幻想郷は、毎日が宴会騒ぎである。
それは、しとしとと雨が降り続き、気分が沈みがちになる六月だろうと関係ない。
今日も今日とて、博麗神社では宴会が繰り広げられている。
「よっしゃあ、余興やるぞ~!」
夜も更けた神社、宴もたけなわといった所で、魔理沙は唐突にそう宣言した。
すると、元より賑やかだった神社は、より一層の盛り上がりを見せ始める。
「お、いいねえ、余興かあ」
「やろうやろう!」
「あらあら」
「変なのは嫌ですよ」
「何であんた達がそんなノリノリなのか分かんないわ」
順に、萃香、チルノ、白蓮、鈴仙、そして、何故か不機嫌そうな霊夢。
霊夢がこんな棘のあることを言うのには訳がある。
以前、王様ゲームでフランとキスする事になったレミリアが、唇を重ねると同時、照れ隠しに弾幕を放って、居間を壊滅させたのだ。
まるでコントか何かの様に崩壊した居間は、今も霊夢の記憶にトラウマとして残っている。
勿論、翌日には萃香に頼んで元の様に戻してもらったが。それでも、また壊れるのは勘弁だ。
凄まじいまでのじと目で、参加者全員を見渡す霊夢。
しかし、皆が皆わいわいと、余興を楽しみにしているこの状況では、多勢に無勢というもの。
結局、霊夢は「王様ゲーム以外なら」という条件を提示する事で、溜飲を下げる事にした。
「って、王様ゲーム禁止かよ!?」
「当然でしょ。あの惨状忘れたわけ?ついこないだの事でしょうが」
「むう。たしかにそうだけど」
それを言われると、魔理沙も黙らざるを得ない。
あの時、霊夢は珍しく、本心からの悲しみで涙していたのだ。
その様子を見ていた紫やアリスは「ギャップ良いよ!」と言いつつ物陰で歓喜していたが、生憎魔理沙は「気の毒な事した」としか思えなかった。
そんなこともあって、霊夢が「王様ゲーム禁止」と言うなら、魔理沙はそれを受け入れるしかないのだった。
「いや、王様ゲームというより『部屋を破壊する可能性のある行為全般禁止』よ?」
「流石にそのくらい、分かってるぜ。でもどうするかなあ……。代わりに何をやろうか」
「あ、じゃあ、謎かけなんてどうですか?」
二人の会話に割って入り、そう提案する早苗。
彼女は子供の頃から、雨で外に出られないと、よく神奈子や諏訪子とこういった遊びをして時間を潰していたのだ。
場も盛り上がるし、何より謎かけならば、どうやっても部屋を破壊する心配はない。
「お!謎かけか。面白いかもな」
「部屋が壊れないなら何でもいいわよ」
「なぞかけって何ー?」
説明するまでもないだろうが、順に、魔理沙、霊夢、チルノ。
チルノ以外にも、ルーミアやミスティアといった面々も、ぽかんとした顔をしていた。
彼女たちは、どちらかといえば外で遊んでいることの方が多いため、謎かけを知らなくても無理はない。
そんな彼女たちに向かって、魔理沙は得意気な顔で説明を始める。
「謎かけってのは『○○とかけて××と解く。その心は、どちらも△△です』って感じで、とにかく上手い事を言う遊びだぜ」
「? あたい、魔理沙が何言ってるんだか分かんない」
「まあ、そうだろうな。要は、二つのものの共通点を挙げれば良いんだが……じゃあ試しに一個やってみるか」
魔理沙は、そう言って少しの間思案すると
「私とかけて、文と解く」
「その心は?」
「どちらも、速く飛ぶでしょう!」
………………
魔理沙が言い終えるや、何ともいえない、嫌な沈黙が場を支配する。
下手だ。下手すぎる。本当に、ただそのまんまのことを言っただけだ。
唯一人、チルノだけが「おおー、謎かけってそういうのなのかー」と頷いていた。
「な、何だよ!しょうがないだろ!急に振られたんだから!」
「いや、自分からやるって言ったんだし」
「たしかに二人とも速いー」
「……今のは、無いと思います……」
魔理沙、霊夢、チルノの会話に混じり、遠くから『ぼそり』といった感じで呟いたのは大妖精。ちなみに、妖精の中でも頭の良い彼女は、当然謎かけも知っている。
そんな大妖精の声を聞き逃さなかった魔理沙は、逆ギレしたように彼女へ詰め寄った。
「余計なお世話だ!じゃあ、お前は何かネタあるのかよ?」
「へ!?わ、私ですか?」
「ああ!」
真っ赤な顔で「そんな事言って、私と同レベルだったら許さんからな」と付け足す魔理沙。
ムチャ振りもいいところである。
「そうですねえ……うーん」
大妖精はしばらくの間うんうんと考えていたが、やがて一つネタが思いついたらしく、大きく息を一つ吸うと言い始める。
「霧の湖とかけまして、花吹雪と解きます」
「その心は?」
「どちらも『チルノ(散るの)』が綺麗です……なんて」
おおっという声が周りから響く。
これは上手い。少なくとも、魔理沙の謎かけよりはずっと上手い。
その答えを聞くや否や、明らかに負けたという悔しさからか、「うわあああん!」と泣きながら、居間を飛び出していってしまう魔理沙。
しかし『放っておけばその内戻ってくるだろう』とあまり気にする者もない。幻想郷は、そんなに甘くないのだ。
人妖達は、面白い謎かけはないかと周囲と話しながら、考え始める。
「難しいですね~。師匠は、何か浮かびました?」
「私、こういうとんちみたいなのは苦手なのよ。理系だし」
「文系理系って関係……存外、ありそうですね。言葉遊びだし」
こちらは、永遠亭の面々。真面目で思考が固くなりがちな永琳と鈴仙は、一つもネタが浮かばないようで、先程から考え込んでいる。
その一方で、こういった遊びについては滅法強いてゐは、ニヤニヤとしながら二人にネタを披露していた。
「永琳とかけて、地震雷大津波と解く」
「その心は?」
「どちらも『天才(天災)』でしょう」
「おお~」
「ふ、なるほどね。その高度なテクニック、流石てゐといったところかしら」
「格好つけてるところ悪いけど、これ、特別上手い訳じゃないウサ」
赤面する永琳に対して呆れた様な表情を浮かべると、てゐは続ける。
「じゃあ今度はもう少しマシなのを。永琳、姫様、妹紅の三人とかけまして、商品売り切れと解きます」
「その心は?」
「と、そんな簡単に教えてばかりじゃ、面白くないでしょうが。少しは自分で考えなよ」
「ええ~……意地悪ぅ」
「私と姫と妹紅?……三人とも、蓬莱の薬を飲んでいるけど……商品売り切れってどういうことかしら?」
しょんぼりと落ち込む鈴仙と、ぶつぶつと呟きつつ謎かけに挑む永琳。
二人が正解に辿り着くまでには、まだかなりの時間がかかりそうだった。
「謎かけかあ。たしかに昔、よくやったよねえ」
「そうそう。早苗が下手くそでさあ。当時は二人して笑わせてもらったよ」
感慨深げにそう語り合うのは、守矢神社の神奈子と諏訪子。
「諏訪子、覚えてる?早苗が最初に作った謎かけ」
「あー、忘れられないね。『お二人とかけまして、画用紙と解きます』でしょ」
「そうそう。『その心は、どちらも『神(紙)』でしょう!』って、そのまんますぎてさあ……」
「笑い堪えるのに必死だったねえ。あのときは」
昔を懐かしみつつ、はっはっはと笑いあう二人。神奈子も諏訪子も、本当に愉快そうな表情だ。
すると、そんな二人の元へ、すっと近づいてくる影があった。
「お二方は、いつまで私の黒歴史を語られていれば気が済みますか……?」
ピシリと、空気の止まる音が聞こえた。
おそるおそるといった様子で二人が振り向くと、そこには素敵な笑みをたたえた、件の早苗本人が立っていた。
「さ、早苗?あんた、霊夢のとこ行ってたんじゃ」
「霊夢さんが言ってたんです。『何となくだけど、今、あんた馬鹿にされてる気がする』って。大正解でした」
「あんのアマー!」
その言葉に神奈子が怒りの声をあげるが、早苗はあくまでも冷静に
「霊夢さんは尼さんじゃないです。巫女さんです。それで、お二方は、私に対して言う事はありませんか?」
「「すみませんでしたー!」」
ペコペコと、猛烈な勢いで頭を下げる二人。
プライドもへったくれもないが、前に早苗を怒らせた時は、夕飯抜きにさせられて、さめざめと泣いた記憶もある。
あんな悲劇は、もう二度と繰り返してはならない。
「大体、あの時は私も小学生くらいの子供でしたから!今はもうちょっとマシな謎かけを作れますよ!」
「おお?」
「そうなの?」
早苗の言葉を聞き、意外そうな表情を浮かべる二人。
ただ、言われてみれば、語彙の豊富さが鍵を握るこの遊びは、子供よりも大人の方が圧倒的に有利である。
そういう意味では、別段謎かけをやっている訳でなくても、早苗が成長しているというのは、充分に考えられる話だ。
「私の成長を、お二方に見せ付けてあげます!」
そう宣言すると、早苗は自信満々といった表情で続けた。
「妖怪の山とかけまして、マラソン大会と解きます」
「その心は?」
「どちらも『危険(棄権)』が付き物です!」
「うぅっ」
「早苗っ」
「ああ、二人とも分かってくれましたか。私だってあれから伊達に年を取ったわけじゃ……」
ちなみに『年』の部分で、永琳や紫の鋭い視線が早苗に集中したが、本文には関係ないので省略。
「神奈子様、諏訪子様……私も成長、出来ましたよね?」
そう言うと、抱きつかんばかりの勢いで、二人の元へと駆け寄る早苗。
だが。
当の神様たちは次の瞬間、口を揃えて
「びっみょー……」という評価を早苗に下したのだった。
「ええー!?」
「悪くはないんだよ……」
「うん、決して悪くはないの……」
でも、だからといって、うまいかと言えば……。
早苗渾身のネタに関する神様の評価は、点数にすれば大体65点くらいという、実にどっちつかずなものだった。
「やれやれ。どこも苦戦しているようね」
「そういうお嬢様も、先程から『うー☆うー☆』唸ってらっしゃいますが。やっぱりこの手の遊びは苦手ですか?」
「ウーウー唸ってるのよ!誰が語尾に☆なんてつけるか!」
脳がないレミリアにとって、思考力が問われるこの手の遊びは、苦手なものの一つだ。
パチュリーは永琳と同じく真面目すぎるタイプでネタが浮かばないようだし、フランも今日初めて謎かけという存在を知ったばかりなので、作れるわけもない。
となると、自ずから面白いネタを作れそうな人物は、限られてくる。
「そんな訳で、貴女達は何かないの?美鈴、咲夜」
「いえ、いきなりそう言われましても」
「そうですわ。私も謎かけはあまり得意ではなくて」
レミリアの言葉に苦笑しながら美鈴が答え、咲夜もそれに同調する。
すると、そんな二人に向かい、レミリアは肩を竦めながら言った。
「残念ね。いいネタ聞かせてくれたら、ドロワを一枚贈呈しようと思ったのだけど」
「整いましたわ」
「早っ!」
初めは乗り気でなかったのに、褒美を提示した途端にこれとは。
げに恐ろしきは愛の力か。愛なのだろうか。はたして、これが。
レミリアがそんなことを思っていると、咲夜はゆっくりと口を開く。
「美鈴とかけまして、ナズーリンと解きます」
「その心は?」
「どちらも『ネズミ(寝ず、見)守る』ことを得意としています」
咲夜がそう言い終えると、どこからともなく、感心したような声が漏れる。
(はー、流石に咲夜さん。レベルが違いますねえ)
実は美鈴も「魔理沙とかけて弁護士と解きます。その心は、どちらも『ほうき(法規)』を使いこなします」というネタを用意していたのだが、このネタを聞いた後では、とても言えそうになかった。咲夜のネタは、難しい言葉が無いため誰にでも一発で分かり、尚且つ捻りも効いていて、完成度が高い。
(私のは『法規』って言葉を知らないと笑えないもんね。あんまり捻りもないし。さて、これは、お嬢様も本気で咲夜さんへドロワあげるしかないんじゃないかなあ)
そう思いつつ、ちらりとレミリアの様子を窺う美鈴。
レミリアは「ふうむ」と頷き、一応納得したような表情はしていたものの、やがて首を横に振ると「……駄目ね」と、咲夜のネタを一蹴した。
「な!?何故ですか!?」
その言葉に、驚きの表情を隠せない咲夜。謎かけの出来としてはパーフェクトに近いはずだが、何故駄目だったのか。
彼女の当然の問いにも、レミリアは落ち着き払って答える。
「クスクス。何故ですって?だって、美鈴を見て御覧なさいな」
ニヤリと美鈴を見て笑いつつ、レミリアは続けて言った。
「よく思い出してみなさい……あの子が、一度でも昼寝をせずに、門を守っていた事があったかしら?」
言い終わるや否や「じゃあ、ちょっと霊夢のところ行って来るわ」と飛び立つレミリア。
そんなレミリアの耳には
「あんたが普段ちゃんとしてないから、お嬢様のドロワが、ドロワが……」という咲夜の怨嗟の声と
「ちょ、咲夜さん!こんなところでナイフは勘弁ですって、ぬわー!?」という美鈴の叫びが木霊していたのだった。
「……何やってるんだか」
「本当です。あの方達は、少し騒がしすぎですね。私が行って注意してきましょう」
「あー、やめといた方がいいですよ、四季様。多分、余計にややこしくなるだけですから」
早速腰を上げかける閻魔に、その部下の死神は、うんざりしたような表情で言う。
「何故止めるのですか?公共の場では、それが例えどんな場であっても、ある程度節度を弁える。これは当然のことでしょう」
「宴会なんですから、いいんですよ。別に、どれだけ騒がしくたって」
「それにしても、限度はあると思いませんか?」
「そういうことで言えば、この間の方が酷かったんですがねえ」
「?」
生憎、小町に勧められるまま酒を飲み、酔い潰れて寝ていた閻魔様は、あの時神社に起きた悲劇を知らない。
彼女の事だから、知っていれば、レミリアに対して猛烈な勢いで説教しに行っただろう。
その事態を恐れたレミリアは、青い顔で、映姫以外の参加者全員に口封じを頼んだため、どうにか難を逃れたのだった。
「でも、四季様は苦手そうですよね、こういうの」
にひひ、と悪戯っぽい表情を浮かべながら、小町は言う。
「遊びなんて、普段全然してないですからね。謎かけなんて、作り方も分からないんじゃないですか?」
「……小町。見た目で人を判断しない事と、いつも言っているでしょう。私だって、そのくらいは嗜みますよ」
映姫は、小町の言葉を聞き、呆れたようにそう返す。
「本当ですか~?」
「ええ。そこまで疑うのならやってみせます。じゃあ、折角ですから『説教』をお題にしましょうか」
「こんなときまで『説教』ですか!?」
こういう時にまでそんなお題を選ぶから、四季様には遊び心が足りないと言われるんですよ!
小町のそんな声を無視し、映姫は少しの間考えると、にっこりと笑みを浮かべた。どうやら、相当の自信作が出来たようだ。
「説教とかけて、善行と解きます」
「(お題が説教で答えが善行って、もうまんま四季様じゃんか!)……その心は?」
「どちらも『クドく(功徳)』積み重ねる事が肝要です。だからこそ、私も口を酸っぱくして説教に周っているわけですが、そもそも良い生活には日々の心がけが……」
謎かけの勢いそのまま、いつもの様に説教タイムへと突入する映姫。
(うへえ)と、思わず小町は辟易する。たしかにネタは上手かったが、何でもかんでも説教の材料にしてしまうのが、この閻魔の悪癖だ。
それに、小町にも、さっきあんなことを言った手前、このまま映姫に言われっぱなしでは、何となく悔しいという思いがある。
そう考えた小町は、気持ちよさそうに話す映姫に向かって、いきなりこう切り出した。
「お話中失礼しますが、四季様。『閻魔の説教も九回まで』という諺をご存知でしょうか?」
「……いえ。そんな諺は初耳ですね。『仏の顔も三度まで』という諺であれば、よく存じているんですが」
「そうでしょうね。たった今、あたいが作った諺ですから、知らなくて当然です」
「ふふ、貴女の事だもの。『九』という数字に何かありそうね?」
すっと目を細め、そう小町へ問いかける映姫。
言外に『下らない揚げ足取りをしたら怒りますよ』というニュアンスをモロに漂わせている映姫だが、小町は「ええ、まあ。とっても深い訳がありますよ」と、一歩も引く構えを見せない。
「やっぱり。でも、何故、九回なのですか?」
静かに、しかし、無理やり話を切られた怒りから、迫力を感じさせる声で訊ねる映姫。
一瞬の間の後、小町は『にへら』といつものような笑みを浮かべながら答えた。
「どんなにありがたいお説教も、クド(九度)すぎると嫌になっちゃうんですよ」
「……言いたい事はそれだけですか?」
「はい!」
一言だけそう言うと「好士(くし)の戦法、三十六計逃げるにしかず!」と叫びながら、駆け出す小町。
「『くし』だけに三十六!?そんな一般に馴染みのない言葉、オチにしては分かりにくいでしょうが……じゃなくて!こら、小町!待ちなさい!」
ちなみに、好士とは『風雅の道に通じ、それを良くする人』を指す。要するに、今の小町とは、まるで正反対の人物だ。
二人は、先程まで自分たちが言っていたことなどまるで忘れたかのように、どこまでも仲良く、騒がしく、追いかけっこを繰り広げていた。
「皆、盛り上がっているようですね。紫様は、何か浮かびましたか?」
「ええ。とっときのネタが浮かんだわよ。霊夢とかけて、外の世界の議員と解く」
「その心は?」
「どちらも『人気(任期)』があり、『賽銭(再選)』を得るのが難しいでしょう」
「お見事!」
ニコニコと談笑しているのは、紫と藍だ。
二人とも理系の天才ではあるが、こういった遊びを考えるのは性に合うのか、ポンポンとネタを連発していく。
さて、その横で一人、面白くなさそうにしているのが橙である。
無理もない。彼女もチルノ達と同様、今日初めて謎かけというのを知ったばかりで、二人の会話にはまったく参加できていないのだ。
橙は少しでも二人の会話に混じろうと、藍の服の裾を引っ張りながら問いかける。
「ねー、藍様、『任期』とか『再選』ってどういう意味ですか?」
「ああ、橙には難しかったかな。まあ、幻想郷ではあまり使われない言葉だから、知らなくても問題はないと思うよ」
「むー……」
怒ったように頬を膨らませ、「もういいですっ」と二人の側を離れる橙。
縁側へと出た彼女は、ぼんやりと庭を眺めながら、中の喧騒を聞くでもなく聞いていた。
「どうすれば、私も藍様たちの会話に混じれるかなあ……」
はあ、とため息をつきつつ、一人呟く橙。
自分も、二人の会話に加わりたい。でも、どう入っていけばいいのか、分からない。
途方に暮れて、橙は思わず目に涙を浮かべてしまう。
すると、そんな彼女に向け、声をかける人物の姿があった。
「簡単な事よ。ネタを考えればいいじゃない」
突然の声に驚いた橙が振り向くと、そこには花の大妖である風見幽香が、にこやかな微笑を浮かべながら立っていた。
「こ、こんばんは」
「ええ、こんばんは。悪いけど、今の話聞かせてもらったわ」
一言そう言うと、橙の隣へと腰を下ろして、幽香は続ける。
「どうせ、二人とも下らない謎かけ遊びに夢中になってるんでしょ?だったら、あんたはあんたなりに知恵絞って、何かそれなりに気の利いたことを言えばいいんじゃないの?」
「そんなこと言ったって、お二人みたいな面白いネタ、簡単には浮かびませんし」
ぷい、とそっぽを向いて、そう答える橙。よほどへそを曲げてしまっているようだ。
そんな橙に向かって、幽香はあくまで笑顔を崩さないまま言う。
「しょうがない子ねえ。じゃあ、私が二つばかり思いついたネタを貴女に教えてあげるわ。それを手土産にして、二人のところに行っていらっしゃいな」
あ、私が教えたというのは内緒よ。面白くないからね。ふふっ。
最後にそう付け足すと、幽香は橙に耳打ちを始めるのだった。
「紫様!藍様!」
「あら、お帰りなさい」
「おお。橙、戻ったか」
先程までとうって変わって、満面の笑みで二人の元へと戻った橙。
彼女は二人に向かって抱きつくと、わくわくとした声を隠そうともせずに言った。
「さっき縁側に出て、謎かけのネタを考えてきたんです!聞いてもらえますか?」
「勿論よ」
「ああ、私も是非聞きたいな」
興奮しながら説明する橙の可愛さに鼻血を出しそうになりつつも、二人はあくまで平静を装って答える。
橙は、「えっと、えっと」と頭の中で何度もネタを反復してから言い始めた。
「紫様とかけまして、盆栽と解きます」
「その心は?」
「どちらも『狐(木、常)』に気にかけられています!」
「おおっ」
「あら、橙ったらやるじゃない」
紫も藍も、驚いたような表情を浮かべて、橙のネタを賞賛する。
「ほ、本当ですか!?」
「ええ」
「とても今日初めて考えたとは思えないくらい、上手いな。すごいぞ、橙」
「わーい!」
ポンポンと藍から頭を撫でられ、橙は心底嬉しそうな表情で喜ぶ。
「じゃあ、じゃあ、もう一つのも聞いてください!」
「ようし」
「期待してるわ」
にっこりと笑いかける二人の顔を見ながら、橙は用意してきた……というか、幽香から教わった、もう一つのネタを始める。
「紫様とかけまして」
「あら、また私?」
「網目の破れたザルと解きます」
「その心は?」
形式上そう聞きつつも、この段階で、二人は既にオチの予想がついていた。
酒に強い者のことを『ザル』と呼ぶ事がある。これは、ザルにはいくら液体を入れてもたまらないからだ。
そんな風に、ただでさえ、ザルは液体を良く通すものだ。その網目が破れたとなれば、これは即ち底なしに酒を飲み続ける、つまりは『どちらも、とんでもない大酒飲みです』というようなオチが来るに違いない。
しかし、橙の口から発せられたのは、二人の予想の斜め上をいくものであった。
「どちらも『古い(振るい)』にしては使えないでしょう!」
「ぐはあ!?」
「ゆ、紫様ー!?」
にっこりと。
それはもう、満面の笑顔で『古いにしては使えない』と言われた紫は、ショックのあまりその場に倒れこむ。
「にゃ!?紫様、どうしたんですか!?しっかりしてください!」
「う、うーん……」
床に伏せたまま、未だに起き上がってくる気配のない紫。
藍はそんな紫の頭を自分の膝に乗せると、ため息をつきながら橙を問いただす。
「……今思えば、初めの段階で気付くべきだったんだな」
「え!?な、何がですか?」
「さっきのネタの事だよ。出来すぎてたんだ。今日、初めて謎かけを知ったにしては」
「ううー……」
藍の言葉に、泣きそうな顔になりながら、俯く橙。
「……大方、誰かから教えてもらったネタだったんだろう。それで、誰に聞いたんだい?」
「……幽香さんです。私も、何か変だなと思ったんですけど、『紫は絶対喜ぶから』って言われて」
「あの人か。まったく、しょうがないなあ……」
今頃幽香は、どこかでこっそりこの様子を見ながら、爆笑しているに違いない。
はあ、とため息をつきながら、藍は難しい表情を浮かべる。
その下では「私は、私なりに頑張ってるのよ~」と呻くように呟きながら、紫が苦悶の表情を浮かべていた。
「あの……藍様。すみませんでした」
「まあ、いいさ。誰にでもこういう失敗はつきものだし……私も昔『紫様は、何で三日前にした走りっこの痛みが今頃来るんですか?』と聞いてしまって、丸一日口を聞いてもらえなかったことがあった」
「はあ……」
「だから、そこまで気にするな。紫様には、あとで私から説明しておいてやるから」
そこまで言うと、藍は橙の頭を優しく撫でる。
「……本当に、二人ともごめんなさい」
「もういいって。ただ、そうだな。謎かけ風に言えば、今日の橙の教訓とかけて、春の森と解けるな」
「? その心は?」
「下手に『信用(針葉)』ばかりあると、ろくな事にはならないでしょう……人を信用するのも大事な事だが、ほどほどにな?」
「藍様……」
にこりと笑う藍に、橙は瞳を潤ませながら言う。
「『針葉』って何ですか?」
「……」
やっぱり、もうちょっとしっかり教育しておいた方がいいかもしれない。
初めて、藍がそんなことを思った瞬間だった。
「はあい、盛り上がってるところ悪いけど、そろそろお開きの時間よ」
わいわいと騒がしい居間の中心に立つと、霊夢は唐突にそう宣言する。
当然参加者からは「えー!?」という非難めいた声が上がるが、霊夢は全く気にする素振りもない。
というか、この程度のブーイングを乗り越えられなければ、宴会がいつまで続くか分かったものではないのだ。
「さあさあ、片付けちゃうから、皆帰るなり手伝うなりよろしくね」
そう言って、がちゃがちゃと空いた皿を積み重ねていく霊夢。
とはいえ、そう簡単にこのざわめきが治まるわけでもなく。
「売り切れ……品切れ……完売……?」
「し、師匠……あれからずっと考えてたんですか?」
「さっきのじゃあ駄目か……もっと勉強しないと」
「でも『かみ』のネタは、私と諏訪子が1点ずつの合計2点。それが65点にまでなったんだから、大した進歩だよ」
「そう言われても、何か褒められてる気がしないんですが」
「お嬢様!美鈴とかけてナズーリンと解きます。その心は、どちらも『リン』で終わる、即ち『臨終』!」
「縁起でもない事言わないで下さい!」
「人の説教を途中で止めるなんて言語道断です。大体貴女はクドクドクドクド……」
(あー、あそこで茶化さず、あのまま素直に聞いてりゃ良かった)
「ねー、藍様。『針葉』って何ですか?」
「針葉というのはだな、葉っぱが針のように尖った葉だ。針葉の生えている木は針葉樹と呼ばれ、特に春は、スギ花粉に泣いている人も多く……」
「筋肉痛は三日後に来るけど、私はまだまだ若いのよぅ……」
「ああもう!皆姦しくて結構だけど、この辺で本当にお開き!いつまでもここに居られたって、困っちゃうわよ」
パンパンと手を叩きながら、霊夢は先程よりもさらに大きな声でそう宣言する。このままではいつまで経っても、部屋を片付けられそうにない。
すると、「はいはい」と手を上げながら、萃香がこんな事を言い始めた。
「んー。じゃあさ、霊夢。謎かけのネタ、最後に一つ聞かせてよ。それで納得したら、私ら片付け手伝うし、素直に帰るから」
「はあ!?な、何言ってるのよ」
その提案に、素っ頓狂な声をあげて驚く霊夢。ムチャ振りもいいところなのだから、無理はない話だ。
「いやー、考えてみたら霊夢の謎かけネタ一つも聞けなかったからさあ。それを聞かずに帰るのは、ちょっと心残りだなあって」
萃香が言うと、いいぞー、私も聞きたいぞー!とむやみに参加者たちも盛り上がる。
引くに引けなくなり、霊夢は仕方なく「わ、分かったわよ!やればいいんでしょ?」と口走ってしまった。
「それで?お題は?」
「お題かあ。じゃあ『お開き』で」
「『お開き』……それ、地味にきっついわね。今の状況にはピッタリだけど」
しばし、目を瞑って真剣に考える霊夢と、シーンとなって霊夢を見守る参加者たち。
やがてその目を開くと、霊夢は言い始める。
「お開きとかけまして、私たちが放つ弾の一発一発と解きます」
「その心は?」
「幕になります」
……かくて、涙目の霊夢を他所に、宴会騒ぎはまだまだ続くのだった。
てゐはやっぱり上手い!
謎かけが出来る人って本当に凄いと思います
頭の固い自分にはなかなか解けませんが・・・。
凄く面白かったですw
咲夜さんは時を止めて一生懸命考えたと思うんだ。
大ちゃん上手い! なぜこのメンバーの宴会に参加してるのかが謎だけどww
いろいろとよく考え付きますね。
てゐのなぞかけは「買い手がちっとも寄って来ない」だと思ってましt(インペリアポロの弾の枝)
ここはアレか。ナズーリンがねずっ(いろいろ危険なので略)
「バレリーナとかけて幻想郷の少女たちと解きます。
どちらもチュチュ(ちゅっちゅ)とトロワ(ドロワ)が大事です。」
うん。びみょー
おもしろい、っと
どちらも人を「さばく」のが仕事です。
……くらいしか。しかもこれってかかってるのかなあ?
一応「捌く」は肉の処理→斬るってことで
私も頭が固いので、自分で考えるとなると・・・うーむ
ゆうかりんお茶目。
あと地味にこういういかにも文系的な言葉遊びでも
万能キャラ的な扱いが多い永琳がうんうん唸ってるところが結構好きですw
でも大ちゃん、初めてにしては上手いなぁ
どちらも「ムチ(無知)」が好きでしょう。
うむ、微妙だ。
もう一つ、
博麗霊夢とかけまして、温泉と解きます。
どちらも「わき(腋)出ている」。
どうもすいませんでした。
私の感想とかけまして、妹様BGMの問い掛けと解きます
オーエン知ってます?(応援してます)
かける謎解きに思わず『おおっ』と手を打ってしまいました。
私も頭が硬いからなぁ…出来るかたはうらやましい限りです。
これからも応援してますぞ!
その心は、二次(二時)が一番熱い(暑い)でしょう。
作者の力量がモロに出るジャンルでの執筆!僕は敬意を表する!
こんなに沢山の謎かけを考え付くなんて……すごいなあ。
博麗神社の賽銭箱の中身と掛けまして、墓場と解きます。
その心は、『れいえん』(零円・霊園)
その心は、う『浮、憂』いています。
…しょぼいorz
面白かったです!
どちらも「式(葬式)」がついてるでしょう。
発想がおもしろかったです。
無知=バカ=⑨=チルノのつもりです。
分かりにくくてすいません。
その心は、どちらも総てゆかり(紫・縁)が大切でしょう。
えーりんかわいかったよえーりん
弾幕ゲーたる東方には相応しい〆でした
それにしてもてゐ、紫、小町と、胡散臭い連中ばかり上手いとw
その心は、どちらも主人の顔に泥は(ドロワ)かけられないでしょう。
…ビミョー。さーせん。
どちらも4面ボスでしょう。
俺も魔理沙レベルだ。
大ちゃんの謎かけがお気に入りです。
これからもがんばってください。
よく売れて(熟れて)いるだと思ってた自分が恥ずかしい。
その心は、どちらも「四季(士気)」があり、「みずうみ、こいし(見ず、産み、子、意志)」があるでしょう。
う~ん、微妙。しかも知らない人には解らないというorz
小説面白かったです。
という訳で、もうひとつ←
作者さんの小説とかけて、作者さんの名前と説きます。その心は、どちらも上手く、かけています。
……ごめんなさい
チルノと解きます。
その心は。
値(あたい)は⑨
…ごめんなさいもうしません。
スランプのプリズムリバー3姉妹とときます
その心は、「堪らない(弾、鳴らない)」でしょう
・・・びみょーだね
謎かけの答えとかけまして、テストの答案と解きます。
その心は、どちらも不可○ばかりでしょう。
なんか書いとかないといけない気がして…
いやはや、日本語って本当に面白いですね。
その面白さを再確認させてくれたワレモノさんに感謝!
では自分も一つ、真夏のにとりとかけまして、藍に布団を剥がれる紫と解きます。その心は?
どちらも水から(自ら)出ないでしょう。
何かひとつ謎かけしたいけど俺の発想力じゃ無理だからくやしいビクンビクン
その心はどちらも親睦(神木)が大きいでしょう。
血で染まったレミリアとかけまして、氾濫した川と解きます。
その心は治水(血吸い)がうまく出来なかった結果でしょう。
チルノがいる所とかけまして香霖堂のストーブと解きます。
その心はどちらも冷える(火得る)でしょう。
とりあえずこの位で。
下手ですみません。
面白かったです。
個人的には紫の霊夢と議員をかけたやつが一番気に入りました
そのこころは…
どちらもクスリ(薬・微笑)を作るでしょう
う~ん強引…
>>米107
共食いじゃないですかwww
その心は木の木陰(キノコ、影)に在るでしょう
なんか無理やりすぎかな
この作品すごく面白いです!
その心は、「かすかに香る」(幽かに、微かに)でしょう。
……うん、難しいわ。
作者さんがよく考えたのが分かります。
言葉遊びが絶妙で面白かったです
この作品とかけまして霧の湖のカエルとときます
その心はどちらもずっと評価(氷化)されるでしょう
こういうのポンポン思いつく人は
人生楽しそうだなー
今更ですが便乗して私も一つ
幻想郷のお寺とかけて、河童が張り切りすぎた結果と解きます
その心は、どちらも命蓮寺(妙、レンジ)でしょう
…あんま上手くない気がする