を狙う人には彼女達と遊ばせよう・・・。』
勇者帝国と幻想郷の戦いは更に激化しようとしていた。そして舞台は“彼女達”の方へと変わる。
目が覚めるとそこは暗闇だった。だが、自分は死んでいる筈なのに何処からもなく吹く風を感じているのは何故だろう。
「(ここは一体・・・・・・?私は確か・・・・・・)」
辺り一面の暗闇を危なっかしく進みながら彼女・・・衣玖は思案していた。
自分はR島でZが目論んだバトルロワイヤル開始時に自らの命を絶った筈なのだ。
なのに、何故か生きた心地がする。ここは一体、何処なのか?ここが噂のあの世なのか?
「(私は、一体・・・・・・とにかく何も動かずには居られませんね・・・・・・。)」
そう考えながらとぼとぼ歩いていると、突如として空気の変化を感知する。
「(この空気は・・・・・・)っ!?」
そう確信するや否や衣玖は何かにぶつかって倒れる。そして起き上がって呆れつつ言う。
「再開の挨拶にしては随分と痛々しいですね紅美鈴さん・・・・・・。」
「えっ!?」
今、衣玖の目の前にいるのは目が真っ赤の美鈴だった。異変では会った事がなく、宴会位しか面識がない。
どうやら暗闇だからといえ、前を見ずに走ったのだろう。故に衣玖とぶつかったのだ。
「良かった・・・・・・誰も・・・・・・誰もいないと思ったら・・・・・・うっ・・・・・・。」
「美鈴さん?」
「うわぁぁぁぁぁんっ!!」
美鈴は緊張の糸が切れたのか衣玖に抱きついて子供の様に泣きじゃくる。少し胸が苦しいが心情は察し出来る。
自分が死んで、訳の分からない所で1人ぼっち。それは自分でも耐えきれない状況だろう。
「ここは一体どこなのよ・・・・・・気が付いたら辺り真っ暗で・・・・・・。」
「さぁ・・・・・・?ここはもしかしたら地獄の1丁目とかいう所でしょうね・・・・・・。」
「・・・・・・残念ですが外れですね・・・・・・。」
「「っ!?」」
2人が振り向くとそこには自分達の他にもT―Jとの戦いで死んだ者達が。
ルーミア、リグル、スターサファイヤ、ルナチャイルド、リリーホワイト、橙、藍、パルスィ、椛、ルナサ、メルラン、リリカ、幽々子、雛、静葉、稔子、諏訪子、お燐、さとり、こいし、神奈子、メディスン、幽香、魅魔、映姫、萃香、レミリア、フラン・・・・・・
あと3人いないものの、既に全員集合していた。
「お嬢様・・・・・・妹様・・・・・・!」
「悪いわね、中国・・・・・・ドジってしまって・・・・・・。」
「・・・・・・取り敢えず一応、集合しましたが、映姫さん。本当にここは地獄ではないのですか?」
「はい・・・・・・確かに私達は死にましたが、この雰囲気を見る限り、地獄でも極楽ではありません。そしてあの世でもありません。」
「じゃあ、どこなのよ?」
「分かりません・・・・・・。」
ここは地獄でも極楽でもないなら一体、どこなのか・・・・・・一同に疑問が生じ始める時、
「っ!?誰か来る!」
突如、気配を察知したスターが言う。身構える一同。すると・・・・・・
「「・・・・・・人間??」」
やって来たのは小さな少女だった。髪は短い茶髪、いかにも安物っぽい服装で歩いて来た。
そして、衣玖達に近づいて微笑み、言う。
「こんにちは、お姉ちゃん達。やっと来たんだね?」
「やっと?」
その言葉に衣玖達は首を傾げる。即座に藍が少女に話しかける。
「済まないが、聞きたい事がある。ここはどこなんだ?」
「ここ?ここは召喚の洞だよ?あ、お姉ちゃん達はいきなり、召喚されたんだね?知らないのも無理ないか♪」
「「「召喚の洞?」」」
またも奇妙な言葉に衣玖達は首を傾げる。そんな彼女達を見て少女が微笑む。
「知らないなら教えてあげるよ?召喚の洞ってのはね、この世に地獄をもたらす者が現れる時、お姉ちゃん達の様な選ばれた者がこの洞からやって来て~、悪い奴をやっつけてあげるって言う伝説なんだよ。」
「あら、選ばれた者ね・・・・・・もしかしたら私達が悪い者だったりして?妖怪もいるし。」
「おいおい・・・・・・。」
意地悪っぽく言う幽香に呆れる神奈子。しかし、少女は首を振る。
「ううん、そんな事ないよ。だってお姉ちゃん達は皆、いい人なんだもん。」
「・・・・・・。」
そんな少女の言葉を聞きながら衣玖は彼女の空気を読んで、正体を確かめようとした。
しかし、彼女の周りには怪しい雰囲気はなく、どうやら本当にそうかもしれない。
「・・・・・・済みませんが、貴方の村へ案内してくれませんか?」
「うん、いいよ!皆、ついて来てね♪」
かくして、選ばれた者と勘違いされた衣玖一行は少女の案内に付いていく事になった。
一方、こちらは外の世界。今、天空では星蓮船は危機に陥っていた。
何せ、紙一重しかない只の空飛ぶ船は、空を飛んでホーミング弾を発射する武器を装備する機械人形にとって絶好の的だったのだ。
ムラサが必死で避けるよう操縦し、天子達が弾幕で相殺させているものの、状況は一向にして不利な状態だった。
「ちょっ・・・・・・何とかならないの!?」
「どうやら、あの機械人形は城から出て来たな・・・・・・なら、元手を叩けば何とかなるが・・・・・・。」
「ですが、どうやって行くんです!?自殺行為ですよ!」
「・・・・・・」
ムラサの提案に即座に却下する星。そんなやり取りを黙って聞く天子。
こうなったからには・・・・・・
「船長!何とかして空飛ぶ城に近づいて!」
「天子さん!何をする気です!?」
「決まっているんでしょ!あいつを・・・・・・天玖を倒すのよ!・・・・・・私に付いていきたい奴は付いて来なさい!」
「・・・・・・分かりました・・・・・・ナズーリン、聖様を頼みます・・・・・・。」
天子の言葉に険しい顔で星は頷いた。今となっては退く事が出来ない事態なのだという事は自分も分かっていた。しかし・・・・・・
「まずいぞ!総員、衝撃に備えろ!」
ムラサが叫ぶや否や・・・・・・星蓮船はミサイルの雨に当たって、撃沈した・・・・・・
「っ!!」
その光景を鵺は見、絶句した。聖達と一緒に生活していた思い出の場所が、自分にもう一度あるべき場所が一瞬で・・・・・・
「素晴らしい・・・・・・最高のショーだと思いません?」
その様子を鵺が最も嫌っていた天人のクローンである勇者、天玖が上機嫌そうに言う。まるで惨劇を楽しんでいるかの様に。
「・・・・・・おや?ははは、見なさい!星蓮船が塵の様です!!はっはっは・・・・・・!!」
「っ!」
高らかに笑う天玖の声に耐えきれずに・・・・・・鵺は行き成り、天玖に飛び掛かった。
「な、何をするのです!?」
天玖が慌てて鵺を振り払うが、腕にはめているテレキネス装置がない事に気づく。
「ふぬぬ・・・・・・!」
あまりの事態に天玖は地団太踏んだが、すぐに立ち上がろうとする鵺を見てニヤリと笑う。
「・・・・・・!」
「返しなさい、いい子ですから・・・・・・さぁ・・・・・・。」
そう言って近づく天玖に対し、鵺は慌てて逃げ出す。
途中で扉らしき物にぶつかるが、持っているテレキネス装置で何とか開けて逃げ続ける。
「はっはっは・・・・・・何処へ行こうというのです?」
後ろを振り向くとまるで付いて来るかの様に天玖が歩いていた。
「(でも、星蓮船はやられたし、聖達の安否も分からないし、どうすれば・・・・・・)」
そう考えながら、鵺は天玖の追跡から撒こうと必死だった。
キリュウが“練習”を終えた時、亜魅がノックして入って来たので訝しく尋ねると、
「あの・・・・・・チルノさんが妙な方を連れて来たのですが・・・・・・。」
「妙な客?誰じゃ?」
「それが・・・・・・紅の知り合いの闇の巫女と名乗る方ですが・・・・・・。」
「っ!?・・・・・・そ、そんな筈は・・・・・・!」
亜魅の言葉にキリュウは絶句した。紅の知り合い?その言葉に疑問を持つ。
紅はキリュウの後に作られた・・・・・・つまり、知り合いや彼女に付き合いのある者などいる筈がない。
そう・・・・・・彼女に知り合いなぞいる筈は・・・・・・。
「(じゃが、気になる・・・・・・闇の巫女?あの博麗霊夢と同じ巫女なのか?)とにかく、そ奴を・・・・・・。」
「ふぅむ、ここが総帥の部屋か・・・・・・もう少し、最新使用の家具とかはないのか?時代遅れにも程があるぞ。」
「!!?」
突然の声にキリュウは驚いて振り向く。そこには、霊夢と同じ服装をした巫女が背後にいた。
否、顔は霊夢に似ているが、雰囲気がZのデータに出ていた霊夢とは異なっており、脇巫女服も黒い仕様である。
そして自分が気付かない内に自分の背後にいるとは・・・・・・とても危険な感じの少女だ・・・・・・!!
「何者じゃ主は!?いつの間に!?」
「む?貴様が総帥のキリュウだな?」
「そうじゃが・・・・・・?」
「・・・・・・ふぅむ、なかなかのしたたかさだな。我の名は博麗霊牙・・・・・・闇の巫女なり・・・・・・。」
「博麗霊牙・・・・・・?闇の巫女とは・・・・・・?」
その言葉にキリュウは訝しくなる。確か、自分がZに捨てられる前に聞いたキーワードらしきものだ。
「・・・・・・お主は博麗の巫女なのか?」
しかし、その言葉を聞くと霊牙と名乗る巫女は少しだが、怒りを露わにしたかの様な表情を浮かべる。
「我はあんな伝統に縛られる一族と一緒にするな・・・・・・!我は闇の巫女・・・・・・この世に闇をもたらす者・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「キリュウよ・・・・・・我と結束しないか?」
「結束じゃと・・・・・・!?」
「そうだ、我と貴様らが共に闘えば、幻想郷など闇に葬り、外の世界も征服できるのだ。」
「じゃが、主は幻想郷の者では・・・・・・?」
「我はあんな古い故郷など捨てたも同然・・・!我らが欲するのは外の世界の天下だ・・・!!」
「ふむ・・・・・・。」
キリュウは思案した。彼女が何者であれ、正直、幻想郷側に渡したくない。
何せ、勇者の4人がおめおめと負け帰ったのだ。あとの4人も彼女等が向かっていると考えられる。
それに彼女から発する雰囲気はまさに今まで見た者の中では最強に等しかった。そして・・・・・・どこか懐かしさを持っていた。
そう考えた後、キリュウは渋々と言った。
「・・・・・・分かった・・・・・・主が紅とやらの友かどうかは怪しいが、手を組もう・・・・・・。」
「でさぁ、あいつったらいまいち、気が合いそうにないのよねー。」
「へぇ、藤本にも気が合いそうにない奴がいるんだー。」
とある大学の帰り道、藤本という学生が同級生と話している。
話題は、バイト先の後輩の事だ。彼女は大学に入学とすると共にバイトの事も考え、コンビミのアルバイトを希望した。
そして1,2年もしない内に新人が入って来た。眼鏡は掛けていないものの、オタクっぽい感じだが・・・・・・
「何か、同じ事を何度も間違うし、動作は遅いし、あたしが注意してもぶつぶつも文句言っているし、あと、あたしが注意してもちらっとしか目を合わしてくれないんだよ~。」
「まぁ、虫が合わないかもねー。」
『何か、藤本さんてきついし、厳し過ぎるし、癇に障る事を言うからあまり一緒にいたくないです。』
そういう言葉が彼女の脳裏に響く。バイトの帰り道、年上の上司と話しているのを偶然聞いた時の事だ。
あんな言い方しなくても自分はちゃんと正している筈なのに・・・・・・、とムカッと思っていたが文句を言わなかったあの時。
何か、気が合いそうにないな、あの新人・・・・・・。
そう話し合って友達と別れた彼女は少し寄り道がてらに裏道へと抜ける。今日は気分直しにある場所へ向かっていた。
「・・・・・・あった・・・・・・!」
それは奇妙な形をした館だった。噂ではこの館に足を運んだ者達は行方不明になるという曰く付きの場所だった。
「(まさか、幽霊なわけないでしょうね・・・・・・?)」
館の雰囲気に圧倒されながらも少し好奇心が湧いて来たのか彼女は館の扉に手を掛ける。
しかし、いくら押しても引いても扉がなかなか開かないのだ。仕方なく、裏口を探そうとすると・・・・・・。
「・・・・・・!?」
裏の窓を見ると何やら影が映っている。恐る恐る見ると驚くべき事に気づく。
「何・・・・・・これ・・・・・・!?」
彼女が見ているのは明らかに映画に出そうなロボットが様々な武器を作ったり運んだりしていた。
マシンガン、ロケットランチャー、爆破装置、ナイフ等、戦争の武器が作られてはトラックらしき乗り物へ運んで行く。
どうやら、只ならぬ事態だろう。そう直感で感じた彼女は後ろへと後ずさり・・・・・・
「目標、補足・・・・・・悪いな、嬢ちゃん。見られたのなら返す訳にはいかないな・・・・・・。」
ギョッとして振り返ると自分に銃を向けた女性がいた。銃のトリガーに指を掛けて今にも発射しようとする。
「どんな事情があるかは知らないが、我々の秘密を知った者は生かして返す訳にはいかない・・・・・・。」
その言葉を聞いた彼女は動かなかった。いや、恐怖が体を縛り付け動けなかったのだ。そして彼女に死が浮かび上がる。
「(あぁ・・・・・・ここがそんなに恐ろしい所だったなんて知らなかった。これなら、コンビニのバイトの方がまだましだった・・・。)」
そして、館の建っている場所で乾いた音が響き、しばらくして女性が口を開く。
「誰でもいいから、すぐ来てくれ。侵入者の遺体の処理を頼む。」
鵺は走った。テレキネス装置を持って、出口へと向かおうとした。
しかし出口はなかなか見つからず、後ろには天玖が歩いていた。走っているのに対し歩いているだけなのに距離が縮まらない。
「はっはっは・・・・・・。」
天玖が笑いながら歩いている。捕まるのは時間の問題だ。
どうすれば・・・・・・。そう考えている時・・・・・・
「・・・・・・鵺―――---!!」
「っ!?」
その時、声がした。懐かしくはないものの、聞き覚えのある声。あれは・・・・・・
「天人・・・・・・!?」
そう、あの天人(天子)の声だったのだ。しかし、声は聞こえど、姿は見えず。
「鵺!?そんな所にいたの!?」
「!?」
振り向くと壁の穴から天子の顔が見えた。思わず穴に近づく鵺。
「天人!聖達は無事なの!?」
「えぇ、ちょっとはぐれたけど一応は皆、中に入っているわ。さぁ、ちょっと離れて!今、開けるから!」
「・・・・・・嫌・・・・・・!」
「は?」
「あんたなんかと逃げるなんて嫌!聖や星と一緒に逃げたい!」
突然、鵺にそう言われた天子は一瞬、訳が分からなくなった。
「はぁ!?あんた何言っているの!?」
「あんたが私達の所に来てから皆、おかしくなった!そのおかしくなったのはあんたのせい!」
「何を・・・・・・何を馬鹿な事を言っているの!?そもそも、キリュウが幻想郷に侵略しようと・・・・・・Z達が衣玖を・・・・・・!」
「だからって、私達を巻き込む事ない!そんなのだったら貴方1人でやればいい!」
そう鵺が怒鳴って振り返ると、話している事に気付いた天玖が歩調のスペースを速める。
それを見た鵺は穴を通してテレキネス装置を天子のいる所に投げる。
「これで、仇討ちでも何でもして!自分の行動で他人を巻き込まないで!」
「っ!?」
その言葉に天子は絶句した。確かに鵺の言う通りだ。自分は衣玖の仇を取ろうと焦るばかり、星達の気持ちを無視していた。
かつて、退屈紛れに異変を起こしたかつての自分から逃れた筈だった。だが、今もそうかもしれない。
「・・・・・・鵺・・・・・・私は・・・・・・」
「!?」
「鵺!?」
鵺が消えたので天子はその穴を覗くが、見ると天玖の腕が見えて弾幕を放った!
「痛っ!」
弾幕の1つが頬をかすったものの、慌てて回避する天子。そして天玖の声が聞こえる。
「そのテレキネス装置を大事に持って下さい!妖怪の命と引き換えですので!」
そう言い終わったのか天玖の足音が遠ざかる。迷っている暇はなさそうだ。
天子は緋想の剣で壁を壊し、天玖と鵺の後を追う。その表情にはなにかを決心づいた表情だった。
鵺は走った。テレキネス装置はあの天人に渡したし、あとは聖達を探してここを脱出する事だ。
そう思い急いだ瞬間、翼に激痛が走った。後を追った天玖が弾幕を放ったのだ。倒れる鵺。
「立ちなさい、鬼ごっこは終わりましたよ!」
天玖の声が聞こえ、よろよろと立ち上がる鵺。どうやらこの天空城の心臓部らしい。
「終点が玉座代わりのエンジン室とは上出来ではありませんか・・・・・・ここへ来なさい!」
「ここが玉座?ここが何処であれ、貴方の計画もここまでだよ!」
「ほぉ?」
鵺の言葉に天玖が不思議がる。鵺は天玖を睨みつき、続ける。
「聖が言っていた・・・・・・『命は常に平等で、それ以上やそれ以下のものなどない』・・・・・・どんなに怖い武器を使っても、どんなに多くの人形を操っても誰かを縛り付ける事は絶対にできない!例え外の世界でも!」
「成程、尼さんらしい言葉ですね・・・・・・ですが我らは滅びません!全ての生命に欲望がある限り、何度でも現れます!我々、北方勇者帝国こそ全ての大罪の権化だからです!」
そう言い、天玖は鵺に向けてスペルカードを発動する準備をする。
「膝まずきなさい!命乞いをし、天人からテレキネス装置を取り戻すのです!」
「・・・・・・誰があんたの言う事など!」
「そうですか・・・・・・貴方の馬鹿面も心底ウンザリさせます・・・発動!『ハルバードサンダーウェーブ』!!」
天玖がスペルを発動すると、鵺の周りにオレンジ色の雷が生じ、鵺に襲いかかる!
「くっ!?」
「・・・・・・鵺―――――!!」
その時、鵺は何者かに突き飛ばされ、すぐさま起き上がるととてつもない轟音と共に爆発が起こった。
最初は誰だか分らなかったが、煙が晴れて目を凝らし絶句する。
「・・・・・・天人・・・・・・!?」
「・・・・・・全く、世話の焼けるったら、ありゃしない・・・・・・。」
そう言って笑う天子はさっきのスペルで傷つき、今にも倒れそうな状態だった。それ程、天玖のスペルは強力だという証だ。
「何で・・・・・・何で関係ない私を助けたの!?貴方一人で仇討なり・・・・・・!」
「・・・・・・貴方達を巻き込んだ責任は・・・・・・最後まで果たしたいの・・・・・・。」
「え?」
天子の言葉に鵺がキョトンとなる。天子が息を絶え絶え言う。
「確かに貴方の言う通り、私は衣玖の仇を討ちたいばかりに自分勝手に行動していた・・・・・・それが貴方達を巻き込んでしまった・・・・・・御免ね、鵺・・・・・・怖い思いさせてしまって・・・・・・でもこれだけは言いたいの・・・・・・貴方は絶対に守って見せる・・・・・・。」
「天人・・・・・・。」
一方、2人のやり取りを凝視している天玖だったが、攻撃をする素振りを全く見せない。
「(さっきのスペルのチャージが異様に長いですね・・・・・・3分間、待たねばなりません・・・・・・)」
そう、彼女のスペルは強烈な一撃を持つ代わりに再び放つのに数分のチャージが必要なのだ。
故にチャージが完了したらいつでも放てる様に身構えているのである。
「自分のせいで迷惑をかけた者は大勢いるかもしれない・・・・・・私が気付かずに悩んでいる者もいるかもしれない・・・。」
そう、妹紅と言う者も大切な者を失ったばかりに人間としての心が壊れかけていた。その気持ちは痛い程分かる。
けど、自分は決して1人じゃない。それは聖が自分に言った言葉だった。
「だからこそ、今度はもう無茶はしない・・・・・・悪いけど鵺、こうなったからには・・・一緒に頑張ろう。」
「・・・・・・天人・・・・・・。」
その言葉を聞いた鵺は信じられなかったが何だか天子が頼もしく見えた。そう感じて思わず天子を抱きしめる。
抱き合った2人の間から光が漏れているのをすっかりチャージし終わった天玖は気付く事が出来なかった。
「・・・・・・時間です、答えを聞きましょう!」
「くっ・・・・・・!ん?」
天玖に対し何とか身構える天子だったが、離れた際に何かに気づく。見るとそれは・・・・・・。
「これは・・・・・・スペルカード!?しかもこのスペルカード、見た事ない・・・・・・一体・・・・・・。」
「天人・・・・・・。」
「・・・・・・こうなったからには、やるしかない・・・・・・!」
天子が何やら鵺と話した後、何か決意したかの目付きで振り向き、鵺と片手を取り合っている。
「ん・・・・・・?」
その2人にポカンとしている天玖とは逆に天子と鵺はそのスペルを発動する。
「「“夢想緋想斬”!!」」
そう発動すると、天子と天玖の間に光の壁らしき物が現れ、ドスドスと地面に突き刺さる。その光景に愕然とする天玖。
「!まさか・・・・・・紅のデータにあった通りです・・・・・・これこそが伝説の夢想技です!」
「伝説の夢想技・・・?っ!?まさか、これを発動させた天人って・・・・・・!」
「その夢想技の使い手・・・・・・?」
「素晴らしい・・・・・・これさえあれば、あの紅をも葬れる筈です!」
何やら興奮した様子で光の壁に手を伸ばす天玖。しかし、触れようとした瞬間、電撃が走った。
「あにゃ!?・・・・・・どうやって発動させたのですか!?教えなさい、その裏技を!」
「(あにゃ?)よく分からない・・・・・・だけど、あんたがやられるのは分かり切っているのよ!!」
そう言って、飛び上がる天子。緋想の剣に電撃が灯り、それと同時に回転し始める。
「行け―天子――――――!!」
「おりゃぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
鵺の励ましと共に天子が緋想の剣を地面に振り落とし、雷撃を発生させる。そして光の壁を通過し天玖にヒットする。
ピチュチュチュ―――ン!!
「ふみゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「だ、大丈夫?」
「な、何とか・・・・・・。」
力を使い果たしたのか、尻もちをつく天子と不安そうに駆け寄る鵺。あの一撃で何とか凌いだのだ。
天玖さえ倒せばもうあんな危険な武器を使う者はいないだろう。その安堵感も疲労に加わっているのだ。
すると・・・・・・
「ふにゃ~目が~目がぁぁぁぁぁ!!」
「へっ!?」
間抜けそうな声に呆然とする天子。振り向くと天玖が目を押さえてウロウロしている。足元には壊れたバイザーが。
どうやら天玖は酷いド近眼らしい。
「うにゃ、目が、目が・・・・・・。」
「・・・・・・だから何で猫みたいな声を出すんだよ!」(ビュン!ドーン!)
「にゃ~~~~~~~~!!」
思わず突っ込んで残る力で彷徨っている天玖にぶつける天子。その時、天玖と目が合ってしまい・・・・・・。
「っ!!」
「?」
「・・・・・・だははははははははははは!!何!?何よその目!?ぶはははは!」
天玖を見て大爆笑する天子。それも無理はない。
天玖の目つきは天子に似ているが、目が猫の様な瞳をしていたのだ!天子にとっては笑いものである。
「くっ・・・・・・見てはいけないものを見てしまった様ですね・・・・・・ん?」
赤面して天子を睨む天玖だったが突如、部屋全体が揺れ出す。
「地震・・・・・・?」
「いや、ここ浮いているって。」
「ま、まさか・・・・・・!」
不思議がる天子と鵺に対し天玖は真っ青になり、振り向く。そこには火花を散らしている機械類があった・・・・・・。
「にゅふっ!?何ていう事を・・・さっきのスペルでこの城を維持していたエンジンが全てオーバーヒートしてしまいました!」
「って事はどうなるの?」
「・・・・・・落ちます。」
「はぁっ!!??」
「えぇっ!!??」
「ま、まぁこの要塞がもう使えないのは仕方ありません・・・・・・ですが、もっといい物・・・・・・伝説夢想技の情報を手に入れましたからいいでしょう・・・・・・天子、それに妖怪・鵺。紅を倒す機会があったらまた会いましょう!」
そう言ってテレポート装置を取り出し、天玖は瞬間移動した。
「あっ逃げた!?」
「天人、どうする?」
「・・・・・・面舵、逃げろ~!」
かくして、恐ろしい武器を搭載した城は人気のない海へと落ち、炎上した。その様子を運良く脱出した聖達が見ていた。
「まだ、鵺達はいないのでしょうか?」
「そ、それが、何処を探しても・・・・・・ん?」
聖の不安な声に答えようとした星は何やらこちらに近づいて来るものを発見する。機械人形はすでに落ちたが・・・・・・
「あれは・・・・・・っ!?聖様、鵺です!鵺と天子さんがこちらへ来ます!」
「!良かった・・・・・・。」
星の報告に聖は胸を撫で下ろす。
一方、天子と鵺は真っすぐ聖達の方へと向かっていた。すると、鵺が口を開く。
「・・・・・・あの・・・・・・。」
「ん?」
「さっきは御免・・・・・・それと・・・・・・ありがとう・・・・・・天子・・・・・・。」
「・・・・・・まぁ礼ならいらないわ。私は守りたい者を守りたいから戦っているから・・・・・・ね?」
「守りたい者・・・・・・。」
それを聞いて鵺は赤面して俯く。しかし、どこか嬉しそうだった。
部屋全体に漂う煙と良い匂い。そして何かを揚げる音と共に彼女は何かを料理していた。
すると、鋭い鳴き声と共に1羽の鴉が飛び込んで来たので彼女は一時中断して鴉の鳴き声を聞く。
「・・・・・・あらまぁ、大変。天玖もやられちゃったの?どうしましょ~?」
変にノンビリした口調で言う彼女に鴉はまだ続けて鳴く。
「あら?こっちにも幻想郷の方が来るの?数は何人?1人?あらまぁ、相当のつわものさんね~歓迎しなくちゃ~。」
他の勇者とは違う雰囲気で鴉に何かを差し出す。見るとそれは鳥の足を揚げたものだった。
「御苦労様♪食べる?私が自分流に作った新型フライドチキンよ♪」
そう言って、彼女・・・勇者8号はニッコリと微笑んだ。
続く
次回:「只1人、勇者8号の拠点へ向かう妖夢。そんな彼女を待ち構えるのは何故かフライドチキンを焼いている勇者8号だった“自分を倒したらキリュウの居場所を教える”と言う条件で戦う妖夢だが、『御免ね、妖夢ちゃん・・・私にも守りたい物やこの世の中を変えたい事を手放せないの・・・』性格とは裏腹に強烈な一撃を誇る8号に妖夢の生死は如何に!?次回、『一人ぼっちのデュエット』!」
キャラ紹介
「天空勇者・天玖」
クローン勇者5号。常に丁寧だが、内心は恐るべき知識を持ち、時には平気で仲間を裏切る。元は天子と衣玖のDNAらしい。
制作された時のバグかド近眼の猫目であり、バイザーを付けないと見えない。ついでに猫語らしき言葉を言ったりする時も。
スペルは勇者の中でもトップ3の威力を持っている反面、チャージに時間が掛ってしまうのが弱点。
何やら企んでいる様で、幻想郷の者を使って紅を消そうと考えている模様。人間を塵としか見ていない冷酷非道な方。
第12話「そして私は・・・震える天人(後篇)」
北方勇者帝国の本部の奥深くにある広い部屋。誰も入る事はないそこに彼女がいた。
『・・・・・・』
彼女の名は“紅”かつてZが作り出した絶対神と言われる存在だが、彼女は勇者帝国を納める地位ではない。
現在はこの部屋で半ば監禁される様にここにいるのだ。その理由を知る者は総帥であるキリュウしかいないだろう。
そんな彼女は眼を閉じ、何かを探しているような様子だった。
『・・・・・・やっぱり、狙っている・・・私の魂を狙っている者・・・けど、何だろう・・・知らないのに懐かしい様な感じ・・・。』
恐るべき能力を備えた彼女は分かっていた。知らないのに懐かしい感じのする者が自分の魂を奪おうとする事を。
それもこの世界でも幻想郷でもなく、“全く別の世界”から・・・・・・
だけど、紅はキリュウ達に相談しようとはこれっぽっちも思っていなかった。今は皆が忙しい状況だから。
『私は生きなければならない・・・あの人の為に・・・あの人の夢の為に・・・。』
今は亡きあの人、Zの夢の為にも自分は生きなければならない。そして彼女はある事を思いつく。
自分の能力を使えば、ある程度は時間稼ぎになる事を・・・・・・。
『私の魂を狙う人には彼女達と遊ばせよう・・・。』
勇者帝国と幻想郷の戦いは更に激化しようとしていた。そして舞台は“彼女達”の方へと変わる。
目が覚めるとそこは暗闇だった。だが、自分は死んでいる筈なのに何処からもなく吹く風を感じているのは何故だろう。
「(ここは一体・・・・・・?私は確か・・・・・・)」
辺り一面の暗闇を危なっかしく進みながら彼女・・・衣玖は思案していた。
自分はR島でZが目論んだバトルロワイヤル開始時に自らの命を絶った筈なのだ。
なのに、何故か生きた心地がする。ここは一体、何処なのか?ここが噂のあの世なのか?
「(私は、一体・・・・・・とにかく何も動かずには居られませんね・・・・・・。)」
そう考えながらとぼとぼ歩いていると、突如として空気の変化を感知する。
「(この空気は・・・・・・)っ!?」
そう確信するや否や衣玖は何かにぶつかって倒れる。そして起き上がって呆れつつ言う。
「再開の挨拶にしては随分と痛々しいですね紅美鈴さん・・・・・・。」
「えっ!?」
今、衣玖の目の前にいるのは目が真っ赤の美鈴だった。異変では会った事がなく、宴会位しか面識がない。
どうやら暗闇だからといえ、前を見ずに走ったのだろう。故に衣玖とぶつかったのだ。
「良かった・・・・・・誰も・・・・・・誰もいないと思ったら・・・・・・うっ・・・・・・。」
「美鈴さん?」
「うわぁぁぁぁぁんっ!!」
美鈴は緊張の糸が切れたのか衣玖に抱きついて子供の様に泣きじゃくる。少し胸が苦しいが心情は察し出来る。
自分が死んで、訳の分からない所で1人ぼっち。それは自分でも耐えきれない状況だろう。
「ここは一体どこなのよ・・・・・・気が付いたら辺り真っ暗で・・・・・・。」
「さぁ・・・・・・?ここはもしかしたら地獄の1丁目とかいう所でしょうね・・・・・・。」
「・・・・・・残念ですが外れですね・・・・・・。」
「「っ!?」」
2人が振り向くとそこには自分達の他にもT―Jとの戦いで死んだ者達が。
ルーミア、リグル、スターサファイヤ、ルナチャイルド、リリーホワイト、橙、藍、パルスィ、椛、ルナサ、メルラン、リリカ、幽々子、雛、静葉、稔子、諏訪子、お燐、さとり、こいし、神奈子、メディスン、幽香、魅魔、映姫、萃香、レミリア、フラン・・・・・・
あと3人いないものの、既に全員集合していた。
「お嬢様・・・・・・妹様・・・・・・!」
「悪いわね、中国・・・・・・ドジってしまって・・・・・・。」
「・・・・・・取り敢えず一応、集合しましたが、映姫さん。本当にここは地獄ではないのですか?」
「はい・・・・・・確かに私達は死にましたが、この雰囲気を見る限り、地獄でも極楽ではありません。そしてあの世でもありません。」
「じゃあ、どこなのよ?」
「分かりません・・・・・・。」
ここは地獄でも極楽でもないなら一体、どこなのか・・・・・・一同に疑問が生じ始める時、
「っ!?誰か来る!」
突如、気配を察知したスターが言う。身構える一同。すると・・・・・・
「「・・・・・・人間??」」
やって来たのは小さな少女だった。髪は短い茶髪、いかにも安物っぽい服装で歩いて来た。
そして、衣玖達に近づいて微笑み、言う。
「こんにちは、お姉ちゃん達。やっと来たんだね?」
「やっと?」
その言葉に衣玖達は首を傾げる。即座に藍が少女に話しかける。
「済まないが、聞きたい事がある。ここはどこなんだ?」
「ここ?ここは召喚の洞だよ?あ、お姉ちゃん達はいきなり、召喚されたんだね?知らないのも無理ないか♪」
「「「召喚の洞?」」」
またも奇妙な言葉に衣玖達は首を傾げる。そんな彼女達を見て少女が微笑む。
「知らないなら教えてあげるよ?召喚の洞ってのはね、この世に地獄をもたらす者が現れる時、お姉ちゃん達の様な選ばれた者がこの洞からやって来て~、悪い奴をやっつけてあげるって言う伝説なんだよ。」
「あら、選ばれた者ね・・・・・・もしかしたら私達が悪い者だったりして?妖怪もいるし。」
「おいおい・・・・・・。」
意地悪っぽく言う幽香に呆れる神奈子。しかし、少女は首を振る。
「ううん、そんな事ないよ。だってお姉ちゃん達は皆、いい人なんだもん。」
「・・・・・・。」
そんな少女の言葉を聞きながら衣玖は彼女の空気を読んで、正体を確かめようとした。
しかし、彼女の周りには怪しい雰囲気はなく、どうやら本当にそうかもしれない。
「・・・・・・済みませんが、貴方の村へ案内してくれませんか?」
「うん、いいよ!皆、ついて来てね♪」
かくして、選ばれた者と勘違いされた衣玖一行は少女の案内に付いていく事になった。
一方、こちらは外の世界。今、天空では星蓮船は危機に陥っていた。
何せ、紙一重しかない只の空飛ぶ船は、空を飛んでホーミング弾を発射する武器を装備する機械人形にとって絶好の的だったのだ。
ムラサが必死で避けるよう操縦し、天子達が弾幕で相殺させているものの、状況は一向にして不利な状態だった。
「ちょっ・・・・・・何とかならないの!?」
「どうやら、あの機械人形は城から出て来たな・・・・・・なら、元手を叩けば何とかなるが・・・・・・。」
「ですが、どうやって行くんです!?自殺行為ですよ!」
「・・・・・・」
ムラサの提案に即座に却下する星。そんなやり取りを黙って聞く天子。
こうなったからには・・・・・・
「船長!何とかして空飛ぶ城に近づいて!」
「天子さん!何をする気です!?」
「決まっているんでしょ!あいつを・・・・・・天玖を倒すのよ!・・・・・・私に付いていきたい奴は付いて来なさい!」
「・・・・・・分かりました・・・・・・ナズーリン、聖様を頼みます・・・・・・。」
天子の言葉に険しい顔で星は頷いた。今となっては退く事が出来ない事態なのだという事は自分も分かっていた。しかし・・・・・・
「まずいぞ!総員、衝撃に備えろ!」
ムラサが叫ぶや否や・・・・・・星蓮船はミサイルの雨に当たって、撃沈した・・・・・・
「っ!!」
その光景を鵺は見、絶句した。聖達と一緒に生活していた思い出の場所が、自分にもう一度あるべき場所が一瞬で・・・・・・
「素晴らしい・・・・・・最高のショーだと思いません?」
その様子を鵺が最も嫌っていた天人のクローンである勇者、天玖が上機嫌そうに言う。まるで惨劇を楽しんでいるかの様に。
「・・・・・・おや?ははは、見なさい!星蓮船が塵の様です!!はっはっは・・・・・・!!」
「っ!」
高らかに笑う天玖の声に耐えきれずに・・・・・・鵺は行き成り、天玖に飛び掛かった。
「な、何をするのです!?」
天玖が慌てて鵺を振り払うが、腕にはめているテレキネス装置がない事に気づく。
「ふぬぬ・・・・・・!」
あまりの事態に天玖は地団太踏んだが、すぐに立ち上がろうとする鵺を見てニヤリと笑う。
「・・・・・・!」
「返しなさい、いい子ですから・・・・・・さぁ・・・・・・。」
そう言って近づく天玖に対し、鵺は慌てて逃げ出す。
途中で扉らしき物にぶつかるが、持っているテレキネス装置で何とか開けて逃げ続ける。
「はっはっは・・・・・・何処へ行こうというのです?」
後ろを振り向くとまるで付いて来るかの様に天玖が歩いていた。
「(でも、星蓮船はやられたし、聖達の安否も分からないし、どうすれば・・・・・・)」
そう考えながら、鵺は天玖の追跡から撒こうと必死だった。
キリュウが“練習”を終えた時、亜魅がノックして入って来たので訝しく尋ねると、
「あの・・・・・・チルノさんが妙な方を連れて来たのですが・・・・・・。」
「妙な客?誰じゃ?」
「それが・・・・・・紅の知り合いの闇の巫女と名乗る方ですが・・・・・・。」
「っ!?・・・・・・そ、そんな筈は・・・・・・!」
亜魅の言葉にキリュウは絶句した。紅の知り合い?その言葉に疑問を持つ。
紅はキリュウの後に作られた・・・・・・つまり、知り合いや彼女に付き合いのある者などいる筈がない。
そう・・・・・・彼女に知り合いなぞいる筈は・・・・・・。
「(じゃが、気になる・・・・・・闇の巫女?あの博麗霊夢と同じ巫女なのか?)とにかく、そ奴を・・・・・・。」
「ふぅむ、ここが総帥の部屋か・・・・・・もう少し、最新使用の家具とかはないのか?時代遅れにも程があるぞ。」
「!!?」
突然の声にキリュウは驚いて振り向く。そこには、霊夢と同じ服装をした巫女が背後にいた。
否、顔は霊夢に似ているが、雰囲気がZのデータに出ていた霊夢とは異なっており、脇巫女服も黒い仕様である。
そして自分が気付かない内に自分の背後にいるとは・・・・・・とても危険な感じの少女だ・・・・・・!!
「何者じゃ主は!?いつの間に!?」
「む?貴様が総帥のキリュウだな?」
「そうじゃが・・・・・・?」
「・・・・・・ふぅむ、なかなかのしたたかさだな。我の名は博麗霊牙・・・・・・闇の巫女なり・・・・・・。」
「博麗霊牙・・・・・・?闇の巫女とは・・・・・・?」
その言葉にキリュウは訝しくなる。確か、自分がZに捨てられる前に聞いたキーワードらしきものだ。
「・・・・・・お主は博麗の巫女なのか?」
しかし、その言葉を聞くと霊牙と名乗る巫女は少しだが、怒りを露わにしたかの様な表情を浮かべる。
「我はあんな伝統に縛られる一族と一緒にするな・・・・・・!我は闇の巫女・・・・・・この世に闇をもたらす者・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「キリュウよ・・・・・・我と結束しないか?」
「結束じゃと・・・・・・!?」
「そうだ、我と貴様らが共に闘えば、幻想郷など闇に葬り、外の世界も征服できるのだ。」
「じゃが、主は幻想郷の者では・・・・・・?」
「我はあんな古い故郷など捨てたも同然・・・!我らが欲するのは外の世界の天下だ・・・!!」
「ふむ・・・・・・。」
キリュウは思案した。彼女が何者であれ、正直、幻想郷側に渡したくない。
何せ、勇者の4人がおめおめと負け帰ったのだ。あとの4人も彼女等が向かっていると考えられる。
それに彼女から発する雰囲気はまさに今まで見た者の中では最強に等しかった。そして・・・・・・どこか懐かしさを持っていた。
そう考えた後、キリュウは渋々と言った。
「・・・・・・分かった・・・・・・主が紅とやらの友かどうかは怪しいが、手を組もう・・・・・・。」
「でさぁ、あいつったらいまいち、気が合いそうにないのよねー。」
「へぇ、藤本にも気が合いそうにない奴がいるんだー。」
とある大学の帰り道、藤本という学生が同級生と話している。
話題は、バイト先の後輩の事だ。彼女は大学に入学とすると共にバイトの事も考え、コンビミのアルバイトを希望した。
そして1,2年もしない内に新人が入って来た。眼鏡は掛けていないものの、オタクっぽい感じだが・・・・・・
「何か、同じ事を何度も間違うし、動作は遅いし、あたしが注意してもぶつぶつも文句言っているし、あと、あたしが注意してもちらっとしか目を合わしてくれないんだよ~。」
「まぁ、虫が合わないかもねー。」
『何か、藤本さんてきついし、厳し過ぎるし、癇に障る事を言うからあまり一緒にいたくないです。』
そういう言葉が彼女の脳裏に響く。バイトの帰り道、年上の上司と話しているのを偶然聞いた時の事だ。
あんな言い方しなくても自分はちゃんと正している筈なのに・・・・・・、とムカッと思っていたが文句を言わなかったあの時。
何か、気が合いそうにないな、あの新人・・・・・・。
そう話し合って友達と別れた彼女は少し寄り道がてらに裏道へと抜ける。今日は気分直しにある場所へ向かっていた。
「・・・・・・あった・・・・・・!」
それは奇妙な形をした館だった。噂ではこの館に足を運んだ者達は行方不明になるという曰く付きの場所だった。
「(まさか、幽霊なわけないでしょうね・・・・・・?)」
館の雰囲気に圧倒されながらも少し好奇心が湧いて来たのか彼女は館の扉に手を掛ける。
しかし、いくら押しても引いても扉がなかなか開かないのだ。仕方なく、裏口を探そうとすると・・・・・・。
「・・・・・・!?」
裏の窓を見ると何やら影が映っている。恐る恐る見ると驚くべき事に気づく。
「何・・・・・・これ・・・・・・!?」
彼女が見ているのは明らかに映画に出そうなロボットが様々な武器を作ったり運んだりしていた。
マシンガン、ロケットランチャー、爆破装置、ナイフ等、戦争の武器が作られてはトラックらしき乗り物へ運んで行く。
どうやら、只ならぬ事態だろう。そう直感で感じた彼女は後ろへと後ずさり・・・・・・
「目標、補足・・・・・・悪いな、嬢ちゃん。見られたのなら返す訳にはいかないな・・・・・・。」
ギョッとして振り返ると自分に銃を向けた女性がいた。銃のトリガーに指を掛けて今にも発射しようとする。
「どんな事情があるかは知らないが、我々の秘密を知った者は生かして返す訳にはいかない・・・・・・。」
その言葉を聞いた彼女は動かなかった。いや、恐怖が体を縛り付け動けなかったのだ。そして彼女に死が浮かび上がる。
「(あぁ・・・・・・ここがそんなに恐ろしい所だったなんて知らなかった。これなら、コンビニのバイトの方がまだましだった・・・。)」
そして、館の建っている場所で乾いた音が響き、しばらくして女性が口を開く。
「誰でもいいから、すぐ来てくれ。侵入者の遺体の処理を頼む。」
鵺は走った。テレキネス装置を持って、出口へと向かおうとした。
しかし出口はなかなか見つからず、後ろには天玖が歩いていた。走っているのに対し歩いているだけなのに距離が縮まらない。
「はっはっは・・・・・・。」
天玖が笑いながら歩いている。捕まるのは時間の問題だ。
どうすれば・・・・・・。そう考えている時・・・・・・
「・・・・・・鵺―――---!!」
「っ!?」
その時、声がした。懐かしくはないものの、聞き覚えのある声。あれは・・・・・・
「天人・・・・・・!?」
そう、あの天人(天子)の声だったのだ。しかし、声は聞こえど、姿は見えず。
「鵺!?そんな所にいたの!?」
「!?」
振り向くと壁の穴から天子の顔が見えた。思わず穴に近づく鵺。
「天人!聖達は無事なの!?」
「えぇ、ちょっとはぐれたけど一応は皆、中に入っているわ。さぁ、ちょっと離れて!今、開けるから!」
「・・・・・・嫌・・・・・・!」
「は?」
「あんたなんかと逃げるなんて嫌!聖や星と一緒に逃げたい!」
突然、鵺にそう言われた天子は一瞬、訳が分からなくなった。
「はぁ!?あんた何言っているの!?」
「あんたが私達の所に来てから皆、おかしくなった!そのおかしくなったのはあんたのせい!」
「何を・・・・・・何を馬鹿な事を言っているの!?そもそも、キリュウが幻想郷に侵略しようと・・・・・・Z達が衣玖を・・・・・・!」
「だからって、私達を巻き込む事ない!そんなのだったら貴方1人でやればいい!」
そう鵺が怒鳴って振り返ると、話している事に気付いた天玖が歩調のスペースを速める。
それを見た鵺は穴を通してテレキネス装置を天子のいる所に投げる。
「これで、仇討ちでも何でもして!自分の行動で他人を巻き込まないで!」
「っ!?」
その言葉に天子は絶句した。確かに鵺の言う通りだ。自分は衣玖の仇を取ろうと焦るばかり、星達の気持ちを無視していた。
かつて、退屈紛れに異変を起こしたかつての自分から逃れた筈だった。だが、今もそうかもしれない。
「・・・・・・鵺・・・・・・私は・・・・・・」
「!?」
「鵺!?」
鵺が消えたので天子はその穴を覗くが、見ると天玖の腕が見えて弾幕を放った!
「痛っ!」
弾幕の1つが頬をかすったものの、慌てて回避する天子。そして天玖の声が聞こえる。
「そのテレキネス装置を大事に持って下さい!妖怪の命と引き換えですので!」
そう言い終わったのか天玖の足音が遠ざかる。迷っている暇はなさそうだ。
天子は緋想の剣で壁を壊し、天玖と鵺の後を追う。その表情にはなにかを決心づいた表情だった。
鵺は走った。テレキネス装置はあの天人に渡したし、あとは聖達を探してここを脱出する事だ。
そう思い急いだ瞬間、翼に激痛が走った。後を追った天玖が弾幕を放ったのだ。倒れる鵺。
「立ちなさい、鬼ごっこは終わりましたよ!」
天玖の声が聞こえ、よろよろと立ち上がる鵺。どうやらこの天空城の心臓部らしい。
「終点が玉座代わりのエンジン室とは上出来ではありませんか・・・・・・ここへ来なさい!」
「ここが玉座?ここが何処であれ、貴方の計画もここまでだよ!」
「ほぉ?」
鵺の言葉に天玖が不思議がる。鵺は天玖を睨みつき、続ける。
「聖が言っていた・・・・・・『命は常に平等で、それ以上やそれ以下のものなどない』・・・・・・どんなに怖い武器を使っても、どんなに多くの人形を操っても誰かを縛り付ける事は絶対にできない!例え外の世界でも!」
「成程、尼さんらしい言葉ですね・・・・・・ですが我らは滅びません!全ての生命に欲望がある限り、何度でも現れます!我々、北方勇者帝国こそ全ての大罪の権化だからです!」
そう言い、天玖は鵺に向けてスペルカードを発動する準備をする。
「膝まずきなさい!命乞いをし、天人からテレキネス装置を取り戻すのです!」
「・・・・・・誰があんたの言う事など!」
「そうですか・・・・・・貴方の馬鹿面も心底ウンザリさせます・・・発動!『ハルバードサンダーウェーブ』!!」
天玖がスペルを発動すると、鵺の周りにオレンジ色の雷が生じ、鵺に襲いかかる!
「くっ!?」
「・・・・・・鵺―――――!!」
その時、鵺は何者かに突き飛ばされ、すぐさま起き上がるととてつもない轟音と共に爆発が起こった。
最初は誰だか分らなかったが、煙が晴れて目を凝らし絶句する。
「・・・・・・天人・・・・・・!?」
「・・・・・・全く、世話の焼けるったら、ありゃしない・・・・・・。」
そう言って笑う天子はさっきのスペルで傷つき、今にも倒れそうな状態だった。それ程、天玖のスペルは強力だという証だ。
「何で・・・・・・何で関係ない私を助けたの!?貴方一人で仇討なり・・・・・・!」
「・・・・・・貴方達を巻き込んだ責任は・・・・・・最後まで果たしたいの・・・・・・。」
「え?」
天子の言葉に鵺がキョトンとなる。天子が息を絶え絶え言う。
「確かに貴方の言う通り、私は衣玖の仇を討ちたいばかりに自分勝手に行動していた・・・・・・それが貴方達を巻き込んでしまった・・・・・・御免ね、鵺・・・・・・怖い思いさせてしまって・・・・・・でもこれだけは言いたいの・・・・・・貴方は絶対に守って見せる・・・・・・。」
「天人・・・・・・。」
一方、2人のやり取りを凝視している天玖だったが、攻撃をする素振りを全く見せない。
「(さっきのスペルのチャージが異様に長いですね・・・・・・3分間、待たねばなりません・・・・・・)」
そう、彼女のスペルは強烈な一撃を持つ代わりに再び放つのに数分のチャージが必要なのだ。
故にチャージが完了したらいつでも放てる様に身構えているのである。
「自分のせいで迷惑をかけた者は大勢いるかもしれない・・・・・・私が気付かずに悩んでいる者もいるかもしれない・・・。」
そう、妹紅と言う者も大切な者を失ったばかりに人間としての心が壊れかけていた。その気持ちは痛い程分かる。
けど、自分は決して1人じゃない。それは聖が自分に言った言葉だった。
「だからこそ、今度はもう無茶はしない・・・・・・悪いけど鵺、こうなったからには・・・一緒に頑張ろう。」
「・・・・・・天人・・・・・・。」
その言葉を聞いた鵺は信じられなかったが何だか天子が頼もしく見えた。そう感じて思わず天子を抱きしめる。
抱き合った2人の間から光が漏れているのをすっかりチャージし終わった天玖は気付く事が出来なかった。
「・・・・・・時間です、答えを聞きましょう!」
「くっ・・・・・・!ん?」
天玖に対し何とか身構える天子だったが、離れた際に何かに気づく。見るとそれは・・・・・・。
「これは・・・・・・スペルカード!?しかもこのスペルカード、見た事ない・・・・・・一体・・・・・・。」
「天人・・・・・・。」
「・・・・・・こうなったからには、やるしかない・・・・・・!」
天子が何やら鵺と話した後、何か決意したかの目付きで振り向き、鵺と片手を取り合っている。
「ん・・・・・・?」
その2人にポカンとしている天玖とは逆に天子と鵺はそのスペルを発動する。
「「“夢想緋想斬”!!」」
そう発動すると、天子と天玖の間に光の壁らしき物が現れ、ドスドスと地面に突き刺さる。その光景に愕然とする天玖。
「!まさか・・・・・・紅のデータにあった通りです・・・・・・これこそが伝説の夢想技です!」
「伝説の夢想技・・・?っ!?まさか、これを発動させた天人って・・・・・・!」
「その夢想技の使い手・・・・・・?」
「素晴らしい・・・・・・これさえあれば、あの紅をも葬れる筈です!」
何やら興奮した様子で光の壁に手を伸ばす天玖。しかし、触れようとした瞬間、電撃が走った。
「あにゃ!?・・・・・・どうやって発動させたのですか!?教えなさい、その裏技を!」
「(あにゃ?)よく分からない・・・・・・だけど、あんたがやられるのは分かり切っているのよ!!」
そう言って、飛び上がる天子。緋想の剣に電撃が灯り、それと同時に回転し始める。
「行け―天子――――――!!」
「おりゃぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
鵺の励ましと共に天子が緋想の剣を地面に振り落とし、雷撃を発生させる。そして光の壁を通過し天玖にヒットする。
ピチュチュチュ―――ン!!
「ふみゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「だ、大丈夫?」
「な、何とか・・・・・・。」
力を使い果たしたのか、尻もちをつく天子と不安そうに駆け寄る鵺。あの一撃で何とか凌いだのだ。
天玖さえ倒せばもうあんな危険な武器を使う者はいないだろう。その安堵感も疲労に加わっているのだ。
すると・・・・・・
「ふにゃ~目が~目がぁぁぁぁぁ!!」
「へっ!?」
間抜けそうな声に呆然とする天子。振り向くと天玖が目を押さえてウロウロしている。足元には壊れたバイザーが。
どうやら天玖は酷いド近眼らしい。
「うにゃ、目が、目が・・・・・・。」
「・・・・・・だから何で猫みたいな声を出すんだよ!」(ビュン!ドーン!)
「にゃ~~~~~~~~!!」
思わず突っ込んで残る力で彷徨っている天玖にぶつける天子。その時、天玖と目が合ってしまい・・・・・・。
「っ!!」
「?」
「・・・・・・だははははははははははは!!何!?何よその目!?ぶはははは!」
天玖を見て大爆笑する天子。それも無理はない。
天玖の目つきは天子に似ているが、目が猫の様な瞳をしていたのだ!天子にとっては笑いものである。
「くっ・・・・・・見てはいけないものを見てしまった様ですね・・・・・・ん?」
赤面して天子を睨む天玖だったが突如、部屋全体が揺れ出す。
「地震・・・・・・?」
「いや、ここ浮いているって。」
「ま、まさか・・・・・・!」
不思議がる天子と鵺に対し天玖は真っ青になり、振り向く。そこには火花を散らしている機械類があった・・・・・・。
「にゅふっ!?何ていう事を・・・さっきのスペルでこの城を維持していたエンジンが全てオーバーヒートしてしまいました!」
「って事はどうなるの?」
「・・・・・・落ちます。」
「はぁっ!!??」
「えぇっ!!??」
「ま、まぁこの要塞がもう使えないのは仕方ありません・・・・・・ですが、もっといい物・・・・・・伝説夢想技の情報を手に入れましたからいいでしょう・・・・・・天子、それに妖怪・鵺。紅を倒す機会があったらまた会いましょう!」
そう言ってテレポート装置を取り出し、天玖は瞬間移動した。
「あっ逃げた!?」
「天人、どうする?」
「・・・・・・面舵、逃げろ~!」
かくして、恐ろしい武器を搭載した城は人気のない海へと落ち、炎上した。その様子を運良く脱出した聖達が見ていた。
「まだ、鵺達はいないのでしょうか?」
「そ、それが、何処を探しても・・・・・・ん?」
聖の不安な声に答えようとした星は何やらこちらに近づいて来るものを発見する。機械人形はすでに落ちたが・・・・・・
「あれは・・・・・・っ!?聖様、鵺です!鵺と天子さんがこちらへ来ます!」
「!良かった・・・・・・。」
星の報告に聖は胸を撫で下ろす。
一方、天子と鵺は真っすぐ聖達の方へと向かっていた。すると、鵺が口を開く。
「・・・・・・あの・・・・・・。」
「ん?」
「さっきは御免・・・・・・それと・・・・・・ありがとう・・・・・・天子・・・・・・。」
「・・・・・・まぁ礼ならいらないわ。私は守りたい者を守りたいから戦っているから・・・・・・ね?」
「守りたい者・・・・・・。」
それを聞いて鵺は赤面して俯く。しかし、どこか嬉しそうだった。
部屋全体に漂う煙と良い匂い。そして何かを揚げる音と共に彼女は何かを料理していた。
すると、鋭い鳴き声と共に1羽の鴉が飛び込んで来たので彼女は一時中断して鴉の鳴き声を聞く。
「・・・・・・あらまぁ、大変。天玖もやられちゃったの?どうしましょ~?」
変にノンビリした口調で言う彼女に鴉はまだ続けて鳴く。
「あら?こっちにも幻想郷の方が来るの?数は何人?1人?あらまぁ、相当のつわものさんね~歓迎しなくちゃ~。」
他の勇者とは違う雰囲気で鴉に何かを差し出す。見るとそれは鳥の足を揚げたものだった。
「御苦労様♪食べる?私が自分流に作った新型フライドチキンよ♪」
そう言って、彼女・・・勇者8号はニッコリと微笑んだ。
続く
次回:「只1人、勇者8号の拠点へ向かう妖夢。そんな彼女を待ち構えるのは何故かフライドチキンを焼いている勇者8号だった“自分を倒したらキリュウの居場所を教える”と言う条件で戦う妖夢だが、『御免ね、妖夢ちゃん・・・私にも守りたい物やこの世の中を変えたい事を手放せないの・・・』性格とは裏腹に強烈な一撃を誇る8号に妖夢の生死は如何に!?次回、『一人ぼっちのデュエット』!」
キャラ紹介
「天空勇者・天玖」
クローン勇者5号。常に丁寧だが、内心は恐るべき知識を持ち、時には平気で仲間を裏切る。元は天子と衣玖のDNAらしい。
制作された時のバグかド近眼の猫目であり、バイザーを付けないと見えない。ついでに猫語らしき言葉を言ったりする時も。
スペルは勇者の中でもトップ3の威力を持っている反面、チャージに時間が掛ってしまうのが弱点。
何やら企んでいる様で、幻想郷の者を使って紅を消そうと考えている模様。人間を塵としか見ていない冷酷非道な方。
このお話もいつか殿堂入りするといいですね^^
まあ、私は嫌いだけどね。前回の誤字報告見なさいよ。
いい意味でも、悪い意味でも。