たとえ、どれだけの月日が経とうとも、この日だけは忘れないでいよう。
いくら私がドジでも、絶対に忘れないと決めた、大切な日。
「誕生日おめでとうございます、ナズーリン」
「……ありがとう、ご主人」
私の大切な部下であり、親友、ナズーリンの誕生日だった。
照れくさそうに視線を落とし、私の方を見ようとしない。
すこしばかり、頬が朱色に染まっている。
そんな、可愛らしいナズーリンの視線に合わせるように、私は身を屈める。
逃げ場の無くなったその視線が、私の視線と合致する。
ぴくんと肩を揺らしたナズーリンに、私はそっとプレゼントを渡す。
お店で丁寧に包装してもらった箱を手渡すと、ナズーリンは照れくさそうに、
「ありがとう」
そう言って受け取った。
「開けてみて下さい、ナズーリン」
「いいのかい?」
「私の前で開けてほしいので。ナズーリンの喜ぶ顔がみたいですし」
「……もう」
私は、今日の日のことを、絶対に忘れない。
だって、ナズーリンの誕生日なのだから……。
話は、私達が出会った頃にまでさかのぼる。
私が聖のもとへ行くと決まった日のこと。
「緊張するなぁ……。だけど、優しい人って聞くし、心配しなくても大丈夫かなぁ」
その当時は、聖を見たことはあるが、話をしたことは無かった。
だから、不安の気持ちもあり、期待の気持ちもあった。
新天地で、私を求める人物がいる。
それだけで、心が宙に浮くような、そんな思いだった。
その時、私の名を誰かが読んだ。
「あなたが寅丸星?」
私が振り向くと、そこには少し背の低い、鼠の姿が。
はて、私に一体何の用だろうかと、私は答える
「そうですが……。一体なんのようでしょうか?」
「よかった、人違いじゃなかったようだ。私の名前はナズーリン。あなたの監視役として毘沙門天様から依頼を受けた者だ」
「え!? 毘沙門天様から!?」
その時は本当に驚いたものだ。
毘沙門天様が私の為に監視役をつけるなんて思ってもいなかった。
しかし、よくよく考えてみれば、私じゃ心配だから監視役をよこしたのだろう。
このことから、私がいかにドジなのかというのがよく分かる。
「そう、毘沙門天様からだ。とりあえず、これから私はあなたのことをご主人と呼ばせてもらうよ。嫌かい、ご主人?」
「い、いえ、構いませんが……」
「ならよかった。それじゃあ、聖のもとへ行こうか」
「そうですね」
私は、正直言って人見知りをするタイプだ。
初対面の人とは上手く喋れない。
なので、この時もナズーリンと何を喋っていいのか分からなかった。
長く続く沈黙の中で、地を踏みしめる時の砂利の音が聞こえる。
また、爽やかな風に木々が揺れ、ざわめく音。
ただ、それだけだった。
決して口を開くことは無かった。
「さて、ついたね。ここが聖の住むお寺だ」
「大きいですね」
「まったくさね。さぁ、行こうか」
私は、ナズーリンの言うことに、ただただ返事をするのみだった。
そんな私は、今更ながら非常に情けないと思う。
その後、聖と出会い、これから共に過ごすこととなった。
それから、何日も経過した。
ナズーリンとは必要最低限のことしか喋ることは無くて、気まずい雰囲気がずっと続いていた。
そんな私とナズーリンの様子を見て、聖が
「喧嘩でもしたんですか? 全然喋っているように見えませんが」
と、心配して声を掛けてくれた。
「いえ……、ただ何を話していいのかわからないのです」
「面白みの無いことでもいいんです。ただ、話をするだけで相手と少しでも気持ちを交わすことができれば。ナズーリンは、きっと星が話しかけてくれることを待っているのかもしれませんよ?」
優しい笑みで、聖は私に言った。
その時、心の奥底から勇気が沸いてきたのを覚えている。
「わかりました。勇気を出して話しかけてみます」
「えぇ、是非そうしてください」
そして、縁側へと行ってみる。
いつものように、ナズーリンが座って外を眺めていた。
私は、失礼しますね、と声を掛けて隣に座った。
「きょ、今日は……いい天気ですね」
「ん? あぁ、いい天気だね」
「……」
「……」
話が続かない、これじゃあ何の意味も無かった。
私は、頭をフルに回転させて考える。
なにか、何か話題をと考えた結果、
「そ、そういえば、ナズーリンの誕生日っていつですか?」
いかにも、初めて出会って、しばらく経った女の子達が話しそうな話題。
これだ、これでこそ完璧。
最近私も誕生日を迎え、聖達にお祝いをしてもらったばかりだったし、この機会に聞いておくのもいいかもしれない。
そして、誕生日が近いのなら、それで盛り上がるかもしれないし、遠かったらその誕生日を覚えておいて、プレゼントをしっかりと渡す。
覚えておいてくれたんだね、ご主人……、なんて言われて、仲良くなれること間違い無し。
その時、私はそう思っていた。
しかし、ナズーリンの答えは私の予想を遥かに上回った。
「ごめんよ、ご主人。私は誕生日を覚えていないんだ」
「……え?」
誕生日を覚えていない? その時は耳を疑った。
しかし、確実に誕生日を覚えていないと、ナズーリンは言った。
「ご主人の誕生日を祝った時、私の誕生日はいつなのだろうと考えてみたけど、わからなかった」
「ナズーリン……」
「皆が、その日を迎えた者を祝い、盛り上がる。素晴らしいことだって思った。私も少し憧れたよ。だけど、思い出せないんだ」
そんなナズーリンの表情は、どこか寂しそうだった。
短い付き合いだったけど、普段クールで、感情をあまり表に出さないことは少なくとも理解してた。
だからこそ、ナズーリンの表情がより寂しそうに見えたのだ。
私はなんだか辛かった。
胸が内側から焼けるような、そんな気分。
助けてあげたい。
だけど、素直に口から言葉が出ない。
喉で突っかかる言葉達が、出ることも無く、頭の中で流れ続けた。
私は、この時に改めて自分の存在の小ささを実感した。
「ご主人が、羨ましいって思った」
悲しげに言うナズーリンが、とても愛しく思えた。
助けてあげたいが、助けなきゃいけないに変わったその時だった。
「ナズーリン」
「なんだい、ご主人」
私はナズーリンの目をしっかりと見る。
強い視線で、まっすぐに見つめた。
「そんな悲しい顔をしないで下さい、あなたには誕生日がきっとあります。だから、そんな顔をしないで下さい」
「それは、誕生日はあるだろうけど、思い出せないのならどうしようもないさ」
私は考えた。
どうしたら、ナズーリンが納得してくれるかを。
そして私は、一つの答えに辿りついた。
「それじゃあ、あなたとこうして面を向いて話しあえた今日、この日が誕生日です。だけど、それは仮の誕生日であり、本物ではありません」
「嘘の誕生日なんて虚しいだけじゃないか」
「だからです! だから……、ナズーリンが私とのふれあいのなかで、ゆっくり誕生日のことを思い出していけばいいんです」
「ご主人……」
「思い出すその時まで、今日がナズーリンの誕生日です」
そうして、私は聖に聞こえるように大声で言った。
「ひじりー! 今日はナズーリンの誕生日だそうですよ! お祝いの準備をしましょう!!」
「ご、ご主人?」
焦るようなナズーリンに、私は笑顔で返した。
そんな私の顔を見て、ナズーリンも笑ってくれた。
「あら、本当? 急いで準備しなくちゃね」
向こうから、聖の声が聞こえた。
そして、今日がナズーリンの誕生日となった。
ナズーリンが、ゆっくりとプレゼントの箱を開く。
そして、箱からプレゼントをゆっくりと取り出した。
「どうですか?」
私が用意したのは、私が必死で探した四つ葉のクローバーを、透明なガラスに閉じ込めたペンダントだった。
「……すごく嬉しいよ。ありがとう、ご主人」
微笑むナズーリンに、私は一つ訪ねた。
「ナズーリン。あなたの誕生日のことは思い出せましたか?」
すると、ナズーリンは答えた。
「思い出せないさ。ずっと、ずっと思い出せない。だけど、一つだけ誕生日を通して分かったことがある」
「なんですか?」
ナズーリンが悪戯っぽく笑った。
「ご主人のことが、私は好きなんだってことさ」
「な、何を言って!!」
私の顔が熱くなっていく。
今、ナズーリンは私のことを好きと言った。
女同士なのに、私のことを、好きと……。
頭が真っ白になって、興奮していたから分からなかったのだろう。
ナズーリンがくすっと笑い、
「ありがとう、ご主人」
と、そっと言い残した事に。
いくら私がドジでも、絶対に忘れないと決めた、大切な日。
「誕生日おめでとうございます、ナズーリン」
「……ありがとう、ご主人」
私の大切な部下であり、親友、ナズーリンの誕生日だった。
照れくさそうに視線を落とし、私の方を見ようとしない。
すこしばかり、頬が朱色に染まっている。
そんな、可愛らしいナズーリンの視線に合わせるように、私は身を屈める。
逃げ場の無くなったその視線が、私の視線と合致する。
ぴくんと肩を揺らしたナズーリンに、私はそっとプレゼントを渡す。
お店で丁寧に包装してもらった箱を手渡すと、ナズーリンは照れくさそうに、
「ありがとう」
そう言って受け取った。
「開けてみて下さい、ナズーリン」
「いいのかい?」
「私の前で開けてほしいので。ナズーリンの喜ぶ顔がみたいですし」
「……もう」
私は、今日の日のことを、絶対に忘れない。
だって、ナズーリンの誕生日なのだから……。
話は、私達が出会った頃にまでさかのぼる。
私が聖のもとへ行くと決まった日のこと。
「緊張するなぁ……。だけど、優しい人って聞くし、心配しなくても大丈夫かなぁ」
その当時は、聖を見たことはあるが、話をしたことは無かった。
だから、不安の気持ちもあり、期待の気持ちもあった。
新天地で、私を求める人物がいる。
それだけで、心が宙に浮くような、そんな思いだった。
その時、私の名を誰かが読んだ。
「あなたが寅丸星?」
私が振り向くと、そこには少し背の低い、鼠の姿が。
はて、私に一体何の用だろうかと、私は答える
「そうですが……。一体なんのようでしょうか?」
「よかった、人違いじゃなかったようだ。私の名前はナズーリン。あなたの監視役として毘沙門天様から依頼を受けた者だ」
「え!? 毘沙門天様から!?」
その時は本当に驚いたものだ。
毘沙門天様が私の為に監視役をつけるなんて思ってもいなかった。
しかし、よくよく考えてみれば、私じゃ心配だから監視役をよこしたのだろう。
このことから、私がいかにドジなのかというのがよく分かる。
「そう、毘沙門天様からだ。とりあえず、これから私はあなたのことをご主人と呼ばせてもらうよ。嫌かい、ご主人?」
「い、いえ、構いませんが……」
「ならよかった。それじゃあ、聖のもとへ行こうか」
「そうですね」
私は、正直言って人見知りをするタイプだ。
初対面の人とは上手く喋れない。
なので、この時もナズーリンと何を喋っていいのか分からなかった。
長く続く沈黙の中で、地を踏みしめる時の砂利の音が聞こえる。
また、爽やかな風に木々が揺れ、ざわめく音。
ただ、それだけだった。
決して口を開くことは無かった。
「さて、ついたね。ここが聖の住むお寺だ」
「大きいですね」
「まったくさね。さぁ、行こうか」
私は、ナズーリンの言うことに、ただただ返事をするのみだった。
そんな私は、今更ながら非常に情けないと思う。
その後、聖と出会い、これから共に過ごすこととなった。
それから、何日も経過した。
ナズーリンとは必要最低限のことしか喋ることは無くて、気まずい雰囲気がずっと続いていた。
そんな私とナズーリンの様子を見て、聖が
「喧嘩でもしたんですか? 全然喋っているように見えませんが」
と、心配して声を掛けてくれた。
「いえ……、ただ何を話していいのかわからないのです」
「面白みの無いことでもいいんです。ただ、話をするだけで相手と少しでも気持ちを交わすことができれば。ナズーリンは、きっと星が話しかけてくれることを待っているのかもしれませんよ?」
優しい笑みで、聖は私に言った。
その時、心の奥底から勇気が沸いてきたのを覚えている。
「わかりました。勇気を出して話しかけてみます」
「えぇ、是非そうしてください」
そして、縁側へと行ってみる。
いつものように、ナズーリンが座って外を眺めていた。
私は、失礼しますね、と声を掛けて隣に座った。
「きょ、今日は……いい天気ですね」
「ん? あぁ、いい天気だね」
「……」
「……」
話が続かない、これじゃあ何の意味も無かった。
私は、頭をフルに回転させて考える。
なにか、何か話題をと考えた結果、
「そ、そういえば、ナズーリンの誕生日っていつですか?」
いかにも、初めて出会って、しばらく経った女の子達が話しそうな話題。
これだ、これでこそ完璧。
最近私も誕生日を迎え、聖達にお祝いをしてもらったばかりだったし、この機会に聞いておくのもいいかもしれない。
そして、誕生日が近いのなら、それで盛り上がるかもしれないし、遠かったらその誕生日を覚えておいて、プレゼントをしっかりと渡す。
覚えておいてくれたんだね、ご主人……、なんて言われて、仲良くなれること間違い無し。
その時、私はそう思っていた。
しかし、ナズーリンの答えは私の予想を遥かに上回った。
「ごめんよ、ご主人。私は誕生日を覚えていないんだ」
「……え?」
誕生日を覚えていない? その時は耳を疑った。
しかし、確実に誕生日を覚えていないと、ナズーリンは言った。
「ご主人の誕生日を祝った時、私の誕生日はいつなのだろうと考えてみたけど、わからなかった」
「ナズーリン……」
「皆が、その日を迎えた者を祝い、盛り上がる。素晴らしいことだって思った。私も少し憧れたよ。だけど、思い出せないんだ」
そんなナズーリンの表情は、どこか寂しそうだった。
短い付き合いだったけど、普段クールで、感情をあまり表に出さないことは少なくとも理解してた。
だからこそ、ナズーリンの表情がより寂しそうに見えたのだ。
私はなんだか辛かった。
胸が内側から焼けるような、そんな気分。
助けてあげたい。
だけど、素直に口から言葉が出ない。
喉で突っかかる言葉達が、出ることも無く、頭の中で流れ続けた。
私は、この時に改めて自分の存在の小ささを実感した。
「ご主人が、羨ましいって思った」
悲しげに言うナズーリンが、とても愛しく思えた。
助けてあげたいが、助けなきゃいけないに変わったその時だった。
「ナズーリン」
「なんだい、ご主人」
私はナズーリンの目をしっかりと見る。
強い視線で、まっすぐに見つめた。
「そんな悲しい顔をしないで下さい、あなたには誕生日がきっとあります。だから、そんな顔をしないで下さい」
「それは、誕生日はあるだろうけど、思い出せないのならどうしようもないさ」
私は考えた。
どうしたら、ナズーリンが納得してくれるかを。
そして私は、一つの答えに辿りついた。
「それじゃあ、あなたとこうして面を向いて話しあえた今日、この日が誕生日です。だけど、それは仮の誕生日であり、本物ではありません」
「嘘の誕生日なんて虚しいだけじゃないか」
「だからです! だから……、ナズーリンが私とのふれあいのなかで、ゆっくり誕生日のことを思い出していけばいいんです」
「ご主人……」
「思い出すその時まで、今日がナズーリンの誕生日です」
そうして、私は聖に聞こえるように大声で言った。
「ひじりー! 今日はナズーリンの誕生日だそうですよ! お祝いの準備をしましょう!!」
「ご、ご主人?」
焦るようなナズーリンに、私は笑顔で返した。
そんな私の顔を見て、ナズーリンも笑ってくれた。
「あら、本当? 急いで準備しなくちゃね」
向こうから、聖の声が聞こえた。
そして、今日がナズーリンの誕生日となった。
ナズーリンが、ゆっくりとプレゼントの箱を開く。
そして、箱からプレゼントをゆっくりと取り出した。
「どうですか?」
私が用意したのは、私が必死で探した四つ葉のクローバーを、透明なガラスに閉じ込めたペンダントだった。
「……すごく嬉しいよ。ありがとう、ご主人」
微笑むナズーリンに、私は一つ訪ねた。
「ナズーリン。あなたの誕生日のことは思い出せましたか?」
すると、ナズーリンは答えた。
「思い出せないさ。ずっと、ずっと思い出せない。だけど、一つだけ誕生日を通して分かったことがある」
「なんですか?」
ナズーリンが悪戯っぽく笑った。
「ご主人のことが、私は好きなんだってことさ」
「な、何を言って!!」
私の顔が熱くなっていく。
今、ナズーリンは私のことを好きと言った。
女同士なのに、私のことを、好きと……。
頭が真っ白になって、興奮していたから分からなかったのだろう。
ナズーリンがくすっと笑い、
「ありがとう、ご主人」
と、そっと言い残した事に。
記念すべき日にナズ星とは……やるな! やっぱりナズ星はいいですな。
じゃあ次は結婚記念日のナズ星をお願いします。
良き日に良き星ナズSS投稿…いいですなァ…
どうか、この100点をお納めくだされ
ちょっと調べてみたのですが、『虫の日』や『むしパンの日』など微妙な記念日ばかり。
きっと星ちゃんなら不器用ながらも暖かい言葉をかけられるんだろうなぁ。
くそぅ、彼女の純粋さが羨ましい。
とにかく、ハッピーバースデーディアへたれ向日葵様!!
評価ありがとうございます。
ちゃんと間に合いましたね……よかったよかった。
結婚記念日はペ・四潤様に任せました。
>15 様
評価ありがとうございます。
嬉しい限りですわ。
>コチドリ 様
評価ありがとうございます。
確かに今日は微妙な記念日ばかりなんですよねぇ……。
ありがとうございます!
>22 様
コメントありがとうございます。
正直な話をしますと、私は星蓮船と背景というのがよくわかってません。
なので、オリジナルの背景をよくつかわせて頂いています。
分からないのに書いてしまってすみません。
頑張って下さい!
ナズーリンに限らず、妖怪って誕生が曖昧だから、結構多くのキャラが「誕生日」というものに憧れてそうだなぁ
ナズにとって、星がいるというのはホント幸せなことですねv
評価ありがとうございます。
それなりにネットで調べるんですけど、やっぱり違和感とかはあるみたいです。
頑張りますわ!
誕生日ってのは、本当に憧れるだろうなぁって思います。