Coolier - 新生・東方創想話

守るモノ 1st

2010/06/28 23:14:00
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原作について完璧な知識を持っていない者が書いた駄文です。勝手な設定や、口調が違うといった部分が見受けられます。それでもかまわないという方のみ読み進めてください。





 僕、森近霖之助は非常に困っている。それは紛れも無く、目の前にいる少女のせいだった。
「香霖ー、お茶ぁー」
商品の壷を指定席よろしく占拠して、これまた商品の本を我が物顔で読んでいる。あまつさえ、お茶を要求してくる辺り、最早これが当然かの様にさえ思えて来る。
「聞こえてるだろー?お茶ぁー」
こうなったらため息をつくぐらいの抵抗しか出来ない。本日何度目かもわからないお茶の注文を叶えに、番頭台を後にする。
「全く、昔はこんなんじゃなかったんだがなぁ…」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何も。煎れてきてあげるから魔理沙は待ってなさい」
魔理沙と呼ばれた少女は「よろしくだぜ!」と敬礼をしながらウインクをした。後、魔理沙。敬礼は右手でするものだから。
 さて、ここで今日を振り返ってみよう。今日も普段と変わらない一日を過ごすつもりだった。番頭台に座り、なかなか来ない客を待ちつつ、読書に明け暮れる。たまにお茶や商品を略取していく紅白と白黒が僕の平穏を奪っていくけれど。あぁ、後取引相手の胡散臭いスキマ妖怪もいたな。おっと、話が逸れた。事が動いたのは今日の昼食をどうしようかなどと考えていた時だった。来客を知らせるカウベルが静かに店内に響いた。僕はすぐには「いらっしゃっい」とは言わない。略取していく者や僕に用事がある場合は向こうから用件を言ってくれるからだ。僅かでも沈黙があれば客とわかる。これは僕の経験的統計によるものだ。だが、今回はそれが外れた。いや、ある意味当たったかもしれない。しばらくの沈黙を確認した僕は「いらっしゃい」と言いながら背を向けていた、客のいるであろう方向を向いた。
「香霖!」
「!?」
振り返っると番頭台に両手をついた魔理沙がいた。瞬きの風を感じる程にその距離は近い。
「ど、どうしたんだい魔理沙?」
「助けてくれ、香霖」
近すぎてよくわからないが、声の調子や目を見る限りかなり切羽詰まった状況な様だ。
「匿うのは御免だよ。何で僕がキミの尻拭いを…」
「違うんだ香霖!今回は誰にも迷惑をかけちゃいないんだ。いや…香霖にはかけちまうんだが…」
僕は意味不明な魔理沙の言葉に首を傾げた。
「とりあえず、魔理沙。話をするには些か顔が近すぎやしないかい?」
そう言うと魔理沙の顔は火を噴いた様に真っ赤にさせて、俯きながら三歩下がった。
「ご、ごご、ごめんだぜ…」
帽子を目深に被り直して、出した声は上ずって聞こえた。やれやれ、また何か仕出かしたなこの娘は。一体何をやってくれたのやら。
「実は、今朝から魔法が使えなくなっちまったんだぜ」
「そうか、魔法がねぇ…」
ん?魔法が使えないだと?この娘は【普通の魔法使い 霧雨魔理沙】で、【魔法を使う程度の能力】があるのではないのか?いや、むしろそうでないはずがない。小さい頃から魔理沙を見てきた僕だ。この娘の努力の尋常じゃなさだって知っている。彼女にとって魔法とは憧れであり、努力の結晶であったはずだ。その魔法が使えないとはこれ如何に。そう思案を巡らせると、僕の顔が驚愕に支配されていくのを自覚した。
「…一体何があったんだい?詳しく聞かせてくれないか?」
「勿論だぜ!その為に香霖に会いに来たんだからな」
 話はそう難しくは無かった。要は朝起きたら八卦炉が使えない事に気づき、最初は故障かと思ったら今度は箒で跳べない事に気づいた。こればっかりはおかしいと思い、僕の所へ来たと言う訳だ。
「道中、何もなくてよかった。徒歩で来たんだろう?」
「えっ?まぁ、そうだな。と言っても、幻想郷に名を轟かす魔理沙さんを襲おうなんて輩はいないだろうがな!」
親父さんとそっくりにガハハハと笑っている魔理沙を見て、僕は番頭台を立った。そして、魔理沙へと歩を進める。
「何てったって、一時期幻想郷最速だったんだぜ?今は烏天狗の方が速いけど…。でもいつか追い越してや」
そこまで言った所で魔理沙は言葉を止めた。いや、僕が止めさせた。
「全く、無茶をして。無事で本当によかった」
「香霖…」
僕は無心で魔理沙を抱きしめていた、簡単に壊れてしまいそうな華奢なその身体を。抱きしめた拍子で帽子は床に落ちた。露になったその顔は泣きそうに目を充血させていた。
「怖かっただろう」
質問では無く、確認。下唇を噛み、魔理沙は顔を僕の胸へ押し付けた。僕の言葉がきっかけになり、関を切った様に魔理沙の口から嗚咽が溢れ、僕の胸はすべてを受け止めた。

 お茶を運んで番頭台に二つ湯呑みを並べる。一つは茸の柄が入った魔理沙専用湯呑み。魔理沙には隠しているが、僕は今でも霧雨の親父さんと定期的に会っている。子煩悩で世話好きな親父さんが魔理沙を勘当したとは最初は驚いたが、後に会うと彼なりの魔理沙への思いやりらしい。霧雨の名を気にすることなく自由に生きて欲しいと、酒に酔い号泣しながら語った親父さんの顔は一生忘れないだろう。そんな親父さんから心配する気持ちとして、この湯呑みは贈られた。魔理沙には僕からだと言ってあるのだが。
 そういえば、原因については昼食を取りながら話したが(原因は結局不明)、ふと些細な疑問が浮かんだ。
「はい、お茶がはいったよ」
「サンキューだぜ」
魔理沙は本から目を離すことなく、湯呑みに手を伸ばした、検討違いな方向ではあるが。
「そういえば、魔理沙。何で僕の所へ来たんだ?」
魔理沙の肩が大きく上下する。そんなに驚く質問だっただろうか?
「何でって、何でだぜ?」
「君の家からなら、アリスの家の方が格段に近いだろう?それに同じ魔法使いじゃないか。魔法使いと言えば紅魔館のパチュリーだってそうじゃないかい?」
はぁ… と魔理沙はため息をついた。む、そんな対応じゃなくてもいいじゃないか。
「アリスは今、里帰り中だ。しばらく帰ってこないって言い残して昨日出発したぜ。パチュリーんとこはまず無理だ」
「どうしてだい?本の事なら、君の自業自得だろう」
「違うぜ香霖。本の事はどうでもいい。パチュリーも案外私を気に入ってくれてるからな。問題はそこじゃない」
「済まない、わからないな」
魔理沙は肩を竦めて、やれやれと言うポーズをとる。
「紅魔館の前に広がってるのはなんだ?」
「あぁ、なるほど。済まないね」
 そこまで言われてやっと気づいた。確かにあの湖は早々渡れるものじゃない。天然の城壁と言えるだろう。ちなみに僕が紅魔館へ商品を届ける際は、【モーターボート】と言う小型の船を使う。空気を入れて本体を膨らませ、【電池】と言うもので動力を動かすのだそうだ。この【電池】がもっと高性能になれば【コンピューター】という式も動かせる様になるらしい。河童達の技術にはいつも舌を巻かせられる。因みに、リヤカーはチルノに氷の浮島を作ってもらい運ぶ。渡し賃は飴玉が数個で済む。チルノも悪戯好きだが、悪い子ではない。
「じゃあ、僕以外で魔理沙が魔法を使えないと知っている人は?」
「誰もいないぜ。もしかしたらこの会話を文の奴が盗み聞いてるかもな」
それなら、突撃取材にでも来てそうなものだが。あながち冗談とは言ってられないな。そう言って僕はカレンダーを見た。数日先までの予定を確認する為だ。
「ともかく、明日は鈴仙君が置き薬を見に来るからその時にでも相談してみようか。必要なら永遠亭に行く事になるかもしれない。まぁ、それまでに元に戻ればいいんだが。あんまり君の家を空けっぱなしにするのも良くないだろう?」
「ぃゃ、香霖とならずっと…」
湯呑みを口元に運んでる上に小声で語尾がよく聞こえない。とりあえず、しばらくはここに居てもらう必要があるだろう。当面の食糧と来客の準備は出来ている。今回はどちらかと言えば居候だろうが。
 今日は結局客は誰も来なかった。「今日も」ではない、「今日は」だと言うことを一応強調しておきたい。外に出していた暖簾を店の中へと片付ける。一方、魔理沙は台所で夕飯の準備をしてくれていた。相変わらず茸が多いが、味に申し分はない。この辺りは流石と言った所だろう。
「やはり、魔理沙の作る料理は美味しいな。また腕を上げているんじゃないかい?」
「褒めろ褒めろ」
本当に嬉しそうに笑う魔理沙を見て僕も自然と笑顔になる。
「こんなに美味しい料理を作る魔理沙だ。嫁に貰う男が羨ましいね」
「へっ!簡単に嫁に貰われる様な魔理沙さんじゃないぜ!」
「だが、片付けは出来る様に」
「五月蝿いぞ、香霖」
むすっとした顔になる魔理沙。それすらも僕を笑顔にしてくれる。大きくはなったが、やはりこういう所は子供だと思わせてくれる。こんなに笑いながら食べた夕食はいつぶりだろうか。
 魔理沙が風呂に入っている間に僕は筆を取った。一条の巻紙を出してつらつらと文字を書く。宛先は霧雨の親父さんだ。だと言うのも明日の晩に親父さんと食事をする約束だったのだ。だが、あんな状態の魔理沙を一人にはしておけない。かと言って会わせる訳にもいかない。仕方なく親父さんに事情を説明し、延期してもらいたい旨を手紙にした。その代わりと言っては何だが、買い出しの為魔理沙を人里に連れていくので後ろ姿ぐらいなら見せられるかもしれないとも書き加えた。これを、店先のポストに入れておく。こうしておくと、新聞屋が手紙を配達してくれるのだ。恐らく明日の昼頃には届くだろう。居間に戻り、落ち着いた所で魔理沙が風呂から上がって来た。
「はふー、いい湯だったぜー」
そこではっとした。彼女の寝巻きなど僕は用意していない。じゃあ、彼女は今何を身につけているのだろうか?お転婆なあの娘の事だ、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。これは、非常にまずい。この間約、コンマ二秒。反射的に僕は魔理沙が入ってくるであろう襖に背を向けた。と同時に魔理沙が居間に入って来た。
「風呂空いたぜ香霖って、何でそっぽ向いてんだぜ?」
「つかぬ事を聞くが、魔理沙。服はどうした?」
「あぁ、畳んでここに持ってるぜ。それがどうかしたか?」
「そうじゃない。僕は君の替えの服を用意していなかったと思うんだが」
 迂闊だった。風呂に入る様に言った所で気付くべきだった。森近霖之助最大の不覚だ。
「あぁ、それなら前からここに置いてた分を使ってるぜ」
「は?」
今、何と宣った?置いてた分だと?一体どういう事だ?
 僕はゆっくりと振り返った。何かあったらすぐに対処出来る準備も一緒に。
「変な香霖」
そこには薄黄緑のオーソドックスなパジャマ着た魔理沙がいた。
「お前、まさか変な想像とかしてたんじゃないよな」
「そんな目で人を見るんじゃない。僕は何もしてないよ」
お前が人間なのは半分だけだけどな、と言って僕の前に座った。僕も風呂に入る事にした。
 風呂から上がると僕の部屋に布団が敷いてあった、二人分。奥の布団には魔理沙がちょこんと座っていた。
「待ちくたびれたぜ、香霖。以外と風呂長いんだな」
「そうだろうか?普通だと思うが。ところで魔理沙、何で君はここにいるんだ?客間を用意しておいたはずだが?」
「いいじゃないか、減るもんじゃないし。久しぶりにな!」
客間から布団一式を運んで来るのは楽じゃないはずだ。ましてや、普通の女の子には。そこまでする必要があるのかと思ってしまう。
「全く、君はもう少し自分を大事にする必要があるんじゃないかい?弾幕ごっこにしろ、何にしろ」
「今は香霖に守って貰うからいいんだぜ!」
「うわっ!」
魔理沙が僕の腕を取り、強引に引き倒した。手前の布団に座り込む形になり、魔理沙と膝を突き合わせる様な形になる。一瞬目が合った。
「んじゃな、おやすみ香霖」
魔理沙はすぐに布団に潜りこんだ。やれやれ、「守ってもらう」か。いつもの君なら絶対に言わなさそうな台詞だ。全くもって似合わないな。
「おやすみ、魔理沙」
 僕は家の明かりを確認して回って、寝室に戻って来た。魔理沙はかけ布団を蹴飛ばして、パジャマが捲れおへそが見えていた。それを直して、肩まで布団をかけてやる。
「今は、僕が君を守るよ」
 布団に入ってから眠りに落ちるまでさして時間は要らなかった。
はじめまして、jazzと申します。今回初めて東方の二次創作を書きました。果たして、皆様の目にはどううつるのでしょうか。
この作品は3~4話で構成したいと思っています。どこまでのクオリティになるか分かりませんが、最後までお付き合いいただけるとうれしい限りです。

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ここまで読んでいただいた貴方へ最大級の感謝を。

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コメント



0.780簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
魔理霖しあわせですむにゃむにゃ
続き期待しています!
6.100名前が無い程度の能力削除
さて、続きを待つか…