□
「んっ……」
ぱちり。
目を覚ます。視界に映る景色は明るく、既に夜が明けていることを示している。
(あー……朝ね)
「ふぬりゃあ」
むくり。
気合を入れて起き上がる。そのまましばらくボーッとする。
パタン。
倒れる。うん、駄目。眠い。
ああこのまま二度寝出来たらどれだけ幸せかしら、なんてことを思う。
いや、いけないいけない。別に決まった時間に起きる必要がある訳じゃないけど、寝坊なんてしたら地霊殿の主として示しがつかないじゃない。
睡魔になぞ負ける訳にはいかない!でも眠いから寝たい!
関係ないけど睡魔と麻酔って何か似てるけど関係あるのかしら。
「とりゃあ」
がばっ。
全身全霊を籠めて起き上がる。そのまましばらくボーッとする。
パタン。
倒れる。
こんなことを5、6回ほど繰り返して、ようやく起きようという気になる。
朝起きた直後の布団の誘惑というものは抗いがたいものがある。
まだしぱしぱする目を右手でこすり、さて着替えて顔でも洗うかと思った矢先、服が何かに引っ張られていることに気付く。
「あらあら、またですか」
思わず顔が綻ぶ。私の袖をきゅっと掴んでパジャマ姿ですやすやと寝息を立てているのは妹のこいしだった。
最近はよくこうした光景を目にする。回数的にはこいしが一番多いのだが、日によってはお燐がいたりお空がいたり、他のペット達がいることもあるが、その度に頬が緩むのを抑えられない。心を読むまでもなく、彼女達が私のことを大切に思ってくれていると実感することが出来るから。
こいしに関しては、最近特に回数が増えた気がする。何だか最近やけに私に対して甘えて来るのだが、嬉しくない訳もないので気にしないことにしている。だってこいし可愛いですし。可愛いですし。
……まあ、密集したペット達に押し潰されそうになってたり、猫や烏の毛が散らばって布団の洗濯が大変だったりということもよくあるが、そのくらいは些細なことだ。
「今日もこいしは可愛いわね」
なでなで。さらさら。軽く梳いただけで手の中で溶けるかのような銀色の髪を撫ぜる。
ぺたぺた。ぷにぷに。柔らかくて触り心地の良いほっぺたをつつく。
うん、こんなに可愛いんだから食べちゃっても罰は当たらないわね。
自分に言い訳を済ませると、天使のような寝顔ですやすやと眠っているこいしの頬にそっと口付けをする。何回も。
ヒャッハーこいしは消毒だー。主に口で。
……あら、ちょっと頬が赤いけど風邪かしら?大変、ちゃんと暖かくさせないと。
さて、いい加減起きるとしましょうか。このままこいしと一緒に二度寝するというのも非常に、非常に、非常に魅力的な選択肢ではあるけれど、それだと朝ご飯を作るのが遅れてしまう。お燐やお空、他のペット達もお腹を空かせて待っているかもしれないし、ここは気合を入れて起きるとしよう。ハイヤハイヤハイヤー!
パジャマからいつもの服に着替え、ちょっと大きなあくびをしてそのまま朝食を作りに台所へ向かう。あー、駄目ね、まだ眠いわ。途中、仲良く歩いているお燐とお空を見つける。向こうも私に気付いたようで、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。
「「さとり様、おはようございます!」」
「おはよう、二人とも朝から元気ね」
うん、二人とも今日も可愛いわね。お燐はちょっと細身だけどいじらしくてキュートだし、お空は少し抜けているところがあるけど素直だし、スタイル抜群だし。明らかにペットの二人の方が私よりもスタイルが良いのは、ちょっと羨ましいけど。
とりあえずこんなに可愛い二人を放っておく手はないので、抱き締めることにした。むぎゅう。
あー、二人ともやわっこくて気持ち良いー。すりすり。
「え、えーと、さとり様?」
「あ、あうう……」
腕の中の二人を見ると、お燐は戸惑って視線をおろおろさせ、お空は顔を赤くて恥ずかしそうにしている。それでも、二人とも喜んでくれていることが私の心に伝わってきて思わず笑顔がこぼれてしまう。本当、私には勿体ないペット達ね。最後に二人の額に軽くキスをして、台所に向かう。うんうん、こいしもお燐もお空も皆可愛いし、今日も良い一日になりそうね。たーららったったー。
「……駄目だ、いつも通り完璧に寝ぼけてる」
「さとり様、朝はすごく弱いからねぇ……」
「あの状態だと誰かれ構わずなでなでしてちゅーするからね」
「あー、今度は向こうでちっちゃい猫がハグ攻めにあってる」
「何というか、朝のさとり様って頭のネジが全部飛んでる感じがする」
「あんたがそれを言うか。でもこいし様もそれを知っててさとり様のベットに潜り込んでるんだから確信犯と言うか何と言うか……」
「ねえお燐」
「なにさ?」
「でもそれってさ、私達もこいし様のこと言えないような」
「……さ、朝御飯、朝御飯」
今日も地霊殿は地獄です。
おまけ
「で、首尾はどうだったの、こいし?その顔だと上手くいったみたいだけど」
「計画通りよ、フラン。やっぱりお姉ちゃんを襲うなら朝ね!……さすがに最後のは恥ずかしかったけど」
うう、まさかあそこまで積極的になるとは思わなかった。今更寝た振りしてましたーなんて言う訳にもいかなかったからなあ。
「いいなあ、こいしは。私なんかずっと地下暮らしだからねぇ。お姉様のベットに潜り込むなんてそう簡単には出来ないんだよねぇ」
「そこはほら、無意識に壁を壊して脱出しちゃって無意識にレミリアの部屋に行っちゃって、無意識にベットに潜り込んだとかいうことにしちゃえば」
「それが出来るのはこいしだけだから!というか本当に言い訳に使いやすいよねその能力!」
「言い訳とは失礼な!能力の有効活用と言うものだよフラン君」
「いや、何か使い方間違えてるような気がするよ……」
「まあ、それは冗談としてさ。フランもせっかくなんだからやってみようよ」
「でも」
「ん?」
「……お姉様を壊しちゃわないか怖い」
「ああ~、そういうことか……。じゃあ、頑張って特訓しようよ!私と協力して、無意識下でも能力を抑え込めるようになればきっと大丈夫だって!」
「……うん、頑張ってみる」
積極的なさとり様も素敵でした
山オチ無くとも甘々なさとこい成分さえあれば幸せですw
使いすぎると眠くなるからある程度は関係があると思います!(何
さとり様の朝のテンション可愛いよ!
そして確信犯のこいしちゃんやお燐、お空も可愛いよ!
このお話を読むと、確かにさとり様って低血圧のイメージがあるよなぁ、と思ってしまいますよね。
そしてこの場合、第三の目も寝ぼけ眼なんでしょうか?
さらにフランちゃんがこいしの作戦を敢行すれば、第二の地獄が現出すること請け合いだ!
ほのぼのさせて貰いました
そしてフラン頑張れ。むしろ姉さんは別な意味でブレイクしそうな気がしてならないけども。
にやにやさせてもらいました
冒頭のさとりの可愛さに危うく死にかけました。
相変わらず素晴らしい作品をお書きになられる。
>>銀色の紙→髪ですか?
ハイヤハイヤハイヤー!はむしろ徹夜テンションのときによくあります。
キャラが可愛く書かれているだけにもうひと工夫欲しかったです。
いまいち無意識の使い方がしっくりきませんでした。
しかし、とにかくスローテンポの甘い内容で、キャラが可愛いだけでも十分楽しめる作品に仕上げたのは見事です。
まあ、寝起きの話はこれくらいがちょうどいいのかもしれませんね。
ほのぼのした感じは嫌いではないです。
こんなの地獄って言わないだろう。天国だ。
なんか紙が直ってないようですけど……
素晴らしい作品をありがとうございます!
とりあえず今から地霊殿に向かいますね。