月没の時間はとうに過ぎ、もう間もなく太陽が顔を出す、そんな時分。
気の早い鶏がようやく鳴き始めるこの時間に、明かりのついた部屋が一つ。部屋の中には女性が二人、大画面液晶テレビの前に座っていた。
テレビの画面には素早く動き回るロボットの姿。アニメや映画などではない。
今、この二人――いや一人はテレビゲームを楽しんでいた。
「4対2!?じょ・・冗談じゃ・・!?」
コントローラーを握っている女性、『岡崎夢美』が狼狽する。目にははっきりと隈ができており、彼女の疲労の様を窺わせる。
彼女の隣に座る少女『北白河ちゆり』も同様に隈を作っており、疲労困憊といった様子だ。
「教授~~もう止めましょうよ~~」
「ちょ・・・とっ・・・まっ・・・てっ・・・!!」
必死の形相でコントローラーを操作する岡崎夢美。
現在彼女らが行っているゲームはPS3、そしてXbox360のソフトである「アーマード・コアfor Answer」
通常ならクリアに一週間以上はかかるであろうそれを彼女らはたった二日でクリアしようとしていた。もちろん二日連続徹夜である。
今まさに最後のミッション、画面は6機ものネクストが飛び交う支離滅裂の乱戦状態。
「なにこれ!?無理ゲーでしょ!!・・・あっ、古王死んだ!!」
「教授~」
訴えるような少女の言葉は、もはや届かない。
今ここにいるのは
――数世代先の科学を操る天才、岡崎夢美
ではなく
――コジマ汚染が脳まで回った、哀れな汚染患者
である。
「・・・・やられた」
ゴトリ、とコントローラーを置く音。岡崎夢美は震えていた。
「この私が・・・なんという屈辱・・・!!」
こぶしを握りワナワナと震える。48時間ぶっ通しで開いていたその目に先程までの疲労の影はない。
「・・・あ、あの~教授?」
「ちゆり、このミッションに出てくる敵ネクストの詳細を調べなさい!!今すぐ!!ハリー!ハリーハリー!!ハリーハリーハリー!!!」
「・・・・・・もう・・・ゴールしてもいいよね・・・・」
―――少女は考えることを止めた。
同日正午過ぎ、ある大学の食堂にて。
「・・・・で?」
窓際の席に座る男女二人。男は椅子に背を預けコーヒーを啜り、女は机に突っ伏して、呻く。
「うぅ~~・・・・」
「そのまま今までずっと for Answer か?・・・しかもクリアできなかった、と。」
「うぅぅう~~」
「ちゆりはどうしたんだ、一緒にやってたんだろ?」
「・・・・ちゆりは寝てる・・・部屋で・・・」
「・・・・気の毒に」
彼、もとい『久世』は机で呻いている彼女に心底呆れたような視線を向ける。半分ほど中身の減ったコーヒーを机へ置き、一息
「昨日も研究室に来ていなかったから、何事かと思えば・・・」
「・・・最後のミッションがどうしてもクリアできないのよ」
そう言った彼女は突っ伏したまま、ドンドンと机をたたき始めた。
「だいたいこっちの武器が弱すぎるのよ。コジマ粒子なんて便利なものがあるんだから、もっと高性能な武器があってもいいはずよ。」
「・・・コジマキャノンがあるじゃないか。」
「・・・まあ、威力は何とか及第点ってところかしら。・・・・・でもね」
ドンッと大きく机をたたいた後
「あれは欠陥品よ。チャージが必要だし、命中精度も燃費も悪い。私だったらもっといいものを作れるわ。それこそネクスト数十体を一瞬で塵にするような兵器をね。」
「恐ろしいことを言うな・・・後、机をたたくのを止めろ、コーヒーがこぼれる。」
「・・・・ごめん」
そう言って再び机の上に組んでいる腕の中へ顔を埋める。
対する久世は顔にびっしりと冷や汗を掻いていた。無表情で。
彼がなぜかこんな顔をしているのかというと、先ほど彼女の言った
――私だったらもっといいものを作れるわ。
この言葉が彼を本気でビビらせていた。
『岡崎夢美』は数世代先の科学を操る天才。彼女の操る科学はもはや魔法の域まで達している。核エネルギーで動くアンドロイド、発射施設が必要ない小型ICBM、果ては並行世界への移動などなど・・・・
(こいつが言ったら冗談に聞こえん・・・)
「岡崎」
「・・・・んぅ」
「コジマ兵器なんて絶対に作るなよ。いいな、絶対だぞ。」
「久世、それは振りかしら。」
――やめろ、そんな期待に満ちた瞳でこっちを見るな
「馬鹿、大マジだ。」
「わかったわよ・・・」
彼女の体がさらに机へと沈む。今この瞬間、彼は世界を救った―――かもしれない。
「とにかく、お前も休んだほうがいい。」
「・・・そうね」
彼女が立ち上がる。相変わらずその挙動は危なっかしく、何もないところでも転んでしまいそうだ。
「一人で大丈夫か?」
心配になった彼が思わず声をかけた。その言葉に彼女は振り向き、何かを期待するような眼で彼を見た。
「・・・送ってくれる?」
「ああ、途中の溝渠で溺死されても困るしな。」
「いくらなんでもそれはないわよ。」
「どうだか。今のお前はメインブースターがイカれてるじゃないか。」
「・・・ぅ」
二人は会計を済まし、外へ出る。
少し世界が危機にさらされたが、なんのことはない。これが彼らの日常であった。
気の早い鶏がようやく鳴き始めるこの時間に、明かりのついた部屋が一つ。部屋の中には女性が二人、大画面液晶テレビの前に座っていた。
テレビの画面には素早く動き回るロボットの姿。アニメや映画などではない。
今、この二人――いや一人はテレビゲームを楽しんでいた。
「4対2!?じょ・・冗談じゃ・・!?」
コントローラーを握っている女性、『岡崎夢美』が狼狽する。目にははっきりと隈ができており、彼女の疲労の様を窺わせる。
彼女の隣に座る少女『北白河ちゆり』も同様に隈を作っており、疲労困憊といった様子だ。
「教授~~もう止めましょうよ~~」
「ちょ・・・とっ・・・まっ・・・てっ・・・!!」
必死の形相でコントローラーを操作する岡崎夢美。
現在彼女らが行っているゲームはPS3、そしてXbox360のソフトである「アーマード・コアfor Answer」
通常ならクリアに一週間以上はかかるであろうそれを彼女らはたった二日でクリアしようとしていた。もちろん二日連続徹夜である。
今まさに最後のミッション、画面は6機ものネクストが飛び交う支離滅裂の乱戦状態。
「なにこれ!?無理ゲーでしょ!!・・・あっ、古王死んだ!!」
「教授~」
訴えるような少女の言葉は、もはや届かない。
今ここにいるのは
――数世代先の科学を操る天才、岡崎夢美
ではなく
――コジマ汚染が脳まで回った、哀れな汚染患者
である。
「・・・・やられた」
ゴトリ、とコントローラーを置く音。岡崎夢美は震えていた。
「この私が・・・なんという屈辱・・・!!」
こぶしを握りワナワナと震える。48時間ぶっ通しで開いていたその目に先程までの疲労の影はない。
「・・・あ、あの~教授?」
「ちゆり、このミッションに出てくる敵ネクストの詳細を調べなさい!!今すぐ!!ハリー!ハリーハリー!!ハリーハリーハリー!!!」
「・・・・・・もう・・・ゴールしてもいいよね・・・・」
―――少女は考えることを止めた。
同日正午過ぎ、ある大学の食堂にて。
「・・・・で?」
窓際の席に座る男女二人。男は椅子に背を預けコーヒーを啜り、女は机に突っ伏して、呻く。
「うぅ~~・・・・」
「そのまま今までずっと for Answer か?・・・しかもクリアできなかった、と。」
「うぅぅう~~」
「ちゆりはどうしたんだ、一緒にやってたんだろ?」
「・・・・ちゆりは寝てる・・・部屋で・・・」
「・・・・気の毒に」
彼、もとい『久世』は机で呻いている彼女に心底呆れたような視線を向ける。半分ほど中身の減ったコーヒーを机へ置き、一息
「昨日も研究室に来ていなかったから、何事かと思えば・・・」
「・・・最後のミッションがどうしてもクリアできないのよ」
そう言った彼女は突っ伏したまま、ドンドンと机をたたき始めた。
「だいたいこっちの武器が弱すぎるのよ。コジマ粒子なんて便利なものがあるんだから、もっと高性能な武器があってもいいはずよ。」
「・・・コジマキャノンがあるじゃないか。」
「・・・まあ、威力は何とか及第点ってところかしら。・・・・・でもね」
ドンッと大きく机をたたいた後
「あれは欠陥品よ。チャージが必要だし、命中精度も燃費も悪い。私だったらもっといいものを作れるわ。それこそネクスト数十体を一瞬で塵にするような兵器をね。」
「恐ろしいことを言うな・・・後、机をたたくのを止めろ、コーヒーがこぼれる。」
「・・・・ごめん」
そう言って再び机の上に組んでいる腕の中へ顔を埋める。
対する久世は顔にびっしりと冷や汗を掻いていた。無表情で。
彼がなぜかこんな顔をしているのかというと、先ほど彼女の言った
――私だったらもっといいものを作れるわ。
この言葉が彼を本気でビビらせていた。
『岡崎夢美』は数世代先の科学を操る天才。彼女の操る科学はもはや魔法の域まで達している。核エネルギーで動くアンドロイド、発射施設が必要ない小型ICBM、果ては並行世界への移動などなど・・・・
(こいつが言ったら冗談に聞こえん・・・)
「岡崎」
「・・・・んぅ」
「コジマ兵器なんて絶対に作るなよ。いいな、絶対だぞ。」
「久世、それは振りかしら。」
――やめろ、そんな期待に満ちた瞳でこっちを見るな
「馬鹿、大マジだ。」
「わかったわよ・・・」
彼女の体がさらに机へと沈む。今この瞬間、彼は世界を救った―――かもしれない。
「とにかく、お前も休んだほうがいい。」
「・・・そうね」
彼女が立ち上がる。相変わらずその挙動は危なっかしく、何もないところでも転んでしまいそうだ。
「一人で大丈夫か?」
心配になった彼が思わず声をかけた。その言葉に彼女は振り向き、何かを期待するような眼で彼を見た。
「・・・送ってくれる?」
「ああ、途中の溝渠で溺死されても困るしな。」
「いくらなんでもそれはないわよ。」
「どうだか。今のお前はメインブースターがイカれてるじゃないか。」
「・・・ぅ」
二人は会計を済まし、外へ出る。
少し世界が危機にさらされたが、なんのことはない。これが彼らの日常であった。
あとあなたの近況報告なんてどうでもいいです。
以後気をつけたいと思います。
本当にありがとうございました。