Coolier - 新生・東方創想話

PHANTOM VOICE SHOWER

2010/06/06 05:08:36
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”らららら~、らら~、たららったららら~♪”


若干のエコーがかかった、陽気な歌声が聴こえる。廊下の向こうから。
少しだけ開いた廊下へ続くドアの隙間を掻い潜り、リビングまで到達するそのご機嫌な声。
可愛らしく、若干調子っ外れな所為かどこか幼げな印象を残すその歌声は、ソファに座って調弦作業をしていたルナサ・プリズムリバーの笑いを先程から誘って止まない。

「あははは、姉さんゴキゲンだねぇ。でもいつまでお風呂入ってるんだろ」

堪えるルナサとは対照的に、妹のリリカ・プリズムリバーは笑いを隠そうともしない。少し困った表情をブレンドしてはいるが。
となれば、今まさに浴室で姉妹の耳も憚らずワンマンライブを行っているのは、真ん中のメルラン・プリズムリバーに他ならない。
時刻は夜、八時を回った辺りか。次のライブ予定も大分遠く、ライブ前の忙しさとバランスを取るかの如くやる事の無い三姉妹。
休日を満喫する仲良し姉妹の日常風景という奴である。


”たららったららら~、たららたららたらた~♪”


メルランの少しだけ音程の外れた”幽霊楽団”は尚も聴こえて来る。
終わりの見えないソロライブに、業を煮やしたらしいリリカは自分のバスタオルを引っ掴むとドアを開けた。

「ごるぁ~!いつまでお風呂入ってんじゃ~!私だって入りたいんだから!」

「らら~……ああんもう、いいとこだったのに」

どすどすと足音を立てて浴室へ向かうリリカ。メルランは途中で歌が中断されたのが不服らしい。
ルナサは弦を繰る手元を休め、耳をそばだてる。ガチャ、と浴室のドアが開く音が聞こえた。
それに被せるかの如く、妹二人の言い争い。

「早く出てよ、もう!姉さんのボーカルは聞き飽きたよ!ちょっと音程外れてるし!」

「きゃ~、急に開けないでよもう!リリカのえっち~!」

きゃいきゃいと仲良くケンカする二人の声は、リビングで聞くルナサに何故か安らぎをもたらしてくれる。
いつも通りの日常がいかに素敵かを教えてくれる、言わば平和な証拠。
やがて一旦騒ぎが止んだかと思えば、ばさばさと布の音。どうやら、リリカは服を脱いでいるらしい。
再び浴室のドアが開く。

「こ~なったら、私もそのまま入る!姉さんばっかにお風呂は占領させないもん!」

「ちょ、ちょっとリリ……きゃ!」

ざばーん。まるで岸壁に打ち付ける波音のよう。

「ちょっとリリカ、狭いよ~!いきなり飛び込まないで!」

「狭いのは姉さんのせいでしょ!無駄にあちこちおっきくしちゃって!」

ざぶざぶ、と豪快な効果音を伴い、ますます白熱するメルラン達の熱湯コマーシャル。
自分が入る時、浴槽にお湯は残っているのだろうか――― ルナサの胸中を、一抹の不安が過ぎる。
少しは叱っておかねばと、彼女は立ち上がると廊下へ向けて声を張った。

「ちょっと!お湯に入るのは身体を洗ってからにしなさい!」

―――突っ込み所はそちらなのか。
やがてケンカの声も止み、代わりに笑い声が聞こえてくる。とても楽しそうだ。
私も一緒に入れてくれ、と言い出せない己の性格をもどかしく思う内、狂ってしまった彼女の手元からびょいん、と弦が跳ねた。











翌朝。
朝食後、ぐでーっとソファで溶けているリリカの背中に、どかっとメルランが腰を下ろす。

「うぎゅ」

くぐもった声が聞こえた。メルランはそのまま背を逸らすように大きく伸び。ふあ~ぁ、とあくびが漏れた。

「にゃがぁ~、さっき飲んだカフェオレが出ちゃうからやめてぇ」

リリカが間延びした悲鳴を上げる。くすくすと笑って、ようやくメルランは彼女の背から退いた。

「暇なんだもの、リリカを椅子にでもしないとやってられないわ」

「話の前後の繋がりがまるでないよ、姉さん」

はぁ、とため息。そこへルナサがやって来て、二人の様子を見てから肩を竦める。

「する事が無いなら、外でも出てみたらどうかしら。楽器の練習するとか、新しい曲のヒントを探すとか、きっと有意義なはずよ。
 少なくとも、リリカにのしをするよりは」

「アイロンかけられたって、もうへこむ部分なんてないも~んだ……うぅ」

その発言を受けて、リリカが頬を膨らませる。かと思えばがっくりと肩を落として再びソファに突っ伏した。
一方のメルランは人差し指を唇に当てて二秒、三秒と思案、その果てに元気良く頷いてみせる。

「そだね。ちょっとそこらへん散歩してくるよ」

言ってから彼女は廊下へ。一分も経たぬ内に居間へ帰って来た彼女の手には、当然の如く愛用のトランペットケース。
そのまま彼女は玄関へ向かう。

「じゃ、行ってきま~す」

「気をつけるのよ」

「おみやげよろしく~」

手を振るルナサと、ソファに突っ伏したまま、ひょい、と片手を上げるリリカ。
そんな二人の様子に笑顔を返してみせ、メルランは外へ出た。







少し前まで寒さすら感じたのに、気付けばすっかり春の陽気。ぽかぽかと心地良い日差しに、思わずメルランは目を細める。
再び出そうになったあくびを堪え、背伸びをするようにぐいっ、と身体を上へ持ち上げる。すると、ふわりと宙に浮く彼女の身体。

(どこまで行こうかな?)

ケースを落としてしまわぬようきちんと持ち直し、メルランはスピードを上げて空を駆け出した。
少しは霧の薄くなった湖を越え、緑が眩しい丘へ。少し遠くに、真っ赤なお屋敷も見える。
里まで降りていってゲリラソロライブも悪くない。だが、一人で気ままにトランペットを吹き散らすのもいい。
贅沢な悩みに心弾ませ、メルランは丘を下る。自然と鼻歌など歌い始めてみたりして、彼女のテンションもうなぎ上りだ。
いつの間にかその場でケースを開けようとしていた彼女だったが、すぐにはっとした表情を浮かべる。それから一人、ばつの悪そうな顔。
今すぐトランペットを吹き鳴らし、ここいら一体をハイテンションの渦にしてしまいたい衝動を抑え込み、メルランは息をつく。
躁の権化とも言える彼女の事だ、すぐにテンションが上がってしまうのは致し方無い事でもある。

(いけない、また悪い癖が……ちょっと休もうっと)

うららかな陽気に浮かれて少しテンションが上がり過ぎた、と反省した。どこか、腰を落ち着けて休めるような場所は無いだろうか。
きょろり、と辺りを見渡すメルランの目に、ふと飛び込んできた深緑のカタマリ。
森の入り口。沢山の木々が立ち並ぶその場所を目指し、先程よりも遅いスピードでふよふよと彼女は飛び始める。
少し森の中へ入り、適当に木を見繕う。これだけの数があるのだ、すぐ丁度良い高さに丈夫そうな枝の伸びた木を見つけた。
よいしょ、とその枝に腰を下ろす。途切れた木々の隙間から、遠くに陽光を反射してキラキラと輝く湖が見えた。
吹き抜ける風が、いかにも森の中にいますと言わんばかりの木の香りを運んでくる。
ぶらぶらと足を振りながら景色を楽しむ内、メルランの胸中に再び湧き上がる高揚感。
先より激しいものでは無いが、胸に秘めたその高いテンションを思いっきり放出したい衝動に駆られた。

(……誰もいないし、いいよね?)

メルランは森の空気を胸いっぱいに吸い込んで、


”ららら、た~ら~らら~、ら~ら~らら~♪”


昨日のように、歌い始めた。何となく、静かな森の空気にはトランペットよりも歌声の方が合いそうな気がしたからだ。
少し音程の外れたメルランのアカペラ”幽霊樂団”は、静かな森の奥の奥まで響き渡ってゆく。
全ての木々を観客にしたかのような気持ちで歌う内、メルランの歌声にも力が篭る。さらに声が大きくなった。


”たららら~、らら~、らららららら~♪ららら―――”



「―――うるさぁぁぁぁぁい!!!」



「らら……きゃあ!」



だが、エキサイトしてきた矢先に頭上から降って来た大声で、彼女のワンマンライブはまたも中止と相成ってしまった。
声の正体を突き止めようと、きょろろと辺りを見渡すメルラン。しかし、その必要は無かった。
がさり、と頭上の木の葉のカタマリから、逆さまになった小さな頭がにょっきりと生えてきたのだ。

「さっきからうるさいよ!気持ちよく寝てたのにぃ!」

ぽとり、と何か軽い物が落ちてきた感触を太ももに受け、メルランは一旦視線を落とす。翼のような飾りをあしらった、帽子のようだ。
それを手に取り、もう一度顔を上げる。目の前で逆さまになっている人物の頭から落ちた物である事は間違い無い。
赤みがかった紫のショートヘアを逆さにぶら下げたその少女は、手を伸ばして帽子を取り返そうとする。
だが、どうやって身体を支えていたのかは知らないがバランスを崩したらしく、

「あっ、落ち……きゃああ!」

「うわお!」

どさり。メルランは再び、太ももの辺りでその小柄な身体を受け止める羽目に。

「大丈夫?はい、帽子」

メルランの膝で軽く目を回している少女に帽子を差し出すと、

「あう~……あ、ありがと」

彼女はそれを受け取って被ると、背に生やした有機質の羽を羽ばたかせてくるりと一回転、メルランの横に座った。

「……じゃなくって!ヒトが寝てるのに大声で歌われたらかなわないよ!しかも何だか音程ヘンみたいだし!」

「ん~、ごめんね。まさか誰かがいるなんて思わなくって」

お冠な様子の少女は早口で捲くし立てる。羽がある時点で”ヒト”では無さそうだが、メルランは軽く頭を下げて陳謝。
するとその時、今まで怒っていた少女は彼女の顔をじろじろと無遠慮に眺め始める。

「……あれ、あなたどっかで……」

「ああ。そのさ、プリズムリバー楽団って知ってるかな」

「そうそう、それ!思い出した!あれだよね、真ん中でトランペット吹いてる!
 私も時々聴きに行ってるよ、こっそりだけど。おんなじ音楽家として、あの演奏は見逃せないからね」

さっき鳴いてたカラスがなんとやら、という慣用句では無いが、ころりと笑顔になって嬉しそうにぱたぱたとぶら下げた足を振る。
鳥を思わせる羽を持ったその少女にはぴったりかも知れない。そんな彼女は両手の人差し指をこめかみに当てて悩み顔。

「えっと、なんて名前だっけ。メ、メ……メラゾーマ?じゃなくって」

「そんな強そうな名前じゃないよ……メルラン。メルラン・プリズムリバー。よろしくね」

随分と熱そうな名前である。まあ確かにある意味熱い騒霊ではあるが。
苦笑いのメルランが自己紹介。それから差し出された右手を少女も握る。

「そうだっけ、ごめんごめん。私はミスティア・ローレライだよ。可憐なる夜雀」

少女―――ミスティアもまた自己紹介。自分で可憐とか言っちゃっているが、メルランは笑顔で頷いている。
それからメルランは、思い出したように口を開いた。

「そう言えばさ、さっき『同じ音楽家』って言ってたけど……」

「よくぞ訊いてくれました!私の専門分野は歌なの……結構自信あるんだから。
 人は私の事を”真夜中のコーラスマスター”って呼ぶのよ?すごいでしょ」

ミスティアはえっへん、と胸を張る。自信たっぷりな様子の彼女に、メルランはニヤニヤと笑って意地悪っぽく尋ねた。

「……ホントにぃ?」

「あっ、信用してない!あなたよりは絶対うまい!ちょっと聴いてなさい!」

頬を膨らませたかと思うと、ミスティアもまた先のメルランのように息を大きく吸い込む。
口を開き、彼女は歌い出した。
最初は小さく、そして段々と大きく。ピッチの高いその澄んだ歌声は、隣に座るメルランの耳に突き刺さるように届く。
正午にもならない時間の森を、静かで、どこか熱いメロディが包み込む。

(……すごい……)

単純に、そう思った。メルランと同じく、彼女はアカペラで歌っている。知らない曲なのに、その歌声はメルランの頭に直接語りかけるよう。
―――真夜中。暗い森。木々の間を縫うように飛び回る夜雀。一度口を開けば妖しい旋律が紡がれ、聴いた者を惑わせる―――。
そんなビジョンまではっきりと見えた。気付けばミスティアの歌声はかなり大きくなり、歌は一層の盛り上がりを見せる。
細かな拍やビブラート、スタッカートのような局所的な強弱まではっきりとつけるその歌声は、メルランにとって楽器のようだった。
ただ口から旋律を声にする―――それだけでは決して無い。”何か”が篭っている、と確かに感じ取れた。
段々と、その歌声がメルランの耳から薄れていく。どうやら歌い終えたようだ。どれくらいミスティアが歌っていたのか、彼女には分からなかった。
ただはっきりと、その素敵な歌声に酔いしれる自分がいる事だけは分かる。

「……ど~う?」

ふふん、と得意気なミスティア。メルランは口をぽかんと開けた表情のまま、その顔を見つめるばかり。
だが、ふっと我に返るとぱちぱちと手を叩く。

「すごいすごい!なんか聴いてる内に真っ暗な森とか、木の間を飛ぶ妖怪とか、色々見えたよ!」

「そうそう、声一つでこれだけの世界を展開することもできちゃうんだ。文句なしに私の勝ち!」

ますます得意気になり、鳩胸と言って差し支えないくらいに胸を張るミスティア。
しかし、こうまで言われてはメルランとて黙っていられる筈も無く、

「よぅし、じゃあお礼も兼ねて今度は私がやるね!」

言うなりトランペットを素早く取り出す。
ケースを開けて楽器を取り出し、マウスピースをセットする―――これだけの作業をほぼ一瞬と言える位に短い時間でやってのけた手際の良さに、今度はミスティアの方が目を丸くしている。
二度、三度と息を吹き込み、それから軽く音出し。問題は無さそうだ。
メルランは息を大きく吸い、メラメラ燃え滾る対抗心を全て叩きつけるかの如くに息を吹き込んだ。
瞬間、自分達が座っている木をも倒壊せしめんとするくらいのサウンドウェーブ。
ミスティアの歌が”静”なら、メルランの演奏は”動”。彼女の十八番”幽霊楽団”のメインフレーズが、森に立ち並ぶ木々をぐらぐらと揺さぶっていく。
熱暴走したかのような熱く激しいトランペットの旋律は、森の奥深くまで染み入って消えゆく暇も無く再び鳴り響き、絶え間無くミスティアの耳を叩く。
メインフレーズからサビを一回吹いただけだったので、ミスティアの歌に比べればその演奏時間は短い。
だが、それでも十分過ぎるぐらいのパワーを感じ取ったらしく、流石のコーラスマスターも驚きを隠せない様子であった。

「……すごぉい……」

ぽつり、とそれだけ呟き、ミスティアは嘆息。ハッピーミュージックのエキスパートたるメルランの生演奏は、彼女の心にも大きな余韻を残したようだ。

「へへ~。引き分けだね」

メルランも満足気に頷き、トランペットをちゃっちゃとばらす。
楽器をケースへしまい終えた彼女は、隣に座るミスティアの顔をちら、と見て口を開いた。

「あのさ、ちょっと訊きたいんだけど……」

「なぁに?」

小首をちょいと傾げて尋ね返す彼女に、メルランは少し恥ずかしそうに続けた。

「……私って、もしかして音痴なのかな?」

「え」

ちょんちょん、と人差し指の先を突き合わせながらの質問に、ミスティアは一瞬返答に詰まってしまう。

「ほら、さっき『音程外れてる』って言ってたし……それに昨日、リリカ……うちの妹にも言われたんだ、同じこと」

「あ、えっと、それは……」

はっきりとは言いにくい。確かに程度の差はあれど”音痴”と言えるかも知れない。
メルランはプロの音楽家であるからちゃんとした音感はあるのだろうが、”歌”としてアウトプットする事に慣れてないのだろう、とミスティアは分析していた。
返って来ない返答を肯定と受け取り、やがて恥ずかしげに顔を伏せてしまったメルラン。それを見た彼女は、大慌てでフォローの言葉を探した。
その時、ぴかりと閃く。

「ね、ねぇ!」

やや興奮した口調でミスティアは言った。

「だったらさ、私が……私が、歌い方を教えてあげる!一緒に頑張ろうよ!ね?」

「……えっ?教えてくれる、って……」

戸惑うメルランに、ミスティアは押し切るかのように身を乗り出す。

「私と一緒に、歌う練習しようよ!あなたは音感あるんだし、絶対上手くなるって!」

力説する彼女の様子に、メルランの心の奥底に何かが灯った気がした。
どうせ歌うなら、楽しく上手に歌いたい。姉や妹を驚かせてみたい。目の前にいるのは正真正銘のコーラスマスター、先生にも打ってつけだ。
何より、さっき出会ったばかりの自分にそこまで言ってくれているのだから、断る道理などどこにも無い訳であって、

「……う、うん!よろしく!私頑張るよ!」

いつもの笑顔に戻って、ミスティアの手をとるメルランの姿がそこにはあった。

「よ~し、私も一生懸命教えるからね!ちゃんとついて来てよ!」

嬉しそうにメルランの手をぶんぶんと上下に振った後、ミスティアは森の外をびしっと指差す。

「この幻想郷中に、その美声を轟かせるのよ!」

「おー!」

メルランも拳を振り上げる。彼女の喉は大きな声を出すのには向いており、それは歌にも応用可能だ。
練習を積めば、きっと素敵なコーラスを響かせる事が出来るだろう。ミスティアは半ば確信していた。
ひっそりと”夜雀が教える、歌う騒霊プロジェクト”が幕を開けた瞬間である。









その日の午後から、早速二人の練習が始まった。
場所は先程と変わらぬ森の入り口付近、涼しい木陰に立って二人は向かい合う。

「ん~、じゃあまずは……正しい音階を出せるようにしよっか」

「よろしくお願いします、師匠!」

メルランは元気良く返事を返す。面と向かって”師匠”などと呼ばれるのが気恥ずかしく、ミスティアは少し頬を染めた。
ぺちぺちと頬を叩いて冷まし、彼女は続ける。

「とりあえず、私の後に続いて声を出してみてね」

「音階は?」

「普通にCメジャーで」

「は~い」

メルランの準備が出来たのを確認し、ミスティアは息を軽く吸って”ド”の音程を発する。

「あ~」

「あ、あ~」

続けてメルランも真似するように声を出すが、若干低いようだ。

「んと、ちょっと低いかな。もう少しだけ高くしてみて。あ~」

「あ~」

「そうそう、いい感じ。じゃあもう一度やってみようか」

満足気に頷き、ミスティアは再び歌うように声を張った。

「あ~」

「あ~」

「オッケー!じゃあ、そのまま次の音階ね」

今度はピッタリだった。流石は音楽家、飲み込みは早いようだ。

「あ~」

「あ~」

「少し高いかなぁ。もちょっと喉を押さえる感じで……あ~」

「あ、あぁ~」

今度は中々揃わず、苦戦模様。

「う~ん、今度は低いや。もっかい……あ~」

ぷぺー。

「う~ん、完璧……ってそれトランペット!意味ないよ!」

「あはは、こっちなら自信あるんだけど」

いつの間にやらトランペットを構えていたメルランに、ミスティアは驚き半分苦笑い半分。

「さ、もっかい!あ~」

「あ~」

「うん、今の良かった!じゃ、ドとレを続けて」

「よっしゃ!」

「あ~、あ~」

「あ~、あ~」

ミスティアの歌声に、メルランの声が重なる。音程はきちんと合っていた。
結局、基本となるC音階は比較的短時間でマスターしたものの、その後細かな半音が絡むと難易度も上がり、メルランは苦戦する事となる。
Dメジャー音階(通常の音階で言う”レ”を基準とした音階)をマスターする寸前くらいで日が暮れてしまった。









『明日もやろうね、待ってるよ!』との言葉を受け、メルランは翌日も森の入り口へ。
約束の時間よりも二十分は早かったが、ミスティアの姿がもうそこにあった。

「ちゃんと来たね、えらいぞ~」

彼女はそう言って胸を張る。メルランも笑顔を返した。

「そりゃあ、私が教えてもらってる立場なんだからさ……今日もよろしくね」

「よぉし!じゃあ早速、昨日最後までできなかったDメジャーから……」

ミスティアが張り切った様子で指示を出しつつお手本を見せ、メルランがそれに倣う。
ひたすらその繰り返しで数時間が経過し、基本的な音階は大方覚えてきた。
『色んな曲を歌うんだから、色んな音階を知ってないとね』とはミスティアの弁で、メルランの音階練習はマイナーコード(短調)へと突入していた。

「ら~」

「ら~」

「ん、少し低いかな……そこまで重くしなくていいよ」

「ら~」

「お、いい感じ!じゃあ一緒にやってみよっか。せ~の、」

『ら~♪』

「いいよいいよ!かなり慣れてきたね」

「わぁ、今のすごく気持ちよかった!まさに合唱って感じで!」

綺麗に二人の声が重なり、ミスティアは思わずぱちぱちと手を叩く。
メルランも嬉しそうに笑っていた、その時。

「あっ、みすちーだ。なにしてんの~?」

がさり、と音がしたかと思えば声がかかる。二人が振り返って見やれば、木と木の間に氷精チルノの姿。

「チルノちゃ~ん……はぁ、やっと追いついた」

さらにその後ろからひょっこりと大妖精の顔も現れる。

「どうしたの、二人揃って」

「向こうで遊んでたら、歌みたいなのが聴こえてきたから、なんだろうって」

ミスティアが尋ねると、大妖精はそう答えてメルランの顔を見る。
彼女が何か言う前に、メルランが口を開いた。

「今日はトランペットはお休み。ミスティアが先生になってくれて、歌の練習をしてるの」

「へぇ……何だか新鮮だなぁ」

「何か歌えるの?ねぇ、ねぇ」

頷く大妖精と、興味津々といった体でメルランに寄るチルノ。
すると彼女は少し困った顔をする。

「う~ん、まだ練習始めたばっかで……ちょっと難しいかな。ごめんね」

「そっかぁ、ざんねん」

「大丈夫、今にすごい歌い手になるよ!私が保証する!」

言葉通り残念そうなチルノを見て、ミスティアがぽん、とメルランの肩を叩く。
それから二人に向き直って笑顔を向ける。

「そしたら、二人にも聞かせてあげるから。私の生徒の歌声、期待しててね!」

「うん!」

「邪魔しちゃ悪いし、もう行こうか。それじゃあ、頑張ってね!」

大妖精の言葉で括り、二人は湖の方へと去っていった。
その後姿が見えなくなるまで見送り、メルランは再びミスティアと向かい合う。

「いつか上手くなったら、あの子たちにも聞かせたいな」

「きっとできるよ。じゃ、さっきの続き!」

彼女の号令で、メルランは軽く咳払いして喉の調子を確かめる。問題無し。
この日一日をやはり音階練習に費やし、彼女の喉も大分歌う事に慣れてきたようだ。









それからも毎日のように練習を重ねるメルラン。
ミスティアの組んだ練習プログラムが良いお陰か、喉にあまり負担をかける事も無く。
気付けば、当初の音痴とも言える音程外れは大分改善されていた。

「じゃあ、締めくくりってことで……Cメジャーを一通り、出してみて」

「う、うん」

カラスの鳴く夕暮れ時。
差し込む陽光で顔をオレンジ色に染め上げたミスティアの言葉に、メルランは若干緊張の色を見せた。
お手本無しできちんとした音程を歌い上げる事が出来れば、かなりの進歩だ。
一度大きく深呼吸。まるで大勢の観客を前にライブを行うような緊張感の中、メルランの口が開く。

「ら~、ら~、ら~、ら~、ら~、ら~、ら~、ら~」

飾り気も何もあったものでは無い、純粋なCメジャースケール。
吟味するように目を閉じてそれを聴いていたミスティアは、目を開くとにっこり笑ってサムズアップ。

「おっけー、完璧!おめでとう!」

「ホントに!?ありがとう、ミスティアのおかげだよ!」

互いに手を取り、喜びに沸く二人。努力が実を結ぶ瞬間というのは、当人は勿論だが傍で見ていた者にとってもこの上無い達成感をもたらすものだ。
ひとしきり喜びを分かち合った後、先に口を開いたのはミスティアの方。

「……でさ、どうする?まだ基本とは言っても、もう音程の面は改善されたと言っていいし……」

彼女が何を言いたいかは分かった。だからこそ、メルランはそれを言い終わる前に口を挟む。

「もっと!もっと上手く歌えるようになりたい!」

思わず身を乗り出すメルランの様子に、彼女は尚も笑顔を崩さない。

「言うと思った。もちろんいいよ……っていうか、よっぽど嫌なんじゃなきゃ無理矢理でも教えるよ。
 ここまではまだ、基本中の基本。歌を上手く歌うための最低限の部分だからね」

ちっちっち、と指を振るミスティアは、心の底から楽しそうだ。
彼女はどうやら、初めて”先生”という立場になった事が大層誇りだったよう。
いくら歌が上手くても、人からは恐れられる類の妖怪であるから、誰かにその歌声を伝授する機会は無かった。

「そーいうワケで、明日からはもっと色んなこと教えるからね。これからが楽しくなる所なんだから、期待して待ちなさ~い!」

「は~い、ありがとうございました!」

「じゃ、また明日!」

ミスティアの言葉にメルランが礼を返し、この日の練習は終了した。
彼女がそのまま森の中へ飛び去っていくのを見送り、メルランも踵を返す。
ふわりふわりと暫しの空中散歩を経て、見慣れた屋敷の前へ降り立つ。その頃には、もう空の端に紫紺色が染み始めていた。

「今日も一日頑張ったなぁ、っと」

一人ごちて、メルランは大きく伸び。身体を戻すと同時に、はぁ、と息をつく。
伸ばした手を軽く振りながら、彼女は玄関のドアを開ける。

「ただいまぁ!」

「おかえりぃ~」

奥の方から間延びした声。エントランスを抜けてリビングへ行くと、ソファからリリカの腕がにょきにょき。
少しして引っ込んだかと思えば、代わりに彼女の顔がひょこりと出てくる。

「最近よく出かけるね。何か収穫はあった?」

「うん、色々とね。それについてはまたその内話すよ……姉さんは?」

「ごはん作ってる」

予想は付いていたが訊いてみた。先程から何ともいい香りが台所から漂ってくる。
腹式呼吸を繰り返した事が影響しているかは定かでは無いが、練習の後はどうにも空腹だ。
その前に、とメルランは再びリリカに尋ねる。

「じゃあ、先にお風呂入ってもいいかな」

「ん~、いいよ。でも明日は私が一番風呂ね。あと、あんまり長く入ってるとごはん冷めちゃうかも」

「はいよ~」

歌うように返事を返し、メルランは廊下へ。
自室からバスタオルと着替えのパジャマを引っ張り出し、そのまま鼻歌交じりに浴室へ向かった。
一方、ソファでごろりと転げたままのリリカは、廊下の向こうから聞こえてくる水音をぼんやり聞いていた。
暇を持て余した末に、つまみ食いでもしてやろうかとソファから立ち上がる。すると、


”たらら、ら~ら~らら~、ら~ら~らら~♪”


水音の代わりにメルランのあの歌声が聞こえてきたので、ずるっとこけそうになって何とか体勢を立て直す。
そこへエプロンをしたままのルナサもやって来て、苦笑い。

「また始まったのね。歌うのはいい事だけど、もうそろそろこっちも出来るから」

「一度スイッチが入ると長いからなぁ……あれ?」

一緒になって呆れ顔を浮かべようとしたリリカだったが、ぴくりと耳が反応した。

(……なんか、前よりも音程のズレがマシになってるような……)

どうにも気のせいには思えず、隣のルナサに目配せ。
すると、彼女も少し感心したように頬に手を当てて頷いている。

「あら、ちょっと歌上手くなったんじゃない?あの子」

「う~ん」

首を傾げるリリカ。
その間もメルランの歌声は途切れる事無く聞こえてきて、丁度サビに入った所であった。









その翌日も、午後からメルランはすっかり馴染みの場所となった森の入り口へ。
既に来ていたミスティアと暫しの会話を交わした後、練習に入る。

「んじゃ、今日はビブラートのかけ方からやろっか」

「これも、楽器でやるのは自信あるんだけど」

本日の練習内容が提示されると、メルランはそう言って苦笑い。
楽器でもそうだが、ビブラートはかける事自体は容易でも、それを演奏や歌唱の魅力へと繋げるのは難しい。
一口にビブラートと言っても波の細かさや長さは曲によって異なる上、同じ波長を長く響かせるのはそれだけでかなりの練習を要する。
さらに、メルランは曲調や雰囲気に合わせたビブラートのかけ方も教わるつもりでいたので、やはり苦戦する事となった。

「む~、難しい」

「そりゃあ、歌の美しさを決める重要なファクターだもの。そう簡単に習得されたら私の立場がないよ」

休憩中、木陰に座って息をつくメルランに、今度はミスティアが苦笑いを浮かべた。

「楽器の応用が利いてそんなに難しくはないって思ったのになぁ。あぁ、現実はビターチョコレート」

「でも、思ってたよりずっと上達は早いから、元気出して。カカオまるかじりするほど苦くはなさそうだよ」

メルランの言葉に合わせて励ますミスティア。言われた当のメルランも『あれって原料から苦いのかなぁ』などと言いつつ元気に立ち上がる。

「よ~し、もういっちょやってみるかぁ」

「そうそう。今はビターでも、ミルクチョコレートのような甘い歌声を目指すの!」

ミスティアも笑顔で頷き返し、二人の練習は続く。
この日一日では足らず、次の日も、その次の日も。

「あ~~~ーー~~ー~~ー~ー」

「ん~、前よりいいけどまだ不安定だなぁ。もう少しゆるくしてみる?」

そのまた次の日も、次の日も。

「あ~~~~~~~ー~~~ー~~~」

「おっ、細かいのも大分まとまってきた。上手いよ、もう少し!」

さらに次の日も―――。

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~」

「今の合格!すごく良かった!」

その日の練習を始めて数時間。昼下がりの森に、メルランの歌声に合わせるようなミスティアの歓喜の声が響く。

「や、やったぁ……長かった……」

「おめでとう!こんな感じでいつでも、曲に合わせた波で出せるようになれば完璧だよ!」

「まだ最初の一歩なんだね……頑張らないと」

彼女の言葉に、額の汗を手の甲で拭ってメルランは息をつく。
そんな折であった。

「よう、何してんだ?随分と騒がしそうなコンビだなぁ」

上空から声がかかった。ややソプラノなこの声質。見上げる前に、二人にはその正体が分かった。
というか、相手の方からすぐに降りて来たので見上げる必要も無く。
声の主・霧雨魔理沙はひらりと箒から飛び降りて、二人の前に着地。二人の顔を交互に見やって、物珍しそうな顔をする。

「なんだなんだ、お前らが一緒にいるのは初めて見たよ。共通項はかしましさわがし、ってトコか」

「魔理沙はどうしてまた?」

メルランが尋ねると、彼女は帽子を脱いでそれで顔を扇ぎながら笑う。

「ん、ちょっと暇つぶしに空中散歩してたら、なんか声が聴こえてきたんで、何かなって。
 見たところ、歌ってたのはそっちのようだけど……トランペットはやめちゃったのか?」

「管楽器は私の魂だよ、やめるワケないって……えっと、どこから説明しようかな」

先日ふらりとやって来た妖精二人と同じような事を言う彼女に、メルランは手をひらひらと振ってから説明開始。
ミスティアが時折補足を加えつつ、歌が上手くなりたくてミスティアの下へ練習に通っている事を伝える。

「へぇ、いいじゃないか。何か歌えるのか?」

その後の質問まで妖精組と同じで、メルランはまたしても困った顔。

「まだ練習中だから、自信ないなぁ」

「そっか……や、そんなつもりじゃ。悪かった」

ばつの悪そうな顔をしてしまう魔理沙に、メルランはフォローするような笑顔を向けた。

「いいんだよ、そんなの。それより、いつか上手に歌えるようになったら聴いてくれる?」

「ああ、いいよ。楽器演奏を生業とするはずの騒霊の歌声……是非、聴かせてもらいたいもんだ」

ようやくこちらも笑顔を取り戻した魔理沙。そんな彼女にミスティアがずずいと詰め寄る。

「じゃ、代わりに私の美しい歌声を……」

「あ~、そっちはいいや。毎晩のように森の奥で歌ってるだろ?聴き飽きた」

「……ぶ~」

しかし両手の平を向られて拒まれ、唇を尖らせて不満の声を漏らすのであった。
かと思えばいじけたように屈み込んで、地面に”うなぎ”と書き殴り始める。



「あなた、変わりは、ないで~すか~……ひごと、暑さが~つのり~ます~……♪
 聴いてはもらえぬ~こもり~うた~……なみだこらぁ~えて~……うたいぃます~……♪」



「だぁぁ、そんな落ち込むな!今度聴いてやるから!」

その余りに弱々しい歌声に、今度は魔理沙がフォロー。何とも忙しい会話である。









「ビブラートについては、これからの練習の時も意識してれば段々と身に付くよ」

次の日の練習前、そう言ってミスティアは笑った。

「さあ、こっからが本番!いよいよ、ちゃんとしたメロディを歌い上げるよ!」

「少しは、上手くなったかなぁ……」

思わず身構え、緊張の面持ちなメルラン。

「ほらほら、そんな顔しないで。リラックス、リラックス……歌は楽しくなくちゃ、ね?」

師匠の言葉に、メルランの表情も若干和らぐ。

「よろし。じゃ、練習に入ろうか。そうだなぁ……」

下唇に指を当て、ミスティアは暫しの思案。やがてポンと手を打つ。

「それじゃあね、私がメロディを歌うから、その後でそれに合わせて歌ってみて。最初の音階練習の応用だよ」

「う、うん」

練習とは言え、本格的な”歌う”という行為とあって、まだ緊張を拭い切れないメルランの返事は少し固い。
仕方ないか、という意味を含んだ苦笑いを少しだけ浮かべて、ミスティアは軽く咳払い。
それから息を吸い込んだ。


「ぱぱら~ら~らっ、ぱら~らったった~、らら~らったった~ららら~ら~らら~♪―――」


明るくリズミカルな旋律が、彼女の口から流れ出す。

(やっぱり上手いなぁ……)

その歌声に聴き入る内、自然とテンションが高まっていくのを感じながらメルランは一人感心。いつの間にか緊張も吹き飛んでいた。
歌っていたのはほんの十五秒程度。歌い終えたミスティアがふぅ、と息をつくと、メルランは思わず拍手。

「もう、恥ずかしいって。さ、次はあなたの番」

少し照れながらも、彼女はメルランに歌うよう促す。
頷き、メルランもまた息を吸い込んだ。


「ぱぱら~ら~らっ、ぱら~らったった~、らら~らったった~ららら~ら~らら~♪―――」


ほぼ同様の旋律が、正午を過ぎた森の中へ流れ込んでいく。
同じメロディでも、ミスティアとはまた違った印象を受ける。それは、ミスティア自身も感じていた。
繊細さをやや欠く代わりに明るく力強い、そのメロディの楽しげな側面が強調されるかのような歌声だった。

「……どう、かな?」

歌い終えたメルランは、恐る恐るといった体で尋ねる。
すると、少しの間何の反応も示さなかったミスティアは、ふと我に返ると同じようにぱちぱちと手を叩いた。

「……うそぉ。あ、いや、なんていうか……ビブラートと低音が少し甘いことを除いたらほとんど合格なんだけど……」

「え、ホントに?」

思わぬ言葉に、メルランは嬉しそうに顔をほころばせる。
尚も拍手を贈っていたミスティアはようやく手を下ろした。かと思えば感嘆したようにため息。

「出し方がよく分からなかっただけで、それが分かっちゃえば後はもう大丈夫っていうか……センス、かな。
 たくさん歌って、もっと喉を慣らすことができれば、あっという間にすごい歌手になれるよ、きっと。すごいなぁ」

そこはやはり騒霊音楽家たるメルランのセンスか。明るさたっぷりのその歌声にもそれがにじみ出ていると言えるのだろう。
褒め殺しレベルの賞賛を受け、言われたメルランは顔を赤らめる。

「そ、そんなにすごくないって……あれだよ、教え方がいいんだよ!うん!」

ひとしきり謙遜した後、彼女は思い出したように質問をぶつけた。

「あ、そうだ。さっきミスティアが歌ってたのって、やっぱりオリジナル曲?すごく歌ってて楽しかったんだけど」

するとミスティアはちょっと得意そうに笑う。

「あれ?へへ、実は即興で作ったアドリブだよ。アドリブやスキャットには自信あるんだ」

「へぇ、すごい!私も楽器でならよくやるんだけどな、アドリブソロ」

「応用は出来ると思うよ。思いついた旋律を、楽器じゃなくて歌に乗せるだけだから……それが難しいのかも知れないけどさ。
 むしろ、こういうのはメルランの土俵かもね」

「でもまだまだ敵いそうにないな。というわけで、練習の続きお願い!」

「はいは~い、ちょっと待ってね」

メルランに急かされ、ミスティアは再び即興フレーズをひねり出す。
それに要した時間は僅か。すぐに、先程とは違った旋律が、森に響き渡る事となる。









「ただいま~!」

「お帰りなさい」

元気良く玄関ドアを開けて帰宅したメルランを、ルナサがいつも通りの落ち着いた声で迎える。

「今日のご飯は私だったね。すぐ作るから」

言いながらメルランは、リビングの椅子にかけてあったエプロンを身に着ける。
食事の支度は姉妹交代制、この日は彼女の担当だ。その為に、いつもよりも早めに練習を切り上げて帰って来た。

「出かけるのを勧めた手前で言いにくいんだけど、リリカが寂しそうにしてたわよ。たまには傍にいてあげて」

「そうなの?もう、甘えんぼさんだなぁ」

「ちょっとぉぉぉ!さ、さ、寂しくなんてないんだからぁ!!何ヘンなこと言ってるの!?」

思わず顔がほころぶ二人の会話に、遠くからリリカの慌てた大声が被さる。

「聞こえちゃったのね」

「いつの間にデビルイヤーを身につけたのかな」

くすりと最後に笑い合って、メルランは『リリカアローは超音波~♪』などと鼻歌を歌いながら台所へ。ルナサはそのままリビングへと戻った。
食材の入ったボックスを開け、中身を確かめる。チルノに貰った融けない氷が入っているので冷蔵効果もバッチリだ。
適当にひょいひょいと食材を取り出し、メニューを決めるとメルランは調理を始めた。

「もう、姉さんのバカー!」

「ごめんなさい、でも顔にはっきりと出てたから」

一方、リビングではすっかり紅潮した頬を膨らませて憤るリリカと、笑いを堪えながら陳謝するルナサの姿があった。
空腹も相まって虫の居所が悪いのか、未だぷりぷりと怒る彼女は、不意に勢い良くすっくと立ち上がる。

「こうなったら、うっぷん晴らしにつまみ食いしてやるぅ!」

「あ、ちょっと」

ルナサの制止も聞かず、リリカはそそくさと台所へ向かってしまった。

(……まだ、食べられるような物は出来てないと思うのだけれど)

一人肩を竦めるルナサであった。
そんな姉の心配をよそに台所へ侵入したリリカ。しかし、不意にその足を止めた。


”ぱぱら~ら~らっ、ぱら~らったった~♪”


(また歌ってる……)

リズミカルな包丁の音をまるでメトロノーム代わりにするかのような、メルランの陽気な歌声が聴こえて来たのである。
聴いた事の無い歌だった。だが、不思議と耳に心地良い。
しかもそれだけでは無かった。

(……あれ?私、なんで怒ってたんだっけ)

メルランの明るい歌声を聴く内にいつの間にか、彼女をつまみ食いへと駆り立てた、やり場の無い恥ずかしさは綺麗さっぱり消えてしまっていた。
その代わりに、ふつふつと沸きあがる不思議な多幸感。喜怒哀楽で言えば100%の”楽”。

(まあいっか。なんか楽しくなってきちゃった)

すっかりご機嫌になったリリカは、スキップしながらリビングへと戻っていく。
いい気分になる余り、彼女はメルランの歌が格段にレベルアップしている事の指摘すら忘れてしまっていた。









それから更なる練習を重ね、メルランの歌声にもかなりの余裕が出てきた。
そんなある日の夕刻。

「ごめん、明日は友達と遊ぶ約束があるからお休みでいい?」

「そりゃもちろん。むしろ、いつも付き合わせちゃって……こちらこそごめんね」

ミスティアの希望によって、その翌日の練習は休みと相成った。
そしてその翌日。メルランは午前中は以前ルナサに言われた通りリリカと一緒に過ごしていたのだが、

「私も姉さんを見習って、ちょっと外に出てみるね」

そう言ってリリカが出かけてしまったので、暇を持て余してしまった。
さらにルナサも買出しに行ってしまい、家に一人残される羽目に。

「……はぁ。どうしよっかなぁ」

ソファに寝転び、メルランは天井を見上げてため息。
体力が有り余っているのに何もしない、というのは活発なメルランにとって辛い事であり、

「……私も出かけよっと!」

がばっ、とソファから身を起こすのに、それほど時間はいらなかった。
家の戸締りをきちんとし、メルランは外へ。
どこへ行くかなんて決めてなかったが、自然と足は森の入り口へと向いていた。
当然ながらミスティアの姿は無い。

「あっ、楽器忘れちゃった」

あの時と同じ木の枝に腰掛けた所でメルランは気付く。
以前の彼女であれば取りに帰ったかも知れないが、今の彼女は楽器が無くとも素敵な旋律を響かせる事が出来る。

(久しぶりに、やってみようかな―――ワン、ツー……)

軽く喉を鳴らしてから、メルランは頭の中でカウントを取る。豊かな森の空気を肺の奥深くまで吸い込み―――


”ぱららった~ら~らら~、た~ら~らら~、ぱ~ら~らた~らららたらりら♪”


何とも明るく元気な”幽霊楽団”のイントロを歌い始めた。
あれからどれくらい経っただろうか。あの時だって歌うのは楽しかったが、今はその楽しさが何倍、何十倍にも膨らんでいる、そんな気がした。
自分が思った通りのメロディを、余す事無く歌に乗せて響かせる事が出来る。何て素晴らしいんだろう。
どうしても音が外れ気味だった最高音部も、今では余裕だ。むしろ一番気持ち良い部分でもある。
楽器を用いた実際の演奏のように強弱を付け、ビブラートをかけ、時にはこぶしを作ったりして歌に表情をつける。
サビまでのフルコーラスを一気に歌い終えたメルランは、間奏部を徐々に小さくしていき、フェードアウト。
ふぅ、と小さく息をついた所で突然、下からぱちぱちと拍手の音。
誰かがいるなんて思ってもみず。仰天したメルランはいつしかのミスティアよろしく枝から落っこちそうになり、慌てて体勢を立て直す。
再び落ちてしまわぬよう枝を握り、そっと下を覗き込む。プラチナブロンドの髪にカチューシャを付けた少女が、逆にこちらを見上げていた。

「素敵な歌ね」

人形師たるアリス・マーガトロイドはそう言って彼女の歌声を褒め称える。その間も拍手の手は休めない。
その歌を笑顔で褒められるのは初めてでは無いが、何度言われても慣れる事は無く、やはりメルランの顔は赤い。

「あ、ありがとう。まさか人がいるなんて思わなかったから驚いちゃった」

しっかりとお礼を述べつつ、メルランは地面へふわりと着地。

「まあ、私は森に住んでるから……ちょうど、家に帰る所だったの。
 ひょっとして、前に魔理沙が言ってた『騒がしい二人組が森でよく歌ってる』っていうのは……」

「多分私のこと……だと思う。もう一人はミスティアで、私が歌を教えてもらってる立場なんだけど……」

そんな感じに、メルランはアリスへ向けてもこれまでの経緯を説明する。
時折相槌を打ちつつ話を最後まで聞いてから、アリスはどこか羨ましそうにため息一つ。

「いいなぁ、森の木陰で小鳥と歌を歌うなんてロマンチックじゃない」

「そうなのかなぁ」

「そりゃあもう、全国の女の子が憧れるシチュエーションよ。小鳥と一緒にってのがポイントね」

いつの間にか彼女はうっとりと目を閉じ、手まで組んで乙女ちっくモード。メルランは思わず笑ってしまう。
ミスティアを小鳥に分類したのは正しいのかどうなのか。確かに雀ではあるが。

「あ、そうそう。歌を歌ってた理由は分かったのだけれど……」

ようやく乙女の世界から帰還したアリスは、思い出したようにメルランに尋ねた。

「最近、公演予定を聞かないわ。次はいつ?」

「そういえば」

最近は歌を歌ってばっかりで、しかもそれが楽しいもんだからすっかり次回のライブの事を忘れていた。
頭の中の日めくりを破かぬようぱららとめくり、どうにかライブ予定日を拾い出す。

「二週間後の日曜だよ。博麗神社でやるから、良かったら来てね」

「ええ、余程の事情がなければ。それじゃ、頑張ってね」

メルランに笑って手を振ると、腕の上海人形を抱え直して彼女は森の中へ歩を進めていった。
手を振り返しつつアリスの姿が見えなくなるまで見送った所で、メルランはふとミスティアの顔を思い浮かべる。

(これからは忙しくなるし、もう練習も最後かなぁ)

この日は彼女の都合で休講と相成った歌の練習であるが、ライブ前ともあっては本業を疎かにする訳にはいかない。
となると、今度はメルラン側の都合で練習を休む事になる。それも長い期間。

(とりあえず、明日くらいまでならまだ大丈夫かな?)

何となく、このまま会わなくなるのは寂しくて、明日までは練習をしようと思った。
静かになった森の入り口で、メルランは一人、空を見上げる。
先程の、一人で歌ったアカペラ”幽霊楽団”。通りすがっただけのアリスがあれほど褒めてくれたのだ、きっと上手に歌えてたに違いない。
出来る事なら、師匠にも聴いて欲しかったなぁ―――そう思わずにはいられなかった。









翌日。いつもの場所で、二人はこの日も歌を歌う。


”ぱらったったっら~ららら~、ぱらったったらら~らららら~♪”


”ら~らら~らら~らら~らららっ、ぱらったらったらたららら~♪”


まずミスティアが即興で歌い、それに対して応えるかのようにメルランがやはり即興で歌う、いわばスキャットの掛け合い。
聴いたメロディに合わせて上手く自身のメロディを重ねられるようにする練習、とはミスティアの弁。
だが、傍から見ればそれは既に一つの完成されたデュエット。まるでオペラのようだ。
というより、これはもう二人で歌う事を楽しんでいるだけと言った方がいいのかも知れない。それほどまでに高い完成度だった。

「……ふぅ、そろそろやめにしよっか。これ以上続けたらのど痛めちゃう」

「う、うん……さすがに疲れたなぁ。でもすごく楽しかったよ」

「私も。まさか、あそこまでアドリブが続くとは思わなかったよ。さすがプリズムリバー楽団のメインだね」

「そんなことないって。私は姉さんたちとも一緒に曲作ってる身だから。
 それよりミスティアの方がすごいよ。アドリブなら結構自信あったんだけど、そっちも全然尽きる様子なかったし」

それなりに長い時間続けていただけあって、二人の顔にも流石に疲労の色が窺える。
だが、それ以上に満足気な顔をしているのも事実。暫し笑い合ってから、メルランが切り出した。

「ところで……実はさ、もうすぐ私たちのライブなの。だから、そろそろ練習しなきゃいけなくて……」

すると、ミスティアは彼女の話を最後まで聞かずとも内容を読んでいたらしく、即座に返す。

「うん、分かってるよ。半ば無理矢理先生やらせてもらったけど、今日まで付き合ってくれてありがとう。
 一人で歌うのはちょっと寂しかったからさ、一緒に歌えて嬉しかったし、楽しかったよ」

「そんな」

メルランは少しばかり慌てた様子で言った。

「お礼を言うのは私だよ。歌を歌うってのは慣れてなくてさ、たまに歌えば音が外れちゃって。
 でも、まさか誰かに歌を褒めてもらえるなんて思わなかった。おかげで、歌うのがすごく楽しい。
 こちらこそ、ありがとう」

面と向かってお礼を言い合うのは流石に照れくさく、二人は顔を赤くして俯いてしまう。
ちょっとした沈黙の後、このしんみりとした空気を破るかのようにメルランが顔を上げた。

「で、でもさ、これでおしまいじゃないんでしょ?私はまだミスティアの生徒。
 また時々来るから、教えてくれるよね?」

「そりゃもちろん……一人前にはまだ早いのだ。さしずめ0.75人前かな?五人前の特盛りクラスの歌唱力を身につけるまで、卒業はさせないからね!」

びしっとメルランを指差し、彼女もまたおどけてみせた。思わず噴き出し、そのまま大笑い。

「あっはっはっは……厳しい先生だなぁ。あ、それとね」

ひとしきり笑った後、メルランはもう一つ言いたい事があったのを思い出す。

「というわけで二週間後、博麗神社でライブやるんだ。良かったら来てくれるかな」

「ホントに!正式なお誘いもらったの初めてだよ」

嬉しそうに笑ったミスティアに、メルランもまた笑顔で答える。

「我らプリズムリバー楽団のライブは、飛び入り・当日観覧大歓迎!こっそりなんて言わず、堂々と来てね!」

「うん、絶対行くよ!それじゃ、また今度ね」

「またね、師匠!」

いつの間にか日も暮れ、もういい時間だった。必ず行くと約束し、ミスティアは森の奥へと飛び去っていく。
メルランは大きく手を振ってそれを見送ると、自分もまた帰宅する為にふわりと空へ。

(……二週間、か。どこまでやれるかな?)

メルランは昨日からずっと、ある事を考えていた。中々に突拍子も無いアイディアなので、ルナサやリリカがどんな反応をするか。
しかし、どうしても提案―――いや、実現したい”計画”。
ルナサの作った夕食の席で、メルランは二人へ向けて切り出す。

「姉さん、それにリリカ。ちょっと聞いて」

「どうしたの、改まって」

「長くなる?ごはん冷めない内に終わるなら今聞くけど」

「食べながらでいいよ」

首を傾げるルナサに、冗談めかして言うリリカ。そんな彼女に頷いてみせ、メルランは意を決して語り出す。

「実はさ、今度の……」

「……えっ?」






そして―――
















絶えず時の流れる幻想郷は、二週間という期間をあっという間に消化してしまった。
この日、プリズムリバー楽団のライブ会場となる博麗神社には、開始一時間前だというのに早くも人妖入り乱れた黒山の人だかり。
最初は妖怪と肩を並べてライブ観覧するのは怖い、と言う人間もいたが、幾度と無く回数を重ねる内に互いに慣れてしまったようである。
最近では里でのライブの際に妖怪の類が見に来ても誰も怖がらないし、妖怪側もトラブルを起こした事は無い。それだけ、皆が楽しみにしているのだ。
それに、万が一を考えて会場を監視する係だっている。

「え~、お茶いらんかね~。二百円よ。あ、お菓子は三百円」

当の”監視係”たる博麗霊夢は先程から観客へ向けた商売で大忙しだ。賽銭よりも収入効率が遥かに良い。
会場としての使用許可をあっさり出してくれるのはこの辺に理由がありそうだが、双方にとってプラスなのだから何も言うまい。
そんなスポンサーの事はともかく、出演者からのお誘いとあって普段よりも気合を入れ、ミスティアは神社へとやって来た。
友達と遊ぶ時はともかく、メルランと会わなくなってからというもの、何も無い日は無性に寂しくて仕方の無い日々だった。
今までが忙しかった反動だろうと気付いてはいたが、ようやく待ちに待ったライブ当日とあって彼女はどこか安堵していた。
久しぶりに弟子の顔を見られるからだろうか。

「ほら、こっちこっち!」

聞き慣れた声に、目の前に大挙する群集から一旦目を離して振り返る。声のまんまに、見慣れたメンバーがそこにいた。

「一人で先に行っちゃうから探したんだよ。ほら、あっちで場所とっといたから、行こ?」

「あ、うん。ごめんね」

「飛び出して行っちゃうのはいつもチルノの役だと思ってたんだけどな」

チルノに手を引かれるミスティアを含めた一行は、既に確保済みの席へ。道中、隣を歩くリグル・ナイトバグが茶化すように笑った。
観客席の丁度中央当たりと、声援を送るには中々に良いポジション。

「いい場所とれたんだね、ありがとう」

「いやあ、それほどでも」

ミスティアの言葉にチルノは胸を張るが、

「でも、最初にここをとったのルーミアだよね」

再びリグルが横合いから突っ込みを入れて、がくりと彼女の腰を折る。当のルーミアはその横で、会話には参加せずにもぐもぐ。
買ってきた鈴カステラを口に放り込むのに忙しいようだ。

「はい、飲み物買って来たよ」

トレイにコップをいくつも乗せた大妖精も合流し、いよいよライブ開始まで三十分を切る。
談笑して過ごすその間にも観客数は膨らみ続け、彼女達の周りも人影でぎっしりと埋め尽くされた。

「あ、そういえばさ」

そんな中、思い出したようにポンと手を打ったのは大妖精。

「ミスティアちゃんこないだ、楽団の子に歌を教えてるとか言ってたよね」

「そうそう、あたいも気になってた。どうなったの?」

チルノも気になっていたらしく便乗して尋ねる。

「へへ~、聞きたい?あれから沢山練習してね、すごく上手になったんだよ。また聞かせてあげたいなぁ」

「へぇ、本当に?」

「どれぐらい?」

得意気になって答えるミスティアに、二人はさらに尋ねようとした。
だがその時、ステージを照らしていた照明が落とされた。夕方の浅い時間とあって辺りはまだまだ明るいが、殆どの者がそれに気付く。

「あっ、もう始まるみたい」

それは彼女達とて例外では無く、大妖精はそう言ってステージへ身体を向け直す。

「そうだね。じゃあ、この話はまた今度しよっか」

ミスティアもそう言ってステージを注視し始めた。
まるで焦らすかのように変化の無いステージ。いつしか会場は静寂に包まれる。
固唾を呑んで待つ人々。突如、その耳に小さく、小さく聴こえる音。ピアノの音色だ。
段々と大きくなるその音は、いつしか明確な旋律を奏で始める。
次の瞬間、堰を切ったようにステージ裏から溢れ出すピアノフレーズ。管楽器によるベース音にヴァイオリンも付加された。
突然のオープニングだったが、その騒がしい、いつも通りの演奏は観客達に驚くより先にテンションの高ぶりをもたらした。
響き渡る大歓声に引きずり出されたかのように、メンバーが次々と舞台上へ現れる。
初っ端かなエンジン全開で鍵盤を叩くリリカがまず、左手をキーボードから離して大きく手を振る。それに呼応するかのように湧き上がる拍手。
軽く浮遊しつつヴァイオリンを奏でていたルナサは、ステージに降り立つと同時に歓声の渦に迎えられる。
そして、楽器をチューバに持ち替えてベース音を吹き鳴らすメルランにもまた、次々と応援の声が届いた。
オープニングの即興演奏は、リリカのやや長めなソロアドリブを以って締められ、音色が会場から掻き消えない内に再三の大歓声が神社を揺るがす。

「みんなー、いきなりの応援どうもありがとー!」

中々に激しくキーボードを叩いていたにも関わらず、全く疲れの色が見えない笑顔でリリカが声を張る。
続いて、チューバを床に置いたメルランも大きく手を振る。

「こんなにもたくさんの方々にお越し頂いて、本当にうれしいでーす!なんていうか、もう満足!
 ……というわけで姉さん、もう帰ろっか?」

「満足するんじゃなくて、させなきゃ駄目じゃない」

沈まぬ太陽だってあるんじゃないか、そう思わせるくらいにいつも明るいメルランの言葉に、会場からどっと笑いが起こる。
そんな彼女のボケに対しルナサが冷静に突っ込みを入れるのも、ライブではお馴染みの光景だ。

「そうでした、失礼。冗談はともかくとして、今日はみんなにも満足してもらえるよう精一杯演奏します!
 あと、スポンサーの満足のためにお賽銭も入れてあげてね!支払いはアメちゃんでも可!」

「満足行くまで針や御札を撃ち込まれても知らないわよ」

これでもかと言わんばかりに会場を笑いで沸かせるメルラン。ルナサの突っ込みは、用意されたネタと言うよりは普段通りの会話としか思えない。

「私はアメよりチョコの方が好きかな。まあそれはさておき、最初の曲なんだけどね」

リリカが曲についての説明を始める。時折ルナサが補足しつつ進行するステージ。
そんな折、中央に立つメルランがきょろきょろと会場を見渡している。
それに気付いたミスティアは、少しだけ背伸びして手を振った。どうやらステージ上からでも見えたらしく、メルランも彼女と目が合うと小さく手を振って笑顔。
しかし司会進行中という事もあり、すぐに横で喋るルナサの顔へ視線を戻した。

「―――というわけで、たまには違う楽器でお送りしようかしら」

「今回は色々と新しい試みのある、チャレンジ精神旺盛なライブにしようと思ってます!
 普段どおりの方がいい、という人は、後でこっそり伝えてね。泣きながら反省会して戻すから」

「ネガるのは姉さんらしくないよ。ライブの感想は終わってからたっぷり受け付けるから、どしどしお願いね。
 じゃ、最初の曲……”天空の花の都”。今年の春はあんまり春らしくなかったから、ションボリしてる妖精さんへのレクイエムも兼ねて。
 姉さんのギターにも注目っ!じゃ、いきまーす!」

リリカが言い終わると同時に、ルナサはいつの間にか持ち替えたアコースティックギターを構える。
メルランはいつものトランペット、リリカもキーボードの鍵盤に指を乗せた。
暫く鳴っていた拍手が止むと、ルナサの繊細な指が弦の上を滑り出す。
静かで、しかし情熱的なメロディが、静かな会場に流れ出した。
八分音符で刻まれるイントロフレーズ。二度目からはリリカのピアノが副旋律の役割を果たし、主旋律の熱量を底上げする。
やがて自動演奏のパーカッションも鳴り出し、一気に演奏全体の音量が大きくなった。
今か今かと待ち構えるように、指でピストンを空押しするメルラン。
段々と盛り上がりつつ八回のイントロ繰り返しを経て、メインフレーズへ。
本来は違う楽器で演奏するメインフレーズだが、次の瞬間に会場を吹き飛ばさん勢いで放たれたメルランのトランペットの音は、そんな事をまるで気にさせない。
呆気に取られたかのように演奏に耳を傾ける観客達。それは、ミスティア一行とて例外では無い。
激しい情熱と、どこか切なさを内包したメイン→サビのフレーズは、彼女達の思考を完全にシャットアウトさせた。
今はただ、このメロディを耳に焼き付けるのみ。









時間の感覚なんて、とうに無かった。奏者も、観客も。
練習してきた成果を、精一杯音に変えてぶつける三姉妹。
その努力の結晶達を、例え一音でも逃すものかと耳を傾け、あらん限りの声援を送る観客。
二十曲近い演目を全てこなし、少々息が上がっていながらも笑顔を絶やさないメルラン。
その横で、リリカがキーボードを小脇に抱えながら客席へ声を張った。
当たりは既に暗くなりかけている。

「いやぁ、いつの間にか暗くなっちゃったねぇ。みんな、こんな時間まで付き合ってくれてありがとー!
 さて、長い時間やってきた今日のライブも、次で最後の演奏になります!」

まるでお決まりであるかのように、観客席から嘆きの声が飛んでくる。

「私たちもちょっと寂しいけど、ライブは当然またやるからね。何度だって来ていいんだから」

「次回開催予定はまだ未定だけれど、その時になったらまた、同じ顔が見られる事を願っています」

珍しく、ルナサも控えめであるが笑顔を見せた。途端にファンから大歓声。
一緒になって声援を送りながら、ミスティアはふと横の友人達の顔を見てみる。
皆、彼女の視線にはまるで気付かずに、立ち上がり、背伸びをし、大きく手を振りながら声の限りに叫んでいる。
それほどまでに人々を夢中にさせる音楽の力に、ミスティアは改めて感心していると、今度はメルランが喋っていた。
慌ててステージへ視線を戻す。

「それでは、本日最後の演奏です……って言っても、何の曲をやるかはもうお分かりだろうけど。
 私たちのメインテーマ”幽霊楽団”で、ラストを飾りたいと思います」

わっ、と歓声が一層大きくなる。プリズムリバー楽団の代名詞にして一番の人気曲。これがライブの締めを飾るのは定番だ。
湧き上がる声援に手を振って応えながら、そのままメルランは続ける。

「今回はちょっと趣向を凝らして、演奏内容を少し変えてみようと思います。いつもと少し違う、”幽霊楽団”を、皆さんも楽しんで下さいね!
 それじゃ皆さん、本日のラストナンバー……”幽霊楽団 ~ Phantom Ensemble”!!」

メルランの言葉が終わると同時に、すぐ演奏が変わると思っていたミスティアは、次の彼女達の行動に驚かされる事となる。
三姉妹は手にした楽器を構える事をせず、ステージ裏へ。驚いたのは他の観衆も同じで、歓声が少しだけどよめきへと変わる。

「どこ行くんだろう?」

すぐ隣の大妖精も首を傾げる。その問いにミスティアも答えを返せるはずも無く、一緒になって首を捻った。
すると、姉妹は再びステージに現れる。
その瞬間―――歓声の九割が、どよめきへと変貌した。

(……え?)

ミスティアもまた、目を凝らす。
メルランは『趣向を凝らし、演奏内容を少し変える』とは言っていた。その準備の為に舞台裏に引っ込んだのだろう、というのも理解出来た。
だが、帰って来たプリズムリバー楽団のメンバーが誰一人として”楽器を持っていない”のは、全く理解が出来ない。
大方楽器を変えるとか、曲調をアレンジするとか、そういったものだろうと思っていたのに。楽器が無ければ、演奏だって出来ないではないか。
彼女は元来夜行性の妖怪であり、視力には自信がある。そんな彼女の視力を以ってしても、彼女達が楽器を持っているようには見えない。
三人の立ち位置は、先程までの演奏とは異なってかなり近い。
そのまま、三姉妹の表情を見る。珍しく、どこか緊張気味のリリカ。何故か少し恥ずかしそうに顔を赤くしているルナサ。
そして唯一、自信に満ち溢れた表情で観客席を見渡すメルラン。彼女は左右の姉妹にも、安心させるかのように笑顔で声を掛けている。
三人が一礼するので、観客席からは大きな拍手が巻き起こる。それが止むとメルランはまず、ルナサとリリカに目配せ。
二人が頷いたのを見ると、今度はなんと観客席の中央―――ミスティアへと視線を飛ばした。

(……?)

ステージの上から真っ直ぐ見つめられ、分けのわからないままにミスティアは頷いた。
彼女が気付いてくれたのが嬉しいのか、メルランはもう一度笑顔を見せる。

「ワン……ツー……」

メルランの小さなカウント。裏拍で指を鳴らしてリズムをとる。

「ワン、ツー、スリー」

―――スリーカウント。



”たららっ、た~ら~らら~、ら~ら~らら~♪”

”………ったらららりらっ、らららたらりら♪”



それは、歌だった。小さな口を目いっぱいに開いて、リリカが自身の奏でるイントロフレーズを一生懸命に歌っている。
彼女の主旋律に合わせ、メルランが副旋律を低く、それでいてリズミカルに歌う。


”ら~ら~らら~たららたらりた♪”

”らららたららら~らたらたらりら♪”


観客達は、呆然とそれを聞いていた。こんな事は初めてなのだ。楽器を使わないプリズムリバー楽団なんて。
だが、確かにその歌は”幽霊楽団”そのもの。リリカの歌声は子供っぽさを拭えないながらも、あの綺麗なピアノフレーズを確かに再現している。
メルランは、本来リリカが左手で奏でるベースの部分。彼女自身の歌声の所為か、明確な躍動感を伴って響く。
観客全員が呆気に取られる中、ミスティアはただ一人、別のベクトルで驚いていた。

(確かに、たくさん練習したけど……)

まさか、この大きなライブ本番、それも締めの一番大事な曲を、声一つで奏でるなどと。
その決断は、メルランが共に過ごしたミスティアとの努力の日々を信じて疑わない証拠でもある。
いつしかイントロフレーズは二度の繰り返しを経て、三度目へ。今度はルナサもそのハーモニーへ加わる。


”ららら~た~ら~らら~、ら~ら~らら~、ら~ら~らら~たららららりら……”

”ら~らっ、たららっ、ら~らったららら~らりらたらりら……”


変わってルナサのしなやかな声が、イントロ主旋律を引き継いで奏で始める。リリカが副旋律へと移り、アコーディオンパート。
メルランはそのままさらにトーンを落としてベース音。
普段、様々な楽器で作り上げられる”幽霊楽団”の騒がしいメロディが、確かにそこにあった。
イントロの四度目も終わりに差し掛かり、ベース音が暴れるようなうねりを伴う。
いつも誰かに話しかける時には決して出さないであろう、ルナサの大きな大きな、それでいて美しさを失わないその声が、さらに激しさを増した。

そして、ブレイク――― 一瞬の静寂。

メルランは、その僅かな無音の世界で、もう一度ミスティアを見た。ほんの一瞬だけ、互いの視線が絡み合う。

(聴いててね、師匠!)

確かにそう言っていたと、ミスティアは確信していた。


”たららら~、らら~、たららったたらら~、ぱららら~ららたららたら~♪”


あれは、いつだったか。そうだ、初めて会った日の事だった。
メルランの吹いたトランペットが、確かこのフレーズを奏でていた。
森の木々をそっくり吹き飛ばさんばかりのパワー。耳にいつまでも焼き付いて離れないくらいの熱量。
それが今、彼女の声で――― 確かに再現されている。
どこまでも底抜けに明るい、心の奥底から元気を呼び覚ますかのようなメインフレーズ。
トランペットの音色じゃない。音の質が明確に違う。何故なら、彼女は歌っている。
だがそれでも、ミスティアを含めた観客達には分かっていた。

これは確かに、メルラン・プリズムリバーの演奏だ。

聴いた者を自然と笑顔にさせるハッピー・ミュージック。
あらん限りの幸せな気持ちと元気を詰め込んだ音色。それは確かに、メルランのもの。
ルナサやリリカの歌声も十二分に美しく響いているが、メルランの歌唱力ははっきり言って群を抜いていた。
伸ばす音に対するビブラートの響きに、急激なメロディの上下に対応する音程合わせ、全てが完璧に近いレベルだった。
時折、本来の演奏とは異なる音程の揺れやこぶしを織り交ぜ、演奏に生き生きとした表情を作るその技術も。
そんな彼女の歌声に隠れそうになるが、ルナサはヴァイオリン及びアコーディオンで奏でる副旋律パート。
時に単体でメインフレーズを彩り、時にメルランとの和音でそのパワーを増幅させる。
徹底的に明るく激しいメルランの歌声と、どこか儚げで繊細なイメージのルナサの歌声。
質は違うが決して拒否反応は起こらない。綺麗に融合し、溶け合って観客の耳へ流れていく。
一方でリリカは、イントロではメルランの担当していたベース音をこなす。
これがあると無いとでは全く違う。目立たなくても、確かに演奏全体を支えている。
いつしか、呆然と聴いていただけの観客席からは手拍子が巻き起こっていた。
やがてその演奏はサビフレーズへ突入する。メルランの歌声も転調し、明るさと切なさを織り交ぜて大きく響き渡る。
ルナサの高い歌声と所々で混ざり合ってハーモニーを奏でつつ、燃えるような勢いで観客達の耳を際限無く叩き続けた。


”ぱららら~っ、ら~っ、ぱらららら~!ぱららぱららたららぁぁぁっ!”


サビフレーズを締めるメルランの歌声は、最早絶叫と言える声量で放たれていく。









―――遡る事、二週間前。

「……ごめん姉さん、もっかい言って」

「だからぁ」

至近距離なので聞こえない筈は無いのだが、と思いつつ、メルランはもう一度二人へ向けて言った。

「いつも最後に”幽霊楽団”やるよね。それをさ、声で―――要するに、アカペラでやってみない?」

「……本気なのぉ?」

「冗談なら、もっとぶっ飛んだこと言うよ」

どうやらあまり乗り気では無さそうなリリカの言葉に、メルランは頬を膨らませる。
黙って彼女の話を聞いていたルナサは、ゆっくり口を開いた。

「……あなたの提案は分かったわ。そうね、まずはどうしてそのアイディアに至ったのか聞かせてくれるかしら」

一番の人気楽曲であり、自分達にとっても特別な曲であり、さらにはライブの大トリという非常に重要な曲。
その演奏形態を、今までとは全く異なる形にするという意見なのだから、慎重になるのも当たり前だ。

「うん、そうだよね。実はさ、前々から私、ちょくちょく出かけてたよね。それが関係しているの。最初は一ヶ月以上前の……」

それからメルランは、ミスティアとのエピソードを余す事無く語って聞かせた。
毎日のように歌う練習を積み重ねた事も。

「……へぇ。あなた、そんなに頑張ってたのね」

「うん。でも、全然苦じゃなかったよ。歌うこと自体はすごく楽しいしね」

ルナサの素直な感想に、メルランはけらけらと笑う。
しかし、リリカが何やら浮かない顔。かと思えば顔を上げる。

「……姉さん、その……ごめんね。もしかして、私の言ったこと、気にしてたとか……」

「ああ、そういや」

風呂場で歌ってたら何やら言われた覚えもある。だが、別にそんな事は全く気にしていなかった。

「別に全然気にしてないから、そんな顔しないで。何か言うとすれば、少しは上手くなったよってことかな」

言われてリリカも思い出す。あれから何度かメルランの歌声を耳にする機会はあったが、聴く度にその歌唱力が向上していた事を。
音程のズレもいつしか直り、ただメロディをなぞるだけだった歌声から、明確な曲の表情を表現するに至る。
ちょっと耳にしただけなのに、それがはっきりと分かっていた。

「ところで、どれくらい上手くなったのか、聴かせてよ」

夕食後、リビングにて。リリカはメルランにそう言ってせがむ。

「そうね、あなたの練習の成果……私も聴いてみたい」

ルナサまでそう言うので、メルランは少しだけ恥ずかしげに一礼。
外で歌うのは全く抵抗が無いのに、姉妹の前で披露するのが少し恥ずかしいのは何故だろう。

「それじゃ……こほん」

そして、メルランは歌いだした。”幽霊楽団”のメインフレーズ、彼女のトランペットパート。
夜なのでやや控えめな声量で紡がれるその旋律は、聴きなれた筈なのにどこか新鮮で、また懐かしくもあり。
それでも確かな”明るさ”と”楽しさ”を伴ったメルランの歌声は、リリカに指摘され、ルナサを苦笑いさせたあの頃とは格段に違っていた。

「……どうかな」

歌い終えて第一声、恐る恐る感想を尋ねるメルラン。
二人は暫し呆然と彼女の顔を見つめてから、ぱちぱちと拍手でそれに答えた。

「すごいよ姉さん!本当に上手になってる!」

「あなた自身の頑張りはもちろん、その教えてくれた子も大した歌い手なのね」

純度100%の賞賛を返され、メルランは思わず赤面する。
それが落ち着いてから、彼女は二人に笑いかける。

「たまには歌うのもいいでしょ?姉さんたちには、私が教えるよ。
 ミスティアほどいい先生じゃないけど……きっと少しは、”真夜中のコーラスマスター”直伝の歌声が伝わると思うんだ」

ルナサもリリカも、その言葉に同時に頷いていた。

「うん、やろう!何だかすごく楽しそう!」

「声も楽器にする……それでこそのプリズムリバー楽団。きっとやれるわ」

「よぉし、あと二週間しかないけど……頑張ろう、ね!」

それから、ライブ当日までの大部分の時間を、歌の練習に費やした。
メルランの教え方は、ミスティアに教えてもらったものをなぞるような形。彼女の教え方を再現したいとの思いだった。
それに対しては期間が半分以下と短いが、ルナサもリリカも音程を外すような事が殆ど無かったので大分短縮も出来た。

「姉さんの声質的に、ビブラートはもうちょい強めの方がいいかも。そうするといい感じに大きく聴こえるよ」

「リリカはねぇ……少し低音で乱れちゃうことがあるかな。ベースやる場面も多いし、ちょっと重点的に鍛えてみようか」

師匠の教えを全て伝える事は出来ずとも、出来る範囲で伝授するつもりでメルランは指導を続ける。

「やる曲が決まってるから、多少はやりやすいね。どこで誰がどのパートをやるか決めておけば、練習も効率よくできるし」

そうして、姉妹それぞれが担当するパートもきちんと決める。
メルランが主旋律を担当する場面では、ルナサが副旋律に回り、リリカはベースを務める。
メインが変わればサブも変わる。綿密な打ち合わせと、毎日の練習。
当然の如く、楽器での演奏も疎かには出来ないのでそちらも忘れない。結果、非常にハードなスケジュールとなったが、彼女達はへこたれなかった。
そこは売れっ子ミュージシャン。スケジュール的な修羅場など、いくつも潜って来た。
本番の前日、三人で合唱。客観的に聴く事は出来ないが、

「よし、完璧!初めてのプリズムリバー楽団によるアカペラ合唱……きっとみんな驚くよ!」

少なくともメルランは、そう思っていた。
―――そして、今。観客達は最初こそ驚いたが、大きな歓声と手拍子で、彼女達の歌声を応援してくれていた。
楽器演奏しかしてこなかった自分達の歌が、こんなにも大勢の人々を楽しませている。
その事実が、メルラン達の歌声をさらに加熱させる。









喉が擦り切れるくらいのメルランのサビフレーズ熱唱も一旦終わり、間奏部。
普段、リリカのピアノソロに近いこのパートは、当然のようにリリカがメインで歌っていく。
全体の音量が下がったので、観客席からの手拍子がより一層大きく聴こえた。
ややトーンを落とし、落ち着いた雰囲気で歌声を紡ぐリリカ。練習の成果もあり、低音でも乱れは無い。
ルナサがベース音を添えつつ間奏は進み、もうすぐイントロへ戻る。
そしていざ二週目の始まり、リリカの歌声は再び高くなり、皆が知っているイントロフレーズを奏で始めた―――まさにその時。
一瞬の出来事。観客席の中央付近より、黒い影が紫紺色の空へ舞い上がった。
観客達もそれに気付き、空を見上げる。翼のようなものを広げた小さなシルエットが、空に溶け込むように映りこんだ。
その小さな影は真っ直ぐ飛んで行き―――今まさにプリズムリバー楽団が合唱する、ステージの上に降り立つ。
小さくベース音を口に出しながらも思わず振り返ると、メルランは驚きの余り歌声を乱しそうになった。
そこにいたのは、先程まで観客だった筈の己の師匠、ミスティアの姿があったのだ。

(え、えっ?なんでここに……?)

観客席からも若干のざわめき。特に、すぐ横に座っていた彼女の友人達はステージを指差し、あれやこれやの大混乱。
だが当のミスティアはメルランへ向けて笑いかけ、少し後ろに下がる。並んだ三姉妹のバックバンドのような立ち位置。
その間もリリカのイントロフレーズは止まらず奏でられ、二回目のループに差し掛かった。
彼女の歌声は変わる事無く、観客の耳に届けられていく。特別歌声を大きくした訳でも無ければ、歌い方を変えた訳でも無い。
なのに、一回目よりも演奏に明確な躍動感が生まれていた。
やがてそれは観客の耳にもはっきりと分かる程になる。より演奏全体の安定感が増したように感じられた。
メルランは耳を澄ませる。すると、後方から聴き慣れない音が。
舌を打つようにして歯の間から空気を押し出す、乾いた音。それが三発ワンセットで、細かなビートを刻んでいる。

(……これって……まさか!)

それはまさに、普段の演奏でイントロ二回目に打ち鳴らす、ハイハットの音そのものであった。
さらに二回目の後半からは、足でステージの床を踏み鳴らすようにして出す、バスドラムの音も加わり、演奏の芯を強化する。
メルランは全てを悟った。ベース音を止める事無く、後ろをそっと振り返る。
―――手で口元を軽く覆うようにして、身体全体でリズムを刻みながら、パーカッションを声で務めるミスティアがそこにいた。







(声だけで、ドラムの音を……)

長い事一緒に練習したミスティアの、未だ知らなかった秘めたる実力。それを目の当たりにし、メルランはただただ驚く事しか出来なかった。
イントロは三回目に突入し、ルナサの声がメインとなって会場に流れていく。
そこへさらにミスティアのボイスパーカッションも加わって、明らかに演奏全体の力強さが増していた。
スネアドラムの力強いリズムも驚くほど再現されており、ルナサもリリカも、歌いながら目を丸くする。
二度も呆気にとられる事となった観客達だったが、いつしか突如現れた四人目のメンバー、ミスティアにも惜しみない声援を送っていた。
特に、彼女の友人達から送り届けられる歓声は一層大きなものとなった。
やがて演奏は再びメインフレーズ。歌い始める直前、メルランはちら、と後ろを向いた。
スネアドラムの連打を口では猛烈な勢いで追いながら、ミスティアもメルランの目を見る。それだけで十分だった。
ここでついに、師匠と弟子の歌声がステージの上で交差する事となる。
最早トランペットと殆ど遜色の無いメルランの爽快な歌声と、力強く8ビートを刻み続けるミスティアのボイスパーカッション。
そこへさらにルナサの透き通った歌声による副旋律と、低音を克服して演奏全体を支えるリリカのベースが加わってますます強く、強く。
観客席だけでは収まらず、神社の外、はるか湖を飛び越え、幻想郷を囲う結界にぶつかっても跳ね返って空高く。
この世界に住まうあらゆる者の耳へ届かせようとするが如く、その歌声は白熱し、響き渡る。


―――パーカッションが加わって一週目よりも遥かに大きく強くなったその合唱も、二度目の間奏へ。
リリカとルナサが静かに場を繋ぐ中、メルランは再びミスティアを見る。
言葉を交わすのは難しくても、互いに笑顔を交わす事は出来る。心の底から楽しそうなその顔を見て、満足気にメルランは頷いた。
やがて間奏後半、ミスティアもハイハット打ちで演奏に加わる中、唯一出番の無いメルランはステージの前方へ歩いていく。
淵近くに立ち、ぐるりと観客席を見渡した。
メルランは気付いていた。先程から、自分達が歌うのに合わせて口ずさんでくれる人がいる事を。
ライブ中にこんな行為に出るなんて、破天荒かも知れない。だが、自分達はプリズムリバー楽団。楽しそうなら、何だってやってみるのだ。
まるで歌う前のように大きく夜の空気を吸い込み、メルランは大声で言った。


「みんなも、一緒に歌おうよ!!」


ざわり、と観客席が震えた。
だがそれにもまるでお構い無しといった体で、メルランはどこへともなく手招きのポーズ。
きっと応えてくれる人がいる―――そう信じていた。
そして彼女の勘は、やはり的中するのである。

「……どうしたの?」

観客席の中央、一箇所だけ不自然に席の開いたその付近。先程からうずうずと身体を動かすチルノに、大妖精は少し心配そうに声を掛ける。
するとチルノは急に彼女を向くと、問答無用とでも言わんばかりにその腕を掴んだ。

「大ちゃん、あたいたちも行こっ!」

「え、ちょ!?」

驚く大妖精。だがその手を振りほどく事はせず、そのまま二人で夜空へ飛翔。
メルランの後ろ辺りに控えめに着地すると、途端に観客席からの大歓声が二人の耳を打った。

「わわわ……」

さっきまで観客席だったのに、今度はステージの上。緊張のあまり逃げ出したい衝動に駆られた大妖精だったが、メルランが笑って肩を叩いた。

「だいじょ~ぶだいじょ~ぶ。みんな一緒に歌うから怖くない!」

「そうだよ大ちゃん、一緒に歌おうよ」

チルノは早くも適応したようで、大妖精も彼女らの励ましに強く頷く。
この時点で本来の間奏はとうに終わっているのだが、ルナサにリリカ、そしてミスティアが気を利かせて間奏をループさせていた。
そしてその間も、観客席に変化が起こる。

「お前にはそこで私の美声を堪能してもらう、と……よ~し、私の歌を聴きやがれ!!」

そんな大声と共に、箒に乗って魔理沙がステージへ突っ込んできた。
ひらりと飛び降り、チルノ達の横に並ぶ。再び湧き上がった歓声の雨に、彼女は大きく手を振って応えた。

「本当に歌上手いんだな、すごいよ」

それからこっそりとメルランに耳打ちし、その背中をばしんと一発叩いた。
彼女がけほ、と軽く咳き込んだその時、またしても観客席から少女の大声。

「ちょっと、何勝手なこと言ってるのよ!私だって歌えるんだから!!」

言うなり、アリスがステージによじ登ってきた。
魔理沙の横に並んで、観客席をびしっと指差す。

「魔理沙だけにいい格好はさせないわ!!」

再三のゲスト登場に、観客は沸きに沸いた。
奇しくもメルランの努力を知る者達が集ったステージで、再びその合唱はイントロへ戻る。
パーカッションを加えつつ四度のループを経て、ブレイク。
その瞬間息を吸い込んだのは、メルラン一人では無かった。


”たららら~、らら~たららったらりた~♪”


チルノに大妖精、魔理沙、アリス、そしてメルランの歌声をミックスしたメインフレーズ。
歌の練習をしたかは関係無い。技術云々の話でも無い。ただ、歌う事を楽しんでいる者達の歌声。
それはどんな高価な楽器よりも、聴いた者の心に深く残る音色だった事だろう。
一気に増幅された主旋律に負けじと、ルナサやリリカも声を張り上げる。
ミスティアの刻む8ビートも激しさを増し、時折アドリブを加えつつ合唱を支えていく。
サビフレーズに突入し、ますますその合唱は熱を帯びていく。
歌う事にそこまで慣れていないチルノや大妖精は、転調してさらにキーの上がった主旋律に少々苦戦気味。
だがそれでも、身体を折り曲げて腹の底から声を出し、必死に歌い上げる。
魔理沙にアリスも楽では無さそうだが、喉や胸に手を当てて、時に目を固く閉じ、全身の力を使って、ひたすらに歌う。
そしてメルランの歌声もトップギアへ。ゲスト四人の歌声をまとめ上げるように調和させ、大きく大きく響かせる。
今や会場のボルテージは最高潮に達し、とうとう観客席にいる観客も歌い出す。
この日、幻想郷史上最も大規模な大合唱が、博麗神社より響き渡る事となった。




―――願わくば、喉が擦り切れて潰れるその瞬間まで。






















「じゃ、行ってきま~す!」

「誰もいないのに言うんだね」

「挨拶を習慣化するのはいい事よ」

よく晴れた日だった。しっかりと屋敷の玄関に鍵をかけ、メルランにルナサ、リリカは屋敷を飛び出した。
すいすいと青空を走り、湖を飛び越える。
やがて見えてきた、森の入り口。いくつかの人影が見えるのを確認し、三姉妹はそこを目指して飛んで行った。

「おまたせ~!」

「おっ、来たな!講師二号とその姉妹」

「まだ先生になれるほど上手くないよ……」

着地した途端に、先に来ていた魔理沙がニヤニヤと笑う。気恥ずかしくて顔を赤くするメルランに、今度は隣のアリスが優しく笑いかけた。

「謙遜しなくてもいいわよ。私達から見たら十二分に先生なんだから」

「あ、う~……」

褒め言葉を重ねられ、メルランは恥ずかしさに耐え切れずしゃがみ込んでしまう。その様子を見て二人は笑い声を上げた。
するとその時。森の方からがさがさ、と音がしたかと思うと、小さな人影が三つ飛び出してくる。

「ごめんね、待った?」

「あたい参上!」

「こ、こんにちは」

ミスティアを先頭に、チルノ、大妖精の姿もある。

「おう、一時間待ったぜ」

「え、えぇっ!?」

「魔理沙の言うことをいちいち真に受けてたら、身が持たないわよ」

冗談めかして言った魔理沙の言葉に、大妖精が顔を青くする。即座にフォローを入れつつ、アリスは魔理沙の肩をどんと軽く叩いた。
『まさか信じるなんてなぁ』という呟きをよそに、ミスティアは集まった一同をぐるっと見渡す。

「よし、全員いるね?」

「うん、大丈夫」

メルランが答えると、彼女は笑って頷く。それから姿勢を正し、改まったように声を張った。



「それじゃあ、”夜雀と騒霊が教えるアカペラ教室”、本日の授業を始めま~す!」



高らかな宣言に、一同から拍手が巻き起こった。









―――あのライブから、暫くの月日が流れて。
流石に喉を少々痛めはしたものの、ライブそのものは大成功に終わった。
今度から時々、演目に歌も混ぜていこうか、なんて話が持ち上がるくらいである。
そんな中、再びオフを迎えたメルランは約束を取り付け、再びミスティアへ会いに行く事に。
いつものように森の入り口へ向かうと、確かにそこにはミスティアの姿があった。
ただし、プラスしてもう二人。

「こないだはありがと!すごく楽しかったよ!」

「あんなに一生懸命歌ったの、初めてだったなぁ」

ミスティアが呼んだらしい、チルノと大妖精の姿があったのだ。
お礼や思い出話もそこそこに、メルランは問うた。

「どうしてこの子たちも?」

するとミスティアは笑顔を見せる。

「実はね、こないだのライブで一緒に歌ってから、もっと上手く歌えるようになりたいって言っててさ。
 なんでも、横で歌ってたメルランがすごく上手で、しかも楽しそうだったからだって」

メルランが自分の名前が出た事に驚く間も無く、彼女は続けた。

「でね、私がメルランに歌を教えてたの思い出して、一緒に教えて欲しいって。
 だから今日一緒に来てもらったの。メルランが先生になれば、きっと上手くなるよ」

「へぇ~、なるほ……」

驚いてがっくん、と膝を折りかけるメルラン。そのままの勢いでミスティアの両肩を掴む。

「ちょ、ちょっ!?最後何て言った!?」

「だからぁ、メルランも一緒に先生やろうって話。もちろん私もやるけどね。
 メルランが先生、私が先生の先生だよ」

えっへん、と胸を張るミスティア。
一方でメルランは不安げな顔。

「う~……私に先生なんて出来るのかなぁ。不安だよ」

「大丈夫だって!メルランは本当に上手になった、私の自慢の生徒だよ。先生の私が言うんだから信じなさい!」

そうまで言われては断る事など出来なかった。それに、もう一度皆で歌える機会を得られるのが楽しみでもあった。
この話を聞きつけた魔理沙とアリスも同様の理由で生徒に志願し、こうして週数回のペースで歌を練習する場を設ける事となったのである。
それから数日後。最初の練習を緊張しつつも終え、家に帰ったメルランは夕食の席で早速、この事を話して聞かせた。

「というわけでね、今度から一緒に歌ったみんなに歌を教えるんだ。楽しみだなぁ」

笑って語るメルラン。すると、二人の様子がどうにもおかしい。

「どうかしたの?」

不審に思って尋ねると、リリカがしきりにルナサへ目配せ。視線だけで何かを頼んでいるようにも見える。
彼女の顔を見て軽くため息をつき、ルナサはおずおずと切り出した。

「ねぇ、メルラン。その……生徒数はもうギリギリだったりするのかしら」

「へ?ううん、そんなことはないよ。まだ四人しかいないし、まだまだ大歓迎かな」

「そ、そう。じゃあ……」

ここで先程とは逆に、ルナサがリリカへ目配せ。彼女が頷いたのを見て、ルナサは続けた。

「……その、私とリリカも……生徒になっていいかしら」

「えっ、本当に!?」

驚きの声を上げ、メルランは二人の顔を交互に見る。
恥ずかしげにうつむきつつも、リリカは小さく頷いた。
それを見たルナサも再び口を開く。

「先日のライブ。最後をアカペラで締めようなんて、あんまりに突拍子も無い話だと思った。
 けど、いざやってみたら……勢いに任せた部分もあったけれど、結果的には大成功したし、本当に楽しかった。
 今まで音楽には楽器でばかり触れてきた私達だけど、こういう表現方法もあるって分かった。
 なら、その道ももっと突き詰めてみたい……そう思うの。単純に楽しいからってのが一番だけどね」

珍しく饒舌になって語るルナサに、メルランは彼女がいかに本気かを悟る。
リリカもうんうんと頷いて言った。

「音外しまくってた姉さんが、あんなに上手になるなんてさ。すごいって思うと同時に、あんまりに簡単に私より上手くなっちゃったのが悔しくって。
 見てなさい、絶対に姉さんより上手くなって見せるんだから!」

びしっ、と手にしたスプーンでメルランを差す。
若干驚いたメルランに、ルナサがそっと耳打ち。

「ああ言ってるけど、あなたと一緒に歌うのが本当に楽しかったから、またその機会が欲しいって思ってるのよ」

「ちょ、ちょぉぉぉ!姉さん今何言った!?ねぇ!?」

火が出るくらいに顔を赤くしたリリカ。その様子を見てルナサは微笑ましそうに、メルランは何とも楽しそうに、それぞれ笑った。











こうして発足したアカペラ教室も回数を重ね、生徒達も皆それぞれの持ち味を生かしつつ、着実に上達していった。
そしてこの日の練習が終了した夜、プリズムリバー邸にて。


”た~ら~たららったらら~♪た~ら~たららったったった~ららら~♪”


細やかなメロディを明るく歌い上げる、陽気な歌声が廊下の向こうから聴こえてくる。
リビングで調弦作業をしていたルナサは、思わず笑み。あの時も、こんな感じに歌声が聴こえて来た。

「も~、また姉さん歌ってる。いくら上手くなったからって、長風呂されると後がつかえるのに」

そしてその横でぶつくさ言うリリカも同じだ。


”らららら~、ら~ら~らら~、た~ら~らっ、ぱらららりらりたらりらたららった♪”


尚も歌声が止む気配は無く、リリカはため息一つつくと廊下へ。

「ちょっと姉さん!いつも言ってるけどお風呂長い!!」

「た~ら~らら……もう、またリリカが邪魔する~」

メルランはまたしても歌を途中で中断させられ、不服そう。
押し問答しても無用と悟ったか、バスルームのドアが開く音。一寸遅れてばさりと服を脱ぐ音も聞こえた。

「時間がもったいないから私も入る!それに、さっき歌ってたやつも教えてよ!知らない歌だったし」

「ちょ、まっ」

ざぱーん。演歌のPVよろしく荒波の砕けるような豪快な音。

「リリカ~、だから二人は少し狭くない?」

「もう一人くらい入れるって!それに狭いのは姉さんのせいだって……」

今日も仲良くケンカする二人。ルナサはもう少しドアに寄り、耳をそばだてる。

「でさ、さっきの歌は?」

「あれはね、ミスティアが作った曲。”もう歌しか聴こえない”っていうんだってさ。
 初めて会った時に歌ってくれてさ……それはもうすごいのなんのって。
 真っ暗な森を飛び回る妖怪の姿がイメージ出来たくらいなんだから」

嬉しそうに語るメルラン。リリカはその一方でからかうように言った。

「でもさ、姉さんの歌声じゃ怪しげな雰囲気は全然出ないよね。
 なんていうか、イタズラしようと家に忍び込んだら見つかって、虫網もって追い回されて必死に逃げ惑うイメージっていうか。
 どうにもコメディタッチなんだよなぁ」

「あっ、言ったな!じゃあリリカ歌ってみてよ!」

「それはいいんだけど、その前に教えてってば」

「あ、ごめんごめん。それじゃ、私の後に歌ってみて」

「は~い」

いつの間にかケンカも終わり、二人の歌声が交互に聴こえてくる。やっぱり楽しそうだ。
夜雀直伝の歌声に惑わされたか、ルナサはもうその意識を調弦へ注ぐ事が出来なくなっていた。
彼女はそっと調弦途中のヴァイオリンをテーブルに置くと、ソファにかけてあったバスタオルを手に取る。

(……たまには、三人で一緒に入ろうかしら)

そのままドアを開け、ルナサは廊下の奥へと消えていった。






―――プリズムリバー邸のバスルームから三姉妹の楽しげな合唱が聴こえてくるのに、それ程時間は要らないだろう。
”道具を使わず体に備わっている楽器で奏でる音色。
それはどこの国のだれもが共感できる音色であることを意味する。
アカペラのすごいところ。”


『みんなも、一緒に歌おうよ!!』
ネコロビヤオキ
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コメント



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2.100名前が無い程度の能力削除
プリズムリバー楽団のアカペラですか、新しいですね。
彼女達なら楽器演奏しつつ歌えるし、ボーカルが三人増えた扱いになるから表現力がさらに大きく増しますね。
いちど彼女達自身による幽霊楽団の合唱を聞いてみたいものです。
6.90名前が無い程度の能力削除
>メラゾーマ・プリズムリバー

想像したら…www
7.100名前が無い程度の能力削除
おおぅ……騒霊楽団のアカペラとは、新しいぜ。堪能させていただきました。

メラゾーマ・プリズムリバー……。だったら、ルナ姉さんはルカニ・プリズムリバーでOK?
10.80名前が無い程度の能力削除
聞いてみたいっ!
12.90名前が無い程度の能力削除
考えるな、感じろ。を地で行きますねー。
あー、聞きたいなぁ。「幻想のアカペラ」
13.100名前が無い程度の能力削除
心地良い読後感。
三姉妹のライブに是非ともお邪魔したいですっ!
16.80名前が無い程度の能力削除
やっぱりプリズムリバーはこうでなくては。
19.100アクセス削除
今回のプリズムリバー三姉妹SSも楽しく読ませて頂きました。
ミスティアのメラゾーマ・プリズムリバー発言には思わず笑いましたw
自分も三姉妹ライブに行きたくなる素敵な話でした^^ それでは失礼しますね~!
22.60即奏削除
ナイスなプリズムリバーでした。おもしろかったです。
後半の参加者がいっぱいでてきたシーンが、なんだか感動的でした。
24.100名前が無い程度の能力削除
いつも楽しく読ませていただいています!
ミスティア、ボイパもできるのか……この組み合わせだと、大体はミスティアが歌って姉妹が伴奏するパターンだと思うので新鮮でした。

きっとそのうちルナサの弾き語りが聞けるに違いない!
25.80名前が無い程度の能力削除
メラゾー…まぁ、魔法使いマーリン(Merlin)に相応しい間違いではありますかね。

特にライブの作り方が目を惹きました。
開幕からの流れ、予想外のアカペラ幽霊楽団の披露、最後には観客をも巻き込んだ合唱と、変化に富んでて面白かったです。
27.100名前が無い程度の能力削除
よかったですねぇ。
長めの作品は評価が伸びにくいのが残念ですね。
32.100名前が無い程度の能力削除
読みごたえがあって、とても面白かったです。

歌うプリズムリバーも良いですなぁ
35.無評価ネコロビヤオキ削除
コメント返しを全て一つにまとめました。皆様どうも有難う御座います。

>>2様
古今東西、あらゆる楽器を操るプリズムリバー楽団は声だって楽器にするのです。
今後のライブにおいても、ボーカル曲を扱えるようになったという事で演奏の幅が広がりそう。
チケットはお近くの博麗神社、或いは香霖堂の窓口まで……。

>>6様
今のはメルでは無い……メルランだ!
なんかそんなフレーズが浮かんだ夏の夜。どうしましょう。

>>7様
オ、ナイスネーミングセンス。問題はリリカですが、音的にイオラ・プリズムリバーでどうでしょう。
最後の一人はレミラーマ・プリズムリバー。

>>10様
騒霊にラブソングを。やたらめったら騒がしく、それでいて心地良い合唱と評判だとか。
チケットはお近くのプリズムリバー邸、或いは永遠亭窓口まで。

>>12様
まさにそれ。じっくり読み込むのでは無く、頭の中で想像して頂けたら最高です。
良かったら一緒に歌って!

>>13様
メルランも言ってますが、ライブは飛び入り歓迎だそうです。
機会が御座いましたら、聞くだけでなく是非ステージによじ登っちゃって下さい。

>>16様
プリズムリバーの物語は何度か書かせて頂きましたが、やはり”音楽の楽しさ”を念頭に置いたという節はあります。
みんなもプリバろうぜ。

>>アクセス様
いつもいつも(ry)いつも有難う御座います。
最近、真面目っぽいお話でも細かいネタを仕込む事に凝っています。今回は上手くいったようで何より。

>>即奏様
前述しました通り過去何度かプリズムリバーで書かせて頂きましたが、どれもこれも最後はライブ描写で〆てます。
好きなアーティストのライブに行った時のような、あの熱い盛り上がりを再現したいのです。

>>24様
コーラスマスターに不可能は無いのさ、ってみすちが。そのパターンで書こうかとも考えていましたが、色々あって一緒に歌いました。
フォークギターで神田川を歌うルナ姉さん……アリだ。

>>25様
あっ、ちょっとカッコ良くフォローされた。何だか嬉しい。
ライブに至る経緯を疎かにしては、素敵なライブの演出は出来ませんからね。最後はひたすら熱くするのです。

>>27様
そう仰りつつも最後まで読んで下さった貴方に感謝。
自分の作品はどれもこれも長いですからね。それだけの時間を読者の方に割かせてしまうのだから、手抜きは出来ません。これからも頑張ります。

>>32様
前述してますが、自分の作品はどれもやたらめったら長いので皆様に最後まで読んで頂けるのか常に不安に感じています。
そんな中でそのように言って頂けたのは本当に救いです。これからも頑張ります。
声だって楽器さ。
37.100Ayu T削除
ネコロビヤオキさんの作品はいろいろ読ましてもらっていますが、この作品はとても心に残りプリズムバー三姉妹の個性が表れていると思います。
ミスティアが見事な先生と登場人物のほのぼのさがとても好きです。その上、本当に幽霊楽団を聞きたくなりますし口ずさみたくなる作品です。
今後も頑張ってください。
39.無評価ネコロビヤオキ削除
恐ろしく返しが遅くなってしまいました。申し訳御座いません。

>>Ayu T様
色々とな!?いつもご贔屓に有難う御座います。
能力や性格、弾幕に至るまで個性爆発なプリズムリバーは書いててとっても楽しいのです。みすちはこういう役どころが意外に似合うと思うのですがどうでしょう。
これからも頑張りますので、また宜しければ。