※注意※
このお話は、作品集114「紅霧異変が解決しない」の続きになっています。
お読みになる際は先にそちらからお願いします。
《STAGE5 紅い月に瀟洒な従者を》
「あなたもよくやるわねぇ」
呆れ半分、感心半分の呟きを咲夜が漏らすと同時に、魔理沙は今回二度目の被弾をした。もう1ミスも許されない。
「たはは、どうもご褒美がないとやる気が出ないタチでな」
「今回で最後になってもいいからさ、なんかニンジンぶらさげてくれよ」
軽い調子で魔理沙は言った。
そんな程度で私に勝てると思っているのなら大間違いだ。
どうやら既に諦めが入っているらしい魔理沙に、若干の失望を込めて言う。
「そうね。もしあなたが今日、私に勝つことが出来たらなら」
「私に可能な範囲でひとつ、なんでもお願いを聞いてあげましょう」
魔理沙の両目が輝いた。同時に、どこからか知らない女の声が聞こえた気がした。
時を止めて、魔理沙の周りに数百本のナイフを設置する。全方位から多角的に、隙無く配置されたそれらは、動き出す時と共に時流に乗って加速し、迸る銀閃が魔女を被弾させる――
今までと全く同じ展開。戦いにすらならないわね、と咲夜は思った。
――はずだったのに。
そして時は動き出す。魔理沙の姿が消えている。影も形もなく。そんな馬鹿な、一瞬にも満たない須臾の間に消えてのけるなんて手品、時でも操らなければどうやって?
「あんたを倒せば、私がメイド長になれるのかな?」
背後に立った魔理沙が、八卦炉を突きつけていた。
零距離であの魔砲を打ち込まれれば、いくら時を操ろうとも私の認識が能力を発動させる前に、被弾音が高らかに私の敗北を告げるだろう。
「メイド長になる以前に、あなたメイドじゃないでしょうに」
「なんだ、メイドじゃなきゃなれないのか。残念だぜ」
ちっとも残念じゃなさそうに魔理沙は言う。
「聞いても良いかしら。どうやって瞬間移動したのか」
「なに、あんたのと違って種のある手品さ」
おもむろにスペルカードを一枚、掲げてみせる。
スペル名は「転移『亜空穴』」。
今までこいつが一度も使ったことのないものだ。つまりさっきの声は、このカードに込められていたスペル宣言なのだろう。
「ボムの内訳が一種類じゃなければいけないなんて、誰も言ってなかったからな」
「知り合いの巫女に頼んで、一枚だけ瞬間移動のできる符を作ってもらったのさ」
本当は結構前に作ってもらっていたのだが、今日のようにうっかりお願いなんて口に出すのをひたすら待ち、魔理沙が今まで出し惜しみしていたのを咲夜は知らない。
「ま、今回は私の負けね」
聞いてみれば確かに種の割れた手品だ。だが負けは負け。
こいつならきっと、気まぐれで我が儘な主の眼鏡にも適うだろう。
退屈しのぎには十分な相手となるはずだ。
「……それで? 魔女殿は一体どんなご褒美が欲しいのかしら?」
「ロンスカ穿いて口で裾を咥えてパンツがよく見えるようにしつつ両手で裾の端をちょこんと持ってくれ」
時が止まった。待って私能力使ってない。
「ロンスカ穿いて口で裾を咥えてパンツがよく見えるようにしつつ両手で裾の端をちょこんと持ってくれ!」
大事なことなので二回言いました。
そこは普通お嬢様のもとへ連れてってくれとかじゃないのか。異変解決はどうした。
「恥ずかしそうに顔を赤らめてくれると尚良し!!」
「叫ぶんじゃないお馬鹿!」
わざわざ頼まれなくても恥ずかしがるわ!
いや、多少は予想してたけどさぁ……そんな馬鹿正直にエロまっしぐらだと思わないじゃない、いくらなんでも。
えっちなお願い聞いて貰うためにいきなり奥の手で逆転勝利とか漫画か。最初から本気出せ。
それとも魔女ってみんなこうなのだろうか。パチュリー様もそうだとはあまり思いたくない。
「さあどうした! お約束のご褒美を早く頼むぜ!」
ぱーんーつー、と駄々っ子のように急かしてくる魔理沙。
チラリズムで我慢しときなさいよ……モロはいけないわ、モロは。
「……」
一点の曇りもないキラキラした目で、じっと私の顔を見つめてくる魔理沙。
そのあまりにも純粋な期待ぶりに、私の方がおやつを待つ童女におあずけを喰らわせている悪人のような気がしてきた。
(ええい、こうなったら完全で瀟洒なメイド長として、期待に応えてやろうじゃない!)
半ばやけっぱちに覚悟を決める。
周りには色事慣れした大人の女として通っているメイド長は、実は意外と初心なのだった。
◇◆◇◆◇◆
そしてスーパーご褒美タイム。
「ふぉんふぁふぃふぃふぁいふぇふふぁふぁい……ふぁふふぁひぃふぇふふぁ」
(そんなに見ないでください……恥ずかしいですわ)
魔理沙は震えていた。抑えきれない感動に打ち震えていた。
これが震えずにいられようか。目の前には、失われたはずの幻想世界が広がっているのだ。
まず靴を見て、そこから上へとゆっくり視線を動かす。
すらりと伸びるしなやかな脚線美。普段はけして人目に触れることのない乙女の秘密が、凝視されている羞恥と緊張からか、少し汗ばんでいる。嗚呼その匂いはどんなものだろう。許されるならすぐにでも顔を突っ込んで、思うさま深呼吸したいと切実に思った。
裾の左右をちょこんとつまむ両手は小刻みに震え、恥ずかしさに耐えて頬はほんのりと朱に染まり、スカートを咥えた口から垂れてしまった唾液が、処女雪の如く白い肌に透明な筋を描き――
絶景だ、と、ただそれだけが頭に浮かぶ。
もっと洒落た表現でこの素晴らしさを語れないことに、魔理沙は詩才の無い己を恥じた。
「エロい。エロ過ぎるぜメイド長。紅魔館のメイドは化け物か」
鑑賞会は、唾液でスカートをべとべとにしてしまった咲夜が耐えかねてキレるまで続いた。
《STAGE6 エリュシオンに血の雨》
紅い館の、その上空。
もうお願いはひとつ聞いたんだし、お嬢様のもとへなんて行かせないんだからー!とおかんむりなメイド長をあっさり返り討ちにして、魔理沙は異変の主犯が居るというその場所へやってきていた。
「いるいる。悪寒が走るわ、この妖気」
「なんで強力な奴ほど隠れたがるんだ?」
「深窓の令嬢は、大事に隠されているものだからよ」
夜の闇が滲み出るように、少女が一人現れた。
「病弱っ娘なんだな。弱点多いらしいし」
「病弱っ娘なのよ。か弱い乙女ですから」
「ふうん、面白そうだな。やっぱり飲むのか?アレ」
「当たり前じゃない。私は小食でいつも残すけどね」
「そうか。私は巫女の聖水ならいくらでも飲めるぜ」
「……何の話?」
「吸血鬼には聖水だろ?」
「で、何しに来たの?」
「もう、私お腹いっぱいだけど……」
「そうだな、私はお腹がすいたぜ」
「……食べても、いいのよ?」
「遠慮無く頂くとしよう。たまには洋食も悪くない」
「人間って楽しいわね」
「それともあなたは人間じゃないのかしら」
「楽しい人間だぜ」
「ふふふ、こんなに月も紅いから?」
「暑い夜になりそうね」
「涼しい夜になりそうだな」
少女が爆ぜる。魔女が突っ込む。先制で放たれた大量の弾幕は、ただの陽動。小手調べ。
目眩ましに過ぎないとひと目で看破し、臆することなく少女の姿を追う。
――天罰「スターオブダビデ」
カード宣言。ダビデの星とは、魔女にとって基本の紋章だ。
悪魔の力に馴染みやすいようにアレンジされているとはいえ、私にとって慣れ親しんだそのパターンを避けるのは容易い。
――冥符「紅色の冥界」
続いて二枚目。館周辺の紅霧を集めて凝縮し、弾幕として放っている感じ。
広く拡散しているものを小さくまとめたせいで、若干隙間がわかりやすくなっている。
――呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」
三枚目。血の付いたナイフが飛んでくる。それだけならなんてことないのだが、そこから滴った血までも弾幕となって襲いかかってくるから怖い。レミリアの号令で、意志を持つかのように動き始める血液。血液すげぇ。
――紅符「スカーレットシュート」
四枚目。大きめの弾幕をばんばん撃ち込んでくる力業だ。避け方なんて考えてるとあっという間にやられる。
直感に従い、大胆に躱す。ちまちました避け方を強いられるスペルより、こういうタイプの方がわかりやすくて好きだ。
――「レッドマジック」
そして、吸血鬼はこれが最後だと、高らかにカード宣言を謳う。
同時に目が問いかけている。お前のスペルは見せないのかと。
そんなに期待されたら見せないわけにはいかないだろう。私の、美少女に恋する力を見せてやる。
――恋符「マスタースパーク」
手持ちのボムはあと二つ。勿体ぶらず二つ分の出力を込めて放つ。
今更説明不要の極太ビームだ。主に燃料は私の美少女萌えパワー。
かわいさという正義で、他の全てを薙ぎ払うという私の意思表示である。
ばらまかれた魔力の籠もる血液の弾幕を吹き飛ばし、マスタースパークは吸血鬼をぶち抜いた。
しかし倒れない。効いていない。愉快そうにやつは笑うと、未だ効果の切れないスペルをもう一度かざした。
「なかなか熱い弾幕だったわ。この夜に相応しく」
「ああそうかい。すぐに涼しくなるさ」
にやりと笑う。相手も笑う。強がりだと思ったのだろう。それでいい。
少ししてあいつは自らの違和感に気付いた。
「えっ……なによこれ」
私のボムはあいつに傷一つつけなかった。スペルカードルールによって、ラスボスにはボムが効かなくなっているらしいのだが、私がスペルに込めた想いが、あいつの服には傷をつけた。
うまく期待通りの効果を発揮してくれるか少し不安だったが、どうやら目論見どおりになってくれたようだ。
「きゃぁああああああ!」
焼け焦げていたあいつの服が、はらり、はらりとただのボロ布になって脱げていく。
あっという間に帽子を残してすっぽんぽんになった吸血鬼が、顔を真っ赤に染め外見相応な幼女の如くうずくまろうとした、その瞬間。
「今だ! TOMITAKEフラッシュ!!」
カメラを貸してくれた天狗の言っていた「シャッターチャンスを逃さない呪文」を叫びながら、幼女が体を隠す前に最速でシャッターをきる。
勿論一枚だけでは終わらない。高速でひゅんひゅん幼女の周りを飛びながら、四方八方360°のアングルから撮って撮って撮りまくる。
「ちょっ……あなた、何撮ってるのよ!」
「そこに美幼女の裸体があれば、カメラを構えるのが淑女というものよ!」
「し、知らない。そんな淑女私知らない……」
「いい、その恥ずかしがる表情イイ! ちょっとこっち目線ください」
「あ、アホかぁああああああああああああああ!!!!」
その後、異変の首謀者レミリアと臨んだ交渉で、霧を晴れさせることに成功した。
写真をちらつかせながらであったのは言うまでもない。
そして、ネガを渡したものの、私が最初の一枚だけこっそり隠し持っているのは、誰も知らない秘密だ。
『ENDINGNo09 桃色の魔法使い・最初の冒険』
《EXTRA STAGE 東方紅魔狂 ~Sister of Scarlet》
『やめときな! 気が触れるぜ?』
誰かの忠告が、聞こえた気がした。
幻想郷を包む紅い霧が晴れてから、しばらくして。
魔理沙はあれから何故かいつも付きまとってくるレミリアと共に、神社を訪れていた。
「霊夢~、暑いぜ暑いぜ、暑くて死ぬぜ」
「大丈夫よ。死んだら私が鳥葬にしてあげるわ」
「あら、私に任せてくれればいいのに」
「……それだけは、絶対にやめておくぜ」
「それよりあんた、そんなに家を空けて大丈夫なのか?」
「咲夜に任せてるから大丈夫よ」
「それ以前に、うちの神社を溜まり場にするんじゃないわよ」
その時、三人をすくみ上がらせるような雷鳴がなった。
ちゃぶ台の下に潜り込んでうーうー震えているレミリアを尻目に、霊夢が言う。
「夕立ね」
「この時期に珍しいな」
「雷こわい……」
しばらくしても、雨は降ってこない。
不思議に思って外へ出てみると、空模様が明らかに不自然だった。
幻想郷の、奥の一部にだけ、強烈な雨と雷が落ちているの
だ。
「あれ、紅魔館の周りにだけ降ってるみたいだな」
「あら本当。困るわー、私雨の中歩けないのよ」
カリスマを取り繕うレミリア。漂う今更感には誰も突っ込まない。
「なんだ、追い出されたのか」
「ねぇ霊夢ぅ~、ちょっと私んちまで行って原因調べてきてよ」
「聞けし。霊夢がお前んちなんか行って玉のお肌に傷でも付いたらどうするんだ。私が行く」
「最初から行く気ないけどね。めんどくさいし」
こうして、魔理沙は紅魔館へと様子を見に行くことになったのだった。
「くくく、計画通り。きっとあの雨は、あの子を止めようとしてパチュリーが降らせたもの」
「あの子に出会ったら、流石にあいつもびびるでしょう」
魔理沙が出て行ってから、悪い笑みを浮かべてひとりごちるレミリア。
そんなレミリアの背中を蹴っ飛ばして霊夢は言った。
「いつまでボーッと座り込んでるの。泊まってくなら夕飯の手伝いくらいしなさい」
「痛た……わかったわよ、もぅ」
◇◆◇◆◇◆
紅魔館の中へ入ると、熱烈な歓迎が待っていた。
具体的に言うと弾幕。弾幕に次ぐ弾幕。
「どうしちゃったんだ、この館」
「レミリアは今神社に居るってのに、異変の時よりも攻撃が激しいじゃないか」
「なんかお呼びかしら?」
「呼んでな……かわいいぜ」
廊下の分かれ道から、どこかで見たような、やっぱり見なかったような容姿の美少女が現れる。
「お待たせ」
「あんた誰だい」
「人に名前を聞く時は……」
「ああ、私?」
「霧雨魔理沙。巫女フェチだぜ」
「フランドール。魔法少女よ、魔理沙さん」
「あんた、なにもん?」
「私はずっとこの家に居たわ」
「あなたがこの家に入り浸っている時もね」
「居たっけ?」
「ずっとずっと、地下で495年くらい休んでいたからね。会うのは初めてよ」
「そりゃ大変だ。そんなに休んでたら、働きたくなっちゃうかもしれないじゃないか」
「いつもお姉様と楽しそうに話してるの、聞いていたわ」
「お姉様? あんた、レミリアの妹か」
言われてみれば、と魔理沙はようやく既視感の正体に気付く。
「あなた、お姉様の裸を見たそうね」
「それだけでも許し難いのに、あなたが来てから、お姉様はあなたの話でよく笑うようになったわ……お姉様の笑顔は私だけのものなのに」
すぐに嫌な予感がした。その予感にこの時点で従わなかったことに、魔理沙は後悔することになる。
「嗚呼お姉様、私だけのお姉様。あなたが望むから私は地下に何年幽閉されていようと平気だし、あなたの声だけを聞いてあなたの姿だけを見ていればいい生活はむしろ有り難いくらいだったのに」
「お姉様お姉様、私だけのお姉様。私の声だけを聞いて私の姿だけを見て。私にだけ触れて私の匂いだけをかいで」
「お姉様。私あなたが欲しいの。あなただけが欲しいの。他には何も要らない。必要ない。だって世界に必要なのは私とお姉様だけなんだもの」
「だからあなた――死んで?」
フランドールはかわいらしい笑顔で、物騒なことを口走った。
魔理沙も既に、フランドールが見た目通りの存在だとは思っていない。放たれる凄まじい重圧と狂気は、姉のそれを凌駕してあまりある。
――禁忌「レーヴァテイン」
宣言と共に、現れたのは超巨大なチェーンソーだった。
「いやいやいやちょっと待て。禁じられた炎の魔剣じゃなかったのかよレーヴァテインって」
「ちゃんと炎もでるわよ?」
ほらこんな風に、とフランドールが軽くレーヴァテインを振ると、成程炎が吹きこぼれる。回転するチェーンが獰猛な唸りをあげる。
「どうしたの? お姉様とは遊べても、妹の私とは出来ないのかしら?」
「ならいくら出す?」
「コインいっこ」
「いっこじゃ人命は買えないぜ」
「コンティニューしないんだから、大丈夫よ!」
笑うしかない。館の天井ごと切り裂いて迫るあのチェーンソーはなんの冗談だ。
今すぐ逃げ出せと本能が喚き立てているが、そうはいかない。背中を見せた途端にアレでばっさりやられるだろう。
凄く怖い。もう帰りたい。ちょっとちびったが些細な問題だ。
そんなに丸裸にしたのがムカついてたのなら直接殴りに来いよ、と魔理沙は心中でレミリアに文句を言ったが、今更である。
「ぐっ……くそ、喰らえ『マスタースパーク』!」
完全にびびっていた。それは認めざるを得ない。思わずボムの無駄撃ちをしてしまう。
今の私と同じ状況になったやつが、動揺せず、冷静に戦い無駄撃ちなどもってのほかだと言うのなら、私はそいつを無条件に尊敬してやろう。
私の知る限り、そんなことが出来るやつは唯一人。博麗霊夢だけだ。
「どうしたの? ねえ。あはははははは、こんなもんなの? ねえってば!」
振りかぶったレーヴァテインが、マスタースパークをぶった切る。出力が足りないのだ。まるで相手にならない。子供の喧嘩にすらなってない。
ちらりとフランドールを見る。けたけたと嗤っている。駄目だ、ヤンデレは無理だ。いくら可愛くてもときめけない。無限のパワーを生み出す萌え回路がうんともすんとも言わない。
「――あっ、」
ふと気付くと、廊下の突き当たりまで来ていた。慌てて振り返るが、既に逃げ場はない。
レーヴァテインから吹きこぼれる炎の弾幕が、魔の剣先が、ほら、もうすぐそこに――
「そこまでよ!」
万事休すと目を瞑って覚悟を決めた魔理沙の前に、救いの天使が舞い降りる。その不健康そうな顔色は、まさか、
「パチュリー・ノーレッジ!」
「フルネームで呼ばないで頂戴。とにかく逃げるわよ」
「今日は喘息の調子が良くてよかったわ。――日符『ロイヤルフレア』!」
パチュリーのスペルが、室内に太陽を呼ぶ。
かわいらしく悲鳴をあげて吹き飛ばされたフランドールの方を見やり、
「まったく、なんでまた来てるのよ……妹様を不必要に刺激しちゃって」
「勘違いしないで欲しいけど、今助けたのはこの間の借りを返しただけだからね」
聞いてもいないツンデレをはじめた。しかし、どんな存在であろうと窮地を救ってくれた命の恩人であることは間違いない。
魔理沙はパチュリーの手をとって胸に引き寄せ、視線をしっかりと合わせて言った。
「勘違いなんてしないさパチュリー。愛してる。無事に帰れたら結婚しよう」
「あなたまでとち狂わないで頂戴。狂気に浸ってるのは妹様だけで十分よ」
死亡フラグなんぞ立てないで頂戴縁起悪い、と呟いてパチュリーは踵を返す。
しかしその手を魔理沙が引き留めた。
「何よ。まさか折角助けたのにやっぱり死にたくなったとか言わないでしょうね。だとしたら一人で死んで頂戴」
「死ぬ気なんてないさ。生きるためだよ」
言い聞かせるように、魔理沙は言う。
「あんな状態のフランを放っておく訳にはいかないだろう。察するに君か、メイド長あたりが結局対応せざるをえない筈だ」
「私にはある。あの、人外で埒外な妹様に勝てる必殺技があるんだ」
「だからパチュリー、私に協力してくれ」
「そのご自慢の必殺技は、さっきレバ剣でぶった切られてたみたいだけど……協力?」
「簡単なことさ。おっぱい揉ませてくれ」
ごすん。パチュリーは持っていた分厚い魔道書で、色ボケ魔法使いをぶん殴った。
かなりイイ音がして、魔理沙は沈んだ。
「可哀想に。妹様への恐怖でおかしくなったのね」
「痛いよパチュリー。大丈夫、君はただ立っているだけでいい」
倒れて一秒もしないうちに起き上がる魔理沙。ドン引きするパチュリー。
「怖いのは最初だけさ。力を抜いて身を任せてくれれば、ちゃんと気持ちよくしてみせるよ」
「そういう話をしてるんじゃないわよ!」
調子が狂う。小悪魔の話では通りすがりの紳士な白黒魔法使いが私を助けてくれたという話だったが、その相手はこいつじゃなかったんじゃないだろうか。服は白黒でも、頭は桃色だし。
「今は問答してる時間も惜しい。あとでいくらでも叱られるから、今は許してくれ」
「だーかーらー、ってんむぅ!?」
魔理沙の唇が、パチュリーの口を塞いでいた。
実は初めてだったパチュリーは、あまりの予想外な事態に目を白黒させている。
「んっ、ふ、んん……っ」
状況をよく飲み込めていないパチュリーが無抵抗なのをいいことに、魔理沙はその着痩せする胸へと手を伸ばす。
ゆったりと、揉みほぐすように。掌に収まりきらず、掴んだらはみ出てしまうサイズの胸を、優しく、労るように揉んだ。
片手で揉みつつも、もう片方の手はパチュリーの体を撫で回している。表情を見ながら、気持ちいい場所を探して、撫で撫で、撫で撫で。
「見せつけてくれるじゃないの。死を前にして種の保存本能でも働いたかしら」
いつの間にか、フランドールが戻ってきていた。
しかし、先ほどとは違い、すぐにでもぶち殺してくれるというような、剣呑な気配はない。
にやにやしながら、こちらの出方を伺っている。
「まさか。これはれっきとした、お前に勝つための準備体操さ」
しれっと応える。唇を離したパチュリーは、むきゅ~と湯気を噴いて目を回してしまった。
「へぇ、面白いじゃない。何するのか知らないけど、やってごらんなさいよ」
八卦炉を取り出す。目を閉じて、体を流れる魔力の道を感じる。
いける。今ならいける。無限のパワーが、体から溢れだして止まらない。
そうだ、弾幕はエロスだぜ!
「これが私の全力全開だ――魔砲『ファイナルスパーク』ッ!」
力の奔流。それは燃え盛る魂の輝き。
無色の魔砲が、緋色の魔剣とぶつかり合う。
唸りをあげる魔剣が、エネルギーを切り裂き続けているが、間に合わない。圧倒的なパワーで、魔砲が押し勝つ!
――禁忌「レーヴァテイン」SPELL BREAK!
チェーンソーが、フランドールの手から弾き飛ばされて爆散した。
信じられないといった顔で、チェーンソーを持っていた手をまじまじと見るフラン。
「人間って凄いのねぇ。ちょっと見直したわ」
「お姉様以外で私のスペルを1枚でも破ったのって、あなたが初めてよ」
「ふふふそうだろうそうだろう、凄いんだぜ私は……って、1枚?」
猛烈な悪寒。まさか、まさかまさか。
いやむしろ、何故気付かなかったんだ!
「そりゃあそうよ。だって私、あと9枚スペル残ってるもの」
あっさりと、フランドールは死刑宣告を告げた。
ポケットから取り出して、トランプのように広げてみせる9枚のカード。
そのどれもから、さっきのチェーンソーに勝るとも劣らない魔力を感じた。
「は、ははは。冗談だろ」
乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
魔力はとっくにすっからかん。逆さに振っても、鼻血も出やしない。
「予想外に楽しめたわ、魔理沙。だから、そう簡単に壊れないでね☆」
「嫌だぁあああああああああああああああああああ!」
これ以降、ノーショットノーボム縛りで文字通り必死に避け続ける魔理沙とフランドールの戦いが続くのだが、あまりにも切羽詰まっているシーンのため、本人希望により割愛する。
雨がやんだこと(パチュリーが気絶したため)に気付いたレミリアが帰宅して、姉の前で態度を豹変させたフランドールが戦いを放棄するまで、あと三時間。
『コンティニューしますか?』
はい
いいえ←
このお話は、作品集114「紅霧異変が解決しない」の続きになっています。
お読みになる際は先にそちらからお願いします。
《STAGE5 紅い月に瀟洒な従者を》
「あなたもよくやるわねぇ」
呆れ半分、感心半分の呟きを咲夜が漏らすと同時に、魔理沙は今回二度目の被弾をした。もう1ミスも許されない。
「たはは、どうもご褒美がないとやる気が出ないタチでな」
「今回で最後になってもいいからさ、なんかニンジンぶらさげてくれよ」
軽い調子で魔理沙は言った。
そんな程度で私に勝てると思っているのなら大間違いだ。
どうやら既に諦めが入っているらしい魔理沙に、若干の失望を込めて言う。
「そうね。もしあなたが今日、私に勝つことが出来たらなら」
「私に可能な範囲でひとつ、なんでもお願いを聞いてあげましょう」
魔理沙の両目が輝いた。同時に、どこからか知らない女の声が聞こえた気がした。
時を止めて、魔理沙の周りに数百本のナイフを設置する。全方位から多角的に、隙無く配置されたそれらは、動き出す時と共に時流に乗って加速し、迸る銀閃が魔女を被弾させる――
今までと全く同じ展開。戦いにすらならないわね、と咲夜は思った。
――はずだったのに。
そして時は動き出す。魔理沙の姿が消えている。影も形もなく。そんな馬鹿な、一瞬にも満たない須臾の間に消えてのけるなんて手品、時でも操らなければどうやって?
「あんたを倒せば、私がメイド長になれるのかな?」
背後に立った魔理沙が、八卦炉を突きつけていた。
零距離であの魔砲を打ち込まれれば、いくら時を操ろうとも私の認識が能力を発動させる前に、被弾音が高らかに私の敗北を告げるだろう。
「メイド長になる以前に、あなたメイドじゃないでしょうに」
「なんだ、メイドじゃなきゃなれないのか。残念だぜ」
ちっとも残念じゃなさそうに魔理沙は言う。
「聞いても良いかしら。どうやって瞬間移動したのか」
「なに、あんたのと違って種のある手品さ」
おもむろにスペルカードを一枚、掲げてみせる。
スペル名は「転移『亜空穴』」。
今までこいつが一度も使ったことのないものだ。つまりさっきの声は、このカードに込められていたスペル宣言なのだろう。
「ボムの内訳が一種類じゃなければいけないなんて、誰も言ってなかったからな」
「知り合いの巫女に頼んで、一枚だけ瞬間移動のできる符を作ってもらったのさ」
本当は結構前に作ってもらっていたのだが、今日のようにうっかりお願いなんて口に出すのをひたすら待ち、魔理沙が今まで出し惜しみしていたのを咲夜は知らない。
「ま、今回は私の負けね」
聞いてみれば確かに種の割れた手品だ。だが負けは負け。
こいつならきっと、気まぐれで我が儘な主の眼鏡にも適うだろう。
退屈しのぎには十分な相手となるはずだ。
「……それで? 魔女殿は一体どんなご褒美が欲しいのかしら?」
「ロンスカ穿いて口で裾を咥えてパンツがよく見えるようにしつつ両手で裾の端をちょこんと持ってくれ」
時が止まった。待って私能力使ってない。
「ロンスカ穿いて口で裾を咥えてパンツがよく見えるようにしつつ両手で裾の端をちょこんと持ってくれ!」
大事なことなので二回言いました。
そこは普通お嬢様のもとへ連れてってくれとかじゃないのか。異変解決はどうした。
「恥ずかしそうに顔を赤らめてくれると尚良し!!」
「叫ぶんじゃないお馬鹿!」
わざわざ頼まれなくても恥ずかしがるわ!
いや、多少は予想してたけどさぁ……そんな馬鹿正直にエロまっしぐらだと思わないじゃない、いくらなんでも。
えっちなお願い聞いて貰うためにいきなり奥の手で逆転勝利とか漫画か。最初から本気出せ。
それとも魔女ってみんなこうなのだろうか。パチュリー様もそうだとはあまり思いたくない。
「さあどうした! お約束のご褒美を早く頼むぜ!」
ぱーんーつー、と駄々っ子のように急かしてくる魔理沙。
チラリズムで我慢しときなさいよ……モロはいけないわ、モロは。
「……」
一点の曇りもないキラキラした目で、じっと私の顔を見つめてくる魔理沙。
そのあまりにも純粋な期待ぶりに、私の方がおやつを待つ童女におあずけを喰らわせている悪人のような気がしてきた。
(ええい、こうなったら完全で瀟洒なメイド長として、期待に応えてやろうじゃない!)
半ばやけっぱちに覚悟を決める。
周りには色事慣れした大人の女として通っているメイド長は、実は意外と初心なのだった。
◇◆◇◆◇◆
そしてスーパーご褒美タイム。
「ふぉんふぁふぃふぃふぁいふぇふふぁふぁい……ふぁふふぁひぃふぇふふぁ」
(そんなに見ないでください……恥ずかしいですわ)
魔理沙は震えていた。抑えきれない感動に打ち震えていた。
これが震えずにいられようか。目の前には、失われたはずの幻想世界が広がっているのだ。
まず靴を見て、そこから上へとゆっくり視線を動かす。
すらりと伸びるしなやかな脚線美。普段はけして人目に触れることのない乙女の秘密が、凝視されている羞恥と緊張からか、少し汗ばんでいる。嗚呼その匂いはどんなものだろう。許されるならすぐにでも顔を突っ込んで、思うさま深呼吸したいと切実に思った。
裾の左右をちょこんとつまむ両手は小刻みに震え、恥ずかしさに耐えて頬はほんのりと朱に染まり、スカートを咥えた口から垂れてしまった唾液が、処女雪の如く白い肌に透明な筋を描き――
絶景だ、と、ただそれだけが頭に浮かぶ。
もっと洒落た表現でこの素晴らしさを語れないことに、魔理沙は詩才の無い己を恥じた。
「エロい。エロ過ぎるぜメイド長。紅魔館のメイドは化け物か」
鑑賞会は、唾液でスカートをべとべとにしてしまった咲夜が耐えかねてキレるまで続いた。
《STAGE6 エリュシオンに血の雨》
紅い館の、その上空。
もうお願いはひとつ聞いたんだし、お嬢様のもとへなんて行かせないんだからー!とおかんむりなメイド長をあっさり返り討ちにして、魔理沙は異変の主犯が居るというその場所へやってきていた。
「いるいる。悪寒が走るわ、この妖気」
「なんで強力な奴ほど隠れたがるんだ?」
「深窓の令嬢は、大事に隠されているものだからよ」
夜の闇が滲み出るように、少女が一人現れた。
「病弱っ娘なんだな。弱点多いらしいし」
「病弱っ娘なのよ。か弱い乙女ですから」
「ふうん、面白そうだな。やっぱり飲むのか?アレ」
「当たり前じゃない。私は小食でいつも残すけどね」
「そうか。私は巫女の聖水ならいくらでも飲めるぜ」
「……何の話?」
「吸血鬼には聖水だろ?」
「で、何しに来たの?」
「もう、私お腹いっぱいだけど……」
「そうだな、私はお腹がすいたぜ」
「……食べても、いいのよ?」
「遠慮無く頂くとしよう。たまには洋食も悪くない」
「人間って楽しいわね」
「それともあなたは人間じゃないのかしら」
「楽しい人間だぜ」
「ふふふ、こんなに月も紅いから?」
「暑い夜になりそうね」
「涼しい夜になりそうだな」
少女が爆ぜる。魔女が突っ込む。先制で放たれた大量の弾幕は、ただの陽動。小手調べ。
目眩ましに過ぎないとひと目で看破し、臆することなく少女の姿を追う。
――天罰「スターオブダビデ」
カード宣言。ダビデの星とは、魔女にとって基本の紋章だ。
悪魔の力に馴染みやすいようにアレンジされているとはいえ、私にとって慣れ親しんだそのパターンを避けるのは容易い。
――冥符「紅色の冥界」
続いて二枚目。館周辺の紅霧を集めて凝縮し、弾幕として放っている感じ。
広く拡散しているものを小さくまとめたせいで、若干隙間がわかりやすくなっている。
――呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」
三枚目。血の付いたナイフが飛んでくる。それだけならなんてことないのだが、そこから滴った血までも弾幕となって襲いかかってくるから怖い。レミリアの号令で、意志を持つかのように動き始める血液。血液すげぇ。
――紅符「スカーレットシュート」
四枚目。大きめの弾幕をばんばん撃ち込んでくる力業だ。避け方なんて考えてるとあっという間にやられる。
直感に従い、大胆に躱す。ちまちました避け方を強いられるスペルより、こういうタイプの方がわかりやすくて好きだ。
――「レッドマジック」
そして、吸血鬼はこれが最後だと、高らかにカード宣言を謳う。
同時に目が問いかけている。お前のスペルは見せないのかと。
そんなに期待されたら見せないわけにはいかないだろう。私の、美少女に恋する力を見せてやる。
――恋符「マスタースパーク」
手持ちのボムはあと二つ。勿体ぶらず二つ分の出力を込めて放つ。
今更説明不要の極太ビームだ。主に燃料は私の美少女萌えパワー。
かわいさという正義で、他の全てを薙ぎ払うという私の意思表示である。
ばらまかれた魔力の籠もる血液の弾幕を吹き飛ばし、マスタースパークは吸血鬼をぶち抜いた。
しかし倒れない。効いていない。愉快そうにやつは笑うと、未だ効果の切れないスペルをもう一度かざした。
「なかなか熱い弾幕だったわ。この夜に相応しく」
「ああそうかい。すぐに涼しくなるさ」
にやりと笑う。相手も笑う。強がりだと思ったのだろう。それでいい。
少ししてあいつは自らの違和感に気付いた。
「えっ……なによこれ」
私のボムはあいつに傷一つつけなかった。スペルカードルールによって、ラスボスにはボムが効かなくなっているらしいのだが、私がスペルに込めた想いが、あいつの服には傷をつけた。
うまく期待通りの効果を発揮してくれるか少し不安だったが、どうやら目論見どおりになってくれたようだ。
「きゃぁああああああ!」
焼け焦げていたあいつの服が、はらり、はらりとただのボロ布になって脱げていく。
あっという間に帽子を残してすっぽんぽんになった吸血鬼が、顔を真っ赤に染め外見相応な幼女の如くうずくまろうとした、その瞬間。
「今だ! TOMITAKEフラッシュ!!」
カメラを貸してくれた天狗の言っていた「シャッターチャンスを逃さない呪文」を叫びながら、幼女が体を隠す前に最速でシャッターをきる。
勿論一枚だけでは終わらない。高速でひゅんひゅん幼女の周りを飛びながら、四方八方360°のアングルから撮って撮って撮りまくる。
「ちょっ……あなた、何撮ってるのよ!」
「そこに美幼女の裸体があれば、カメラを構えるのが淑女というものよ!」
「し、知らない。そんな淑女私知らない……」
「いい、その恥ずかしがる表情イイ! ちょっとこっち目線ください」
「あ、アホかぁああああああああああああああ!!!!」
その後、異変の首謀者レミリアと臨んだ交渉で、霧を晴れさせることに成功した。
写真をちらつかせながらであったのは言うまでもない。
そして、ネガを渡したものの、私が最初の一枚だけこっそり隠し持っているのは、誰も知らない秘密だ。
『ENDINGNo09 桃色の魔法使い・最初の冒険』
《EXTRA STAGE 東方紅魔狂 ~Sister of Scarlet》
『やめときな! 気が触れるぜ?』
誰かの忠告が、聞こえた気がした。
幻想郷を包む紅い霧が晴れてから、しばらくして。
魔理沙はあれから何故かいつも付きまとってくるレミリアと共に、神社を訪れていた。
「霊夢~、暑いぜ暑いぜ、暑くて死ぬぜ」
「大丈夫よ。死んだら私が鳥葬にしてあげるわ」
「あら、私に任せてくれればいいのに」
「……それだけは、絶対にやめておくぜ」
「それよりあんた、そんなに家を空けて大丈夫なのか?」
「咲夜に任せてるから大丈夫よ」
「それ以前に、うちの神社を溜まり場にするんじゃないわよ」
その時、三人をすくみ上がらせるような雷鳴がなった。
ちゃぶ台の下に潜り込んでうーうー震えているレミリアを尻目に、霊夢が言う。
「夕立ね」
「この時期に珍しいな」
「雷こわい……」
しばらくしても、雨は降ってこない。
不思議に思って外へ出てみると、空模様が明らかに不自然だった。
幻想郷の、奥の一部にだけ、強烈な雨と雷が落ちているの
だ。
「あれ、紅魔館の周りにだけ降ってるみたいだな」
「あら本当。困るわー、私雨の中歩けないのよ」
カリスマを取り繕うレミリア。漂う今更感には誰も突っ込まない。
「なんだ、追い出されたのか」
「ねぇ霊夢ぅ~、ちょっと私んちまで行って原因調べてきてよ」
「聞けし。霊夢がお前んちなんか行って玉のお肌に傷でも付いたらどうするんだ。私が行く」
「最初から行く気ないけどね。めんどくさいし」
こうして、魔理沙は紅魔館へと様子を見に行くことになったのだった。
「くくく、計画通り。きっとあの雨は、あの子を止めようとしてパチュリーが降らせたもの」
「あの子に出会ったら、流石にあいつもびびるでしょう」
魔理沙が出て行ってから、悪い笑みを浮かべてひとりごちるレミリア。
そんなレミリアの背中を蹴っ飛ばして霊夢は言った。
「いつまでボーッと座り込んでるの。泊まってくなら夕飯の手伝いくらいしなさい」
「痛た……わかったわよ、もぅ」
◇◆◇◆◇◆
紅魔館の中へ入ると、熱烈な歓迎が待っていた。
具体的に言うと弾幕。弾幕に次ぐ弾幕。
「どうしちゃったんだ、この館」
「レミリアは今神社に居るってのに、異変の時よりも攻撃が激しいじゃないか」
「なんかお呼びかしら?」
「呼んでな……かわいいぜ」
廊下の分かれ道から、どこかで見たような、やっぱり見なかったような容姿の美少女が現れる。
「お待たせ」
「あんた誰だい」
「人に名前を聞く時は……」
「ああ、私?」
「霧雨魔理沙。巫女フェチだぜ」
「フランドール。魔法少女よ、魔理沙さん」
「あんた、なにもん?」
「私はずっとこの家に居たわ」
「あなたがこの家に入り浸っている時もね」
「居たっけ?」
「ずっとずっと、地下で495年くらい休んでいたからね。会うのは初めてよ」
「そりゃ大変だ。そんなに休んでたら、働きたくなっちゃうかもしれないじゃないか」
「いつもお姉様と楽しそうに話してるの、聞いていたわ」
「お姉様? あんた、レミリアの妹か」
言われてみれば、と魔理沙はようやく既視感の正体に気付く。
「あなた、お姉様の裸を見たそうね」
「それだけでも許し難いのに、あなたが来てから、お姉様はあなたの話でよく笑うようになったわ……お姉様の笑顔は私だけのものなのに」
すぐに嫌な予感がした。その予感にこの時点で従わなかったことに、魔理沙は後悔することになる。
「嗚呼お姉様、私だけのお姉様。あなたが望むから私は地下に何年幽閉されていようと平気だし、あなたの声だけを聞いてあなたの姿だけを見ていればいい生活はむしろ有り難いくらいだったのに」
「お姉様お姉様、私だけのお姉様。私の声だけを聞いて私の姿だけを見て。私にだけ触れて私の匂いだけをかいで」
「お姉様。私あなたが欲しいの。あなただけが欲しいの。他には何も要らない。必要ない。だって世界に必要なのは私とお姉様だけなんだもの」
「だからあなた――死んで?」
フランドールはかわいらしい笑顔で、物騒なことを口走った。
魔理沙も既に、フランドールが見た目通りの存在だとは思っていない。放たれる凄まじい重圧と狂気は、姉のそれを凌駕してあまりある。
――禁忌「レーヴァテイン」
宣言と共に、現れたのは超巨大なチェーンソーだった。
「いやいやいやちょっと待て。禁じられた炎の魔剣じゃなかったのかよレーヴァテインって」
「ちゃんと炎もでるわよ?」
ほらこんな風に、とフランドールが軽くレーヴァテインを振ると、成程炎が吹きこぼれる。回転するチェーンが獰猛な唸りをあげる。
「どうしたの? お姉様とは遊べても、妹の私とは出来ないのかしら?」
「ならいくら出す?」
「コインいっこ」
「いっこじゃ人命は買えないぜ」
「コンティニューしないんだから、大丈夫よ!」
笑うしかない。館の天井ごと切り裂いて迫るあのチェーンソーはなんの冗談だ。
今すぐ逃げ出せと本能が喚き立てているが、そうはいかない。背中を見せた途端にアレでばっさりやられるだろう。
凄く怖い。もう帰りたい。ちょっとちびったが些細な問題だ。
そんなに丸裸にしたのがムカついてたのなら直接殴りに来いよ、と魔理沙は心中でレミリアに文句を言ったが、今更である。
「ぐっ……くそ、喰らえ『マスタースパーク』!」
完全にびびっていた。それは認めざるを得ない。思わずボムの無駄撃ちをしてしまう。
今の私と同じ状況になったやつが、動揺せず、冷静に戦い無駄撃ちなどもってのほかだと言うのなら、私はそいつを無条件に尊敬してやろう。
私の知る限り、そんなことが出来るやつは唯一人。博麗霊夢だけだ。
「どうしたの? ねえ。あはははははは、こんなもんなの? ねえってば!」
振りかぶったレーヴァテインが、マスタースパークをぶった切る。出力が足りないのだ。まるで相手にならない。子供の喧嘩にすらなってない。
ちらりとフランドールを見る。けたけたと嗤っている。駄目だ、ヤンデレは無理だ。いくら可愛くてもときめけない。無限のパワーを生み出す萌え回路がうんともすんとも言わない。
「――あっ、」
ふと気付くと、廊下の突き当たりまで来ていた。慌てて振り返るが、既に逃げ場はない。
レーヴァテインから吹きこぼれる炎の弾幕が、魔の剣先が、ほら、もうすぐそこに――
「そこまでよ!」
万事休すと目を瞑って覚悟を決めた魔理沙の前に、救いの天使が舞い降りる。その不健康そうな顔色は、まさか、
「パチュリー・ノーレッジ!」
「フルネームで呼ばないで頂戴。とにかく逃げるわよ」
「今日は喘息の調子が良くてよかったわ。――日符『ロイヤルフレア』!」
パチュリーのスペルが、室内に太陽を呼ぶ。
かわいらしく悲鳴をあげて吹き飛ばされたフランドールの方を見やり、
「まったく、なんでまた来てるのよ……妹様を不必要に刺激しちゃって」
「勘違いしないで欲しいけど、今助けたのはこの間の借りを返しただけだからね」
聞いてもいないツンデレをはじめた。しかし、どんな存在であろうと窮地を救ってくれた命の恩人であることは間違いない。
魔理沙はパチュリーの手をとって胸に引き寄せ、視線をしっかりと合わせて言った。
「勘違いなんてしないさパチュリー。愛してる。無事に帰れたら結婚しよう」
「あなたまでとち狂わないで頂戴。狂気に浸ってるのは妹様だけで十分よ」
死亡フラグなんぞ立てないで頂戴縁起悪い、と呟いてパチュリーは踵を返す。
しかしその手を魔理沙が引き留めた。
「何よ。まさか折角助けたのにやっぱり死にたくなったとか言わないでしょうね。だとしたら一人で死んで頂戴」
「死ぬ気なんてないさ。生きるためだよ」
言い聞かせるように、魔理沙は言う。
「あんな状態のフランを放っておく訳にはいかないだろう。察するに君か、メイド長あたりが結局対応せざるをえない筈だ」
「私にはある。あの、人外で埒外な妹様に勝てる必殺技があるんだ」
「だからパチュリー、私に協力してくれ」
「そのご自慢の必殺技は、さっきレバ剣でぶった切られてたみたいだけど……協力?」
「簡単なことさ。おっぱい揉ませてくれ」
ごすん。パチュリーは持っていた分厚い魔道書で、色ボケ魔法使いをぶん殴った。
かなりイイ音がして、魔理沙は沈んだ。
「可哀想に。妹様への恐怖でおかしくなったのね」
「痛いよパチュリー。大丈夫、君はただ立っているだけでいい」
倒れて一秒もしないうちに起き上がる魔理沙。ドン引きするパチュリー。
「怖いのは最初だけさ。力を抜いて身を任せてくれれば、ちゃんと気持ちよくしてみせるよ」
「そういう話をしてるんじゃないわよ!」
調子が狂う。小悪魔の話では通りすがりの紳士な白黒魔法使いが私を助けてくれたという話だったが、その相手はこいつじゃなかったんじゃないだろうか。服は白黒でも、頭は桃色だし。
「今は問答してる時間も惜しい。あとでいくらでも叱られるから、今は許してくれ」
「だーかーらー、ってんむぅ!?」
魔理沙の唇が、パチュリーの口を塞いでいた。
実は初めてだったパチュリーは、あまりの予想外な事態に目を白黒させている。
「んっ、ふ、んん……っ」
状況をよく飲み込めていないパチュリーが無抵抗なのをいいことに、魔理沙はその着痩せする胸へと手を伸ばす。
ゆったりと、揉みほぐすように。掌に収まりきらず、掴んだらはみ出てしまうサイズの胸を、優しく、労るように揉んだ。
片手で揉みつつも、もう片方の手はパチュリーの体を撫で回している。表情を見ながら、気持ちいい場所を探して、撫で撫で、撫で撫で。
「見せつけてくれるじゃないの。死を前にして種の保存本能でも働いたかしら」
いつの間にか、フランドールが戻ってきていた。
しかし、先ほどとは違い、すぐにでもぶち殺してくれるというような、剣呑な気配はない。
にやにやしながら、こちらの出方を伺っている。
「まさか。これはれっきとした、お前に勝つための準備体操さ」
しれっと応える。唇を離したパチュリーは、むきゅ~と湯気を噴いて目を回してしまった。
「へぇ、面白いじゃない。何するのか知らないけど、やってごらんなさいよ」
八卦炉を取り出す。目を閉じて、体を流れる魔力の道を感じる。
いける。今ならいける。無限のパワーが、体から溢れだして止まらない。
そうだ、弾幕はエロスだぜ!
「これが私の全力全開だ――魔砲『ファイナルスパーク』ッ!」
力の奔流。それは燃え盛る魂の輝き。
無色の魔砲が、緋色の魔剣とぶつかり合う。
唸りをあげる魔剣が、エネルギーを切り裂き続けているが、間に合わない。圧倒的なパワーで、魔砲が押し勝つ!
――禁忌「レーヴァテイン」SPELL BREAK!
チェーンソーが、フランドールの手から弾き飛ばされて爆散した。
信じられないといった顔で、チェーンソーを持っていた手をまじまじと見るフラン。
「人間って凄いのねぇ。ちょっと見直したわ」
「お姉様以外で私のスペルを1枚でも破ったのって、あなたが初めてよ」
「ふふふそうだろうそうだろう、凄いんだぜ私は……って、1枚?」
猛烈な悪寒。まさか、まさかまさか。
いやむしろ、何故気付かなかったんだ!
「そりゃあそうよ。だって私、あと9枚スペル残ってるもの」
あっさりと、フランドールは死刑宣告を告げた。
ポケットから取り出して、トランプのように広げてみせる9枚のカード。
そのどれもから、さっきのチェーンソーに勝るとも劣らない魔力を感じた。
「は、ははは。冗談だろ」
乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
魔力はとっくにすっからかん。逆さに振っても、鼻血も出やしない。
「予想外に楽しめたわ、魔理沙。だから、そう簡単に壊れないでね☆」
「嫌だぁあああああああああああああああああああ!」
これ以降、ノーショットノーボム縛りで文字通り必死に避け続ける魔理沙とフランドールの戦いが続くのだが、あまりにも切羽詰まっているシーンのため、本人希望により割愛する。
雨がやんだこと(パチュリーが気絶したため)に気付いたレミリアが帰宅して、姉の前で態度を豹変させたフランドールが戦いを放棄するまで、あと三時間。
『コンティニューしますか?』
はい
いいえ←
お嬢様&妹様まで書いとけばよかったのに……
とりあえず、魔理沙いいぞもっとやれww
続きも待ってますよー。
変態を書いてるけど、文章が上品でいいな。
ゲームのメッセージ送りを再現しようとしているかのようなこだわりを感じる。
気のせいですかそうですか。
おもしろかったです。
紅魔郷ノーマルで咲夜さんに詰まったから、というのがこのお話を書き始めた動機でした。書いても良かったんですが、クリアしないとスカーレット姉妹の原作会話がわからなかったので……。
>12
ありがとうございます。続きはもっとアツいエロバカなノリにしたいと思います。
>16
続きを待っている読者様の為に、ノーマルを可能な限りの最速でクリアしてきますのでお待ちください。
>31
おっぱいはいいものだ(By桃色の魔法使い)
>37
ありがとうございます。そんな風に褒められたのは初めてです。続きを書いたら、変態成分のない話も書いてみたいと思います。
>42
よくぞそこに気付いてくれました。エロバカでかつ可能な限り原作の流れに忠実な話にしたかったので、原作台詞を引用しつつ、書き方もSTG会話っぽくしてあります。
>47
朝まで飲み明かしましょう。魔理沙の奢りだそうです。
>48
貴方のために最速でクリアしてきますのでもう少しだけお待ちください。
(6、24は身内米だったため省略させて頂きます)
なんか劣化コピーみたい。
早くクリアして! 続きを!
……え、そういう話ではない?
あと、ルーミアB説には全力で反対したいです。
こんな奴と友人の霊夢は一体……
おっぱいはやはり膨らみかけが一番だな。しかしルーミアに揉むほどあるかは少し疑問だな。
ミニスカメイドは下品でいかんな。やはりロングスカートのたくしあげこそ嗜好の一品。
この魔理沙とはいい友となれそうだ。
本当に悔しかっただろう。花映塚のときは存分に魔理沙をボコってやりなさい
あと美鈴だけ原作会話がなくてちょっと残念
程良い変態度だと感心するがどこもおかしくはないな
物語のジャンルを減らすとすっきりするかも。今はギャグもエロも萌えもバトルもって欲張ってるから、ごちゃごちゃして読んでる側の気分が落ち着かない。熱いバトルならバトルでその雰囲気を維持し続ける。まずは何か一つに特化して書いてみる。
バトルを書くならギャグを控えて挑発の決め台詞や渋めのジョークを入れてみたり、
エロや萌えを書くならもっと少女の反応や仕草の描写に力を入れるといい。
黒ずくめの男達:(無言で幼女を木に縛る)
黒ずくめの男達:(無言で幼女を囲んで一定距離空けてぐるぐる回る)
幼女:「ふ、ふぇ・・・」
こんな風にちょっとセリフを工夫するだけで萌えられる。・・・よな
酷評スマン 読んでて楽しいと感じられる作品が出来ることを願っている。がんばって