この作品は前作「ある少女の悲願的追求」のお話とつながっております。
先に前作を見ていただくことを推奨いたします。
「・・・。」
意識を、掌に集中させる。
掌から力を放出し、そのまま結界のゆるみを直していく。
たわんだ部分を、ゆっくりと引き延ばすように・・・。
「そうだメリー殿、その調子だ。」
後ろにいる人の声がそっと肩に手を添える。
・・・だんだんと、緩みが治ってくる。
「・・・っ。」
もう一息。
もう一寸。
「・・・よろしい、もう大丈夫ですよ。」
「は、はい・・・。」
そう言われて、体の力を抜く。
途端、掌に集まっていた力が霧散した。
「御苦労さまです。結界の修復も力のコントロールも一人前ですね。」
「ええ。ありがとうございます、藍さん。」
後ろにいる藍さんがそっとほほ笑む。
「うん、6年でここまで力をつけるなんて・・・素晴らしいとしか言いようがありません。」
「そ、そんな・・・。」
「謙遜なさらないでください、これならば思ったよりも早く修行も終わりそうです。」
「!本当ですか!?」
「えぇ、それまで頑張ってくださいね。」
「・・・はい!」
幻想郷の人里から少し離れた場所。
結界の崩壊(してはいないけれど)によって生じたゆるみを修復し終えた。
ここにきてもう6年、ずいぶんと長い時間が過ぎた。
最初との3年は紫さんが付きっきりで力の制御訓練をしてくれた。
その後は藍さんと共に結界の修復の作業を行っている。
私を幻想郷へと誘った紫さんは現在も修復作業に追われており、家に帰ってくるのも月に数回程度になってしまった。
「メリー殿、買い物が終わりましたよ。」
「あ、はい。」
仕事を終えた後、私たちは人里で夕食の買い出しをしている。
「おじさん、これください。」
「あいよ!」
私は藍さんが戻ってきたのを確認するとアイスを買う。
私と紫さん、藍さんと家で待っている橙ちゃんに買っていくのだ。
「さて、そろそろ戻りましょうか。」
「えぇ。」
藍さんに乗せられて、私は家へと向かった。
「藍様にお姉ちゃん、おかえりー!」
「ただいま、橙。いい子にしてたかい?」
「はい!」
「ただいま橙ちゃん。」
マヨヒガへ帰ると、藍さんの式神である橙ちゃんに出迎えられた。
「はい、アイスを買ってきましたから一緒に食べましょ?」
「わーいやったぁ!」
「ふふ、それでは私は夕餉の支度をしますので。」
「はい、後で手伝いに行きますね。」
「そうしていただけると幸いです・・・橙、いい子にしてるんだよ?」
「はーい!」
そういって藍さんは台所へと向かっていった。
「じゃあ縁側にでも行きましょうか。」
「うん!」
びっと腕を上げて返事をする橙ちゃんに思わず苦笑してしまう。
シャクシャク。
「うーおいしいねー!」
「そうね、ひんやりしてて気持ちいいわ。」
買ってきたガ○ガ○クンソーダを2人で頬張る。
「シャクシャク・・・。」
「ふふ、あんまり焦って食べないでね。じゃないと・・・。」
「シャク・・・あ!うぅ・・・。」
突然橙ちゃんが頭を抱え出す。
「うぅ・・・いたいよぅ・・・。」
「ほらほら、一気に頬張るから・・・もう。」
そっと橙ちゃんの頭をなでる。
「ん・・・ありがとうメリーお姉ちゃん。」
「いいえ・・・ふふ。」
「?どうしたの?」
「いいえ、ちょっと昔のことを思い出してね・・・。」
「そっかー。」
暫く、アイスを食べていた私はそっと呟く。
「昔ね、大事な親友がいたの。」
「うん、聞いたよ?蓮子さんっていうんだよね?」
「そうそう。その蓮子がね、今の貴女見たくアイスを口いっぱいに頬張っては頭を押さえていたの。」
そうやって蓮子は何度も何度も、注意されても直さずに「キーン」と頭が痛くなるのであった。
「そうなんだ。」
「えぇ・・・今頃、どうしてるかしらね。」
夕焼け空を見上げてふと思う。
蓮子は今でも私のことを覚えているかしら?
もしかして、忘れているのかも・・・。
「・・・メリーお姉ちゃん?」
「え?・・・あぁ、ごめんなさい。」
「・・・大丈夫!絶対蓮子さんに会えるって!メリーお姉ちゃん修行すっごく頑張ってるじゃん!」
「橙ちゃん・・・ありがとう。」
「うん・・・えへへ。」
頭をなでてあげると、橙ちゃんが照れくさそうに笑う。
「・・・あーまたはずれだ。」
照れ隠しにアイスの棒を見てそう呟く橙ちゃん。
「あらあら・・・。」
「私、この当り棒ってやつ一度も見たことないの。」
「そうなの・・・私も、特定の時しか見ないわね。ここに来てからは一度も見てないわ。」
「どんな時?」
「そうね・・・必ず起こることなんだけど。」
残ったアイスを口に放り込む。
「蓮子と同じ時に買ったガ○ガ○クンは必ず当たるのよ。」
「えーほんと!?」
「えぇ、別々の店で同じ時間に買ってもそうだったのよ。」
「すっごーい!魔法みたいだね!」
「そうね。」
だけど、ここ6年は見たこともない。
・・・蓮子は買ってないのかしら。
それともやっぱり・・・。
「・・・あ!お姉ちゃん、アイスの棒見てみて!」
「え?」
橙ちゃんがせかすのでアイス棒を見てみると・・・。
「・・・あ。」
~
「蓮子教授ー。」
「ん、何美羽さん?」
「この社って何でしょうか?」
ゼミの生徒である美羽さんが古く苔の生えた社を指さす。
「資料にも詳しくは載ってませんし・・・そもそもここって何なのでしょうか?」
「さあねぇ・・・。」
「さあねぇ、って蓮子さんやる気あります?」
「ないわ・・・このクソ暑い中での実地なんて誰が考えたのかしら・・・ねぇ山野くん。」
「蓮子さんですよ。」
「そうねー・・・どうして実地にしたのかしら・・・。」
だらりとうなだれる。
日陰に避難しているものの、夏の蒸し暑い空気が肌に纏わりつく。
「まったく・・・ってまたアイス買ってますね。」
「あったりまえよー・・・ちょっと休憩しましょ、休憩。」
「さ、賛成です・・・。」
「まったく。」
2人が日陰に避難すると、私は買ってきたアイスと2人に差し出す。
「ってまたガ○ガ○クンソーダですか?」
「そうよーだめ?」
「ダメじゃないですけど・・・。」
「うーん、冷たくておいしいです。」
「ねーやっぱ夏はガ○ガ○クンソーダが一番!」
3人でシャクシャクとアイスを貪る。
熱い体にしみこんでいくようだ。
「シャクシャクシャク・・・ぐ!」
「?」
「うー・・・頭、いたい・・・キーンってなった。」
「蓮子さんががっつくからじゃないですか。自業自得です」
「・・・ひどいや山野くん・・・。」
涙目になりながら、それでもアイスにパクつく。
「・・・そういえば、蓮子教授。ここってどんなところなんですか?」
「んー、ここ?」
「今回も不思議探しですか?」
「うーん・・・。」
口にくわえていたアイスを放す。
「100年くらい前・・・。」
パタパタと手で仰ぎながら話し始める。
「ここはもともと神道を信仰している人たちの集落みたいな場所だったらしいの。それが、一夜にして跡形もなく消え果てた。」
「え?それって・・・。」
「まぁ、村が丸ごと神隠しってわけね。」
「へぇ・・・すごいお話ですね。」
「証拠も消えた理由も何もないけどね。」
「・・・。」
「?どうしたの山野君?考え込んじゃって。」
「え、なんでもないですよ?」
「大丈夫?暑さで体壊した?」
美羽さんが心配そうに山野くんの顔を覗き込む。
「や!大丈夫です!大丈夫ですから・・・。」
山野くんが焦って彼女から身を引く。
「・・・はっはーん。」
「な、なんですか蓮子さん?」
「いいえー別に。ただ若いっていいなーって。」
「!?」
「ほぇ?どういうことですか?」
「さぁ、山野くんに聞いてみたら?」
「??」
「あー暑いですねー。」
山野くんが照れ隠しにアイスを猛然とした勢いで頬張る。
「??変な山野くん。」
美羽さんもアイスを口に運ぶ。
「あー・・・またはずれだ。」
「・・・僕のもはずれです。」
2人はアイスの当たり棒を見てそっと呟く。
「あらら、残念ね・・・私もしばらくアイスの当たり棒なんて見てないわねー。」
私も残ったアイスを口に放る。
・・・そういえばメリーがいたころは当たりばかりを引いていた気がしたわ。
メリーと同じタイミングでこれを買うと、必ず、百発百中で当たり棒が出ていた。
ためしに別の場所で同じものを買って合流した時、見事に当たりを出したものだ。
・・・でもメリーがいなくなってからは見なくなった。
向こうにはガ○ガ○クンは置いていないのかしら?
「蓮子教授のは当たったんですか?」
「え?・・・あー、どれどれ。」
いつの間にか2人が顔を覗き込んでいた。
何時の間にか考え込んでいたようだ。
そっと、手にあるアイスの棒を裏返す・・・。
「あ!」
~
そこには、
たしかに、
「あたり」の3文字が書かれていた。
「「当たった!」」
夏空の下、2人は今も繋がっている。
Fin
頬張ってわ頭を押さえて→頬張っては頭を押さえて
して再開シーンは?→して再会シーンは?
あとは自信ないけど
別々の時店で同じ時間に→別々の店で同じ時間に
かな?
学生から6年で教授ってことは、蓮子はかなりのハイパースペックだったのですね
抱き合って喜ぶ二人とそれを見守る八雲一家、驚いている山野くんと美羽さんまでは夢想しました
夢と現が重なる所では、境界を越えて繋がるものがあるんですね。
例えばそれは……
ところで、作者様がコメントされている後付けという言葉ですが、
アイスの当たりの伏線化と回収を指すならとても上手なオチだと思いますし、
お話自体を指すなら、そんな事はありません大歓迎ですよ。と、言いたいです。
最後にガ○ガ○君ソーダ味よ、君はもはや私にとって第三の主役といっていい存在になったよ。
二人は確かに繋がってるんですね。
最初は伏字に笑ってしまったガ○ガ○クンですが、ここまでいい仕事をするようになるとは思いませんでした。
しばらくガ○ガ○クンが幻想になってしまうことはなさそうですね。
でもこれで終わりだと物足りないなあ
前作から察するにドシリアスかガチバトルな展開にでもならないと2人は再会出来ないんじゃないかって気がしてたからか
終わり方が爽快で好きだけどもう少し続いて欲しかったかな
再会出来たにしても出来なかった・諦めたにしても
最終的にどうなるのかはともかく、二人の繋がりが途切れていなくて良かった……。
あと、まだまだ肌寒いのにガ○ガ○君が食べたくなりましたw
ガ○○リクン、無性に食べたくなったので買いに行きます
ごちそうさま。
素晴らしい作品でした。