日も傾き始めた午後、霊夢はいつものように縁側でお茶を飲んでいた。もう何度お湯を足したのか分からないくらい薄くなったお茶を。いや、それは既にお茶のようなお湯でしかない。ただそれを愛しむかのように啜る。新しい茶葉の必要性と、今日も平和に終わる一日のことを考えながら霊夢は沈む太陽を眺めていた。
その時だった。いきなり目の前の空間に亀裂が入り、開く。その中から一人の大妖怪、八雲紫が現れた。面倒な奴が来たと隠すでもなく嫌な視線を向ける。しかし、それを気にかけようともせず紫は口を開いた。心なしか表情には焦りの色が見える。
「霊夢、幻想郷の危機よ。あいつが、あいつがやって来るわ…」
開口一番に発せられたその言葉に霊夢は呆気にとられた。何の冗談かと思ったが、紫の真剣な目を見てそれがからかいや嘘ではないことを悟る。こちらも真面目にならなければ、そう思い尋ね返す。
「どういうことなの? あいつって誰?」
紫はその名を口に出すことすら苦痛なのか、顔を顰めながら言葉を捻り出した。
「―――つようび」
「えっ」
「げつようび……よ。月曜日が来るっ!!」
~ 月曜日が幻想入り ~
日は完全に沈み、妖怪や魑魅魍魎が闊歩する闇の時間、夜。博麗神社では緊急の会議が行われていた。
そこに集まっていたのは最初の霊夢と紫に加え、霧雨魔理沙、東風谷早苗、レミリア・スカーレット、蓬莱山輝夜、古明地さとり、伊吹萃香の一癖も二癖もある者達。それぞれ円の形になって話し合っている。
「ていうかさ、別にいいんじゃないの月曜日くらい。人を皆殺しにするとかそういう危害がないのならほっとけばいいのに。幻想郷は全てを受け入れるんでしょ?」
月曜日について説明を受けていた霊夢が思っていたことを打ち明ける。ぶっちゃけよく分からない上にどうでもいいのだ。
しかし、紫が呆れたように溜息を吐いてもう一度語る。
「全然分かっていないわね。確かに肉体的被害はほとんどないわ。でもね、あれがもたらす精神的苦痛は尋常じゃないの。妖怪は精神攻撃にはかなり弱いことは知っているわね? それは人間も同じ事。そちらの覚妖怪さんと戦った経験があるなら分かるわよね」
ちらりと静かに佇んでいるさとりに目を向ける。第三の目がギョロリとこちらを見ていた。
確かにさとりと戦ったときは今までにない苦労があった。自分の考えを読むだけではなく、思い描いた弾幕を真似して使ってきた時は初め驚いた記憶がある。それだけならまだしも、弾幕に被弾するのは慣れていたが、封印した過去の黒歴史を掘り返されたのは全くを以て参った。思い出すだけで顔が赤くなる。
顔を伏せているさとりの口元がニヤリとつり上がった気がしたので、とりあえず陰陽玉を投げつける。見事その柔らかそうな頬へヒットしたので幾分か気が晴れた。
「ひ、酷い!」
「お黙り。思い出したくもない事思い出したわ。……で紫、精神攻撃の厄介さは分かったけどそれと月曜日で何の関係があるの?」
「ふう、まだ分からないのね。それなら質問するわよ、今日は何曜日かしら?」
「はあ? いきなり何よ」
突然訳が分からないことを切り出されて戸惑ってしまう。ほっぺたを摩りながら抗議するさとりの声など最早耳には届かない。
「いいから答えなさい」
「日曜日」
「そう。では明日は何曜日?」
紫の真意が分からない。考えるまでもなく当然のことを尋ねられた。だから霊夢の返す答えは当然の答え。誰もが、子供ですら簡単に答えられること。
「そんなの決まってるでしょ。“日曜日”よ!」
それはもう簡単な話だ。日曜日の次は日曜日。幻想郷では当たり前の事実。そう幻想郷では。
しかし、紫は首を横に振った。
「この世界ではそうであっても他では違うとしたらどうかしら? 例えば……外の世界とか」
「え、外は違うのっ!?」
「外の世界は成長を急ぐあまりに私達、妖怪を忘れ去ってしまった。その忘れられたものが集う場所、それが幻想郷。私はこの幻想郷を創るとき、外の様に後々荒れ果ててしまわないよう一つの細工をしたの。それこそが曜日。月日の経ち方は外と一緒だけど曜日は変更したわ。これぞ名付けて、グータラ オブ ライフ!!」
ババァーーーン!!!
効果音と共に隙間からカレンダーを取り出す。日付の上に書き記されているもの。
日 日 日 日 日 日 土
これが幻想郷の時の流れである。毎日休日じゃないの、マジで!? と疑うことすらしようとも思わなかったことが事実では無いと知り、霊夢は大変驚いた。が、それでも疑問は残っている。
「ん? でもそこに月曜日が入ることに何の問題が?」
「問題も問題、大問題ですよ。霊夢さん!」
「あら、そういえば貴方は外を知っていたっけ。この一大事についてよく分かっているようね」
紫と首を傾げる霊夢の間に割って入るように、早苗が口を挿んできた。
「はい、紫さんの焦る気持ちはよく理解しています。私が幻想郷に来てからどれほど感動したことか。平日が無いなんて、まさに常識に囚われないを実践した素晴らしき世界。それに入り込もうなどと、月曜日め許してはおけません」
ギリリと歯を食い縛り悔しそうに言葉を発する早苗。それに共感したように紫が無言で頷き手を取り合う。分かりあえたことが嬉しいのかウフフ、ウフフと笑う二人を見て霊夢は鳥肌が立った。
「いや、だからどう問題なのか具体的に教えなさいよ」
「まだ分かってないの?」
「これだから田舎娘はダメなんです」
「うわっこいつら超殴りてぇ」
イラッときた霊夢にお構いなしに二人は溜息を吐いて、それはねと呟き、同時に応えた。
「働かなくちゃいけないのよ!」
「学校に行かないといけないんです!」
吠えるように叫んだ後、二人は、「めんどくさい、働きたくない」だの、「無かったんです、中2の私は存在していないんです」と愚痴を言うように喚きだした。とりあえず懐からお札と針を取り出して二人に投げつけてから、晩御飯の支度をする為に立ち上がりつつ、他の者にも動機を尋ねることにした。
「私か、私はなんか面白そうだと思ったからだぜ」
「ふん、本当はどうでもいいんだけどね。月曜日を私の運命操作でけちょんけちょんにすれば、あそこで尻に針ぶっ刺して寝ている隙間よりも凄いと知らしめてやれるじゃない。最強はこのレミリア様だってね」
興味本位とプライド。全くを以てこいつららしい理由だと霊夢は思う。
今度はさとりに目を向ける。まだ痛むのか頬を押さえながらジト目で睨まれたがすぐに顔を逸らし、聞こえるか聞こえないか微妙な声で呟く。
「……妹と、こいしと一緒にいる時間が減るかもしれないからです」
やだこの子超可愛い! と霊夢の乙女回路がショート寸前になる。逸らされたさとりの顔はリンゴみたいに真っ赤だった。姉の鏡ともいえる相手に、お前の妹は曜日関係なくいつもフラフラしてるじゃねぇかという突っ込みは無粋である。相手が覚妖怪だったとしてもだ。
さとりが何故か両手を地面につき落ち込んでいる。そっとしておいてやろうと霊夢は判断した。
この純情をどうしようか、ハートは万華鏡なのと意味不明な思考に陥りそうな所に輝夜の方から話しかけてきた。
「霊夢聞いて、永琳ったら酷いのよ! 姫である私をゴミを見るような眼で毎日毎日、『まだやりたいことは見付からないんですか?』とか言ってくるの。儚月抄のときは応援してくれたのに、終了一周年経ったらこれよ。私が今は働く為の充電期間だって言っても聞く耳持ちやしない。月曜日が来ることを知ってから、『いい機会ですね。どうです、いい加減働いてみませんか』だって! まるで私が駄目人間みたいじゃない、間違ってると思うでしょ?」
「うん、駄目宇宙人ね」
「即答!!」
知ったことかと絡んでくる輝夜を放り投げ次へ行こうとしたが、ふと疑問が浮かぶ。
「そういえばさ、人数少なくない? こんだけ騒ぐなら他にも誰か誘わないの?」
もっともな意見である。ここに集まっているのは全員で8人。幻想郷にはもっと沢山の人妖がいるはずだ。特にレミリアや紫の従者、さとりのペット、守矢の二柱がここにいないのはおかしい、そう霊夢は考えた。
その瞬間、レミリア、紫、さとり、早苗の顔から生気が抜け落ちた。事情を知っているのか魔理沙が苦笑いをしながら一枚の紙を取り出す。
「まあ、それはだな。とにかくこれを見れば分かると思う」
「ん、なになに…【貴方は月曜日をどう思いますか】 これってアンケート用紙?」
「正解だ。みんなの回答が全て載ってる」
その用紙には、月曜日が必要かどうか、その理由も共に書いてあった。
○ 月曜日が必要である ……… 28%
○ 月曜日が必要でない ……… 10%
○ 物凄くどうでもいい ……… 62%
「うわっ幻想郷適当な奴多すぎ! しかも必要ないが圧倒的に少ない。必要としている方が多いってどういうこと!?」
「まあまあ、ちゃんと理由も読んでみろって」
・月曜日だろうが何だろうがメイドには関係ありませんわ。(十六夜咲夜)
・妖夢が頑張ってくれるから別にいいわ~。(西行寺幽々子)
・紫様が働くなら大歓迎です。(八雲藍)
・輝夜が働くな(ry (八意永琳)
・メリハリがあっていいんじゃないか(八坂神奈子)
・うにゅー。(お空)
・差別はいけません。人も妖怪も月曜日も皆平等、分かり合えます。いざ南無三。(聖白蓮)
・働けど働けど我が待遇一向に良くならず。(紅美鈴)
「一部は理解しているのか微妙だけど、なんていうかもっともらしい意見が多いわね…なんかこっち側にいるのが馬鹿らしくなってきたわ」
「そう言うなって、こいつらもこれで必死なんだからさ」
面白半分で来ている奴にフォローされる紫達からはカリスマも威厳も無くなっていた。あれこれ文句を言ってはジタバタと暴れる姿は駄駄を捏ねる子供の様だ。子供の数百倍はたちが悪いが。
「あっはっはっ、みんな楽しそうだねぇ。ちょっと働くくらい別にいいと思うんだけどなぁ」
もう一人居たことを忘れていた。そいつはいつもの如く酒を呑みながら笑い転げていた。伊吹萃香、年中酔っ払い鬼。萃香は慌てているこちらの様子をからかうように眺めている。どうやら反対メンバーとしてではなく、酒を呑みに来ただけのようだ。赤ら顔で楽しそうだった。
その萃香に向けて紫が含み笑いで言葉を掛ける。
「そんなこと言ってていいのかしら? 働くということは宴会をする時間が減るってことよ」
「……どういうことだ」
「だって、明日仕事だ~ってときに酒を飲みたがる者はいませんわ。二日酔い怖いですしね。ウフフ」
「よしお前ら月曜日をぶち殺すぞ!!」
仲間が増えた。
◇ ◇ ◇ ◇
妖怪や魑魅魍魎もおやすみなさいをする時刻、日付が変わる10分前。
霊夢達は博麗神社と外の世界を隔てる結界の前に来ていた。紫が言うには月曜日はここから現れると予告があったらしい。結構律儀なやつだ。しかし、待つというのは思った以上に疲れる。それに今は寝ていてもおかしくない時間なので余計に苛立つ。というか輝夜は立ちながら寝ていた。長い沈黙に耐えかねて、霊夢が口を開く。
「そんで、一体いつになったら月曜日さんとやらは来るわけ?」
「忍耐を覚えなさいな、それだからいつまでたっても子供なのよ。安心しなさいって言うのもあれだけど、もうすぐ来るわ」
「ぐっ! 別にいいでしょ、付き合ってあげてるんだから」
「なあ紫、今さらだけどこの人数で勝てるのか? 一応ここにいる奴らは弱くはないけどな。でも相手も強いんだろ。なんか手があるのか?」
「フフッ、大丈夫。こんな時の為に萃香がいるじゃない」
そう言い、萃香を指差す。そこでは萃香が、「お前達、これは我々の未来、宴会を守るための聖戦だ。気を引き締めて戦え! それでは点呼を取る。番号!!」 「いーち」 「にぃ」 「さん」―――と分身を作って息巻いていた。萃香のスペル、『百万鬼夜行』。それを眺め、紫がまたニヤリと笑う。
「これで数は十分。いかに相手が強大といえど一人。萃香が数で押し切り、そして私達が最強の一撃をお見舞いする。我々の勝ちは決まったも同然よ。私ったらサイキョーね!!」
どこぞの氷精と紫がダブって見えたのはきっと睡魔のせいだろう。そういうことにしておく。
その時だった。目立ちたくて一番前に出ていたレミリアが何かに気付いたようにただ一言、「来た」と告げる。刹那、結界が激しく震え、周りの空気が凍ったように冷たくなり、その場を別世界へと変化させた。いや、正確には何一つ変わっていない。そこに居る者全員にそう錯覚させたのだ。寒い筈なのに汗が噴出してくる。誰もが今までに味わったことの無い雰囲気に相手の力量が普通ではないことを実感させられる。
そして、とうとう倒すべき敵、月曜日が結界を破り幻想郷に現れた。その迫力に飲まれそうになりながらも紫が萃香の名を叫ぶ。それと同時にその場に居た百万の萃香が一斉に飛び出す。
「覚悟しろよォォオ、げつようびぃぃぃィイイ!!!」
―――憂鬱『ブルーマンデー』
一瞬だった。瞬きすら許されない程のほんの一瞬。タイミングは完璧、数も圧倒的、作戦以上の良い動きを萃香は恐れずに行った。誰しもが勝利を確信しかけた。だがそれを嘲笑うかのように、月曜日はそれを上回る速度で攻撃、萃香軍を薙ぎ払ったのだ。
目の前で沢山の萃香が倒れ落ちていく。霊夢はただ呆然と眺める自分に気が付くも、身体は動かず、悲鳴に近い声で名前を叫ぶことしか出来なかった。
「萃香っ」
「なに、霊夢?」
「って返事してる! 生きてる!!」
萃香は無事だった。特に目立った外傷も見受けられない。他の萃香達も同じように平気そうだ。ホッと安心したがどこか様子がおかしいことに気が付いた。
「あ~だりィ」 「酒呑むのもめんどくせー」 「月曜かよ、ハアァ~」 「働きたくないでござる」
心底嫌そうな顔でその場に転がる萃香軍。呼吸するのさえ億劫そうにしている。
霊夢は何が起きているのか分からず、どう反応していいか困ってしまった。それを紫が震えた声で説明する。
「あれは月曜日特有の症状。休日明けの一週間の始まりに陥る病気みたいなものよ。あの病気に掛かると一日中何もやる気が起きなくなるの」
「な、なにそれ」
「くっ、萃香が倒れてしまった以上私が先陣を切るわ。霊夢、最後までよく見ておきなさい、きっと貴方がこの戦いの鍵となる筈だから」
「ちょっ、紫どういうことそれ―――」
霊夢が言い終わる前に紫は飛んだ。そしてスペルカードをスキマから取り出し構える。
紫奥義『弾幕結界』、選んだのは自らが得意とし、最強を誇る技。全身全霊で弾幕を展開する。隙間妖怪の癖に避ける隙間が見つからないくらいの密度だった。しかし、また信じられないことが起こる。月曜日がその弾幕を避けているのだ。グレイズを繰り返し、無理やり間を抜けていく。まさしく気合避けと呼ぶに相応しい回避だった。全てを避け切り紫の目の前に立つ月曜日。今度は自分の番だと言うようにスペルを宣言した。
―――早起『朝6時の目覚まし時計』
「イヤァァァァァァァァァ! 布団から出たくない、起きたくないぃ。あ、あと5分だけでいいから、お願い藍!!」
攻撃を避けられたことによる自失か、動くことも出来ずに被弾する。いつもの紫からは到底考えられない呆気なさで落ちていく。それに反応したのはレミリアと輝夜だった。紫といえば幻想郷の賢者であり創設者でもある。途中から幻想入りした二人は表に出すことはないが、その実力を心の奥底で認めていた。その相手をいとも容易く撃墜してしまった新入りの力。二人は顔を顰めながら攻撃の態勢に入る。
「ちっ、賢者と在ろう者が6時起きなどに恐れを感じてるんじゃない! 私はいつも朝5時起きで、ラジオ体操皆勤賞だ!!」
健康的な吸血鬼である。
「私は寝ないで朝までオール余裕よ!!」
無論、ネトゲである。
最初にレミリアが攻撃に出た。何物をも貫く最強の槍、グングニル。
レミリアを追うように輝夜も蓬莱の珠の枝を握りしめ、スペルカードを宣言する。
現れた槍を掴み、投げの動作を行う永遠に紅い幼き月と、周りに光り輝く弾幕を浮かべる永遠のお姫様。悪魔と姫、絶対の存在である二人の攻撃を避けられる筈もない。それこそ神か、もしくはそれ以上のナニか……。
爆音と閃光が辺り一帯を巻き込み、視認することすら困難となる。ゼーゼーと荒い呼吸で前面に立つレミリアと輝夜、腕で顔を覆い強い風に耐えていた霊夢達の耳に滅多に聞くことが出来ないさとりの大声が響いた。
「まだです!!」
さとりの大声とは珍しいこともあるもんだと場違いな思考が霊夢の頭を過ぎる。ぼんやりとした目に映ったのは、爆煙の中から放たれた二つの弾幕、それを回避することもなく被弾するレミリアと輝夜の姿だった。
―――乙女『お出掛け前の星座ランキング』
「射手座が最下位? 金運、仕事運、それに、恋愛運が最低? バ、バカな…運命を操る能力が全然効かない…たかが占い如きに、この最強の吸血鬼であるレミリアが敗北しただと……」
―――引篭『親不孝者の死』
「何よこの就職情報誌の山は! えっ? 一緒にハロワ行こう? 無理無理、私は姫よ。姫という職業なの! ってちょっと永琳、腕が痛いんですけど……殺してでも働かせる。ははは、やだな冗談きついわ。うん、落ち着いて話し合いましょう。だからその手に持つ無駄にでかい注射器は置いてててて! 痛い、チョー痛い!! 死ぬ、マジで死ぬぅぅぅう」
断末魔のような叫びと共に地に伏せる二人。撃ち落とされた先、煙が徐々に晴れていき、月曜日が攻撃を受ける前と同じ恰好で浮かんでいた。
「無傷…ですか、外の世界の時と同様忌々しい」
早苗がボソリと呟き、憎しみをぶつけるように月曜日に向かって突進していく。魔理沙が止めようとしたが間に合わない。
「私にぃ、常識はァ、もう、必要ゥ、無いんですよぉぉォォぉおオオオ!!!」
「おい、あいつブチ切れてるぜ」
「何か辛いことでもあったのかしら?」
「情報量が多すぎて心が読み切れません。そしてあれは死亡フラグです」
我を忘れて飛び去る早苗を見届けながら、「常識は必要だろ」と3人同時に突っ込んだ。
―――終符『じゃんけん』
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
ほたてです。
ダブスポ自機なのに影が薄い気がします。誰かもっとSS書いてくれないかなぁ。
次回、
「文はたもっと流行れ」
「衣玖らちゃん空気を読んでフィーバー」
「命蓮寺大爆発 -そして伝説へ-」
の3本です。って何言わせるの! 私の名前はほたてじゃなくてはたてよ!!
もう…さっさとじゃんけんいくわ。せーのっ、じゃ~んけ~ん――
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「キャアアアアッ! ダメです、そのじゃんけんをしたら日曜日が終わってしまう…。海産物さんの次週予告後のウフフを聞いたら日曜日が終わる……あっまた負けた。これで500戦500敗、奇跡は起きないから奇跡って言うんですね、わかり…ま…す」
「あっ、落ちた。青巫女は犠牲になったのぜ」
「早苗ェ…」
「た、助けなくていいんですか?」
さとりの問いかけにそんな暇はないと首を振る。気を取り直し空を見上げる。まだ戦いは終わっていない。次はどうするか悩んでいると、じっとしていた月曜日が動き出した。その視線の先には―――さとり。
「今度は私ですか。フフッ、ですがちょっとやそっとのトラウマでは揺らぎませんよ」
嫌われ続けて数千年。幾つもの精神的苦痛に耐え、鋼の心を身につけた少女、さとり。妹の為ならなんでもやるシスコンであり、動物好きの地底ムツゴロウさん。胸が成長しないのは種族のせいだと思っていたが、最近、こいしの方が大きいことに気付いて傷ついた。そんなさとりを皆こう呼ぶ。
「小五ロリ……聞こえてますよ魔理沙さん! 勝手に地の文っぽく語らないでください。それになんで貴方が胸のこと知ってるんですか!?」
「こいしに聞いた」
「黙っててって言ったのに! でも大好き!!」
「アイツも病気ね」
姉の淀みない(ある意味淀んでいる)愛に霊夢は少し引いた。
「まあいいです。それより月曜日さん、貴方の今までの攻撃を見せて貰いましたがどれも私には通用しません。その程度のトラウマは体験済みです」
口元を吊り上げニヤリと笑う。攻撃の速度では勝ち目がないが、それに耐え切る自信はあった。狙うはカウンター。相手の弾幕が止んだ時が勝利のチャンスだとさとりは計算した。同じ精神攻撃を得意とする者としてのプライドもあったのかもしれない。
耐えるのが得意といっても決してMではない。どちらかというとSである。相手のトラウマを抉るのは好きだし、恐怖に慄く姿は面白い。ただし、地霊殿、自分の家ではドM。それがさとりだった。
「だから勝手に地の文っぽく語らないでって言ってるでしょう、魔理沙さん!」
「悪い悪い」
「この際はっきり言っておきます。私をいじめていいのは妹だけです」
「アイツ真性だわ!!」
そんな3人娘のキャッキャウフフな会話に臆することなく月曜日がスペルカードを発動させる。さとりも攻撃を読み切ろうと自分の能力を全開にして回避の態勢に入った。願うは恋しい妹との休日生活を守ること、こいしとのんびりホリデーちゅっちゅの為に!
―――萌符『ドキドキ☆ がっこうライフ』
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「も~朝だよ、早く起きないと学校に遅刻しちゃうでしょ。起きてお姉ちゃん」
ユサユサ、気持ちよく寝ていたのを起こす声が聞こえる。声の主は私の妹、こいし。
目を開けるとすぐ前にこいしの顔があった。
「ふあぁぁ、ちゃんと起きますよ。ですからどいてちょうだい」
「また遅くまで読書してたんだね。今日から学校だってのに、私がいないとダメダメなんだから」
妹に急かされながら朝食を食べ、出発の準備をする。
のんびりと支度をしていたら、既に玄関でランドセルを背負ったこいしが待っていた。
「はやくはやく! のんびりしてたら時間なくなっちゃう」
「私のことは気にしないで先に行ってればいいのに…」
「お姉ちゃんと一緒に学校行くの~」
「はいはい、こいしは甘えんぼさんですねぇ」
子供扱いするな~、と文句を言う妹に微笑んで右手を伸ばすと、顔を赤くしながらも左手を出してきた。
互いに優しくぎゅっと握りしめ学校への道を歩く。明るい朝日が私達を照らしてくれた。
「ねえ、お姉ちゃん。帰りも一緒に帰ろうね!」
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「なにこれ、天国!? こいしと一緒に登下校……ありです。ランドセルこいし萌えです!!」
「マジかよ。さとりが堕とされたっ」
「そんな、トラウマだけじゃなく、願望攻撃もできるの?」
アハハウフフと悦に浸るさとり。所謂、ヘブン状態である。
幸せそうなさとりとは逆に、霊夢と魔理沙は焦っていた。自分達以外、それも相当の実力者達を物ともせずに撃破していった月曜日に恐怖すら覚える。いくら主人公とはいえ、この強大な敵に打つ手が思い浮かばない。
霊夢は震えていた。どんどん近づいてくる月曜日のプレッシャーに気圧され、逃げ出したくなる気持ちを抑えつけるので精一杯だった。自分が何を考えているのかさえ分からなくなっている。その時だった。
「霊夢、危ない!!」
身体に衝撃が走った。誰かに殴られたような気分、飛ばされながら魔理沙が視界に入る。
魔理沙が自分を突き飛ばしたんだと理解した瞬間、その魔理沙が光に包まれた。
―――閉館『本日、図書館休館日』
「うわあぁぁぁぁ、月曜休みなんて聞いてないぜ! 開けてくれよぅパチュリー、本持ってかないからさぁ!!」
「魔理沙ぁぁあ!!!」
頭を抱えて泣き叫ぶ友人の姿を見て、霊夢は悟る。魔理沙が助けてくれたんだと、油断していた自分をその身を挺して突き飛ばし、代わりに弾幕を受けたことを。
肩を揺すって名前を呼んでも、「本、本、本」とうわ言のように繰り返すだけで応えてくれなかった。そんな魔理沙に笑いが込み上げてくる。可笑しくなって口から声が漏れてくる。そして瞳からは一滴の涙が流れた。
「ふふっ、馬鹿ね、本当に馬鹿なんだから。自分が逃げればこんな醜態晒さなくて済んだのにね。ははは、他のみんなもざまぁ見ろってんだ。いつもは大口叩く癖に簡単にやられてんじゃないわよ」
不思議と恐怖心が抜けていく。思考も冷静さを取り戻し、いつもの調子が戻ってくる。
「あーあ、結局最後は私が尻拭いさせられるのね」
紫に託された言葉、「きっと貴方がこの戦いの鍵となる筈だから」その意味が分かったような気がする。
いや、紫だけじゃない。レミリアや輝夜、みんなが自分の為に、月曜日に対抗できるようにする為に率先して戦場に赴いていたのだ。
身体の奥底から力がみなぎってきた。
「そんじゃ、パパッと片付けますか」
不敵に笑い、博麗霊夢が月曜日の正面へと立つ。もう涙の跡はない。
両者緊迫した空気が流れる。どう動くか計っていると月曜日が口を開いた。
「ここでも、我は歓迎されないのだな」
「我って…え? 月曜日って喋れるの!!?」
「外の世界でもそうだった。持て囃されるのはいつも土曜日と日曜日。我々平日は疎まれるばかり。それが嫌になって新しい世界、我を喜んで受け入れてくれる場所を探していた」
「無視すんなやコラァ! 人の話聞きなさいよっ」
「遂に辿り着いた。幻想郷、全てを受け入れる場所に。だが、この世界にも我は否定された」
月曜日が暗い顔で諦めたように呟く。それはさっきまで無双していた者の発言とは思えないほど弱々しい声だった。
好きになって欲しいという高望みはない。休日明けは誰しも簡単に切り替えられないものだと月曜日も理解している。ただ受け入れて欲しいだけだった。月曜や平日があるからこそ、人は休日を充実して過ごそうと頑張るのである。それを伝えたかったと想いを告げる。
「元々戦うつもりはなかったのだ。すぐに消えるから安心してくれ」
霊夢は無性に腹が立った。こんなに圧倒的な力を持っているのに、あろうことか人の心に敏感で弱い月曜日が許せないと思う。何故だかほっとけなかった。だから行動で示す。
「あんたの言い分は分かったわ。でもね、こちとら友達や仲間がやられてんのよ。はいそうですかって認めるわけにはいかないの。さんざん暴れてサヨナラなんて虫が良すぎると思わない? ここでのルール分かってるんでしょ。想いを貫きたかったらスペルカードで勝負するってことを」
霊夢は暗に言っているのだ。お前を受け入れてやるから戦えと。
その心は月曜日にも伝わった。自分を認めようとしてくれている巫女に感動さえ覚える。初めてかもしれない。真向から向き合ってくれる存在は。だからこそ、そんな少女を傷つけるのが嫌だった。
フッと微笑んで答える。
「ありがとう。でも言った通り戦う気はない。我はこれで失礼するよ」
「あっ、逃げるな! ありがとうって何よ。か、勘違いしないで、ただ私の気が済まないから戦えって言ってるだけなんだから!!」
顔の赤い巫女に月曜日が箱を取り出し、手渡す。
「はっはっは、謝って済むとは思わないが、これはお詫びの印だ。引越しの挨拶のつもりで持ってきたんだが……受け取ってくれ」
霊夢が四角い箱を開けるのを見て、月曜日は立ち去ろうと背中を向け歩きだす。良い出会いができたと嬉しそうに微笑みながら。
「ちょっと待ちなさい」
呼び止められて振り向くと、博麗の巫女が輝く笑顔で手を差し出してきた。
「貴方を歓迎するわ。ようこそ幻想郷へ」
がっちりと硬い握手を交わしてくる。痛すぎるくらいに。
「住民票の変更しないといけないわね。あ、免許持ってるなら切り替えも。明日、里の役場に行きなさい。いや~、最初から賛成してたのよ貴方が来るのを。困ったことがあったらいつでも言ってね、力になるわ」
箱の中には静岡産高級お茶セットが詰められていた。
かくして、月曜日は見事幻想入りを果たすことができたとさ。
日 月 日 日 日 日 土
~ 月曜日が幻想入り・終 ~
~ エピローグ・ある日の月曜日 ~
◇紅魔館
「ふはははは! 今日の射手座は1位。ラッキーアイテムの紅いハンカチも持ったし完璧だわ。さあ、出掛けるわよ咲夜」
「おーすっ、パチュリー。今日も来てやったぜ」
「…今日は休館日って入口に書いてあったの見なっかった?」
「だから今日はお前と二人っきりで本が読めるな」
「なななななに言ってるのっ」
「い・い・だ・ろ? パチュリー」
「むっきゅん」
◇地霊殿
「今日こそはこいしにランドセルを……あ、お燐、こいしどこ行ったか知らない?」
「こいし様なら先程遊びに行くって出掛けられましたよ。月曜になるとお姉ちゃんが気持ち悪いから黙って出て行くって言われましたけど」
「ガーーーン!!」
◇永遠亭
「えーりん、今日も仕事行ってきまーす。あー働くって意外に面白いわね」
「輝夜が立派になられて従者として嬉しい限りです。ううぅ」
「師匠何も泣かなくても…でも姫様が働くなんて凄いね。なにかあったのかな、てゐは知ってる?」
「なんか死ぬほど恐ろしい夢を見たみたい。それに比べれば働く方を取った方がマシだってさ」
「……死なない人間が死ぬほどって一体どんな夢なの?」
◇守矢神社
「考えてみたらここに学校はありませんでした。良かった良かった」
「早苗ー、寺子屋の先生がいい機会だから常識の勉強し直すって呼びに来てるよ」
「なん…だと……」
◇マヨヒガ
「紫様! さっさと起きて下さい。もう6時ですよ、仕事の時間です」
「やだやだ~ゆかりんまだ寝るの~」
「はいはい、駄々捏ねてないで顔洗って歯を磨いて下さい」
「ちぇっ、藍のケチ。仕方ないわね、起きるとしますか………んん? こ、これは!!」
◇博麗神社
「あーやっぱり高級なお茶は美味しいわねぇ」
「あーやっぱりお酒は美味しいねぇ」
「ちょっと萃香、結局月曜日でも酒呑んでいるじゃない」
「霊夢も月曜日なのにお茶ばっかり飲んで働いてないじゃん」
「私はいいのよ。巫女だから」
日も昇る午前、朝から酔っ払っている萃香を相手に霊夢はいつものように縁側でお茶を飲んでいた。手に入れた茶葉の有用性と、今日も平和な一日が始まることを考えながら霊夢は青い空を眺めていた。
その時だった。いきなり目の前の空間に亀裂が入り、開く。その中から一人の大妖怪、八雲紫が現れた。心なしか表情には焦りの色が見える。
「霊夢、幻想郷の危機よ。火曜日がやって来るわ!!!」
END
そして文はたもっと流行れ
もうあれだ、火~金曜さんが総攻撃で来襲してくれればいいと思うよ、うん。
あと、文はたはマジで流行ってくれ。
あ、今気づいたけど明日月曜日じゃん!やだー!
学生的には、平日よりもテストのが怖いです。
顕界は週休4日制になったって事ですね!
・・・なって欲しいのぜ
文はたは流行っていいな
以外 → 意外
永遠亭のところです。
月曜日やだー!
嫌なことを思い出したので心情的に最低点だぜい!!!
いや、非常に楽しませて頂きましたけどね!
土曜と日曜は既に幻想入りしていたんだよ! とか言われたら泣いちゃうもんね!
「里の役場」の方がいい気がします。
それに月曜まであと一時間切ってるし!やだー!
平日でもまったりのんびりできる博麗神社の面々ウラヤマシス
的な何かが来ると思ったがそんなことはなかった
蓮子「ちゅっちゅできないじゃん」
……って、もう月曜日じゃないですか、やだー!
となると、だ。外の世界にいる俺たちは毎日が日曜日状態に…!?
引越しの挨拶 が正しいかと
引越祝いは、引越ししていくひとに贈るものですので…
農家って言うんですけどね、休みがなければ休みが終わることを怖がることはない
だからここ半年の俺には休みがないのか。
昨日読んでいたら間違いなく逆の評価を送っていたがw
月曜日も来てみればなんとかなるものだし1日くらいは我慢出来る。
そう、もう月曜は終わる……だが……
火曜が来るよう!!怖いよう!!
……次の休みはいつだろう
就職にありつけなかった人や、突貫平常運転の人から見れば月曜日ごときで騒ぐなって感じだし
映姫「…(ニッコリ)」
小町「きゃん」
はっ、だから命蓮寺の面々はこの場にいなかったのか!
アハハ☆ひゃー☆
文はたもっと流行れ
やつには、明日は休みだという、
「希望」が、「無限の可能性」がある。
発想がおもしろかったですw
っていうのは無粋ですよね
家ではMのお姉ちゃんは何時になったら見られるんでしょうね…?
そー…なの…かぁーorz