*ご注意*
このお話は「星熊勇儀の鬼退治」シリーズ最終話となります。
旅疲れ――というにはあまりにも度が過ぎていた。
ようやく辿りついた地の底への縦穴を歩いて降りる。
道中出るのは溜息ばかり。許されるのならこのまま寝てしまいたい。
誰かに許してもらっても、プライドが許さないからそんな真似出来ないのだけれど。
溜息に溜息が重なる。彼女もお疲れのようだった。
「こんな長かったっけねぇ、縦穴」
ぼやきに横を歩く勇儀を見上げる。
心なしか小さくなったように見えるのはありありと浮かぶ疲労の色故にだろうか。
「流石のあなたも神社では休めなかったようね」
「あんな立派な神域なんてそうはないしねぇ」
あの後――萃香との戦いの後、妖怪の山で大騒ぎした事情を説明する為に神奈子の神社に向かった。
四天王同士の決闘など前代未聞だったのだろう、山はまたもや恐慌状態だったらしい。
神奈子の指示で神社を避難所として開放したりと忙しかったとか――
あんなのはもう御免だよと、疲れた顔を見せた神奈子が印象的だった。
その後説明を終えた私たちは神社に泊まることとなった。もう一歩も動けなかったのだ。
丸一日休ませてもらって勇儀の怪我の治療をし夜半に神社を出た。
神奈子に礼を告げこうして地下への帰路へ着いたのだが……疲れは殆ど抜けていなかった。
妖怪故に神社では休めなかったというより、一日で抜ける疲労ではなかったのである。
援護しかしなかった私でさえ妖力を使い果たし飛ぶことも出来なくなっていた。
直截あの鬼の総大将と戦い大怪我までした勇儀など何をか言わんや。
「それもこれもレミリアのせいだ。血が足らん。まるで足らん」
目の下にはっきりと隈を浮かび上がらせる顔で彼女は唸る。
「あれのおかげで助かったんじゃない」
「そうだけどさ……なにも私の血を使わんでもいいだろうに」
萃香に腕を千切られ絶体絶命だった勇儀。そこで一時撤退する隙を与えてくれたのはレミリアだった。
血を霧に変え操る妖術を勇儀の腕に仕込んでいたらしい。寸でのところでそれが発動し事なきを得たのだ。
ただ、霧に変えられたのは勇儀の腕の中の血で、根こそぎ使われた勇儀は血が足りなくふらふらしている。
千切れた腕を繋いだ後に一気に血を持ってかれ気絶しかかったとか。
「…………」
勇儀の腕はまだ布で吊られている。引っ付きこそしたものの完全には繋がっていないらしい。
呆れかえるしかない勇儀の回復力でもこれなのだ――それがどれだけの重傷だったか、否が応にも……
「……レミリアにお礼言いそびれたわね」
暗く沈む気分を言葉で誤魔化す。
「ん、今度遊びに行くときでいいだろ。別れた直後に行くってのも間抜けだしねぇ」
からからと笑う彼女を見上げる。
「まーレミリアを恨むのはお門違いか。今度萃香に飯奢らせるかねぇ」
陽気な声にしかし、私は応えられない。
無理をしていると察せる。私に弱ったところを見せまいと振舞っているのが丸わかりだ。
私に心配をかけまいとする彼女の悪癖。嘘を吐けないくせにそんなことをする彼女。
誰かとの関わりなど百年以上持たなかった私。
未だ彼女との距離感を掴めぬ私には、かえって重荷となってしまう。
ただ、それが善意とわかっているから――拒めない。我慢、してしまう。
悪癖と言うのなら――私も悪癖ね。
嫌なことは嫌と言えるようになっても、こうして善意だと何も言えなくなってしまう。
萃香は、鬼の総大将は、私たちの仲を認めてくれると言った。
神奈子やレミリアといった大物たちは、私たちのことを黙認してくれた。
しかし前途は洋々たるものではない。互いに悪癖を抱えていることなど可愛くなる程に多難だ。
勇儀は――鬼の総大将に打ち勝つ程の大妖怪で――
私は――地の底で誰よりも忌み嫌われる――下賤な妖怪。
それを、萃香との戦いで思い知らされた――思い出させられた。
誰も私たちのことを知らぬ地上でなら、仲睦まじく過ごせた。
だけれど地下世界では、旧都では……そうはいかない。
彼女は誰からも信頼され敬われる鬼神。水橋パルスィは、彼女とは釣り合わない。
私と彼女が共に過ごすようになってまだ二月にも満たない。
だが偶の買い出し程度でも私たちの関係をよく思っていない声は耳に届いた。
――勇儀様ともあろうお方が何故あのような小娘を囲っているのだろう。
そんな声を幾度も耳にした。
今頃は……どんな噂が流れているのだろう。
四天王たる勇儀の不在。共に消えた私。
旅の事情を知っているのは私の上司にあたるさとりだけだし、彼女が他言するとは思えない。
そもそも彼女自身私と同等に嫌われ者だ。誰にも詳しいところは知られていないだろうが……
今まで以上に厳しい目で見られることになると、覚悟せねばならないだろう。
私と彼女が恋人同士であることは隠さねばならない。
今まで通り、私は勇儀に囲われているだけだと振舞わねばならない。
鬼の四天王が、どこにも属せぬはぐれ者に遊びで手を出しているだけだと――振舞わねば。
勇儀が、皆から好かれる四天王で居続ける為にも。
私は彼女とは違う――下賤な、嫉妬狂いの妖怪なのだから。
疲労と不安に無言のまま縦穴を進み、飛ばねば無理なところまで辿り着く。
地の底へ直結している縦穴。風が唸り声をあげており正に地獄の門といった風情だ。
よもや――これを懐かしく思う日が来るなんて考えもしなかったわ。
ここを降りさえすればそこはもう地の底に住まう妖怪たちの領土。私の家もすぐそこだ。
その先には旧地獄街道があり旧都に至り勇儀の屋敷がある――
「あー懐かしの我が家か」
「私の家だけどね」
「紅魔館のベッドに慣れちまったからねぇ。また布団で寝られるかどうか」
「あなたに限ってそんな心配は無用よ」
「土産にもらった地上の酒呑んじゃったらどうすっかなー」
「まずは食料の心配しなさい」
「あー……レミリアと勝負できなかったのが心残りだなー……」
「浮気したら鋏で刺す」
「……もうちょい突っ込みに手心加えちゃくれないかい?」
穴を覗き込みながら彼女は情けない顔を見せる。
心が揺らいでしまうけれど、妥協は出来ない。
ここから先は地下世界。いつどこで誰と出会うか知れたものじゃない。
私と彼女はある程度の距離がある関係でなくてはならないのだから。
「甘えたこと言わないで。これが素の私よ」
突き放さなければ――距離を取らなければ。
私が彼女を求めているなんて、知られちゃダメだ。
私は彼女に玩ばれているだけだと周りを納得させなければ。
――大丈夫。私は勇儀のおかげで強くなれた。
きっとこんな不安に押し潰されなんかしない。
彼女は、勇儀は最強なのだから……こんな綱渡りでも渡り切れる。
ふと、肩に彼女の手が触れていることに気づく。
「どうしたんだい。縦穴に着いてからなんかおかしいよパルスィ」
「別に……」
「どっか具合でも悪いのか? あの、萃香との戦いでなんか、あったとかさ」
微妙に勇儀の視線は逸らされていた。何故だろうと考える。
直視できない、直視するのが怖いといった風情――彼女が恐れを見せるなんてそうはない。
彼女が怖がる素振りを見せたのなんて、私を傷つけると、失うと思った時だけ。
つい先日、萃香との戦いにおいて私が囮になると言い出した時以来――ということは。
「まだ、気にしているの?」
「そりゃね」
問えば、見るのも辛いとあからさまに目を逸らす。
「例え紛いもんでもさ――おまえの形をしたのが壊れるのは、嫌なもんだよ」
そういう作戦だった。
彼女の目の前で私は殺され、萃香に動揺を与え勇儀が必殺の距離まで詰め寄る。
ひどく反対された。危険過ぎる、あいつに通じるとは思えない、おまえが殺される。
なだめるのが大変だったことを思い出す。怒られさえした。
「まだ目に焼き付いてる」
あれは、私の妖術で作った分身だ。妖力の塊が壊されただけ。
そりゃ私もある程度は苦しんだけれど――それだけだ。
「あんな思い、一度だってしたくなかった」
なんで、どうしてあなたは。
今は触れ合ってはいけないのに。
どうして、どうして――なんで。
距離を取ろうとしているのに近寄ってきて――私の決意を壊すのよ。
あなたに強くしてもらえた。あなたのおかげで強くなれた。
だけど私は、あなたを傷つけると知ってもあなたの手を取れるほど強くなってない。
まだ、そこまでは――強くなれていない。
「パルスィ?」
苦痛に、顔が歪む。
「パルスィ!? おい、どうしたんだい!?」
体を揺すられる。彼女の手が触れている。
それが――ひどく、熱い。
「なんでも――ない」
「なんでもなくあるか!」
顔を覗き込まれる。逸らそうとしたけど、間に合わなかった。
泣きそうで、上気してしまっているのを見られてしまう。
「あ、えと熱あるのかい? だったらまず、家に――」
近づく妖気に私たちは身構えた。
穴の底から上ってくる、昏い妖気。
「おろ?」
姿を見せたのは――
「ヤマメ……」
「パルスィじゃん。帰って来たの?」
この縦穴に住まう妖怪、土蜘蛛。黒谷ヤマメ。
穴の下で番人をしている私は幾度も彼女と出会っている。
知り合いと言えるほど親しくはないが顔と名前くらいは知っていた。
私は一歩下がる。彼女も地下の妖怪だ。旧都に住んではいなくても、近い位置に在る。
私たちの関係を勘繰られるのは、好ましくない。
「お? 勇儀も――ってなにその腕」
「え、ああ、これは……ちょいと、あー。喧嘩で」
流石に萃香と決闘したとは言い難いらしく、言葉を濁す。
強大な力を持つ大妖怪同士の決闘など、それだけで異変だ。
知られずに済むならそれに越したことはない。
「折ったの?」
「いやもげた」
「なにそれ!?」
嘘を吐けないのは知っているけど、もう少し上手くやれないものかしら……
それじゃ相手は大妖怪だって言っているようなものよ。
「……大丈夫なのそれ」
「まあ、うん。ほっときゃ治るよ」
「ならいいんだけど……」
深入りするつもりはないらしくヤマメは追求をやめる。
そういえば、こういう奴だった。豪放で、太平楽で、終わりよければ全て良しを地で行く。
まるで鬼のような妖怪――それ故にか、あまり私のことを嫌わないで話し掛けてきたりもしていた。
「そういやなんで居なかったのさ。旅行にでも行ってたの?」
「ああ、折角地上への道が開けたんだ。遊山にでも行こうかってね」
「冬に行くとこじゃないっしょ幻想郷は。旧都なんか比べ物にならない豪雪地帯だよ?」
「はは、まー偶にや雪に埋もれるのも悪かないさ。忘れちまってたし、新鮮だったよ」
酔狂だねぇと笑うも――すぐにヤマメは表情を一変させた。
「あーそうだ。あんたの気紛れも今回は間が悪かったよ」
眉根を寄せて勇儀を睨むヤマメ。
「居なくなるなら居なくなるで一言言ってってよもー。大事な力持ちなんだからさー」
「悪い悪い。工事でもあったのかい」
「じゃなきゃこんなこと言わないわ」
大仰に己の肩を叩く。陰険ではない彼女のことだから見せつけているわけではないのだろうが。
工事帰り、なのかしら。私たちが留守にしていたのは一週間かそこらだし、勇儀が必要だったのなら……
「留守の間色々大変だったのよー」
構わず彼女は喋り続ける。
「地霊殿のがやたらうろつくつわ結構な規模の工事あったのに人手が足りんわ萃香が何往復もするわ」
「――萃香?」
「ああ工事ってのはさ、温泉宿作ってたのよ。旧地獄街道沿いに間欠泉湧いてさー。
どうせだから有効活用しようって街道沿いにでっかい宿泊施設作ろうってね」
「いやちょっと」
「ひと月くらい前から作り始めてたんだよ? だけどなんか勇儀忙しそうだったから声掛けづらくてさ。
でもやっぱ力持ち欲しいなーって声掛けに行ったら居なくなってんだもん大変だったのよ。
もう完成して来週っから営業始めるって段になって帰ってくるなんてさー」
「ごめん悪かった話聞いてくれ」
私も勇儀も目を剥いていた。
だって、萃香の名が出るなんて。……決闘の後姿を消した萃香。だけど、なんで彼女が地底に。
勇儀に聞いた話では随分前に地底を出て地上で気侭に暮らしているという話だったのに。
だが勇儀の制止も聞かずヤマメは話を進めてしまう。
「んでさ、式はいつ? もう済ませちゃった?」
「ちょっと待っとくれヤマメ。ええと、式ってなんの式だい」
「やだなぁ何知らないふりしてんのよ。あれ、まさか萃香が勝手に言いふらしてるだけだったりする?」
また萃香――――って、式?
嫌な、予感しか、しない。
そんな、まさか――
「っていうかあんたたちなんでそんな距離置いて……」
なんでって、そんな疑問持たれる方が不思議だわヤマメ。
だってほらわたしとゆうぎはそんなかんけいじゃないじゃない?
誰にも、さとりにも話してないんだからあなたがしってるわけないでしょ?
「ええと……あの、パルスィ?」
どうしてそんなかおするのかわからないわやまめ。
なにをこわがっているのよそんなのいいからひていしてよやまめ。
ふふふしらないわよねしらないわよねやまめそうだといってよやまめ。
いつものごとくさいあくのよそうがおおあたりなんてありえないでしょ。
いいかげんなんどめだってはなしよねそうでしょそうでしょそうでしょ。
「……萃香がでかい声で勇儀が橋姫を娶ったぞーって……」
ようやく帰れた私の家。
されど休むことなど出来よう筈もない。私も勇儀も顔を顰めて唸っている。
私などは座ることも出来ずに狭い部屋をぐるぐると歩きまわっていた。
ヤマメは萃香が何往復もしていたと言った。旧地獄街道沿いの工事現場に居たヤマメの証言だ。
つまり、萃香は旧都に行って――私たちの関係を言いふらしていたのだ。
あああああああっ!! あの総大将はなにを余計なことばっかりしているのよ!!
私たちが神奈子の神社で休んでいる隙にこんなことを……!
どうするどうするどうする……! これじゃもう誤魔化せない。
他の誰が言うよりも影響力の強い萃香の言葉だ、絶対に信じられてしまっている。
これでは勇儀の立場がない。私なんかと恋仲だって知られてしまったら……
ええい顰め面してるくせにごろりと横になって寛いでんじゃないわよ勇儀!
焦ってるの私だけじゃない!
「……っ」
わかっている。今更どんな策を講じようが無駄だってことくらい理解している。
もう既に手遅れだ。二度と旧都へは行けないだろうと、覚悟している。
この状況を受け入れるしかない。否定は、出来ない。
それでも、何かないのか。受け入れ難いなんてものじゃないのよ。
旅から帰ってきたら全てが終わっていたなんて笑えもしない。
「地底にも温泉湧いてんのは知ってたけどまさか温泉宿が出来てるとはねー」
「そうね」
「結局地上じゃ魔理沙んとこでしか温泉入れなかったのにな」
「そうね」
「まさか八坂んとこより早く地底に温泉宿が出来るなんてなぁ」
「そうね」
「腹へったなぁ。鍋作ってくれないかい鍋」
「そうね」
「ぴちゅーん」
「そうね」
「押し倒していいかい」
「そう、んなわけあるかぁっ!!」
危な! すっごい危なっ!
正々堂々が鬼のスタンスじゃなかったの!? なに卑怯な真似してんのよ!
「だってパルスィずっと私無視して唸っててさー。構っとくれよ」
諦め過ぎじゃないのあんた!?
顰め面してると思ったら何も考えずぶすったれてただけなんて。
たしかに考えるだけ無駄な状況に追い込まれてるけど、早々に諦めていいもんじゃないのに。
だって、このままじゃ――私たちはもう、一緒に居られなくなるのに。
鈍感なあなただって、気付いているでしょう?
萃香が認めてくれたって、私たちの仲は……他の誰にも認められないって。
いや――彼女は全てを理解した上で――寛ぎ、力を蓄えているのかもしれない。
これからの苦境に備えて、戦う為の準備をしている。
その方が、勇儀らしい。
諦めたんじゃなくて――覚悟を決めた。
でも、それは……そんなのは、望んでいない。
勇儀が負けるだなんて思っていない。最後には必ず勝つと信じている。
だけれど、私はそんなこと望めない。彼女が傷つくと知って、望める筈がない。
だから私は、こうして不様に足掻いて……彼女が傷つかずに済む方法を探している。
「――今度行こうか、街道沿いの温泉とやらにさ」
「行けるわけないでしょ!?」
声を荒げてしまう。落ちつこうとしても、無理だった。
気ばかり急いて、ただ焦れて。どうしていいのかわからぬまま態度に出てしまう。
「そんな、地底の住人でごった返すだろうところに……っ」
勇儀は対照的に、冷静な目で私を見上げていた。
反射的に目を逸らす。今は、彼女の視線を受け止められない。
こんなにぐちゃぐちゃで、揺らいでしまっている私には――無理だった。
「……他人に知られるのは拙い、か」
身を起こし、胡坐をかく。それが気配で伝わってきた。
「当然、よ――大事、だもの」
「うむ。そうだな……こうまで大っぴらに広げられたんだからけじめとして祝言をふぅっ!?」
「冗談に付き合ってる場合じゃないのよ」
よもやここで冗談挟んでくるとは思わなかったわ勇儀。空気を読めこの馬鹿が。
鳩尾に爪先蹴りを正確に叩き込めたことに軽く驚く。意外と冷静さは残っていたのね私。
再び寝転んで――倒れ伏してしまった勇儀を見下ろした。
「な、なんでそこまで焦ってるんだ……?」
「焦りもするわよ! だってあなた、旧都の顔役みたいな立場じゃない!」
「……そんな偉そうな役職に就いた覚えはないんだがねぇ」
よっと、気だるげに身を起こす。
がりがりと頭を掻くその姿は苛立ちを覚える程にいつも通りの彼女だった。
「実質的に、ってやつよ。皆あなたを信頼してる。信じて、頼ってる。
そんなあなたが……私みたいな嫌われ者と恋仲だなんて……その、大変じゃない」
こんなことを言えば、彼女は否定する。
そんなことはない、私は気にしないと、きっと言う。
私たちを引き離そうとする者ときっと戦う。
だから今まで幾度も思い悩んだけれど……一度も口にしなかった。
現実から逃げ続ければ誰も傷つかずに済むと――気付かないふりを続けていた。
「ここは――地上とは違う。レミリアや神奈子みたいには私を認めてくれない。
百年間、ずっと私は……蔑まれ続けてきた――嫌われ続けてきた。
私はただの嫌われ者で、あなたとは――勇儀とは――釣り合わない」
萃香の言葉が脳裏を過ぎる。
気に食わないと、混ざりものだと罵られた。
あれは、私たちを試す為の言葉だったけれど……鬼は、嘘を吐かない。
少なくとも、あの時点での萃香は本気だった。
他の地の底に住まう者と同じように私を嫌い、蔑んでいた。
あの時の彼女は……地底に住まう妖怪たちの代弁者だったのだ。
私は……私は――勇儀に相応しく、ない。
勇儀の隣に居ることなんて――許されない。
「なんだ。そんなことか」
何を言われたのかわからなかった。
私の苦悩を一蹴するのに要した時間は、何秒だったろう。
たったそれだけで済まされるような、軽いものではないのに。
「そんなことって……!」
「誓いを忘れたのかいパルスィ」
食ってかかる私を、彼女は真正面から受け止めた。
彼女の眼は――逸らされずに、私を捉えている。
「……え」
「私は、何からもおまえを守ると誓った。その誓いが破られることは無い」
揺らぐことのない赤い瞳。
「もしこの地底に住まう者全てがおまえを傷つけ私から遠ざけようとするのなら」
金の髪を隙間風に靡かせ彼女は宣言する。
「私はこの地底世界を滅ぼそう」
最悪の結末を見据えて、それと戦うと。
その言葉を表すのに、決意など生温い。狂ってるとさえ、言えた。
彼女は旧都に住まう者の中でも最古の住人だ。それだけ長く過ごした町を愛していないわけがない。
そも、旧都は彼女たちが作り上げた町なのだ。彼女たちが作り上げた世界なのだ。
それを、滅ぼすと。
迷いなど微塵も覗かせずに宣言した。
狂っている。
私の狂気が感染してしまったのでないかと疑ってしまう。
私が彼女を狂わせてしまったのではないかと震えてしまう。
勇儀は、私の為に戦ってくれると思っていた。優しい彼女が裏切る筈がないと知っていた。
それでも考えていたのは、戦い続けるだけの日々。彼女が私を庇い続けてくれることだけ。
全てを敵と、滅ぼすべき対象とまで見据えるなんて、考えもしなかった。
防衛戦ではなく殲滅戦を選ぶだなんて、初めから除外されていた。
「だ――だめよ、勇儀――あなたにそんな真似、させられない」
だのに、私の制止にも彼女は揺らがない。
私の狂気は、私にも止められないことを思い出させる。思い知らされる。
「やめてよ……! よりにもよってあなたに、そんな、あなたの町を……!」
「パルスィ」
詰め寄る私の手を、彼女は強く握り締める。
熱い。痛い。痛いくらいに、彼女の本音が、正気が伝わってくる。
彼女は狂っていない。彼女は正気のままで狂ってるとしか思えないことを告げていた。
「やめて、どうしろってんだ。甘んじて受け入れろと言うのか? 私とおまえは釣り合わないなんて戯言を。
私は旧都の重鎮で、おまえは疎外されている外れ者だから決して結ばれないなんて戯言を」
「ち、が――」
「私は気が短いんだ。今までだって、そんなことを言う奴ぁただ一人の例外もなく叩きのめした」
――――え。
「萃香のように、この拳でブチ砕いて、問答無用で黙らせてきた」
私、だけが――陰口を叩かれていると、思っていた。
考えてみれば、当然だった。彼女は誰からも慕われる四天王。諫言する者が居ない筈がない。
恐らくは幾度も諫言されその度に荒れ狂ったのだろう。
酒を取りに行くと私の家を出る度に――そんなことを繰り返していたのだろう。
「……おまえが心配するようなことはしてないよ。殺しちゃいない。それなりに強い連中だ、もう治ってる。
だがね、許せるわけがないだろうが。何も知らんくせにおまえを侮辱するような連中を、この私が。
ああいう連中は言葉じゃ理解せん。だから、この拳で身に刻んでやった」
ヤマメが、工事に誘わなかったのは――そういうこと。
忙しそうだと、彼女は言っていた。彼女は鬼のようだけれど、鬼じゃない。
相手を慮って……嘘を吐く。
勇儀が、周りと不和を起こしていることを知っていて、忙しそうだと、偽った。
きっと最終的に工事に誘おうとしたのは、仲直りさせようと思ってのこと。
人気者で、仲間との和を大切にする彼女らしい配慮だった。
萃香が私たちの仲を言いふらしたから、もう大丈夫だと私たちに告げたのだろう。
それだけは……甘過ぎるとしか、言えないわ。ヤマメ。
もう諍いは起きていた。
噂は広められ止めを刺された。
もう、どうしようも――なかった。
逃げ出すくらいしか、私にはもう思いつかない。
しかしこの狭い幻想郷で逃避行など何時までも続けられるものじゃない。
この上なく手詰まりで、どうしようも、ない。
「……私のことばっか、気にすんなよパルスィ」
「だって、だって――私には、失うものなんてないけど、あなたは」
「なにを失っても構わない」
ずっと握られていた手を放される。
「パルスィさえ居てくれればそれでいい。他にはなんにも要らない」
富も名誉も仲間さえも捨てると、彼女は言う。
「いっそ二人で逃げちまおうか? 大結界とやらを越えちまえば誰も追ってこれないよ」
「……馬鹿……あなたみたいな大妖怪が、そんなこと許される筈ない……」
「なんだって出来るさ。おまえの為なら出来ないことなんて一つもない」
彼女は、私なんかよりもずっと早く、ずっと強く、覚悟を決めていた。
なのに弱い私は、まだまだ強くなれてない私は、解決策を考えてしまう。
これ以上誰も傷つかずに済む奇跡みたいなことを、求めてしまう。
「…………わかって、いるのに」
奇跡なんて起こらない。
彼女と共にあろうとすれば、これから先ずっと泥沼を駆け抜けなければならない。
「……わかってるのに……私と、いっしょに居ない方が、勇儀のためになるって……でも……」
涙が零れる――抱き締められる。
勇儀と私の枷が、かちゃりと鳴った。
彼女に与えられた枷。私が彼女のものだという証。
されど今は奇跡など与えられぬ咎人の証。
彼女も私も――誰も彼も傷つける、咎人だった。
「やだ……」
抱き返す。抱き返して――しまう。
突き放さなければならない。幾度も繰り返したように。
私に差し伸べられる手を、拒まなければいけないのに。
覚悟、してしまったから。
「――……ゆうぎといっしょにいられないなんて……やだ……」
彼女と共に戦うと、決めた。
先に破滅しか待っていないとしても。
決して――――幸せになんかなれないとしても。
「……絶対パルスィを放したりしないよ」
背に、傷ついたままの彼女の左腕が回された。
強く、強く痛いくらいに抱き締められる。
咎人が抱き締め合う。
呆れかえる程に、私は罪人だった。
こんなことになってしまったのに、考えもしなかった。
ただの一度も彼女と別れようなんて思いさえしなかった。
誰の為と言い訳すら出来ない程に――彼女を求めていた。
「祝言を挙げよう」
泣き止んだ私に彼女は告げる。
……ついさっき、そんな冗談を言って蹴られたくせに。間の悪い奴。
「誰も……祝ってなんかくれないわ」
「いいよ。二人だけで十分だ。私たちが誓えればそれでいいよ」
酒は紅魔館で貰ったのがあるしねと彼女は笑う。
身を離すと彼女は立ち上がり荷物を漁る。
この部屋は、大体彼女の寝床になっていたから彼女の荷物だろう。
着替えやら春画本やらを大量に持ち込む勇儀。今漁っているのはその内の一つだろう行李だった。
「あったあった」
片手で探しづらそうだったけれど、早々に目当ての物が出てきたらしい。
ぱさりと、大きな白い布を掛けられる。
「わ、ぷ」
な――なに? 反物……では、ないようだけど。反物よりもずっと大きい。
ただの布というわけではなく白地に同じく白い糸で模様が描かれている。
なんとか顔を出して見上げると、彼女はしゃがみ込んで悪戯っぽく笑っていた。
「花嫁衣装もないけど……これくらいはな」
「これは……?」
「昔ね、懇意にしてた狐に貰ったのさ」
布の端を抓み笑いながら彼女は続ける。
「そいつが結婚してさ、私も祝いに行ったんだよ。そんで宴会になって、別れ際に渡された。
嫁に行く時に使えって――はは、あの時は私が嫁を貰うだなんて考えもしなかった。
私は嫁に行く気なんてなかったからね、使うことはないと思っていたんだが」
これで、花嫁衣装を作れってことかしら……などと考えていると、くしゃりと頭を撫でられる。
「こんなに可愛い嫁さんに使えた」
ぐいと布を引っ張られ頭を覆われてしまう。
「なにを――」
「角隠しにゃあちと大仰かね。ま、これで」
布をずらし、顔を出すと勇儀は、優しく――微笑んでいた。
「鬼退治、完了だ」
ゆっくりと、じっくりと、彼女の言葉が沁み渡る。
私の角を奪った鬼を、まっすぐに見れない。
目が、潤んでしまって――顔を上げていることも出来なかった。
「――ばか、まだ、そんなのわからないじゃない」
「言い切ってやるよ。おまえはもう鬼を出したりしない。狂ったりなんかしない。
ずっとずっと――……私の可愛い嫁さんだ」
きっと、彼女の言う通り。
こんなに心を嬉しさで埋め尽くされてしまっては狂気なんて入る余地がない。
私はもう、二度と狂ったりなんかしないって、彼女の言葉に頷ける。
ありがとう、勇儀。
約束を守ってくれて。
私の鬼を退治してくれて――――ありがとう。
「あの、そろそろよろしいでしょうか」
「うおわあああああああああっ!!?」
「きゃああああああああああっ!!!」
突然の声に二人して転げ回る。
なに、なに今の声!? っていうかさとり!?
うわあ部屋の隅にさとりが居るーっ!?
「ななななななななな!」
「ずっと居たのですが」
「いいいいいいつから……!?」
「『私は気が短いんだ』辺りです」
「お、おま、おまっ! いつから妹の方になったー!?」
「……そんなに影薄いですかね私」
恐慌状態の私と勇儀。反してさとりは冷静そのものだった。
いやそれが当たり前なんでしょうけど、いやちょっと待って! 見てたの!?
嘘でしょ嘘でしょやめてよあれ見られてたのやだー!!
勇儀のくれた布を被っても隠れられない! なんでどうしてあーっ! 恥ずかしくて死ねるー!!
「来てたんなら声掛けろよ!? わ、私誰も居ないと思ってあんな、ああああああっ!!」
勇儀の絶叫が響き渡る。絶対私と同じで顔真赤だ。
「いえ……声を掛けようとは思ったのですが……取り込み中のようで……」
「取り込み中だよ! 思い切り取り込み中だったよ! 出直すとかしろよおまえ!
なんで正座してじっくり観賞してんだよ見せもんじゃねえよもおおおおおおおおっ!!!」
どすんばたんと勇儀が七転八倒する音が聞こえてくるが顔を出せない。フォローとか無理。
もう駄目ほんと恥ずかしくて死ねる誰か殺していっそ楽にしてほんともうなんかごめんなさい。
「あー……えー……すいません」
すいませんじゃないってのよもぉっ!! なんなのなんでこうなってんのもーいやーっ!!
そうして四半刻ほど転げ回り――私たちはどうにか正気を取り戻した。
喉がからからで顔が熱くていくら水を飲んでも落ちつけはしなかったのだが。
ダメだわお酒持ってきてお酒で忘れさせてこんな恥ずかしいのもう耐えられない。
囲炉裏を囲んで座っているけど落ちつけないわよねおほほほほほほ。
さっきから火箸で炭を粉々にする作業を繰り返しちゃってるわもうどうしましょう。
「あの……そろそろよろしいですか……?」
ぎっと私と勇儀に睨まれさとりは座ったまま後ずさるという器用な真似をした。
「……なに。ああ、番人復帰の挨拶が遅れたのは悪かったけど……」
「ええその用事で伺ったのですが――まぁなんというか。いいものを見せていただきました」
無言で火箸をぶん投げた。さとりは避けた。
顔が強張ってるからぎりぎりだったのだろう惜しかった。
「お願いしますから口封じしようとかしないでくださ、あその手があったかと思わないでください」
勇儀が爪を構えていた。
私は鋏を構えていた。
…………まぁ、いい。さとりは他言はしないだろうし、後で忘れて貰えば済む話だ。
「勇儀、私の部屋の刀持ってきてくれない?」
「そういやあれ鞘まで鉄拵えだったね」
「頭をしこたまぶん殴って忘れさせようとしないでくださいほんとすいませんでした」
心を読んだか察しの良い。
ちっと聞こえるように舌打ちして私たちは構えを解く。
「ええと……ですね」
「番人には今日から復帰するわ。話は終わり?」
「そのつもり、だったのですが」
さとりの表情が俄かに真面目さを帯びる。
半目で――私を見る。
「突然旅に出ると聞いた時は不安でしたよ、パルスィ」
「……何時までも昔のままじゃないわ」
彼女は、勇儀以外ではただ一人私を気にかけてくれる妖怪だ。
心を見抜く第三の眼を持ったさとりの妖怪、古明地さとり。
地底に来て初めて知り合った妖怪で――私に縦穴の番人の仕事を与えた妖怪。
私の上司、だ。
「そのようですね――星熊勇儀」
さとりの視線が勇儀に移る。
「ん――なんだい」
「お礼をと。私の部下が良い方に変われたのはあなたのおかげのようですし」
気恥ずかしそうに勇儀は頭を掻いた。私も……少し、恥ずかしい。
こいつは昔から、そうだ。私の保護者面して……なにかと構ってきて。
ただの、仕事の関係なのに……私の親のように振舞って。
そういえば、先日も似たようなことがあった。
あれは萃香が勇儀に、だったけれど。
似ていると言えば、似ている状況。
「星熊殿、パルスィ」
さとりの声に顔を上げる。
彼女は微笑んで、私たちを見ている。
「誰も祝ってくれないと仰ってましたが――お祝い申し上げます」
気恥ずかしくて、何も言えない。
私たちの仲を認められるなんて思わなかったし、それ以上に素直な好意に、慣れてなくて。
お礼を、言うべきなのだろうけれど……私も勇儀も口籠ってしまう。
それでも何か言わねばと、口を開こうとしたその時。
「――ん?」
「……これは」
強烈な、酒の臭い。
どんどん近づいてくる。
間違いない。これは――
「やっほうっ! 新婚さんお元気――――――――お邪魔だったカナ?」
縁側から扉を豪快に開けて入ってきた萃香は、さとりがドン引くほどの殺気を受けて顔を強張らせた。
私と勇儀は、ゆっくりと立ち上がる。
勇儀はごきごきと指を鳴らし、私はしゃきりと鋏を広げた。
引き攣った萃香の笑みが恐怖に濁る。
「あっはっは。酒粕が歩いてきたかと思ったわよ萃香」
「いやあよく来てくれたね会いたかったよ萃香」
「そ、そう? あはは嬉しいなー……んじゃ私はこれで失礼をば」
「逃がさん」
そうして萃香を捕まえ簀巻きにし軒先に吊るした。
なんでこんなことすんだーと騒いでいたので事情を説明し睨みつける。
「あー……それは――ねぇ。うん。なんつーかさ」
「黙れ酔っ払い。舌引っこ抜くわよ」
「やめてよ酒の味わかんなくなるじゃん!?」
「勇儀やっとこ持ってきて」
「鋸でいいか」
「いいわ」
「ごめんほんと悪かった! だから話を聞いて!!」
じたばたと芋虫のように暴れる萃香を冷たい目で見上げる。
萃香は冷や汗を垂らしながら愛想笑いを浮かべた。
私の手の中で鋸が光る。
すると――どこからともなく欠伸の声が聞こえた。
また来客かと目を向けると、巫女と――魔理沙が立っていた。
「なんだなんだ? 今日のメインディッシュは鬼の鍋か?」
「ふぁあ……ったくこんな夜中に呼びつけて……」
元気な魔理沙と眠そうな巫女……何故、ここに?
「あんたら、なんで……」
「結婚式に神職も無しじゃ締まらないって呼ばれたんだけど?」
「おいーっす、宴会だって? 幹事は任せろ!」
事情が呑み込めない。思わず勇儀と顔を見合わせる。
そうこうしている内に、がやがやと騒がしい声が聞こえてくる。
こんな地底の端っこにどんどんと人がやってくる――
「二次会は紅魔館が引き受けるわ」
――レミリア。
「んじゃあ三次会は守矢神社ってことで」
神奈子まで。
「おいおまえら勝手に決めるなよ。幹事は私なんだぜ?」
魔理沙が彼女たちに食ってかかる――彼女たち、だ。
美鈴、咲夜、諏訪子まで来ていた。
いやフランドールやパチュリーに、昨日神社で見かけた神奈子のところの巫女まで。
な――なん、で? どうして彼女たちがこんなところに……
「私が呼んだんだよ」
「萃香」
振り返れば、縄抜けを果たした萃香が自慢げに胸を張っていた。
「祝い事は楽しくなきゃいけないだろ?」
「楽しく、って――でも、旧都の……」
「そいつぁもう済んでるよ」
私の言葉を遮り、萃香はにかりと笑う。
意味がわからない。済んでるって、どういうこと?
「萃香、おまえ……何往復もして、なにしたんだい?」
勇儀が問えば、萃香は笑ったまま答えた。
「説明してやったのよ。水橋は鬼女の系譜だ、鬼の血を色濃く残している。だがあいつは卑怯な真似をした。
勇儀の為に卑怯者の汚名を自ら被り私に、この鬼の総大将に立ち向かったってさ。
そしたらあいつらなんて言ったと思う?」
そんなの、想像も出来ない。私は嫌われ者で――庇われたことなんて、一度もない。
でも、勇儀が暴れてもどうにもならなかったのに、今更庇われたって変わらないとしか、思えない。
私と勇儀が答えられず黙っていると、萃香は笑みを深め――
「勇儀姐さんにどつかれたし、萃香姐さんにもそんな話聞かされちゃ認めないわけにはいかないってさ」
彼女の言葉が理解出来なかった。
認め――た? 私を? 私と……勇儀の、仲を?
「気のいい奴らさ。相手の度量を知りゃ、ちゃあんと認めてくれんだよ」
ばんばんと、痛いくらいに背中を叩かれる。
「勇儀、後で謝っときな。あいつらぶん殴ったんだろ?」
「あ、う……い、何時までも保護者面しないどくれよ……」
「はっは。いつまでもあんたはガキだよ、私にとっちゃね」
呵々と笑う萃香が皆の方に混じっていく。宴の算段をつけようと輪に入っていった。
呆然としたまま、私はそれを見送るしか出来ない。
ふと、視線を感じ振り返る。
さとりが私を見て――微笑んでいた。
萃香が、勇儀に向けるようなあたたかい目で、私を見ている。
私は――まだ呑み込めていない。今日一日で色々とあり過ぎる。
だって、だってこんな――信じられない。
何度、覚悟を決めたことか。
私たちは幸せになれないって――戦わねばならないって。
ぽんと、肩に手を置かれた。
「ったく。この家じゃ入り切らないね」
「勇儀――ひゃ!?」
抱き上げられる。お姫様だっこ。
「な、なななななにしてんのよ……」
「旧都の私の屋敷に行くか」
にこりと笑って、勇儀は歩き出した。
止められないし――止める気には、なれなかった。
――そうね。祝ってくれるのだから、それを断るなんて出来ない。
誰にも認められないと思っていた私たちの想いを、こんな大勢の人たちが認めてくれる。
奇跡も幸せもあり得ないと、嘆いた分だけ――――奇跡も幸せも訪れてくれた。
「どうせなら、旧都の連中に知らしめてやろうじゃないか」
うん。それも、いいかもしれない。
悲しんだ分だけ、笑いましょう。
「私たちは、幸せだってな」
ええ
とても、とても――
幸せだわ、勇儀
【嫉妬の鬼退治――完了】
【星熊勇儀の鬼退治 完】
私にとっても勇パルはジャスティスです。
本当にありがとうございました。
それぞれの話での二人の想いの強さやさとりの登場からの笑い、今まで出会った人たちからの祝いや、
幸せそうなパルスィと勇儀など、とても面白いお話でした。
自分の中では、勇儀173~5くらいで星が180くらいでパルスィとナズーリンが150弱くらいという設定なので予想以上に身長差があり驚きました。
長らくお疲れ様でした。新たな正義に期待しています。
二人には何時までも幸せでいて欲しいですね。本当にありがとう、そしてお疲れ様でした!
この話を完結させるまでの約1年半楽しく読ませてもらいました。
今後の作品に期待してます。
そして、もう一度 お疲れ様でした。
最初から最後まで読んできた身として、是ほど心に響く一文は無い。
よくぞ書ききってくれました、ありがとう。
ところで身長40センチ差って犯罪臭いっすよ姐さ(グシャッ
もう一度最初から巡って来ようかな。
恋ありバトルあり、シリアスやギャグの振れ幅もとても印象的ですし、
何度もきゅんきゅんさせていただきました……!
不器用な二人が大好きです!
二人とも末永くお幸せに!
一年以上の長い連載お疲れ様でした!
最高の最終回でした。
萃香良いキャラしてるね!萃香お前って奴はよう。
続編がやればいいなー。と思いながら待ってます。
勇パルはうちにとっても正義です。ごちそうさまでした。
・・・デレたぱるちーカワユス。反則級に。
素晴らしい!
初めから終わりまで楽しませて頂きました。
ころからも二人仲良く歩み続けて欲しいです。
気が向いたら番外編とか書いて欲しいです。
はかまさんの描くこれからの作品達を、
心から楽しみにしています…
そして、最後に
勇パルはいつまでも皆のジャスティス!!!!!
いい話をありがとうござっしたぁぁぁっ!
我慢して家で読めばよかったあああああくしょおおおお
というわけで、また後で読まさせていただきます。
素晴らしい作品に出会えた運命と、それを作りきった作者様に心から敬意を表し、点数を捧げさせていただきます。
ありがとうございました!
GJ!良い勇パルを本当にありがとう!!
ありがとうございました、こんな素晴らしい勇パル読ませていただいて!
「お星さま」に出てくる二人に対するナズーリンの感想がやけにメタ的な物含んでいると思ったら本当にメタでしたが、
近い未来でも楽しそうにしている二人に一安心です。
兎にも角にも、全ての憂慮を悉く破壊され尽くされていくパルスィに、そして勇儀にこれからも幸あれ!
そして霊夢にも幸あれ…(後書きの時間軸見ての感想。元日の昼間に人子一人いない神社はちょっと寂しいです…)
うん、悩ましく狂おしいストーリーの中に和みを忘れないこの空気、見事。
よく考えられてるなと感嘆しました。
楽しく読ませていただきました。ありがとう。
俺・・・カプ厨で良かったよ・・・
なんだかもうこの作品に出会えたことに感謝です。楽しかった
これからも作者様の作品の後を追わせていただきます!
ニコニコに手を広げてよかったと、心から思っています。
これからも、勇パル・ナズ星共に良作熱望しています!
パルスィの背が私の好みすぎて驚いた。そしてこの作中でなぜかパルスィ×スカーレット姉妹も
いいかなとおもっちった。テヘペロ☆ですが私のジャスティスは勇パル!!本当にお疲れ様でしたー!