霊夢は困っていた。
度重なる出費(主に神社倒壊)で帳簿を埋め尽くす字が真っ赤であることに。
これには財政難から名がついた紅魔館でさえ舌を巻くほどであった。
困り果てた霊夢はある日思いつく。
そういえば、博麗アミュレットって狙ったとこに飛んでくなー、もしかしたら、思ったものを持ってきてくれるんじゃない? と。
おもむろに座布団代わりにしていたアミュレットを手に持つと、霊夢はそれを放り投げた。
胸に描いた野望は唯一つ。金である。
一刻ほど茶を飲んでのんびりと待っていると、アミュレットが戻ってきた。その薄っぺらい風貌には似合わない輝きを放つ石を乗せて。
石に負けじと目を輝かせ霊夢は確信した。これはいけると。
数日後、不思議な店が立つ。
看板には達筆な字で
「山田屋 失せ物探します」
博麗アミュレット改め山田君の物語の始まりである。
からころと店の鈴を鳴らしてお客が入ってきた。
がらんどうの店内を見て、僅かに驚いている。
そんなお客に向かい、霊夢は声をかけ、机の前へと誘う。
「どうぞ。で、どんな依頼?」
「ええ、実は……」
おずおずと机の前まで歩み寄り、ぼそぼそと静かに依頼内容を伝える。
よほど知られたくないことなのかと、霊夢は少し首を傾げるが、話を聞き得心した。
「なるほど、宝塔を」
「ええ……」
依頼者は常習犯らしく、よく宝塔を失くす。
その度に毎回毎回部下のダウザーに頼んで一緒に探してもらっていたのだが、いい加減呆れられた。
にもかかわらず、また失くしてしまった。
頼もうにも頼めず、1人で探せども見つからない。
困り果てて、泣く泣くこの怪しい店に頼ることにした。
話を聞き終え、霊夢はおもむろに山田君を依頼者に渡す。そして使用の為の説明を始めた。
欲しいものを胸に描いて山田君を投げる。
説明を受け、狐につままれた様な顔をする依頼者。しかし、理解はしたようで、半信半疑といった風に山田君を投げる。
「少しばかり時間がいるわ。お茶でもどうぞ」
すすめられるがままに椅子に座り、お茶をすする依頼者。どこか落ち着かない様子でそわそわとしながら。
千秋と思い違うほどの時間を経て山田君が戻ってくる。
探し物の宝塔を乗せ、それに引っ付いて離れない鼠をずるずると引きずりながら。
宝塔に顔を綻ばせ、鼠に驚愕の表情をあげる依頼者。
とりあえず宝塔を静かに剥ぎ取り、隠すように後ろ手にし、鼠に話しかける。
「な、ナズーリン。な、なにをしているのですか?」
ゆったりとした、気品さえ感じさせる優雅な仕草で体を起こす鼠。
服についた埃をはらい、依頼者に顔を向け言う。
「やあ、ご主人。君こそこんなところでなにしてるんだい?」
これ以上ないくらいの笑顔なのに怯える依頼者。その震えっぷりは鼠の如し。
「な、なにって散歩ですよ、散歩。やだなぁ」
「ふーん、そうなのかい。ところで、その後ろ手に隠したものはなんだい?」
「え、こ、これですか。これはそのなんて言うか、その――」
「ああ、そう言えば、さっき道端で宝塔が落ちているのを見つけたんだ。偶然な事にここの看板には「失せ物探します」なんて書いてある。まさかではないだろうねえ?」
「え、ええ。そんな事あるわけないじゃないですか。あはは」
乾いた笑いが広い店内を支配する。
緊張に包まれ、先ほどから依頼者の冷や汗が止まらない。誤魔化せば誤魔化すだけ酷くなる。
いよいよ耐え切れなくなる。あは、は、と力なく続いていた笑いを切り、勢いよく謝る依頼者。
「まさかでした! ごめんなさい!」
殺人的な勢いで90度の角度に腰を折る依頼者の頭をぽんぽんと軽く叩く鼠。少しだけ唇をとがらせ言う。
「どうして謝るんだい?」
「そ、それは……。また宝塔を失くしてしまって、それで、その……ナズーリンが怒ってるのかと……」
「怒る? 私が? 何を今更。私はただご主人の言っても直らない失せ物癖にほとほと呆れているだけだよ」
そこで恐る恐る顔を上げる依頼者。目の前の拗ねているともとれる顔をした鼠を認め一言。
「……拗ねてるんですか?」
予想外の言葉に虚をつかれ、一瞬きょとんとした顔をする鼠。やがて意味が脳まで届いたのか、顔を赤く染め反論する。
「な、何を言ってるんだいご主人! 私が拗ねてるだなんて、一体どこからそんな愚昧な考えが導き出されるんだい? ああ、その駄脳かい? だったら山の河童に頼んで交換してもらうといい! 機械と妖怪のハイブリットで新たな歴史の一ページを生み出すなんてどうかな!」
「そんなにむきにならなくても……」
半べそをかきながら必死にあげた反論の声は届かず、糾弾は続く。
「大体ね、物を失くすのはしょうがない。うん、間違いは誰にでもあるんだ」
「え、じゃあ失くしてもいいってこと――」
「駄目に決まってるじゃないか!」
「はい……」
「ただね、失くしたらそれなりの態度ってものがあると思うんだ。仮にもご主人はそれなりの地位があるんだ、そんな妖怪がわざわざ自分の印象を貶めるような行為をするなんてどうかと思うよ」
「はい……」
「だからね、身内の恥は内で、そう、私がいるんだから、遠慮せず頼めば……ごにょごにょ」
だんだんと尻すぼみに小さくなる鼠の声。心なしかどこか恥ずかしそうにしている様にも見える。
それを知らず、いつの間にか正座で聞いていた依頼者は足の痺れに耐え切れず答える。
「分かりました。今度からはきちんとします。だから、お願いします、ね?」
涙目で、狙わず鼠の心を掴んだ依頼者。分かったなら、と渋々納得する鼠。
「ふう、じゃあ、今日はもう帰ろうか」
「はい」
どちらからとなく手を繋ぐ2人。今日は悪いことしたから、ご主人の晩御飯は銅のスプーンに格下げだ。えーそれはちょっとー。なんて、他愛もない会話をしながら帰路につく。
姿が見えなくなるまで霊夢は呆然と立ち尽くし、ふと気づく。あ、依頼料と。
気づいてから山田君が空に輝く流れ星となるまで数秒とかからなかった。
戻ってきた山田君に乗っていたのは銅のスプーンであった。
橙にあげて泣いた。
幻想郷失せ物リストのトップスター寅丸星を救ったことで失せ物界の間では知らぬ者などあんまりない状態まで有名になった山田屋。
沢山の人が失せ物を探してもらいに訪れた。
ある死神は言った。
休みが欲しい、と。
山田君を投げた。
死神の上司と死闘の末重傷を負わせ、見事死神に休暇を与えた。
ある覚りは言った。
妹がなぜ瞳を閉じたのか知りたい、と。
山田君を投げた。
アロンアルファを乗せ戻った。
湯で揉み洗いしたら、見事開いた。
ある吸血鬼は言った。
ぎゃおー以外の鉄板ネタが欲しい、と。
山田君を投げた。
グングニルを乗せ戻ってきた。
とりあえず手に取り投げてみた。そして一言。
これがほんとの投げ槍。
ある月の姫は言った。
職が欲しい、と。
山田君を投げた。
団扇を乗せ帰還。
とりあえず手に取り扇いでみた。
桶屋が儲かった。
とにかく沢山の人が訪れた。
そして、今日もまたお客が1人訪れる。
からころと入り口の鈴を鳴らし、男が入店する。
「いらっしゃい。どうぞ」
霊夢は自分が座る椅子の対面の椅子をすすめる。
迷いなく椅子まで歩みを進め、静かに椅子へと座る男。
それを確認し、霊夢が口を開く。
「どんな依頼で?」
淀みなく、はっきりと男。
「実は、オチを探してまして」
「オチ?」
よくわからないと、小首をかしげる霊夢。が、今までも何回かそういう事はあった。依頼者しか理解しえないもの。
しかし、大抵山田君を投げれば、すぐに目の前に現れてはっきりするのだ。霊夢は迷いなく手渡し、使用の説明をした。
半信半疑といった顔、これもいつもの光景であった。やがて、決心がついたのか男が山田君を放り投げる。
「待ってる間お茶でもどうぞ」
すすめられるがままにお茶を頂く男。その様はどこかすっきりとしていた。
山田君が一筋の線となって一刻ほど、黒い球体を乗せ戻ってきた。
得体の知れないそれに2人は少しばかり怖気づく。黒光りするライン、悪意そのものを彷彿とさせるオーラ。
調べてみようと、遂に男が動き出す。
とりあえず、ラインに沿ってなぞる。綺麗な丸で、始点へとすぐに戻ってしまった。
次は他をとあちらこちらをまさぐっていると、僅かな突起を見つける。
唾を飲み込み、気を落ち着かせてから、そこを調べる。
台地のようなそれはひし形で、中央から紐がひょろりと伸びていた。
それに触れ、男は全てを理解する。
おもむろにポケットに手を突っ込むと、ライターを取り出した。
静かにそっと紐に火をつける。
ジジジと音をたて引火した。
綺麗な赤が走る。
そこで霊夢は漏らした。
「なるほど」
世界は光に飲まれた。
にしても山田君つえぇw
ちょおま
タグが卑怯過ぎるw
ていうか霊夢はわざわざ店を開かなくても自分でお宝集めたほうが儲かるじゃないか。
これ絶対アレだよね?困った星ちゃんと泣きつく星ちゃんが見たくてナズーリンがわざと隠してるだろ?
山田君!作者に座布団1枚やりなさい!
やー投げやりはすごかったw