オリジナル設定が出てきます。
また今回は過去話です。ご注意下さい。
なお、先に 今日は記念日~anniversary~ を読まれた方が良いと思います
ふぅ、とため息をついて机の上を見渡した。
今まで後回しにしてきた書類の山ついに牙をむいて私に襲いかかって来た。
こんなになるまで放っておいた私が悪いのだけど。
ダメだ、集中できない。取り敢えず紅茶を、と電話に手を伸ばす。
ニ回のコール音の後、
「はい」
と声が聞こえた。年長のメイドだ。
私は紅茶を持って来るように言って早々に電話を切った。
コンコン、とノック音がした。
声から一番若いメイドが持ってきたことが分かる。
私は彼女が来ることを見越していたので、用意していた煙草(パチュリー作。体に害のない、香の様なもの)を手に、背筋を伸ばして格好をつける。
「入りなさい」
メイドは微妙に震えながら紅茶を注いだ。恐らく震えていることに気付いてないんじゃないだろうか。
香を楽しんだ後、口をつける。
その途端、口の中に薔薇が広がった。今までに飲んだことの無い、途轍もない美味さだった。そう、これは朝食の時の。
たまらず声を掛ける。
「いいかしら?」
メイドは慌てて声を上げる。怯えているのか緊張しているのか。
誰が点てたのか、と訊ねれば彼女だという。
その返答に驚いた。彼女は確か12歳か13歳だったか。
その若さでこの紅茶を・・・本当に驚いた。そしてそれ以上に感心した。
その味を楽しみながら退出を許可する。
ふむ、と呟き彼女は決めた。
「よし、今日はあのメイドを観察しよう。そうしよう。書類は明日。ま~た明日っと」
蝙蝠に身を変化させ、メイドの後を付いていった。
メイドは図書室で仕事をしていた。天井に張り付いて様子を見る。
その仕事ぶりは驚く程に丁寧で、そして速かった。
それだけでなく、使用頻度の多い本ほどパチュリーの近くに置かれていた。
いつもパチュリーの身の回りに気を配っているのだろう事が察せた。
そうこうしている内にパチュリーが彼女に頼み事をした。
裏返った面白い声でメイドが反応する。本当に面白い奴だ。
「貴方の主人に言っておくから、放っといていいわよ」
こちらを見ながらパチュリーが言う。やはりバレていたか。
そして本棚の裏に回った時。
違和感が生じた。
それは瞬きの間に彼女の立ち位置が微妙にずれていた事。
そしてその腕に「レメゲトン」を抱えていた事。
三分ほど「う~ん」とか「ここかな?」等と呟きながらフラフラした後、パチュリーの元へ本を持っていった。
メイドが立ち去った後、元の姿に戻り、
「パチェ。今のわかる?」
「ええ。明らかに一瞬の内に何かがあった。如何やったのか、それが問題なのだけれど」
パチュリーは本の山を見ている。
「予想は付いているわ、パチェ。多分時を止めたのよ。それなら私の見ていた映像に説明が付く」
怪訝な顔でパチュリーが言う。
「・・・それは予想?」
「ええ。けど九割方間違いないと思う。・・・なぜ隠しているか、それも私は大体分かっているけど・・・」
浮かない顔のレミリアにパチュリーが言う。
「何を考えているの?」
「あの子を家族にしようかって思ってたの。少し前からね。だから今日確かめるために尾行してたのだけど・・・」
良くないわ・・・隠し事は、と呟きながら蝙蝠に変化し、レミリアは立ち去った。
「・・・何年ぶりかしら、レミィが家族を求めたのは。美鈴以来かしら?」
見つけた時、メイドは地下にいた。
部屋の隅にぶら下がり、彼女を探る。果たして彼女は自分の家族足り得るか。即ち、私を愛してくれるか、否か。
そして驚いた。フランが歌っている。今まで家族以外の前で、妹が声を出すなんて、まして歌うなど無かった事だ。
その後も驚きの連続だった。楽しげに会話する妹。内容は他愛ないこと。しかし、こんなに楽しげに会話する。妹を見るのはいつ振りか。そして、家族とですら、こんなに弾んだ声で話していただろうか?
会話が終わり、メイドが去った後、レミリアは部屋の中央で仁王立ちした。
「フラン」
声を掛ける。
「・・・あら、お姉さま。盗み聞き?趣味が悪いわね」
会話を聞かれたことに、少なからず立腹しているようだ。
「否定はできないわね。謝るわ」
別にいいよー、とフラン。
少し黙った後、レミリアは口を開いた。
「ねぇフラン。今のメイドに会いたい?」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げるフラン。
「そりゃあ会いたいけどさ。私ほど陽光に弱いとここから出れる頃には、もうあの子は寝ちゃってるよ」
「家の中をパチェの魔術で保護しながら、注意深く進めば会えない事もないわ。どう?会いたい?」
もちろん!と声が上がる。そして、けど、と続く。
「家族じゃないと私には合わせないって、お姉さま言ってたじゃない」
レミリアは短く言う。
「そういうことよ、フラン」
その言葉を理解した時、答えが帰って来た。
「会いたい。会いたいよ、姉さま」
さて、彼女を家族にすることはやぶさかでない、と言うか家族にしたい。
しかし。彼女は愛してくれるだろうか?レミリアはそういう部分で臆病なのだった。
昼食後、美鈴に近づきそっと喋りかける。
「美鈴?お願いがあるの」
「へ?なんですか?お嬢様」
この朗らかで裏表の無い従者はあの子と仲が良かったはずだ。
「悪いんだけど、あの子―――一番若いメイドが、私達をどう思っているのか、聞いてほしいの」
美鈴は首を傾げる。成程、この子は裏表がないから遠まわしでは伝わらないらしい。
「だからね、あの子を家族にしようと思うんだけど。あの子が私達を愛してくれるか?確かめたいのよ」
傾いでいた首がゆっくり戻り、成程、といった具合に手をたたいた後、眉間に皺が寄った。
「いやですよぅ。そんな探りを入れるような真似。嘘をつくのと同じ位したくないです」
「お願いよ美鈴。聞いてきてくれるだけでいいの。如何しろこうしろとは言わないから、ね」
少しばかり押し問答した後、美鈴は、ああ、そういえばこの人はこうなったら引かない人だったな、と思い出し諦めた。
「わかりましたよ。一応聞いてきます。でもきっとばれますよ。あの子察しが良いですから」
そう言って美鈴は出て行った。
その日の夕食時。私は家族だけを食堂に残した。最後の話し合いだ。
近くにメイドがいなくなってから、口を開いた。
「美鈴、どうだった?」
美鈴はその能力から、相手が嘘を付いているか?誤魔化そうとしているか?其れが本心か?分かるという。
その彼女が言った。
「彼女は愛してくれるか?でしたけど。
もう彼女は愛してくれていますよ」
パチュリーもその後に続く。
「ここ一年位かしら。本棚での探し物がとてもし易くなっていたわ。驚くほどにね。私が何を探すのか。分かっているかのようだった」
その身を隠していたフランドールも、現れて言う。
「あんなにお話しできるのはあの子だけだったよ。何回か他のメイドも来たけど、あの子だけだったよ!」
口々に皆が言う。
あとは・・・彼女がなんと言ってくれるか。
「美鈴。あの子を呼んで来て頂戴」
私達は私の自室にいる。
今美鈴はあのメイドを呼びに行っている。
もうすぐ現れるだろう。この扉を開いて。
彼女は私が問う、私の質問に本心で答えてくれるだろうか。
質問の中には彼女の失われた記憶から、トラウマを呼び起こす物も或る。
それでも、私の言葉に、彼女自身の言葉で返事をしてくれるだろうか。
そうであってほしいと思う。もしそうであったなら。
とっておきの名前をあげよう。字には欠けた月を。意味は満ちた月を。
そしてこの名をあげたのなら。
思いっきり甘えてやろう。そう思った。
また今回は過去話です。ご注意下さい。
なお、先に 今日は記念日~anniversary~ を読まれた方が良いと思います
ふぅ、とため息をついて机の上を見渡した。
今まで後回しにしてきた書類の山ついに牙をむいて私に襲いかかって来た。
こんなになるまで放っておいた私が悪いのだけど。
ダメだ、集中できない。取り敢えず紅茶を、と電話に手を伸ばす。
ニ回のコール音の後、
「はい」
と声が聞こえた。年長のメイドだ。
私は紅茶を持って来るように言って早々に電話を切った。
コンコン、とノック音がした。
声から一番若いメイドが持ってきたことが分かる。
私は彼女が来ることを見越していたので、用意していた煙草(パチュリー作。体に害のない、香の様なもの)を手に、背筋を伸ばして格好をつける。
「入りなさい」
メイドは微妙に震えながら紅茶を注いだ。恐らく震えていることに気付いてないんじゃないだろうか。
香を楽しんだ後、口をつける。
その途端、口の中に薔薇が広がった。今までに飲んだことの無い、途轍もない美味さだった。そう、これは朝食の時の。
たまらず声を掛ける。
「いいかしら?」
メイドは慌てて声を上げる。怯えているのか緊張しているのか。
誰が点てたのか、と訊ねれば彼女だという。
その返答に驚いた。彼女は確か12歳か13歳だったか。
その若さでこの紅茶を・・・本当に驚いた。そしてそれ以上に感心した。
その味を楽しみながら退出を許可する。
ふむ、と呟き彼女は決めた。
「よし、今日はあのメイドを観察しよう。そうしよう。書類は明日。ま~た明日っと」
蝙蝠に身を変化させ、メイドの後を付いていった。
メイドは図書室で仕事をしていた。天井に張り付いて様子を見る。
その仕事ぶりは驚く程に丁寧で、そして速かった。
それだけでなく、使用頻度の多い本ほどパチュリーの近くに置かれていた。
いつもパチュリーの身の回りに気を配っているのだろう事が察せた。
そうこうしている内にパチュリーが彼女に頼み事をした。
裏返った面白い声でメイドが反応する。本当に面白い奴だ。
「貴方の主人に言っておくから、放っといていいわよ」
こちらを見ながらパチュリーが言う。やはりバレていたか。
そして本棚の裏に回った時。
違和感が生じた。
それは瞬きの間に彼女の立ち位置が微妙にずれていた事。
そしてその腕に「レメゲトン」を抱えていた事。
三分ほど「う~ん」とか「ここかな?」等と呟きながらフラフラした後、パチュリーの元へ本を持っていった。
メイドが立ち去った後、元の姿に戻り、
「パチェ。今のわかる?」
「ええ。明らかに一瞬の内に何かがあった。如何やったのか、それが問題なのだけれど」
パチュリーは本の山を見ている。
「予想は付いているわ、パチェ。多分時を止めたのよ。それなら私の見ていた映像に説明が付く」
怪訝な顔でパチュリーが言う。
「・・・それは予想?」
「ええ。けど九割方間違いないと思う。・・・なぜ隠しているか、それも私は大体分かっているけど・・・」
浮かない顔のレミリアにパチュリーが言う。
「何を考えているの?」
「あの子を家族にしようかって思ってたの。少し前からね。だから今日確かめるために尾行してたのだけど・・・」
良くないわ・・・隠し事は、と呟きながら蝙蝠に変化し、レミリアは立ち去った。
「・・・何年ぶりかしら、レミィが家族を求めたのは。美鈴以来かしら?」
見つけた時、メイドは地下にいた。
部屋の隅にぶら下がり、彼女を探る。果たして彼女は自分の家族足り得るか。即ち、私を愛してくれるか、否か。
そして驚いた。フランが歌っている。今まで家族以外の前で、妹が声を出すなんて、まして歌うなど無かった事だ。
その後も驚きの連続だった。楽しげに会話する妹。内容は他愛ないこと。しかし、こんなに楽しげに会話する。妹を見るのはいつ振りか。そして、家族とですら、こんなに弾んだ声で話していただろうか?
会話が終わり、メイドが去った後、レミリアは部屋の中央で仁王立ちした。
「フラン」
声を掛ける。
「・・・あら、お姉さま。盗み聞き?趣味が悪いわね」
会話を聞かれたことに、少なからず立腹しているようだ。
「否定はできないわね。謝るわ」
別にいいよー、とフラン。
少し黙った後、レミリアは口を開いた。
「ねぇフラン。今のメイドに会いたい?」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げるフラン。
「そりゃあ会いたいけどさ。私ほど陽光に弱いとここから出れる頃には、もうあの子は寝ちゃってるよ」
「家の中をパチェの魔術で保護しながら、注意深く進めば会えない事もないわ。どう?会いたい?」
もちろん!と声が上がる。そして、けど、と続く。
「家族じゃないと私には合わせないって、お姉さま言ってたじゃない」
レミリアは短く言う。
「そういうことよ、フラン」
その言葉を理解した時、答えが帰って来た。
「会いたい。会いたいよ、姉さま」
さて、彼女を家族にすることはやぶさかでない、と言うか家族にしたい。
しかし。彼女は愛してくれるだろうか?レミリアはそういう部分で臆病なのだった。
昼食後、美鈴に近づきそっと喋りかける。
「美鈴?お願いがあるの」
「へ?なんですか?お嬢様」
この朗らかで裏表の無い従者はあの子と仲が良かったはずだ。
「悪いんだけど、あの子―――一番若いメイドが、私達をどう思っているのか、聞いてほしいの」
美鈴は首を傾げる。成程、この子は裏表がないから遠まわしでは伝わらないらしい。
「だからね、あの子を家族にしようと思うんだけど。あの子が私達を愛してくれるか?確かめたいのよ」
傾いでいた首がゆっくり戻り、成程、といった具合に手をたたいた後、眉間に皺が寄った。
「いやですよぅ。そんな探りを入れるような真似。嘘をつくのと同じ位したくないです」
「お願いよ美鈴。聞いてきてくれるだけでいいの。如何しろこうしろとは言わないから、ね」
少しばかり押し問答した後、美鈴は、ああ、そういえばこの人はこうなったら引かない人だったな、と思い出し諦めた。
「わかりましたよ。一応聞いてきます。でもきっとばれますよ。あの子察しが良いですから」
そう言って美鈴は出て行った。
その日の夕食時。私は家族だけを食堂に残した。最後の話し合いだ。
近くにメイドがいなくなってから、口を開いた。
「美鈴、どうだった?」
美鈴はその能力から、相手が嘘を付いているか?誤魔化そうとしているか?其れが本心か?分かるという。
その彼女が言った。
「彼女は愛してくれるか?でしたけど。
もう彼女は愛してくれていますよ」
パチュリーもその後に続く。
「ここ一年位かしら。本棚での探し物がとてもし易くなっていたわ。驚くほどにね。私が何を探すのか。分かっているかのようだった」
その身を隠していたフランドールも、現れて言う。
「あんなにお話しできるのはあの子だけだったよ。何回か他のメイドも来たけど、あの子だけだったよ!」
口々に皆が言う。
あとは・・・彼女がなんと言ってくれるか。
「美鈴。あの子を呼んで来て頂戴」
私達は私の自室にいる。
今美鈴はあのメイドを呼びに行っている。
もうすぐ現れるだろう。この扉を開いて。
彼女は私が問う、私の質問に本心で答えてくれるだろうか。
質問の中には彼女の失われた記憶から、トラウマを呼び起こす物も或る。
それでも、私の言葉に、彼女自身の言葉で返事をしてくれるだろうか。
そうであってほしいと思う。もしそうであったなら。
とっておきの名前をあげよう。字には欠けた月を。意味は満ちた月を。
そしてこの名をあげたのなら。
思いっきり甘えてやろう。そう思った。
みんな可愛いなぁもう。