Coolier - 新生・東方創想話

東方公開決闘~神と鬼~

2010/06/21 15:38:26
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バトルものです、暴力シーンや痛々しい描写が苦手な人にはお勧めしません。

~前回までのあらすじ~
紫と霊夢の提案に賛同し、博麗神社での公開決闘に出ることになった早苗。
第一戦が終わり、早苗の前に現れた対戦者は水橋パルスィであった。


公開決闘が始まったのは黄昏時であったが妖夢とリグルの一戦を経て、本格的に日が沈み始めていた。
博麗神社境内の闘技場を囲むかがり火の炎が闇が深くなるにつれ煌めきを増している。
そして、赤い炎に照らされてもなお、深い緑に輝く瞳が二つ。

「早苗の相手にパルスィを選ぶとは紫もいいセンスしてるわね」
「なんだ、スキマ妖怪の推薦だったのか?」
霊夢と魔理沙は闘技場を囲むギャラリーの最前列で、相変わらず呑気に語り合っている。

「そうなのよ、この二人の戦いとなれば見ものよ~」
「そうか?特に繋がりのない二人じゃないか」
「いいかしら?人でありながら同時に神として信仰を集める早苗と?」
問いかけるように語尾上がりな霊夢の言葉に魔理沙は一瞬だけ思案した後、納得顔で続けた。
「人に生まれながら嫉妬に狂い鬼へ堕ちたパルスィか、なるほど確かに面白い組み合わせだぜ」


(これが嫉妬心の妖怪、橋姫)
早苗はパルスィの事は話には聞いていたが対面するのは初めてであった。
まだパルスィとの間には、かなりの距離がある格闘戦ではないスペルカード戦の間合いだ。
緑の瞳には闘争心や、あからさまな攻撃的な気配は感じられない、虚ろな視線だけが早苗に向けられている。

敵の感情が読めない事もあってか、早苗の心を満たすのは戦いへの恐怖や高揚感よりも戸惑いであった。
目の前の妖怪へどのような攻撃を加えてもいいという納得が出来ずにいた。

(もう、始ってるのよね)

両者とも何の動きも見せない睨み合いが続く。

突然、パルスィが首の骨が折れたかのように頭を前方に力なく垂れ、そこから徐々に頭をもたげ穿つような上目づかいで早苗を睨む。
その視線には先程までの虚ろな目とは一転して、言いようのない負の感情が込められていた。

(なに!?気持ち悪い)

更に睨み合いが続く。
外見上は先程までと変わらないが二人の間の空気は明らかに変化していた。
早苗は背中が嫌な汗でじんわりとするのを感じていたが、その割に身体の芯は妙に冷えたような感触がある。
いつの間にか早苗の心中も戸惑いから、パルスィをどう迎え撃つかという算段に変わっていた。

(来ない、ならこっちからっ!)

まったく動こうとしない相手に、ついに意を決し早苗は右手の玉串を頭上に掲げた。

「秘術『グレイソー…」
「早苗っ!上っ!!」

場外から諏訪子の声がした、早苗は咄嗟に上を確認せず左に跳ぶ。
直後、早苗がいた空間を大小の緑の弾幕群が一つの大きな生き物のようにうねり、通り抜けていった。
上方から飛来した弾幕群は地面に接すると、今度は横方向に進路を変えて早苗へと迫る。

「うわっと!」

緑の弾幕群はパルスィのスペルカード、妬符『グリーンアイドモンスター』であった、横方向に転じたそれも早苗は地面に転がりつつも辛うじてかわす。
しかし、地を転がるあいだに一瞬だけパルスィのいた方向が解らなくなってしまった。

(まずいっ、追撃が!)

やっとグリーンアイドモンスターが掻き消えて早苗は焦り、パルスィに対し構え直す。
予想に反して、パルスィは何の追撃もせず、動かず睨み続けるだけであった。
ただ、その瞳に宿る負の感情だけがより濃くなっていた。

(どうして?今なら隙だらけだったのに)

早苗が戸惑う様子など、まるで意に介さずパルスィはだるそうに首を回し、深く息を吐いた。

「ん、はぁ」

不意にパルスィが二人になった。
特別な掛け声も、仰々しい動作もなく、力なく片膝をついてしゃがみ込んだパルスィの後ろにもう一人パルスィがいたのである。
二人のパルスィが早苗に迫る、先行する一人のすぐ後ろにもう一人が続く形だ。
格闘戦もスペカ戦もできる中距離の間合い来たところで、後ろの一人が跳び、地上と上空からの同時攻撃を仕掛ける。

(分身!? どちらが本物? わからない、それならっ!)

早苗は地上から迫る方に向けてお札の弾幕を放射状に展開した。
上空からの方は着地までの動きは読める、ならば脅威の大きい地上からの方をという一瞬の判断であった。
お札が命中したパルスィは小爆発を繰り返し霧散する。

(上が本物かっ!)
「けぇああっ!!」

上から迫るパルスィが右手を振り降ろし、早苗はバックステップで逃れた。
早苗は露出している左の上腕部に小さな痛みを感じた、見ると赤い糸のような一筋のかすり傷がついている。
互いに間合いをとり、追撃はない。
戦いの構えをとって対峙するパルスィの右手には五寸釘が小指側から釘の先端が出るように握られていた。

(釘? 変な武器ね、使いずらそう)

早苗は使いずらそうな武器を不可解に感じたが、その疑問に答えを見つけつつあった。

(なるほど、これが橋姫、嫉妬心の妖怪ってことね)

戦いが始まってから早苗の胸中は戸惑いばかりであった。

初対面にも関わらず異様な感情が向けられること。
隙があっても追撃してこないこと。
とても使いずらそうな武器を用いること。

しかし、その不合理こそが理屈よりも感情に生きる妖怪『橋姫』であると解ってきたのである。

(この不合理、怖くもあるけど隙でもあるわ)

受け身になりがちだった早苗は敵を解り始め、反撃に転じようとしていた。
中距離の間合いから少しずつ距離を広げ、スペルが有効な間合いにまで持っていく。

(ここでっ!)

スペルに近すぎない間合いに達した所で、早苗が胸の前で合掌をする。
合掌から両の掌を左右に離す動作に連動して、早苗の両側に大人二人分以上の高さのある波打つ弾幕の壁が現れた。

「開海『モーゼの奇跡』」

敵を左右から挟む弾幕の壁で動きを制限しつつ直線的な軌道の弾で敵を狙い撃つ早苗の得意スペルである。
左右の逃げ場を失ったパルスィは間合いを詰めようと五寸釘を握った右手を振り上げ突進をするが、
『モーゼの奇跡』のもう一つの要である敵を狙う刃物のような弾に、前進を阻まれてしまう。

「うっ、ぐあぁっ!」

一度でも弾に当たってしまえば、後は無残なもので次々に迫る弾を全てその身で受けてしまう。
ダメージを負ったパルスィは膝から崩れ、うつ伏せに倒れた。

(あっけない、回避に専念してから反撃すれば、こうはならないでしょうに)

地に這いつくばりながらも自分へにじり寄ってくるパルスィを早苗は憐れみと優越感を感じながら見ていた。

「もういいでしょう? それとも、完全に退治されるのが望みですか?」

パルスィは早苗の言葉など聞こえないかのように懸命に地を這い、ついには早苗の足へ手を届かせた。
敵の満身創痍な様子を見て早苗は完全に警戒を解き、それ以上の攻撃はせずに、ただ呆れてパルスィを見下ろしていた。

「いい加減に…」

言いかけたその時、パルスィが早苗の右足を掴んでいる自身の左手の甲へ五寸釘を思い切り突き立てた。

「なっ、何を!?」

更に五寸釘をグリグリと力を込めてねじ込み自身の手の甲を深く穿っていく。
ここで早苗はようやく恐ろしい事態に気がつき、血の気が引いた。

「まさか、やめっ… あっ!」

チクリと自分の足の甲に堅く冷たい金属が触れるのがわかった、五寸釘がパルスィの手を貫通したのである。

「馬鹿っ!やめなさい! このっ!!」

空いている左足でパルスィの頭を蹴り、あるいは踏みつけるが全く動じる様子はない。
それどころか敵は懐から木槌を取り出し振り上げた。

「やめっ、やめてっ! 待ってっ!!」

パルスィは躊躇うことも恐れることもなく、木槌を振り降ろした。
早苗は足を穿った釘の痛みに、後ろへ尻もちをつき倒れこんでしまう。
今度は、拳で殴り髪を引っ張りパルスィを止めようとするが敵は何も動じる気配はない。

早苗から見たパルスィの顔は先ほど地を這った事と蹴りや踏みつけのせいで血と土で汚れ、髪もぐしゃぐしゃになっている。
しかし、ダメージの蓄積と反比例し瞳に宿る感情の炎は更に激しく燃え上がっていた。
二度目の木槌が振り下ろされる。

「あぐっ! やっ、もう助けて…」

不意にパルスィの肩を掴む手があった、それは血生臭い展開には似つかわしくない、ほっそりとした白い手袋をはめた手である。

「水橋さん、もういいわ あなたの勝ちよ」

紫のドレスに肘まで隠れる白い手袋、独特の形状を持つ日傘、手の主は決闘を勧めパルスィを推薦した八雲紫であった。

パルスィは紫に気付くと力んでいた両手を脱力し木槌をしまって、無造作に立ち上がった。
五寸釘は早苗の足からは抜けたがパルスィの手には刺さったままである。
釘の刺さっていない方の手で紫の肩をグイッと押しのけ、パルスィは早苗に一瞥もくれず、会場の人垣の中に消えていった。

「歩けないでしょう、肩を貸すわ」
「あっ、あぁ」

早苗は安堵感から言葉がでなかった、ただ差しのべられた紫の手をとった。


「予想の斜め上をいく展開だったわね、魔理沙もパルスィとは戦いたくなくなったんじゃない?」
「馬鹿言え、私なら遠くからこいつで、なっ!」
霊夢に問われた魔理沙は、ニカッと笑って持っていたミニ八卦炉を見せる。

「さて」
霊夢は魔理沙を置いて、誰もいなくなった闘技場の中央へ向かいギャラリーを見回した。
「お集まりのみなさん、まずは本日の闘士達に拍手を」
ざわついていた会場が一旦は霊夢の登場に静まり、また霊夢の呼び掛けによって波のような拍手と歓声が沸き起こった。

「さっそくだけど、次回は十六夜の晩の亥の刻にやるわ、誰か戦いたい有志はいるかしら?」

「はい、はーい」
呼びかけに即座に反応した能天気な声が一つ。
すぐに声の主は人垣から上へと飛び出し、ふわふわと飛行して闘技場に降り立つ。

背には鳥の羽根を持ち被る帽子にも羽根を模した飾り。
長く鋭い爪だけがあどけない少女のような外見とは不似合いな攻撃的な印象を見るものに与える声の主は、夜雀ミスティア・ローレライであった。

「あら、ミスティアじゃない、月の異変の時のリベンジでもするつもり?」
「相変わらず勘がいいのね」

その言葉に他人事と呑気に見ていた月の異変で関わった面々が反応する。

「巫女とやろうってんじゃないよ、やけに弱点の多いお嬢様に本当の闇の怖さを、ね?」

おどけた調子で話すミスティアの視線の先には外見は彼女自身とそう変わらない少女の吸血鬼がメイドを伴って立っている。
霊夢もミスティアが示す吸血鬼“レミリア・スカーレット”に注目するが、不機嫌そうな顔でこちらを見ているだけだ。
レミリアの後ろに控えるメイド“十六夜咲夜”も表面上は無反応だ。

「実はこの件に絡みたがってるのがもう一人いてね、紅魔館なら相棒には不自由しないでしょ? 
そのメイドに門番に魔女に、なんならあなたの妹でもいいわ」

ミスティアが一気に喋り終えたところで、レミリアは呆れ顔で深いため息をついた。

「自分から挑戦をしておいて、そんな条件を出すなんて、これだから下等な妖怪は」
嘲りを含む口調で返されるもミスティアは動じず不敵に笑う。

「いいわ、次の決闘では格の違いを教えましょう」

言い捨ててレミリアは踵を返し咲夜と共に人垣を掻き分けて退場していく、後ろ姿ゆえにミスティアと霊夢からは見えなかったが嗜虐的に歪んだレミリアの口の端からは唾液にぬめった牙が覗いていた。
前回よりも更にエグい展開になりましたが、いかがだったでしょうか?
妖怪の理解不能な怖さみたいなものが表現できていればいいのですが。

バックストーリーは続きつつも、一戦一戦単品でも楽しめるようにしていきたいと思います。
ペロの飼い主
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コメント



0.410簡易評価
7.80コチドリ削除
早苗さん、次こそ覚悟完了してパルスィと再戦だ!

ところで、ミスティアの相棒は闇繋がりでやっぱりあの娘が出て来て欲しいなぁ。
次回、楽しみにして待っています。
10.70名前がない程度の能力削除
個人的に好きな作品でした。次回作も期待しています。