「お暇をいただきたいと思います」
その言葉を聞いた時、私の心は不思議と落ち着いていた。
そのような予感はあったのだ。
「そう……」
悲しくないわけはない。引き止めたくないわけはない。
目をつむれば、一緒に過ごした日々がありありと浮かんでくる。
だけど、本人の意志は尊重せねばならない。
いつかはこういう日が来ると、わかっていた。
「わけを……わけを、聞かせてちょうだい。私たちは、うまくやってこれたでしょう? この白玉楼で毎日楽しく過ごせてたじゃない。何が悪かったの?」
それでも、それでも一緒にいたいと思う気持ちはごまかせない。
未練がましくも、そんなことを口にしてしまった。
「何が悪いなんてことはありません」
「じゃあ――!」
そんな私を制して、続けた。
「――幸せ、過ぎたのです」
「え?」
目の前の剣士は、ふと優しげな表情となった。
その視線は、どこか遠くを見ているように感じる。
「覚えていますか? 八雲の方々と一緒にしたお花見のこと」
「ええ、覚えているわ。あなたったら、お酒を飲みすぎて、ふらふらになっていたわよね。真っ白だったわよ」
「はは、お恥ずかしい。あの時は醜態を晒しました。それから、顕界に降りて、里の祭りに参加したりもしました」
「人がごった返していて、暑かったわね。冥界とは大違い」
屋台の焼きそばや、りんご飴がとてもおいしかった。
「それから、秋には妖怪の山で紅葉を眺めたりもしたわね」
「冬にはみんなでお鍋をつっついたりもしました」
「やたらと食べるお方がいらっしゃるので、大変でしたね」
「あは、は……」
それに関しては苦笑いしかできない。
楽しい思い出が、どんどん溢れてくる。
「……春夏秋冬、色んなことがありました。どれもこれも、宝石のように輝く思い出ばかりです」
「……楽しかったわね」
「ええ。私などには、もったいないくらいに」
はっきりと言える。
私たちは幸せだった。それの何がいけないのだろうか。
「……幸せなのは、いけないことなの?」
ぽつりとこぼした。
そんな私の質問に、ふるふる、と首を振った。
「そんなことはありません。人は、日々幸せを追いながら生きています。それは、冥界の住人とはいえ私たちにもいえるでしょう」
「なら……」
ですが、と続けた。
「私は剣士です」
そう言った表情は、誇りと自信が溢れていた。
「幸せを理由に、剣術を怠っていてはいけません」
「――――」
「剣士とは、どのような者のことをいうのでしょうか?」
突然の質問に、私は答えに窮してしまった。
「え、と。剣を持つ者……?」
「半分正解です。剣士とは、心に一本の剣を持つ者のことをいいます」
「心に剣を?」
「はい。如何なる時も、己の磨いた剣を頼りに行動する。弱きを助け、強きも助け、全てを背負っても折れないような、真っ直ぐな剣。そして、素直に助けを請うことができる、柔らかな強さを持つ者のことです」
「難しいわ……」
素直に認めた。私もまだまだ半人前だったみたいだ。
「私は剣士です。しかし、半人前の、未熟な剣士です。幸せの中にありながら、自分の剣を磨いていけるほど器用でもありませんし、才覚があるわけでもありません」
ですから――
「私は、幸せになるために、幸せを捨てます。そして、いつの日かきっと、その幸せを拾いに戻ってまいります」
その目は、微塵も揺らいではいなかった。
「あなたにも、きっといつかわかる時がくるでしょう。剣士には、時として何を犠牲にしてでも貫かなければならないことがあると。……何かを、守るために」
「何かを、守るため……」
少し、わかるような気がした。
「……ふふ」
「どうなされましたか?」
「いえ、あなたに教えられるようじゃ、私もまだまだ未熟ね」
「人は、誰しも未熟です。だから、頑張れる。もちろん……私も」
真っ直ぐに前を見据える視線に、私は何を言っても、目の前の頑固な半人前の考えを変えることなどできないと悟った。
「……決意は、固いのね」
「はい」
「それなら、私にそれを止める権利など、ありはしないわ」
「すみません」
「謝ることなんてないわ。一つ何かを決めたのなら、しっかりとやり遂げてきなさい。それが男の子ってものよ!」
「はは、男の子って年でもありませんが……ええ、精一杯やってきます!」
「さよならなんて言わない。『いってらっしゃい』よ。だから――」
ぎゅっと抱きしめ、一言。
「――絶対に『おかえり』って言わせて……」
泣き声を押し殺し、そう言った。
そんな、少女のような振る舞いに、向こうも力強く抱き返してくれた。
「……必ず」
それで、お終い。
どちらからともなく、すっと離れると、あとは笑顔。
私が、にっと笑ってみせると、向こうも同じように返してくれた。
「じゃあ……」
「はい」
すう、と息を吸い込み、大きな声で言った。
「いってらっしゃい! 頑張ってきなさい!」
「はい!」
そう言って、半霊はふよふよと白玉楼をあとにした。
おもしろかったです。
どゆこと?
てか表情あんの?抱き返せるの?
??
てっきり妖忌かと思ったらコレダモノ
しかし半霊いなくなったら半人前以下ダヨナ
また一つ微妙な知識が増えましたよ。
というか、ふよふよオプションの無い妖夢?
……やべぇ、人気投票やべぇよ作者様!
なにか…絶対になにかあるだろうとは思ってましたが……w
「えええぇ!?」って、声でちゃいましたよ!
「男の子」「って年でもない」で妖忌かな、と油断してたので、余計に…w
あぁもうホントに葉月さん大好きです、ありがとうございました!
見事にだまされましたwwwwwwwwwwwww
妖夢は、これでパワーダウンしたりはしないのだろうか?
何ィイ! 二度三度騙された!
半霊男の子なの? っていうことは妖夢(本体)も男の娘ってことなのか?!
……いやしかし、それもアリだな。っていうかむしろアリだ!!
そういえば「半霊『に』○○」っていうのは見ないけど「半霊『で』○○」っていう大きなお友達向けの本はよくあるもんな。やっぱり半霊は男の娘だ。
ありがとうございました!
>5
いまいち表現不足でしたね。
申し訳ないです。
>6
なんだってー!?
……あり!
>10
こんばんはづきー!
四分の一人前ですかね。
>コチドリさん
妖夢ピンチ!
人気も半分になっちゃいますか。
>mthyさん
こんばんはづきー!
ありがとうございます!
上手い具合にハマってもらえたようで嬉しいですw
>28
やったー!
狙い通りー!
>山の賢者さん
つまり今までは……
>ワレモノ中尉さん
パワー半減ですね。
黄昏さんどう出る!
>ぺ・四潤さん
夢が広がりますね……!
ありがとうございます!
もうちょっとシリアス風味にした方がオチが活きたかもしれないです。
ちょw
てへ。
いや、もう一捻りくらいありそうな…うーん…
なん……だと……?
なんだかわけのわからない感じになってしまいましたが、驚いてもらえたのなら何よりですw