「これで終わりだぜ」
どっちが空だか分からないほど、青々とした湖の上。
私の主人は慣れた手つきで、ポケットからミニ八卦炉を取り出した。
呪文を一言紡ぐたびに、魔力は光の粒となってミニ八卦炉に萃まってゆく。
恋の魔砲の向けられた先は、いつもの紅髪門番さん。
「させない! 今日こそ私は壁となり、山となってみせる! くらえ、星脈弾!」
ああ、なんてつまんない。どれだけこの展開を繰り返せば気が済むんだ。
主人のポケットの中で、私は今日もお留守番。
聞かされるのは、うんざりするほど繰り返されたあの名前であった。
「山だろうが木星だろうが関係ないな。届け、マスタースパーク!」
ほら、おんなじようにぶっといレーザーは出てくるし。おんなじように門番さんは吹っ飛ぶし。
おんなじように、私に出番は回ってきやしない。
私は、ずっとずっと待っているのだ。
主人の口から「アルティメットショートウェーブ」と宣言されるのを。
私の主人は、スペルカードの研究が半ば趣味になっていた。
中でも、「ボム」というタイプのものがたくさん開発されている。これは、主人を防護する機能のついた優れものである。
そう。私も、ボムの一つとして生まれてきたのだ。優れものなのだよ、私は。
私が生まれた時のこと。主人は私をそっと指で撫でてくれた。とろけるような優しい眼差しが、今でも忘れられないよ。
「そうだな……。よし、アルティメットショートウェーブなんてどうだ? うん、決まり! 我ながらいい名前だぜ」
主人から授かった名前を、私は誇りに思っている。
だってさ、強そうじゃん。アルティメットショートウェーブ。
主人のだーい好きな、何とかスパークと比べてみてよ。
ほら、想像して。スパークだよ、スパーク。スパークっていったらどんなの?
バチッ。
……それで終わり。火花じゃん。ただの火花じゃん。弱いよ、弱すぎるよスパーク。
それに引き換え、どうよ私。「アルティメット」なんて付いちゃったよ!?
究極だよ、究極。しかも、ウルトラどころかアルティメット。最高の最高の、そのまた最高ってぐらいを言ってるよ。
そしてショートウェーブ。電磁波と来たもんだ。ほら、電磁波ってどんなのよ。想像してよ、電磁波。
ズビビビビビ!
こんな感じでしょ、電磁波。しかもこの電磁波、波長が短いほど高エネルギーってとこがみそなのよ。
そう、私は究極のエナジーを秘める電磁波なのだ。
火花を表すマスタースパークでさえ、山を吹っ飛ばすほどの威力だ。
アルティメットショートウェーブなんて名前なら、一体どれだけ強力なのか。自分でも想像がつかない。
もっとも、一度も主人に使われたことがないから、分からないのだけど。
きっと、普段の生活ではマスパレベルで十分なのだろう。
主人の万一の時に備えられた、最大最強最高のボム。それが私なのだ、きっと。
……でも、いつまでたっても使われなくって。何だか寂しい。
いっつもいっつもマスタースパークばっかりひいきにして。
私は今日も、主人のポケットの中で震えながら寝るばかりだった。
何だか蒸し暑くなってきた。主人が夏だと言っていたから、きっともう夏なのだろう。
ここのところ雨続きで、主人もあまり外に出ていなかった。それがようやく、晴れ。
きっとどこかへ連れて行ってくれるに違いない。
「雨もあがったし……。今日は絶好のきのこ狩り日和だな。久しぶりだ、腕がなるぜー」
ドアから飛び出す瞬間に、主人と一緒に「行ってきます」と言っておいた。
生まれて初めての、夏。暗い森のはずなのに、きらきらとお日様の光が差し込んでくる。カードに染み付いた、嫌らしい湿気も吹き飛んじゃった。
ふわふわの空気、からっからの光。カードな私としては、あんまり日光に当たるのはよくないかな。でも、主人とお出かけというだけで、心がワルツを踊るのである。
ああ、今日は良い一日になるに違いない。すっかり、そう確信していた。
「くそ、さっきからうっとおしいぞ。何とかならないのか、こいつら!」
ところがどっこい、主人はどうもご機嫌斜めである。どうしたのだろう。今まで、こんなことは無かったはず。
手も足も、頭さえもじたばたさせて、心底迷惑がっている。いくら主人でもオーバーリアクションすぎる。何があったんだ。
「こいつらさえいなければ、この森、最高なんだけどなあ……」
いなくなっちまえばいいという、何やらぶっそうな発言だ。
一体どんなやつなんだ、主人をここまで怒らせてしまうやつは。
しかし、ポケットからのぞいてみても、何がいるのかよく分からない。主人、正体不明に悩まされているんじゃないの?
「おっと、そうだ! こんな時のためにこいつがいるじゃないか!」
ポケットに手を入れる主人。
……ああ、また始まったよ。どうせまたあいつを使って一掃するんだろう。
ほれ見ろ、今日も今日とて私はつままれて、ポケットの外に出されて……。
……う、うええ!?
なんということだ! 取り出されたのはマスタースパーク様じゃなくて、私!?
そのまま天高く掲げられる。葉の間から見えた青い空が、馬鹿みたいに眩しくって、透き通っている。
これから何が起こるのか、理解できてしまう。
その理解した瞬間に、心の底から高揚感で満たされていく。
宣言される。とうとう、この私が宣言される。
主人に注意して、耳を傾ける。
息を、すうっと飲み込むのが、聞こえた。
「果てまで進め! アルティメットショートウェーブ!」
にゃあああ! この展開をどれだけ待ったことか! どれだけ待ったことか! どれだけ待ったことか!
宣言された瞬間、魔力によって紡がれる、何千、何万という光線が炸裂する。
それらが七色に輝きながら、一瞬で森中にいきわたるほどに、つまりそれはもう爆発的に、拡散していくのであった。
虹という虹が森中を駆け巡って、駆け抜けて、駆け散らす!
こ、これが私の本当の姿なのね……!
幸せな時間というのは得てして一瞬だというが、本当にそう感じられた。二、三秒の出来事に感じられた。
気がつけば、私はただのカードで、主人のポケットに戻っていた。
ああ、運動ってすごく気持ちがいいんだね。森の中を一瞬で広がる、この爽快感。スペルカードでないと味わえないね。
……待てよ。私、今、森で使われたんだよね。
マスタースパークでも、森も焼き払えるはず。
私が使われたとなると……。もはや森が焦土と化しているのは確定。最悪、幻想郷全土が火の海に!?
し、しまった! 主人、なんてことを! なぜだ! なぜ私なんかを使った!
「おー、効き目抜群だな。コールドインフェルノなんかよりずっといいな」
……あん?
よく見れば、森はいつもの森だし。焼け跡一つ残ってないし、何だこりゃ。
それに、効き目抜群って……?
「いやあ、これ一枚で森全部、殺虫できちゃうんだもんな。いいもん作ったもんだ」
私のこと、言ってるんですよね? 私のこと、言ってるんですよね!?
い、嫌な予感がする。
私って、対人用に作られたんじゃないの?
自分のこと、光線型究極短波残酷紙片だと思ってたのに。これじゃあ一番前に「対虫用」ってつくじゃない!
弱そう! めっちゃ弱そう!
「よしよし、きのこもちゃんと傷んでないし。計画通りだな」
弱そうなんてどころじゃない! 実際弱かった! きのこすら倒せてなかったのか、私!?
というか、そのために生まれてきてしまったのか。
きのこ狩りで虫除けの、ただそれだけのために! それで、きのこさえ傷つけられない威力で……。
でも、それだけのために何で、アルティメットショートウェーブだなんて名前!
どうせなら、お徳用「お外でよく効く虫除けレーザー2ボムセット」とかでいいし!
ち、ちきしょー。無駄に無敵機能なんてつけやがって。ボムにする意味もないじゃない!
何だかひどく現実を突きつけられている気がする。夢でありますように。どうか夢でありますように。
……何か聞こえる。
現実逃避をしかかっていた私を引き戻すように、姦しい声が響きはじめた!
「魔理沙がいたよー! よくも私らの家を荒らしたなー!」
「お気に入りのお花が飛んでっちゃったじゃない!」
「とつげきとつげきー!」
「おおお? こいつぁ想定の範囲外だぞ」
妖精だ。妖精がぶいぶい言って主人に突撃しはじめる。と、同時に弾を撒き散らし始める!
その数、二、三十はくだらない。一匹だけなら少ない弾でも、これだけ集まれば避けようの無いレベルと化してしまう。
魔法の森にはたくさんの妖精が住んでるんだっけ。私のせいで、こいつらを怒らせてしまったのか!
「あいにく、準備万端じゃないが……。こいつを使うしかなさそうだな!」
うわわわ。またもや、主人が私を引きずり出してくる。また出番っすか!
今日で主人は2ボム。いやあ、大盤振る舞いではありませんか。
さっきはうまくいかなかったけど……。今度こそ、汚名返上してみせるよ!
「ほらほら、帰った帰った! アルティメットショートウェーブ!」
よし来た! 宣言されたからには、全力を出すのみ!
溢れ出すまばゆい光に、妖精たちも恐れおののいているではないか。
あちらこちらから撒き散らされた、ちっちゃな弾達もひとつ残らず消えていく。
すげー。私、ちゃんとボムしているじゃない。やりがいのある仕事です。弾を消すって大事だね。弾幕は避けるもんじゃないよ。消すもんだよ。
おっと!? どうやら刺激してしまったらしい。妖精が一匹、主人に向かって突進してきている!
何てこと! 私の力じゃ、もうあの子は倒せない!
このままじゃ主人がやられちゃう!
……いやいや、落ち着け。私がいるじゃないか。
ボムってのは、主人を守りぬく力が備わっているから、ボムなのだよ!
主人を守れないボムなんて、あったとしたら最悪最低の腐ったボムだよ!
「フェアリーキーック!」
「ぐへあー」
主人、普通に当たってるー! 軽く四、五メートルは吹っ飛んだよ!?
私、ちゃんとボムとして作動していたはずなのに! 主人、守れなかったー!
ごめんなさい! 生まれてきてごめんなさい! 最悪最低の腐ったボムでごめんなさい!
「やったー、当たった!」
「……つー、何てこと……」
「……えっと、大丈夫?」
「妖精なんぞに同情されたくないぜ」
わー。主人の声が低いよう。主人の心で、何か黒いものを燃やしてる音が聞こえるよう。
主人、お怒りモード。どうしよう。どうするといっても、どうすることもできない!
私は所詮、ただのカード。主人の思う通りにしか動くことのできない、操り人形なんだもん。
主人は今一度、私をつまんで、じっと見つめる。その視線は、冷め切っていた。
「くそ、こりゃ失敗作だな」
聞きたくない言葉だった。考えたくないことだった。
そう。私はボムとして欠陥品だった。主人を守る力の欠けた、欠陥カードだったのだ。
今、この瞬間。私と主人を繋ぐ操り糸が、主人の手によってぷちりと、断ち切られてしまった。
価値の無いただの紙切れであると、そう判断されてしまったのである。
理性では、理解できる。理解できるのだけれど、理解したくない。
心が、本能が、私を取り巻く運命を、否定したくてしかたない。否定しないと、心が押しつぶされてしまう!
図々しいって分かっている。駄目なやつだって分かっている。だとしても、不安で仕方なくて、心の最奥から叫んでしまう。
お願い、私を捨てないで!
白かった。
どこもかしこも白かった。
どん底もどん底の、絶望の淵の色は、黒ではなくて、白だった。
暗闇の中だったら、いつだって落ち着いて眠っていられるのになあ。
何もかもに切り離されて、宙ぶらりんのカードには、真っ白がお似合いだった。
主人に捨てられた私は、いつの間にかこんなおかしなところに迷い込んでしまった。
ほとんど、何も無い。目に見えるものも、音も、においも。重力だって、無いのかもしれない。
空っぽの頭で、ふよふよと散歩する。すると、ちらほらと色んなものが落ちていた。
髪も服も黒焦げの人形に、錆びついた大量のナイフ。
かたっぽだけの靴に、古ぼけた習字セットに、ずぶぬれのぬいぐるみに……。
私も、恐らくこういうやつらの一員となったのだ。
何も考えられないし、考えたくも無い。心が沈んでいるというより、びくとも動かない、動かしたくない。
ただ漠然と、白を眺めて、無音を聞く。そうしようと決めた時だった。
「初めまして、新入りさん」
私と同じ、カードがそこにいた。
初めて意思を持つものに出会って、少しびっくりしてしまった。
よく分からなくて、何も答えることが、できない。
それでもカードは、私に語りかけてきた。
「えっと。私、『封魔陣』ね。ふーちゃんでいいよ。一応、ボムなんだけど……。あなたも、そう?」
とりあえず、頷いておいた。
私の主人とは、ちょっと違ったネーミングセンスをしているな。
「……アルティメット、ショートウェーブ」
「あなたの名前? すごいな、強そうでいいなー」
「お願い、あんまり強そうな名前とか言わないで……」
「ふーん。でも、弱くったっていいじゃない。みんな同じような境遇なんだから」
「同じ? ……みんな?」
「そう。ここにいるのは、みーんな主人に捨てられたもの。物の天国とでも言ったらいいかしら?」
それってつまり、死んでるってことだよね。
でも確かに。物は主人の手を離れたら、死ぬしかないよ。
「封魔陣さんも、捨てられて?」
「ふーちゃんでいいってばー。そうね。私の場合、主人に贔屓されてるボムがいてさ」
「あ、私もそれ」
「しょーちゃんも? 私はその、夢想封印っていう有名なボムがあってね。それにお株取られっぱなしで……」
しょーちゃんって。勝手にあだ名を付けないでおくれよ。
まあ、自分のは長ったらしいから別にいいけどさ。
「多分、しょーちゃんの主人って魔理沙さんだよね? それじゃあやっぱり……」
「そう、マスタースパークってのに、ずっと悩まされてたの!」
自然と声が大きくなってしまった。私の根っこに火をつけるような話題だ。
思い返せば、全部マスパのせいのような気がしてくる。
今まで、こういう鬱憤を話せる相手がいなかった分、どんどん気持ちが昂ぶってしまう。
「いつでもかつでもマスパマスパ! 確かに強いかもしれないけど! 何でいっつもあればっかり!」
「あはは、なんてったって大スターだもんねえ。スペカ業界の」
「……ふーん、今でもマスパにご執心なんだ。主人が火力馬鹿だと困るよね。私も全然構ってくれなかった……」
おっと、いつの間にやら新しいカードさんが紛れていた。全然見えなかったのだけど。
名前はオプティカルカモフラージュというらしい。あれ、これってうちの主人のボムだっけ?
「『防御はやっぱり私に似合わない』とか言われて、すぐにポイだったよ、私……」
「おっちゃんにしかない魅力なのに、もったいないよねー」
おっちゃんて。嫌なネーミングだなあ。しょーちゃんで良かったー。
ふーちゃん、こうやって何人も、いや何枚も適当に名前付けてるのか。
「やっぱり、火力がないと駄目駄目なのかなあ……」
「しょーちゃん、それ言っちゃだめ! もしやつが聞いてたら……」
「火力があっても見捨てられるときゃ見捨てられるんだよおおおおお!」
警告された途端、新たなカードが手裏剣のごとく飛び込んできやがった!
何なんだこいつ。暑苦しい!
「俺はマスパよりも、ずっと強いんだぞ! なのになんで、なんで捨てるんだよおおおおお!」
「あー。こいつ、のんちゃんね。ノンディレクショナルレーザーでのんちゃん」
「え、えーと……。よろしく……」
「もっと胸元に飛び込んでぐりぐりしたかったのに! 主に亡霊嬢の胸元を堪能しながら一撃で吹き飛ばしたかった!」
「まあ、色んな仲間がいるから。仲良くね?」
「う、うん……」
仲良くといわれても、なんだか自信がなくなってきたぞ。おっちゃんに至っては、怯えて私の後ろに隠れてきたし。
のんちゃん、変なオーラが見えるしなあ。
ふーちゃんはふんわりお姉さんなオーラ。おっちゃんはか弱い女の子のオーラな感じだけどさ。
あいつは何か、日焼けした海パン一丁のむきむき野郎が浮かび上がるんだもん。
「捨てられるときは捨てられる、そういうもんじゃよ。ノンディレクショナルレーザーや」
「む、夢想妙珠さん!?」
今度はよぼよぼお爺ちゃんなオーラが見えてしまう。彼は「さん」付けなのですかそうですか。
皆、それぞれコンプレックスを持っているんだなあ。
私が来た途端にあちらこちらからぞろぞろ集まっては言いたいこと言ってくるんだもん。
「しょーちゃん、この方、夢想封印の一族!」
「そ、そうなの? やっぱり、強かったり?」
「わしも昔は強かったぞ? 本家夢想封印よりも、はるかにな」
「そ、そうなんですか?」
「じゃが……。いつだったかのう。神社が地震で壊れたあたりか。わしゃもう老いぼれでな、手札から真っ先に外される始末、とうとう捨てられ……」
そ、そういうパターンもあるのか。
最初は強かったのに、いつの間にか弱くなっている。うわあ、こっちのほうが嫌かもしれない。
「……強くなくて、良かったかもしれない」
「強かったのにうまくいかなくなるなんてショックだもんねー」
「そうだそうだ。どんなに強くたって捨てられる時は捨てられるさ! 俺がその証拠だ!」
ふーちゃんと話していたのに、突然マッチョマンが割り込んできた。
小麦色の肌に銀色に光る前歯がまぶしい。三方向レーザーで光らせるのはやめてくれ。
でも、言ってること自体は妙に説得力があるからむかつく。
「そう、全ては知名度によって踊らされる。ボムの扱いって、そんなものでしかない」
聞きなれない声。
なんだろうと思ってみんなを見ると、何だか驚いている様子。
またまた新たなカードさん。しかし、皆の様子が変だ。
「ミ、ミルさん!」
「ミルキーウェイさん!?」
「あ、あのミルキーウェイじゃと?」
「ごきげんよう、みんな。初めまして、新入りさん」
「は、初めまして……」
な、なんだこの扱いの違いは。ミルさんことミルキーウェイって、そんなにすごいボムなのか!?
ふむ……。名前の通り天の川が降り注いだら、確かに強そうだ。
どうなんだろ。とりあえずふーちゃんに聞いてみよう。
「す、すごい方なの?」
「すごいなんてもんじゃないよ! この方、私らよりはるかに知名度の低いボムでいらっしゃるの!」
「えー」
知名度が低いほど扱いがよくなるってどういうことだ。
とことん、不幸自慢な空気が漂っている。嫌な天国だなあ。
「ミルさん、教えてあげてくださいよー」
「また? そうね……。大昔に、人気スペカコンテストっていうのがあってね」
私みたいな、新入りが来るたび聞かせてるんだろうなあ。
それにしても、人気スペカコンテストなんてあったのか。今やったら、どうなるんだろうね。怖いけどちょっと気になる。
「マスタースパークは当然一位。四百票近く入ってた。これに対し、私は四票だったの」
「ひゃ、百分の一!?」
「そう、これが私の人気。知名度のかけらもありゃしない。主人でさえ私を忘れてたわ。何なのよメテオニックシャワーって。私を差し置いてあんなの作るなんてひどいにもほどがある。呪ってやる」
負のオーラが出血大サービスだあ。今なら藁人形もセットでついてくるよう。
ふむ、知名度ねえ……。
なんでマスパはあんなに伸びているのに、私達は駄目なんだろう……。
「ともかく、人気がないと生き残れない。この業界はそれが掟。受け入れるしか、ない」
受け入れるしかないって。本当に、そうなのかなあ。
なんだか変な違和感が胸の奥につっかかる。
ミルキーウェイさんの言葉に、おっちゃんがそっと付け足した。
「しょうがないよね。主人にもお気に入りってのがあるんだし」
「そうそう、人気になれないのが悪いんだし。本当、仕方ないよ」
ふーちゃんまで。人気になれないカードって、本当に悪いの?
贔屓されるのも、捨てられちゃうのも、私達が悪いからなんだろうか。
何か、変だ。
みんなの言ってることも一理あるかもしれないけれど、やっぱりおかしい。飲み込めない。
どう考えても、理不尽だよ。みんなは理不尽だと、思わないのかな。
「ねえ。仕方ないって、どういうこと?」
「どういうことって……。捨てられても、仕方ないよねって」
「……うん。おかしい。やっぱりおかしいよ、こんなこと!」
私達のほかに、主人のお気に入りがある。だから、私達が捨てられなくちゃならないなんて。
こんなの、どうかしている。そもそも、私達を生み出したのは、他ならぬ主人じゃないか!
「私達を作ったのは、主人なんだよね? なんで、その主人に捨てられなくちゃならないのさ!」
忘れかけていた、いや、忘れようとしていた感情が、どっと溢れてくる。
マスタースパークに、そして主人にも、この砂を噛むような思いをぶつけたい!
辛い目を見せたやつには、同じように辛い目に合わせたいよ。それで平等じゃない!
「弱いからだの、忘れちゃっただので捨てられるって嫌だよ! 作ったのは主人なんだよ、私達のせいじゃないのに!」
「しょ、しょーちゃん、落ち着いて!」
「落ち着きたくないよ! なんでみんな、そんな平然として! こんな扱い受けて、嫌だって思うでしょう!?」
ミルキーウェイさんが、私の前に静かに立った。
その声が、かすかに震えて聞こえる。
「諦めて、いるからよ」
「諦めてるって。どうして、それで平気なの!? 本当に私達、何もできないの!?」
「あのね。残念なことに、君と同じことを考えていた者が、いたんだよ」
ど、どういうこと……? 何がいいたいのか、まるでつかめない。
「私の、お姉ちゃん。名は、スターダストレヴァリエと言ったの」
「そ、それで何を……?」
「お姉ちゃんはマスパと同期でね。この頃から、彼のほうが扱いがよかったの」
「それじゃあ、やっぱり捨てられて……?」
「結構長いこと使われていたけど、とうとう、ね。それで、主人を信頼していたお姉ちゃんは、反逆に打って出た」
反逆だって。そんなこと、できるのか?
「で、できるの、そんなこと!?」
「カードには魔力が込められている。だからカードが捨てられた後も、主人の魔力が少しだけ残っているの。その一発分の魔力を、お姉ちゃんは主人にぶつけようとした」
カードが勝手に暴走する。
私達が直接、主人を攻撃することができる!
……おお。これだ、これしかない!
「でも、全くの無駄だった。お姉ちゃんだって、ボムだもの。発動した瞬間、主人の防護機能もまた、同時に発動してしまう」
「つまり、無傷……」
「その通り。その後、お姉ちゃんは魔力の失った、ただの紙切れに戻ってしまったの。分かる? 主人に対して反逆するなんて、無駄なことだって証明されたの」
「しょーちゃんの気持ちは分かるけど、私達はおとなしくするしかないのよ」
むう、確かにふーちゃんの言うとおり、おとなしくするしかなさそうだ。
どんなに歯向かったとしても、無駄撃ちなんじゃ……。
って、ふーちゃん? ふーちゃん……。そうだ、ふーちゃんがいるじゃないか!
「ねえふーちゃん。ふーちゃんの主人って……。私達の主人とは違う人なんだよね?」
「うん、そうだけど……」
光が差し込まれた。
ふーちゃんなら私の主人に対して、防護機能を持ち合わせていないのだ。
ということは、ふーちゃんを主人に発動させれば……!
「それなら、ふーちゃん!」
「な……! ちょっと待った待った!」
私の言葉を、ミルさんがすかさず遮った。
何だって言うんだ。
「彼女だって、彼女の主人がいるんだぞ? 私達と同じように、それなりの想いがあるんだぞ!」
「で、でも……!」
「それを君、私達の主人に何の恨みもないのに、私達の勝手な気持ちで巻き込んで。……最後には死なせて。そんなのっていいの!?」
……言うとおりだ。自分勝手がすぎたかもしれない。
自分達が攻撃できないからって、無関係なものを犠牲にするのは虫がよすぎる話だ。
やっぱり、諦めたほうがいいんじゃないか。
そう思った瞬間だった。
空間を、ふーちゃんの言葉が振るわせた。
「……私なら、いいよ」
「ふ、ふーちゃん、本当に!?」
「うん。だって、ここにいる時点で、もう死んでるのと同じなんだし」
「そ、そうかもしれないけど!」
「それにね。しょーちゃんもみんなも、喜んでくれるのなら。同じ死ぬなら、こっちのほうがいいな、私は」
表情一つ変えずに、当たり前であるかのように、彼女は言う。
「ほ、本当にそれでいいの?」
「いいのいいの。人間一人くらい痛い目にあわせないと。私達と同じ思いをする子がどんどん出てきちゃうよ?」
こんなにもあっけらかんと、自分の末路を他者のために捧げるなんて、言えるもんなのか。
もはや誰も、声一つあげることができなくなっていた。
あなた達のために私は死ぬと言っているのだ。当たり前だ、うかつに何も話せない。
一秒経つ度、空気がずんずん沈んでいく。冷たくなっていく。
しかし、ついにのんちゃんがこの沈黙を破壊した。
「それじゃあ、俺も一緒に行く。俺たちの主人が相手なのに、お前だけ行く、なんてことになるのはごめんだ」
「の、のんちゃん?」
「俺が行ったところで、確かに無駄撃ちがいいとこだよ。でもな、俺だって最後は華やかに散りたいんだ。その様、主人に見せないわけにはいかないだろう?」
胸の奥に、どこか熱いものを秘めていた。ただ暑苦しいだけじゃなかったのかもしれない。
理屈も何もない、感情任せで話してる。だけどそれがどうしてか、心強い。
「じゃあ! 私も! 私だって、主人を見返したいもん! 守りの恐ろしさ、見せてあげたい!」
おっちゃんまで。
皆の心に、次々と打倒主人、いや打倒魔理沙の炎がつき始めていた。
今まで抑圧されてきた負の感情全てが、燃料となっている。
心は、まさに一箇所に集まろうとしていた!
「私も行かせてもらうよ。これはお姉ちゃんの敵討ちとして、共に戦いたい!」
とうとうミルさんまでもが重い口を開いた。
一度燃え上がった心は、もう誰も冷ますことはできない。
「しょーちゃんはどうするの?」
「もちろん行くよ! 皆の役に立つかどうか分からないけど、精一杯がんばるから!」
かくして、「倒せ魔理沙! ビバ下克上メンバー」が結成されたのであった。
オプティカルカモフラージュの、おっちゃん。
ミルキーウェイの、ミルさん。
ノンディレクショナルレーザーの、のんちゃん。
アルティメットショートウェーブの、しょーちゃんこと私。
そしてそして、封魔陣の、ふーちゃん。
皆と向き合いながら、それぞれの思いの丈をぶつけ合う。
「いざって時は、私が守ってあげるからね!」
「お姉ちゃんのときと、同じようにはさせないから!」
「よし、皆、盛大にやろうぜ!」
「最高の一撃を見せてあげるよ、しょーちゃん!」
「よーし、そうと決まれば! 突撃だ!」
うおおお、と咆哮があがる。これが、はじまりの合図となった。
いざゆかん、魔理沙の下へ!
「でもさ、魔理沙はどこにいるのかな?」
「……あ」
忘れていた。すっかり忘れていた。
そもそもここがどこか分からないし! どうやって出るのかも分からないし!
しまった! 忘れていた、肝心なことを忘れていたー!
「居場所が分からなきゃ、何もできないじゃない!」
「ほっほっほ。ここでわしの出番じゃよ」
ああ、おいしいところを奪うためにわざわざ後から出てきたな、夢想妙珠さん!
……ということは、夢想妙珠さんは場所が分かるということ?
「なーに、わしも夢想封印一族の端くれ。敵の追尾こそが生きがい。自ずと敵の位置も分かるわけじゃ」
「そ、それじゃあ……! お願いします!」
「よーし、決まりじゃな! わしの力が役に立つ日がとうとう来おった! 生きておくもんじゃのう!」
そう言った途端、夢想妙珠さんが淡い光球に分裂。……が、何を思ったのか、集まって一つの大きな塊となった。
「おい、早く乗らんか!」
そうか、自ら乗り物になったのか!
皆が飛び捕まったのを確認して、夢想妙珠さんが一気に敵地へと飛ばし始めた。
景色が、前から後ろへとすっ飛んでいく。
あたり一面、雲のように白かったところをおさらばし、いつの間にか真っ赤な夕空の中を泳いでいた。
かと思うと家々の隙間を縫うように飛び、草原を突き抜ける。
そしてとうとう、あの懐かしい森へ突入した。木々の狭い間を、全くスピードを落とすことなく駆けていく。
……が、魔理沙の家の方角ではない。
「夢想妙珠さん、ほんとにこっち!?」
「間違いない、わしの力を信じろ!」
どうやら、魔理沙の行きつけの店に向かっている。香霖堂というところだ。
とうとう敵地が見えた、といったところで、夢想妙珠さんの速度が、がっくりと落ちた。
「おお、そろそろ限界がきおった。……じゃが、お役に立ててなにより」
「ちょ、ちょっと、夢想妙珠さん!?」
「わしのことは気にせんでいい。お前らは前だけ向いて進むがいい。グッドラック、若者!」
店の玄関先まで来るかといったところで、光の球がふっと消えて、私達はそのまま地面に落っこちた。
「夢想妙珠さん……。ああ、カードが落ちてる! 夢想妙珠さんの!」
「今は気にしない。これから先、みんなこうなっていくんだ。周りを気にしていたら、何もできずに終わってしまう」
ミルさんが突き刺すように言う。冷たいかもしれないが、言っていることは正しい。
これから始まるのは戦争なのだ。仲間の死なんて、気にしていたらやられてしまう!
「みんな、心の準備はできている?」
そのまま、ミルさんが指揮をとる。姉の心を引き継ぐものだ、彼女にまかせるが吉だろう。
一拍してから、皆、ミルさんに頷いた。
「よし、それじゃ行くぞ……。皆、突撃!」
「うおおおおおお!」
その店目掛け、総員、我先にと飛び込みにいく!
……が、店のドアが邪魔して入れない! 皆、びたーんとドアに体当たりをぶちかますだけに終わってしまった。
「く、くそ! ドアを閉めているなんて卑怯だぞ!」
「ひどいよ、ドアのせいで何もできないなんて!」
「私達、魔理沙に会うことすらできなかった……」
その木製のドア一つで崖っぷちに追いやられてしまう。カードって悲しい生き物。
「何を言ってる。皆、諦めるのは早いよ!」
ミルさんだった。
最初は計画に反対していた彼女であったが、今は皆をひっぱってくれている。
「私が、ドアを壊してみせる!」
「な……! まさか、ミルさん!?」
「いいかい。これを壊したら、やつはきっと反撃してくる。気をつけるのよ」
「……はい!」
もう、よく分からなくなっていた。誰が犠牲になってもおかしくなかった。
今回はたまたま、ミルキーウェイさんが名乗り出た、それだけだった。
誰が死のうと構わない、そう考えないと決して前に進むことができないのだ。
「それじゃあ……。行くよ?」
皆の心はただ一つ、魔理沙さんに一太刀浴びせること。
そのためだけに、皆が皆、踏み台となって魔理沙へ届かせようとしているのだ。
もはや狂気とも言える熱意が、場を占めていた。
「覚悟はできてるよ。ミルさん、よろしく!」
「やっちまえ、ミルさん!」
「……後はよろしく頼むよ、ふーちゃん。……いくよ、ミルキーウェイ!」
大粒の星粒が、ドアを目掛けて殴りかかる!
ドアがまるで紙で出来ていたかのように、一発一発で面白いように破れていく。
「みんな、行くよ! ミルさんに乗って!」
今度はふーちゃんが中心となって動き出す。ミルさんのおっきなな星の一つにつかまって、敵陣へと突入!
何やらごちゃごちゃとした不気味な古物たちの間に、やつはいた。
そう、かつての主人だ!
「行儀の悪い客だな。入るとこからやり直しだ!」
紛れもなく、あの魔理沙の声だ!
再開を待っていた。皆、もう一度会うのを楽しみにしていた!
想定通り、彼女は攻撃開始。まずは威嚇射撃、その手から数発の魔弾が発射される。
弾の一発一発が爆発を起こし、ミルさんの弾は瞬く間にかき消されてしまう。
「う、うわあ!」
私達の乗っていた星もあえなく壊され、吹き飛ばされる。
腐っても私達はカード。空気中をふわふわと漂ってしまう。
「なんだなんだ、またカードか。なんで勝手に動くんだ!?」
「また」というのは、ミルさんの姉のことを言っているのだろう。
ちくしょう。正体を知らせないうちに攻めたかったのだけれど。
「魔理沙、何とかなるかい? 商品が壊される前に、片付けてくれれば幸いなんだが」
「まかせてなって。カードなんぞ、こいつで十分だ!」
店の主人まで敵にまわしてしまった! が、こちらは何もしてこないようだ。
問題は魔理沙。主人に焚きつけられて、攻撃する気まんまんだ。
今度は、簡易式のレーザー。指先から、焼き払うように私達を狙い撃ってくる。
「皆、恐れず突撃! いざって時はおっちゃんがいるから!」
ふーちゃんの指示。魔理沙は狙いを済ませて撃ってきている。
避けられるかどうか、分からない。しかし、私達には前進あるのみ、避ける暇などないのだ!
これが幸いだった。あんまり素早く近づくものだから、魔理沙の反応も遅れている。
幸い、誰もレーザーの犠牲になることはなかった。おっちゃんが後ろに控えているのも、精神的に大きな支えとなっている。
よし、射程距離だ。今度はこっちが攻める番!
「ふーちゃん今だ、飛び込んで!」
私達の希望の星を、攻撃態勢に移させる。ふーちゃんが勢いをつけたまま、すっと飛びあがった。
もはや魔理沙とは目と鼻の先!
「おお? ふん、これならどうだ!?」
が、今度は魔理沙が両手に魔力をこめはじめた。
ナロースパークの構えだ! 私達は手のひらサイズ。ナローというには十分すぎるほど太いレーザーだ!
魔理沙の両手へ、エネルギーが凝縮されていく。
その拳の向かう先は、ふーちゃん!
「させない! オプティカルカモフラージュ!」
最後の要のおっちゃんが、ついに能力を発動!
ふーちゃんが、レーザーをつらぬきながら魔理沙の頭上に躍り出る!
よくやったおっちゃん! バリアの発動が少しでも遅れていたら、ふーちゃんは消しカスになっていた!
一方の魔理沙。やつはレーザーの反動で、今や、隙だらけだ!
「みんなのために、最高のフィニッシュを見せてあげる! くらえ! 封魔……」
ふーちゃんが光り輝いた瞬間だった。
見てはならないものを見てしまったような、気がした。
魔理沙は隙が出来たのではなかった。隙を作っていたのだ。攻撃準備という名の、隙を。
その手には、いつもいつも私を苦しめてきた、あの八卦炉が握り締められている!
「おっちゃん! おっちゃん!」
無駄である。分かっている。呼んでも声は返ってこない。見渡しても、どこにもいない。
もう一度だけでいいのに。もう一度だけ、おっちゃんがいれば、ふーちゃんは耐えられるかもしれないのに!
おしまいだ。
あいつを止められるものはもう、何もない。
私達をずっと苦しめてきたマスタースパークが、最後の最後でまたもや越えられない壁となってしまうなんて!
「こうするっきゃない! マスタースパーク!」
「ふ、ふーちゃん!」
ふーちゃんが灰になる瞬間が、写真のように止まって見えた。
そして次のコンマ一秒。私は白い光に包まれるのを感じた。
魔理沙の前は全て射程内、そういうボムなのだ。マスタースパークってやつは。
あっけない。あまりにあっけない終わり方であった。
結局、最後は何でもマスタースパーク。
それを宣言すれば、彼女の勝利が確定する。悪魔のボムであった。
覚悟を決めた。ふーちゃんと同じ灰になれるなら、それでもいいやって思った。
全て、終わった。
「お前の相手は、この俺だ!」
「……の、のんちゃん!」
「ずっとこの日を待っていた……。一対一のガチンコ勝負、どっちが強いか白黒つける!」
のんちゃん、いや、ノンディレクショナルレーザーが、彼の最大のライバルとぶつかり合っていた!
彼は三つ又の光翼となって、あのマスタースパークと激突。強大な魔力の洪水を、単純に力だけで受け止めている!
パワーは互角か? いや、違う。あのマスタースパークが、じりじりと押されている!
「な、なんでこんなやつまで用意してるんだよ!?」
「魔理沙、大丈夫かい?」
「こーりん、分かるだろ? 元々こいつら、私を守るために作ってるんだ。暴れたとこで、店が壊れるだけだ!」
「それを何とかしてほしいと言っているんだが……」
やつらもとうとう、慌てはじめた! いいぞ、のんちゃん!
……待てよ、今、嫌な言葉が聞こえたような……。
そうだ! 元々、私達はボムだったじゃないか! 主人を守るために作られていたんじゃあ、無駄じゃないか!
マスタースパークも、のんちゃんも、いつの間にか随分とその威力が弱まっていた。
「しょーちゃん、とうとうお前が最後になっちまったな……」
「の、のんちゃん!? しっかり!」
「お前が最後の望み。なんだっていい。ここまでお膳立てしてやったんだ。最後の一発、どうか頼んだぞ!」
「……分かった。たすきは私が受け取るよ」
「よおおおし、それを聞いて安心した! ノンディレクショナルレーザー、フルパワー!」
のんちゃんの光線が一層強く、燃え上がるように輝いて! ぷつりと途絶えてしまった。
まるでマスタースパークを包んで消え去ったかのように、両者共に消えていったのである。
だが、終わらせない。これで終わりじゃない。間髪入れずに、最後となった私、出陣する。
皆の気持ちがつながってほしい! もう、そのことしか考えられない。
「みんなの想いよ、天まで届け! アルティメットショートウェーブ!」
「し、しまっ……うおお?」
爆発する。私は、ボム達全員の心を編んだ、光の衣となって、一面を多い尽くした。
もう、何を考えるでもなく、駆けて駆けて、駆け回る!
だけど自然と、「主人」との記憶が浮かんでくる。
名づけられた日のこと、久々の外出の時、初めて発動してくれたとき、不具合が見つかって捨てられたとき……。
不具合ってなんだ。
そこで、思い出す。妖精に体当たりされた主人のことを。私が発動してるにも関わらず、主人を守れなかった、あの時のことを!
私には、ボムとして致命的な欠陥があったのだ。主人を守れないという、最大の欠陥があったのだ!
防御機能の欠陥が、そのまま主人へ跳ね返すことができる!
繋がった!
皆のたすきは私に回り、魔理沙への一撃へと繋がった!
言いようの無い快楽物質が、全身を駆け巡る。
全てやりつくし、皆の期待を応えたと同時に、死ぬことができるのである。
やはり、楽しい時間はあっという間である。ものの二、三秒で私の魔力は空っぽだ。
ぱつんと、何も動くことができなくなってしまった。
ただただ、私は幸福の暗闇に包まれていった。
夢だろうか。
魔理沙と店の主人が話しているのが、聞こえる。
「ま、魔理沙! 今のは……」
「ああ……。何なんだ。いくらなんでも弱すぎだぞ。直撃なのに、痛くもかゆくもない」
「そうか。実は僕もそうだったんだ。無事ならなにより」
店主さんの声は、ずっと落ち着きっぱなしだった。
一方魔理沙のほうは、納得がいかないようで、むしゃくしゃした声だった。
「これで二回目だ。くそ、なんでこいつら、こんな弱っちいのにわざわざこんなことしてくるんだ!」
「なぜって……。付喪神やポルターガイストの類だろうね。弱っちいというのは、今のボムは元々、魔理沙が作ったことに由来するから、自分に聞いてみるしかないね」
「確かに、弱いとか、すっかり使わなくなったからとか、そういう理由で捨てたやつだよ。さっきのボムはみんな……。いや、霊夢のも混じっていたが、大体そうだった」
「じゃあ、それが原因だね。君が弱いボムを捨てて、強いボムを捨てにくいから、やってくるのは弱いボムが多くなる。必然じゃないか」
店主さんのほうは、いつも理屈っぽいな。
「何が必然だ。問題は、どうしてこんなやつらがわざわざ戦いに来るのかってことだよ。恨みか? いたずらか? 構ってほしいのか? 何なんだよ!」
魔理沙のほうは、まだ落ち着いていない。でも、何だか私達に歩み寄ろうとしているみたい。
「残念だけど、それは僕にも分からない。あいにく、物の心までは見えないんでね」
「知ってる。あーあ、捨てないほうが良かったか……? 珍しく掃除したらこれだ。やっぱり掃除はしないに限る」
「そうかい? 物は改良されていくうちに、時代の流れに取り残されるものもある。君が捨てたのは、改良のための土台にされたものなんじゃないのかい?」
「まあ、そうだが……」
「じゃあ、いいじゃないか。気にしないでいい。物はより便利でないと、消えていく運命なんだよ。悪いものを捨てるのは当たり前だよ」
店主さんは、やっぱり冷たい。その悪いものを作ったのは、あんた達じゃない。
「……いや、こーりん。お前がいうと何か変だぞ」
「どうしてだい?」
「お前の言う、悪いものは捨てられるとか、時代に取り残されるとか、そういうのばっか集めてるんじゃないか。ほら、その辺に転がってのも、みんなそうだ」
「それは、僕がひねくれているからね」
「……はあ?」
「みんなが見向きもしないものだからさ。だからこそ、僕が愛してあげないと本当に捨てられたままじゃないか」
ごめんなさい。前言撤回。店主さんは良い人でした。
「……似合わねーぞ、そんなセリフ」
そういって、私に誰かの暖かな手が、触れた。
「私が愛してやらないと、こいつらは誰からも愛されないんだよな……」
そんな言葉が、「主人」の口からこぼれたような気がした。
「サンキューこーりん。うまくやっていけそうだ」
「何言ってるんだい? つまり、僕がこれだけ愛を注いでる商品を、君と君の開発物が壊したんだ。店も無茶苦茶。この損害をどうしてくれようという話なんだが……」
「これは借りにしとくぜ!」
「返さないくせにそれはないんじゃ……。ちょっと、魔理沙!」
「悪いなこーりん。またいつか埋め合わせ、持って来る!」
「……人の話を聞かないのもいつものことか」
そんな夢を、見ていた。
主人のまたがる箒の上で、ポケットという揺りかごの中で、私は眠っていたのだった。
「これで終わりだぜ」
いつにもまして、青々とした湖の上。
私の主人はあんまり慣れない手つきで、懐から一枚のカードを取り出した。
「しょーちゃん、がんばって!」
「おうおう、しっかりやれよ!」
「期待してないから、がんばれ」
主人のポケットの中は、ミルさんにおっちゃん、のんちゃん、そしてマスタースパークのまっちゃんを新たに加えて、ぎゅうぎゅうになっている。
それで、みんなといつもお話しているんだ。今も、こんな風に野次を送られる始末。にぎやかなやつらだ。
久々の出撃に緊張しながら、主人の宣言を待つ。
呪文を一言紡ぐたびに、魔力は光の粒となって、私のもとに萃まってゆく。
立ちはばかるのは、いつもの紅髪門番さん。
「これで九十九戦九十九連敗! もう負けられないんです! 背水の陣で私は覚醒する! とびっきりをくらえ、星脈地転弾!」
ああ、何て刺激的な展開。
勝つとは限らない、このはらはらとした感覚が素敵!
今日のボムは私! どんな妖怪や妖精が相手でも、負ける可能性が残されている!
主人も、以前よりずっと勝ち負けを重視しなくなっていた。楽しけりゃそれでいいなんて言ってる。
だけど、だとしても私は常に、全力を出すよ!
「私も今日はとびっきりだぜ。宇宙の果てまで飛んでいけ! アルティメットショートウェーブ!」
「な、突然新しい技なんて卑怯な! ……て、あれ?」
うわあ、私レベルじゃ門番さんの弾が消しきれない! 駄目だよ、そこら辺の木と変わらない大きさしてるんだもん! 私には無理!
「ほぎゃー」
ああ、主人、ごめんなさいー!
主人の勝率は下がりっぱなし。
でも、主人はどんなに負けても、いつも笑顔を見せるようになった。
この笑顔を見るとき、この主人のカードでよかったっていつも思うんだ。
スペルカードは何より、遊ぶための道具である。
私を使って、主人が心から楽しそうに笑ってくれる。
スペルカードにとって、これが何より最高の幸せなのだ。
「また負けちゃったな。お疲れ様、アルティメットショートウェーブ」
ほらね、ウィンクしてくれるんだ。
主人の笑顔に見送られながら、私はあのにぎやかでおかしなポケットの中にもどっていくのだった。
「お帰り、しょーちゃん!」
でもみんな可愛いから許す!
他のキャラのも是非見てみたいな!
スペカ意思的にはどっちの方がマシなんだろか
だって、レーザーは目の前の弾が見づらいんだ。
しかし、この発想は俺には無かった
なんだか魔理沙Bを使いたくなってきた!
ちなみに一番好きなスペカはブレイジングスターです
魔理沙B行ってきます(笑)
新鮮さと爽やかさと楽しさで読み終えた後清々しい気持ちになりました!
自分のようなイージーシューターだと魔理沙Bは……
ほんと、緋想天でどうしてミルキーにしなかったのか……
まあシャワー使ってますけどね。
ちなみに私の一番好きなボムはレヴァリエ姉さんです。
妖ではミルさんにも世話になりました。
ってか使ってるボムがほとんど登場してる件w
あの黄昏版のぎゅいいいいんって効果音がすごい好き
みんな可愛くて面白かったです
サイッコーだったぜ!!
>「お前の相手は、この俺だ!」
このセリフには素で燃えた!
うん、でも封魔陣もアルティメットショットウウェーブもなかなか強いよね。
アーティクルサクリファイスとかリターンイナニメトネスとか、
萃霊花とか不夜城レッドとか、
華胥の永眠とかよりは十分。
それよりも個人的には 夢符「封魔陣」 は最高のボムだったんだが…
最後のシーン、負けても楽しそうな魔理沙がすごく良かったです。
「ぐへあー」とか「ほぎゃー」とか言っちゃう魔理沙可愛いw
また一人一人(?)の個性も豊かで面白かった
でも、魔理沙さんよぅ…
他人から盗んだ技を捨てるのは、ちとどうかい?
そしてこの発想はなかった。
ほんっと魔理沙Bボムは弱かった……ボムってる時に死ぬとか初めてだ