秘封倶楽部ものです。
俺設定あります。
長いです。
冒頭と最後らへんだけオリキャラでます。
それでもいいという方はどうかお読みいただければ幸いです。
この作品が、貴方様にとっての裕福な時間でありますように。
~
ミーンミンミンミン・・・。
どこからか蝉の鳴き声が、嫌というほど鳴り響いてくる。
「あっづー・・・。」
私はその夏の風物詩ともいえる音にうんざりとしていた。
そう、夏だ。
そして暑い。
「何が悲しくて、こんな時にエアコンが壊れるのよ、こんちくしょう・・・。」
暑いことこの上ない時期に文明の利器が使えないというのは人間様には厳しい。
文明様様である。
という訳でこの部屋の蒸し暑さは現在、最高潮に達している。
窓と扉は全開ではあるが、それでも部屋の温度は上昇しつづけ、
仕方なしに日の当たらないところに移動してひんやりとした机に突っ伏するも、結果は変わらなかった。
「うぁ・・・もうしぬ・・・。」
このままだと私は路上に落ちたアイスクリーム宜しく、どろどろに溶けてなくなってしまうのだろう。
おぉ蓮子よ。溶けてしまうのはナニゴトダ・・・。
そんな幻聴が聞こえた気がする。
あれだ、暑さで頭もとけきってしまっているのだろう。
すでに末期である。
コンコン。
「蓮子さーん・・・大丈夫ですか?」
「この姿を見て、どうしてそのセリフが出るのかしら?」
入口を覗いてきた学生に嫌味を言ってみる。どうやらまだ元気そうだ、私。
「そうだと思ってアイス買ってきましたよ。」
「おぉ!山野くん!あなたは神か!?」
「いえ、ただの学生です。」
山野と呼ばれた男子学生がしれっと流してアイスの袋を私の前に置いてくれた。
・・・ガ○ガ○クンのソーダ味。
「あ・・・ありがと。」
「いえいえ、しかし暑いですね・・・クーラーがないだけでこんなにも違うんですね。」
「そーよそーよ、何でこんな時に限って壊れるのよー根性無し!」
「悪態ついても仕方ないですよ?それに蓮子さんも直さないのがダメなんじゃないですか。」
「ぬー・・・そもそも研究室なんてほとんどこないもの。」
「それがまずおかしいです。フィールドワークばっかりいってる蓮子さんが悪いです。」
あーはいはいと山野くんの話をスルーしつつ、ガ○ガ○クンを口いっぱいに頬張る。
・・・あー生き返る。
「んーやっぱ夏はアイスよアイス。人類は素晴らしいものを発明してくれたわ!」
「はぁ・・・やれやれ。」
「あ、そういえば美羽さんは?」
「今資料集めてきてくれてますよ。」
「そういえばそうだったわ。」
「・・・暑さでボケました?」
「うっさい。」
シャクシャクとアイスを齧る傍ら、そんなことを思い出した。
今日は彼と美羽さんと呼ばれる学生と3人でフィールドワークでを行う予定だ。
そのための実地資料を取ってきてと頼んだのは1時間前・・・やっぱ暑さでとろけたかしら。
「ま、暫くきませんし気長に待ちましょうか。にしても、蓮子さんの研究室って初めて入りますね。」
「そうだっけか?」
「ゼミだってほとんど外じゃないですか。」
「まあね、理学なのにね。」
「自分で言わないでくださいよ、それにいざ授業をするとやれ神秘の世界だ云々と別の話になるし・・・。」
「いいじゃない神秘!科学では解明できない謎を追うその快感!たまらないでしょう!」
「ですから、それを理学専攻の教授がいいますか?」
「細かいことは気にしない気にしない。」
「ったく・・・あれ?」
山野くんが何かを手に取る。
「教授の写真ですか・・・ずいぶん若いですね・・・あてっ!」
「失礼な、今も現役で若いわよ!」
「何もアイスの棒を投げなくても・・・で、何年前の写真ですか?」
「6年前。」
「へぇ、この隣に写ってる金髪の女性は誰ですか?ご友人ですか?」
「ん・・・まぁね。」
投げたアイス棒を拾いつつそう答える。
「一番の親友よ。」
「今でも良く会うんですか?」
「いいえ、今はこの世界にはいないわ。」
「え・・・あ、す、すみません!」
「いいのいいの、勘違いしているようだから言うけどその子死んでないわよ。」
「え・・・じゃあ、どういうことですか?」
山野くんから写真を受け取る。
彼女と最後に取った写真・・・色あせてはいるものの、今でも高価な写真立てに大切に保管している。
「6年前・・・彼女と最後の、こんな暑い夏休みだったわ。」
写真には、私宇佐見蓮子と肩を組まれてる親友、マエリベリー・ハーンの姿があった。
~
ミーンミンミンミン・・・。
どこからともなく蝉の鳴き声が聞こえてくる。
夏も夏、真夏である。
「あっづー・・・。」
私はというと、自分の部屋でテーブルの上につっぷしている、というか動く気力がない。
「あー・・・とけるぅ・・・。」
じわじわと暑さが迫ってくる
「あー・・・しぬぅ・・・もうだめ・・・ガクリ。」
ひとりで言葉で遊ぶだけまだ元気なのかもしれない。
がちゃり。
「蓮子ただいま。」
「おぉ・・・蓮子よ、死んでしまうとh・・・あ、メリーおかえり。」
「何一人でやってるのよ。」
外から帰ってきたメリーに一人コントをきかれてしまう。
キャーハズカシイ(棒読み)
「キカレチャッタワー。」
「何でカタコトなのよ、ほらアイス買ってきたわよ。」
「おぉ!メリー!あなたは神か!?」
「いいえ、あなたのパシリよ。」
メリーの嫌味をスルーしつつ、彼女からコンビニ袋をかっさらう。
「あ、こら!」
「おぉ!ガ○ガ○クンソーダ味じゃないの!さっすがメリー、分ってる!」
早速アイスの袋を乱暴に開け、中身を口に咥える。
・・・あぁ、生き返る。
「ふぁー、ひもふぃひひ・・・」
「口にくわえて喋らないの、もう。」
そういいつつ自分のアイスを開け始めるメリー。
しゃくしゃく・・・。
「あぁ、おいしい!本当アイスを発明した人にスタンディングオベーションしたいわ!」
「立ち上がる気力がないのによく言うわ。」
「だってあっついんだもの・・・夏は嫌だわ、ほんと。」
「そもそも蓮子の部屋には冷房器具がないのがいけないんじゃないの?」
「・・・なんでこういうときに扇風機はお釈迦になるのよ。」
「夏はまだ先よ!とか言ってあなたが新しいのを買い替えないから。もしくは修理しないからよ。」
「だってお金かかるし・・・。」
「秘封倶楽部の活動を少し抑えればいいのでは?」
「だめ!絶対だめ!そうじゃないと私たちの沽券にかかわるでしょ!?」
「沽券というほど価値があるかしら?」
「・・・メリー今日、すっごく機嫌悪いわね。」
「暑いですからね。それと誰かさんが
『今日はうちで夏の活動を決めるわよ!』とか朝の5時に素敵なモーニングコールを聞いたからかしらね。」
「う・・・だって夏だとだらけるから・・・ごめんなさい。」
「素直に謝ればいいのに。」
そう、大学生である私たちは現在長い夏休みに突入しているのである。
私たちについて少々説明しなくてはならない。
私は宇佐見蓮子、某大学に通うただの学生。
同じく目の前に座っているのは学友兼親友のマエリベリー・ハーン、通称『メリー』。同じくただの学生である。
私たちは少しだけ違う、というか変なところがある。
この2人は霊能者サークルである「秘封倶楽部」というサークルに入っている。
といっても2人だけだが・・・。
その活動もまともな活動はしておらず、周りの霊能者サークルからはあまりよく見られてはいない。
しかしそれは仮の姿。
本来の私たちは特殊な能力を持って、霊能活動をしている。
ある時はこの世界とは別の世界へ出かけるとか。
ある時は世界の裏側を見つけては足を進める。
そう、主に私たちは「通常では見えない世界」を探しているサークルである。
本当にそんなものがあるのか?と疑われるのだが、2人の能力によってそれは実現されている。
ま、その能力のお話は後ほどで。
「で、どこかあてはあるの?」
「まぁ色々とね。」
アイスを食べ終えた私はがさごそと資料を引っ張り出して机に並べて見せた。
「うわ・・・相変わらずの量ね。」
「まぁね~♪」
「どれどれ・・・『怪奇、大量の人が消えた!?』、『100年前に消えた物が現代によみがえる!』
『村ひとつが一晩の内になくなる?』・・・。」
メリーが気だるそうに、しかし丁寧に資料を読み上げていく。
「なによ全部消えたとかじゃない。これがどうしたの?」
「それがね、さっきいったもの全部が同時期に消えたの!」
「・・・本当、それにどれもずいぶん前の話ね。」
「でしょー!しかも同じような場所から消えてるの。もしかしたらその場所には『特殊な世界』への扉があるのかも!」
「ふぅん・・・それ以降もモノとか人が消えてるのね。」
「その通り!これはこの場所に行くしかないっしょ!」
捲くし立てるように喋る私を尻目に、メリーが淡々と資料に目を通していく。
「ま、行くのもありじゃない?私はいつも通り暇だし。」
「そう言ってくれると助かるわ!じゃあ日取りは私が決めるわね。」
「お願い・・・でも目的地結構遠いわね。」
「まぁね、軽い旅行だと思って用意しなくちゃ。」
スケジュール帳を引っ張り出して予定を確認して見る。
・・・私も暇だけどね。
「じゃあキャリーケース出さないと、どこにあったかしら?」
「私も。トランプとかどこやったかなー?」
「ちょっと、活動忘れないでよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
「はぁ・・・相変わらずね、蓮子は。」
「しっかし、この時期は消えるのがすごく多かったわ。村ひとつなくなるし、人もたくさん消えたし。
そうね・・・まるで、」
「まるで神隠しにでもあったみたい。」
ガタリ!
メリーが突然、立ち上がる。
「?どうしたのメリー?」
「え・・・いえ、その・・・何でもない。ちょっとトイレに。」
「大丈夫?今朝から機嫌もよくないし。」
「気にしないで、もう怒ってないから。」
「あ!もしかして!」
「え・・・?」
「メリーって今日、アノ日?」
スパーン!
「あでっ!」
「うるさい馬鹿蓮子!もういい!」
肩を怒らせてメリーが部屋から出て行ってしまった。
「なによ、あそこまで怒らなくても・・・。」
ひょいっとメリーが投げたガ○ガ○クンの棒を拾い上げる。
そこには「あたり」の3文字が書かれていた。
思えばこの日から私たちの歯車が、少しずつ狂っていったのだろう。
~
数日後。
「はー夏休みなのにずいぶんガラガラね。」
「そうね、この車両には私たちしかいなし・・・まるで貸し切りね。」
京都と東京を結ぶ路線、卯酉(ぼうゆう)東海道。
私たちはそれを行き来する列車、ヒロシゲ36号に乗って優雅なひと時を過ごしていた。
この2つの都市を結ぶ時間はわずか53分。
そのため本来であれば夏休みを利用して多くの乗客を乗せる・・・はずなのだが。
ラッキーなことにこの車両を利用しているのは私たち以外いなかった。
「普段もこれくらい空いてると助かるんだけどなぁ。」
「まあ幸先の良い旅路になったんじゃないの?」
「それもそうね。それにしてもその服、暑くない?」
「別に。」
メリーの服装は上下紫色の服に包まれていた。
半そでではあるが、ロングスカートともふもふのフリルが合いまって暑そうにも見える
対して私は白いYシャツと黒いロングスカート、黒いいつも通りの帽子。
あ、案外私も暑そうか。
窓の代わりにあるスクリーンには、富士山が厳かに写っている。
このヒロシゲは特殊な列車で都市間の地中を直結で走っており、
そのため通常は真っ暗なこの世界を映像スクリーンを使って、まるで外を走っているかの様な映像美で補っている。
この様に昔では考えられない技術の向上によって都市間を結ぶ時間の短縮までも出来たのである。
「しっかしこうも何回も乗ってると、景色も覚えちゃうわ。」
「覚えるくらい乗ったの?」
「そこそこねー。」
このスクリーンの景色はあまり変わることはない。
しいて変わるとするなら曇りだったり雨だったり、はたまた雪が降る・・・それだけだ。
かれこれ20回以上は景色を眺め続けているので、先の言葉もまんざら嘘ではない。
「そうそう、貴女とこのヒロシゲに乗るのも何回目かしらね。」
「そうねぇ・・・少なくとも10は超えてるかも。」
メリーと私は活動とか旅行をかでもこのヒロシゲをよく利用する。
それこそいつからかもわからないほど長い時間を2人で過ごしてきたくらいだ。
かれこれメリーとの腐れ縁も中学くらいからだから・・・もう8年くらいかしら?
「そうね、最初に乗ったのも中学の修学旅行以来かしら?」
「・・・えぇ、そうだわ。あの時はほんと楽しかったわ。」
中学3年の時、クラス皆でヒロシゲに乗った時は興奮したものだ。
何せ東京見学もさることながら、53分で都市間を繋ぐこの列車とスクリーンに感動しまくりだったのだ。
「ま、いまじゃもう身近過ぎて感動も起きやしないわ。」
「蓮子らしいわね。」
メリーがクスクスと笑う。
「でも蓮子なんてスクリーンに映る富士山を写真で取ってたじゃない。」
「あ、あれはその当時は珍しかったからで・・・メリーだって『本物みたーい!』とかいってはしゃいでたじゃない!」
「そんなことあったかしら?」
「あ、ずるーい!」
メリーが吹けもしない口笛を吹いて誤魔化す。
・・・見た目おしとやかなのに、たまにする子供じみた行動が、可愛らしい。
私も人のことは言えないけど、少なくとも可愛らしくはない。
「さーて富士山も見飽きたし、ねえメリー到着までトランプしない?」
「別にいいわよ。でもその前にちょっと化粧室にいってくるわ。」
「ん、いってら~。」
そう言ってメリーが席を外す。
後ろの車両の扉がガラリと開いた音がした。
「んーにしてもほんと人がいないわね。」
向こうの車両にも本当に人がいるのか?と思う位静かで、この列車自体私たち以外の人がいるのかあやしいものである。
「ここまで来るとラッキーを通り越して不気味さすら覚えるわ、ほんと。」
そういいつつバックの中からプラスチック製のトランプを取り出す。
シャカシャカと混ぜ合わせてメリーの帰りを待つまでの手慰みとする。
時々地下を走る時の独特の音とか、気圧の影響で耳が変な感じになることくらいしかない。
その時、ガラリと後ろの扉が開く音がした。
「あ、メリー遅いわよ!」
我が親友にちょっと愚痴をこぼそうとして振り向く。
そこにはメリーではなく、別の女性がいた。
「え、あ、ごめんなさい!」
驚いた拍子にトランプを数枚落としてしまう。
女性はレースの日傘を手に持っており、紫色のドレスのような服を纏っていた。
綺麗なロングの金髪の頭の上にはちょこんと白い帽子が鎮座して・・・ん?
「って、あれ?なんだやっぱりメリーじゃない。」
服装がちょっと違ったから違う人かと思ったけど、よくよく見るとメリー本人であった。
「ちょっともー、脅かさないでよ。服装まで変えてびっくりにしてもやりすぎよ。」
わざわざ傘までもっいるし・・・メリーの突拍子もない行動には驚くばかりだ、まったく。
「あら、私はそんなにそのメリーとかいう女性に似ていらして?」
「・・・へ?」
やわらかな、だけどどこか不思議な女性の声に耳を疑う。
もう一度じっとメリーらしき女性を見つめる。
服装が違うこともさることながら、声や顔つき、その他いろいろとメリーの容姿と合致しない部分が見えてきた。
「えっともしかして、もしかしなくても・・・メリーじゃないのですか?」
「えぇ、違いますわ。」
あまりの事に丁寧語だか何だかわからない言語でしゃべってしまう。
「あ、ごめんなさい。てっきり親友かと・・・。」
「気にしないでくださいね。」
女性はそういうと床に落ちたトランプを拾い始めた。
「あぁ!ごめんなさい、わざわざ拾って貰って。」
「いえいえ、私のせいで落としてしまったんですもの。これくらいしないと、そのメリーさんに怒られてしまいますわ。」
改めて間違ったことに赤面しつつ、女性からトランプを受け取る。
「はい、もう落とさないでね。」
「は、はい。」
「ふふっ、そのメリーさんはどこに?」
「え、あぁメリーなら化粧室にいってまして・・・。」
「そうですか。」
そう呟いて女性はクルリと身をひるがえすと、先ほどとは反対の扉へと向かっていく。
「それでは、そのメリーさんにどうかよろしくと伝えてくださいな。」
「え、えぇ。」
「それでは、良い旅を・・・。」
カラリと扉を開けて、女性は向こう側の車両へと消えていってしまった。
「・・・はぁー、びっくりした。メリーにそっくりなんだもん。」
トランプをわきに置いて息を吐き出す。
一目見ただけでは分からないくらい、あの女性はメリーに似ていた。
もしかして、まだドッキリ?はたまた実は双子とか?
・・・なわけないか。長年連れ添ってきて姉妹がいるとはメリーは言ってなかったし。
「もう、紛らわしいったらありゃしないわ。」
「何が紛らわしいの?」
「ぅひ!」
背後から声をかけられて、素っ頓狂な声を出してしまう。
「何やってるのよ、大丈夫?」
ひょいと、私の顔を覗き込んで、今度こそ本物のメリーが現れた。
「なんだ、メリーか・・・脅かさないでよ。」
「別に脅かしてなんかいないわよ?」
そそくさともといた席に座ったメリーを穴があくほど見つめる。
「なによ、私の顔に何かついてる?」
「ねぇ、貴方ほんっとーにメリー?」
「そうにきまってるでしょう?私が別の誰かに見えて?」
「いやいや、そうじゃないんだけどさ・・・。」
「変な蓮子。」
メリーが怪訝そうにそう呟いた。
「だ、だってさっきすっごくメリーに似た女の人見たんだもの!」
「・・・え?」
「ほんとよ!服装とか雰囲気は違ったけど、メリーと見間違えるくらいだもの!」
「そ、そうなの・・・。」
メリーの眼が若干泳いでいるように見える。
「あ、信じてないでしょ!」
「し、信じるも何も、ねぇ。」
「ほんっとにほんとよ!もう双子か!って位似てて・・・。」
その後もメリーに先ほどの女性の話をして、東京までの道のりを過ごしてしまった。
東京に着くまでの間メリーは上の空で、私の話を真面目に聞いてはいなかった。
~
「はーやっと着いた!」
「そうね、さすがに体が痛いわ。」
ローカル電車が去っていく中、が私たちはようやっと目的地についた。
卯酉東海道の路線を東京で乗り換え、そこからさらに5時間電車に揺られてのご到着だ。
「うっわ、ある程度予想していたけど何もないわね。」
「そうね、”ど”がつくくらいの田舎ね。」
目的の場所は高層ビルも駅前のアーケードも何もない田舎である。
幸い観光地らしく建物はあるのだが、寂れた感が否めない。
都会から数十キロも離れているのだ、しかたない。
現在5時近いこともあり、人通りも少なくなっている。
「うーん、やっぱり今日は宿に泊まるくらいしか出来ないようね。」
「そうなの?貴女のいってた場所ってそんなに遠いの?」
「ここからバスで2時間、歩いて1時間半くらい。」
「・・・蓮子、それ早く行ってよ。」
「あら、勝手に決めてっていったのは貴女よメリー。」
「だからって限度があるでしょう。」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
「何が大丈夫なんだか・・・はぁ。」
メリーが額を押さえてがっくりとうなだれる。
「まーまー!さ、旅館に行きましょう!」
「・・・それは歩いてどのくらい?」
「大体30分よ。」
「それはよかったわ。さっさと一息つきたいものね。」
「メリー、怒ってる?」
「いいえ、呆れているのよ。」
「やっぱ怒ってるじゃない。」
「違うわ、怒ってない。」
「いーえ怒ってる!」
「怒ってない。」
「怒ってる!」
「・・・。」
「・・・!」
そうこう言い争いながら、私たちは旅館へと歩みを進めていった。
「はぁ・・・そういえばメリー、貴女何か見える?」
「・・・いいえ、残念ながら”今”は何も見えないわ。」
「そう、ここら辺でも消える事件はあったから何か境界が見えるかと思ったのだけど・・・。」
ここで私たちの能力を説明せねばならない。
メリーとの先ほどの会話で出てきたのだが、メリーの目は特殊な”モノ”が見える。
それは、「世界の結界、世界の境目」が見える能力だ。
平たく言うと世界の裏側が見えるのであるが、それがメリーには線のよう見えるようだ。
私たちの今回の活動は、彼女の能力で世界の裏側を見つけるのが目的である。
昔の人々が消えたのもきっとこの”境界”の向こう側に消えたか、あるいは・・・。
「で、今何時?」
「んー・・・5時28分17秒。ちなみにもう少しで旅館よ。」
私はすっかり暗くなった夜空を見つめてそう呟く。
「星も綺麗だし、月もよく見えるわね。」
私も私で、特殊な目を持っている。
それは、「星の光で今の時間、月を見ただけで今の場所が分る」という能力だ。
普通は逆じゃないかとか言われそうだが、そんなことは知らない。
生まれ持ってそう見えるのだから仕方がない。
「ちょっとメリー!これ見てみてよ、面白いわよ!」
「もう蓮子ったら、あんまりはしゃぎ過ぎないでよ。」
いつの間にか観光地のような場所に出ていた私たちは、昔ながらの町並みを歩いていた。
景観は駅前と同じくらいではあるが、まだ観光できるくらいではある。
旅館に行く前に観光をちょっとしてみようと勝手に決めてみた。
「すごい!この木彫りなんて精巧にできてるわ!」
「あらほんと、すごくきれいね。」
木彫りの屋台の品物に感動しつつ、物色していく。
観光地ならではの土産品ではあるが、その精巧さには目を見張るものがある。
が、
「い、1万するんだ、これ。」
「こっちは最低でも3000円って・・・。」
中々に値段も目を見張るものだ。
「うあ・・・手持ち的に無理ね、やーめた。」
「私も心もとないし・・・。」
私たち貧乏学生には到底手の出せない代物だ。
さっさとあきらめて次の店に向かおうとした、
その時。
「あれ・・・あ、あの人!」
「ん?どうしたの蓮子。」
「ほら!あそこの売店の前にいる人!」
そこには先の列車で出会った女性が、日傘をさしてウィンドウショッピングをしていた。
「・・・え?」
「ヒロシゲで見た女の人よ!ほら、メリーにそっくりでしょ!?」
そう言ってメリーの方を振り返ると、彼女は目を丸くして、絶句していた。
さしものメリーも驚きを隠せないようだ。
「うそ・・・?」
「へっへーん!嘘じゃなかったでしょ?この蓮子様は嘘は言わないのよ?」
「・・・んだ。」
「え?」
「きた・・・んだ。」
「?どうしたのメリー?」
「え、あ、いや!なんでも!」
メリーが明らかに動揺している・・・本当にびっくりしているようだ。
「ちょっと行ってみよっか。」
「え!?え、ちょっと!?」
メリーの手をひっぱって、さっきの女性の方へと進む。
「こんにちは!」
「あら?貴女は列車の・・・?」
「そうです!こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
「えぇ、奇遇ですわね。」
すっ、と扇子を取り出して口元を覆う。
なんというか、仕草がすごく上品だ。
「あら?後ろの方は・・・?」
「あ、そうそう!この子が列車で言ってたメリーです!」
「あ・・・ど、どうも。」
メリーがぎこちなく返事をする。
「あらあら、本当に似ていますわ。」
「ね、メリー!本当に似てるわよねー!」
「そ、そうね・・・。」
「ふふ、まるで鏡を見ているみたいですわ。」
クスクスと、女性が愉快そうにそう零す。
「はじめまして、『メリー』さん。私の名前は『八雲紫』と申します。」
「・・・っ!」
ビクリと、メリーが身を震わす。
「どうしたのよメリー、別にドッペルゲンガーでも何でもないわよ。」
「え、いえ、その・・・。」
「あらあら、どうやら嫌われてしまったようですね。」
「いえ、その・・・。」
「そういえば、貴方がたはどうしてここへ?」
「あ、実はサークル活動の一環でして。」
「活動?」
「はい、私たちは霊能者サークルをやってまして、ここにも調査で来たんですよ。」
「・・・それはそれは。」
「それで、この地域で起こった・・・。」
「れ、蓮子!」
メリーが突然私の腕をつかむ。
「っと、どうしたのさメリー?」
「や、宿の時間は大丈夫?それに、この人も困ってるわよ!」
「あ、そうだね・・・もうそろそろ行かないといけませんし、お時間をとらせてすいませんでした。」
「いえいえ、とても有意義な時間でしたわ。」
紫さんがクルリと身をひるがえす。
「それではまたいずれ・・・さようなら、メリーさん。」
「あ、は、はい・・・。」
「あぁ、次はちゃんと自分で名乗ってくださいね、『マエリベリー・ハーン』さん。」
「!?」
「え!?な、何でわかったんですか!?」
「うふふ・・・さぁ、何故でしょうね?『宇佐見蓮子』さん。」
「え・・・?」
コツコツとハイヒールの音を立てて、紫さんは人ごみの中を歩いてていった。
去り際に、
「また、明日。」
と、残して。
~
「あー、いいお湯だったね!」
「・・・。」
午後9時半。
私たちは目的の旅館で食事をしたりお風呂に入ったりと、優雅な時間を過ごしていた。
だけど・・・。
「ちょっとメリー?」
「え!な、何?」
「・・・貴女、紫さんに会ってから変よ。どうしたの?」
そう、八雲紫とかいう女性に会ってから、メリーの挙動が変なのである。
確かに少し気味悪いけど・・・。
名前も当てられるし・・・もしかして超能力者?
ま、私たち見たいな能力もあるし可能性はあるかも。
「確かにフルネームを名乗ってないのに言われたのは驚いたけど・・・でも別段変なことはされなかったでしょう?」
「そう・・・だけど・・・。」
「本当に、どうしたのメリー?」
心配になってメリーの顔を覗き込む。
「何かあったら私にいってよ、長年の付き合いでしょ?」
「う、うん。でも大丈夫。ほんと、びっくりして、ね。」
「・・・それならいいけど。」
メリーは嘘をついている。
目も泳いでいるし、何より雰囲気がそう物語っている。
でも私はあまり追及はしない。
いざとなったらメリーは話してくれるだろうし、話さない時は話さない。
長い付き合いだ、そういうこともある。
「よーっし、じゃあ明日のために寝ますか!とりゃー!」
ぼふん。
部屋に敷かれてある布団にダイブした私は枕をぎゅっと抱きしめる。
「んー・・・気持ちいい。」
「・・・クスッ、ほんと蓮子ったら子供みたいね。」
クスクスと、メリーが笑う。
「あーやっと笑った!そうそう、メリーは笑顔が一番よ!」
「ふふ、ありがとう。ごめんね心配かけて。」
「いいっていいって!」
「じゃあ私も・・・それ!」
ぼふん。
メリーも私と同じように布団へとダイブ。
「あぁ、気持ちいい・・・これならぐっすり眠れそうね。」
「えぇ・・・明日は9時にここを出るし、ゆっくりできるわ・・・ふぁあ・・・。」
お風呂と、布団の心地よさに思わずあくびが出てしまう。
「蓮子ったら変な顔!」
「ぬー!言ったわねー、それ!」
抱きしめていた枕をメリーに向かって勢いよく投げる。
「っと!やったわね、それ!」
私の投げた枕を見事にキャッチ&リリースしてきた。
「よっと、そんなへろへろな投球じゃ、この蓮子様にh・・・ぶっ!」
投げ返してきた枕を捕まえてまた投げ返そうとした時、メリーの第2投が私の顔にクリーンヒットした。
「蓮子、破れたり!」
「ぐ・・・ひ、卑怯よメリー!」
「あら?個数制限なんてあったかしら?」
「こんのー!」
ブン! バス! ビュン! スパーン!
そうして夜が更けていった・・・。
「はー、疲れた。まくら投げなんていつ以来かしら?」
「修学旅行以来?」
「あー、そうかも。」
まくら投げに疲れて、私たちは布団にもぐりこんでいた。
もう眠くて眠くてしょうがない。
それでも昔話に花を咲かせてしまう。
「昔6人位の班の時に消灯時間過ぎてもずっとまくら投げしててさ、そんで先生がきたら電気消して一斉に寝てたよね。」
「そうそう、あのスリルと緊張がよかったものね。」
「んで先生が出ていった後なんか可笑しくてしょうがなかったわ。」
「その笑い声のせいで先生が戻ってきて説教くらったのよね。」
「あの時はほんとゴメーン・・・でも皆同罪でしょ?」
「それもそうね。」
2人で思い出し笑いをしてしまう。
「ふぁ・・・。」
「また変な顔してるわね。」
「ちょっと、暗くて見えないでしょ?」
「ふふ、そうね。」
暗くて顔は見えないけど、隣のメリーがバカにした顔をしてるのが一目でわかった。
「・・・ま、いいわ。さー寝ましょ寝ましょ。」
「うん、おやすみなさい。」
暫く、静寂が続く・・・。
「・・・蓮子、寝た?」
「いいえ、メリー。まどろみの中よ。」
「半分寝てるじゃないの・・・あのね、ちょっといいかしら?」
「何?」
「もし、もしもよ。」
メリーが一息入れてから、話始める。
「もし私がいなくなったら、蓮子は悲しんでくれる?」
「な、何よ急に。」
「もしもの話よ。」
突拍子もない話に驚いてしまう。
「そ、そうね・・・悲しむわ、それはもう泣き叫ぶほど。」
「・・・そっか。私がいなくなったら、私のこと忘れる?」
「わ、忘れるわけないでしょ!メリーは一番の親友なんだから!」
「そんなに力まなくても・・・あくまでもしもの話よ?」
「そ、それはそうだけど・・・。」
「クスクス・・・ありがと、蓮子。じゃあもうひとつ聞いていい?」
「な、何よ?」
「私と過ごしてて、幸せ?」
何事かと、彼女の方を向く。
すでに暗闇に目が慣れており、そちらを見ると彼女も同じように私の方を向いていた
その目は、どこか不安で、期待の眼をしていた。
「・・・当然じゃない。」
「そっか・・・そうね。」
メリーが何かに納得したように、うんうんと頷く。
「ねぇ、メリー。ほんと、どしたの?」
「ん?うーんとね、何となく。」
「な、何となくってね・・・。」
「さ、もう寝ましょう。お休み蓮子。」
メリーが背中を向けてしまう。
「もう・・・お休み、メリー。」
眠気も限界に来ていたので、私も目をつむって思考を停止する。
意識が落ちる前に、
ありがとう
という声が聞こえた気がする。
~
ブゥゥゥゥン。
バスが排気ガスを吐いて田舎道をかけていく。
「・・・蒸しあつ。」
現在午前11時。
私たちは目的地行きのバスに揺られている。
田舎だからかもしれないけど、私たち以外誰も乗っていなかった。
「ぬー、曇ってきたわね」
「そうね・・・ひと雨来るかしら?」
「や、やめてよ縁起でもないこと・・・。」
「ふふ、心配しなくても大丈夫よ、きっと。」
「何を根拠に?」
「うーん、何となく?」
「乙女の勘ってやつ?」
「そんなものかしら。」
そんな軽口を良いつつも、バスは目的地へと到着した。
「あ、降りるわよメリー。」
プシューと音を立ててバスの扉が開く。
運転手さんにお金とお礼を言って降りると、バスはそのまま砂利道に揺られて去っていってしまった。
周りには小さな家と、田んぼくらいしか見当たらない。
「で、目的の場所は?」
「えっとね、確か目印になる鳥居があるんだけど・・・。」
キョロキョロとあたりを見回す。
「あ、あった!あれあれ!」
指をさした方向に、色褪せた赤い鳥居が見えた。
「さ、いきましょう!」
「・・・えぇ。」
赤い鳥居をそのままくぐっていく。
まるで京都の千本鳥居・・・とまではいかないが、転々と、森の中に続く鳥居をあるいていく。
「なんだか京都に戻った気分ね。」
「そうね、こうも長いのも同じね。」
ザッザッザ・・・。
周りからは鳥の鳴き声と、私たちの足音の残響音しか聞こえない。
不気味な、しかしどこか不思議な空間・・・。
不思議と嫌じゃない気がする、そんな場所だ。
「あ、森が途切れてる。」
「・・・あそこが目的地?」
向こう側を見ると、長く長く続いた鳥居の向こう側から光が漏れている。
「よーし、競争よ!」
「あ、ちょっと蓮子!」
メリーが慌てて追いかけてくる。
そして、
「うわ・・・。」
「これは・・・。」
そこには、何もなかった。
いや・・・性格には森の中に、半径どれくらいあるかわからない程の大きなクレーターが存在している。
まるで何かにえぐり取られているかの様に・・・。
「ここが、目的の場所かしら?」
「・・・えぇ、間違いないわ。」
バックの中に入っている資料を引っ張り出す。
写真と見比べて、この場所が最終地点ということに気づく。
写真で大体分かっていたけど・・・ここまで絶句する世界とは。
「ここで、村がまるまるひとつなくなったのよ。」
「100年くらい前、一夜にしてこの場所が、跡形もなく消え果てたの。」
「ここはもともと神道を信仰している人たちの集落みたいな場所だったらしいの。」
「うわさによると、ここの人たちは神道か超能力の失敗とかでこの地ごと消えた、とか。」
とつとつと、メリーに説明し続ける。
「もしくは現世に自分たちの居場所がないと思い、この力『裏の世界』へと消えた、とかね。」
入口のすぐ横には、小さな社が物悲しそうに立っていた。
メリーは驚いたようにその場所を見続けた。
「・・・メリー、貴女には何か見える?」
「・・・。」
「メリー?」
返事をしない。
「メリー、どうしたの?」
「・・・これは・・・。」
「!?何か見えたのねメリー!?」
「そう、ここは『世界の裏側』が見える場所。」
突然後ろから声をかけられて、振り向く。
「そう、ここはある人たちの集落だった。名を『博麗』の一族。」
鳥居の向こうから、誰かが歩いてくる。
「一族はとある世界を管理するために、この世界から消えた。」
ゆっくりと、誰かが現れる。
「こんにちは、蓮子さん。」
そこには日傘をさした紫さんがいた。
「え・・・な、なんで?」
「お迎えにまいりましたの。」
「む、迎え?」
「そう、お迎え。」
日傘のせいで、表情が見えない。
「メリーさん、貴女には見えているわね。」
「・・・はい。」
「そう・・・なら準備の方はよろしいかしら?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!話が見えないわ!」
メリーと紫さんの会話についていけない。
何か、何か嫌な予感がする・・・。
「あら?メリーさんから何も聞いていないのですか?」
「蓮子には・・・まだ何も言ってないの。」
「あら、そうでしたの。」
紫さんはさもおかしいといわんばかりに、日傘から覘く口元を歪める。
私には紫さんが、不気味で得体のしれないものにしか見えなくなっていた。
「メリー!どういうことなの!?」
「・・・私は少し席をはずしますわ。」
紫さんが持っていた扇子をすっと垂直に切ると、そのまま切られたであろう部分に消えていった。
「!?」
今、何が起きたの?
何もない空間へ消えた・・・?
まさか、「世界の裏側」へ!?
「め、メリー!?どういうことなの!?」
しかし、メリーは遠くを見据えるだけで、何もしゃべらない。
「メリー!なんとかいってよ!」
「お別れ、なの。」
「・・・へ?」
イマナンテイッタノ?
「な、何いって・・・。」
「1か月前。」
彼女はポツリポツリと話し始める。
「部屋にいた時に、紫さんに出会ったの。そこで、こう言われたの。」
~
「こんばんわー。」
「へ・・・だ、だれ!?」
部屋で読書をしていた時、後ろから声をかけられる。
ここには私しかいないはず・・・。
後ろを振り返るとそこには・・・。
「ハロー♪元気かしら『マエリベリー・ハーン』さん?」
「!?」
後ろにはごく普通の、いや、違う。
私と似たような女性が立っていた。
「え・・・わ、私・・・?」
「いいえ、私は貴女ではないわ。私は八雲紫。」
「ゆかり・・・さん?」
「そうそう、貴女を迎えに来たのよ。」
紫と名乗る人物がそう告げる。
「ど、どういうこと?」
「あらあら、そんなに身構えなくても大丈夫ですわ。とって食べたりしませんもの。」
扇子を取り出してクスクスと笑う紫さん。
「貴女、貴方の特殊なその『目』が気に入りましてね。」
「え!?何故それを!?」
私の目・・・結界や境界が見える能力はほとんど人に話したことがない。
それなのに・・・。
「えぇ、独自に調べさせていただきましたわ。」
紫さんがじっと私を見つめる。
先ほどの笑った表情から打って変わって、まじめな表情になる。
「貴女の力が必要なのです。」
「ひつ、よう?」
「そう・・・貴女には『幻想郷』を救ってもらいたいの。」
げんそうきょう・・・?
聞いたこともない名前の場所だ・・・境界の裏側かしら?
「何故?」
「・・・昨今の幻想郷は、外から流れてくるものが多くなった。」
紫さんが話し始める。
「幻想郷は、いわば忘れ去られたものたちが行き着く最後の楽園。人間だけでなく、妖怪や精霊、あまつさえ神さえも行き着く地。」
「その幻想郷から外の忘れ去られたものが多くやってくるわ。」
「それでも幻想郷は秩序と戒律を守られてきた・・・ちょっと前まではね。」
「何が、あったんですか?」
「・・・幻想郷の、崩壊。」
「正確には結界の力が緩んできているの。幻想郷を古くから守っていた大結界が・・・。」
「修復してはいるものの、緩みきってしまっている以上、また元に戻ってしまいますわ。」
「そこで、貴女の目。そして・・・能力。」
「貴女、ここ最近自分の力が制御出来ていないのでは・・・?」
図星だ。
最近では寝ているうちに結界の向こう側へと行ってしまったこともある。
それに境界を見る時、以前よりもハッキリ見えるようになってきている。
「そう、やはり兆候はあるのね。」
「・・・はい。」
「そうその結界を操る力を使って幻想郷の結界を一緒に直してほしいの。」
「そんな・・・。」
「もうひとつ、貴女の力を抑える修行も兼ねての提案なのよ。」
「抑える・・・ですか?」
「そう。」
目を細めて、紫さんが射抜くような目で私を見つめる。
「貴女、このままでは周囲に影響を与える強力な力に翻弄されてしまうわよ?」
「そ、そんな事・・・。」
「ないと、言いきれますか?」
「・・・。」
確証は、ない。
私自身が結界を無意識に渡る・・・ならば周囲にいる人間にも影響があるのかも・・・そう思ったこともある。
蓮子にも・・・もしかしたら。
「ともかく、貴女には幻想郷に来ていただきます。いうなれば神隠しにあっていただきますわ。」
「そんな急に・・・!」
「今すぐ、とは言いません。1か月の猶予を与えます。それまでにこの世界で済ませたいことを済ませなさいな。」
「・・・。」
「無論、強制ではありませんわ。」
「え・・・?」
「ただし、その力に飲まれれば・・・貴女の大切な人を失うことにもなりますわ。」
紫さんがそうハッキリと宣言する。
「さぁ、2つにひとつ・・・もっとも私の言うことが全て嘘かも知れませんわ。」
「貴女は、どうします?」
「わ、私は・・・。」
どうする?
確かに紫さんの云う通りかもしれない。
でも・・・もし嘘だとしたら・・・。
嘘だとして、そんなことのためにこの人は私の目の前に現れたの・・・?
分らない。
頭が混乱して、考えがまとまらない。
でも、一つだけ言えることがある。
仮に私の力が制御できなくなって、一番危険な目にあわせたくないのは。
私の親友、宇佐見蓮子だ。
彼女とは中学時代からの親友で、どんなときも2人一緒に歩んできた。
高校も、大学も一緒にいて、時に助け合い、時にケンカして、時に笑いあってきた。
そんな、そんな彼女を危険な目にあわせたら・・・。
「・・・ひとつ、よろしいですか?」
「何かしら?」
「力をつける修行は、いつ頃終わりますか?」
「そうね・・・10年、いや20年かしらね。」
「そ、そんなに・・・。」
「あくまでの数値よ。あなたの頑張り次第では変わってきますが・・・。」
がっくりとうなだれる。
長い時間が必要だと思ったけれど、まさかそんなにかかるとは・・・。
「じゃあ・・・じゃあ親友を一人つれていきたいのですが・・・。」
「ダメですわ。」
きっぱりと紫さんがそう告げる。
「あくまで関係のない人間の幻想郷への立ち入りは避けたいのです。」
「・・・そうですか。」
「ご家族や、知人友人には悪いですが・・・無理ですわ。」
紫さんが、首を横に振る。
「それで・・・どうします?」
「か、考えさせて、くれますか?」
「えぇ、よろしいですわ・・・ただし期限は1か月。それまでに決めていただきたいわ。」
「1か月・・・。」
「次に私があなたの目の前に現れた時が、タイムリミットです。それでは私はこの辺で・・・さようなら。」
そういうと彼女はすっと境界の内側に消えていった・・・。
「・・・蓮子・・・私は。」
どうしたらいいの・・・?
~
「それで、今日を迎えたの。」
メリーがやっと一息つく。
「それでね、私、最初は行くのやめたの。」
「紫さんが目の前に現れて、怖くて・・・でもそれでもこの世界にいたかった。」
「でもね、昨日の夜、貴女と話して決心したの。」
「な、何を・・・?」
「蓮子。」
メリーがそっと私を見据える。
「私たち、親友だよね?」
「そ、そうよ!」
「うん、だからね。」
彼女がそっと言葉を紡ぐ。
私はその回答を聞きたくなかった。
「私決めたんだ。」
「・・・メリー。」
「この力が暴走して、それで蓮子を巻き込んだらどうなるかって。」
「やめて。」
「それでね、昨日の言葉を聞いて決心したの。大切な親友の貴女を巻き込みたくないって。」
「もういい・・・。」
「私はね、」
「メリーもういいってば!」
いやだ!
それ以上聞きたくない!
しかし無情にも、メリーはこういった。
「私はね、蓮子。貴方には幸せになって欲しいの。」
「だから私は・・・幻想郷に行くわ。」
言った。
一番聞きたくなかった言葉を。
「いつ戻ってくるかわからないし、戻ってこれる保証もないわ。」
うそだ。
「だけどね、もし私を覚えていてくれたら、また一緒に遊んでほしいわ。」
これは夢だ。たちの悪い夢だ。
「だからね、蓮子。」
「今日で、お別れしましょう。」
「なんで!?」
がっとメリーの腕をつかむ。
「なんでさ!なんでメリーがそんなことしなきゃいけないのさ!」
「蓮子・・・。」
「メリーの力が暴走するなんてありえないわ!だってそうでしょう!8年間ずっとそんなことなんてなかったわ!」
「・・・。」
「なんだったら私が貴女を助けるわ!力の解明だってしてみせる!だから・・・!」
「蓮子。」
そっと、彼女が私を抱きしめる。
「・・・ごめんなさい、もう決めたことなの。」
「・・・うそ・・・うそ!」
「これはね、私のわがまま。そう勝手な私のわがままなの。」
涙が、こぼれる。
「いや・・・いやよぉ・・・メリーと一緒がいい・・・。」
年甲斐もなく、ボロボロと涙をこぼす。
「・・・紫さん。」
「何かしら?」
すうっと、また紫さんが姿を現す。
「準備が、できました。」
「!?メリー!?」
「・・・そう。」
「はい、もう行きましょう。」
「まってよメリー!」
「蓮子さん。」
紫さんが私たちのすぐそばまでやってくる。
「いや!メリーを連れていかないで!お願い!」
「蓮子、もう離して。」
「お願い!私がなんだってするから・・・お願い!」
すっと紫さんの手が伸びる。
とんと、私の額にその指が伸びる。
ガクリ。
「え・・・?」
途端、力が一気に抜ける。
私は重力に逆らえず、その場にくずおれる。
「あ・・・な、ん・・・で・・・?」
「さ、行きましょうか、メリーさん。」
「はい・・・蓮子。」
メリーがニコリと笑いかける。
「また、逢いましょうね。」
「い、や・・・メ、リ・・・。」
視界がぼやける。
メリーが見えなくなる。
声も、届かなくなる。
でも、
最後に、
ありがとうという言葉と、
お幸せにという言葉が聞こえた。
~
「いかないでメリー!」
ばっと起き上がる。
「え・・・こ、ここは・・・?」
ここは私の自室だ。
カチカチと壁掛けの時計が音を立てている。
「嘘・・・夢・・・。」
私は夢でも見ていたのだろうか・・・。
「!?そうだ、メリー!」
側にあった携帯電話をひっつかんでメリーのダイアルを探す。
携帯に耳を当て、メリーの声を待つ。が、
「おかけになった電話番号は、現在使われておりません・・・。」
「え・・・?」
耳を疑った。
再度繰り返し電話をしても結果は同じ。
私は急いで彼女の家に向かった。
ドンドンドン!
「メリー!メリー!マエリベリー・ハーン!」
彼女の部屋のドアを叩いても、何の返事もしない。
ドンドンドン!
「メリー!お願いだから出てきて!」
しかし、声は聞こえてこない。
「あら、貴方どうしたの?」
横にある階段から女性が現れた。
「あ、あの!ここにいた女の子のことなんですが・・・。」
「え・・・この部屋は昔から空き家だよ。」
「え・・・。」
「家違いじゃないのかい?」
そのまま女性はカンカンと階段を下りて行った。
「う・・・そ・・・?」
ありえない。
この前だってメリーのうちに遊びにきた。
そんなはずはない・・・。
「どうして・・・。」
私はすぐさま駈け出した。
「メリー?誰それ?」
「そんな生徒はしらないなぁ・・・。」
「蓮子の勘違いじゃない?」
大学の関係者に聞いても、彼女の事は知らないの一点張り。
その中にはメリーの友人だっていたのに・・・。
私は一人、とぼとぼと道を歩いていた。
本当に・・・いなくなったの、メリー?
ガタンガタン。
ローカル電車が去っていった。
私はメリーと最後に過ごしたこの場所に再び降り立った。
旅館を素通りし、バスを使い、降りて、歩いて、あの場所へと・・・。
そこは、前に見た時と変わらず、あのクレーターの世界が広がっていた。
私の眼には、何も写ってはいない。
こんな時に、メリーの眼が欲しいとこれほど思ったことはないだろう。
あきらめて、帰路に就こうとして。
入口の社に目を向ける。
「・・・?」
そこには石を重しにして、白い手紙が置かれていた。
そっと手を伸ばして、手紙を読んでみる。
「拝啓、宇佐見蓮子様。
たぶん、貴女ならここに来ると思って手紙を置きました。
まずは一言、ごめんなさい。
急なことで頭が混乱しているでしょうけど、今まで起こったことはみんな事実です。
でもね、私はきっと帰ってくるから。
だからそれまで、幸せにやっててね。
最後に・・・ありがとう、私の親友。
また逢う日まで
親友 マエリベリー・ハーンより。」
丁寧な、優しい文字で書かれていた。
ポツリ、ポツリ。
雨が、降ってきた。
手紙に雨が、そして涙がにじんでしまう。
くしゃりと手紙を握り締めて胸に添える。
いなくなったんだ。
本当にいなくなったんだ。
私の最高のパートナーで、
最高の親友が。
「メリー・・・うわあああああああああああああああああああ!」
その場に膝をつく。
さようなら、メリー。
~
「それで?」
「それだけ。メリーがいなくなって、私が泣いて、そんで教授になっただけ。」
「・・・間ずいぶんすっとばしてません?」
「いいじゃないの。」
暑い研究室の中、山野くんが私の話を熱心に聞いてくれた。
「だって蓮子さん、それからメリーさんには会ってないんでしょう?探したりしなかったんですか?」
「探してるわよ、今も。そのために資料の豊富なこの大学を選んだんだから。」
「そう・・・ですか。」
「あーやめやめ、これ以上暗い話すると外にいく気力がなくなるわ!」
ガタリと椅子から立ち上がって、写真立てを元の位置に戻す。
「蓮子さん・・・。」
「もうこの話はおしまいね。」
クルリと、山野くんを見据える。
「ただね、山野くん。私はこれからも、彼女を追い続けるわ。」
「・・・。」
「そんで私言ってやるのよ、このバカメリー!ってね。」
そっと、彼の頭をなでる。
「だからそんな苦い顔しないの。」
「・・・はい。」
「よろしい!」
彼の頭から手を離す。
「蓮子さん、一つだけいいですか?」
「ん、何?」
「その・・・蓮子さんは、メリーさんを今でも親友だと思っていますか?」
「・・・何言ってるのよ、あたりまえじゃないの!私の最高の親友よ!」
「・・・そうですか。」
山野くんがそっとほほ笑む。
だっだっだっだ!
「きょ、教授!お待たせしました!」
「おっそい!」
アイスの棒を彼女の顔に向かって投げつける。
スパーン!と小気味よい音が響いた。
「えぅ・・・ひどいじゃないですか蓮子教授・・・。」
「美羽さんが遅いのよ、さ!外に出るわよ外!」
「まったく・・・じゃあ行きましょうか。美羽さん、資料持ちますよ?」
「あ、ありがと山野くん。」
山野くんが美羽さんが持ってきた資料を受け取ってくれている。
私は2人に構わず、研究室の外に出る。
窓の外は、真夏の日差しがギンギンと照りつけてくる。
「あっつー・・・まだまだ暑さは続くわね。」
私はそう零した。
夏はまだ、始まったばかりだ。
バシャ、バシャ・・・。
鳥居の中を歩く、足取りが重い。
まるで無限に続く、出口のない迷路の様だ。
バシャ、バシャ・・・。
雨にぬれた服が、体が重い。
それすらも、今はどうでもよかった。
ガッ。
バシャン!
躓いて、雨でグシャグシャになった地面につっぷする。
ザーザー・・・。
雨は降るだけ。
まるで空が号泣するように振り続けている。
「・・・。」
ハラリと、手紙が地面に落ちる。
水分を吸って、紙が瞬く間にグシャグシャになっていった。
『私はね、蓮子。貴女には幸せになって欲しいの。』
「・・・でよ。」
「・・・ざけないでよ。」
「・・・ふざけないでよ。」
「ふざけないでよ・・・ふざけないでよ・・・。」
「ふざけんな!!」
バシャン!
握りこぶしを地面にたたきつける。
「何が、何が幸せよ!貴女がいないこの世界が、時間が、どれだけ不幸か、どれほど苦痛な事か!」
メリーは何も分かってない。
「何が・・・それで親友よ、ふざけないで!」
バシャリ!
もう一度、地面をたたきつける。
「ぜったい・・・絶対貴女をゆるすもんですか・・・。」
「・・・いいわ、それならこっちにだって考えはあるわ。」
「その幻想郷とか言う世界に、自力でいってやるわ!」
「そんで貴女に説教してやるんだから!」
むくりと起き上がる。
「貴女といる幸せを、ウンザリするほど説明してやるんだから。」
その表情は、もう泣いてはいなかった。
「絶対、逢ってやるんだから・・・マエリベリー・ハーン!」
一番の親友の名を叫んだ。
雨が、止んだ気がした。
2人の夏が、終わった。
Fin
女同士の友情っていいね
ただ、蓮子の実家設定とか秘封独特の近未来の雰囲気を無くしていたのは個人的に残念
自分も長文がスラスラ書けるようになりたい。
無理だけどw
↓
メリー
では?
いつの日か帰ってきたメリーか、はたまた幻想郷に到達した蓮子が
永きに渡る幸せを得ることを願って。
それはきっとクソ暑い夏の日で、
最高に美味しいガ○ガ○クンソーダ味を、一緒に食べるんだと思います。
すらすら読めてとてもよかったと思います。
アフターストーリーとかも見てみたいなー(←無茶ぶり
たとえ今は離れていても、いつか必ず再会できるでしょうね。
よいお話をありがとう。
それぞれのキャラが魅力的に描かれていて、
すらすら読めました。
秘封ものと紫が大好きなのでとても嬉しいです。
現実に帰れるというのはどうにも嘘臭い
幻想郷に関係ないものなら家族だろうがなんだろうが侵入を拒むんだし、結界をどうこう
出来る力を制御出来るようになったメリーを外に返すのは、再び結界に穴が空く原因にも
なりかねんし
2人の再会を祈りたいが、それには蓮子が待っているだけでは駄目な気がする
そういう意味ではこの蓮子は積極的でいいね