真っ暗な部屋のドアを開けると、感覚的に覚えてしまった場所にある電気のスイッチを押す。
パパッっと点滅し、やがて電気が明るく部屋を照らす。
山の河童の技術のおかげで、部屋に電気がついたのだ。
「ふぅ……」
今日も幻想郷中を飛びまわり、ネタはないかと探し回った。
様々な風景の中で、何か変わったものはないかと探してみたり、人里で人と接してみたり、別の妖怪とおしゃべりしたり。
また、香霖堂で見つけた外の本を読んで、ちょっといろいろ考えてみたりもした。
私は、ありとあらゆる方法でネタを探す。
それはどんな小さな事でも良いのだ。
その中でも気にいるものがあれば、それが私の手によって、脚色が加えられる。
私としては、面白い新聞が完成するのが一つの目標である。
そして、大きい事だろうと小さい事だろうと、楽しんでもらうのが私の大きな目標だ。
目標があるからこそ、頑張れるのかもしれない。
私は使い古した椅子に座った。
ギシッと軋むような音がするが、この音も聞き慣れたものだ。
天狗仲間からは、新しいのを買ったらどうだと言われる。
だけど、私はこの使い古した椅子が良いのだ。
ずっと使ってきたものには、愛着がある。
大きいとか、小さいとか、大きさではなく、どれだけそれを使ってきたかが大事なのだ。
だから私は、この椅子を愛用しているのだ。
机上には、私が最近撮った写真だったり、ちぎられたメモ帳が散らばっている。
私は電気スタンドをつける。
その後、つけペンをどこへやったかと机上を探す。
「あれ、おかしいなぁ」
落ちていないかと身を屈めて見るも無くて、机の引出しを開けるも、無い。
これはいよいよ困ったと思って、ふぅと一つため息をつく。
もう一度机上をみると、ちらっと見えるつけペンの持ち手。
紙を掻き分けてみると、そこにそれはあった。
今度は安堵のため息をつく。
私は、とりあえずつけペンを胸ポケットに入れた。
そして、ぐっと背伸びをすると、メモ帳を取り出した。
今日得られた情報を再度確認するのだ。
このネタは使えるか、これはどう工夫したら良いかなどを考える。
机上に積み重なったノートの一番上のノートを掴むと、付箋の挟んであるページを開く。
何も書かれていない真っ白のページ。
そこに、どんなふうに書いていくかと計画を書いていく。
一面はこのネタを使って、どこからどこまでの位置で収めるか。
どの写真を使って、その写真をどの位置に持っていくか。
考えることは、たくさんある。
近くに転がる鉛筆を掴む。
先が丸くなってしまっている為、カッターナイフで削る。
不器用な私は、適当に鉛筆を削り、とりあえず芯を尖らせた。
その鉛筆を使い、カリカリと新聞の体裁を書いていく。
これは慣れたもので、私はすぐに終わらせてしまう。
とりあえず書いてみないとわからない。
それが私の考えだ。
一応体裁は整え、大体の事は考えるが、書いている途中に変だと思ったら変えるし、何か思い浮かんだら追加していく。
それで今までやってきたのだ。
ノートを机の隅にやると、引出しから新聞のテンプレートの台紙を取り出す。
天狗は印刷技術に長けているので、新聞記者はこういった紙を何枚も印刷してもらい、溜めてある。
紙にしわができないように上下共にしっかりと押さえると、奥から黒いインクを取り出す。
蓋を片手で開けると、つけペンをインクの中に浸す。
最近は下書きの時点でタイプライターを使う天狗も増えた。
今書くのは下書きで、下書きができ上がったら印刷してもらう為に印刷担当の天狗のところに持っていく。
その天狗は下書きをタイプライターを使って本書とし、それを印刷するのだ。
私は、つけペンに馴染みがあるので、下書きは絶対につけペンを使う。
胸ポケットからつけペンを取り出すと、インクの中にそっと浸す。
そのまま台紙の右上に、そっとつけペンを置き、そのままさらさらと走らせる。
『文々。新聞』
この瞬間だけは、いつも緊張する。
本でいえば、タイトルをつけるようなもの。
タイトルは、本の命であるように、新聞のタイトルだって、新聞の命なのだ。
毎回書くものだから書き慣れるものなのだが、慣れたものほど慎重にやらなければ失敗してしまう。
大切な最初のタイトルを書き終わると、もう一度ぐっと背伸びをした。
「よし、書きますか」
一人呟くと、つけペンを紙から放す。
隣に置いたノートとメモ帳を参考にしながら、慎重に下書きを進めた。
私は書いているとき、思うことがある。
私が一生懸命集めたネタ、そして工夫と脚色たっぷりの記事をどれだけの人が求めているのだろうかと。
書いていて、不安になるのだ。
一体この新聞は誰の為に書いているのだろうか、誰が求めているのか。
それは、これを読者の為であり、少なからず誰かが求めている。
でも、読者の為でもあり、私の為でもあるのだ。
自分が書きたいと思った事を書き、それで他の人を満足させる。
それは難しい事だけど、私の見る幻想郷を、他の人にも感じて貰いたい。
だからこそ、新聞を書いているのかもしれない。
新聞を発行後、何らかのレスポンスがあり、それをしっかりと受け取る。
そのことにより、よりよい新聞作りに繋がる。
だけど、改良を加えた新聞が、本当に皆にとって良いものに変わっているのだろうか。
読者に降り回され、改良を加えるだけでなく、自分流で突き通すのがよいのだろうか。
そんな疑問ばかりが頭の中を巡る日々。
つくづく、新聞記者は大変だと思う。
でも、だからこそ新聞記者はやめられない。
書いていれば、私の考えと違うからといって、少し辛口の言葉をもらう時だってある。
脚色が強すぎたり、私の勝手な思いが強すぎたりする部分もあるためか、私の新聞を嫌う人だっている。
だけど、それでも新聞を購読してくれる人がいる。
私の新聞を好んで購読してくれて、面白いと言ってくれる人もいる。
こうしたほうがいいんじゃないかと、アドバイスをくれる人だっている。
私には、いろんな読者がいる。
新聞を好んで読む人だけが味方じゃない。
読者の全てが私の味方で、応援してくれているのだ。
私の思いを読んでくれる人がいる。
それだけで嬉しかった。
だからこそ、もっと面白いものを書きたいと思う。
もっと楽しんでもらえるものを書きたいと思う。
そんな思いで空を飛び、ネタを探して、新聞を書くのだ。
「……よし、できたっと」
私は出来上がった下書きを大切に抱える。
この下書きが、新聞となって皆に配られる。
配られるその時まで、この新聞が読者にとってどんなものなのかわからない。
レスポンスを得られるまでのこの時間が、とてもハラハラしてたまらない。
これも、新聞記者としての楽しみでもあると、私は思う。
「さてと、あとは担当に任せますか」
私は部屋の電気を消すと、ドアを開いた。
外には星がまだ輝いている。
朝が来るその前に、早く担当にまで届けなければ。
まだ肌寒い空を、私は駆けた。
私の心境は、新聞を求める人のもとへ、届けたいという思いでいっぱいだった。
文、君は自由だ。
たとえ少数であっても自分が書きたいものを書いてそれで喜んでくれる人が少しでもいる。
それが一番の原動力ですよね。
評価ありがとうございます。
投稿する時の雰囲気が出ていたようで幸いです。
>7 様
評価ありがとうございます。
何か来るものが書けて嬉しいですわ。
>コチドリ 様
評価ありがとうございます。
定期購読者に私もなりたいです。
コチドリ様から初めて100点頂きました、ありがとうございます。
これからも頑張っていきます。
>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
誰得と聞かれたら俺得と答えるような作品でもいいから、満たされたい。
そんな気持ちでいっぱいな気がします。
>25 様
評価ありがとうございます。
文ちゃんマジ可愛い。
さらにそれを人に見せるなんて不安と緊張で…あふんッ
評価ありがとうございます。
大変ですよね、私にはまだまだ難しいです。
まぁ、ちょっぴり恥ずかしくもありますわ。