ザブン・・・ザブン・・・。
一隻の小舟がその川を渡っている。
ザブン・・・ザブン・・・。
小舟には身の丈程の鎌を持った女性と、白い霊魂が乗っている。
「しっかし、中々着かないなぁ。」
女性はそうつぶやいた。
「やれやれ・・・お客さんで今日は最後なんだがねぇ・・・早く家に帰って一杯いきたいねぇ・・・。」
そうか・・・死神というのも結構庶民的なんだな。
というより、死神がこんなにも可愛らしい女であるのにも驚いたのだが。
「お客さん、生前悪いことしてたんじゃないのかい?」
女性がそう切り出す。
まあ、間違ってはいない。
「あぁ、何でそんなこと聞くのかって?この川はね、言わばお客さんの罪の多さによって距離が変わるんだよ。」
ほう、そういえばそんなことを聞いたことがあったような。
「お客さん、一体生前何してたんだい?」
生前・・・か。
俺は生前に悪徳な高利貸しをしていた。
金を返さない客は殺してでも金を受け取ったからな。
わざと自分から受け取る日に現れなく、期限が過ぎた時にふらりと現れ、二倍の金を要求する・・・。
もちろん、払わなければやとった悪辣な用心棒に折檻させる・・・死ぬ奴もいたなぁ。
そうして何人の人間に恨まれたことか。
くく・・・挙句、殺した男の女って奴が俺をナイフで刺しやがった・・・。
あの時は驚いたなぁ・・・。
まあ、こんな仕事やってるからには当然の報い・・・か。
「まあ、これから向こうに行くお客さんにはそれ相応の罰が待ってるから、覚悟しとくんだな。」
そう・・・罰か・・・。
罰などいくらでも受けよう。
その覚悟ならとうに出来ているからな・・・。
だが・・・。
願わくば、もう一度人間として生まれたい。
そして出来るなら・・・。
現世に戻って、俺を殺した女を 殺したい。
嗚呼・・・早く・・・早く殺したい。
あの女の恐怖に歪む顔が見たい。
あの女の悲鳴を聞いてみたい。
あの女の眼球をえぐり出し ノドをかっ切り 鼻を削ぎとり 耳を削ぎ落し
腹に刃物を差し込み ねじ込み 内臓をえぐり出し 指を一本一本切り 四肢を切断し
命を奪ってやる。
あの時あの女がしたことを 百倍にして返してやる!
ふふふ・・・ははは、ははははははははは!
嗚呼・・・殺したい、殺したい殺したい殺したい殺したい!!
・・・それにしても長い・・・いつになったら向こう岸に着けるのだろうか?
私の罪も本当に深いらしい。
「はぁ~・・・長いねぇ。」
女が首を回しながらそうつぶやく。
「はは、お前さん相当な悪だねぇ。こりゃ閻魔様にこっぴどく叱られるよ。」
閻魔か、できれば説教は手短にお願いしたいものだな。
「そうだそうだ、お前さん三途の川鏡って知ってるかい?」
? 聞いたことがないな。
「今あたい達が渡っている川、その川を渡っている間に川を覗き込むと、なんとびっくり!次に自分が生まれる姿が見れるんだ。」
初耳だ。もしそれが本当なら見てみたい。
「ま、着くまでの話の種にどうだい?っていってもあんた喋れないけどね。」
彼女はそう言うとかんらかんらと笑った。
まあ、それはさておき。
次の自分の姿とやらを見てみるか。
どれどれ・・・。
川は濁っているような、透きとおっているような、曖昧な色合いだ。
・・・どれだけ目を凝らしても自分の白い魂しか映らない。
「どうだい見えたかい?まだならもうちょっと覗き込んでみると良いよ。」
もうすこし、川に顔(どの部分が顔なのか分からないが)を近づけてみる。
・・・やはり何も見えない。映るのは魂の自分。
「そういや話は変わるけど、あんたこの船に乗る時にお金を払わなかったね?」
そういえば、船に乗り込む前に尋ねられたな。
しかし、生憎と手持ちがなかった。
生前なら腐るほどあったのだが・・・それでも乗せてもらっただけありがたいのか?
「まあ、金を持ってなくて当然だねぇ・・・もしあんたが死ぬ前にたくさんの人に感謝されていた、もしくは尊敬されていたならその人の数や気持ちだけ、死んだ時に金がもらえるんだ。」
なら持っていなくて当然だな。
ぬ?今何か見えたような・・・魚か。
「そしてね、もし船に乗る前に金を払わなかった場合・・・。」
彼女はそう言って私の横に立った。
「見えたかい?あんたの来世。」
一向に見えない・・・騙されたか?
「あぁ・・・白い魂のまんまだね・・・残念だ。」
そういうと、彼女は私の真後ろに立ち。
「じゃあ、あんたの来世は決まったねぇ・・・。」
? 彼女には見えたのか?
「金を払わず・・・人にも愛されることのないものには・・・。」
ドン。
彼女が私を蹴り出した。
そうして・・・。
「見えたかい?あんたの死に際(来世)の顔が。」
ぼちゃん。
「ありゃ相当な札付きの悪だねぇ・・・閻魔様でも救えやしないね。」
彼女は来た道を戻っていた。
数分もせずに岸へとたどり着く。
「さ、今日の仕事は終わり終わりっと。」
んー、と背伸びをして船を下りる。
「さすがのあたいも疲れたよ・・・帰ってひとっ風呂浴びたいねぇ。」
と。
「おや?まだ魂がいたのかい?」
そこにはふわふわと別の魂が浮かんでいた。
「ありゃりゃ・・・風呂はもう少しお預けか・・・。」
がっくりと項垂れる・・・が、気を取り直して鎌を構える。
「さて、ようこそ三途の川へ。ところでお客さん。」
彼女は手を差し出す。
「向こう岸への渡し賃、払ってくれないかい?」
Fin
しかし世はなべてこともなし
いきなり落とすのでなく自分で来世を確認をさせた上で蹴り落とすあたりが何とも言えない。
きちんと確認しているし、実際にありそうです
こっちの作品も読ませてもらいました
小町の普段の仕事の感じが出せてて良いと思います!
この魂にはBADENDだけどこれは当然の報いだから仕方無い