Coolier - 新生・東方創想話

退行

2010/06/02 01:16:22
最終更新
サイズ
30.17KB
ページ数
1
閲覧数
2355
評価数
5/58
POINT
3050
Rate
10.42

分類タグ


※前作、前々作とつながっていますが、お読みになられなくともあまり問題はありません。
 ただ、設定として『美鈴が星ちゃんと仲が良い』というだけです。





ある晩、薄暗い図書館で机の上に置かれた小さなランプの明かりだけを頼りにして、
パチュリー・ノーレッジは宵闇と静寂の中で孤独な読書を楽しんでいた。

館内は彼女と従者の小悪魔以外には誰もおらず、その小悪魔も傍らで寝てしまっているため、
パチュリーの耳に届くものは、彼女の安らかな寝息とページをめくる音だけだった。
区切りのいいところでパチュリーは、その視線を手元の本から隣で寝ている従者に移すが、
肩にかけてやったブランケットが床に落ちていない事だけを確認すると再び本に向き合う。

いつも主人より早く寝てしまう小悪魔をパチュリーは決して咎めたりしない。
むしろ体を冷やさないようにと、毎回ブランケットを掛けてやるくらいの施しをしている。
そうすることで翌朝、顔を真赤にしてあたふたする彼女の姿を楽しめるからだ。

「うちにいる赤髪は皆よく眠る子だわ。あなたもそう思わない?」

パチュリーは本から視線を外さないまま背後に立つ者に話しかける。
その声には小悪魔との安寧の時間を邪魔されたことに対する不満が含まれている。

背後からの返事はなかったが、そんなことには構わずパチュリーは言葉を続ける。

「主従水入らずの時間に水を差しに来たからには、何か特別な理由があるのでしょ?」

嫌味を込めたのが効いたのだろうか、宵闇に消え入りそうなくらいの小さな声で返事がきた。
その言葉にパチュリーは眉をしかめるが、本に向いたままなので背後の者にそれは伝わらない。

「私は構わないけど、許可と同意は得られたの?」

やはり口調は落ち着いているが、声音には驚きとあきれの混じった感情が漏れ出している。
背後の者はそれがおかしいのか、それとも自嘲なのか笑いの入った返答をよこす。

パチュリーは本を閉じ、小悪魔が寝ているのを確かめるとそこで初めて背後へと振り向いた。


※※※※※


その日、紅 美鈴の目覚めは最悪に近いものだった。日はもう高く遅刻が確定していた。
美鈴が目覚めて最初に感じたものは、全身を覆う気だるさと部屋中に蔓延した酒臭さだった。
寝ていた場所も慣れ親しんだベッドの上ではなく、ターンテーブルに備え付けられた椅子の上で、
そのテーブルの上には空っぽになった酒瓶でちょっとした森が出来てしまっている。


その半透明の森の奥には、美鈴の敬愛するレミリアがテーブルに突っ伏して寝ていた。
片方の手はだらりと机から垂れていて、もう片方の手は酒瓶を握ったままになっている。
いつも優雅な立ち振舞いを心がけている者だとは思えないくらいに豪快な寝方である。

(あぁ、昨晩は二人してハメを外したんだっけ……)

鉛のように重く、鈍くなった頭に手を添えて美鈴は昨晩のことを思い出そうとするが、
頭は少しでも何か考えるだけで、締め付けるような痛みがはしり邪魔してくる。
そのため、美鈴が思い出せたことはレミリアがチェイサーも肴もなしに、浴びるようにして
強いお酒を飲んでいる光景だけで、その他もろもろの記憶は欠如してしまっていた。

(とりあえずお嬢様をどうにかしないと……)

そう思い美鈴が椅子から立とうとすると、足に何かが当たり倒れて床を転がっていく音がした。
なんだ?と疑問に思った美鈴が足元を見てみると、そこいらに酒瓶が転がっており、中にはまだ
開けられていないものまで混ざっている。片付ける時に仕分ける必要がある。

美鈴は瓶を踏まないように気をつけてレミリアの元まで移動し、数瞬だけためらった後に、
失礼しますと一言だけ呟き、レミリアを腕に抱き自分のベッドまで丁重に運ぼうとした。

腕に抱いたレミリアは見た目以上に軽く、はるか以前のそれとほんど変わっていないことに、
美鈴はいくばくかの懐かしさと安堵をおぼえる。昔に戻ったように感じたのだ。

「め…いりん……?」

美鈴がはるか昔のことに思いを馳せていると、腕に抱く主人に名前を呼ばれた。
目が覚めたというよりは、たんに気が付いただけみたいで声も表情も寝ぼけたままだ。

「なんでしょうか?」
「あなたにこうやって抱かれるのも久しぶりね……」
「フランドール様は今でもよく抱かせてもらっています」
「……そう、今度は私も混ぜなさい。これは命令よ」
「かしこまりました」

はたしてレミリアは抱きたいのか、抱かれたいのか。はたまたその両方か。
美鈴はそのことが気になったが、聞かないでおいた。
どちらにしろ、美鈴にとっても楽しいひと時になるに違いないからだ。

「……………」
「お嬢様?どうかなされましたか?」
「……ん、なんでもないわ」
「もしかして具合が悪くなりましたか?」
「そこまで心配しないでも大丈夫……ただ頭が痛くて気だるいだけ。あとすごく眠い……」
「このままお部屋までお連れしましょうか?」
「時間的に部屋に行くだけでも面倒だと思うから、ベッド貸してくれない……?」
「かしこまりました」

美鈴はレミリアをベッドに寝かせると、最低限の身繕いをして部屋を後にした。
遅刻が決定しているからといって、いたずらに遅れて行くほど怠慢ではないのだ。


※※※※※



赤い髪が門の前に立っていた。
もちろん寝坊した美鈴ではない。よく見れば髪の色が違うし頭には小さな羽が生えている。
また彼女は門を守っているというより、誰かを探しているようで辺りを見回している。

「どうしました? 見たところ誰かを探しているみたいですが」
「ひゃ、なんだ美鈴さんか……じゃなくて。あの、その、えーとなんだっけ……」

急に声をかけられたからか、目の前であたふたする小悪魔の姿に美鈴は少し和んでしまう。
もうしばらくその姿を楽しんでいたかったが、彼女が何かしらの言伝のために来ているのは
見たところ明白なので、美鈴は惜しみつつも助け舟を出すことにした。

「その様子だと私になにか用があるみたいですね。パチュリー様からですか?」
「あっ、はい。至急図書館に来いと仰っていました」
「いつもながら理由までは、あなたにも話してくれていないみたいですね」
「そうなんですよ……あっ、でも今回はわりと真面目な理由みたいですよ」
「不真面目でも困りますが、真面目でも困りますからね。あの人の場合は」
「そう言わずに行って下さいよ。後でお仕置きされるのは私『も』なんですよ……?」
「なら仕方がありませんね、私が戻るまで門番を頼めますか?」
「はい頑張ります!……魔理沙が来ないことを祈るばかりです」


確かにあの子が来ると厄介だからねと一言残し、美鈴は来た道を帰り館内の図書館へと向う。
図書館へ歩みを進める間も、今回の呼び出しの理由をあれこれ考えてみるも、身に覚えを
見出せなかった。そしてそのまま美鈴は気が付けば、図書館の前まで到着してしまった。

美鈴はすぐに扉を開け図書館に入ろうとはしないで、気を使って念入りに中の様子を探る。
身に覚えがないいじょう、パチュリーの実験に被検体として参加させられる可能性が高いので、
何かしらの怪しい気配や魔力の類を感じたら、小悪魔には悪いが即座に尻尾を巻いて逃げるためだ。
料理の味見感覚で他人を実験に巻き込む彼女の悪癖に、素直に付き合うほど献身的ではないのだ。

幸か不幸か中から怪しげなものは感知できなかった。どうやら実験をするわけではなさそうだ。
しかしそのかわり図書館内にはパチュリー以外の気配が一人分だけあった。
それは美鈴もよく知るもので、それを感じ取ると同時に嬉しさで頬が緩んでしまう。

(そう言えば、今日はまだ見てないな……なんか変だ。いつもと違う……)

美鈴の緩んだ頬と神経が一瞬にして張りつめ心臓の鼓動が速くなる。嫌な予感がしたのだ。

いつもなら起床時間を少しでも過ぎると、起こしに来てくれる仔犬を今日はまだ見ていない。

部屋にレミリアがいたから配慮したのかと思っていたが、もしそうなら廊下に出た瞬間に
小言と不満を言うために姿を見せるはずだ。少なくとも今まではそんな感じだった。
それが今日は起こしに来ないだけでなく、一度も姿を見せないで何故か図書館にいて、
しかも感じ取れた気配はいつものに比べて弱々しく頼りなさげに感じる。
そしてパチュリーからの呼び出しときて、小悪魔曰くわりと真剣な話とのこと。

本当に絵柄が合っているのかはさておき、ピース同士は面白いほど噛み合って行く。
それに反し、出来あがっていく作品はとてもではないが、面白いどころか恐ろしいものだ。

美鈴の背中を冷たい物が濡らし、心臓の鼓動に合わせ熱くなったはずの身体に寒気を感じた。
頭の中を赤くて青い何かが占領し始める。そこから浮かんでくるものは、どれも黒くて白いもので
それが美鈴の神経を昂らせ追い詰めていく。気が付けば意思に先んじて体が動いていた。

「パチュリー様、何かあったのですか!?」

美鈴は図書館の扉を荒々しく開け放ち、そのままの勢いでパチュリーに迫った。
それまで物静かだった図書館内に、美鈴の遠慮のない慌ただしい足音が響く。
強襲や奇襲と言っても過言ではない過激な登場に、パチュリーも目を見開き持っていた本を
床にと落としてしまいそうになる。しかし寸前で掴み直し、一呼吸おき冷静な声で美鈴を諌める。

「静かにしなさい、みっともないわよ。あと、扉は開けたら閉めなさい」
「ですが―――」
「聞こえなかったの? ここでは静かにするのが決まりでしょ?」
「パチュリー様……! お願いです、からかわないで下さい……!!」

頭に血が上り暴走気味の美鈴に、パチュリーの言葉はいつものからかいにしか聞こえなかった。
そのため態度は懇願するかのごとく、されど声は荒ぶったままというなんとも不思議なことになる。
懇願と脅迫、相反する二種の要求を同時に受けパチュリーも反応に困ってしまい言葉が続かなくなる。
美鈴はその沈黙を凶報の意味としてとらえてしまい、感情のタガがはずれそうになってしまう。


「どうしたの? なにか嫌なことでもあったの?」

そんな時、咲夜が本棚のかげから出てきてくれたのは両者にとって幸運だと言えた。

咲夜はなぜパチュリーがうろたえているのか、なぜ美鈴が泣き出しそうにしているか、
状況を理解できてないみたいで、きょとんとした面持ちで二人を交互に見比べはじめた。
その間の抜けた動作に張りつめた空気が弛緩していった。



いつもと変わらぬ様子の咲夜の見た美鈴は、脱力してその場に崩れるようにして座りこむ。
それは緊張の糸が途切れたのだ。まさにその姿は糸の切れた操り人形そのものだった。
そんな美鈴の姿を心配したのか、咲夜が側まで駆け寄って来てくれ、手を差し出してくれる。
大丈夫? と差し出されたその手を美鈴は、少し力を込めて引き咲夜を自分の方へと倒れこませる。

「もう、今日はなんだか変だよ?いきなりこんなことして」
「よかった……無事だったんですね……てっきり何かあったのかと……」

美鈴は胸元で咲夜を抱きつつも何か怪我をしていないか、熱はないかと不良を探ってみたが、
右の人差し指に小さな切り傷を見つけた以外に、目立ったものは見つからず美鈴は胸元で
大人しくしている仔犬のぬくもりに安堵しかけていた。そんな時である。

「残念だけど決して無事ではないわ。気が付けない? 今の咲夜、いろいろと変でしょ?」

パチュリーの言葉が冷たい水となって、美鈴の耳をうったのは。
美鈴の返事を待たずして、魔女は言葉を紡ぎ続けていく。

「よく考えてみなさい。あなたの知る咲夜は、人前で大人しく抱かれるような性格をしていた?
 それに言葉使いだって、そんな子供じみたものだったかしら?もっと洗練されていたはずよ?」

美鈴は胸元の咲夜の顔を覗き込む。それに咲夜は安心しきった眠たそうな目で応える。
いつもなら薄く頬を染め、離れなさいと文句がくるはずなのに、嫌がる素振りすら見せない。

「咲夜さんの身に何があったんですか……?」
「簡単に言えば性格が退行したのよ。私の見たところだいたい十数年分くらいかしら」
「できれば症状……結果だけでなく、こうなった過程も教えて頂けませんか?」
「私の作った薬を飲んだからよ……そんなに怖い顔しないでくれる? 私にも責任の一端があるのは
 認めるけど、これは咲夜本人が望んで飲んだ結果なのよ?制作依頼だって咲夜からだし」
「咲夜さんが?しかし、なんでまたそんな意味の分からない薬なんかを?」
「咲夜が飲んだ薬は元々若返りの効果を期待してのものだった。だけど、さすがに薬の調合は微妙に
 専門外だから失敗したみたいで、肉体はそのままにして性格だけが若くなったみたい」
「それで元には戻るんですか? ずっとこのままだったりしませんよね……?」
「試作品みたいなものだし、最初から半日から一日で効果が切れるようにしてわるわ」
「よかった……すぐに治みたいですよ、咲夜さん……ってあれ」

美鈴の胸元から規則正しい呼吸が聞こえていた。どうやら仔犬は眠ってしまったらしい。
起こしては悪いと思い、美鈴は声を少しだけ小さくするようパチュリーに目配せする。
パチュリーは甘やかし過ぎよと呆れた顔をしながらも、その声は幾分か小さくなっている。

「事情は分かりましたけど、これからどうすれば?」
「幼くなったのは性格だけで肉体や能力、記憶は元のままだから、普段のように働けるはずよ」
「そうは言っても不安です。治るまで私が側に付いていてもよろしいでしょうか?」

美鈴の提案に、パチュリーは口元に手を当てて検討しはじめる。
その姿に美鈴は昔読んだある推理小説の主人公である探偵を思い浮かべてしまう。
その探偵は安楽椅子に座ったままで、どんな難事件でもたちまち解決してしまうのだ。
はてさてどんな返事がくるのかと美鈴が待っていると、パチュリーが口元から手を離すのが
見えた。どうやら事件は無事に解決できたようだ。早い事この上ない。

「本当を言えばレミィに相談すべきなのでしょうけど、今は酔い潰れて眠っているみたいだし、
 そのあたりのことはあなたに任せるわ。後から二人で報告すれば、なんとかなるでしょう」
「了解しました。ところで私の代わりの門番役はどうします? このまま小悪魔に頼みます?」
「てきとうな妖精メイドを見繕いなさい。あの子には司書としての仕事があるの」
「ではそうさせてもらいます。パチュリー様のお気に入りですものね、彼女は」
「なっ……」
「それでは失礼しました」

名探偵にひと泡吹かせた美鈴は、眠る咲夜を大切に抱きかかえ図書館をあとにした。
久しぶりに抱き上げた咲夜の身体は思った以上に重く、美鈴は仔犬の成長を嬉しく感じつつも、
それとは相反するはずの寂しさに似た何かが、意外なほど深々と胸に突き刺さってくるのに驚く。
そのため、背後から矢のように飛んで来るパチュリーの文句に胸を穿たれることはなかった。



※※※※※


さっそうと図書館を出た後、美鈴は咲夜の部屋にいた。

はじめは自分の部屋に向かおうとしたのだが、部屋の惨状を思い出し目的地を変更したのだ。
飲み干された空き瓶の森を見られたくないし、他にも咲夜には見られてはいけないものが、
散乱こそしていないものの、部屋の中でいろいろと放置されているのだ。
それ以前にレミリアだって休んでいる。寝起きの悪い主人の眠りを妨げることをしたくはない。
そんな部屋に今の咲夜を連れていこうとするほど、美鈴は大胆で不敵な性格をしていないのだ。


(さて、どうしたものか)
美鈴は二人分のお昼ご飯を作りながら、これからのことをあれこれ思案する。
幸いなことに咲夜の部屋には食材が多くあり、勝手にそれらを使わせてもらっている。
背後にあるベッドからは咲夜の寝息が聞こえてくる。起きる前には調理を済ませておきたいところだ。

まず考えなければいけない事は、寝ている咲夜をどうするかである。
パチュリーの指示に素直に従うのなら、寝ている咲夜を起こして職場まで連れて行き、
美鈴もそこで彼女の補佐をしてやればいいのだが、それについて美鈴はためらいがあった。
今の咲夜に働いて欲しくないのだ。
パチュリーが言うには、性格が退行しただけで記憶も元のままで能力だって使える状態とのことだが、
それでも美鈴は今の咲夜が普段通り働くことに対し、非合理的で感情的で私的な抵抗を感じている。
もはやただの自分勝手――エゴでしかないくらいに。

(まぁ、これは私が代わりにメイド業をすればいい。かなり久しぶりだけど)
(問題はなぜ咲夜さんがこんなことをしたのか……咲夜さんの動機だ)

図書館での会話ではパチュリーに意図して省略されてしまったが、最も気になるのはそこである。
パチュリー主催の実験に参加したのならともかく、彼女曰く咲夜からの依頼だと言う。
しかもその依頼内容が若返りの薬の調合ときている。気にならない方がおかしい。

(なんで若返りなんだろ、回りくどい。寿命を延ばすだとかなら少しは分かるのに)
(そもそも天寿に背く気はないって、前に言っていたような気がするんだけど……)
(気がかわったのかな? だけど、それならお嬢様や私に一言くらいくれるはずだし……)
(わかんないなぁ、あーもう、焦げてるし……これくらいなら食べられるかな……?)

美鈴は真っ黒な肉だったものを自分の皿へと移す。皿に乗せる時にカツンと硬い音が立った。
どうやら完全に炭化しているみたいだ。食べても死にはしないだろが、美鈴とて気分は悪くなるだろう。
まいったなぁと苦笑を洩らしながらも、残った焦げを取り払い美鈴は次の肉を火にかける。
後ろで寝ている咲夜の分だ。今度は焦がすわけにはいかない。咲夜がお腹を壊してしまう。


「久しぶりの料理なんだから、こんなものですよね……うん多分」
美鈴の目の前には二つの皿が置いてある。その上には黒パンに焼いた肉と洗った野菜を挟んだだけの
簡素なサンドが乗せられている。しかし片方のサンドの肉は黒パンよりも、はるかに黒くなっている。
日頃、お酒の肴くらいの簡単なものしか作らない美鈴にはこれが限界だった。

「咲夜さん、起きて下さい。お昼ご飯ができましたよ」
美鈴は咲夜の身体を軽くゆすってみた。咲夜はう~んと言うだけで目を覚ましてくれない。
しばらく同じ事を続けてみるが、咲夜が起きる気配は一向にしない。眠りが深いのだろうか。
まいったなと次は頬をつついてみたが、ふにふにしていただけであまり意味はなかった。
しかたがないので、美鈴は一人でお昼ご飯を食べることにした。

美鈴は焦げた方のサンドを口に運ぶ。顔に近づけるだけで香ばしい炭のにおいが鼻をかすめていく。
一口かじってみる。ガリッ、黒パンの間に挟まれた焦げた肉が耳触りだけはいい音を立てる。
口内の水分をパサパサの黒パンと焦げた肉が無遠慮に吸いとっていく。水気がある野菜も多めに
挟んだはずなのだが、それら二つの前には力不足らしく、どんどん美鈴の口内は干からびていく。
もちろんそれと同時に舌の上には炭の鮮烈な苦さが拡大している。嚥下するのが名残惜しいのか、
なかなか喉はその焦げに胃への入館許可を出してくれない。まるで白黒を相手にしているみたいだ。
ゴクリ、早いところメイド業につきたい美鈴は思い切って強行突破に出た。むろん突破されるのは
自分の喉だ。食道の壁に噛み砕いた炭のカケラがチクリと刺さって不快な痛みをおぼえる。
美鈴はそれをコップに注いだ水でこれまた無理矢理に流しこむ。食道に刺さった炭のカケラを
押し込むだけではなく、渇いた口内に潤いを与えられる。まさに一石二鳥の手である。

水と一緒に炭を飲みこんだ美鈴は一息つき、まだまだ残っているサンドにその眼差しを向ける。
第一陣はしのげたがこれから先どうなるかわからない。肉体的にはまだ大分余裕はあるものの、
精神的に見れば余裕なんてない。だから美鈴はこのまま一気に勝負をつけるべきだと判断した。
残った炭を一気にお腹に収めるのだ。想像するだけで口内から水気がどんどん奪われていき、
呼吸も荒くなっていく。決心がつかない。このままでは持久戦になってしまうだろう。それはまずい。
早く食べ切らないと仕事に支障が出てしまう。おそらく食べ切っても違うかたちで出てくるが。

「……いきます」

そう呟き美鈴は最終決戦へとのぞんだ。


※※※※※


「さて、行きますか」
焦げ肉サンドとの戦闘をなんとか終えた美鈴は、仕事に行くために椅子から立ち上がる。
咲夜に声をかけてから行きたいが、彼女は依然として可愛い寝息を立てて寝ている。
そのため美鈴はテーブルの上に手紙を置いていくことにした。置き手紙というやつである。
内容は至ってシンプルで、あまり部屋から出ないで大人しく自分の帰りを待つようにと、
美鈴が幼い咲夜によく言い聞かせていたものだ。咲夜はこの言いつけをよく守ってくれていた。

「またこの言葉を使うことになるとは、思ってもいませんでしたよ。咲夜さん」
そう言って美鈴は咲夜の頭を数回撫でてから、静かに部屋をあとにした。



美鈴にとって久しぶりのメイド業は思いのほか順調にこなせた。
戦力として数えていなかった妖精メイド達が意外なほどせっせと働いてくれたのだ。
その姿を見た美鈴も負けじと業務に勤しみ、日が高いうちは掃除から洗濯まで彼女らと協力してこなし、
日が沈み夕飯時になると小悪魔に手伝ってもらい、美鈴の部屋で眠る主人達の夕飯を用意した。

美鈴が夕飯を持って自室に戻ってみると、レミリアはまだベッドで寝ていた。
床に散乱する酒瓶に気をつけながら美鈴は、ベッドに近づきレミリアに声をかけてみる。

「お嬢様、起きて下さい。日はもう沈みました」
「……あと少しだけ寝させてくれない?7000分くらい?」
「それ、ほぼ五日分です。そんな冗談を言わずに起きて下さい」
「美鈴のケチー。主人になんたる口のきき方」

美鈴はこのまま主人とのお喋りを楽しんでいても良かったが、それには一つ問題があった。
それはお酒嫌いのフランドールに酒宴をしたことが露見してしまうことだ。
もちろんそれはレミリアにも言えることなので、美鈴はそれを引き合いにだすことにした。

「そんなこと言っているとフランドール様にバレますよ?」
「……それは困るわね。あの子に見つかると今度こそアウトだわ」
「この酒瓶だらけの部屋で熟睡。いかなる言い訳も通じませんよ」
「……あの子はまだ寝ているのよね?」
「はい。確かめてはいませんが、おそらくは」

妹がまだ床を抜け出していないことを知ったレミリアはゆっくりと上半身を起こした。
美鈴はそんな主人に夕飯を差し出す。今晩のメニューは酔い覚ましのための特製お粥だ。
二日酔いに多分効く薬草をふんだんに使っている。それらは庭園から採取したものだ。

「どうぞお嬢様。一人で食べられますか?」
「いつもならグーで殴るんだけど、今日は許す。だから手伝いなさい」
「やはりまだ酔いが完全に抜け切っていませんか。 はい、どうぞ。熱いですよ」
「……昨夜はかなり飲み過ぎたから。この味付け、咲夜のじゃないわね」
「おお分かりますか、さすがはお嬢様。今日は私が腕によりをかけてみました」
「まぁ今は理由を聞かないでおいてあげる。だから、ほら次をよこしなさい」
「……ありがとうございます。そんなに慌てなくともお粥は逃げませんよ」
「いつも咲夜の洗練された料理ばかり食べているから、今日みたいな大雑把な味は新鮮なのよ.」
「お褒め頂き光栄です。どうぞ、あーん して下さい」
「褒めてなんかないわ。それとあまり調子にのるな、門番風情が。あーん」
「はい、あーん」
「……ちょっと熱いわね。次から少し冷ましてくれない」
「かしこまりました。そういえば猫舌でしたっけ?」
「治ったと思ったら、この頃なぜか再発したのよ」
「それでも以前と比べるとかなり良くなっていますよ」
「そうかしら、なにしろ何百年ぶりのことだから分からないわ」
「そうですか……これくらいの熱さならどうですか? あーん」
「あーん………これくらいがちょうどいいわね。うん、生温かい感じがいい」
「生温かいって……せめて人肌と言いましょうよ。食べ物には相応しくないです」
「でも私達は人ではないわ。私の体温はもっと低いし、あなたは高い方でしょう」

お粥が残らずレミリアのお腹に収まるまで、雑談は絶え間なく続くことになった。


※※※※※


レミリアは美鈴にお粥を食べさせ終わると一人で自分の部屋まで帰っていった。
お粥が効いたのか単にかつがれただけなのかは分からないが、その足取りはしっかりしていた。
一人残された美鈴は、部屋中に散らばる空き瓶やら食べ残しやらゴミやらを袋に詰め込み片付け、
夜天の下それを担いで離れにある焼却炉まで持って行く。その姿は季節外れのサンタみたいだった。

ゴミを出し終えて屋敷へと向かいながら、美鈴はレミリアが帰り際に話した言葉を思い出す。

「あなたはどこにいるべきなの、紅 美鈴?」

それは優しげな声だった。
この問いに美鈴はお嬢様のところですと即答した。もちろん嘘偽りのない本心からの言葉だ。
しかしながらレミリアは、それでは満足しなかったらしく苦笑を交えて問いを重ねてきた。

「それだけ?本当にそれだけなのかしら?」

この確かめるというよりは、試すに近いレミリアの物言いを美鈴はきょとんとしてしまい、
その反応を見たレミリアは、やれやれといった表情を見せたあと退室していってしまった。
その手にはまだ開けていない酒瓶が握られていた。今晩も飲むつもりなのだろうか。



美鈴が咲夜の部屋に戻ると、部屋には灯りが点いていなく完全に闇に包まれていた。
真っ暗な部屋の中、咲夜はベッドの上にちょこんと膝を折り曲げて座っていた。
ふとテーブルの方を見てみるとお肉サンドは、美鈴が最後に見たままでそこに置かれており、
隣の置き手紙だけがぐしゃぐしゃになって転がっている。どうやら仔犬はご立腹のようだ。
美鈴は噛みつかれないよう、おそるおそる仔犬の側に近づき、立ったまま声をかけてみた。

「ただいま……遅くなりました、すみません」
「……おかえりなさい」
「灯り点けてもいいですか……?」
「……だめ」
「お昼ご飯、食べなかったんですね」
「……うん」
「すみません。もう少し上手く作らないとだめですよね」
「……そんなことない、美味しそう。堅そうだけど」

自嘲気味に笑う美鈴に対し、咲夜はあくまで冷めた態度でのぞんでくる。本心が見えてこない。
それでいて返事はしてくれる。それが美鈴にとっての唯一の救いといえた。咲夜は基本的に素直なのだ。
もう噛みつかれる心配はないだろう。美鈴はそう判断し、咲夜のすぐ側に腰を下ろす。
咲夜が慌てて背中を見せるように身体の向きを変えた。完全に冷め切ってはないみたいだ。

「えっと、今さらなんですけど……咲夜さん、怒っていたりしますよね?」
「……ちょっとだけ」
「うぐ……、勝手にお仕事を取り上げたからですよね……?」
「……それもあるね」
「それも? 他にも何かしでかしましたっけ?」
「……わからないの?」
「すみません」
「……教えて欲しい?」
「できればお願いします」
「……じゃあ、許して欲しい?」
「それは絶対にお願いします。一生のお願いです」

美鈴の必死な様子がおかしいらしく、咲夜の声がだんだん元気に、そして笑いを含むようになる。
間もなく陥落してくれるだろう。長年にわたり付き合いのある美鈴の勘がそう告げていた。
しかしその勘は半分だけ当たって、もう半分は外れてしまうことになる。

「教えてなんかあげない、だけど許してあげる」

そう言って振り向いてくれた咲夜の姿が性格相応のもの、とても幼く小さく見えたのは、
二人がこのやりとりと似たことを、かつて何度もやってきたからに違いなかった。
咲夜が怒って美鈴がそれをあやす。これを繰り返して二人は親密になっていったのだ。

「お腹減った。めーりん、何か食べさせて」
「食堂に行けば何か残っているかもしれませんね、行ってみますか?」
「そこに食べるものがあるじゃない。それが食べたい」

咲夜はテーブルに置き放しにされているお肉サンドを指さす。見るからからに硬質化している。
ただでさえ硬い黒パンを使っているのだ。乾燥してしまいそれに拍車をかけてしまっている。
決して食べられないわけではないが、妖怪ならともかく人間の口で咀嚼するには向いていない。

「咲夜さんには硬すぎますよ。これは後で私が食べますから食堂に行きませんか?」
「それがいいの。めーりんが作ったのが食べたいの」
「どうしても……ですか?」
「うん、どうしてもそれが食べたい。食べさせてよ、この前みたいに」
「……わかりました。とりあえず動きましょうか、ここではお布団が汚れてしまいます」

美鈴がベッドから立ちあがると、咲夜が諸手を斜め上に伸ばしてじっと美鈴の方を見ていた。
やれやれと思いながらも美鈴は身を屈めて咲夜の身体を抱きあげ、そのままテーブルまで運ぶ。
そして美鈴は咲夜を抱いたまま椅子に座った。咲夜からしてみれば、テーブルを背にして美鈴の
膝の上に乗り、お互いの顔を向き合わせるかたちになる。これが咲夜の一番好きな体勢なのだ。

「えっと、本当にやらないとダメですかね……? 今日は紅茶も何もありませんよ?」
「……美鈴、嫌なの?それならしょうがないかな……」
「いやいやいや、嫌ではないです、はい。ただ……恥ずかしいというか……」
「……やっぱり嫌なんだね」
「だから違いますって! 嫌なわけありません。……喉を詰まらせても知りませんよ?」

そう言って美鈴はお昼からずっと放置されているお肉サンドに手を伸ばし、自分の口へと運ぶ。
それをできるだけ柔らかく、細かく飲み込みやすくなるようにと念入りに何度も咀嚼しつつも、
自分がそれを飲み込んでしまわないように、細心の注意を払う。気分は親鳥である。

その時、咲夜は薄い唇を少し開けて、まだかまだかと期待をにじませた瞳に美鈴を写していた。
その様子は仔犬というよりも、餌を待つヒナ鳥に近いものがあった。


※※※※※


給餌を終えた後も、どうやら咲夜は美鈴を帰らせる気などないらしく膝上に留まり続けた。
美鈴は昼間に一人きりにしておいた負い目もあり、その占領を黙って認めざるをえなかった。
占領だけではない。ときおり咲夜が出してくる要求全てに応えるはめになってしまっていた。
もはや事実上の無条件降伏である。だからといって美鈴にそれを厭う気持ちなんて微塵も無い。
そもそも厭う理由がないのだ。そしてそれは咲夜がうとうとしはじめるまで続いた。

「眠たそうですね。そろそろ寝た方がいいみたいですね」
「うん、そうする。……このままここで寝てもいい?」
「どうせならお布団で寝ませんか? そっちの方が気持ちいいですよ」
「……美鈴も一緒に寝てくれる? それならお布団で寝てもいいよ」
「わかりました。二人でお布団にくるまりましょう」
「ちゃんと朝まで一緒だよ? 途中で部屋に帰っちゃ嫌だよ」
「そんなことしませんよ。朝までずっと隣にいますから」

美鈴は咲夜が寝付くと、いそいそと退室していた頃を思い出して苦笑してしまう。
そういうことをすると次の日、咲夜の機嫌がすごく悪くなり、なだめるのが大変だったのだ。

「約束だよ、絶対に置いて帰らないでよ。朝までぎゅっとしていてよ?」
「いつもそうしているじゃないですか。今日だってそのつもりです」
「うん、わかった。じゃあお風呂に行こう。美鈴の背中流してあげる」
「お気持ちは嬉しいんですが、二人で入れるほど広くないですよ」
「だったらどうするの? 交代して入るの?」
「いえ、私は自分の部屋で入ってきます。着替えなければいけませんし」
「ちゃんと戻って来てよ。さっき約束したんだからね」

美鈴は咲夜の頭を撫でてから、帰ってきますよと一言だけ残し退室した。
咲夜との約束を守るため、自室へと向かう美鈴の足はいつもより速かった。




「おかえり、美鈴」
「ただいま、咲夜さん」

美鈴が咲夜の部屋に戻ると、すでに咲夜は少し大きめの寝巻を着てベッドに腰かけていた。
本来は深緑色だったはずの寝巻も、今では色あせてしまい薄緑色になってしまっている。
そんな古くて大きさも合っていない寝巻を咲夜は、捨てようとせず修繕しながら使っていた。
美鈴が新しい物を買ってきても、咲夜は受け取るだけで一向に着てくれないのだ。

「そろそろ新しいのにしませんか? 何着か用意しましたよね」
「これだってまだ着られるよ。それに新しいから嫌なの、美鈴のお古が欲しいのよ」
「それだと少なくともあと数年はかかっちゃいますよ」
「早くお古にならないかな。そうしたら私がまた貰うのに」

咲夜がすぐ隣に座った美鈴の袖を引っ張りながら不満そうに呟いた。
美鈴の着ている青い寝巻は、まだまだ濃い色を保っている。お古と呼ぶには少々苦しい。
それもそのはずで、美鈴の寝巻はほんの数カ月前に咲夜本人がじきじきに『投資』した物なのだ。
もちろん、それまで美鈴が着ていたお古の寝巻は、半ば強制的にお下がりとして咲夜の物になった。

「今回は私も気に入っていますから、咲夜さんの物になるか分かりませんよ?」
「ダメ、そんなのズルい。今度のもちゃんと私にお下がりしてよ」
「どうしても欲しいですか? いい子にしていたら上げますよ」
「……美鈴のいじわる」
「そろそろ寝ましょうか、いい子はもう寝る時間です」

からかわれたことに文句を言いながらも、咲夜は美鈴の言葉に素直にきいてくれた。
お下がりが欲しいのもあるが、単に眠たくて仕方がなくなってきたからなのだろう。
お布団に入った美鈴は、胸元に潜り込んできた咲夜をぎゅっと抱きしめてやる。

「……それで、いつから元に戻っていたんですか? 咲夜さん」
「……あら、気が付いていたの、さすがは美鈴ね。」

胸元から聞こえてきた咲夜の声は、先ほどまでの幼さや拙さはなく凛としている。
美鈴は、やっぱりですかと溜息をつきながら、咲夜を抱きしめる力を少し弱めてやる。
腕の力が弱くなったのを感じた咲夜は、腕から抜け出し美鈴と頭の位置を合わせた。

「付き合いが長いですから、なんとなくカマをかけてみただけです」
「どちらにしろ、私の負けみたいね。……何から訊きたい?」
「そうですね……さっきも訊きましたが、いつから元に?」
「貴方が入浴しに部屋に帰った時よ。それまでは退行したままだったわ」
「おお、私の予想とぴったしですね。その当たりから、咲夜さんの口調に違和感を持ったんです」
「……一番に訊きたいことは他にあるはずよ? 訊かなくていいの?」
「それは明日にしときますよ。今晩はこのまま寝てしまいましょう」
「……意味が分からないのだけど?」
「さっき約束しましたから。今晩はぎゅっとして寝てあげると」
「……さらに意味が分からないわ」
「そう言うわりに乗り気ですよね。いつの間に潜り込んだんですか?」

気は付くと、咲夜はすでにお布団の中に潜って身体を密着させてきていた。
美鈴は、やれやれと苦笑しながらも再び咲夜の背に手を伸ばしてぎゅっと抱いてやる。
美鈴の腕に込める力は自然とさっきよりも強くなる。咲夜が元に戻っていたからだ。
咲夜も強くなった力の分だけさらに自分の身体を美鈴にくっつけさせた。嬉しいのだ。

「おやすみなさい。美鈴」
「おやすみなさい。咲夜さん」

同時に二人は眠りの挨拶を交わした。もちろん意図して合わせたわけではない。




※※※※※


「それでどうして咲夜は、あんな注文をしたのかしら」
「端的に言えば美鈴に相手して欲しかっただけみたいよ、若返り自体はあくまで手段」
「上手いこと言ったつもりかしら?」
「なんのことかしら?」
「……いや、なんでもないわ。気にしないで」
「変なレミィね。まぁ、それはいつものことだし、話を戻してもいいかしら?」
「……言いたいことはあるけど、今は早く話を進めて」
「こほん、美鈴には館外にも、仲のいい友達がいるのは知っているわよね?」
「あぁ、あの虎妖怪のこと。たまに美鈴が話題にあげるわね」
「そういうことよ、レミィ」
「どういうことよ、パチェ」
「……咲夜は美鈴が虎妖怪と仲良くなって、構ってくれる時間が前よりも格段に少なくなったから、
それを取り戻そうとしたの。それに美鈴は他にも妹様の遊び相手だとか妖精達とも遊んでいたり
するでしょう。だから咲夜が幼い頃と比べたら天と地の差があるの。咲夜はそれが不満だったの」
「……その気になれば、美鈴を独占できるでしょうに」
「そのあたりは咲夜の性格よ。あの子は直接的に自分の望みを表現しないから」
「すれば楽なのにね。私なら美鈴をどこかに閉じ込めちゃうけどなぁ」
「……咲夜を育てたのが美鈴でよかったわ」

主人とその親友の楽しげなやりとりを、小悪魔は声を押し込めて笑う。
小悪魔は笑うだけでなく、毎日が楽しい職場に召還されたことを神に感謝していた。



なお姉の部屋で酒瓶を発見したフランドールが、怒りのままに現れるのはここより数刻後のことである。
そして、小悪魔は再び神に祈りを捧げることになるのだった。
小さい頃は時間の進みが、今と比べてとても遅く感じていました。
せめて感覚だけでもあの頃に戻りたいです。※都合の悪い時は除く。

全ての読者様に感謝です。


「退行」と「対抗」のことなのですが、ただの偶然の産物です。
今回、咲夜さんは「対抗」と呼べるほどに前向きな手段を取ってはいませんから。
砥石
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2560簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
美鈴に抱っこされたいっ!!!w
というかいいなあ~この二人の関係は、すっごく和む~w
例えは星じゃなくても、他のちっさい娘とかにもパル②してるんだろうな~。まぢでかわいい咲夜さんwww

始終ニヤニヤしてましたよwww
面白かったですっ!
13.100名前が無い程度の能力削除
瀟洒でない方がいいね、美咲の咲夜は。
14.無評価名前が無い程度の能力削除
ひょっとして「退行」は星やフランとかに咲夜が「対抗」しようとしているのとかけてたり?
23.100名前が無い程度の能力削除
美鈴に構って欲しくて甘えたくて回りくどい手段を講じる咲夜さん萌える、そして咲夜主義な、母で恋人な美鈴にも萌える
25.90コチドリ削除
ありゃ、本当に噛まれちゃいましたね、嫉妬した仔犬ちゃんに。
美鈴ならこんな甘噛みの方が逆に効果抜群なんだろうなぁ。

ノンシュガーのカフェオレのような、自然な甘さが何とも良い感じのお話でした。
26.100名前が無い程度の能力削除
お古の寝巻き欲しさに新しい寝巻きを用意する咲夜さん、可愛すぎる!
つまり、一人で寝ていても美鈴に包まれている気分を味わいたいのだね?!