幻想郷は夏真っ盛り。
輝きを絶やす事無い太陽が、光いっぱい降り注ぐ。
輝いているだけならいいのだが、燃えるような熱線も一緒にやってくる。
夏が好きか、冬が好きかなどと時々問う事がある。
暑くても平気な者もいれば、寒さが平気な者もいる。
どちらの季節にもそれぞれの魅力はあるし、選ぶ季節は人それぞれ。
だけど、人ではなく、それが植物だとしたら。
間違いなく、夏を選ぶ植物のほうが多いだろう。
ここは、太陽の光を遮るものが無い、大きな花畑。
花畑の入り口には、真っ白な看板に、『ようこそ太陽の畑へ!』と書かれていた。
色とりどりの花が咲き誇り、見ているだけでなんだか落ち着く。
大きな花弁は風に揺れ、一つの波を作り上げている。
近くにまで足を運べば、花の香りがほのかに香る。
花の蜜を吸わんとする蜂達が羽音を響かせながら花の周りをうろついている。
同様に、羽の模様が美しい蝶達も、ふよふよと辺りを漂っていた。
花といっても、様々な花がある。
百日紅に紫陽花、ペチュニア、マリーゴールド、ダリアなど、綺麗な花ばかり。
しかし、その中でも一際目立つのが、向日葵である。
夏を代表するその花は、大きな大きな花弁が特徴だ。
中心が真っ黒で、その回りが少し茶色、そして花びらは綺麗な黄色。
一つの種から、太陽へ向かいどんどん伸びていく向日葵。
その大きな花弁からは、一つの小さな太陽を思わせる。
この花畑の過半数以上を向日葵が占めている。
しかし、なぜこれほどまで様々な花が咲き誇っているのか。
それは、一人の妖怪の仕業であった。
風見幽香、別名は、四季のフラワーマスター。
花を操る程度の能力を持っている彼女だからこそ出来る業なのだ。
また、幽香自身もその能力を愛し、そして花を愛している。
彼女にとって、花は切っても切れない縁の仲なのだ。
花畑に一つ、白く大きな花弁がくるくると。
その花は一定のリズムで上下に揺れ、動いている。
真っ白な日傘を広げた幽香は、大きな花畑を優雅に歩く。
軽い足取りで、妙にご機嫌な幽香は、鼻歌まで歌っている。
手に持った日傘をくるくると回し、花を見て回る。
これは幽香の日課であり、楽しみである。
自然の中で自由奔放に生きる花に、生きる為にその花を欲する生き物達の営み。
自然の中で、無駄なものがないというのが、花を通して分かる。
やがて、背丈の高い向日葵が立ち並ぶ場所にまでやってきた。
不揃いな高さの向日葵達が、全員幽香のほうを向いている。
そもそも、なぜ“向日葵”という漢字を書くのか。
それは、太陽の動きにつれて、その方向を追うように花が回るといわれた事からついた名前だ。
若い向日葵は、茎の上部の葉は太陽に正対するように動き、朝には東を向いていたのが、夕方には西に向く。
日没後にはその花を起こし、夜明けにはふたたび東を向く。
故に、向日葵と名づけられたそうだ。
それはともかく、向日葵畑を眺めながら歩く幽香に、一つの向日葵が目にとまった。
「あら?」
向日葵畑の先頭に位置する列に咲く、一つの向日葵。
その向日葵を挟む両側の向日葵は、ぴんと背筋を伸ばしているかのように、太陽めがけて伸びている。
しかしその向日葵は、猫背になっているかのように、少しばかり歪んでいるのだ。
この花が向日葵畑の中にあるのなら気づかなかっただろう。
しかし、こんなへたれた向日葵が先頭にあると、目立って仕方が無い。
大きな花弁も、少し下を向いているんじゃだらしが無い。
同じ環境で生まれた為、枯れているなんてことは考えられない。
となると、ただ単にこの向日葵がへたれだということが分かった。
幽香はその向日葵の元へゆっくりと歩いていく。
その向日葵のもとまで歩いていくと、日傘を畳み、しゃがみこんだ。
花弁と顔を合わせるようにした幽香は、そっと花弁に触れる。
小さく揺れた向日葵は、ぴんと元気になる気配はない。
「別に元気が無い、ってわけじゃなさそうね」
そっと触っただけで、幽香はその花が元気かどうかを判断した。
何年もそうしてきたから、感覚で分かるのだろう。
「さて、どうしたものかしら」
能力を使ってしまえば、それは簡単に復活する。
だけど、花は自然の中で育つからこそ美しいのだ。
あげるとしても、肥料と水くらいで、それ以外は自然に任せている。
しかし、今までこんなことが無かった為、どうしようかと考える。
切ってしまうなんて、そんなことはできない。
かといって、何か支柱を立ててそれにくくりつけてもみっともない。
肥料を使って治るわけでもなさそうな気がした幽香は、本当に困っていた。
「困ったへたれね。どうしたものかしら」
一人ぼそりと呟くその声に、返事が返ってきた。
「あら、何を困っているのか私に聞かせてくださる?」
幽香の顔の隣、もう一つの顔が視界に映った。
長い金髪の髪を後ろで結い、大きな白い日傘を手に持っていた。
神出鬼没、八雲紫の登場だ。
「近いわよ、離れなさい」
そういって幽香は紫を押し、少しだけ距離をとった。
「あん、つれないわね。で、何かお困りのようね」
「えぇ、困ってるわ。この向日葵が今までに無いへたれさんだから困ってるのよ」
「へぇ、どれどれ」
興味を持ったのか、どこか表情が明るい紫。
問題のへたれた向日葵を見つけると、くすりと笑った。
「面白いわね」
「面白くなんかないわよ。一輪の花でもおかしい花があったら完璧な花畑じゃないわ」
「貴女ってそんなに完璧主義だったかしら」
「花に関しては別なのよ」
唸り声を上げながら、へたれた向日葵とにらめっこをしている幽香。
そんな幽香は、どこか子供っぽく見えた。
普段は大人っぽい幽香が、このような一面を見せるなんて思いもしなかった紫は、それにも笑った。
「何笑ってんのよ」
「ごめんなさいね。ただただ、貴女が子供っぽいなぁって思っただけよ」
「どこが?」
「そうやって必死になるところが、かしら?」
ふん、とそっぽを向いてしまう幽香を、紫はにやけながら見つめた。
そして、紫はもう一度向日葵のほうを見た。
相変わらず、猫背のようなその向日葵は、頭を垂れていた。
「そんなに向日葵を責めなくてもいいんじゃないかしら? 頭を下げて謝っていることだし、許してあげたら?」
「え?」
幽香は、向日葵を今一度見る。
確かに、へたれでもあるが、頭を下げて謝っているようにも見えなくも無い。
「まぁ、お邪魔したわ」
「え、あ、ちょっと?」
もうそこに紫の姿は無かった。
一人残された幽香は、また向日葵を見る。
ずっと頭を垂らしたままだった。
「いくら謝られても目立つ事には変わりないしなぁ。う~ん……あ、そうだ」
幽香は何か思いついたのか、その向日葵を掘り起こした。
そのまま、その向日葵を土ごと入り口の看板のところまで持っていく。
看板の隣に向日葵を植えると、畑の奥にある小屋へと駆けた。
小さな白地の看板を見つけ出すと、そこにマジックで文字を書いた。
「これでよしっと」
マジックの蓋を閉めると、その看板を向日葵の隣に立てた。
腰に手をやり、それを見つめる。
「いいわ。これでいい。へたれた向日葵も役に立つわね」
幽香はにっこりと笑い、花弁をぽんぽんと叩くと、その場を後にした。
とある昼下がりの事。
霊夢は、幽香に用事があって、とぼとぼと太陽の畑へ続く道を歩いていた。
「今日も暑いわねぇ……」
そんなことを呟きながら、太陽の下を歩く。
すると、太陽の畑がすぐそこだという目印の看板が見えた。
そしてその隣、見なれない向日葵がぽつんと植えてある。
しかもよく見ると、その向日葵のところにも看板が立っていた。
「なにかしら、あれ」
気になる霊夢は少し小走りで向日葵の方へと向かった。
花弁が少しばかり下を向いている向日葵がそこにはあった。
「あら、だらしない向日葵ね」
くすっと笑うと、次に看板に目をやる。
看板の文字を一通り読み、そしてまた笑った。
「幽香も可愛らしいところがあるのね」
霊夢は柔らかい表情で、花で溢れる畑へ足を運んでいった。
『ようこそいらっしゃいました。私には頭をさげることしかできませんが、花を楽しんでいってください。 へたれ向日葵』
いいお話でした。
お互いがんばりましょう。
おもしろかったですよ。
プチにも投稿してましたね、テストあるのにww
明日、頑張って下さい。
冗談ですw ごめんなさい。
文章と雰囲気が合わさって良いSSでした。
もうじき一本完成しそうなのに
そしてゆうかりんかわゆす。
誤字発見
「困ったへたれね。どうしてものかしら」
→「困ったへたれね。どうしたものかしら」
がんばってくだせぇ……( ´,_ノ` )y━・~~~~
太陽の畑で一番奇麗な華はやっぱり幽香さんですね。
最近の本題に入る前の情景描写が好きです。
気分転換でこんな話を書けるなんて本当に羨ましい。
20分でテスト終わらせて残り30分で回答用紙の裏に落書きならぬSSを書いて提出するんだ!
早く咲かないですかねぇ。
自分も明日からテストなんでこの位で
こういうのほほんとした雰囲気っていいよね。テスト頑張ってください。
面白かったです。テストのほうも頑張ってくださいな
こっちもテストに課題に渉外とやることてんこ盛りなんだぜ……
しかし、相変わらず良い作品書いてくれる……!
読み終えた時、自然と「ふふ」と笑い声が漏れてしまいました。
へたれ向日葵がとても可愛かったです。
>若い向日葵は、茎の上部の歯は太陽に正対するように動き
これは、葉、ですかね?
詳しくないので、誤字でなかったのならすみません。
ほっこりと温かい気持ちにさせてくれる、ほのぼのとした良いお話でした。
面白い。
ネタに分類される作品かもしれませんけれど、
ちゃんとHNを題材として見事に消化している作品でした。
評価ありがとうございます。
前々から名前で書いてみたかったので、今回書けて良かったですわ。
>勿忘草 様
評価ありがとうございます。
テストどうでしたか? 自分はいつもどおりでしたが。
嬉しいお言葉ですわ。
>7 様
評価ありがとうございます。
テストあるのに投稿しちゃう私はダメな子。
頑張ってきましたよ!
>8 様
評価ありがとうございます。
わかってますよ~、当然頑張ってきましたからね!
>10 様
評価ありがとうございます。
幽香は可愛い、異論は認めません。
>18 様
評価ありがとうございます。
まぁ、そうともいいますねw
>19 様
評価ありがとうございます。
テストの時期ってなんか作品書きたくなるし、書いてる途中だったりしますよね。
>20 様
評価ありがとうございます。
嬉しすぎて爆発しますわw
>24 様
評価ありがとうございます。
ペンネームで書けるような名前で良かったですわ。
誤字指摘ありがとうございます、修正いたしました。
>26 様
評価ありがとうございます。
こっちももう色んなミスしてて終わりましたw
>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
幽香さんはドSじゃなくて、可愛らしい女の子なんです!
気分転換のSSの方が評価高いって複雑ですけどね。
>29 様
評価ありがとうございます。
向日葵の時期が来ましたねぇ、咲いてるのこの前見ました。
いいのぅ、向日葵。
>36 様
評価ありがとうございます。
初めて評価して下さる作品が私だなんて嬉しい限りです。
なんだか驚かせてしまったようですみませんね。
>38 様
評価ありがとうございます。
名前を使った作品がこれから増えると面白いんですけどね。
>40 様
評価ありがとうございます。
暖かくて面白い作品に出来あがっていたようで、嬉しいですわ。
>47 様
評価ありがとうございます。
いいですよねぇ、幽香さん。
>椿 様
評価ありがとうございます。
テストどうだったでしょうか?
嬉しいお言葉ですわ。
>50 様
評価ありがとうございます。
可愛さにもっと気付いてください!!
>55 様
評価ありがとうございます。
仕留めてやったぜ……ッ!!
>57 様
評価ありがとうございます。
なんとも言えない良さって、いいですよね。
>58 様
評価ありがとうございます。
書いてみたいなぁって思う素敵なペンネームの人って多いんですよねぇ。
名前沢山使いたいですw
>葉月ヴァンホーテン 様
評価ありがとうございます。
笑みがこぼれるとは……嬉しいですわ。
誤字指摘ありがとうございます、修正いたしました。
>Admiral 様
評価ありがとうございます。
暖かい幻想郷ってのが理想です。
それが伝わったようで、嬉しい限りです。
>とーなす 様
評価ありがとうございます。
絵本のような……あぁ、いいですねぇ。
ありがとうございました。
>80 様
評価ありがとうございます。
自分の中ではネタのようなものでしたが、沢山の評価があって嬉しいです。
ありがとうございました。
評価ありがとうございます。
私はかわいくな(ry
…と、冗談はおいといて、なかなか洒落た作品ですね
幽香さんやっぱ可愛いわv
評価ありがとうございます。
幽香さん可愛すぎてたまりません^^
評価ありがとうございます。
うれしい!