「ふむ……ここが……」
俺がその世界に降り立ったのは、とある夏の日の事だった。
澄み渡る蒼い空に、灼熱の太陽が俺が照らしていた。
気温は相当のものだろう。並みの人間なら、気を抜けば熱中症で倒れてしまう程度に。
「まあ……俺には関係ない事だがな」
あの時俺の中で覚醒した“力(アンチ・アビス)”を“調律”する事を覚えてから、すでに3年になる。
本来は戦闘に特化している俺の能力だが、ちょっとした副作用?みたいなものでこの程度の暑さなら汗一つかかずに過ごせる。
例えどんな服装をしていてもだ。
この漆黒の厚手のマント、漆黒のブーツ、漆黒の手袋、漆黒のテンガロンハット。
全て俺のトレードマークみたいなものだ。打ち付けられている五芒星の刻印は、抗闇の為の高等結界呪法だ。
“元の”世界にいた時は、俺の黒ずくめな格好は、しばしば不思議そうな眼でみられたものだが、なに、笑う奴には笑わせておけばいい。
そいつらは、“清浄(オール・クリア)”された平和な世界しか知らない幸せ者なのだから。
“堕ちし者の棲む深淵(アビス)”の一端を知るものなら、大体はこの格好を見て、震えあがるか、憧れの眼差しを向けてくる。
……いや、別に見せびらかしている訳じゃないんだが、いつの間にかそうなっていたんだ。
『黒翼の天使(ルシフェル)殺しの魔剣』
『忌むべき血脈の異端』
『夜闇を浸食する真なる黒色』
『“文書”に記されぬロストナンバー【13】』
俺につけられた二つ名の幾つかだ。
まったく、思えば遠くに来てしまったものだと思う。数年前まで、俺は何処にでもいる、平凡な学生だったというのに。
思い返せば、本当に色々な事があった。
俺と俺の家族を襲った理不尽な交通事故に全ては端を発する。
奇跡的に生き残った俺だったが、家族を失った悲しみで自棄になる時期が続いた。
そしてそんな俺に追い打ちをかける、突然の“力”の覚醒。
――殺せ
嫌だ!
――殺せ
嫌だ!
――全てを殺せ
やめろ! その囁きをやめろ!
――斬って、潰して、殴って、轢いて、焼いて、抉って、殺せ、コロセ
やめろ! やめてくれ! 俺が、おかしくなってしまう!
――セカイハ、オマエノテキダ、スベテヲコロセ
ヤメテクレ! オネガイダ!!
――コロセ
イヤダ!
――コロセ
イヤダ!
――コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ
イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!
脳裏で、邪悪その物のような声が俺に囁き続けるんだ。
病院のパイプベッドが、しばしば飴細工のようにぐにゃぐにゃに曲がっている事があった。
手にしてしまった強大な破壊力を御す事出来ない。俺の暴走の結果だ。
そして、俺の命を狙う謎の刺客の影……!
あの時は、本当に毎日が支離滅裂だった。自殺も考えた。
しかし、そんな俺が救われたのは、とある少女のおかげだった……。
『怖がることないの……全部あなたの血がそうさせているだけ……』
彼女はそう言うと、優しく俺の手を握った。
『“力(アンチ・アビス)”』
それは、世界の自浄作用が産んだ、闇なる住人と闘う為の唯一の手段なのだと言う。
そして、俺の持つそれは、通常の“力”とは異質な部分が多くて、故に俺の心を酷く侵蝕してきたのだという。
『大丈夫……扱い方は、私が全部教えてあげる……』
手を握る彼女は、続けてそう言った。細い腕と仄かな体温……。
今は亡き彼女……恩師との出会いの記憶だ……。
彼女の教えによって力を“調律”する事を覚えた俺は、彼女の所属する組織の門を叩いた。
“騎士団(テンプル)”と呼ばれるそれは、俺と同じような、異能を持ってしまった奴らが集まる組織だった。
そして、ここで俺は恐るべき真実を知る。
ある日の集会、全身に鋼のような筋肉を纏った男が、厳かにこう言った。
『諸君……どうやら“堕ちし者の棲む深淵(アビス)”が、本格的に動き出したようだ……』
司祭の通称で呼ばれる彼は、灼熱蜥蜴(フレイム・イーター)という、炎のアンチ・アビスの使い手で、テンプルの団長だ。
そして、彼の言った“堕ちし者の棲む深淵(アビス)”とは……。
それは宿命的に世界の敵だった。
それは純然たる悪そのものだった。
“黒翼の天使(ルシフェル)”を自称する奴らは、俺たちと同じく異能を持つ集団。
しかし、その力を、ひたすらな悪にしか使わない集団。
世界を地獄に塗り替えようとする集団。
能力に人間らしい心を食い尽くされてしまった時、能力者はアビスに堕ちるのだという。
背中に、堕天使のような黒き翼を生やして……。
奴らは正に悪魔のような集団だった。
黒い翼の暴風が吹き荒れる時、そこにはいつだって憐れな犠牲者の屍だけが残った。
女子供であろうと容赦しないのが奴らだ……。一体どれだけの人々が奴らに殺戮されたのか分からない。
そして……。
俺を襲ったあの不自然な交通事故と、刺客の影は、実は奴らの企みによるものだった事を俺は知る。
その時俺は刃を取り、闘う事を“黒翼の天使(ルシフェル)殺し”となる事を誓ったのだった。
アビスに堕ちた能力者は、全ての能力が格段に上昇する。
奴らの戦いが始まってからといもの、普通の能力者集団であるテンプルは多くの犠牲を強いられた。
生と死の狭間を潜りぬける日々が続いた。
俺はいくらかの強運と、目覚めた潜在能力のおかげで戦い抜く事ができたが……多くの仲間が死んだ。
“司祭”は強大なアビスの幹部を倒すため、代償に自らの命を犠牲にした……。
能力を“アビス化”ぎりぎりまで暴走させ、肉体をニトログリセリンの塊と変化させた彼は、敵もろとも砕け散る道を選んだのだ……。
最後の表情は、いまだ瞼の裏に残っている。
能力が突出しているが故、どうしてもスタンドプレーが多くなる俺に殴りかかってきた同僚がいた。彼も冷たい墓の中の住人となってしまったが。
今となっては、あれは必要な事だったと、理解してくれていると信じている。
そして、俺に“調律”の仕方を教えてくれた彼女……。
アビスの刺客が放った暗黒の矢に、俺をかばったがため貫かれた彼女は、俺に「後の事はお願い……」と、か細い声と、一筋の涙を残して、息絶えた……。
この時、俺は復讐の為、奴らをかならず皆殺しにすると誓ったのだ……。
テンプルのメンバーは、とうとう俺一人になってしまったが、しかし俺はそれでも戦い続けるつもりだ。
この世から、アビスの悪しき瘴気を消し去るまで……。
全てが終わったら、墓参りに行こう。
終わらせてやったから、安らかに眠れって、あいつらに言ってやるんだ……。
そして、その後、俺は……
「また、普通の人間に戻るんだ……」
ふっ……と、何となく笑ってみた。
大丈夫だ、もう少しで、全ては終わる……。いや、終わらせてみせる……ここまで追い詰めたんだ、絶対に上手くいくはずだ。
「さて、幻想郷よ……どうか、俺に終わりを見せてくれよ」
そっと呟き、俺は炎天の下を歩き始めたのだった。
∽∽∽∽∽
しばらく歩くと鳥居を見つけた。
「博麗神社」……はくれいじんじゃ、でいいんだろうか?
まあ、そんな細かい事はどうでもいい。とりあえず、この世界の住人に接触する事が最優先だ。色々と分からない事が多すぎるからな。
俺の行く手の障害にでもなるかのように、長大な石段が見えたが、なに、俺にとってはまったくもって何でもない障害だ。
意気揚々と俺は石段を登り切った。
境内の砂利を踏みしめ少し歩くと、縁側でお茶をすする、どうやらここの住人らしい少女を見つけた。
「あら? 参拝客かしら? 素敵なお賽銭箱はあっちよ」
「このクソ暑い中、参拝客が来るとか……明日雪でも降るんじゃないか?」
「うるさいわよ」
どうやら、日本語が普通に通じるようだ。よかった。
英語仏語独語くらいは普通に使えるが、喋る慣れている言語のほうが気軽でいいからな。
こつんとおでこを小突かれて、少し涙目になってる少女は、少し癖のあるブロンドに、白黒のエプロンドレスを身につけていた。
傍らには黒いとんがり帽子。なんとなく、魔女みたいだなと思った。
彼女を小突いた方の少女は、随分と大胆にアレンジされているが、紅白と言うカラーリングから推測するに、ここの巫女なのかもしれない。
まあ、いい。
とにかく、この世界で会う最初の住人だ。悪い印象を持たれないように挨拶はしておくか。もしかしたら、アビスに関する情報を持っているかもしれないし。
「お嬢さん方こんにちは。しかし生憎俺は参拝客じゃなくてね。そうだな、ちょっとした通りすがりってとこだ」
うん? 少し外したか? ちょっと面白い事を言ったつもりだったが。
やれやれ参ったな。彼女らは怪訝そうな目で俺の事を見ていた。
「あんた、“外”の人間よね?」
紅白の方の少女がそう呟いた。
うん? 確かに俺はこの世界の外から来たが。
ふむ、どうやらあの怪訝な表情は、どうやら俺が思っていたのとは少し違う理由らしい。
「なるほど迷い人か、運が良かったわね。その辺の妖怪につまみ食いされる前にここに辿りつけて。
安心して、あなたは元の世界に帰る事ができるわ。送還の術式の準備をするから少し待ってて」
うむ?
しかし、話が少し変な方向に……。
「いや、ちょっと待ってくれ。俺はこの世界に用があって来たんだ」
「……外からわざわざ? あんまり聞かないけど、そういうの」
彼女の表情に、明らかな猜疑が宿った気がしたが、
「ああ、少し俺の話をきいてくれ」
当然、あの世界に帰るのは、全てを終わらせてからだと決めている訳で。
「俺の名は、黒小路龍魔(クロノコウジ・リョウマ)。とある組織を追って、幻想郷までやってきた」
「組織?」
「ああ、そうだ……組織……それも、とても恐ろしい組織だ」
空間の歪みを超え、遥々この世界にやって来た目的は……それは少々の説明を要する。
アビスとは一人の男を中心とする狂気の集団だ。
彼は墨のように黒い肌と、それよりも更に黒く邪悪な心と、陰惨たる暴虐を可能とする力を持った、正に邪神のような存在だった。
『黒の老人(ブラックウィドウ・オブ・シャドー)』
絶大な畏怖を込め、そう呼ばれる、アビスの首魁。
彼をこの世より抹消しないかぎり、アビスによって引き起こされる不幸はなくならない……。
テンプルは、残り少ない戦力の全てを投入し、彼との直接決戦に挑んだ。
しかし、その天を覆うかのような巨大な黒翼が彼に与える能力。『近傍たる死(ジ・ペイン・アンド・サッドネス)』。それは毒属性のアビス!
奴の操る魔剣『黒サソリのレイピア(デス・ストーカー)』にひとたび傷つけられれば最後。
あるものは体中から血を噴き出し、あるもの熱病に錯乱し、次々と仲間が死んでいった。
しかし、俺にだけは、奴の必殺の一刺しが通用しなかった
眠っていた潜在能力が、またしても俺を助けたのだ。
死闘の末、奴を追い詰めた俺。驚嘆する“黒の老人”。
俺は武器を構え、奴に止めを刺した……そのはずだった。
しかし、どうやら俺も随分消耗していたらしい。
俺の刀は、奴に深手を与えるだけに終わった。そして、奴は生き残った手勢を引き連れ、予め用意してあったらしい、空間転移の魔法陣を発動させたのだ……。
後少しというところで逃げられた……。
その事実は、俺を酷く絶望的な気分にさせてくれたが……しかし、俺は諦めなかった。
魔法陣を解析する事で、奴らの逃亡先が“幻想郷”という世界である事を知った。そしてそこへ行くための術式を一から編んだ。
執念の末、俺は今、この地に立っている。
全てのアビスを滅し、世界を“清浄(オール・クリア)”とする為に!
「はぁ……」
「ほむほむ……」
どうも気の抜けた相槌が聞こえてきた。
目の前の彼女らは、どうも俺の言う事を信じてはいないようだ。
まあ、こんな事を突然言われても、すんなりとは受け入れがたいのは理解できるが……。
しかし、これは純然たる事実なんだ。
このままでは、この美しい世界が奴らの手によって、地獄に変わってしまう。
それを止められるのは俺だけだ……だからどうか信じて……。
うーんと、少しのうなりを挟んで、紅白の少女が口を開く。
「あなたが言ってるのって、多分――」
言い終わる前だった……その時、俺は“風”が吹くのを感じたのだ……。
そして、幾度となく感じてきた、あの悪寒を……。
「あやや? もしかして博麗神社に真っ当な参拝客が? これは記事にしなければ」
「文、その振りはいい加減飽きたわ。もういいのよ、参拝客なんて来なくても……開きなおってるんだから……」
境内に降りたったのは、飄々とした声の女だった。肩まで伸ばした黒い髪。整った横顔。
紅白の少女は、暢気に言葉を交わしているが……駄目だ……その行為は、危険だ……!
殆ど無意識に、手は腰の刀に伸びていた。
死線を何度も潜った者だけが持てる、第六感が警鐘を鳴らしていた。この女は危険だと。
そして彼女をもう一度見て、俺は確信する。
その背中。もはや隠す事すらせず、見せびらかすようにはばたく、邪悪の象徴、黒き翼。
――アビス。
ある意味で、俺は幸運だったのかもしれない。
この世界に足を踏み入れて数時間。早くも滅すべき敵に出会えたのだから。
険呑な気を発し始めた俺に、紅白の少女は気付いたようだ。
「あー、何か勘違いしてるみたいだけど、こいつはあんたが言ってたような奴じゃなくて……」
止めようとしてくれるのは嬉しいが、君はアビスの恐ろしさを何もわかっちゃいない……。
長年かけて信頼を築き、その上で考えられないような非道を為す……奴らの常套手段だ……。
「止めないでくれ……俺はあの翼を滅殺するため、遥々やって来たんだ……」
紅白の少女と、白黒の少女は、困ったように顔を見合わせていた。しかし、そこで一歩進み出た他ならぬ黒翼の女だった。
「霊夢さん。いいじゃないですか。喧嘩なら私、買いますよ」
彼女の唇が、好戦的に、にやりと歪んだ気がした。
ばさりと翼が開く、飛翔。一瞬で、着地点は境内の中心。
「じゃ、始めましょうか?」
余裕綽々といった風な表情。
なるほど、今の速力……ただものでない。
しかし、
「ふん……その程度……」
俺にだってできる!
右脚に力を積乗(チャージ)し、爆瞬(エクスプロージョン)させる。反作用の力を存分に利用し、人知を超えた速力を発生させるこの“技(アンチ・アビス・システマ)”。
その名も“瞬雷の颯(アーク・オブ・ゼウス)!
砂利を飛び散らせ、刹那の時で俺も中央へ移動を完了させた。
「どうだ? あんたの2倍速だ」
俺にとっては簡単な、高々レベル3の技だが、しかし、彼女の驚いたような表情を見るに、どうやら出鼻をくじくには十分だったようだ。
「随分と、速く動けるんですね」
「鍛えてるんでね。もちろんこれで全力じゃない。まだこの倍速と、倍々速がある」
レベル8の高等技“神々の座の烈風(ガレー・オブ・エリュシオン)”を俺に使わせたのは、今まで“黒の老人”ただ一人だ。
それよりレベルの低い“虹龍の陣風(バトルシップ・オブ・ラ・ピュセル)”の時点で、多くの敵は俺の姿を認識することすらできず、絶命する事となる。
にやりと、少し厭味ったらしく笑ってみせた。
僅かに、慄いたような表情を彼女は見せた。
まだどうにか余裕を繕っているようだが、残念な事に、それはすぐに完全な虚勢へと変わるだろう。
彼女も、アビスなどに魂を売らなければ、その美しいその容姿だ、きっと幸せな人生を歩めただろうに……。
まったく、因果なものだと思う。
この世界は邪悪は最終的に滅びる様にできているのだ……きっと、いや、それを証明するために、俺がいる。
この戦い、悪いが勝たせてもらう……。
対峙する俺と彼女。
先に動いたのは彼女だった。
手にする団扇の形をした法具が振るわれると、生み出された風の刃が俺目掛けて殺到する。
「なるほど、“風(シルフィード)”のアビスか……おもしろい」
“パラケルススの堕ちたる雲の精シルフィード”は風の精霊を使役する、比較的ポピュラーなアビスだが、しかし、この密度、鋭さ、そして速度。
どうやら、彼女は俺が見てきた中でも、最高のシルフィード使いのようだ。
「少々、難儀な敵らしい」
俺は腰の刀に手をかけ――。
「レベル1から7までの全ての解錠を許可する。嬉しいだろう相棒? 久々にお前が力を抑えずとも戦える相手と出会えたのだぞ?」
身に纏う、漆黒の巨大なマントをばさりと翻し。一気に刃を抜き放つ!
「斬魔刀『新月ヲ喰ラウ者(ドラゴンスレイヤーズエンペラー)』!」
居合いと共に発生した衝撃波によって、彼女のシルフィードは全て掻き消えた。
テンプル本拠地の地下数百階。そこにはかつて英雄と呼ばれた男の墓がある。
数多のアンデッドが巣食う場所だが、俺は多くの戦いを経て、ついに彼が生前使っていたと言う、聖剣を手にする。
刃渡りが四尺程もある巨大な日本刀。生半可な使い手が触れると、力を奪われて死に至るという伝承だったが、俺にとってはこれほど手になじむ武器は今までなかった。
アビスの強大な破壊力を持つ技を、真正面から斬り伏せる凄まじい切れ味は、英雄の武器として相応しい。
俺はこの頼もしい“相棒”とともに、ずっと戦場を駈けて来たのだ。
案の定、黒髪の彼女は、明らかに動揺しているようだった。
そりゃそうだろう。一撃で勝負を決めるほどの心づもりで、あのシルフィードは発動されたはずだ。実際、それに値する破壊力だった。
一般的なテンプルのメンバーなら、おそらく為す術もなく命散らしたに違いない。
つまりは、お嬢さん。相手が悪かったと言う事だな……。
そして、どうやら、彼女の動揺の原因は“相棒”のせいだけではないらしい。
「その翼は……?」
視線の先。そこには大きく広げられた、俺の翼があった。
そうだ、この翼。
漆黒の、夜の闇よりも尚暗いこの俺の翼。
これこそが、俺があの激闘を生き抜けた理由。強さの理由。
すなわち、アビスでありながらアンチ・アビス!
矛盾する事象を抱え込んだ特異体質!
アビスの源流に最も近い血脈を持つ個体は、黒き翼を持ちながらも強靭な精神を維持する事ができるのだという。
そして、俺の母親は、実は“黒の老人”の娘だったのだという。
彼女はアビスの邪悪に抗う道を選んだ、アビスより逃れ、普通の人間として暮らし、そして俺を産んだ……。
来るべきアビスとの戦いの、切り札として俺を育てるだめ……。
交通事故の際、俺が生き残ったのは母が身を呈して守ってくれたからだという。
奴らの力を最もよく知る俺は、だからこそ、奴らには負けないのだ。
アンチ・アビスでは本来身につける事の出来ない、闇属性(ダークマター)が俺の能力。
黒を喰らう、究極の黒。それが……俺だ。
刀を、すっと上段に構えた。
「レベル9……神殺技『滅魔鬼裂斬(ミストルティン)』」
世界を漂う闇(ダークマター)の粒子(ノンターディオン)が刀に集まり、凝縮されていく。
この凄まじいエネルギーを、斬撃と共に爆瞬させるこの技。
万全の体調で放たれる、この技は、正に神を屠る破壊力を持つ。
“黒の老人”に対する切り札として使うような技だ。彼女程度に使うのは、確かにオーバーキルが過ぎるかもしれない。
しかし……。
せめてもの優しさに、一撃で葬ってやろうと、そう思ったのだ……。
俺と彼女の間には若干の距離がある。彼女は安心しているかもしれないが……残念ながら、既に間合いの範疇だ。
彼女はどんな表情をしているのだろうか?
俯いていてよく見えないが、恐怖に震えているのかもしれない。
少し、心が痛んだ。
アビスが存在しなければ、彼女は普通の人間として、平凡な、しかし満ち足りた生涯を送れたに違いないのだから。
しかし、もはや手遅れ……アビスに浸食されてしまった人間を元に戻す手立てはない。
だから、せめて、今終わらせてあげよう……。
刀を振り下ろそうとして……。
刹那、脳裏に、あの時見た黒翼の少女の笑顔がよぎった――。
ずっと、昔の話だ……俺がテンプルに入りたての頃の話……。
幼い少女と会ったのだ……。
アビスに呑まれた少女……しかし、とても純粋な、ころころと表情が変わる、かわいらしい少女。
本当はそんな事をしたくないのに、アビスの誘惑に抵抗しきれず、屍の前、血まみれの手で目をこすって、いつまでも泣いていた少女。
俺の潜在能力を引き出すため、最後は敢えて俺と戦い、そして死す事を選んだ彼女……。
俺に心臓を刺された時、何故か彼女はにっこり笑っていたんだ……。
そうだ……アビスでも、それでも彼女は必死で人間であろうとしたんじゃないか……。
ならば、俺は……。
長く伸びた刃の軌道を無理にねじ曲げた。
最終的に、俺の一撃は黒髪の彼女をどうにか掠めない程度のぎりぎりさで、地面を抉った。
「これ以上は、よしておこう」
きっと、怖がっている彼女のため、優しく声をかけた。
「君の翼には、俺と同じものを感じるんだ。
本当は自由になりたいのに、悪になんてなりたくないのに、枷から逃れられなくて、もがいている。それに……」
にっこりと、笑いかけながら。
「……それに、君みたいな可愛い女子に、戦いは似合わない」
「変わった人ですね……」
ちょっと、キザすぎたかなと思ったが、どうやら彼女には効果的だったようだ。
穏やかな、笑顔を返してくれた。
「あなた……誰かを、探しているんでしたっけ……?」
「ああ、“黒の老人”。そう呼ばれる男を探している」
ぴくりと、彼女の表情に一瞬の動揺。しかし、それもすぐ収まる。
ゆっくりと、彼女は口を開く。
「もしかしたら、力になれるかもしれません……」
「力に、なる……? しかし、それは君にとって上を裏切る事になるんじゃないのか」
「大丈夫……あなたと戦ってみて気付いたんです。こんなところで、無為に戦って損失を増やすよりも、もっと大事な事があるって……。
我々の、本拠の場所を教えます……そして、道中あなたが我々の手のものに危害を加えられないよう、どうにか手配してみます」
「だが、それは君にとって、危険な事じゃ?」
「大丈夫です……頑張りますから、私」
少しばかり、意外な答えだった。
でも、嬉しい答えだった。
彼女が俺の考えを理解してくれた事が、分かり合えた事が、嬉しかったのだ。
勇気を振り絞って、彼女が申し出てくれたのだ。
ここは、ありがたく力になってもらおう。
「ありがとう。感謝する」
「次会う時まで……絶対に死なないでくださいね……」
「ああ、当然だ」
「そして、会えた時は……もし叶うのなら……あなたと一つになれれば、嬉しい……です」
「それは、もしかして告白かい?」
「そ、そんなんじゃないです」
「ははは、君、照れた顔も可愛いんだな」
「もう、からかわないでください」
顔を少し赤くしたままの彼女が俺に近寄ってきて、ごにょごにょと小さな声で囁いた。
なるほど、今彼女が囁いたのが、奴らの本拠なんだな。
「じゃ、じゃあ私は戻りますので……あなたが来てくれる時を、待っています……」
そして、彼女はひゅうと風切り音を残して飛び立っていった。
結局最後まで、顔赤くしたまんまだったな。
「あ、そういや、名前聞くの忘れてた」
今更思い出した訳だが、まあいいだろう。どうせまた会うんだ。その時尋ねよう。
全てが終わったら……彼女と、小さな所帯を持つのもいいかもしれないな。
思えば、復讐ばかりを考えて生きてきた俺だけど、何だか、未来のまばゆい希望がこの時見えた気がした。
「よし、やるか……黒の老人、次は必ず終わらせてやる……そして……そして俺は……!」
俄然闘志がみなぎって来た俺は、意気揚々と、奴らの本拠へと歩み始めたのだった。
∽∽∽∽∽
(ご都合主義の神が囁いた。ぼくは言われるがまま切り替えスイッチをガシャンとした。物語はここから三人称に変わる)
∽∽∽∽∽
彼が去った後の博麗神社。
霊夢と魔理沙の二人は、彼が訪れたあの時とさほど変わらない、けだるそうな表情のまま、縁側にいた。
「それにしても、変な人だったわね……」
「ああ、何と言うか、困るよな、ああいう弁えてないのは……」
「うん、すぐに立ち去ってくれて、正直よかったと思ってる」
「だな」
湯呑の底に残っていた緑茶をごくりとやり、魔理沙は言葉を続けた。
「あいつが言ってた……あびす、だっけ? 多分あれって、こないだお前がボコボコにしたあの勘違い集団の事だよな?」
「うん、間違いないと思う」
「今頃あいつらは、調子乗るの止めて、人里で甘味屋開いて、それはそれは真面目に健全に一生懸命商売してるって教えてやったら、どんな顔したんだろうな?」
「がとーしょこらだっけ? あの幸せな気分になれるやつ。本格的に洋菓子扱ってる店は今まで人里に無かったし、我ながらいい仕事をしたわ。人手が足りないって嘆いてたし、紹介してあげればよかったのかもね」
「かもな。しかし、少々解せんのだぜ……文の性格なら、あの手の人種は思いっきり小馬鹿にして弄り倒しそうなものだが。負けてやって、しかも山に招待までした。絶対裏があるぜ……」
「そういやそうよね」
常に掴みどころのない笑顔でいる、狡猾な鴉というのが射命丸文に対する二人の共通認識だ。
なのに、あの、まるでウブな生娘みたく顔を赤く染めた彼女。初めて見る表情に、疑念が沸いたのは当然な事で。
しかし、聡明な彼女達の事。
思い当たるまでそう時間はかからなかった。
「ああ、なるほど。そういう……」
「そういや『最近は調達が面倒で』ってごちってたもんね」
「大概な悪女だな文の奴。あのらしくない表情も、全て釣り針か」
「でしょうね」
「……で、どうするんだ霊夢。博麗の巫女として、これをどう扱う?」
「正直面倒くさい。見なかった事で」
「だな、こうも暑いと動くのも億劫だし」
雲ひとつない蒼穹に蝉の鳴き声だけが響き渡っていた。
風鈴を揺らす風もない。
「お茶」と魔理沙が言った。気だるそうに霊夢が「自分で入れろ」と返した。あんまりにも平凡なやりとり。
幻想郷の特別暑い夏の日。しかし、きっと誰の記憶にも残らないただの夏の日。
さて、彼が立ち去ったあの時の足音を、果たして彼女たちは未だ記憶しているのだろうか?
――そして。
そして。
彼は完全たる悪辣の肯定を未だ知らない。
∽∽∽∽∽
(ご都合主義の神が再び囁いた。ぼくは言われるがまま再び切り替えスイッチをガシャンとした。物語はここから彼の一人称で結末する)
∽∽∽∽∽
妖怪の山……彼女が教えてくれたこの山の名前らしい。
魑魅魍魎の類が多く生息しているようだったが、彼女が細工をしてくれたのか、或いは俺のオーラに慄いたのか、一度も襲われる事はなかった。
そして、山登りする事数時間。ついに到着した、奴らの本拠。
断崖にかけられた石の橋。そこで彼女は出迎えてくれた。
「ようこそ!」
表情には、大きな喜色があった。
それほど俺に会えたのが嬉しかったのだろうか?とか、少し自惚れたりしてみる。
ぐるりと周りの気配を探れば、黒い翼を持った何人ものアビスに取り囲まれている形になっていたが。
しかし、特に敵意は感じなかった。
ぱちくりと、黒髪の彼女が目配せをしてきた。
恐らく、俺の事はアビスの新入りだと、そんな情報を流しているんだろう。
なるほど、中々の策士じゃないか、彼女は。
もっとも、俺を囲む奴らのオーラは大した事なさそうだった。
普通に正面から切り込んでも、問題はなかったかもしれないな。
まあ、しかし、彼女が俺の為に段取りをしてくれたんだ。せっかくだから、この状況を利用させてもらおうか。
橋を渡れば、そこは奴らの領域なのだと言う。並んで建てられた木造の家屋が見えた。それなりに数は多い。
このまま仲間を装って、奥深くまで潜入し、そして首魁の“黒の老人”を滅殺できれば、一番効率がいい。
そんな事を思いながら、俺は彼女の先導に付いて行った。
ほどなくして、俺たちは本拠の中心地に到達する。そこはちょっとした広場になっていた。
そして、そこには、沢山のアビスが終結していて、皆が皆、興味深そうな眼で俺を見ていた。
彼女が口を開いたのは、そんな時だった。
「ところで外界人さん。あなたは、我々をその刃で鏖殺する為、遥々やって来たんですよね?」
ここで、その事を暴露する、彼女の意図が分からなかった。
「……ああ、その通り。悪しき黒翼を滅ぼす事が、俺に課せられた使命だ」
もしかしたら、舞台は整えてやったから、ここで暴れてしまえと、そういう事なのだろうかと、今一つ釈然としないながらも、誤魔化す必要性も感じなかったので、正直に答えてやる。
……三日月のように歪められた彼女の口元で、皓歯が覗いたのが見えた。
「皆さん、聞いて頂けたでしょうか? ああ、何たること! 彼は偉大な勇気に突き動かされるまま、単身、我々へと刃を向けると言うのです!
ああ! 皆さん。さあ、感謝をしましょう。彼に。深い深い、感謝を!
治外法権の地。我々の収めるこの領土まで一人乗り込んでくれた事!
刃を手にし、我々に完全な大義名分を与えてくれた事! 今や我々は、何ら憚る事なく正当防衛を主張できるのです!」
彼女が何を言っているのか、まったく理解ができなかった。
少しばかり、頭がごっちゃになっているようだった。
そんな時、じゃりじゃりと、ぞっとするような音が聞えた。それは肉切り包丁が擦れる音だった。
集団の中から声が聞えた。年端もいかない少女の、無邪気な。「モツ鍋かしら?」「私はお刺身がいいなぁ」くすくすと、楽しげな笑いに混じって。
「いったい、これは……?」
ようやく、声を出す事ができた。
彼女は笑顔のまま、こう言った。
「恐らく、あなたが思っている以上に、我々は悪徳の集団です。あなたが憎悪する、アビスなる連中よりもずっと。
その全貌を鳥瞰する機会は、残念ながらもうあなたにはありませんが……ひとつだけ、我々の重要な一端を教えてあげましょう。
すなわち、我々は人間のお肉が大好きなんです。力がある人間のお肉なら、なおよいですね」
全てを理解できたわけではない、しかし、どうやら嵌められた事は分かった。
そして、ここで躊躇えば、奴らに食われてしまうらしい事も。
出し惜しみをしていられる状況ではなさそうだった。
愛刀の力を御すレベル1から7までのロックを全て解除。加えてレベル9の『錬金の剣』を同時発動する。
これは闇の力を剣に接合する事で、斬撃の破壊力を3倍に上昇させる、俺の切り札だ。
更に、レベル8の『円卓の聖影(ソウル・オブ・エクスカリバー)』を詠唱。
これは身体能力を爆発的にブーストさせる、強化呪文だ。
そして、これだけの準備をした上で放たれる、『新月ヲ喰ラウ者(ドラゴンスレイヤーズエンペラー)』による居合いの一閃。
この状況では最善の攻撃手段だった。
可能な限りの速度で、刀を抜き放った。
正に、神速……いやそれをも超えた、虚空速とでも呼ぶべき、究極の居合い……防御は不可能で、躱すのは、もっと無理だ。
さようなら、黒髪の彼女よ。一瞬でも君の事が好きだった時代が俺にはあった。そのことは、一生忘れないさ……。
振り抜いた。最高の一撃だった、あらゆる歯車がかみ合った、今までの人生でも最高の居合いだった。それは間違いなかった。
なのに、だというのに……!
……手ごたえはなかった。
ぞっとしたものが、背中を走った。冷汗が、だらだらと溢れてきた。
「乱暴な男の人は嫌いじゃないです。でも、空気読めないんじゃ、やっぱ駄目ですよ」
耳元で、あの声がした。甘ったるい、彼女のあの声。
一体、どうして……!?
確かに胴を両断するつもりで放った一撃だった。殺すつもりで斬った。
一切の躊躇が、なかったはずなのに!
「簡単な事ですよ。見てから回避余裕でした。それだけの事です。
さて、私は空気読めない殿方はあまり好きではありませんが、お肉さんなら、空気読めようが読めまいが、どっちでも大好きです。
そもそも、余計な事したり、喋ったりしませんから。
だから私は、あなたの事、凄く歓迎してるんです。私だけじゃない。我々全てがあなたを歓迎しています。
よかったですね。最後に必要とされて」
にっこりと、この上無く明るく彼女が笑った。こんなに恐ろしい笑顔を、俺は今まで見たことがなかった。
演劇じみた台詞を投げ続ける彼女の黒い翼が見えた。鴉の、真っ黒な。
そうだ、黒翼とはあのようなものを言うのだ。酷く、凄絶に、何処までも禍々しい。
あんなものが、俺や、黒の老人と同じものであるはずがない。
俺は悟った。彼女は捕食するためだけに生まれてきた怪物だ。
絶対に触れてはならなかった存在だ。
彼女の仲間が隙間なく俺を取り囲んでいた。凶刃の輪が、徐々に狭まっていく。
膝が、がくがくと震えだした。生まれて初めて俺は恐怖という感情を知った。
今の俺がするべきことは、なんだ?
プライドを全て投げ打って、命乞いする事だ。
分かってる。分かってるんだ。
しかし、声が出ないんだ。射竦められたように、体もぴくりとも動いてくれないんだ!
そして、彼女はそんな俺を知って、嬉しそうに言うのだ。殺到する刃に合わせる様に……。
「ようこそ! ようこそ晩餐殿! 歓迎しますよ」
鈍く冷たい激痛。
いやだ……! いやだ……! やめろ……! 俺はまだ死にたくな――
∽∽∽∽∽
墨汁を飲んだ気分です。胃もたれしそう。でも面白い
なんというか、大長編と一発ネタのボーダーど真ん中に立たされてる気分。
自分には扱いきれないです、マジで。
いやあね、東方キャラは可愛いし話は面白いんじゃ、文句付けようが無いんだよ。面白かった。
いやはや、空気に混ざりきれないオリキャラの末路はこれでいい感じですよね!外界の異端者がどれほどだと言うのか。
やはり至高のどんでん返しはこうでないと。
最高です
予想外だった
コロセ連発で誤植を期待した俺は一体…
そして相変わらず氏の天狗社会は身内以外に容赦がないのであった
仮にもスペルカードルールに則った弾幕ごっこというぬるま湯に浸かっている弾幕少女達が、外の世界の殺しのスキルを有する異能者相手に、そうも一方的な結果になるほどの力の差があるのかと思いました
この場合は、外からの異能者が余りにも弱すぎたか、もしくは弾幕少女達がチート級に強いかのどちらかですよね?
後、霊夢や魔理沙の反応が、妙に人間味に欠けるというか…、まぁ、常に化け物達に囲まれて生活をしていたらあんな風になるのが普通なんですかね?
お話自体は面白かったです!
もし続編があるなら期待してます!b
大分早い段階で。
どうせならお菓子屋やってるアビスさん達を見たかったです
あとアビスじゃ無くてカラスでしたね
とにかく、文ちゃんに100点です。
あちらが物語そのものとしての完成度を求めたものに対して、こちらは『っぽさ』の再現度を重視しているように見えた。
技名や設定の『っぽさ』の再現度の手抜きの無さ具合が良い感じにきもちい。
個人的なわがままだが、主人公と文の対決で、スカッと腑に落ちるような、説得力のある決着があれば、なお気持良かったかも知れない。
続きあるなら、超期待
ここまでは良くも悪くも期待どおり、こっからどう突破してくれるか楽しみだ
羨ましいにもほどがある
このオリキャラ主人公にかつてないほど嫉妬したので
十点です。ある意味百点です
それを倒そうと頑張ってた正義の味方は騙されて惨殺されて喰われてしまうというこの理不尽さがたまらない
すらすらと最後まで読めた。
なかなか味のあるブラックでした。
素晴らしい
まさに真作を凌駕した贋作……って、全然褒め言葉になってねぇ。
とにかく楽しく読めました。龍魔君にはちょびっと同情しますけどね。
あと、やっぱり彼は事故のショックで白に近い銀髪設定なのでしょうか?
楽しみです。
氏のSSの派手さはもう誰にも真似ができないと思います!
きんぴかのアメ車とかグレッチ!何でも蹴散らしていくような文章が凄く心地よいです
ツボった